2023年5月22日月曜日

欧州ベルギーの港湾施設において自律型ドローンのネットワークを構築

  今回は、202355日(金)、ベルギーのアントワープ・ ブルージュ港において港湾施設のセキュリティと管理を支援するために世界初の自律型ドローンのネットワークを立ち上げた事例を紹介します。

< はじめに >

■ 欧州ベルギーのアントワープ・ ブルージュ港は、年間28,700万トンの入出荷量を誇る世界の貿易と産業の拠点である。ベルギー国内のみならずドイツ、フランス、スイスなど欧州の各地域と水路、高速道路、鉄道で接続されており、年間約52,000隻のバージ船が利用するなど物流の中継地として機能している。港湾施設は、アントワープ市とブルージュ市が株主である公法有限責任会社であるアントワープ・ブルージュ港湾局によって運営され、1,800 人が雇用されている。 
■ アントワープ・ブルージュ港は、経済、人々、気候を調和させる世界初の港になることを目指している。持続可能な方法で成長するだけでなく、物流、海事、産業の中心地としての独自の立場に焦点を当て、循環型経済と低炭素経済への移行を主導することも目指している。アントワープ・ブルージュ港は、港湾コミュニティ、顧客、そのほかのパートナーと協力して、持続可能な未来に向けた革新的な解決方法を積極的に模索している。

< 自律型ドローンのネットワークの立ち上げ >

■ アントワープ・ブルージュ港は、港湾施設のセキュリティと管理を支援するために世界初のドローンのネットワークを立ち上げた。自律型ドローンが港湾エリア上空を毎日飛行し、バース管理、モニタリング、インフラストラクチャの検査、油流出や浮遊廃棄物の探知などの幅広い機能をカバーし、事故発生時にはセキュリティ・パートナーのサポートを行う。このネットワークは2019年から検討していたが、202355日(金)に正式に発足した。

■ ドローン・ネットワークは、ディ‐ハイブ社(D-Hive)がドローン・イン・ボックス・ネットワーク(Drone-in-a-box network)をつくり、ドローンマトリックス社(DroneMatrix)、スキードローン社(SkeyDrone)、プロキシマス社(Proximus)が協力し、6機の自律型ドローンのネットワークを構築した。自律型ドローンは、ベルギーのアントワープ港湾区域で毎日飛行し、120km²以上のエリアをカバーする。ドローンが指定された経路から外れたり、その他の原因で安全上の懸念が生じた場合には、すぐに警告を発信するシステムになっている。

■ このネットワークは、複雑な港湾環境において円滑で安全かつ持続可能な運営を行うため、新らたな眼として機能する。自律型ドローンは上空からの独自な視点を提供し、港湾管理者が広大なエリアを迅速かつ効果的に管理・検査・監督することを可能にする。

■ これまでの視界内飛行(Visual Line Of Sight VLOS)とは異なり、操縦者の視界外で行われる。産業分野において規模の大きい目視外飛行(Beyond Visual Line of Sight BVLOS )を実施するのは初めての事例である。118回の自律型ドローンによる目視外飛行(BVLOS)は、港の中心部にある指揮管制センターから遠隔操作される。運用方法は、現在の枠組みに代わり、新しく適切で安全な目視外ドローン飛行の枠組みをスキードローン社(Skeydrone)が策定し、運用許可はBCAA(ベルギー民間航空局)とEASA(欧州連合航空安全庁)が承認した。

■ ユーチューブにこのドローンによる実施状況が投稿されている。YouTubeWorld first: new drone network for smooth and safe traffic in Antwerpを参照)


 
< 港湾施設の将来 >

■ アントワープ・ブルージュ港のCEO(最高経営責任者)であるジャック・バンダメーレン氏は、つぎのように語っている。

「港の面積が広大であることから、港湾局としての中核業務を遂行する上で、ドローンは活用できると考えています。このドローンによるネットワークは、港のカメラ、センサー、ドローン・ネットワークから得られる多くのデジタル情報から新たなデジタルツインの展開において重要な役割を果たし、港で何が起こっているかをリアルタイムに把握することができます。これにより港をより効率的に管理し、海上交通をさらに安全かつ円滑にするための完全デジタル神経システムの開発において、重要な一歩を踏み出すことができます」 

■ アントワープ副市長でアントワープ・ブルージュ港理事会会長のアニック・デ・リダーは、つぎのように語っている。

「私たちは、経済の推進役である港をクリーンで安全にできるだけ円滑に運営するために日々業務を遂行しています。革新的なパートナーであるドローン・ネットワークができれば、港で何が起こっているのかをより正確に把握することができるようになり、より安全且つ効率的でスマートな将来の港の実現に向けて取り組むことができます」

所 感

■ 日本でもドローンを活用した事例は多く、インターネットにたくさんの情報が投稿されている。このブログでもつぎのような事例を紹介した。

  ●20204月、「ドローンによる貯蔵タンク内部検査の活用」

 海外でのドローン活用については、つぎのような事例を紹介した。

  ●20213月、「危険物質の事故対応で、もはやドローンは欠かせない!」

  ●20222月、「欧州における自律型ドローンによる石油ターミナルの検査」

 今回、ベルギーにおける自律型ドローンのネットワークをみると、日本と決定的な違いがある。日本では、操縦免許をもった操縦者によるドローンを使いこなそうという発想である。一方、欧州ではドローンの能力を最大限に発揮させ、操縦者のいない目視外飛行(BVLOS)のネットワークを構築して、実業務に活かそうとしている。以前の所感に「日本では、操縦の安全性や高価という制限の思考性が高いが、もっと柔軟性と創造性をもった若い世代の活躍を期待したい」と述べたが、ドローン活用へのこの期待に変わりはない。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Seatrade-maritime.com, Antwerp-Bruges launches port management drone network,  May 08, 2023

    Tankstoragemag.com, Port of Antwerp-Bruges launches drone network,  May 11, 2023

    Newsroom.portofantwerpbruges.com, World first in Antwerp port area: drone network officially launched,  May 05, 2023

    Totalnews.com, Port of Antwerp: drone network officially launched,  May 08, 2023


後 記: このところ、2回続けて、無人航空機(ドローン)が武器として戦争への反映状況について投稿してきました。貯蔵タンクのテロ対策としての参考にはなりますが、このブログの目的としては若干ずれてきているので、今回は港湾施設における自律型ドローンのネットワークという実業務のドローン活用について紹介することとしました。

2023年5月15日月曜日

ロシアの石油貯蔵施設が2日連続で無人航空機(ドローン)攻撃によりタンク火災

  今回は、202353日(水)、ロシアのクラスノダール地方のボルナにある石油貯蔵施設の燃料油タンクへの無人航空機(ドローン)攻撃によるタンク火災、および54日(木)イルスキー製油所内にある石油製品貯蔵施設のディーゼル燃料タンクへの無人航空機攻撃によるタンク火災、ならびに5月5日(金)イルスキー製油所内にある石油精製施設への無人航空機攻撃による設備火災の事故を紹介します。


< 発災施設の概要 (その1 >

■ 発災施設は、ロシア(Russia)クラスノダール地方(Krasnodar)テムリュク地区(Temryuksky)のボルナ(Volna)にあるタマンネフテガス社(Tamanneftegaz)の石油貯蔵施設である。民間運営会社タマンネフテガス社は、ボルナに貯蔵タンク30基以上で総貯蔵容量100KL超の施設を有し、石油や製品の輸出と船舶燃料補給を扱うタマン海洋ターミナルにサービスを提供している。

■ 発災があったのは、石油貯蔵施設の容量20,000KLの燃料油タンクである。(グーグルマップで調べると、石油貯蔵施設のタンク群は直径約45m級がほとんどである)


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 202353日(水)午前3時頃、石油貯蔵施設で無人航空機(ドローン)攻撃があり、容量20,000KLのタンク1基で火災が発生した。

■ 住民によると、火災の直前に30分間隔で爆発音が2回聞こえたという。監視カメラでは、無人航空機が2機石油貯蔵施設に接近したとき、1機は撃墜されたが、もう1機がタンクへ命中したことが写っていた。

■ 発災に伴い、消防隊が5台の消防車で出動した。

■ タンクの上部の屋根が損壊し、全面火災の様相を呈した。火災の面積は1,200㎡になった。

■ 攻撃や火災による死傷者は出ていない。

■ ユーチューブには、タンク火災の映像が投稿されている。YouTube、「Russia blames Ukrainian drone attack for oil depot fire2023/05/03)を参照)

被 害

■ 容量20,000KLのタンク1基が損壊し、タンク内の燃料油が焼失した。

■ 死傷者は出なかった。

■ 火災と黒煙が立ち昇り、大気の環境汚染を生じた。

< 事故の原因 >

■ 戦争による軍事行動である。(平常時の“故意の過失”に該当)

< 対 応 >

■ 消防隊は、約85名の消防士と23台の資機材で火災現場で活動した。

■ タンク火災は53日(木)午後10時頃に制圧され、午後1142分に鎮火した。最終的に同社の消防隊とクラスノダール地域緊急事態省の部隊を含む250人以上が消火活動に参加した。

■ 54日(木)、タマンネフテガス社は、前日に発生した石油貯蔵タンクの火災が鎮火したことを受け、タマン港の海洋ターミナルの操業が再開したと同社のウェブサイトで発表した。   

■ 54日(木)、タマンネフテガス社は、貯蔵タンクに自動散水システムと防火対策が装備されており、隣接するタンクへの延焼やその他のより深刻な結果を回避することができたと同社のウェブサイトに掲載した。事業所の消防隊と生産担当者は緊急事態時の訓練を定期的に行っており、今回の事故でも、最初の数分間が決定的に重要だったが、この訓練と防火システムの運用の結果だと付け加えている。



< 発災施設の概要 (その2 >

■ 発災施設は、ロシア(Russia)クラスノダール地方(Krasnodar)にあるイルスキー製油所(Irsky Refinery)である。イルスキー製油所は精製能力133,000バレル/日(年間約660万トンの処理能力)を有している。

■ 発災があったのは、イルスキー製油所内にある石油製品貯蔵施設の容量5,000KLのディーゼル燃料タンクと石油精製施設である。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 202354日(木)午前3時頃、石油製品貯蔵施設で無人航空機(ドローン)の攻撃があり、ディーゼル燃料タンクが炎上し、火災となった。 容量5,000KLのディーゼル燃料タンクには、油が85%充填されていた。

■ 無人航空機攻撃は54日(木)午前2時頃から始まった。最初の1機は爆発せず、イルスキー製油所内に落下し、製油所の警備員が残骸を調べている間に別な無人航空機が飛来した。無人航空機攻撃はほぼ1時間続き、製油所敷地内で3回の爆発音が轟いた。無人航空機3機によるもので、そのうち1機がタンクに命中したとみられる。

■ 発災に伴い、消防隊が出動した。出動したのは消防士48人と消防資機材16台である。

■ 火災面積は約400㎡だった。

■ 攻撃と火災に伴う死傷者はいなかった。

■ 翌55日(金)午前830分頃、同じ製油所の石油精製施設で無人航空機攻撃による火災が起きた。死傷者はいなかった。年間生産能力180万トンのCDU‐5塔の空冷式冷却器が攻撃を受けた。火災範囲は60㎡であったが、同日午前939分、火災は消された。

■ 発災に伴い、消防隊が出動したが、消火活動を行う前に、火災は制圧されていた。

■ 死傷者は出なかった。設備は数週間以内に交換できる可能性があるが、その影響はまだ分からないという。

被 害

■ 石油製品貯蔵施設の燃料貯蔵タンク1基が損壊し、タンク内の油が焼失した。

■ 石油精製装置の空冷式冷却器が損壊し、精製装置内の保有油が焼失した。

■ 死傷者は出なかった。

■ 火災と黒煙が立ち昇り、大気の環境汚染を生じた。

< 事故の原因 >

■ 戦争による軍事行動である。(平常時の“故意の過失”に該当)

< 対 応 >

■ タンク火災は消火活動によって、午前517分、2時間あまりで鎮火したという。消火活動に出動したのは、結局、消防士など167名と39台の消防資機材だった。

■ ツイッターには、火災直後のタンク火災と緊急車両が走っているビデオ映像が投稿されている。


(「Ukraine Reporter - A fire has erupted at the Ilsky oil refinery in Krasnodar Krai, Russia」を参照)

■ ロシア国内のウクライナに近い地域でインフラストラクチャーや軍事目標に対して頻繁な無人機攻撃だとロシアが言っていることに対して、ウクライナはその実行を主張していない。

■ 2度にわたるイルスキー製油所への攻撃により、重要施設の脆弱性が露呈し、エネルギー供給や価格への影響も懸念されている。これを受けて、当局は重要なインフラストラクチャーへのセキュリティ対策を強化することが求められる。しかし、ドローン技術は常に進化しているため、このような現場を防護することは継続的な課題が生じている。

補 足

■ 「ロシア」(Russia)は、正式にはロシア連邦といい、ユーラシア大陸北部に位置し、人口約14,600万人の連邦共和制国家である。2022224日(木)、ロシアが、突如、ウクライナに侵攻し、軍事衝突が起こった。

 ロシアがウクライナに侵攻して以降、両国のタンクへの攻撃を紹介した事例はつぎのとおりである。

  ●「ウクライナ各地で石油貯蔵所が攻撃によってタンク火災」20223月)

  ●「ウクライナ各地の石油貯蔵所がミサイル攻撃によってタンク火災」20224月)

  ●「ウクライナで化学工場の硝酸タンクがロシアの攻撃で爆発」20226月)

  ●「ロシアのベルゴロド石油貯蔵所にヘリコプターによる攻撃」 20225月)

  ●「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」20224月)

  ●「ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害」 202211月)

  ●「ロシアがウクライナのひまわり油タンクをカミカゼ無人機で攻撃」202210月)

  ●「ロシアの石油貯蔵所で無人航空機によって燃料タンク3基が火災」202211月)

  ●「ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害」202212月)

  ●「クリミア半島の石油貯蔵施設で無人航空機(ドローン)攻撃でタンク火災」20234月)

「クラスノダール地方」は、ロシアの南部連邦管区を構成する地方のひとつで人口約540万人で、行政の中心はクラスノダール市である。

所 感

■ 無人航空機(ドローン)による貯蔵タンクへの攻撃が進化していることを表す事例である。クラスノダール地方ボルナの石油貯蔵施設のタンク火災は初めて全面火災の様相を呈した激しいものである。これまではタンク側板が狙われていたが、今回はタンク屋根を突き破る攻撃ではなかっただろうか。これまでの無人航空機による攻撃の被災状況は意外に大きくなかった印象であったが、これからは全面火災になることを想定しなければならないだろう。

■ ボルナのタンク火災は直径約45mの全面火災とみられ、放射能力10,00020,000リットル/分の大容量泡放射砲システムが必要である。これに対して現場では、長いはしご車の先端に泡モニターを付けた放射距離を稼ぐ泡放射設備を使用しているが、火災時間は20時間超であり、有効には働かなかったとみられる。

■ イルスキー製油所内にある石油製品貯蔵施設の容量5,000KLのディーゼル燃料タンクの火災では、タンク側板上部に無人航空機(ドローン)の命中した穴の損傷部が見られる。側板は座屈していないが、塗装は大きく剥離しており、激しい火災だったことが伺える。タンクは油が85%充填されていたので、発災初期はタンク内の油が流出して、タンク火災とともに堤内火災が生じたとみられる。また、ディーゼル燃料の燃焼(降下)速度を20cm/時と仮定すれば、2時間で40cmの油面低下にしかならず、 側板の変色範囲と比べれば、2時間あまりで消火したという情報は疑問が残る。

■ イルスキー製油所のタンク火災に対する消防活動は明らかでないが、被災写真には防油堤外に消火泡を使用した残りの泡が見えるので、消火戦術としては泡消火方法がとられたとみられる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

      Jp.reuters.com,  ロシア南部の製油所に無人機、石油タンクが火災,  May  04,  2023

      Newsdig.tbs.co.jp,   ロシア南部・クリミア橋近くの石油貯蔵施設で大規模火災 独立系メディア「ドローン攻撃があった」 けが人なし,  May  04,  2023

     Tokyo-np.co.jp,   ロシア石油施設に再び無人機攻撃 クリミア対岸、火災発生,  May  05,  2023

     Sankei.com,  ロシアの燃料タンクで火災 3日連続 無人機攻撃と報道,  May  05,  2023

     News.tv-asahi.co.jp,  ロシア南部の製油所がドローン4機の攻撃受ける 現地メディア報じる,  May  04,  2023

     Jp.reuters.com,  新たなドローン攻撃でロシアのイルスキー製油所で火災発生 ,  May  05,  2023

     Novayagazeta.eu,  Second drone attack in two days on oil refinery in Russia’s Krasnodar region,  May  05,  2023

     Agenzianova.com, A drone strike causes a fire at the Ilsky refinery in the Krosnodar region of Russia,  May  04,  2023

     Aljazeera.com, Russian drone attack in Ukraine after oil refinery targeted,  May  04,  2023

     Tass.com, Oil storage reservoir at Krasnodar Region refinery catches fire after drone attack,  May  04,  2023

    Pravda.com.ua, Oil refinery catches fire due to drone strike in Kuban, Russia,  May  04,  2023

    Newsweek.com, Russian Oil Refinery Hit With Second Drone Attack This Week,  May  05,  2023

    Bnn.network, Ilsky Oil Refinery in Russia Suffers Second Drone Attack in Two Days, Causes Fire,  May  05,  2023

    Upstreamonline.com, Firefighters battle blaze at Russia oil depot hit by latest drone attack,  May  03,  2023

    93.ru, «Вторая неспокойная ночь». В поселке Ильском под Краснодаром загорелся резервуар с нефтепродуктами,  May  04,  2023

    Ntv.ru, Из-за атаки беспилотника горит резервуар Ильского НПЗ на Кубани,  May  04,  2023

    Rtvi.com, РИА Новости: причиной пожара на Ильском НПЗ стала атака четырех беспилотников,  May  04,  2023

     Kommersant.ru, СМИ: причиной пожара на Ильском НПЗ стала атака четырех беспилотников,  May  04,  2023

     Tass.ru, На территории Ильского НПЗ на Кубани из-за атаки беспилотника произошел пожар,  May  05,  2023

     Krasnodar.bezformata.com, Пожар на нефтебазе под Краснодаром произошел из-за атаки беспилотника,  May  04,  2023

     Tamanneftegas.ru, НАЛИВНОЙ ТЕРМИНАЛ В ПОРТУ ТАМАНЬ ВОЗОБНОВИЛ РАБОТУ,  May  04,  2023


後 記: 前回に引き続いてロシアの戦時下における無人航空機(ドローン)のタンク攻撃について調べました。どれだけ多くのことが報じられているか気にはなりましたが、今回はロシア国内に関する事故情報であるため、根気よく調べると、意外にローカルメディアによって報じられていました。ボルナのタンク火災では事業所のウェブサイトに事故関連のプレスリリースが掲載されていました。報道管制があるかと思っていましたが、モスクワから遠い地方だとまだ余裕があるのでしょうか。さらに、ツイッターなどソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)による情報は止めようがないといった感じです。

 ところで、無人航空機の攻撃は進化していると書きましたが、202211月頃からタンクへの攻撃方法(どこに命中させれば被害が大きくなるかなど)を試しており、今回のタンク全面火災という結果に至ったように感じます。攻撃の実行者は、正確にいえば不明なのですが、単にドローンを飛ばしているというのではなく、意図をもっていますね。

2023年5月9日火曜日

クリミア半島の石油貯蔵施設で無人航空機(ドローン)攻撃でタンク火災

  今回は、2023429日(土)、ロシアが一方的に併合したウクライナのクリミア半島南西部に位置するセバストポにある石油貯蔵施設へ無人航空機(ドローン)による攻撃があり、燃料油タンクが火災を起こした事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、ロシア(Russia)が一方的に併合したウクライナ(Ukraine)のクリミア半島南西部に位置するセバストポリ(Sevastopol)のガガリンスキー地区(Gagarinsky)にある石油貯蔵施設である。計23基の貯蔵タンクを備えた石油貯蔵施設で、セバストポリ港では最大の石油製品供給設備である。

■ 発災があったのは、2014年にロシアが実効支配している石油貯蔵施設の貯蔵タンクである。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2023429日(土)午前430分頃、セバストポリにある石油貯蔵施設の燃料油タンクで火災が発生した。

■ 石油貯蔵施設から激しい炎と黒煙が立ち昇り、港湾都市セバストポリの上空は、黒い煙の厚い雲に覆われた。

■ 火災は無人航空機(ドローン)による攻撃である。少なくとも4機の無人航空機が攻撃を行い、2機がタンクに命中したという。

■ 地元住民によると、石油貯蔵施設で発砲音があった後、2回の爆発音を聞いたと語っている。

■ 4基の燃料油タンクが炎上し、火は1,000㎡に燃え広がった。鎮火には相当な時間がかかると見込まれる。

■ 爆発・火災に伴い、消防隊が出動した。

■ ロシア側はウクライナによる攻撃だと主張しているが、ウクライナ側は“神の罰だ” と述べたものの、軍などが関与したかどうかは明言していない。

■ ロシアによって指名されたこの地域の市長は、火災によって地域の住民に脅威を与えていないため、避難の必要はないと語った。

■ ウクライナの軍事情報機関は10基を超える燃料油貯蔵タンクが破壊されたと言っているが、ロシアは4基だけが被災したと述べている。現場の映像ビデオは、少なくとも7基が火災の影響を受けているように見える。

■ 破壊されたタンクはガソリンスタンドに燃料を供給するために使用されていたという。当初、ロシアの黒海艦隊が使用する燃料油を貯蔵しているという情報が報じられたが、石油貯蔵施設は民間用だという。ロシアの黒海艦隊の燃料貯蔵施設は、艦隊が停泊するエリアの近くで桟橋を備えた別な施設ではないかといわれている。

■ 無人航空機(ドローン)による攻撃と火災による死傷者はいない。 

■ ユーチューブでは、テレビ局のニュースで放映した石油貯蔵施設の火災映像が報じられている。その例は、つぎのとおりである。

 ●「ロシア側「ドローンによる攻撃」 クリミア半島の燃料貯蔵施設で大規模火災|TBS NEWS DIG」2023/4/30

 ●「クリミア石油施設炎上 ドローンが突っ込んだ」(2023/4/30)

  Blaze at Russian fuel depot in Crimea put out after suspected drone strike (2023/4/30)

 ●Crimean fuel depot fire the result of Ukrainian drone strike, Russia says (2023/4/30)

被 害

■ 石油貯蔵施設の燃料油タンクが4基以上(~10基)損壊あるいは損傷を受けた。 

■ 燃料油タンク内に入っていた燃料油が焼失した。

■ 死傷者は出なかった。

■ 火災と黒煙が立ち昇り、大気の環境汚染を生じた。






< 事故の原因 >

■ 戦争による軍事行動である。(平常時の“故意の過失”に該当)

< 対 応 >

■ 消火活動のために消防列車が運ばれてきた。現場で消火活動に従事した消防士は約150名である。

■ 火災は、消防隊が429日(土)午後3時までに消し止めた。

■ ウクライナは、セバストポリのような場所を目標に到達できる長距離ミサイルを保有していないが、このハードルを克服するために無人航空機(ドローン)を開発している。ウクライナの当局者は、通常、クリミアの軍事拠点での爆発について実行したと主張することはないが、婉曲的な表現を使って言うこともある。ウクライナ軍関係者はウクライナが攻撃を行ったとは言っていないが、その代わり、このタンク爆発・火災は23人が死亡した428日(金)のウクライナの都市ウマンへのロシアの攻撃に対する神の罰だと語った。

■ 環境保全の活動家のひとりは、「あの空高く舞い上がる黒煙を見てごらんなさい。世界の指導者たちは皆、クリーンで再生可能なエネルギーについて語っていますが、この戦争が大気に与える環境への影響について話をしている人はいないようです。ロシアがウクライナへ侵攻してからの1年間、絶え間ない爆撃や砲撃の火災によって、大量の有害物質が大気中に放出されています」と指摘している。

■ 今回の無人航空機はMugin-5 Pro軽偵察用で攻撃用に改造したもので、機体が炭素複合体でレーダーによる検出を困難にしている。 ウクライナが20228月にセバストポリへの最初の無人航空機による攻撃に使用されて以来、使われている。 Mugin-5 Pro無人航空機は時速150kmで、最長7時間飛行できる。無人航空機の重量は85kgで、最大2025kgの荷物を運ぶことができる。今回の攻撃に使用された無人航空機の数は610機である可能性がある。複数の無人航空機は追跡弾で撃墜されたとみられるが、2機がクリミア半島への侵入に成功し、セバストポリの石油貯蔵施設を攻撃した。



補 足

■「ウクライナ」(Ukraine)は、東ヨーロッパに位置し、南に黒海と面する人口約4,500万人の国である。天然資源に恵まれ、鉄鉱石や石炭など資源立地指向の鉄鋼業を中心として重工業が発達している。20143月に、クリミア半島についてロシアによるクリミア自治共和国の編入問題があり、世界的に注目された。そして、2022224日(木)、ロシアが、突如、ウクライナに侵攻し、軍事衝突が起こった。

 ロシアがウクライナに侵攻して以降、タンクへの攻撃を紹介したのは、つぎのとおりである。

  ●「ウクライナ各地で石油貯蔵所が攻撃によってタンク火災」20223月)

  ●「ウクライナ各地の石油貯蔵所がミサイル攻撃によってタンク火災」20224月)

  ●「ウクライナで化学工場の硝酸タンクがロシアの攻撃で爆発」20226月)

  ●「ロシアのベルゴロド石油貯蔵所にヘリコプターによる攻撃」 20225月)

  ●「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」20224月)

  ●「ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害」 202211月)

  ●「ロシアがウクライナのひまわり油タンクをカミカゼ無人機で攻撃」202210月)

  ●「ロシアの石油貯蔵所で無人航空機によって燃料タンク3基が火災」202211月)

  ●「ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害」202212月)

「クリミア半島」 (Crimea)は、単にクリミアと呼び、黒海の北岸にある半島で、20141月時点の人口は約235万人である。

「セバストポリ」(Sevastopol)は、黒海に面したクリミア半島南西部に位置し、人口約41万人の市である。

■「石油貯蔵施設」や「被災タンク」の仕様は報じられておらず、詳細はわからない。セバストポリにある石油貯蔵施設をグーグルマップで探したところ、石油貯蔵施設の中央部に同じような直径のタンク10基があり、これらのタンクが無人航空機の攻撃を受けたとみられる。タンクの直径は約20mで、高さを1520mとすれば、容量は4,7006,200KLとなり、容量5,000KL級のタンクである。無人航空機2機がタンクに命中しており、被災写真と見比べれば、損壊した東側の中央2基が命中したタンクとみられる。タンク型式は固定屋根式タンクであるが、ガソリンタンクと報じられており、固定屋根式タンクまたは内部浮き屋根式タンクとみられる。

所 感

■ 2022年の前半におけるロシアやウクライナの石油貯蔵所への攻撃はミサイル攻撃やヘリコプター攻撃など典型的な軍事作戦によるものであった。ところが後半になると、無人航空機(ドローン)によるテロ攻撃に変わってきている。しかも、無人航空機の攻撃性能が上がっている。従来のミサイルによる攻撃性能に劣らない。

 厄介なのは、無人航空機は炭素複合体の機体でレーダーによる検出を困難にしており、攻撃側が実行を主張しなければ、誰が発射したのか特定が難しいことである。残念ではあるが、ミサイルに比べはるかに安価な無人航空機(ドローン)による攻撃が多用されるだろう。

■ 今回の貯蔵タンクの被害状況については、4基~10基の間で意見が分かれている。タンク2基は無人航空機(ドローン)の攻撃で完全に損壊している。貯蔵タンクの側板に命中して、内部の燃料油が流出して堤内火災になっている。火災状況の映像を見ると、かなり激しく、且つ広範囲に火炎が上がっているように見え、隣接タンク4基の被害は軽微とはいえないだろう。火災エリアは1,000㎡と報じられているが、もっと広い面積だと思われる。(1,000㎡は約31m四方である)

■ 消防活動の経緯や全体は明らかでないが、発災直後の早朝や夜が明けた直後と思われる火災映像では、複数タンク火災と堤内火災が重なり、かなり激しい火炎状況でほとんど消火活動は行われていないと思われる。給水を行う消防列車が到着した後、消火活動が行われたのではないだろうか。今回の事例では、はしご車の上部に取り付けた高発泡の泡消火モニターが使用されている。堤内火災を想定し、高発泡設備を導入しているとみられる。

 発災が429日(土)の午前430分頃で、午後3時までに消し止めたとあるので、火災時間は10時間30分であり、当初の激しい火災状況からすれば印象としては早い制圧だと感じる。消火活動以外にタンクの流出した油量が少なかったのではないだろうか。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Jp.reuters.com, クリミアで無人機攻撃、ロシア黒海艦隊用石油タンクで火災,  May  01,  2023

    Newsweekjapan.jp, クリミアでドローン攻撃 ロシア黒海艦隊用石油タンク10基以上破壊される,  May  01,  2023

    Khb-tv.co.jp,  クリミア石油施設炎上 「ドローンが突っ込んだ」,  April  30 ,  2023

    Fnn.jp,  クリミア半島で石油タンク炎上 ロシア側「ドローン攻撃受けた」,  April  30,  2023

    Cnn.co.jp,  クリミアの火災、黒海艦隊用のタンク多数破壊か ウクライナ軍,  April  30,  2023

    Reuters.com, Russia blames Ukraine drone attack for major Crimea fuel depot fire,  April  30 ,  2023

    Aljazeera.com, Russia blames drone attack for Crimea fuel depot blaze,  April  29,  2023

    Abc.net.au, Drone attack behind massive fire at Crimea fuel depot, says Russian-installed governor,  April  30,  2023

    Thedrive.com, Fuel Depot In Crimea Up In Smoke,  April  29,  2023

    Rerl.org,  Russia Says Fire At Crimean Fuel Depot Extinguished After Drone Attack,  April  29,  2023

     Upstreamonline.com, Key Russian oil depot damaged by drone attack in Crimea,  April  29,  2023

     Theguardian.com, Blaze at Russian fuel depot in Crimea put out after suspected drone strike,  April  29,  2023

     Global.chinadaily.com.cn, Russia says Ukraine drone caused Crimea fuel depot fire,  May  01,  2023

     Swissinfo.ch, Russia says Ukraine drone attack caused major Crimea fuel depot fire,  April  29,  2023

     Nytimes.com, Large Fire Burns at Crimea Fuel Depot After Suspected Drone Attack,  April  29,  2023

     Sm.news, Атаковавшие Севастополь дроны пытались выявить расчеты крымских ПВО, но их даже не пришлось задействовать,  April  30,  2023

     Crimea.ria.ru, Пожар после атаки дронов в Севастополе видео,  April  29,  2023

     Lenta.ua, З'ЯВИЛИСЯ ДЕТАЛІ АТАКИ БЕЗПІЛОТНИКІВ ПО НАФТОБАЗІ У СЕВАСТОПОЛІ,  April  29,  2023


後 記: タンク火災の事故情報と比較して戦時下のタンク攻撃の報道は、何が真実か悩ましい判断を求められると感じます。特に今回のように攻撃者が名乗っていない場合、情報の真偽ははっきりしません。今回の場合は被害タンク基数や黒海艦隊用の燃料貯蔵施設といった話は争っている両軍部の意図した偽情報が含まれていると思っています。このように戦争によるタンク火災は通常時のタンク事故の参考になりにくく、あまり取り上げまいと思っていますが、日本のテレビ各局が激しい火災の映像を流せば、調べることになってしまいますね。世の中がだんだん平常でない状況になりつつある中で、強いて価値を見出すとすれば、無人航空機(ドローン)によるタンク攻撃の被災状況や消防活動がどのようなものになるかを知ることでしょうか。