2023年4月28日金曜日

米国ルイジアナ州のタンクターミナルで原油タンクが火災

  今回は、202343日(月)、米国ルイジアナ州セントチャールズ郡セントローズにあるインターナショナル-マテックス・ タンクターミナル社の石油貯蔵施設において原油タンクで起こった火災事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国ルイジアナ州(Louisiana)セントチャールズ郡(St. Charles Parish)のセントローズ(St. Rose)にあるインターナショナル-マテックス・ タンクターミナル社(International-Matex Tank Terminal)の石油・ケミカルの貯蔵施設である。施設の総容量は1,630万バレル(259KL)で、207基の貯蔵タンクがある。

■ 事故があったのは、川沿いにある石油・ケミカルの貯蔵施設の原油用の貯蔵タンクである。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 202343日(月)の午後2時頃、インターナショナル-マテックス・ タンクターミナル社の貯蔵施設でタンク火災が発生した。タンクからは炎が見え、黒煙が空に流れた。

■ 発災に伴い、自衛消防隊と公設消防隊が出動した。出動した消防士は24名以上で、現場で消火活動を行った。

■ 事故に伴い、請負業者の社員2名が負傷し、病院へ搬送された。

■ 事故は容量250,000 バレル(40,000KL)の原油タンクで起こったが、タンクはカラにされた後の残留物しか入っていなかったといわれ、保全作業中だった。

■ 安全対策上、近くを通っている鉄道が閉鎖された。

■ 当局は、火災からの煙は大気中の低い位置を樹木が茂った地域に向かって流れており、一般市民への脅威にはなっていないようだといい、市民の避難は必要ないと語った。 当局は、煙が州間高速道路 310号線に向かう可能性を監視しており、必要であれば、閉鎖すると述べた。

■ 43日(月)の午後8時時点で、消防隊はまだ活発な火災スポット2か所と戦っていた。現場は、消防隊が支援で要請していた12 インチの泡放射装置が到着したところだった。火災から敷地外に吹き出す煙は北東から真北の方向に移っていた。近くの貯蔵タンクは延焼を防ぐために冷却されており、消火に使用された水の流出を敷地内で食い止めていた。

■ インターナショナル-マテックス・ タンクターミナル社は施設付近の空気の質を監視しており、敷地外への影響はないとみているという。

■ インターナショナル-マテックス・ タンク ターミナル社は出火原因を調べているという。

被 害

■ 容量250,000バレル(40,000KL)の原油タンクが焼損した。内部に残量していた油が焼失した。

■ 消火水の廃液が発生したが、構内に留まり、構外への影響は報告されていない。

■ 黒煙などで環境汚染が発生した。住民への影響は報告されていない。

< 事故の原因 >

■ 火災と人身災害の原因は調査中である。保全工事に要因があるとみられる。 

< 対 応 >

■ 43日(月)の午後8時時点で火災は消火されていない。消防隊が支援で要請していた12 インチの泡放射装置が到着したので、その後、制圧されたものとみられる。

補 足

■「ルイジアナ州」(Louisiana)は、米国の南部にあり、テキサス州に隣接し、人口約465万人の州である。州都はバトンルージュで、最大の都市はニューオーリンズである。ルイジアナ州は石油と天然ガスの資源が豊富である。

「セントチャールズ郡」(St. Charles Parish)は、ルイジアナ州の南部に位置し、人口約52,000人の郡である。

「セントローズ」(St. Rose)は、セントチャールズ郡にある人口約7,500人の町で、ニューオーリンズ大都市圏の一部である。

 ルイジアナ州では、つぎのような事故や対応事例がある。

 ●198912月、「米国バトンルージュの貯蔵タンク複数火災における消火活動」

 ●20129月、「米国ルイジアナ州の製油所でハリケーン襲来後に油漏出」

 ●20131月、「米国ルイジアナ州でクリスマスに落雷によるタンク火災」

 ●20163月、「米国ルイジアナ州における消防活動の相互応援の歩み」

 ●20188月、「米国ルイジアナ州の油井用タンク施設で落雷による火災」

 ●20192月、「米国ルイジアナ州で天然ガス施設の炭化水素用タンクが爆発・火災」

 ●20196月、「米国ルイジアナ州の油井用タンク施設で消火活動中にタンク噴き飛ぶ」

 ●201910月、「ルイジアナ州ミシシッピー川沿いの製油所で油漏洩、野鳥に被害」

 ●20204月、「米国ルイジアナ州の原油生産施設でタンクに落雷して火災」

■「インターナショナル-マテックス・ タンクターミナル社」(International-Matex Tank Terminal LLC IMTT) は、1939年に設立されたエネルギー会社で16の貯蔵ターミナル施設を所有・運営している。石油製品、植物油、再生可能燃料、アルコール、メタノールなどのケミカル類を取り扱い、北米で事業を展開している。

「セントローズ・タンクターミナル」は207基の貯蔵タンクを有し、施設の総容量は1,630万バレル(259KL)である。

■「発災タンク」は原油用で容量250,000バレル(40,000KL)と報じられているが、そのほかの仕様は分かっていない。グーグルマップと被災写真をもとに調べると、鉄道が通っている近くに発災タンクとみられるタンクがある。屋根付きで屋根外周の周囲に20個ほどの特別通気口が設置されているので、内部浮き屋根式タンクと思われる。このタンクの直径は約65mであるので、高さは約12mとなる。

所 感

■ 今回の火災と人身事故の原因はタンクの保全工事に関わる要因だと思われる。 米国CSB(化学物質安全性委員会)がまとめた「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」10年以上前に公表されたものだが、この教訓が活かされていないと思われる。代替方法の検討、危険度の分析、作業モニタリング、作業エリアのテスト、着工許可の発行、徹底した訓練、請負者への監督 の7つのうちのいくつかが不徹底のために事故が起こったのであろう。

■ タンクの火災状況の写真によると、側板が内側に座屈しているように見える。このような座屈は火災が長時間続き、側板が炎に曝露され続けるために内側に座屈するのであるが、今回のタンクは残留液しか入っていなかったといわれており、このような条件に当てはまらない。タンク内が原油のベーパーで充満し、何らかの引火源によって爆発が起こり、屋根がタンク内に落下して側板が引きずられて内側に座屈したのかも知れない。しかし、考え難い推測であり、別な要因があるのかも知れない。

■ 火炎の勢いは大した状態ではないように見えるが、火災は6時間を経過した午後8時にも消火できておらず、消火活動は難航している。タンクはカラにされた後の残留物しか入っていなかったといわれているが、タンク内からの油の抜き出しが不十分で、結構な量の油が残っていたものと思われる。全面火災ではないが、屋根が障害物になり、的確な泡放射ができず、保有の泡放射装置では対応できず、もっと大容量の泡放射装置を要請したものとみられる。しかし、直径65mのタンクの全面火災では、放射能力40,000リットル/分の大容量泡放射装置が必要であり、内部浮き屋根式タンクという認識で事業所としての事前準備に課題があったと思われる。 一方、ルイジアナ州では、「米国ルイジアナ州における消防活動の相互応援の歩み」のように消防資機材の応援体制が整っているともいえる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Powderbulksolids.com, 2 Injured in Chemical Storage Facility Fire in Louisiana, April 05, 2023

      Fox8live.com, 2 injured in fire at chemical storage facility in St. Rose, April 04, 2023

      Wwltv.com, Fire reported at IMTT chemical storage facility in St. Charles Parish, April 03, 2023

      Wdsu.com, Storage facility fire reported in St. Charles Parish, April 03, 2023

      Wgno.com, Homeland Security and Emergency Preparedness monitoring storage facility fire in St. Rose, April 03, 2023


後 記: 今回の事故について前回に続いてチャットGPTを使ってみました。ある面の限界が見えてきました。最新の事件は情報をもっていないと回答しています。正直ですね。

質 問: 202343日、米国ルイジアナ州セントチャールズ郡のセントローズにあるインターナショナル-マテックス・ タンクターミナル社でタンク火災がありましたが、なぜ、どのようにして起こったのでしょうか。

回 答; 申し訳ありませんが、あなたが参照している事件は、私が知る限り報告されていません。私は20219月までにトレーニングされたため、20234月に起こった出来事に関する情報を持っていない可能性があります。しかし、このような事件が発生した場合は、ニュースメディアや当局の声明などを確認することをお勧めします。

 

2023年4月19日水曜日

関西電力㈱ 舞鶴発電所でバイオマス燃料がサイロ内で自然発火して火災

 今回は、2023314日(火)、京都府舞鶴市にある関西電力㈱の舞鶴発電所でバイオマス燃料を保管するサイロ(タンク)から火災が発生した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、京都府舞鶴市にある関西電力㈱の舞鶴発電所である。舞鶴発電所は、石炭とバイオマスの木質ペレットを燃料とし、12号機の合計出力は180kWである。

■ 事故があったのは、火力発電所のバイオマス燃料の木質ペレットを保管するタンクである。保管施設はバイオマスサイロと呼ばれ、延べ面積が490㎡あり、2基ある。


<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2023314日(火)午後10時頃、火力発電所バイオマス燃料を保管するサイロから火災が発生した。舞鶴市に設置しているNHKのカメラでは、発電所から突然爆発したような火の手が上がり、2回ほど赤い大きな炎が瞬間的に広がる様子が撮影されていた。

■ 関西電力舞鶴発電所から消防署にバイオマスサイロから火が出たという通報があり、公設消防が出動した。消防隊が消防士とともに消防車23台が現場へ出動した。

■ 発災に伴い、関西電力自衛消防隊が出動し、ただちに消火活動を開始した。314日(火)午後1154分、公設消防が現場での消火活動を始めた。

■ 発災当時、舞鶴発電所の2基ある発電設備のうち1号機は修繕工事のため停止中で、2号機は木質ペレットをベルトコンベヤでボイラに供給する作業が行われており、稼動中だった。火災の影響によって2号機も停止した。

■ この火災で施設内にあるサイロ2基が全焼し、ベルトコンベヤなど周辺の設備も焼損した。

■ 発災に伴う負傷者はいなかった。

■ 関西電力によると、他の電源を稼働させることなどにより、必要な電力の供給に影響はない見通しだという。

被 害

■ 施設内にあるバイオマスサイロ2基が全焼し、ベルトコンベヤなど周辺の設備も焼損した。延焼面積は約2,000㎡であった。

■ 火災により電力の供給ができなかった。

■ 事故に伴う負傷者は出なかった。

< 事故の原因 >

■ バイオマスサイロ内にあるバイオマス燃料の一部が発酵・酸化して発熱するとともに可燃性ガスが発生した。この可燃性ガスがサイロ内とバイオマス燃料をボイラへ移送する設備内に滞留した。発熱が進んだサイロ内のバイオマス燃料が自然発火し、可燃性ガスに引火して火災に至った。


< 対 応 >

■ 火災は、約10時間後に消し止められ、315日(水)午前826分に鎮火が確認された。

■ 317日(金)、関西電力は、 発電所2号機のバンカ(燃料を供給するために一時的に貯蔵する設備)  内の一酸化炭素濃度が上昇傾向で、バンカ内の燃料の発熱が進む可能性 があることから、燃料を全て消費するために318日(土)に一時的に2号機を運転することとしたと発表した。

■ 320日(月)、関西電力は、石炭サイロからボイラへ石炭を運搬する設備の健全性を確認できたので、2号機を運転することとしたと発表した。

■ 43日(月)、関西電力は、発生経緯などについてつぎのような発表を行った。

 ● バイオマスサイロ内にある燃料の一部が、発酵・酸化して発熱し、サイロ内 および燃料をボイラへ運搬する設備内に可燃性ガス(一酸化炭素とメタンガス)が発生・滞留した。

 ● その後、発熱が進んだサイロ内の燃料が自然発火し、可燃性ガスに引火して 火災に至ったものと考えられる。

 ● 幅広い知見を取り入れた火災の原因究明と再発防止対策の具体化・推進を行うため、「舞鶴発電所バイオマス設備火災事故対策検討会」 を設置した。

 ● 火災はバイオマス燃料供給設備のほぼ全域で、燃料受入設備の一部の計約2,000㎡が延焼した。

■ バイオマス発電からの火災事故は、202311日(日)に大阪ガス㈱運営による千葉県の袖ケ浦バイオマス発電所で燃料サイトから火災が発生したほか、各地で相次いでいる。202010月には北九州市若松区のオリックスグループの響灘エネルギーパーク合同会社運営のバイオマス発電所で火災が起きている。20229月には、茨城県東海村の常陸那珂火力発電所で輸入バイオマス燃料による火災事故が発生している。

 千葉・袖ケ浦バイオマス発電所の火災はテレビニュースがユーチューブに投稿されている。(YouTube「火事のような臭い」元日夜から異臭で住民困惑原因はバイオマス発電の燃料木質ペレットの発火か TBS NEWSを参照)

■ バイオマス燃料による火災事故は各電力会社の管理問題とともに、バイオマス発電そのものの安全性問題が課題となっている。バイオマス発電の専門家の中には、つぎのように指摘する人もいる。

 ● バイオマス発電の燃料となる輸入木質バイオマス燃料は、2022年、ベトナム産で不純物等を混在させて増量したうえで認証を偽造して日本に輸出していたことが明らかになった不祥事が起きている。しかし、所管官庁の経済産業省は燃料偽装の実態調査を十分に行わないままの状態を続けている。

 ● 各地で相次ぐバイオマス燃料の火災事故は、こうした不良品燃料が原因とみられるケースのほか、バイオマス燃料からの自然発火による共通要因での火災も起きている。自然由来の燃料を大規模に貯蔵する同発電の仕組み自体に、燃料の偽装のしやすさや、自然発火を招く等の不具合要因があるとの指摘がある。

補 足

■「関西電力㈱」は、大阪市に本店を置く電力会社で、略称として関電(かんでん)KEPCOKansai Electric Power Co.;ケプコ)といわれ、発電施設は170箇所×計3,657kWである。主な略歴はつぎのとおりである。

 ● 188710月、近畿地方における最初の電気事業者として神戸電灯が設立

 ● 19515月、関西配電および日本発送電を廃止し、関西電力が発足

 ● 20048月、関西電力としては30年ぶりとなる石炭火力の舞鶴発電所が運転開始

 ● 20233月、2018年から電力小売りが全面自由化されているにもかかわらず、主に工場や商業施設向けの電力小売り分野でほかの電力会社とカルテルを結び、地盤エリアでの営業活動を展開しないように画策していたことが明らかとなり、公正取引委員会は中国電力、中部電力、九州電力などに総額1,000億円余の課徴金納付を命じた。しかし、カルテルを主導した同社は公正取引委員会にカルテルを自主申告したため、処分が免除されたことが報道された。

■「舞鶴発電所」は、京都府舞鶴市にある関西電力で唯一の石炭火力発電所で、従業員は約420名である。自然のままの地形を利用し、敷地を二段造成するとともに、省スペースで石炭を貯蔵できるサイロ方式を採用している。2004年に稼動した1号機は発電出力90kW2010年に稼動した2号機は発電出力90kWで合わせて180kWの能力である。 2008年に1号機でバイオマス燃料の混焼を開始し、石炭とバイオマス燃料の木質ペレットを混ぜて燃焼させて発電している。

■ 「バイオマス発電所」は、植物などの生物資源(バイオマス)を燃料に使用しながら発電する施設で、植物は生育過程で二酸化炭素を吸収するため、発電プロセスでバイオマス燃料を燃焼したとしても、大気中の二酸化炭素は増えない、いわゆるカーボンニュートラルの持続可能な発電方法として、現在、各地に設置されている。

 バイオマス発電に関して、つぎのような事故を紹介した。

 ●20192月、「山形県のバイオマスガス化発電所で水素タンクが爆発、市民1人負傷」

(●20196月、「山形県のバイオマスガス化発電所の水素タンクの爆発(原因)」

 ●20226月、「山口県の下関バイオマス発電所の焼却灰タンクで人身事故」

所 感

■ 事故原因は、バイオマスサイロ内にあるバイオマス燃料の一部が発酵・酸化して発熱するとともに可燃性ガスが発生し、この可燃性ガスがサイロ内などに滞留していき、発熱が進んだサイロ内のバイオマス燃料が自然発火し、可燃性ガスに引火して火災に至ったという。

■ バイオマス燃料の自然発火は多くの事例や情報が公表されており、まったく未知の事象ではない。舞鶴発電所は、2008年に1号機でバイオマス燃料の混焼を開始し、石炭と木質ペレットを混ぜて燃焼させて発電している。 2号機は2010年に稼動しており、現在の設備になってから1214年の運転実績がある。このような経歴から事故原因を見てみると、設備管理、操業管理、運転管理の面に疑問が出てくる。

 ● 混焼を開始した当時からすでに設備的に原因の事象が潜在していたのではないだろうか。設備を見ると、石炭サイロとバイオマスサイロが最適な配置ではないように感じる。石炭専焼の火力発電所として自然のままの地形を利用した省スペースの配置に、バイオマスサイロやコンベアなどを増設したことが自然発火を引き起こす要因になっていないだろうか。

 ● 操業管理の面でいえば、バイオマス燃料の質的転換をやってしまったのではないか。指摘されているようにバイオマス発電に使用する輸入木質バイオマス燃料が、昨年来、不純物等を混在させて増量したうえで認証を偽造して日本に輸出していたことが明らかになっている。コスト低減を目的に正規のバイオマス燃料から転換したため、自然発火の要因が生まれたのではないだろうか。

 ● 運転管理の面でいえば、バイオマス燃料の自然発火を検知する監視システム(温度検知や一酸化炭素検知など)を装備していると思われるが、この監視システムが正しく管理され、日常で有効に使われていたのだろうか。長年の運転管理で本来の目的が失われ、形だけの監視システムとなり、自然発火の要因を見逃したのではないだろうか。

■ 千葉県の袖ケ浦バイオマス発電所の火災では、消火に苦慮した。今回も消火に約10時間かかっているが、消火活動に関しては出動以外に情報が発表されていない。バイオマス発電所は各所に建設されており、火災も報じられており、どのような消火戦略や消火戦術がとられたか、今後の知見として公表してもらいたい。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

       Nhk.or.jp, 関西電力舞鶴発電所で火事 バイオマス燃料の保管施設2基全焼,  March  15,  2023

      Nhk.or.jp, 関西電力舞鶴発電所で火災 施設の一部焼ける,  March  15,  2023

      Kepco.co.jp, 舞鶴発電所 バイオマス燃料供給設備における火災について(第1報~第5,  March 15April 03,  2023

      Rief-jp.or, 関西電力・舞鶴石炭火力発電所の火災は、混焼のバイオマス燃料からの可燃性ガスへの引火が原因。相次ぐバイオマス発電所の火災事故で、同燃料の安全性確保が課題に(RIEF,  April  03,  2023

      Nikkei.com,  関電火力発電所で火災、10時間半後に鎮火 京都,  March  15,  2023

      Geenproduction.co.jp, 関西電力、舞鶴発電所バイオマス燃料供給設備の火災発生経緯、事故対策検討会の設置を発表,  April  03,  2023

      Mainichi.jp, 鶴発電所の火災、バイオマス燃料のペレットが自然発火 関電,  April  03,  2023

      Kyoto-np.co.jp, 舞鶴発電所火災で関電「出火原因は不明」 12号機とも運転停止続く,  March  15,  2023

      Jiji.com, 舞鶴発電所で火災 けが人なし関電,  March  15,  2023

      Sanyonews.jp, 関電の火力発電所で火災 京都・舞鶴、供給影響なし,  March  15,  2023

      Kyoto-np.co.jp, 「ベルトコンベヤーやサイロから炎」京都・舞鶴の関電発電所で火災,  March  14,  2023


後 記: チャットGPTが話題になっていますが、今回の事故情報をまとめた後、事故について質問してみました。バイオマス燃料の常識的な話とともに鋭い答が返ってきました。(下線部)

質 問: 関西電力舞鶴発電所でバイオマス燃料が自然発火して火災になりましたが、なぜ起きたのですか。

回 答: 私たちは直接的な情報を持っていないので断定的な回答はできませんが、一般的にバイオマス燃料が自然発火する主な原因は、高温や湿気などの外部要因によるものです。バイオマス燃料は、木材チップやペレットなどの形で使用されることが多く、これらの材料は湿度が高いと発火しやすくなります。また、発酵や腐敗などの過程で自然に発熱することがあるため、高温の環境下で保管される場合には、自然発火する可能性があります。

 具体的には、関西電力舞鶴発電所での火災がどのように起きたかについては調査が必要です。しかし、バイオマス燃料が自然発火する可能性があることは、事前に知られていたリスクであるため、それに対する十分な注意が払われていたかどうか、また適切な安全対策が取られていたかどうかが、注目されるでしょう。

2023年4月14日金曜日

イエメンの浮体式貯蔵施設から原油移送のため国連がタンカーを購入

今回は、202339日(木)、中東イエメン沖で劣化して腐食が進行している浮体式貯蔵・積出し施設から原油が流出して環境破壊するのを回避するため、国連が大型タンカーを購入して対応するという情報を紹介します。

< 環境汚染のリスク >

■ 国連は、数年前から、イエメン(Yemen)のラス・イッサ(Ras Issa)半島から約9km沖に停泊する劣化した旧大型タンカーのセーファー号(Safer)が紅海とイエメンの海岸線を危険にさらしていると警告してきた。全長360m34個の貯蔵タンクをもつ407,000DWTのタンカーには約110万バレル(175,000KL) の原油が入っており、1989年にアラスカ沖で起きたエクソン・バルディーズ号(Exxon Valdez)の事故の4倍の油を流出させる可能性がある。

■ 1976年に日本で建造されたセーファー号は1980年代にイエメン政府に売却された。1987年にタンカーは浮体式貯蔵・積出し施設(Floating Storage and OffloadingFSO)として改造され、イエメンの紅海オイルターミナルであるラス・イッサに係留されている。2014年に始まったイエメンの内戦により、貧困にあえぎ、タンカーは2015年から積出しはもちろん、メンテナンス作業が中断されたままになっている。乗組員は10名を除いてほとんどがタンカーから引き揚げた。

■ 劣化した浮体式貯蔵・積出し施設のタンカーから油を移送し、貯蔵する代替のタンカーの計画が持ち上がった。しかし、イエメンの国連高官は、状況がかなり落ち着いてきたが、内戦下で使用されることになる代替のタンカーを寄贈する人はおらず、リースを申し出る企業も無かったと語っている。

■ イングランドのソフトウェア企業であるリスクアウェア社(Riskaware)は、セーファー号が油流出を起こした場合の汚染のリスク評価を行っている。リスク評価は、油流出による汚染リスクのほか、火災になった場合の環境汚染のリスクについて分析している。162時間後の油流出の範囲の例を示す。(詳細は、同社のウェブサイトFSO SAFER: Risk Impact Analysis Informationを参照。


< 国連の対応 >

■ 202339日(木)、国連は、環境破壊を回避するため、イエメン沖で係留されて劣化して腐食が進行している浮体式貯蔵・積出し施設から約110万バレル(175,000KL)の石油を移送して貯蔵する大型タンカー(VLCC)ノーティカ号(Nautica)を購入したと発表した。代替の大型タンカーは長さ332mの二重殻構造である。

■ 国連は、流出事故の清掃には200億ドル(26,000億円)かかると述べているが、それでもセーファー号から油を移送するために必要な12,900万ドル(168億円)と、ベルギーの国際海運会社ユーロナブ社(Euronav)から5,500万ドル(72億円)で購入したタンカーの代金を支払うために必要な費用を集めるのに苦労している。

■ これまで、主に各国政府から9,500万ドル(123億円)の寄付の申し出があり、そのうち7,500万ドル(98億円)が実際に支払われた。2022年からはクラウドファンディングも開始され、イエメンの国連高官は仕事を終わらせるためにさらなる資金の提供を望んでいるという。イエメンの国連高官は、一般からの寄付を増やしたいと考えており、米国メリーランド州ベセスダの小学校の生徒たちがレモネードを売って200ドル(26,000円)を集めたことを賞賛している。

■ 国連によるクラウドファンディングの募集については、国連のウェブサイトのUN Plan for the FSO Safer Tanker Stop the Red Sea CatastropheFSOセーファー号タンカーに関する国連計画は紅海の大惨事を阻止)を参照。 

■ 国連によると、すべてのことが計画通りに進めば、5月上旬には実際にセーファー号から代替のタンカーへの移送作業が開始される予定である。

■ 国連によると、実際に誰が石油を所有しているかは明らかではないため、石油を売却して事業の費用を賄うことはできないという。

< これまでの状況 >

■ 国連は、タンカーの構造的な一体性が著しく劣化しており、爆発する危険性さえあると警告している。 大規模な流出事故が起きれば、イエメンの紅海沿岸の漁業で暮らす人たちに壊滅的な打撃を与え、おそらく20万人の生計が即座に絶たれるであろう。さらに、高濃度に汚染された空気によって数百万人に影響を与えるだろう。

■ 2020年時点における点検では、セーファー号のエンジンルームに海水が入り込み、配管が損傷して沈没の危険性が高まっていることがわかった。また、タンカーの一部は錆で覆われ、可燃性ガスが溜まらないようにする不活性ガスが漏れているという。

■ 今回の計画に700万ドル(910百万円)を拠出することを約束した英国の国連大使は、作業は今すぐに始めなければならない。遅らせる時間の余裕はないと語っている。

■ イエメンは、2014年にイランと連携するイスラム教フーシ派武装組織によって首都サナア(Sanaa)から政府側が追い出されて以来、紛争に陥っている。2015年にサウジアラビア主導の軍事連合が政府復活を目指して介入した。

■ 国連は、油移送を何年も前から実施しようとしてきたが、セーファー号が停泊している地域を支配するフーシ派の反政府勢力による障害で進まず、やっと1年前に解決されたばかりだった。昨年まで、フーシ派は交渉の道具としてタンカーを人質に取り、サルベージ専門家が船に乗ることを妨げていた。フーシ派は、資源の権利を保持することを条件に、石油の移送を許可することに同意したといわれている。

■ 代替タンカーのノーティカ号は、改造と定期メンテナンスのために中国のドックに入っていたが、作業が終了し、202346日(木)に、中国舟山からイエメンに向けて出航した。イエメンには 5月上旬に到着する予定である。

■ 20235月上旬から始められる移送作業には約3週間かかる予定で、6月中旬までに移送プロセスが完了する計画だという。

■ 油の移送計画のアニメーションが国連からユーチューブに投稿されている。(YouTube Animation FSO Safer, Transfer of oil cargoを参照)

■ 202348日(土)、8年に及ぶイエメン内戦をめぐり、同国のイスラム教シーア派武装組織は、敵対してきたサウジアラビアとの間で戦争捕虜の交換が実現したことを明らかにした。49日(日)には、サウジアラビアの外交団が仲介役のオマーンの代表団とともにイエメンの首都サナアを訪れ、フーシ幹部との間で恒久的な和平について交渉を始めた。

備 考

■「イエメン」(Yemen)は、正式にはイエメン共和国で、中東のアラビア半島南端部に位置する人口約3,050万人の共和制国家である。首都はサナアで、インド洋上の島々の一部も領有している。産油国ではあるが、 2014年の内戦勃発以来、400万人以上が避難を強いられており、 終わらない紛争と食料難で人道支援を待っている人は2,000万人以上に及び、アラブ最貧国といわれている。

「紅海」(Red Sea)は、地球の裂け目である地溝帯に海水が溜まった場所で、アフリカ・プレートとアラビア・プレートが始新世に裂け始め、現在も拡大している。長さ2,250km、幅最大355 km、平均水深491m、最深部2,211 mで、海水は降雨が少なく、蒸発作用が強く、流入河川が無く、アデン湾との限られた循環などによって塩分濃度は3.63.8%と高い。紅海といっても赤い色をしているのではなく、透明度の高い海である。

 イエメンの事故やサウジアラビアへのフーシ派の攻撃について紹介したのは、つぎのとおりである。

   ● 20191月、「イエメンでディーゼル燃料タンク爆発、薄層ボイルオーバーか、負傷15名」

       ● 20199月、「サウジアラビアの石油施設2か所が無人機(ドローン)によるテロ攻撃」

  ●  202011月、「サウジアラビアの石油流通ステーションの貯蔵タンクをミサイル攻撃」

  ● 20213月、「サウジアラビアの石油ターミナルが無人機攻撃されるが、迎撃される」

■「エクソン・バルディーズ号(Exxon Valdez)の事故」は、1989324日(金)、米国アラスカ沖で起きた原油流出事故である。原油約20万トンを満載し、アラスカのプリンス・ウィリアン海峡で座礁し、約41,000KLの原油を流出させた。事故の概要は保険会社UK P&I のウェブサイトに掲載されているExxon Valdez 座礁事故」を参照。

■ 今回の「浮体式貯蔵・積出し施設」(Floating Storage and OffloadingFSO)は大型タンカーを改造したものであるが、本来は、海洋油田生産方式の固定式プラットフォームに代わる施設として1970年代から使用されたものである。多くは船舶の形をしており、固定式プラットフォームと比較して様々なメリットがあり、現在では海洋石油・ガス生産設備の主流となっている。

 日本の浮体式貯蔵・積出し施設としては、1988年に建設された長崎県にある上五島国家石油備蓄基地がある。この浮体式貯蔵・積出し施設(洋上タンク方式の浮遊式海洋構造物)は世界で最初の洋上石油備蓄システムで、貯蔵船を並列に配置したものである。貯油能力は88KLの貯蔵船が5隻あり、総貯蔵量は440KLである。貯蔵船は二重殻構造で10KLの容量を持つタンクが7つある。各タンクは水封タンクで囲まれ、貯油タンクの内圧よりも水封タンクの水圧を高く保持することにより、油が貯油タンク外に漏れない工夫がされている。

所 感

■ 今回の国連によるタンカー購入と環境汚染のリスク回避の対応は、いろいろ考えさせられる。

 ● 国連が世界的な環境汚染のリスクについて警鐘を鳴らすのは分かるが、国連が資金の寄付を呼びかけ、実際のタンカー購入を行い、油の移送を行うのは、本来の国連の業務なのだろうか。

 ● イエメンの内戦により、イエメンが業務遂行の能力を失っている。

 ● 隣国サウジアラビアには、資金があり、業務遂行の能力もあるだろうが、イエメンの内戦に巻き込まれている。

 ● 仮にサウジアラビアが油移送の業務を実行したら、サウジアラビア国内の石油施設で起こったようにセーファー号がフーシ派の攻撃にさらされるのではないだろうか。

 ● 洋上タンク方式の浮体式貯蔵・積出し施設は、攻撃されれば、海への大きな環境汚染リスクを内在しており、油の基地として妥当な施設なのだろうか。

 ● セーファー号は日本で建造された大型タンカーであるが、今回の国連の対応では、日本の存在感は薄く、国際的に地盤低下が否めない。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

      Reuters.com,  U.N. buys tanker to store oil from decaying vessel off Yemen,  March 10, 2023

      Un.org, Note to Correspondents:  United Nations Takes Major Step Forward to Prevent Catastrophic Oil Spill in Red Sea as UN Development Programme Signs Agreement to Purchase Oil Tanker,  March 09, 2023

      Foxnews.com,  UN agrees to buy stranded Yemeni tanker carrying 1M crude oil barrels,  March 09, 2023

      Voanews.com,  UN Buys Oil Tanker to Begin Salvage Operation Off Yemeni Coast,  March 09, 2023

      Bbc.com, UN buys huge ship to avert catastrophic oil spill off Yemen,  March 09, 2023

      Timesofisrael.com,  UN buys ship to begin removing oil from decaying tanker off Yemen,  March 13, 2023

      Offshore-energy.biz , Race against time begins as Euronav’s former VLCC heads to decaying FSO Safer to prevent catastrophic oil spill,  April 07, 2023

      Apnews.com, UN signs deal to salvage stranded oil from tanker off Yemen,  March 10, 2023

      Forbes.com, UN Could Remove Oil From Stricken Yemeni Tanker By June – But Only If More Funding Arrives,  March 16, 2023

      Tankstoragemag.com, UN buys tanker to store decaying oil,  March 10, 2023

      Riskaware.co.uk, FSO SAFER: Risk Impact Analysis Information,  2022

      Asahi.com, サウジと武装組織、捕虜交換 イエメン内戦めぐり和平交渉,  April  11, 2023   


後 記: 国連がタンカーを購入したという話から情報を調べ始めました。そうすると、イエメンでの旧タンカーの環境汚染リスクについては随分以前から話題になっていたようで、メディアの報道が散見されました。今回、国連がタンカーを購入し、環境汚染を回避しようとする措置をとったことで、世界のメディアが報じています。ロシアによるウクライナ侵攻問題では、国連の機能に疑問符が付けられましたが、今回の措置が本来の国連の業務かどうかは別として、国連の機能が失われていないと感じました。4月初めには、イエメン国内のシーア派武装組織とサウジアラビアとの間で戦争捕虜の交換が実現し、さらにサウジアラビアの外交団がフーシ派幹部との間で恒久的な和平について交渉を始めたというニュースもあり、このようにして国連による世界の恒久的な和平が進展すればよいですね。   

2023年4月6日木曜日

英国の陸上油田のパイプラインから漏洩、海へ流出して環境汚染

 今回は、2023326日(日)、英国でエネルギー会社ペレンコ社のウィッチ・ファーム油井施設の原油パイプラインから漏洩し、水路を通って海へ流出して環境汚染を起こした事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、英国(England)ドーセット州(Dorset)にある英仏のエネルギー会社ペレンコ社(Perenco)のウィッチ・ファーム(Wytch Farm)と呼ばれる油井施設である。ペレンコ社は1日あたり約40,000バレル(6,360KL)の石油を生産しており、そのうち約14,000バレル(2,226KL)がウィッチ・ファームから生産されている。

■ 事故があったのは、ウィッチ・ファームの原油パイプラインである。油井施設は陸上油田と呼ばれているが、実際には、油田は陸上部のウィッチ・ファームから海側のプール・ハーバーに広がっている。パイプラインは各油井からの集積用で、ファーゼイ島の油井などからウィッチ・ファームまで通っている。



<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2023326日(日)午後130分頃、ペレンコ社の油井施設の原油パイプラインから漏洩する事故が起こった。漏れはオワー・ベイ付近の陸上部を通る原油パイプラインから発生したとみられる。  

■ 約200バレル(32KL)の塩水混じりの油がプール・ハーバーに至る川に漏れた。漏れた液体は、80%が塩水で残りの20%が原油だという。

■ 港の活動を規制する独立機関であるプール・ハーバー港湾委員会 (PHC) は緊急油流出対応計画を発動し、パイプラインを停止させ、オイルフェンスを展張した。

■ プール・ハーバー港湾委員会は、詳細が判明するまでプール・ハーバー内のビーチの利用を控えるよう警告した。

■ 英国保健安全保障局も、市民はプール・ハーバーの海で泳ぐべきではないとし、「流出した油に触った人はすぐに石鹸と水で洗う必要があります。もし、眼に入った場合、水で洗い流してください」と注意喚起した。

■ ドーセット警察は、今回の事故については多くの地元の機関が注目し、監視していると語っている。

■ 近くの住民のひとりは、「毎日のように犬を公園に連れて行ったのですが、油の臭いがしました。とてもショックでした。車庫の前庭で軽油をこぼしたときのような臭いがしました」と語っている。

■ 別な住民は、日曜の朝(326日)に歩いていて海で臭いがし、薄い油の層が流れているのを見たといい、流出がすでに325日(土)に起こったに違いないとみている。

■ 環境保護の専門家は、プール・ハーバーでの油流出が、この地域の繊細な自然保護区に壊滅的な影響を与える可能性があると述べている。プール・ハーバーの湾内にあるブラウンシー島は、国際的に重要な湿地帯で海洋保護区域の一部である。サウサンプトン大学環境科学のハドソン博士は、 「流出の全容はまだ分かっていませんが、プール・ハーバーにおける油流出は特に憂慮されます。プール・ハーバーは閉鎖されたような大きな湾であるため、汚染物質が潮の流れによってすぐに洗い流されない可能性があります。また、非常にエネルギーの低い環境であるため、開けた海岸で流出した場合とは異なり、油の分解や拡散に役立つ波の作用が余りありません」と語っている。

■ 環境保護団体は、「海鳥の繁殖期が始まろうとしており、プール・ハーバーの海岸線で繁殖するユリカモメ、地中海カモメ、レッドシャンク、ミヤコドリなどの多くの鳥類が生息し、港の干潟でエサ求めており、環境が悪くなる可能性があります」と憂慮している。

■ 事故後、プール・ハーバーの周辺で油だらけになった鳥が目撃された。その後331日(金)には、その数は15羽以上に増えた。油に接触した鳥は羽が傷つき、耐水性が低下する。また、油に影響を受けた鳥は絶え間なく毛づくろいし、有害な油を摂取してしまう可能性がある。

■ 329日(水)、当局は、プール・ハーバーの周辺の貝類生産者に油による汚染の可能性があるため、事故後に採った貝類の販売を停止するよう勧告した。

■ 329日(水)、英国政府は調査を開始する意向を示した。

被 害

■ 原油パイプラインに油漏洩に至る損傷が発生した。

■ 原油が漏洩し、水路を経て海に流出した。流出量は約200バレル(32KL)の塩水混じりの油である。液体は80%が塩水で残りの20%が原油だという。

■ 生態系に影響を及ぼす環境汚染が発生した。貝類生産者に販売停止するよう勧告が出された。油だらけになった鳥が少なくとも15羽以上目撃された。

< 事故の原因 >

■ 原油パイプラインの漏洩による。漏洩原因は分かっていない。




 

< 対 応 >

■ ペレンコ社は事故管理チームを立ち上げて活動をしはじめ、漏洩は止まったと発表した。また、ペレンコ社は、当局と緊密に協力し、クリーンアップ作業が進行中であると述べた。

■ 328日(火)、プール・ハーバー港湾委員会(PHC) は、クリーンアップ作業には100人以上が従事しており、このほかヘリコプターやドローンが支援していると語った。

■ 328日(火)、プール・ハーバー港湾委員会は、油の漏洩源に近いプール・マリーナとオワー・ベイに2つの油の塊が残っていると発表した。 また、プール・ハーバー港湾委員会によると、漏れた原油量は最大で6トン(6,000リットル)の可能性があると語っている。

■ 329日(水)、プール・ハーバー港湾委員会は、これまでのクリーンアップ作業によって1.5トンの堆積物を回収したと発表した。これは油水混合物として14,000リットルとなる。一方、ペレンコ社は、推定排出油量の約60%が回収されたと語っている。

329日(水)、油が漏れた場所は特定されたが、原因はまだ調査中だという。ペレンコ社は、パイプラインについて10か月前に徹底的に検査したと語っている。

■ 329日(水)、クリーンアップ作業を行っている対応者によると、破損した石油パイプラインから依然として原油の混合物が水路に漏れているという。

■ 331日(金)、プール・ハーバー内のブラウンシー島の西側と北側の海岸線に油が漂着したという報告があった。

■ 2022年、ペレンコ社は、ガボンのキャップ・ロペス石油ターミナルで漏洩を起こしている。



補 足

■「英国」(England)は、グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国(イギリス)を構成する4つの国(カントリ)の一つである。人口は約5,300万人で、面積はグレートブリテン島の南部の約三分の二を占める。北はスコットランド、西はウェールズと接し、北海、アイリッシュ海、大西洋、イギリス海峡に面している。

「ドーセット州」(Dorset)は、イングランドの南西部に位置し、人口約77万人の州である。

■「ペレンコ社(Perenco)は、1975年にシンガポールを拠点とするマリンサービス会社として設立された後、1980年に掘削会社を立ち上げ、ロンドンとパリに本社を置く独立した英仏エネルギー会社である。世界16か国(北海、カメルーン、ガボン、コンゴ共和国、グアテマラ、エクアドル、コロンビア、ペルー、ベネズエラ、ブラジル、ベリーズ、チュニジア、エジプト)で探鉱・生産活動を行っている。


■「ウィッチ・ファーム」(Wytch Farm)は、欧州最大の陸上油田のひとつで、英国ドーセット州のプールから27km、ウェアハムから10kmに位置し、1979 年以来、石油貯留層から原油と随伴ガスを抽出してきた油田である。運用寿命を21年延長して 2037年まで延ばすための開発が行われた。ウィッチ・ファームは、ペレンコ社が95%のシェアを持っている。2011年にペレンコ社が買収したが、それまではBP社によって運営されていた。

 ウィッチ・ファームでは、長年にわたって200を超える生産井が掘削されてきたが、現在は拡張リーチ掘削(水平掘削)として知られる技術を使用している。これにより一個所から複数の井戸を掘削でき、港と周辺の湿地の環境に敏感なプール・ハーバーの地下の原油を生産している。しかし、1999 年のピーク時には、1日あたり約100,000バレル(15,900KL)の原油を生産していたが、現在は、1日あたり約14,000バレル(2,226KL)に落ちている。原油は大量の水とともに抽出され、通常、油と水の比率は油田の寿命とともに減少するが、今回の漏洩事故で20%の油と80%の水であると報じられた。メディアによって油15×85%と報じているところもある。


所 感

■ 事故の要因は原油パイプラインの漏洩である。はっきりしていないが、漏洩場所は、おそらく、油井からの地下埋設パイプラインであろう。湿地帯であるようなので、配管の腐食開口ではないかと思う。

■ 漏洩場所や漏洩要因のほか、油の漏洩量もはっきりしない。漏洩量は約200バレル(32KL)の塩水混じりの油で、80%が塩水で残りの20%が原油だといい、このデータからは油量は6.4KLとなる。一般に発災事業所は漏洩量を少なく見積もる傾向にあるが、クリーンアップ作業の動員や資機材の手配上、漏洩の推測量は重要な因子である。実際、クリーンアップ作業による回収作業がどのくらい進んでいるのかはっきりしない。

 破損した石油パイプラインから依然として原油の混合物が水路に漏れているという情報やプール・ハーバー内のブラウンシー島の西側と北側の海岸線に油が漂着したという報告があることから、漏洩量はもっと多いのではないか。

■ 英国の主要なメディアが報じているが、プール・ハーバーの湾内にあるブラウンシー島が国際的に重要な湿地帯で海洋保護区域の一部であることから生態系への環境汚染問題の話題が主となり、漏洩部の配管径や漏洩要因などの事故の再発防止への関心が薄いのが気になる。  


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Theguardian.com, Poole harbour: major incident declared over leak from oilfield,  March  27,  2023

      Rueters.com, Perenco UK says oil leak occurred at well site in Southern England,  March  27,  2023

      News.sky.com, Major incident declared after oil leak from large onshore field in Dorset,  March  27,  2023

      News.sky.com, Dorset oil spill: Everything you need to know including unrevealed location,  March  29,  2023

      Independent.co.uk, Major incident declared after oil leak at Poole Harbour,  March  27,  2023

      Bbc.com,  Poole Harbour oil spill: Shellfish sales warning issued,  March  29,  2023

      Theconversation.com, Poole oil spill expert Q&A: why is there an oil field in Dorset anyway? ,  March  29,  2023

      Dorset.live, Pipe ‘still leaking’ into Poole Harbour following oil spill, Dorset Wildlife Trust boss says,  March  29,  2023

      Thesun.co.uk, LEAK ALERT Dorset oil leak: Major incident declared as 200 barrels of ‘fluid’ spills into Poole Harbour from onshore oil field,  March  26,  2023

      Dournemouthecho.co.uk, Concerns raised that Poole Harbour oil leak still poses ‘significant threat’,  March  31,  2023

      Tankstoragemag.com, Oil spill at Pernaco in Dorset,  March  29,  2023

      Energyvoice.com, Perenco oil spill ‘potentially catastrophic’ says Dorset MP,  March  28,  2023

      Hansard.parliament.uk, Oil Spill: Poole Harbour,  March  29,  2023


後 記: 英国の北海油田は有名ですが、ウィッチ・ファームの陸上油田のことは初めて知りました。環境のよい地域ではありますが、油田のある所としては最悪の場所ですね。油流出があれば、プール・ハーバーという湾内の環境汚染が大きくなるような所です。英国のメディアも最初は油漏洩の事故を伝えていましたが、続報は自然環境の生態系に影響を及ぼす懸念の方を報じています。英国らしいといえばそうなんですが、今後の憂慮事項に記事の焦点が移っています。それにしても、ペレンコ社があまり事故情報を語っていません。実際に事故の状況を把握していない可能性がありますが、鋭い英国のメディアの質問を避けているのではないかと疑ってしまいますね。