2020年12月3日木曜日

サウジアラビアの石油流通ステーションの貯蔵タンクをミサイル攻撃

  今回は、 20201123日(月)、サウジアラビアのジェッダにあるサウジ・アラムコ社の石油流通ステーションの貯蔵タンクにミサイル攻撃があった事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、サウジアラビア(Saudi Arabia)マッカ州( Mecca)ジェッダ(Jeddah)にある国営石油会社であるサウジ・アラムコ社(Saudi Aramco)の石油流通ステーションである。ジェッダの石油流通ステーションには、13基の貯蔵タンクがあり、総貯蔵量は520万バレル(82KL)である。

■ 発災があったのは、石油流通ステーション内にある貯蔵タンクである。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20201123日(月)午前4時頃、石油流通ステーションのタンクがミサイル攻撃を受けた。

■ ミサイルは貯蔵タンクの上部縁に当たり、爆発して、屋根に約2m四方の穴が開いた。

■ 当局の報告によると、すぐに緊急対応チームが到着し、固定消火システムが数分以内に作動した。消防隊は40分以内に攻撃によって生じた火災を消火した。

■ 攻撃をしたのは、イランを支援するイエメンの反政府武装組織フーシ派(Houthi)とみられる。

■ サウジ・アラムコの主要施設からから離れたこの石油流通ステーションは、毎日12万バレル(19,000KL)以上のディーゼル油、ガソリン、ジェット燃料を出荷している。

■ サウジ・アラムコは、被害を受けたタンクの液名や攻撃されたときの製品量を明らかにしなかった。しかし、一部メディアによると、容量500,000バレル(79,500KL)のディーゼル燃料用貯蔵タンクだという。

■ ミサイル攻撃による死傷者は無いと報告されている

■ タンク火災の遠景を車内から撮影した動画がユーチューブに投稿されている。(Youtubeللمرة الأولى الصاروخ المجنح قدس2 يدخل خط الردع... ويستهدف محطة توزيع أرامكو في جدة(初めてQuds 2の翼のあるミサイルがRadaaラインに入り、JeddahAramcoの流通ステーションをターゲット)(2020-11-23を参照)

被 害

■ 容量500,000バレル(79,500KL)のディーゼル燃料用貯蔵タンクが屋根に約2m四方の穴が開くような被害を受けた。

■ タンク内部のディーゼル燃料が一部焼失した。焼失量は不明である。

■ ミサイル攻撃による死傷者は無いと報告されている。

< 事故の原因 >

■ 事故の直接原因は、ミサイル攻撃という「故意の過失」である。


< 対 応 >

■  1123日(月)、サウジ・アラムコ社は、攻撃されてから約3時間後、石油流通ステーションの操業を再開したと発表した。

■ 1124日(火)時点で、タンクは使用できていない。損傷したタンクは数週間で修理されるだろうという。


■ フーシ軍によるサウジアラビアの石油施設への攻撃は、今回が初めてでなく、20199月にサウジ・アラムコの2つの施設に対するドローン攻撃があり、サウジアラビアの原油生産量を1日あたり570万バレル、世界の供給量の5%以上削減した。

(当時の状況は、ブログ「サウジアラビアの石油施設2か所が無人機(ドローン)によるテロ攻撃」20199月)を参照)

■ 発射されたのは、 従来のクッズ‐1Quds-1)ではなく、地上発射式クッズ-2巡航ミサイル(Ground-launched Quds-2 cruise missile)といわれている。ジェッダはイエメン国境から390マイル(624km)離れており、イエメンの反政府武装組織フーシ派は、地上発射式Quds-2巡航ミサイルが目標に到達するため400マイル(640km)以上飛んだと言っている。このグループは、少なくとも昨年以来、イエメンの国境からもっと近いサウジアラビアの目標に巡航ミサイルを発射していた。

補 足

■「サウジアラビア」(Saudi Arabia)は、正式にはサウジアラビア王国で、中東・西アジアに位置し、サウード家を国王にした絶対君主制国家で、人口約3,000万人の国である。世界一の原油埋蔵量をもち、世界中に輸出している。

「マッカ州」( Mecca)は、サウジアラビアの西側(紅海側)に位置し、人口約856万人の州である。

「ジェッダ」(Jeddah)は、原油生産施設の無いマッカ州にある紅海を臨む都市で、人口約398万人と首都リヤドに次ぐ大都市である。

■「サウジ・アラムコ」(Saudi Aramco)は、サウジアラビアの国営石油会社で、保有原油埋蔵量、原油生産量、原油輸出量は世界最大である。設立は1933年といわれるが、これは1933年に米国スタンダード・オイル・オブ・カリフォルニア(現在のシェブロン)の子会社であるカリフォルニア・アラビアン・スタンダード・オイル・カンパニー(CASOC=カソック)が同国の石油利権を獲得した時に始まる。その後、1944年にCASOCはアラビアン・アメリカン・オイル・カンパニー(Aramco)、すなわちアラムコに変更した。さらに、1988年に完全国有化が進められ、国営石油会社「サウジ・アラムコ」となった。サウジアラビアの原油・天然ガス事業はサウジ・アラムコが独占して運営している。

 2016年、サウジ・アラムコはテロを憂慮しており、この対策のひとつとして5,000名のガードマンを直接雇用しており、さらに、サウジアラビア政府は国家警備隊と軍の治安部隊合わせて約20,000名を配備したという。

■「発災タンク」は、容量500,000バレル(79,500KL)のディーゼル燃料用貯蔵タンクだと報じられている。グーグルマップで調べると、発災タンクは直径約73mの固定屋根式タンクである。高さを19mと仮定すれば、容量は79,500KLとなる。従って、直径約73m×高さ約19m×容量79,500KLクラスの固定屋根式貯蔵タンクだとみられる。

■ サウジアラビアの「防空システム」は、高度から侵入してくるミサイルに対して米国から入手した最新のレーダー、F15戦闘機、パトリオットミサイルなどを装備していた。20199月の無人機(ドローン)による攻撃によって、サウジアラビアの重要な石油施設の防空がいかに脆弱(ぜいじゃく)か露呈してしまった。この時、イエメン国境から標的までの距離は、近い方のクライス油田で約770km、アブカイク・プラントまでは1,200kmであった。この攻撃による無人機(ドローン)は、従来とまったく異なる設計で、射程距離が飛躍的に伸び、精度も格段に向上した種類といわれていた。現在、通常の商用のドローンを武器化するのにそれほど多くのことは必要ないといわれている。

所 感

■ 今回の事故原因は、テロ攻撃という「故意の過失」に該当する。

 日本でも、重要施設に対してテロ対策をとっていると言われているが、ミサイルによるテロ攻撃を想定していない。サウジアラビアの防空システムは、侵入してくるミサイルに対して米国から入手した最新のレーダー、F15戦闘機、パトリオットミサイルなどを装備していたが、20199月の無人機(ドローン)による攻撃によって、重要な石油施設の防空がいかに脆弱(ぜいじゃく)か露呈してしまった。今回、原油生産施設の無い西側(紅海側)の施設が狙われ、防空の脆弱(ぜいじゃく)を呈してしまった。

■ タンクの被災および消火は、つぎのような状況だったとみられる。

 ● ミサイルが貯蔵タンクの上部縁に当たり、爆発して、屋根に約2m四方の穴が開いた。

 ● タンクの通気ベントのひとつが黒くなっており、火災の黒煙が排気されたものと思われる。

 ● タンクには半固定の泡消火システムが設置されていたとみられ、消防隊によって消火泡が投入された。

 ● タンク防油堤内に落下したミサイル残骸は泡消火剤を放射されたものとみられる。

 ● タンク内は可燃性ガスが濃く、爆発混合気が容易に形成されず、屋根に開いた穴周辺で燃焼し、大火災にならなかったと思われる。このため、消火活動は約40分ほどで制圧できたものと思われる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Industrialfireworld.com, Missile Attack Damages Saudi Oil Distribution Station,  November 24,  2020

   Garda.com, Saudi Arabia: Houthi officials claim unconfirmed missile attack in Jeddah November 23,  November 23,  2020 

   Thedrive.com, Yemen's Houthi Rebels Say They Struck Saudi Oil Facility With New Type Of Cruise Missile,  November 23,  2020

   Washingtonpost.com , Yemeni rebels claim missile attack on Saudi oil facility as G-20 summit ends,  November 24,  2020

   Bloomberg.com, Saudi Aramco Says No One Hurt in Jeddah Missile Strike,  November 24,  2020

   Apnews.com, Yemen rebels’ missile strikes Saudi oil facility in Jiddah,  November 24,  2020

   Timesofisrael.com, Iran-backed Houthis say missile that hit Saudi Arabia will also target Eilat,  November 25,  2020

   Arabnews.jp, Saudi Arabia says Jeddah fuel tank blast caused by ‘Houthi terrorist missile’,  November 24,  2020  


後 記: 今回の事故を報じたメディアは結構ありましたが、多くはサウジアラビアとイエメンの反政府武装組織フーシ派に関する政治的話題です。タンクの被災状況に関する報道は少なく、サウジアラビアの当局も意図的に公表しない(隠す)ので、ブログとしてはまとめづらい事例でした。前回の無人機(ドローン)攻撃のときにも言いましたが、このブログの立ち位置から、“戦争” ではなく、テロとしましたが、実際には戦争状態にあり、流される情報は真実でなく意図的に嘘(フェーク)が混じっているのではないかという疑心暗鬼が生じました。タンク火災になっていたようですが、攻撃を受けたというタンクは意外にきれいで、本物の被災写真かと疑って見ていました。総合的、俯瞰的にみる(?)と、今回は本物のようです。

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