2023年5月9日火曜日

クリミア半島の石油貯蔵施設で無人航空機(ドローン)攻撃でタンク火災

  今回は、2023429日(土)、ロシアが一方的に併合したウクライナのクリミア半島南西部に位置するセバストポにある石油貯蔵施設へ無人航空機(ドローン)による攻撃があり、燃料油タンクが火災を起こした事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、ロシア(Russia)が一方的に併合したウクライナ(Ukraine)のクリミア半島南西部に位置するセバストポリ(Sevastopol)のガガリンスキー地区(Gagarinsky)にある石油貯蔵施設である。計23基の貯蔵タンクを備えた石油貯蔵施設で、セバストポリ港では最大の石油製品供給設備である。

■ 発災があったのは、2014年にロシアが実効支配している石油貯蔵施設の貯蔵タンクである。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2023429日(土)午前430分頃、セバストポリにある石油貯蔵施設の燃料油タンクで火災が発生した。

■ 石油貯蔵施設から激しい炎と黒煙が立ち昇り、港湾都市セバストポリの上空は、黒い煙の厚い雲に覆われた。

■ 火災は無人航空機(ドローン)による攻撃である。少なくとも4機の無人航空機が攻撃を行い、2機がタンクに命中したという。

■ 地元住民によると、石油貯蔵施設で発砲音があった後、2回の爆発音を聞いたと語っている。

■ 4基の燃料油タンクが炎上し、火は1,000㎡に燃え広がった。鎮火には相当な時間がかかると見込まれる。

■ 爆発・火災に伴い、消防隊が出動した。

■ ロシア側はウクライナによる攻撃だと主張しているが、ウクライナ側は“神の罰だ” と述べたものの、軍などが関与したかどうかは明言していない。

■ ロシアによって指名されたこの地域の市長は、火災によって地域の住民に脅威を与えていないため、避難の必要はないと語った。

■ ウクライナの軍事情報機関は10基を超える燃料油貯蔵タンクが破壊されたと言っているが、ロシアは4基だけが被災したと述べている。現場の映像ビデオは、少なくとも7基が火災の影響を受けているように見える。

■ 破壊されたタンクはガソリンスタンドに燃料を供給するために使用されていたという。当初、ロシアの黒海艦隊が使用する燃料油を貯蔵しているという情報が報じられたが、石油貯蔵施設は民間用だという。ロシアの黒海艦隊の燃料貯蔵施設は、艦隊が停泊するエリアの近くで桟橋を備えた別な施設ではないかといわれている。

■ 無人航空機(ドローン)による攻撃と火災による死傷者はいない。 

■ ユーチューブでは、テレビ局のニュースで放映した石油貯蔵施設の火災映像が報じられている。その例は、つぎのとおりである。

 ●「ロシア側「ドローンによる攻撃」 クリミア半島の燃料貯蔵施設で大規模火災|TBS NEWS DIG」2023/4/30

 ●「クリミア石油施設炎上 ドローンが突っ込んだ」(2023/4/30)

  Blaze at Russian fuel depot in Crimea put out after suspected drone strike (2023/4/30)

 ●Crimean fuel depot fire the result of Ukrainian drone strike, Russia says (2023/4/30)

被 害

■ 石油貯蔵施設の燃料油タンクが4基以上(~10基)損壊あるいは損傷を受けた。 

■ 燃料油タンク内に入っていた燃料油が焼失した。

■ 死傷者は出なかった。

■ 火災と黒煙が立ち昇り、大気の環境汚染を生じた。






< 事故の原因 >

■ 戦争による軍事行動である。(平常時の“故意の過失”に該当)

< 対 応 >

■ 消火活動のために消防列車が運ばれてきた。現場で消火活動に従事した消防士は約150名である。

■ 火災は、消防隊が429日(土)午後3時までに消し止めた。

■ ウクライナは、セバストポリのような場所を目標に到達できる長距離ミサイルを保有していないが、このハードルを克服するために無人航空機(ドローン)を開発している。ウクライナの当局者は、通常、クリミアの軍事拠点での爆発について実行したと主張することはないが、婉曲的な表現を使って言うこともある。ウクライナ軍関係者はウクライナが攻撃を行ったとは言っていないが、その代わり、このタンク爆発・火災は23人が死亡した428日(金)のウクライナの都市ウマンへのロシアの攻撃に対する神の罰だと語った。

■ 環境保全の活動家のひとりは、「あの空高く舞い上がる黒煙を見てごらんなさい。世界の指導者たちは皆、クリーンで再生可能なエネルギーについて語っていますが、この戦争が大気に与える環境への影響について話をしている人はいないようです。ロシアがウクライナへ侵攻してからの1年間、絶え間ない爆撃や砲撃の火災によって、大量の有害物質が大気中に放出されています」と指摘している。

■ 今回の無人航空機はMugin-5 Pro軽偵察用で攻撃用に改造したもので、機体が炭素複合体でレーダーによる検出を困難にしている。 ウクライナが20228月にセバストポリへの最初の無人航空機による攻撃に使用されて以来、使われている。 Mugin-5 Pro無人航空機は時速150kmで、最長7時間飛行できる。無人航空機の重量は85kgで、最大2025kgの荷物を運ぶことができる。今回の攻撃に使用された無人航空機の数は610機である可能性がある。複数の無人航空機は追跡弾で撃墜されたとみられるが、2機がクリミア半島への侵入に成功し、セバストポリの石油貯蔵施設を攻撃した。



補 足

■「ウクライナ」(Ukraine)は、東ヨーロッパに位置し、南に黒海と面する人口約4,500万人の国である。天然資源に恵まれ、鉄鉱石や石炭など資源立地指向の鉄鋼業を中心として重工業が発達している。20143月に、クリミア半島についてロシアによるクリミア自治共和国の編入問題があり、世界的に注目された。そして、2022224日(木)、ロシアが、突如、ウクライナに侵攻し、軍事衝突が起こった。

 ロシアがウクライナに侵攻して以降、タンクへの攻撃を紹介したのは、つぎのとおりである。

  ●「ウクライナ各地で石油貯蔵所が攻撃によってタンク火災」20223月)

  ●「ウクライナ各地の石油貯蔵所がミサイル攻撃によってタンク火災」20224月)

  ●「ウクライナで化学工場の硝酸タンクがロシアの攻撃で爆発」20226月)

  ●「ロシアのベルゴロド石油貯蔵所にヘリコプターによる攻撃」 20225月)

  ●「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」20224月)

  ●「ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害」 202211月)

  ●「ロシアがウクライナのひまわり油タンクをカミカゼ無人機で攻撃」202210月)

  ●「ロシアの石油貯蔵所で無人航空機によって燃料タンク3基が火災」202211月)

  ●「ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害」202212月)

「クリミア半島」 (Crimea)は、単にクリミアと呼び、黒海の北岸にある半島で、20141月時点の人口は約235万人である。

「セバストポリ」(Sevastopol)は、黒海に面したクリミア半島南西部に位置し、人口約41万人の市である。

■「石油貯蔵施設」や「被災タンク」の仕様は報じられておらず、詳細はわからない。セバストポリにある石油貯蔵施設をグーグルマップで探したところ、石油貯蔵施設の中央部に同じような直径のタンク10基があり、これらのタンクが無人航空機の攻撃を受けたとみられる。タンクの直径は約20mで、高さを1520mとすれば、容量は4,7006,200KLとなり、容量5,000KL級のタンクである。無人航空機2機がタンクに命中しており、被災写真と見比べれば、損壊した東側の中央2基が命中したタンクとみられる。タンク型式は固定屋根式タンクであるが、ガソリンタンクと報じられており、固定屋根式タンクまたは内部浮き屋根式タンクとみられる。

所 感

■ 2022年の前半におけるロシアやウクライナの石油貯蔵所への攻撃はミサイル攻撃やヘリコプター攻撃など典型的な軍事作戦によるものであった。ところが後半になると、無人航空機(ドローン)によるテロ攻撃に変わってきている。しかも、無人航空機の攻撃性能が上がっている。従来のミサイルによる攻撃性能に劣らない。

 厄介なのは、無人航空機は炭素複合体の機体でレーダーによる検出を困難にしており、攻撃側が実行を主張しなければ、誰が発射したのか特定が難しいことである。残念ではあるが、ミサイルに比べはるかに安価な無人航空機(ドローン)による攻撃が多用されるだろう。

■ 今回の貯蔵タンクの被害状況については、4基~10基の間で意見が分かれている。タンク2基は無人航空機(ドローン)の攻撃で完全に損壊している。貯蔵タンクの側板に命中して、内部の燃料油が流出して堤内火災になっている。火災状況の映像を見ると、かなり激しく、且つ広範囲に火炎が上がっているように見え、隣接タンク4基の被害は軽微とはいえないだろう。火災エリアは1,000㎡と報じられているが、もっと広い面積だと思われる。(1,000㎡は約31m四方である)

■ 消防活動の経緯や全体は明らかでないが、発災直後の早朝や夜が明けた直後と思われる火災映像では、複数タンク火災と堤内火災が重なり、かなり激しい火炎状況でほとんど消火活動は行われていないと思われる。給水を行う消防列車が到着した後、消火活動が行われたのではないだろうか。今回の事例では、はしご車の上部に取り付けた高発泡の泡消火モニターが使用されている。堤内火災を想定し、高発泡設備を導入しているとみられる。

 発災が429日(土)の午前430分頃で、午後3時までに消し止めたとあるので、火災時間は10時間30分であり、当初の激しい火災状況からすれば印象としては早い制圧だと感じる。消火活動以外にタンクの流出した油量が少なかったのではないだろうか。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Jp.reuters.com, クリミアで無人機攻撃、ロシア黒海艦隊用石油タンクで火災,  May  01,  2023

    Newsweekjapan.jp, クリミアでドローン攻撃 ロシア黒海艦隊用石油タンク10基以上破壊される,  May  01,  2023

    Khb-tv.co.jp,  クリミア石油施設炎上 「ドローンが突っ込んだ」,  April  30 ,  2023

    Fnn.jp,  クリミア半島で石油タンク炎上 ロシア側「ドローン攻撃受けた」,  April  30,  2023

    Cnn.co.jp,  クリミアの火災、黒海艦隊用のタンク多数破壊か ウクライナ軍,  April  30,  2023

    Reuters.com, Russia blames Ukraine drone attack for major Crimea fuel depot fire,  April  30 ,  2023

    Aljazeera.com, Russia blames drone attack for Crimea fuel depot blaze,  April  29,  2023

    Abc.net.au, Drone attack behind massive fire at Crimea fuel depot, says Russian-installed governor,  April  30,  2023

    Thedrive.com, Fuel Depot In Crimea Up In Smoke,  April  29,  2023

    Rerl.org,  Russia Says Fire At Crimean Fuel Depot Extinguished After Drone Attack,  April  29,  2023

     Upstreamonline.com, Key Russian oil depot damaged by drone attack in Crimea,  April  29,  2023

     Theguardian.com, Blaze at Russian fuel depot in Crimea put out after suspected drone strike,  April  29,  2023

     Global.chinadaily.com.cn, Russia says Ukraine drone caused Crimea fuel depot fire,  May  01,  2023

     Swissinfo.ch, Russia says Ukraine drone attack caused major Crimea fuel depot fire,  April  29,  2023

     Nytimes.com, Large Fire Burns at Crimea Fuel Depot After Suspected Drone Attack,  April  29,  2023

     Sm.news, Атаковавшие Севастополь дроны пытались выявить расчеты крымских ПВО, но их даже не пришлось задействовать,  April  30,  2023

     Crimea.ria.ru, Пожар после атаки дронов в Севастополе видео,  April  29,  2023

     Lenta.ua, З'ЯВИЛИСЯ ДЕТАЛІ АТАКИ БЕЗПІЛОТНИКІВ ПО НАФТОБАЗІ У СЕВАСТОПОЛІ,  April  29,  2023


後 記: タンク火災の事故情報と比較して戦時下のタンク攻撃の報道は、何が真実か悩ましい判断を求められると感じます。特に今回のように攻撃者が名乗っていない場合、情報の真偽ははっきりしません。今回の場合は被害タンク基数や黒海艦隊用の燃料貯蔵施設といった話は争っている両軍部の意図した偽情報が含まれていると思っています。このように戦争によるタンク火災は通常時のタンク事故の参考になりにくく、あまり取り上げまいと思っていますが、日本のテレビ各局が激しい火災の映像を流せば、調べることになってしまいますね。世の中がだんだん平常でない状況になりつつある中で、強いて価値を見出すとすれば、無人航空機(ドローン)によるタンク攻撃の被災状況や消防活動がどのようなものになるかを知ることでしょうか。

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