2020年12月23日水曜日

トリニダードのタンク施設でガソリンタンクの底部液抜出し中に爆発・火災

  今回は、 20201211日(金)、トリニダード・トバゴのポート・オブ・スペインにあるトリニダード・トバゴ・ナショナル・ペトロリウム・マーケティング社(NP)のタンク施設で、ガソリン用貯蔵タンクが爆発・火災を起こし、負傷者2名を出した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、トリニダード・トバゴ(Trinidad & Tobago)ポート・オブ・スペイン( Port-of-Spain)シーロット(Sea Lots)にあるトリニダード・トバゴ・ナショナル・ペトロリウム・マーケティング社(Trinidad & Tobago National Petroleum Marketing CompanyNP)のタンク施設である。

■ 事故があったのは、タンク施設にある容量10,000バレル(1,590KL)のスーパーガソリン用貯蔵タンクである。



< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20201211日(金)午後1254分頃、タンク施設の南側で爆発があり、火災になった。

■ 爆発によってタンク屋根が噴き飛ばされた。火炎が舞い上がり、黒煙が空高く昇り、煙は遠く離れたところからも見えた。

■ タンク施設の近くの人によると、揺れを感じたあと、大きな爆発音を聞いたという。

■ 発災に伴い、トリニダード・トバコ消防署の消防隊が出動した。

■ 警察は、現場の近くを走るビーサム高速道路を閉鎖した。

■ 事故に伴い、請負会社の作業員2名が負傷した。負傷者は病院へ搬送された。50歳の男性作業員は爆発地点のすぐ近くにいたため、顔や手足などを負傷した。一方、61歳の男性作業員は腰背部を負傷した。 

■ 作業員は、日常の定型作業のひとつとして貯蔵タンクから残留物を抜き出す作業を行っていた。タンクは実質的に空だったと報じているところもある。

■ トリニダード・トバゴ・ナショナル・ペトロリウム・マーケティング社は声明で、「私たちは健全なメンテナンスシステムを採用しているし、現場で当局と連絡を取り合って事故原因を特定するよう取り組んでいます。従業員と地元地域の安全は会社として最優先の事項ですし、明らかになった時点で情報を公表する予定です」と述べた。

被 害

■ タンク施設内のガソリン貯蔵タンクが爆発・火災で損壊した。

■ 事故に伴う負傷者が2名発生した。

■ 現場の近くを走るビーサム高速道路が一時閉鎖した。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は、調査中である。

< 対 応 >

■ 1211日(金)、消防隊は午後150分頃に火災を制圧した。

■ トリニダード・トバゴ・ナショナル・ペトロリウム・マーケティング社は、今回の爆発事故が最近の歴史の中でこの種の事故としては初めてのことで、50年前にLPGタンクに関するものがあるだけだと語っている。




補 足 
■「トリニダード・トバゴ」(Trinidad &Tobago)は、正式にはトリニダード・トバゴ共和国で、カリブ海にあるトリニダード島とトバゴ島の2島からなる人口約134万人の共和制で、イギリス連邦加盟国である。

「ポート・オブ・スペイン」( Port-of-Spain)は、 トリニダード島北部に位置し、人口約37,000人で、トリニダード・トバゴの首都である。

「シーロット」(Sea Lots)は、ポート・オブ・スペインのひとつのエリアで、海の近くに区画された地区をいう。

■「トリニダード・トバゴ・ナショナル・ペトロリウム・マーケティング社」(Trinidad & Tobago National Petroleum Marketing Company)は、1972年に設立したトリニダード・トバゴの石油会社で、石油燃料・潤滑油・LPGなどの保管・流通・販売を行っている。

■「発災タンク」は、タンク施設の南側にあり、容量10,000バレル(1,590KL)のスーパーガソリン用貯蔵タンクだという。グーグルマップで調べたが、タンクを特定できなかった。タンク火災の写真を総合的にみると、南西側にある5基のタンクのいずれかだと思われる。これらのタンクはいずれも固定屋根式タンクであり、直径は約15mである。高さを9mと仮定すれば、容量は1,590KLとなる。従って、発災タンクは直径約15m×高さ約9m×容量1,590KL級の固定屋根式タンク(または内部浮き屋根式)であると思われる。

所 感

■ 今回の事故は、ガソリン貯蔵タンクから残留物(底部液と思われる)を抜き出す作業を行っていたというので、抜き出し作業時、過剰にタンク内に空気が入り、爆発混合気を形成し、静電気など何らかの引火源によって爆発が起きたものではないだろうか。日常の定型作業のひとつとして行っていたとされるが、タンク内に爆発混合気を形成させるような作業の危険性をどの程度認識していたか考えさせられる事例である。日頃から行っていて何千回も問題なくやっていたから絶対安全だといえない。

■ 一方、ガソリンの燃焼範囲は1.47.6Vol%であり、ガソリンが希薄と思うような状態で爆発は起こる。タンク内でこのような状態を考えると、タンクは実質的に空、あるいはわずかな残液だったのかも知れない。爆発直後はかなりの黒煙が出ていたようだが、1時間程度で火災は消えているので、燃料源が無くなって燃え尽きたと思われる。  


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Tankstoragemag.com, Trinidad tank blast injures two, December 15, 2020

      Looptt.com, Two injured, fire contained after explosion near NP, December 11, 2020

      Guardian.co.tt, Two hurt in tank farm explosion, December 11, 2020

      Newsday.co.tt, Three NP workers in hospital after Sea Lots fire, December 11, 2020

      Stabroeknews.com, Three people injured after explosion at NP Sea Lots, December 11, 2020

      103fm.tt, Fire officials extinguish NP blaze, December 11, 2020

      Newsday.co.tt, OWTU: NP explosion was preventable, December 14, 2020

      Np.co.tt, NP MOVES SWIFTLY TO CONTAIN EXPLOSION AT SEA LOTS FACILITY, December 11, 2020


後 記: 今回の事故情報で感じたのは、トリニダード・トバゴでも人びとがマスクを付けていることです。地球の裏側の人口約134万人の島国でも、新型コロナウイルスが流行っているのだと実感します。トリニダード・トバゴは平均で117人の新規感染者が報告されており、パンデミック(世界的大流行)開始以降、同国では感染者7,000人、死者123人が報告されているそうです。

 日本でも、最近、感染者が増加傾向にあり、「Go To トラベル」など人の移動が感染者を増やしています。しかし、この人の移動のリスクは、2002年のSARSが流行っていたときにすでに指摘されていました。「失敗学事件簿=あの失敗から何を学ぶか=」(畑村洋太郎著)の「SARS騒動の背景にあるもの」の中で、SARSによって私たちがごく当然と考えてきた人間の移動欲の理不尽さを指摘し、「人間の移動欲につきまとうリスク」として、大量の資源とエネルギーを費やすうえ、 SARSのような負の側面を顕在化させることまで考えると、人間の“移動欲” をそのまま認めていいのだろうか?」と述べています。





2020年12月15日火曜日

米国テキサス州でタンク開放清掃中にタンク火災、負傷者7名

 今回は、 2020125日(土)、米国のテキサス州ニュエセス郡コーパスクリスティにあるマゼラン・ミッドストリーム・パートナーズ社の石油ターミナルで、軽質原油貯蔵タンクの開放・清掃工事において作業員7名が負傷した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国のテキサス州(Texas)ニュエセス郡(Nueces)コーパスクリスティ(Corpus Christi)にあるマゼラン・ミッドストリーム・パートナーズ社(Magellan Midstream Partners)の石油ターミナルである。

■ 事故があったのは、州間高速道路37号線沿いにある石油ターミナル内の軽質原油用の貯蔵タンクである。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2020125日(土)午前10時頃、石油ターミナルの貯蔵タンクまわりで火災があった。

■ 発災に伴い、ただちに消防署の消防隊が出動した。現場に到着した消防士は、貯蔵タンク地区で大きな炎と煙が上がっているのを見た。

■ 燃えているタンクは施設内のアクセス道路から約150ヤード(135m)離れたところにあったため、消火活動に使用する給水の確立には通報を受けてから1520分かかった。現場に到着して最初の対応をした消防隊は60名で、このうちコーパスクリスティ消防署の消防隊が48名で、このほかにコーパスクリスティの産業相互応援組織である製油所・ターミナル消防隊(Refinery Terminal Fire Company)、アナビル消防署の消防隊、ニュエセス郡の緊急対応要員だった。

■ コーパスクリスティ警察署は、午前1040分頃、ツイッターで追って通知があるまで地元住民は屋内にとどまるように連絡した。

■ 爆発・火災に伴い、請負会社の従業員7名が負傷した。うち4名は重傷で、サンアントニアの火傷治療センターへ救急ヘリコプターで搬送された。

■ 請負会社の7人は、定期検査の準備のため、内部の液が排出されたタンクの清掃を行っていた。タンクから排出された軽質原油の残液がまだタンク内に残っていたという。通常、タンク内はベーパーをすべて排除され、作業者がタンク内に入り、タンクを清掃するが、もしタンク底に何らかな残留物があれば、それを除去し、適切に処分する。

■ テキサス環境品質委員会は、火災発生後の大気のモニタリングをした。タンク施設と周辺地域の大気は健康上の懸念なく、安全な領域のまま推移しているという。

■ マゼラン・ミッドストリーム・パートナーズ社は、事故が発生したことを発表するとともに、「今日はマゼラン社にとって悲しい日です。負傷した男性とその家族の生活を最優先に考えることだと思いました。私たちの想いと祈りを彼らに捧げます」と述べた。

■ コーパスクリスティ市長は、125日(土)の記者会見で、爆発は地域の住民への被害や損害を引き起こさず、施設内に限定されたと述べた。

■ コーパスクリスティ港管理組合は、「市の港は石油ターミナルの爆発による影響を受けていないが、港としては警察の要請により協力・支援を行っている」と述べている。

■ 地元住民に出されていた屋内にとどまる避難勧告は午前1148分に解除された。

被 害

■ 石油ターミナル内の軽質原油タンクのまわりで火災が起き、タンクや設備に何らかの被害が出た。

■ 事故に伴う負傷者が7名発生した。

■ 地元住民には、一時、屋内にとどまるよう避難勧告が出された。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は、調査中である。

■ 消防署は、貯蔵タンクの火災原因を特定するには時期尚早だと語っている。コーパスクリスティ消防署、マゼラン・ミッドストリーム・パートナーズ社、ニュエセス郡によって事故について調査している。

< 対 応 >

■ 消防隊は火災を消火させるのに2時間ほど要した。消火後、消防隊は午後2時過ぎに現場から引き揚げた。

■ テキサス州知事は、125日(土)午後1230分に石油ターミナルの事故について「テキサス州は、マゼラン・ミッドストリーム・パートナーズ社とコーパスクリスティ市当局が緊密に協力して、緊急対応の取組みを支援し、事故で負傷した人への支援をしています」という声明を発表した。

■ 火災をドローンで撮影したメディアは映像とともに記事を掲載した。(Magellan Fire Update: 2 patients released from hospital, 5 in stable condition in San Antonio」)を参照。


補 足

■「テキサス州」(Texas)は、米国の南部に位置し、人口約2,900万人の州である。

 「ニュエセス郡」(Nueces)は、テキサス州南部に位置し、人口約34万人の郡である。

 「コーパスクリスティ」(Corpus Christi)は、ニュエセス郡北部に位置する郡庁所在地で、人口約28万人の港湾都市である。

■「マゼラン・ミッドストリーム・パートナーズ社」(Magellan Midstream Partners)は、主に原油・石油製品の輸送、貯蔵、流通に携わっている石油企業である。マゼラン社は、石油製品の9,800マイル(15,700km)のパイプラインに54箇所の石油ターミナルを運営しているほか、独立した石油ターミナルと海洋貯蔵施設を有している。コーパスクリスティの石油ターミナルには、原油・石油製品の貯蔵タンクが60基あり、総貯蔵容量は3,700万バレル(588KL)である。 

■「発災タンク」は軽質原油用という情報だけで、タンク仕様に関しては報じられていない。グーグルマップで調べると、発災タンクは直径約68mである。高さを14mと仮定すれば、容量は50,800KLとなる。従って、発災タンクは直径約68m×高さ約14m×容量50,000KL級の外部浮き屋根式タンクである。

■ 原油タンクの清掃段階の人身事故としては、つぎの事例がある。

 ● 20061月、「太陽石油の原油タンク清掃工事中の火災事故」

 当該事故では、死傷者が7名で、タンク内にいた請負会社の作業員5名が死亡、自力で脱出した2名が負傷した。事故の原因が調査されたが、断定はできず、つぎのような要因であるとされた。

 ① 原油スラッジ中の軽質油分の気化ガスがタンクマンホールの開放に伴う通気によって爆発混合気を形成し、清掃工事用の機工具類などによる何らかの着火源によって引火して火災になったものとみられる。

 ② 燃焼の三要素の観点から推定された要因はつぎのとおりである。

 ● 可燃性物質: 原油スラッジ中の軽質油分の気化ガス

 ● 酸素の供給: 自然通風および換気用ブロワーの運転による強制通風

 ● 着 火 源 : 特定できないが、つぎのような着火原因が考えられる。  

      ・ 人体および工具に帯電して起こる静電気スパーク

      ・ 投光器および配線の漏電やショートなどによる電気スパーク

      ・ 鋼製工具、機材接触による火花

     作業員の一人が「スタンド式の投光器が倒れ、しばらくして火が出た」と証言している。

     投光器は防爆型のスタンド式照明装置で、3台設置され、約1.4mの高さに位置に調整されていた

     が、固定されていなかった。このうちの1台が転倒していることが確認され、着火源は投光器に

     よる可能性が高いとみられ、実証テストが行われたが、断定できる結果は得られなかった。

所 感

■ 今回の事故は、20061月に起きた「太陽石油の原油タンク清掃工事中の火災事故」に類似しているように感じる。

■ 一方、今回の火災は、メディアがドローンで撮影した動画によれば、タンクまわりに設置した機材から炎が出ており、清掃工事で使用する機材に関係していると思われる。しかし、今回の事故と太陽石油の事故の双方には共通点が多いように思うので、事故の未然防止は 「太陽石油の原油タンク清掃工事中の火災事故」の対応が参考になるのではないだろうか。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Industrialfireworld.com, 2Critical Injuries Reported in Corpus Christi Terminal Blast, December 5, 2020

     Fox23.com, 7 injured in oil storage tank explosion in Corpus Christi, December 5, 2020

     Caller.com, Seven Magellan employees injured, four in critical condition after refinery explosion, December 5, 2020

     Ccbiznews.com, 7 injured in Corpus Christi oil tank explosion, December 5, 2020

     Ksat.com, 7 injured in oil storage tank explosion at Magellan plant in Corpus Christi, firefighters say, December 5, 2020

     Khou.com, Tank fire at Magellan storage facility in Corpus Christi; 4 people critically injured, December 6, 2020

     Apnews.com, Storage tank explosion at Texas petroleum facility injures 7, December 6, 2020

     Wionews.com, Seven injured in fire at Magellan Corpus Christi, Texas, tank farm, December 6, 2020

     Kristv.com, Magellan Fire Update: 2 patients released from hospital, 5 in stable condition in San Antonio, December 5, 2020


後 記: 今回の事故報道で良かったのは、ドローンによる動画が報じられたことです。このドローンによる映像がなければ、まったく状況の分からない事故だったと思います。そして、最も残念だったのが、やはりこのドローンによる映像です。肝心の火災場所のズーム画面が字幕で隠れてよく見えません。オリジナルの映像だと、事故の要因の手がかりがわかるのではないかと思いました。発災事業所のマゼラン・ミッドストリーム・パートナーズ社はウェブサイトを有していますが、ニュース欄に事故発生の事実さえも載せていません。貯蔵タンクの開放・清掃・検査は全世界で定期的に行われる工事ですし、そこで起きた人身災害事故は貯蔵タンクに関連する人たちの関心事なのですけどね・・・ 

2020年12月8日火曜日

イラクのバイジにあるシニヤ製油所でロケット攻撃、貯蔵タンクへ延焼

 今回は、 20201129日(日)、イラクのサラハッディン州北部のバイジにあるシニヤ製油所でロケット砲攻撃によって火災になった事故紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、イラク(Iraq)サラハッディン州(Salahuddin)北部のバイジ(Baiji)にあるシニヤ製油所(Siniya Oil Refinery)である。シニヤ製油所は精製能力30,000バレル/日で、バイジにあるイラク最大のバイジ製油所の近くにある。

■ 発災があったのは、製油所内にある配管と貯蔵タンクなどの設備である。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20201129日(日)夕方、シニヤ製油所でロケット砲攻撃によって火災が発生した。

■ この攻撃によって製油所は生産を一時停止することとなった。

■ イスラミック・ステート(IS)の武装グループは製油所を攻撃したと主張し、攻撃は2発のカチューシャ・ロケットで行ったと述べた。

■ ロケット砲攻撃によって石油配管が火災となり、貯蔵タンクへ延焼した。

■ 発災に伴い、消防隊が出動した。

■ バグダッド(Baghdad)とモスル(Mosul)との中間にあるバイジ製油所付近は、かつてイスラミック・ステート(IS)が占領していた地区であるが、イスラミック・ステート(IS) との紛争中に大きな被害を受けていた。シニヤ製油所は紛争中の被害を受けたが、201711月に修復が完了して操業を再開し、近くにある発電所にも燃料を供給している。

■ 攻撃に伴う死傷者は出なかった。(しかし、一部のメディアは攻撃によって従業員5名が負傷したと報じている)

■ メディアのMaps & Conflicts Database社はインターネット報道の記事(VIDEO SHOWS MOMENT OF ISIS ROCKET STRIKE ON OIL FACILITY IN IRAQ;ビデオはイラクの石油施設でのISISロケット攻撃の瞬間を示す)の中で、タンク近くで配管類が火災になる瞬間の動画を掲載している。(https://maps.southfront.org/video-shows-moment-of-isis-rocket-strike-on-oil-facility-in-iraq/ を参照)

被 害

■ 製油所内の配管や貯蔵タンクなどの設備がロケット攻撃や火災によって被害を受けた。被害の程度は不明である。

■ タンク内部の燃料が焼失した。焼失量は不明である。

■ ロケット攻撃による死傷者は無い。(しかし、一部のメディアは攻撃によって従業員5名が負傷したと報じている)

< 事故の原因 >

■ 事故の直接原因は、ロケット攻撃という「故意の過失」である。

< 対 応 >

■ 火災は数時間で消火でき、操業を再開できる見込みだという。

■ 米国などの国による3年間の軍事介入によって、2017年、イスラミック・ステート(IS)が占有していたすべてのイラク領土を取り戻し、過激派組織を地下に追いやった。 しかし、最近、特にイラク北部では、頻繁な攻撃が日常化している。

 

■ 「イラク」(Iraq)は、正式にはイラク共和国で、連邦共和制国家である。古代メソポタミア文明を受け継ぐ土地にあり、人口約3,840万人である。フセイン政権崩壊後、内政は混乱が続いている。

「サラハッディン州」(Salahuddin)は、イラクの中央部に位置し、人口約140万人の州である。

「バイジ」(Baiji)は、サラハッディン州の中央部に位置し、人口約20万人の市である。バイジは首都バクダットから北へ約200km離れたところにあり、イラク最大のバイジ製油所や大規模な発電所があり、主要な産業の中心地である。


■「シニヤ製油所」(Siniya Oil Refinery)は精製能力30,000バレル/日(20,000バレル/日ともいわれる)の製油所で、バイジ製油所の南西にある。通常、イラクの製油所はイラク・ナショナル・オイルという国営企業が運営している。シニヤ製油所は201711月に再開しているが、中国企業が運営しているともいわれ、実態はよく分からない。グーグルマップで調べると、製油所は存在するが、最新の撮影か分からない。

■「発災タンク」の仕様に関する情報はまったく報じられていない。配管が爆発したところの近くに固定屋根式タンクが見えるが、1,0002,000KL級程度の規模である。


■「カチューシャ・ロケット」は多連装のロケット砲である。もともとロシアの旧ソ連時代に開発・使用された自走式多連装ロケット砲であるが、その後、各国で製作された多連装ロケット砲の通称として使われている。今回、使用されたカチューシャ・ロケットは、イラクの武装グループによって一般的に使用されている中国製63107mmロケット砲ではないかといわれている。

所 感

■ 今回の事故原因は、ロケット砲攻撃という「故意の過失」に該当する。

 20201123日(月)にあったサウジアラビアで起こったミサイル攻撃(「サウジアラビアの石油流通ステーションの貯蔵タンクをミサイル攻撃」を参照)に続いてのテロ攻撃である。

■ イラクで起こった前回のテロ攻撃は、20165月、イスラミック・ステート(IS)の武装グループが自動車で乗り込み、自爆テロで球形タンクが爆発・火災を起こし、死傷者43人を出した事故だった。(「イラクで天然ガス工場にテロ攻撃、球形タンク爆発・炎上」を参照) その当時に比べると、イスラミック・ステート(IS)が占有していた地域は取り戻され、過激派組織は地下に追いやられ、規模の小さなテロ攻撃だという印象である。しかし、石油施設がテロ攻撃を受け、テロ対応が脆弱(ぜいじゃく)であることを露呈してしまった。

■ 日本では、重要施設に対してテロ対策をとっていると言われているが、ミサイルや無人機(ドローン)によるテロ攻撃を想定していない。しかし、今回、「カチューシャ・ロケット」という武器は古くからある多連装ロケット砲であり、まったく想定から外してもよいというテロ攻撃ではないと思う。このような武器が使用された場合、複数のタンク火災になる可能性がある。机上訓練で複数のタンク火災に対する消火戦略を考えておくべきではないだろうか。

 貯蔵タンクへのテロ攻撃で使われた武器はつぎのとおりである。

 ● 20033月、迫撃砲 (「インドで石油タンクに迫撃砲によるテロ攻撃(2003年)

   ● 20104月、擲弾 (「タイで石油タンクに擲弾(てきだん)によるテロ攻撃(2010年)

 ● 20147月、ロケット砲 (「リビアで国内の戦闘によって燃料貯蔵タンクが火災」

 ● 201412月、ロケット砲 (「リビアでロケット弾による原油貯蔵タンク火災」

 ● 20157月、時限爆弾 ( 「フランスの製油所で仕掛けられた爆弾によってタンク火災」

 ● 20161月、ロケット砲 (「リビアの石油施設基地で再び砲撃によるタンク火災」

  20165月、自動車による自爆 (「イラクで天然ガス工場にテロ攻撃、球形タンク爆発・炎上」

 ● 201710月、ライフル銃 (「米国のラスベガス銃乱射事件時にジェット燃料タンクを銃撃」

 ● 20199月、無人機(ドローン) (「サウジアラビアの石油施設2か所が無人機(ドローン)によるテロ攻撃」

  ● 202011月、ミサイル (「サウジアラビアの石油流通ステーションの貯蔵タンクをミサイル攻撃」

 ● 202011月、多連装ロケット砲 (「イラクのバイジにあるシニヤ製油所でロケット攻撃、貯蔵タンクへ延焼」


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Industrialfireworld.com, ISIS Claims Responsibility for Iraqi Refinery Attack,  November 30,  2020

   Dw.com, Iraq: Rocket attack causes fire at major oil refinery,  November 30,  2020

   Jp.reuters.com,  Islamic State says it launched rocket attack on northern Iraq oil refinery,  November 30,  2020

   Aljazeera.com, Rocket attack causes fire at oil refinery in northern Iraq,  November 29,  2020

   Parstoday.com, Daesh claims rocket attack on oil refinery in Iraq,  November 30,  2020

   Kurdistan24.net, Rocket targets oil refinery in Iraq’s Salahuddin province; ISIS claims responsibility,  November 29,  2020

   English.alarabiya.net, Rocket attack hits oil refinery in northern Iraq,  November 29,  2020

   Wearethene.ws, ISIS Terrorists Attacked Oil Refinery In Iraqi Saladin Province,  November 29,  2020

   Maps.southfront.org, VIDEO SHOWS MOMENT OF ISIS ROCKET STRIKE ON OIL FACILITY IN IRAQ,  November 30,  2020

   Soha.vn, NÓNG: Nhà máy lc du công sut 2 vn thùng mi ngày ca Trung Quc b IS tn công?,  November 30,  2020

   Irna.ir, منابع خبری عراقی از حمله راکتی به یک پالایشگاه خبر دادند,  November 30,  2020


後 記: 今回の事故を報じたメディアは結構ありましたが、内容が薄く、ほとんど同じようなものでした。 前回の「イラクで天然ガス工場にテロ攻撃、球形タンク爆発・炎上」20165月)の事故を伝える記事に比べると、雲泥の差です。政治状況の変化や新型コロナウイリスなどいろいろな背景があるにしても、事故状況や消防活動はほとんど分かりませんでした。ところが、被災写真さえも乏しい中、配管が火災を起こす瞬間の動画を掲載しているメディアがありました。監視カメラによると思われる動画ですが、ロケット砲の被弾というより、花火のような感じです。なぜ、テロ攻撃のあった場所を写していたのかなど疑問の残る動画です。しかし、標題に掲載した火災写真と重なるところがあるので、実際のものとして扱いました。このブログでは、テロ攻撃による事故で使われた武器が何だったのかを知りたい事項のひとつです。「カチューシャ・ロケット」という多連装ロケット砲だったことが分かっただけでも良しとしようと思いながら、まとめました。 

2020年12月3日木曜日

サウジアラビアの石油流通ステーションの貯蔵タンクをミサイル攻撃

  今回は、 20201123日(月)、サウジアラビアのジェッダにあるサウジ・アラムコ社の石油流通ステーションの貯蔵タンクにミサイル攻撃があった事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、サウジアラビア(Saudi Arabia)マッカ州( Mecca)ジェッダ(Jeddah)にある国営石油会社であるサウジ・アラムコ社(Saudi Aramco)の石油流通ステーションである。ジェッダの石油流通ステーションには、13基の貯蔵タンクがあり、総貯蔵量は520万バレル(82KL)である。

■ 発災があったのは、石油流通ステーション内にある貯蔵タンクである。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20201123日(月)午前4時頃、石油流通ステーションのタンクがミサイル攻撃を受けた。

■ ミサイルは貯蔵タンクの上部縁に当たり、爆発して、屋根に約2m四方の穴が開いた。

■ 当局の報告によると、すぐに緊急対応チームが到着し、固定消火システムが数分以内に作動した。消防隊は40分以内に攻撃によって生じた火災を消火した。

■ 攻撃をしたのは、イランを支援するイエメンの反政府武装組織フーシ派(Houthi)とみられる。

■ サウジ・アラムコの主要施設からから離れたこの石油流通ステーションは、毎日12万バレル(19,000KL)以上のディーゼル油、ガソリン、ジェット燃料を出荷している。

■ サウジ・アラムコは、被害を受けたタンクの液名や攻撃されたときの製品量を明らかにしなかった。しかし、一部メディアによると、容量500,000バレル(79,500KL)のディーゼル燃料用貯蔵タンクだという。

■ ミサイル攻撃による死傷者は無いと報告されている

■ タンク火災の遠景を車内から撮影した動画がユーチューブに投稿されている。(Youtubeللمرة الأولى الصاروخ المجنح قدس2 يدخل خط الردع... ويستهدف محطة توزيع أرامكو في جدة(初めてQuds 2の翼のあるミサイルがRadaaラインに入り、JeddahAramcoの流通ステーションをターゲット)(2020-11-23を参照)

被 害

■ 容量500,000バレル(79,500KL)のディーゼル燃料用貯蔵タンクが屋根に約2m四方の穴が開くような被害を受けた。

■ タンク内部のディーゼル燃料が一部焼失した。焼失量は不明である。

■ ミサイル攻撃による死傷者は無いと報告されている。

< 事故の原因 >

■ 事故の直接原因は、ミサイル攻撃という「故意の過失」である。


< 対 応 >

■  1123日(月)、サウジ・アラムコ社は、攻撃されてから約3時間後、石油流通ステーションの操業を再開したと発表した。

■ 1124日(火)時点で、タンクは使用できていない。損傷したタンクは数週間で修理されるだろうという。


■ フーシ軍によるサウジアラビアの石油施設への攻撃は、今回が初めてでなく、20199月にサウジ・アラムコの2つの施設に対するドローン攻撃があり、サウジアラビアの原油生産量を1日あたり570万バレル、世界の供給量の5%以上削減した。

(当時の状況は、ブログ「サウジアラビアの石油施設2か所が無人機(ドローン)によるテロ攻撃」20199月)を参照)

■ 発射されたのは、 従来のクッズ‐1Quds-1)ではなく、地上発射式クッズ-2巡航ミサイル(Ground-launched Quds-2 cruise missile)といわれている。ジェッダはイエメン国境から390マイル(624km)離れており、イエメンの反政府武装組織フーシ派は、地上発射式Quds-2巡航ミサイルが目標に到達するため400マイル(640km)以上飛んだと言っている。このグループは、少なくとも昨年以来、イエメンの国境からもっと近いサウジアラビアの目標に巡航ミサイルを発射していた。

補 足

■「サウジアラビア」(Saudi Arabia)は、正式にはサウジアラビア王国で、中東・西アジアに位置し、サウード家を国王にした絶対君主制国家で、人口約3,000万人の国である。世界一の原油埋蔵量をもち、世界中に輸出している。

「マッカ州」( Mecca)は、サウジアラビアの西側(紅海側)に位置し、人口約856万人の州である。

「ジェッダ」(Jeddah)は、原油生産施設の無いマッカ州にある紅海を臨む都市で、人口約398万人と首都リヤドに次ぐ大都市である。

■「サウジ・アラムコ」(Saudi Aramco)は、サウジアラビアの国営石油会社で、保有原油埋蔵量、原油生産量、原油輸出量は世界最大である。設立は1933年といわれるが、これは1933年に米国スタンダード・オイル・オブ・カリフォルニア(現在のシェブロン)の子会社であるカリフォルニア・アラビアン・スタンダード・オイル・カンパニー(CASOC=カソック)が同国の石油利権を獲得した時に始まる。その後、1944年にCASOCはアラビアン・アメリカン・オイル・カンパニー(Aramco)、すなわちアラムコに変更した。さらに、1988年に完全国有化が進められ、国営石油会社「サウジ・アラムコ」となった。サウジアラビアの原油・天然ガス事業はサウジ・アラムコが独占して運営している。

 2016年、サウジ・アラムコはテロを憂慮しており、この対策のひとつとして5,000名のガードマンを直接雇用しており、さらに、サウジアラビア政府は国家警備隊と軍の治安部隊合わせて約20,000名を配備したという。

■「発災タンク」は、容量500,000バレル(79,500KL)のディーゼル燃料用貯蔵タンクだと報じられている。グーグルマップで調べると、発災タンクは直径約73mの固定屋根式タンクである。高さを19mと仮定すれば、容量は79,500KLとなる。従って、直径約73m×高さ約19m×容量79,500KLクラスの固定屋根式貯蔵タンクだとみられる。

■ サウジアラビアの「防空システム」は、高度から侵入してくるミサイルに対して米国から入手した最新のレーダー、F15戦闘機、パトリオットミサイルなどを装備していた。20199月の無人機(ドローン)による攻撃によって、サウジアラビアの重要な石油施設の防空がいかに脆弱(ぜいじゃく)か露呈してしまった。この時、イエメン国境から標的までの距離は、近い方のクライス油田で約770km、アブカイク・プラントまでは1,200kmであった。この攻撃による無人機(ドローン)は、従来とまったく異なる設計で、射程距離が飛躍的に伸び、精度も格段に向上した種類といわれていた。現在、通常の商用のドローンを武器化するのにそれほど多くのことは必要ないといわれている。

所 感

■ 今回の事故原因は、テロ攻撃という「故意の過失」に該当する。

 日本でも、重要施設に対してテロ対策をとっていると言われているが、ミサイルによるテロ攻撃を想定していない。サウジアラビアの防空システムは、侵入してくるミサイルに対して米国から入手した最新のレーダー、F15戦闘機、パトリオットミサイルなどを装備していたが、20199月の無人機(ドローン)による攻撃によって、重要な石油施設の防空がいかに脆弱(ぜいじゃく)か露呈してしまった。今回、原油生産施設の無い西側(紅海側)の施設が狙われ、防空の脆弱(ぜいじゃく)を呈してしまった。

■ タンクの被災および消火は、つぎのような状況だったとみられる。

 ● ミサイルが貯蔵タンクの上部縁に当たり、爆発して、屋根に約2m四方の穴が開いた。

 ● タンクの通気ベントのひとつが黒くなっており、火災の黒煙が排気されたものと思われる。

 ● タンクには半固定の泡消火システムが設置されていたとみられ、消防隊によって消火泡が投入された。

 ● タンク防油堤内に落下したミサイル残骸は泡消火剤を放射されたものとみられる。

 ● タンク内は可燃性ガスが濃く、爆発混合気が容易に形成されず、屋根に開いた穴周辺で燃焼し、大火災にならなかったと思われる。このため、消火活動は約40分ほどで制圧できたものと思われる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Industrialfireworld.com, Missile Attack Damages Saudi Oil Distribution Station,  November 24,  2020

   Garda.com, Saudi Arabia: Houthi officials claim unconfirmed missile attack in Jeddah November 23,  November 23,  2020 

   Thedrive.com, Yemen's Houthi Rebels Say They Struck Saudi Oil Facility With New Type Of Cruise Missile,  November 23,  2020

   Washingtonpost.com , Yemeni rebels claim missile attack on Saudi oil facility as G-20 summit ends,  November 24,  2020

   Bloomberg.com, Saudi Aramco Says No One Hurt in Jeddah Missile Strike,  November 24,  2020

   Apnews.com, Yemen rebels’ missile strikes Saudi oil facility in Jiddah,  November 24,  2020

   Timesofisrael.com, Iran-backed Houthis say missile that hit Saudi Arabia will also target Eilat,  November 25,  2020

   Arabnews.jp, Saudi Arabia says Jeddah fuel tank blast caused by ‘Houthi terrorist missile’,  November 24,  2020  


後 記: 今回の事故を報じたメディアは結構ありましたが、多くはサウジアラビアとイエメンの反政府武装組織フーシ派に関する政治的話題です。タンクの被災状況に関する報道は少なく、サウジアラビアの当局も意図的に公表しない(隠す)ので、ブログとしてはまとめづらい事例でした。前回の無人機(ドローン)攻撃のときにも言いましたが、このブログの立ち位置から、“戦争” ではなく、テロとしましたが、実際には戦争状態にあり、流される情報は真実でなく意図的に嘘(フェーク)が混じっているのではないかという疑心暗鬼が生じました。タンク火災になっていたようですが、攻撃を受けたというタンクは意外にきれいで、本物の被災写真かと疑って見ていました。総合的、俯瞰的にみる(?)と、今回は本物のようです。