2021年11月27日土曜日

インドネシアの製油所でアルミニウム製ドーム型浮き屋根タンクが火災

  今回は、20211113日(土)、インドネシア中部ジャワ州にあるインドネシア国営石油会社プルタミナ社のチラチャップ製油所でアルミニウム製ドーム型浮き屋根式のガソリン・タンクが火災になり、大容量泡放射砲が出動して消火活動を行った事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、インドネシア(Indonesia)中部ジャワ州(Central Java)にあるインドネシア国営石油会社;プルタミナ社(Pertamina)のチラチャップ製油所(Cilacap Refinery)である。チラチャップ製油所の精製能力は348,000バレル/日で、貯蔵タンクは約200基ある。

■ 事故があったのは、製油所の貯蔵地区にあるガソリン・タンクNo.36T-102である。タンクの油量は31,000KLで、オクタン価90のペルタライト・ガソリン入っていた。

<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20211113日(土)午後720分頃、ガソリン・タンクで火災が発生した。空にオレンジ色の大きな炎が舞い上がった。

■ 発災に伴い、消防隊が出動した。消防隊は消防車による泡消火活動を行うとともに、周辺のタンクを冷却した。その後、放射能力9,000ガロン/分(34,000L/min)の大容量の泡モニターを使用して消火活動が行われた。

■ 警察は、事故の対応で支援を申し入れているが、製油所は最高のセキュリティ・エリアであるため、プルタミナ社と調整しているという。

■ プルタミナ社は、周辺地区の大気汚染の状況を監視した。また、予防措置としてバキューム車を待機させ、トレンチに吸収剤を配備した。

■ 近くのロマニス村(Lomanis Village)の地元住民約80人が予防措置として避難した。

■ 火災は貯蔵タンクに限定されており、製油所の操業は継続している。

■ プルタミナ社は火災の原因は分からないと言っている。目撃者によると、発災時は嵐の最中で、落雷があった後、炎が上がったという。

■ プルタミナ社は徹底した事故原因の調査を行うと語った。 

■ プルタミナ社は、ガソリンやディーゼル燃料の在庫は消費をカバーするのに十分あり、パニックになって買い占めをしないようと発表している。この背景には、事故がインドネシアの国内需要の回復に対応するため発電用の高硫黄軽油と超低硫黄ディーゼル燃料を購入しようとしていたときに発生したことがある。

■ 事故に伴う死傷者は報告されていない。

被 害

■ ガソリン・タンク1基が火災で損傷し、内部のガソリンが焼失した。

■ 人的被害は無かった。

■ 近郊の村民約80人が避難した。

< 事故の原因 >

■ 事故原因は調査中で、プルタミナは事故原因の追及するため、内部調査を開始した。

■ 事故当時、落雷を伴う大雨が現場を襲ったが、落雷が原因であることは確認されていない。

< 対 応 >

■ プルタミナ社によると、1113日(土)午後11時頃、火災は制御下に入ったという。このとき、火災は消え、85分間消火が保持できていた。しかし、泡の覆いが切れ、再び消火活動が続けられた。

■ 火災は20211114日(日)午前745分に消え、90分後の午前915分に最終的な鎮火の確認が行われた。

■ ロマニス村の地元住民が避難していたが、 1114日(日)に全員帰宅した。

■ 今年、チラチャプ複合施設で発生したこのような事件は2回目であり、 611日に「インドネシア中部ジャワ州で製油所のベンゼン・タンクが火災」の事故が発生している。チラチャプ製油所は、プルタミナ社が操業する6つの製油所の1つであり、国内需要の約34%を供給している。

補 足

■「インドネシア」(Indonesia)は、正式にはインドネシア共和国といい、インド洋と太平洋の間にある東南アジアとオセアニアに属し、スマトラ島、ジャワ島、ボルネオ島(カリマンタン)など17,000以上の島々で構成される人口約27,000万人の国である。

「中部ジャワ州」(Central Java) は、ジャワ島の中央にあり、人口約3,650万人の州である。

「チラチャップ」(Cilacap)は、中部ジャワ州の西に位置し、人口約194万人である。

■ 「プルタミナ社」(Pertamina)は、1957年に設立され、インドネシア政府が株式を所有する国有の石油・天然ガス会社である。国内に6箇所の製油所を持ち、5,000箇所以上のガソリンスタンドを有している。

「チラチャップ製油所」(Cilacap refinery)は、プルタミナ社の保有する6つの製油所のひとつで、1974年に建設を開始し、1976年から操業を開始した。製油所内には、約200基のタンクがある。

 プルタミナ社の事故例は、つぎのとおりである。

 ● 201610月、「インドネシアの製油所でアスファルト・タンクが爆発・火災」

 ● 20213月、「インドネシア西ジャワ州で製油所の大型ガソリン・タンクが複数火災」

 ● 20216月、 「インドネシア中部ジャワ州で製油所のベンゼン・タンクが火災」

■ プルタミナ社では、5種類のガソリンを製造している。名称とオクタン価(カッコ内の値)はプレミアム(88)、ペルタライト(90)、ペルタマックス(92)、ペルタマックス・ターボ(98)、ペルタマックス・レーシング(100)である。発災のあったタンクはペルタライト・ガソリンだった。

■「発災タンク」はガソリン用で、油量が31,000KLということは報じられている。油量がタンク容量を指すのかは曖昧である。発災写真とグーグルマップから貯蔵タンク地区の北東側のあるアルミニウム製ドーム型(浮き屋根式)タンクであることが分かった。このタンクの直径は約54mであり、油量31,000KLから推定すれば、高さは約13.5mとなる。両隣のタンクも浮き屋根式タンクであるが、なぜ発災タンクだけがアルミニウム製ドーム型に改造したかは分からない。なお、被災写真によると、タンクには固定泡消火設備と散水配管が設置されているとみられる。

■ 発災時間は1113日(土)の午後720分で、午後11時頃、一旦火が消えている。この火災時間は3時間40分である。その後85分消火が保持されたが、泡の覆いが切れ、再び火災になっている。従って1114日(日)午前025分に再着火し、その後、 14日(日)午前745分に消えているので、この火災時間は7時間20分である。全火災時間は11時間となる。

 最初の3時間40分の火災時間において、初期はタンク屋根上の火災と推定される。アルミニウム製ドームは火災に弱いので、比較的早く損壊してしまったとみられる。いつの時点で大容量の泡モニターが配備されたか分からないが、大容量の泡モニターのおかげで消火できたと思う。一方、大量の水を屋根上に注いだので、浮き屋根が沈降したと思われる。ここに大容量の泡モニターの功罪がある。

 2回目の火災時間では、1回目で在庫が無くなった泡薬剤の手配に時間を費やしたのだろう。このときには、全面火災(または障害物あり全面火災)の様相を呈していると思われ、ガソリンの燃焼速度を約33cm/時とすれば、7時間20分で液位は約242cm2.42m)低下することになる。消火後の発災タンクの側板をみると、高さの1/21/3が塗装部の剥離がみられ、この高さは4.5 6.75m相当である。仮に全燃焼時間11時間が全面火災だったとしても、液位の低下は363cm3.63m)となる。これから推測すると、火災が起こった後、内液のガソリンを他のタンクへ移送したものと思われる。

■ 発災タンクの直径は約54mであり、日本の法令ならば、放射能力20,000L/minの大容量泡放射砲システムが必要である。発災現場に配備された大容量の泡モニターの放射能力は9,000ガロン/分(34,000L/min)であり、タンクへの泡放射量を10L/min/㎡としても投入量は22,900L/minとなり、容量的には消火可能である。

 消火時間の観点からは、泡消火剤投入後、火勢が急激に衰えた時間を「ノックダウン時間」といい、通常、1030分以内といわれている。2001年の「米国オリオン製油所のタンク火災ー2001では、タンク直径82.4mのガソリン・タンク火災を大容量泡放射砲2基を使い、泡消火剤を投入してから65分間で火災を消火している。このときは10分経過後、火災状況が弱まりそうな変化が見られ、泡放射後25分で火勢が小さくなった。この事例から、泡放射開始から1030分(ノックダウン時間)で火勢が衰えなければ、火災の鎮圧は難しいと考えるべきである。この点、今回のタンク火災では、1回目の火災が3時間40分、2回目の火災が7時間20分と消火に時間がかかり過ぎている。

所 感

■ 火災の原因について、プルタミナ社は調査をするといい、落雷と断定していない。これはアルミニウム製ドーム型タンクは、外部式浮き屋根タンクと違って屋根があるので、落雷に対する火災発生の危険度が少ないと感じているからではないだろうか。しかし、アルミニウム製ドーム型タンクでも、落雷によるタンク火災の事例はある。

 ● 20106月、「落雷によるアルミニウム製ドーム式タンクの火災」

 一方、落雷によるタンク火災について「大型石油タンクのハザード評価の方法」20147月)の中では、つぎのような状態のときに事故の発端になると述べている。

  ● 直撃雷に対して機能するよう付けられたタンク接地の不良

  ● 落雷によって火災に至る恐れのある可燃性液の漏れやリムシールの漏れ

  ●  故障や油漏れにつながるようなタンク側板への直撃雷

 プルタミナ社では、20216月に落雷によるとみられる 「インドネシア中部ジャワ州で製油所のベンゼン・タンクが火災」を起こしており、タンク接地状況の検査不良、タンク屋根上の漏れ点検の不良に課題があると思われる。しかし、この課題はタンク事業者に共通の問題である。

■ 発災後の消防活動は、断片的な情報をもとに、つぎのように推測してみた。

 ● 1113日(土)午後720分火災発生、当初はリムシール火災と思われる。固定泡消火設備の作動とともに消防車による泡消火を始める。隣接タンクについては冷却放水を始める。

 ● 固定泡消火設備が機能を発揮せず、リムシール部が火災で損傷し、火炎の勢いが強まる。次第に火災はタンク浮き屋根上の屋根火災になった。火災の熱によりアルミニウム製ドームが損壊し始める。

 ● 火災規模が大きくなり、大容量の泡モニターの出動を決め、現場でホース展張を行い、泡薬剤の準備を含めて配備を始めた。

 ● 大容量の泡モニターによる泡消火を始め、午後11時頃に消火に至った。この消火活動時に大容量の泡モニターで大量に注水したことによってタンク浮き屋根が沈降し始めていた。

 ● 消火はできたが、泡薬剤が不足し、85分間で泡の覆いが切れ、1114日(日)午前025分に再着火し、火災が再発した。

 ● 泡薬剤の手配中、泡消火活動は実質的に中断し、タンクは障害物あり全面火災の様相を呈していた。泡薬剤が到着して、大容量の泡モニターによる泡消火の再開を始めた。

 ● タンク浮き屋根が傾いて沈降し、障害物ありの全面火災を容易に消火できない状況が続いた。何かのきっかけで屋根が完全に沈下した全面火災の様相になった。

 ● 14日(日)午前6~7時頃に大容量の泡モニターの効果が出て、火勢が弱まるノックダウンの状況になった。その後、引き続き大容量の泡モニターの消火活動によって午前745分に火災が消えた。この後90分間、泡モニターで泡を供給し、泡の覆いが切れるのを防ぎ、午前915分に鎮火が確認された。

 当初のリムシール火災の段階で、なぜ消火できなかったかという疑問や問題があるが、大容量泡放射砲を実際のタンク火災で使用した貴重な実例であり、消火戦略や消火戦術について考えてみる価値ある事例である。   


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

      Tankstoragemag.com, Pertamina Cilicap refinery suffers another tank fire,  November  15,  2021

      Reuters.com, Fire at Indonesia's Pertamina refinery complex extinguished,  November  14,  2021

      Argusmedia.com, Pertamina says Cilacap operations unaffected by fire,  November  14,  2021

      Thejakartapost.com, ‘No shutdown’ at Cilacap refinery after blaze: Pertamina,  November  15,  2021

      Straitstimes.com, Fire at Indonesia’s Pertamina refinery complex extinguished,  November  14,  2021

      Globaltimes.cn, Residents to be evacuated after oil refinery tank on fire in Indonesia's Central Java,  November  14,  2021

      Process-worldwide.com, Fire at Pertamina’s Cilacap Refinery Complex Extinguished,  November  14,  2021

      Bangkokpost.com, Fire at Indonesia's Pertamina refinery complex extinguished,  November  14,  2021

      Diglogs.com, Pertamina Evacuates 80 Residents Around the Burnt Cilacap Refinery Tank,  November  13,  2021

      English.jpnn.com, Pertamina Oil Refinery in Cilacap Catches Fire,  November  13,  2021

      Indonesiaexpat.id, Pertamina Cilacap Tank Fire Extinguished,  November  14,  2021


後 記: 今回、地元メディアの記事の中に、タンクの油量、大容量の泡モニターの放射能力、火災が一旦消えたという断片的ではありますが、興味深い情報がありました。また、発災写真や被災写真があり、グーグルマップで調べると、発災タンクが通常の浮き屋根式タンクでなく、アルミニウム製ドーム型タンクだったことが分かりました。これらをつなげると、火災の状況や消防活動の状況が垣間見えてきます。ノックダウン時間という言葉を久しぶりに使いましたし、大容量泡放射砲を使った実例として興味深い事例になりました。


2021年11月20日土曜日

フッ素フリー泡薬剤(F3)への移行で取り組むべき課題

  今回は、2021326日付けのインタネット情報誌の“Gulffire”に掲載された, Transition to fluorine-free foam – a ‘drop in’ replacement? (フッ素フリーフォームへの移行「ドロップイン」代替品?)の内容を紹介します。本ブログは「フッ素フリー泡薬剤(F3)の研究の重大な欠陥を浮き彫り」202110月)と合わせて参照してください。

背 景

■ 20207月に有機フッ素化合物であるペルフルオロオクタン酸のPFOAC8)をベースとした泡薬剤の製造が禁止されたため、現在、C8を使用しないようにするための5年間の移行期間になっている。 C8の泡は長鎖の炭化水素をもつフッ素系の泡薬剤で環境的に有害で持続性がある。

■ その代替品で有害性も少ない短鎖炭化水素のC6の製品も調査を受けている。 C6の泡薬剤は環境への悪影響が低く、生物分解性も高いものの、多くの地域でそれらも禁止しようという考えが出ており、フッ素を含まない、すなわちフッ素フリー泡薬剤(F3)が注目されている。そして、F3泡薬剤への移行の気運にある。

■ 泡薬剤メーカーは、フッ素ベース泡薬剤の代替品であるF3泡を作ろうと努力している。しかし、残念ながら端的にいって容易に代替できるようなF3泡薬剤は現状では無い。つまり、F3泡にフッ素ベースの泡を反映させた試験証明書があるような場合でも、あなた方は泡薬剤を単純に交換することはできないということである。これは、既存の泡設備をF3泡薬剤で作動させるために、適用倍率、泡薬剤の保管、プロポーショニング率、さらには消火技法も見直す必要があることを意味する。F3泡薬剤に求められる機能としては、同じ消火対象の別な泡薬剤と互換性が必要であり、実際の火災場面で消火する能力をもっている必要がある。泡薬剤の利用者としては、新しい技術が有効で役立つという確信や信頼を必要としている。フッ素ベースの泡薬剤の比較として、F3泡薬剤の性能を確認した現実の液体火災の事故は無い。原油が入った大規模な貯蔵タンクの消火ができるだろうか? 蒸気圧の高い油やケミカルが大量の放出しているような事故で本当に機能できるのだろうか?  これらは誰もが感じていることである。

■ ここでは、F3泡薬剤の課題とともに、消火技術の専門会社であるリライオン・ニューテック社(RelyOn Nutec)とその運営に携わっているリライオン・ニューテック・ファイアー・アカデミー(RelyOn Nutec Fire Academy)のF3泡薬剤への移行の取組みを紹介する。

泡に関する試験の実施要綱

■ 泡薬剤の最終的な用途に応じた試験の実施要綱はいろいろある。UL162UL Standard for Safety Foam Equipment and Liquid Concentrates)やEN1568European Standard Specification for low~high expansion foam concentrates for surface application to water-immiscible liquids)などの一般的な試験、あるいは航空用のICAO (国際民間航空機関)、海上用のIMO(国際海事機関)、常圧式貯蔵タンク用のLASTFIREなどの特別な試験がある。これらの試験は、厳格な試験実施要綱に従って泡薬剤の性能を評価するために認証機関によって用いられている。

■ 現在、EN1568 Part3(低発泡の泡)の規格にもとづいた試験においてすでに最高の1A定格証明を持っているF3泡薬剤がある。これらの試験証明があなたの選んだ泡薬剤の裁可につながるか? 市場には同じ試験評価を有したF3泡薬剤があるが、まったく異なった特性(性質)を持っている可能性がある。つまり、使用時に多くの給水を必要とするものがあったり、消火時間が長かったりするものがあったり、あるいは保水性の還元時間が短いため、泡の覆いの保持に泡を頻繁に補充する必要があったりする。消火時間が長くなるということは燃焼時間が長くなり、結果として大気への汚染物質の排出量が増えたり、炭酸ガス放出が増えることに加えて、必要な泡薬剤の保管のために大きな追加費用がかかる。

■ 一般的な試験の実施要綱のほとんどは消火する試験液としてヘプタンを使用している。このため、「新しい泡薬剤は他の製品にも効果があるのか?」という質問がある。試験結果によると、一部のF3泡薬剤は油汚染度を示す油ピックアップ率が非常に大きい。これは油による汚染によって泡薬剤の性能が低下することを意味する。このような泡薬剤は製品として使用できるのであろうか? また、このような泡薬剤を泡の上にさらに投入しなければならないとき、どのような影響があるのだろうか?

■ BPなどの世界の主な石油会社のプロジェクトから発足した“LASTFIRE” は、常圧式貯蔵タンクを模倣した小規模あるいは大規模な設備で広範な試験を実施できるようにしており、性能証明を提供することができる。LASTFIREでは、現在の泡の適用方法で泡薬剤がタンクの全領域に到達できるかどうかを評価するための流れ試験も実施している。たとえば、タンク側板の固定泡チャンバーによって形成された泡が、タンク表面火災の中央部に到達できるか? このほか、F3泡薬剤の機能を明確に把握するために、この分野で行うべき作業はまだたくさんある。

■ 泡薬剤規格NFPA 11Standard for Low-, Medium-, and High-Expansion Foam)を作成している全米防火協会(NFPA)はすでに広範囲の試験を実施しているが、さらに多くの調査を行う必要があることを認めている。全米防火協会の報告書によれば、大規模な表面火災における消火や抑制能力を見極めるために、泡の品質と吸引性能についてまだ多くの情報が必要だという。試験燃料以外の燃料での性能、非フッ素界面活性剤の適合性、泡薬剤の粘度、泡薬剤の温度による反応性などは優先度の高い課題で、はっきりさせることが必要である。

■ これまで使われてきた泡薬剤でも、それほど多くの試験は行われてきていない。しかし、誰もが環境を保護すべきで、このリスクを制御することができると考えている。この大規模な試験組織はまだやるべきことがたくさんあり、あらゆる質問に答えることはできていない。一方、オランダのロッテルダムに本拠を置くリライオン・ニューテック・ファイアー・アカデミー(RelyOn Nutec Fire Academy)には、これらの問題のいくつかを調査するための施設がある。リライオン・ニューテック・ファイアー・アカデミーは設備投資を行っており、LASTFIREEN1568 Part3Part4などの試験実施要綱に従って試験することができる。

EN1568 Part3 (低発泡の泡)による試験

■ リライオン・ニューテック・ファイアー・アカデミーでは、欧州規格の試験用トレイ(パン)であなたが選んだ泡薬剤についてあなたが選んだ油を使用した試験を行うことができる。そして、あなたの施設で取り扱っている油での性能の比較を提供できる。これは認証試験機関の仕事ではないが、試験を実施して、特別な泡薬剤を購入しようとしている顧客に対して貴重な結果を提供することができる。

LASTFIREの実施要綱による試験

■ LASTFIREによる試験用のトレイ(テストパン)とノズルは、大規模な常圧式貯蔵タンク火災の適用を再現するよう特別に設計されたものである。試験用トレイは直径2.44mで、表面における泡の流れを遅らせるために立形バッフルが組み込まれており、適用ノズルは吸引用、半吸引用、固定注入用の3つがある。正確な適用倍率が得られるよう、吐出し量は試験前に較正が行われる。水溶性燃料(アルコール)の試験用トレイには、柔らかい間接的な適用テクニック用の立形バックボードがある。

あなたの使っている機器とあなたの選んだ泡薬剤によるシミュレーションの作成

■ あなたが選んだ泡薬剤に満足している場合にも、調達を確約する前に選んだ泡薬剤があなたの使っている泡システムで機能するかどうかを確認したいと思うだろう。試験結果では、一部のF3泡薬剤は非常に粘性が高く、予混合させるのに極めて難しいことを示している。泡薬剤はどのくらいの割合で効率的に混合できるか? 圧縮空気式消火泡の技術によって実施できるようになるか? この実際的な課題は、リライオン・ニューテック・ファイアー・アカデミーの施設にある実務的なシミュレーターや試験用トレイで調べることも可能である。

チーム・トレーニング

■ 泡薬剤を使用する消防隊は長年にわたって経験と技量を身につけてきただろう。しかし、F3泡薬剤では、泡を有効に機能させるためには別な適用技術が必要になる。F3泡薬剤は、一般的な水性膜泡(AFFF)に対して同じ水性膜層を持っていない場合があり、油汚染度を示す油ピックアップ率が増加し、油汚染に対する耐性が低くなる場合がある。従って、泡が油に汚染されにくい泡消火技術が必要となる。これまで泡は応用技術でうまく機能していたが、今からはさらに重要になってくる。泡の品質が異なる場合、吸引式でないノズルを使用すると、どのような影響があるのだろうか? 異常事態対応者にとって事故時や事故後の対応時に安全上の問題はあるのだろうか? 安全性の問題や変更した応用技術について担当者をトレーニングさせたい場合、私どものインストラクターは、シミュレーターを使って知識や技量の隙間を埋めるようなトレーニングができるだろう。

泡消火スクール

■ 2021年に、リライオン・ニューテック・ファイアー・アカデミーは、F3泡薬剤への移行に関する顧客の懸念に焦点を当て、解決しようという試みのために、いくつかの泡消火スクールを開催する予定である。泡薬剤メーカーは当社の施設を利用して泡の性能の説明や宣伝をすることができる。あるいは、リライオン・ニューテックは、泡薬剤の移行の全容をカバーする独立したセミナーを提供できる。あなたは泡薬剤のメーカーや供給者か? あるいは、あなたのリスクをカバーするために泡薬剤の在庫を補充するために大きな投資をしようとしている顧客か? リライオン・ニューテック・ファイアー・アカデミーは泡薬剤の移行への取組みを手伝うことができる。

補 足

■ 日本では、有機フッ素化合物であるパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)を含有する泡消火薬剤は、2010年に化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)により第一種特定化学物質に指定され、PFOSを含む泡消火剤の製造・輸入が禁止されている。しかし、PFOSを含む消火器や泡消火設備など既設の機器や設備等の使用は、適切な取り扱いや表示を行うことで引き続き使用が認められている。

 なお、全国の消防本部・消防署が保有しているPFOS含有泡消火薬剤については、消防庁通知(202061日)に基づき、2022年の年度末までに計画的に廃棄することとされている。

■ 日本でPFOSを含有する泡消火薬剤を使用している消防機関、空港、自衛隊関連施設、石油コンビナート等の施設を対象とした調査が環境省で行われ、その結果、全国合計の泡消火薬剤量は338.8万リットルである。なお、泡消火薬剤中のPFOS含有量は全国合計17.82トンとなる。都道府県ごとの泡消火薬剤の量は「令和2年度PFOS含有泡消火薬剤等全国在庫量調査結果(泡消火薬剤量)」を参照。

■ リライオン・ニューテック・ファイアー・アカデミー(RelyOn Nutec Fire Academy)は1985年に設立され、オランダのロッテルダムに本部をもち、リライオン・ニューテックが親会社で、火災や危険物に関するトレーニングなどを専門に行う会社である。本資料の筆者であるスティーブ・ワトキンス氏(Steve Watkins)は英国消防署の消防士を経験したあと、リライオン・ニューテック・ファイアー・アカデミーでビジネス開発マネージャーとしてコンサルタントを行っている。

所 感

■ フッ素フリー泡薬剤(F3)について比較的肯定的な考えをもつ筆者(スティーブ・ワトキンス氏)であるが、「泡薬剤メーカーは、フッ素ベース泡薬剤の代替品であるF3泡を作ろうと努力している。しかし、残念ながら端的にいって容易に代替できるようなF3泡薬剤は現状では無い。つまり、F3泡にフッ素ベースの泡を反映させた試験証明書があるような場合でも、あなた方は泡薬剤を単純に交換することはできないということである」と述べている。問題点については「フッ素フリー泡薬剤(F3)の研究の重大な欠陥を浮き彫り」202110月)も参照。

■ 筆者は、「既存の泡設備をF3泡薬剤で作動させるために、適用倍率、泡薬剤の保管、プロポーショニング率、さらには消火技法も見直す必要がある」と指摘し、消火技術の専門会社リライオン・ニューテック・ファイアー・アカデミーとしてF3泡薬剤への移行に関わる問題の解決策を一緒に探ろうという。“LASTFIRE” では、タンク側板の固定泡チャンバーによって形成された泡が、タンク表面火災の中央部に到達できるかなどのF3泡薬剤の機能について調査を続けているという。米国に多い半固定式泡チャンバーでは、外から来た消防署が保有している泡薬剤が有効に働くのだろうかなど、考えれば多くの課題がある。このような課題をすべて解決できるのだろうか。

■ 消火泡の目的は火を消すことである。消火泡をフッ素フリー泡薬剤に変更したが、消火機能が低下し、火災の消火ができず、消防隊を危険な状況にさらしたら、本末転倒である。このような状況になった場合、責任は誰(メーカー、事業所、自治体、政府)にあるのか曖昧な点が気がかりである。

備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Gulffire.mdmpublishing.com, Transition to fluorine-free foam – a ‘drop in’ replacement? (フッ素フリーフォームへの移行「ドロップイン」代替品?),  March  26, 2021


後 記: 欧州の消火・保安技術の専門会社リライオン・ニューテックを初めて知りました。米国では、テキサス州AMTEEXがよく知られており、このブログでも「エクソンモービルとテキサスA&M大学は消防士のための訓練を提供」(20215月)を紹介しました。リライオン・ニューテック・ファイアー・アカデミーは消火トレーニングだけでなく、エンジニアリングも業務範ちゅうのようです。これまで、どうしても米国の情報が主になり、欧州の情報はこぼれやすくなっていたように感じます。米国では、新型コロナウィルスのパンデミックでメディアの取材や情報が減ってきていますので、欧州の情報が入りやすくなっているように感じます。

2021年11月16日火曜日

宮城県女川原子力発電所で洗濯廃液タンクから硫化水素漏れ(原因)

  今回は、2021712日(月)、宮城県女川町にある東北電力の女川原子力発電所において、放射性廃棄物処理建屋にある洗濯廃液貯留タンク(沈降分離槽)である硫化水素が漏れ出し、協力会社の作業員7人に体調不良者が出る事故があったが、その後、2021115日(金)、東北電力による事故の原因と再発防止策を公表されたので、その内容を紹介する。発災直後のブログは「宮城県女川原子力発電所で洗濯廃液タンクから硫化水素漏れ、7名体調不良」20217月)を参照。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、宮城県牡鹿郡(おしか・ぐん)女川町(おながわ・ちょう)と石巻市にある東北電力の女川原子力発電所である。

■ 事故があったのは、原子力発電所1号機の放射性廃棄物処理建屋にある洗濯廃液貯留タンク(沈降分離槽)である。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2021712日(月)午後230分頃 、1号機の放射性廃棄物処理建屋の地下にある洗濯廃液貯留タンク(沈降分離槽)内で硫化水素が漏れ出し、オーバーフローの排水管を通じて2号機の制御建屋内に流れ込んだ。

■ 2号機の制御建屋内の12階にいた協力会社の作業員7人に体調不良者が出た。汚染空気を吸い込んだのは2050代の作業員で、このうち50代の女性1人がめまいや吐き気を訴え、石巻市の病院に救急搬送された。この女性は中毒症状と診断されたが、その後退院した。他の6人は頭痛や不快感を訴え、うち40代の女性1人が経過観察のため、翌13日(火)に新たに入院した。

■ 2号機制御建屋は3階建てで、12階にいた作業員らが体調不良を訴えたが、3階の中央制御室で体調不良者はいなかった。

■ 1号機の放射性廃棄物処理建屋では、事故当時、放射線管理区域内で使った作業服(防護服)などを洗ったときに出る廃液(洗濯廃液と呼ばれる)を溜めるタンクから発生する硫化水素を少なくするため、タンクに酸素(空気)を送り込む攪拌作業を行っていた。しかし、発生した硫化水素がタンクに接続される配管を通じて2号機の制御建屋内に流れ込んだとみられる。硫化水素が流れ込んだ制御建屋内では、50ppmを超える値が観測され、めまいや吐き気といった中毒症状を生じる状況にあった。

■ 東北電力によると、硫化水素は洗濯廃液の処理過程で加える硫酸と、皮脂などを分解するバクテリアが反応して発生する。この硫化水素発生を抑えるため、洗濯廃液貯留タンク(沈降分離槽)に空気を注入する作業をしていたという。空気攪拌(かくはん)の作業中に何らかのトラブルが起き、ガスが排水管を通って漏れ出したと推定している。 

■ 715日(木)、女川原子力発電所長は、「関係者や地域の皆さんにご心配をおかけしたことをおわび申し上げる」と陳謝し、「設備維持管理の手法を検証し、改善していく」と述べた。 

被 害

■ 協力会社の作業員7人に硫化水素による体調不良という人的被害が出た。

< 事故の原因 >

■ 硫化水素の発生要因; 洗濯廃液の処理過程で加える硫酸と、酸素のない嫌気性条件で皮脂などを分解するバクテリアが反応して硫化水素が発生する。この硫化水素発生を抑えるため、洗濯廃液貯留タンク(沈降分離槽)に定期的に酸素(空気)を注入する作業をしている。

■ 硫化水素の形成要因; この廃液貯留タンクには、廃液から洗剤の成分を取り除く際に出る活性炭が泥状になったスラッジが多量に堆積していた。このスラッジが長期間(約8年間)のあいだに固まったことにより、注入する空気の経路が限定され、硫化水素がスラッジ内に蓄積される状態となっていた。

■ 硫化水素の多量発生要因; 事故当日、従来より高い圧力で空気を送り込む攪拌作業を行っており、廃液貯留タンク内に溜めていた約74㎥のスラッジの中に蓄積していた硫化水素が攪拌によってタンク内に多量に放出した。放出された硫化水素が廃液貯留タンクに接続される配管を通じて2号機の制御建屋内に流れ込み、建屋内にいた人に体調不良の被害が発生した。

< 対 応 >

■ 715日(木)、原子力安全協定に基づき、宮城県などが立ち入り調査をした。立ち入り調査には宮城県、女川町と石巻市に加え、原子力発電所から30km圏内の登米市、東松島市、美里町の担当者が参加した。県の担当など計10人が保守点検記録や操作手順書を調べた後、硫化水素が流出した1号機の放射性廃棄物処理建屋の洗濯廃液貯留タンク(沈降分離槽)を視察した。また、2号機の制御建屋への流出経路とみられるタンクをつなぐオーバーフロー排水管などの配管設備を確認した。

■ 立ち入り調査では、発生源とみられる場所や経路を確認したほか、タンクへ空気を送り込む作業が手順通り行われていたか、あるいは設備に異常が無かったかなどを調べた。手順書に基づいて実施されていることは確認した。しかし、これまで硫化水素の漏れ出たことが起こらなかったのに、今回起こった点については原因がつかめなかった。

■ 立ち入り調査に入った宮城県原子力安全対策課の課長は、「有毒ガスによる人的被害という看過できない事象で、発電所の安全性にも影響を及ぼすので、再発防止を徹底するよう強く要望する」と語った。東北電力は事故の原因を調べ、特定した際は速やかに公表するとしている。今後は、労働基準監督署の指導を受けながら、制御建屋に流れ込んだ原因を調べるという。

■ 2021115日(金)、東北電力は労働基準監督署に報告書を提出し、事故の原因と再発防止策を公表した。それによると、硫化水素は作業服の洗濯廃液をためるタンク内で堆積していたスラッジと呼ばれるヘドロに含まれていたものである。事故当時、長期間溜めていて固くなったスラッジを従来より高い圧力の空気で攪拌したところ、スラッジに含まれていた硫化水素が放出され、一部が漏れ出したとみられている。東北電力は今後、定期的にスラッジを取り除き、作業の際には別な系に通じている配管の弁を閉じるなどの対策を講じるとしている。

■ 東北電力は、「過剰な硫化水素が発生し系統外に流出した事象がなく、今回のような事象の発生は予見できなかった」と述べている。

■ 東北電力によると、硫化水素が2号機制御建屋に流出したメカニズムはつぎのとおりである。

1) 洗濯廃液貯留タンク(沈降分離槽)に堆積した多量のスラッジが長期間のあいだに固まったことにより、注入する空気の経路が限定され、硫化水素がスラッジ内に蓄積される状態となった。(スラッジは廃液から洗剤の成分を取り除く際に出る活性炭が泥状になった物質)

2) 硫化水素の発生を抑制する目的で時々酸素(空気)を入れているが、定期的(1週間に1回程度)に実施している空気攪拌作業の効果が弱まってきたことから、事故発生の前週に実施した作業では、従来よりも高い供給圧力の空気をタンク内に注入した。このため、スラッジがほぐれ、新たな空気の経路が形成された。

3) 事象発生当日も、従来よりも高い供給圧力で空気攪拌作業を実施したところ、スラッジ内に蓄積していた多量の硫化水素が新たな空気の経路を通じてタンク内に放出された。このとき、通常の排気ラインである換気空調系で硫化水素を排気しきれずに、タンクに接続しているオーバーフロー配管を通じて系統外の2号機制御建屋へ流出した。

■ 事故の要因はつぎのとおりである。

1) 洗濯廃液貯留タンク(沈降分離槽)内のスラッジの定期的な排出処理を実施しておらず、長期間にわたりスラッジが多量に堆積した状態となっていた。タンクの容量は76㎥で、当時、スラッジが74㎥溜まっていた。スラッジを最後に排出したのは2013年で、それ以降、約8年間、スラッジ排出を実施していなかった。

2) 当日の空気撹拌作業によって、硫化水素がタンク内に多量に放出し、換気空調系で排気しきれなかった。

3) 2号機制御建屋への流出を防止するための配管の隔離措置を取っていなかった。

4) 空気攪拌作業にあたり、酸欠作業に準じた立入禁止措置や非常時の連絡体制の措置を取っていなかったことに加えて、硫化水素流出時に協力会社作業員と情報の共有化ができておらず、避難誘導が円滑に行われなかった。

■ 再発防止対策はつぎのように講じることとした。

1) 洗濯廃液貯留タンク(沈降分離槽)内に堆積するスラッジを定期的(年1回以上)に排出し、堆積量が一定レベルを超えないよう維持する。

2) 空気攪拌作業時には、事前に換気空調系の排気量を増やしておく。

3  空気攪拌作業時には、タンクから2号機制御建屋につながる配管の弁を閉じ、流出経路を隔離する。

4) 空気攪拌作業は酸欠作業に準じた措置(立入禁止措置)を行い、流出経路の隔離措置や漏洩防止を実施する。さらに、緊急・異常事態が発生した際の連絡の流れについて社内に規定し、その内容について所員と協力会社作業員へ周知する。

補 足

■「宮城県」は、日本の東北地方の太平洋側に位置し、人口約228万人の県で、県庁所在地は仙台市である。

「牡鹿郡」(おしか・ぐん)は、宮城県の東部に位置し、太平洋に面した人口約5,600人の郡である。

「女川町」(おながわ・ちょう)は、牡鹿郡にあり、11町の町である。三陸地方南部に位置し、日本有数の漁港である女川漁港があるほか、女川原子力発電所が立地している。

「石巻市」は、宮城県の東部に位置し、人口約138,000人の市で、県内第二の人口を擁する。

■「東北電力」は、宮城県仙台市に本店を置く電力会社で東北地方、新潟県、関東地方などで電力小売事業や発電事業等を行っている。発電所は計230箇所、1,817kWの発電能力を擁している。

■「女川原子力発電所」は、宮城県牡鹿郡女川町と石巻市にまたがる東北電力の原子力発電所である。1984年に1号機が運転開始された。型式は沸騰水型軽水炉で3基建設されたが、1号機は廃炉になっている。2号機(1995年運転開始)・3号機(2002年運転開始)はそれぞれ82.5kWの発電能力を有している。

■「洗濯廃液」は、原子力発電所の放射能汚染管理区域内で装着する作業服(防護服)などの専用洗濯設備から発生する廃液をいう。この洗濯廃液は、原子力発電所から出る放射性廃棄物の中で、液体廃棄物処理として扱われる。洗濯廃液は、廃液タンクに集められ、前処理し、さらに蒸発濃縮し、濃縮水はドラム缶内で固化するのが本来の処理方法である。(図を参照)

 しかし、洗濯廃液は放射能濃度が低いので、懸濁物をろ過後、逆浸透膜処理装置等で処理し、再使用したり、放射能濃度を監視しながら環境(海)に放出してもよいことになっている。

■「硫化水素」が発生する三つの要因は、つぎのとおりである。

 ● 硫化水素のもとである硫黄化合物があること。

 ● 硫酸塩還元菌(バクテリアの一種)が存在すること。

 ● 嫌気性の環境(酸素がまったくない条件)が存在すること。

 一般のビルでも、地下に汚水や雑排水を一時的に貯留する排水槽がある。ビルの地下排水槽はこの三つの条件がそろっている。さらに、排水を長時間、排水槽内に滞留させると高濃度の硫化水素が発生する。排水槽内の排水が静止している状態では、硫化水素は空気中に出ないが、排水をポンプで排出したり、かき混ぜると、硫化水素が一斉に空気中に放出される。そこで、硫化水素を発生させないために、定期的な清掃と点検が肝要となる。

 過去のブログで硫化水素による事故を取り上げたのは、つぎのとおりである。

 ● 20186月、「石川県の製紙工場において溶剤タンクで死者3名」

 ● 20192月、「大阪府のカーペット製造会社でタンク清掃時に転落、2名死亡」

■ 事故のあった「洗濯廃液貯留タンク」(沈降分離槽)は容量が76㎥であることが分かった。この容量から直径約4.6m×高さ約4.6mクラスのタンクである。このタンクに約8年間で74㎥のスラッジが溜まっていたので、年間に9.2㎥(200リットルドラム缶46本に相当)溜まることになり、タンク内での高さは約55cmとなる。

 洗濯廃液貯留タンク(沈降分離槽)に溜まったスラッジは、本来、頻繁に排出し、ドラム缶内で固化させて放射性廃棄物としての処理を行うべきものではなかったのだろうか。原子力発電所の中では傍系の付属設備であるが、洗濯廃液系の各タンクの設計思想は分からない。

所 感 (前 回)

■ 今回の事故は一般にはなじみの無い“洗濯廃液タンク”であるが、硫化水素による事故としてはビルの地下排水槽や下水管で起こる事象と類似の事例だとみられる。通常時から硫化水素が発生しており、硫化水素が発生する三つの要因、すなわち、①硫化水素のもとである硫黄化合物があること、②硫酸塩還元菌(バクテリアの一種)が存在すること、③嫌気性の環境(酸素がまったくない条件)が存在することの条件がそろっていると思われる。この洗濯廃液を長時間、廃液タンク内に滞留させて高濃度の硫化水素が発生したとみられる。

 さらに、かき混ぜると、硫化水素が一斉に空気中に放出されるといわれており、事故時には、廃液タンクに酸素(空気)を送り込む攪拌作業を行っていたことで、発生した硫化水素が廃液タンクに接続される配管を通じて2号機の制御建屋内に流れ込んだと思われる。

 硫化水素発生の観点で考えると、洗濯廃液タンク内の滞留時間の管理、廃液タンクへの酸素(空気)を送り込む攪拌作業などにおいて運転手順書が不適切だったと思われる。今まで硫化水素が漏れ出たことは起こらなかったのはたまたまそうであって、リスクは常に潜在していたと思う。

■ 今回の事故と直接関係はないが、放射性廃棄物の処理についても疑問がある。事故の状況では語られていないが、本来、洗濯廃液は蒸発濃縮したあと、ドラム缶内で固化して放射性廃棄物の処理を行うのが筋である。しかし、洗濯廃液は、最終的に、放射能濃度を監視しながら環境(海)に放出していると思われる。高度成長の時代は一般企業でも環境汚染物質を希釈して薄めれば良いと考え方があったが、公害が激しくなり、総量規制などが始まり、今は希釈する考え方はない。原子力分野では、いまも放射線廃棄物は希釈して薄めれば良いという時代に合わない考え方が続いている。洗濯廃液の持っている放射能は建設から30年以上海へ放出され続け、その総量はどのくらいの量になっているのだろうか。

所 感 (今 回)

■ 事故の原因調査内容を見て、洗濯廃液貯留タンクには3種類、すなわち、凝集沈殿槽、ドレンタンク、沈降分離槽の3種があることが分かった。洗濯廃液処理プロセスについて言及されていないので、それぞれのタンクの役割が明確でないが、事故があった沈降分離槽はまさしく硫化水素発生装置のようなタンクである。前回の所感で述べたように硫化水素が発生する三つの要因、すなわち、硫化水素のもとである硫黄化合物があること、硫酸塩還元菌(バクテリアの一種)が存在すること、嫌気性の環境(酸素がまったくない条件)が存在することの条件がそろっており、さらにスラッジを長期間(約8年間)堆積させたままにしている。この状態で空気攪拌でスラッジをかき混ぜて、一斉に硫化水素を放出させている。硫化水素の発生を抑制する目的で空気を入れているが、抑制に寄与している酸素は20%で、残りの窒素など80%はかき混ぜで一斉に硫化水素を放出させているようなものである。(前回、「洗濯廃液を長時間、廃液タンク内に滞留させて高濃度の硫化水素が発生したとみられる」という点は違っていたが、もっと悪い環境を形成していた)

■ 前回、「硫化水素発生の観点で考えると、洗濯廃液タンク内の滞留時間の管理、廃液タンクへの酸素(空気)を送り込む攪拌作業などにおいて運転手順書が不適切だったと思われる」のは、洗濯廃液タンクの目的や役割を違ってとらえていたので、ズレた指摘だった。

 しかし、「過剰な硫化水素が発生し系統外に流出した事象がなく、今回のような事象の発生は予見できなかった」と東北電力は述べているが、上記のように事故のあった沈降分離槽は硫化水素発生装置のようなタンクで、これまで硫化水素の系統外への流出が起こらなかったのはたまたまそうであって、リスクは常に潜在していた。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

  Yews.yahoo.co.jp,硫化水素漏れ7人体調不良、宮城 女川原発の廃液タンク,  July  13,  2021

    Khb-tv.co.j p,  宮城・女川原発 硫化水素漏出の理由は特定できず,  July  15,  2021

    Tohoku-epco.co.jp,  女川原子力発電所2号機の制御建屋内における体調不良者の発生について,  July  13,  2021

    Tokyo-np.co.jp,排水管から硫化水素漏れか 女川原発の制御建屋内で作業員7人が体調不良,  July  13,  2021

    Nhk.or.jp,排女川原発で作業員7人搬送 原因は硫化水素か,  July  13,  2021

    News.goo.ne.jp,女川原発の作業員7人、硫化水素吸い込み搬送,  July  13,  2021

    Kahoku.news,  硫化水素流出のタンク調査 宮城県と立地市町、女川原発立ち入り,  July  16,  2021

    Nordot.app,女川原発に立ち入り調査 作業員が硫化水素を吸い込んだ事故を受け,  July  15,  2021

    News.goo.ne.jp, 「予見できなかった」作業員7人が硫化水素を吸った事故で東北電力が原因と再発防止策公表<宮城>,  November  05,  2021

    Nhk.or.jp, 女川原発の硫化水素流出 東北電力が原因公表,  November  05,  2021

    News.yahoo.co.jp,女川原発 2度目の立ち入り調査へ 硫化水素で7人体調不良,  November  09,  2021

    Kahoku.news, 女川原発・硫化水素事故 タンク内の堆積物が原因 東北電、再発防止策,  November  06,  2021

    Tohoku-epco.co.jp, 女川原子力発電所2号機制御建屋内への硫化水素の流出に係る原因と対策について,  November  05,  2021


後 記: 事故から4か月近くが過ぎ、続報は出ないので、事故原因はうやむやになってしまうのではないかと思っていました。原因調査結果を読むと、前回の第一報で思っていた洗濯廃液タンクの理解(発表では「洗濯廃液を貯留するタンク」となっていました)が違っていました。正確には沈降分離槽で、スラッジを沈降させて分離するタンクでした。しかし、一般的なプロセス装置の沈降分離槽と異なり、分離したスラッジをタンク一杯に溜めるようになっています。話を簡単にするためか、今回も洗濯廃液の処理方法は公表されていないので、処理フローに関する問題の有無は分からないようになっています。原因調査結果が公表されたのは良かったのですが、疑問が残る釈然としない発表内容でした。一方、メディアの取材によって沈降分離槽の大きさ、溜まったスラッジの量、前回スラッジを排出した年などが明らかになっており、これは記者の功績ですね。(このような基本的なデータを原因調査報告書で記載しないのはなぜでしょう)

2021年11月12日金曜日

ハワイの米海軍・地下燃料貯蔵タンク施設で人為ミスによる油流出

 今回は、202156日(木)、米国ハワイ州オアフ島にある米海軍のレッドヒル燃料タンク貯蔵施設で油漏れが発生し、調査が行われ、20211029日(金)に原因が公表されたので、その内容について紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、米国ハワイ州(Hawaii)オアフ島」(Oahu)にある米海軍のレッドヒル燃料タンク貯蔵施設(Red Hill Fuel Tank Storage Facility)である。施設の建設は1940年にさかのぼり、地下燃料貯蔵タンクが20基あり、最大貯蔵容量は252百万ガロン(953,820KL)である。

■ 事故があったのは、 施設内にある地下燃料貯蔵タンク系の設備である。地下燃料貯蔵タンクは1基の容量が12.5百万ガロン(47,300KL)で、パイプラインによって約2.5マイル(4 km)離れた真珠湾の米海軍基地に接続されている。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 202156日(木)、レッドヒル燃料タンク貯蔵施設から油漏れが発生した。

■ 米海軍によると、漏洩した油はジェット燃料で、漏洩量は1,000 ガロン (3,785リットル)以上 という。

■ 米海軍は、「封じ込めシステムは施設内に燃料を封じ込めるように設計されており、燃料が環境に放出された兆候はありません」と述べていた。

■ 事故に伴い、米海軍はクリーンアップ作業を行っており、700ガロン(2,650リットル)の燃料を回収してという。

■ クリーンアップ作業と並行して、原因の調査を行うという。

 

■ パイプラインにサージ圧力(ウオーターハンマー)が発生し、部品が破損した。

■ 内部の油が外部の下部アクセス用トンネル内に1,618 ガロン(6,125リットル)漏洩した。うち38ガロン(144リットル)は回収できず、土壌に浸出して土壌汚染した可能性がある。 

■ 事故に伴う人的な被害は無かった。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は、オペレーターの人為ミスである。燃料移送運転中、オペレーターが燃料ラインのバルブを閉じるときに正しい手順に従わなかったため、システム内にサージ圧力(ウォーターハンマー)が発生し、パイプライン中の部品が吹き飛ばされて燃料が放出された。

< 対 応 >

■ 2014年にタンクNo.5から27,000ガロン(102KL)以上漏洩するという事故が起こった。タンクは飲料水用の帯水層から100フィート(30m)上にあるため、施設が重要な水源を汚染する可能性があるのではないかと懸念が生じていた。この帯水層から得られる水はホノルルの都市部で消費される飲料水の4分の1を供給している。今回の油漏洩のニュースは燃料タンクの信頼性に関する住民の懸念を新たにしていた。

■ 漏洩原因の調査が、海軍供給システム司令部(Naval Supply Systems Command)の海軍石油局(Naval Petroleum Office)によって行われた。調査結果は、20211029日(金)に公表された。それによると、ジェット燃料の漏れは地下燃料貯蔵タンクからではなく、パイプラインからのものであるという。

■ 漏洩原因は、オペレーターが燃料移送運転中、燃料ラインのバルブを閉じるときに正しい手順に従わなかったため、システム内にサージ圧力(ウォーターハンマー)が発生し、パイプライン中の部品が吹き飛ばされて燃料が放出されたものだった。

■ 米海軍は、実際に漏洩した燃料の量は1,618ガロン(6,125リットル)であるといい、38ガロン(144リットル)を除いてすべて回収したと発表した。そして、地下燃料貯蔵タンクは、事故が起こっている間、損傷を受けておらず、その後実施されたタンク健全性試験に合格したと付け加えた。

■ 回収できなかった燃料は一部が土壌に浸出した可能性がある。1,618ガロン(6,125リットル)の燃料は施設の下部アクセス用トンネルに流出し、海軍は38ガロン( 144リットル)の燃料を回収できなかったと思われる。

■ 米海軍は、燃料移送手順中に制御室におけるシステムオペレーターをさらに配置するなど、再発防止の安全対策をとった。

■ 202110月、海軍はタンク内に新しいライニングを追加するか、2045年までに撤去することを提案した。この撤去の提案は以前の合意から7年遅いものだった。これに対して、ハワイ州の健康省と環境保護庁は計画案を拒否した。現在、米海軍のタンクに関する改造計画に反対する訴訟があっている。ハワイ州はタンクの完全な撤去と移設を求めている。

■ ハワイ州水道局によると、レッドヒル施設では少なくとも73件の燃料漏洩事故が記録されているという。これには、2014年のタンクからの約27,000ガロン(102KL)の流出事故を含む。米海軍自身、毎年、最大30,000ガロン(113KL)の燃料がタンクから漏れる可能性は27.6%であると言っている。


補 足

■ 「ハワイ州」(Hawaii)は、中部太平洋に浮かぶハワイ諸島にあり、人口約1,360万人の米国の州である。

「オアフ島」(Oahu)は、ハワイ諸島のひとつで、ホノルル郡に属する人口約90万人の島である。オアフ島のホノルル市(人口約35万人)が州都である。

■ 「レッドヒル燃料タンク貯蔵施設」(Red Hill Fuel Tank Storage Facility)は、米国が第二次世界大戦に入る前に、真珠湾にある地上式の燃料貯蔵タンクの脆弱性について懸念を抱き、1940年に大量の燃料を貯蔵でき、敵の空中攻撃から安全な新しい地下施設を建設することとされた。レッドヒルは均質な玄武岩で地下タンクに適している。当初は4基の大きな横型の地下タンクを建設する予定だったが、計画の過程で、建設と掘削が同時に行える竪型に変更された。 3,900人の労働者が24時間無休のプロジェクトで、レッドヒルの建設中の194112月に日本による真珠湾攻撃が行われたが、建設現場は無事で建設が続行されて1943年に操業が開始された。 20基の地下貯蔵タンクで構成されており、うち23基は、通常、清掃・検査・修理のために空になっていて、現在、180百万ガロン(68万KL)の燃料を貯蔵している。貯蔵されている燃料は船舶用ディーゼル、JP-5JP-82種類のジェット燃料の3種類である。レッドヒル燃料タンク貯蔵施設を紹介する動画がYouTubeに投稿されている。(YouTube, RH Trailer(2016/10/07)を参照)

■「地下燃料貯蔵タンク」は、厚さ1/4インチ(6.3mm)の鋼板の溶接構造の単層タンクシステムで、外側には24フィート(60120cm)のコンクリートで裏打ちされている。すなわち、コンクリート製タンクで鋼板ライニングを施工しているとも言え、 海軍はタンク内に新しいライニングを追加するか、2045年までに撤去することを提案している。

所 感

■ 事故の原因は人為ミスである。燃料移送運転中、オペレーターが燃料ラインのバルブを閉じるときに正しい手順に従わなかったため、システム内にサージ圧力(ウォーターハンマー)が発生し、パイプライン中の部品が吹き飛ばされて燃料が放出されたとしている。

■ しかし、オペレーターが間違いをした要因(間接原因)については言及されていない。燃料ラインのバルブを早急に閉めなければならない何かの事象が起こったのではないだろうか。例えば、初めにパイプラインのフランジ部などから漏洩があり、早急にバルブを閉止するよう指示があった際、あわてて(あるいは正しい手順がとれずに)閉じたということなどである。すなわち、平常運転でなく、異常な状態が起こり、平常時の正しい手順がとれなかったのではないか。長い距離(4km)のパイプラインを操業するオペレーター(軍人でなく、業務委託した民間人という)は、サージ圧力(ウォーターハンマー)についてよく理解しているはずである。

■ 一般に軍事組織は機密を第一義にするため公表しない。その中で、米軍は発表する方で、その内容はウソではないが、真実を語っていない、いわゆる“フェイク”が少なくない 。たとえば、今回の漏洩について「漏れたのは1,618ガロンで、38ガロンを除いてすべて回収した」と練られた説明になっており、回収できなかった38ガロンを曖昧にしている(蒸発なのか、外部の土壌に浸出したのか) ここにメディアの取材による真実への取組みに期待する点である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Tankstoragemag.com, Operator error caused US Navy’s Hawaii tank farm leak,  October 29, 2021

    Militarytimes.com, Navy says operator error caused Hawaii pipeline leak,  October 27, 2021

    Usnews.com, Navy Says Operator Error Caused Hawaii Pipeline Leak,  October 26, 2021

    Hawaiinewsnow.com, Another leak prompts new calls to shut down Navy’s massive Red Hill fuel storage facility,  May 08, 2021

    Civilbeat.org, Navy Says Fuel From Red Hill Pipeline Likely Leaked Into Soil After Human Error,  October 26, 2021

    Nhregister.com, Navy says operator error caused Hawaii pipeline leak,  October 26, 2021

    Hawaiipublicradio.org, 700 Gallons Of Fuel Recovered After Leak At Navy's Red Hill Storage Facility, May 07 , 2021

    Staradvertiser.com, Navy confirms 1,000-gallon fuel release at Red Hill, May 07 , 2021

    Khon2.com, Data shows contamination in soil spiked after Red Hill fuel leak despite Navy claims, May 25 , 2021


後 記: 今回、米海軍のタンク基地で人為ミスによって油流出を起こしたという第一報を知って調べることとしました。調べていくとタンク型式は地下タンクということで、軍事基地ではよくある型式だと思いました。しかし、よく調べると、日本による真珠湾攻撃前に地上式タンクの脆弱性を危惧して作り始めたといい、80年前のタンクであることに驚きました。しかも、横型でなく、竪型のタンクだと知って二度びっくりです。日本でも、第二次世界大戦時には、覆土式地下タンク(横浜や徳山)が作られましたが、掘りやすい土壌に埋めた形です。ハワイの地下タンクは岩盤の岩を砕いて穴を形成し、鋼板のライニングを施工しています。この技術だけを見ても、よく言われている日本の無謀な戦争突入だといえます。ただ、80年前の溶接施工技術やコンクリート技術を今の技術で見たときには、このままではいつか破綻する時期がくるだろうということは想像がつきます。容量95KLの軍事用タンク基地を作り直したくない米海軍と水源汚染を恐れるハワイ州の争いは続きそうです。

 覆土式地下タンクの事例は「横浜市の小柴貯油施設跡地の覆土式地下タンクに工事中に転落(その後の情報)」 202010月)を参照。