2020年2月17日月曜日

米国ペンシルバニア州の化学工場で火災、タール用タンクへ延焼

 今回は、2020年2月4日(火)、米国のペンシルバニア州モンゴメリー郡アッパー・メリオンにあるクーパーズ・クリーク・ケミカル社の化学工場で、火災があり、コールタール用タンクへ延焼した事故を紹介します。
(写真はIndustrialfireworld.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国のペンシルバニア州(Pennsylvania)モンゴメリー郡(Montgomery)アッパー・メリオン(Upper Merion)にあるクーパーズ・クリーク・ケミカル社(Cooper‘s Creek Chemical)の化学工場である。同社は粗コールタールの生産を専門にしている。

 ■ 発災があったのはリバー通り800番地にある化学工場内の施設で、この施設にはコールタール用タンクがあった。
    アッパー・メリオンのクーパーズ・クリーク・ケミカル社付近  (写真はGoogleMapから引用)
         クーパーズ・クリーク・ケミカル社の化学工場付近  (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2020年2月4日(火)午前4時10分頃、クーパーズ・クリーク・ケミカル社の化学工場のボイラー室で火災があり、10,000ガロン(37KL)の貯蔵タンクに広がった。

■ 発災に伴い、アッパー・メリオン消防署が出動したほか、モンゴメリー郡のハズマット隊(Hazmat)が出動した。消防士が現場に駆け付けると、貯蔵タンクの隣にあるボイラー室が燃えていた。

■ 発災によってリバー通り(ルート23)が交通制限により3時間ほど閉鎖された。

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。また、事故による大気質への影響は無かった。

■ 消防隊はボイラー室の火災の消火活動を行うとともに、貯蔵タンクへの延焼を防ぐよう努めた。消防隊は、消火泡を使用する前に、火災を制圧した。消防隊は、午前7時30分頃に消火したことを発表した。

被 害
■ ボイラー室で火災があり、隣接したコールタール用タンクが火災で被災した。損傷程度は不詳である。

■ 事故に伴う負傷者の発生はない。避難した住民もいない。

■ 化学工場に近い道路が交通制限で3時間ほど閉鎖した。

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は分かっていない。
(写真は6abc.comから引用)
(写真は、左 6abc.com右;Liveuamap.comから引用)
補 足 
■「ペンシルバニア州」(Pennsylvania)は、米国の北東部に位置する州で、人口約1,280万人である。 
 「モンゴメリー郡」(Montgomery)は、ペンシルバニア州の東部に位置し、人口約828,000人の郡である。
 「アッパー・メリオン(Upper Merion)は、モンゴメリー郡の南部にあり、人口約28,600人の町である。
          米国におけるペンシルバニア州の位置   (図はGoogleMapから引用)
■「クーパーズ・クリーク・ケミカル社(Cooper‘s Creek Chemical)は、1938年に設立し、モンゴメリー郡に化学工場を有し、粗コールタールの生産を専門にしている。製品には、コールタール、コールタールピッチ、クレオソートなどである。

■「コールタール」(Coal Tar)は、石炭を乾留してガス・コークスをつくるときに得られる粘性の高い油状の物質である。比重は1.1~1.2と水より重く、黒色~暗茶色で特有の臭気がある。主成分は芳香族化合物(多環芳香族炭化水素)で、ナフタレン(5~15%)、ベンゼン(0.3~1%)、フェノール(0.5~1.5%)、フェナントレン(3~8%)などを含む。防腐用塗料として使用されてきたが、分留していろいろの有機化学工業の重要な原料である。なお、コールタールを分別蒸留したときの残留分をコールタールピッチという。

■「発災タンク」は、容量が10,000ガロン(37KL)という情報だけで、その他の仕様は分かっていない。円筒タンクであれば、直径3.6m×高さ3.6mほどの大きさである。横型(枕型)タンクであれば、直径3.0m×長さ5.2mほどの大きさである。これらのデータと事業所内のタンク配置を考えれば、標題の写真にある横型(枕型)タンクが発災タンクではないかと考えられる。この周辺のグーグルマップを見ると、標題の写真にある小さな建屋のほか、南側にも小さな建屋がある。しかし、被災写真からはこの両建屋ともはっきりした火災跡は見られない。結局、発災タンクと火災源になったボイラー室は特定できなかった。
       発災の可能性のある工場内の場所 (写真はGoogleMapから引用)
所 感 
■ 今回の事故は、ボイラー室から出火した火がコールタール用の貯蔵タンクに引火したものと思われる。ボイラー室の火災は消防隊による消防活動で消火されたが、コールタール用タンクは泡消火活動を行う前に消えたとみられる。タンクの火災規模は小さく、蒸気を噴射して消えたのではないだろうか。

■ アッパー・メリオン消防署だけの対応でなく、コールタール化学工場の火災ということで、モンゴメリー郡消防署のハズマット隊(Hazmat)が支援に駆け付けている。とにかく火を消す行動をとるのではなく、知識・経験のあるハズマット隊を呼ぶというのは適切な判断だっと思う。 

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Industrialfireworld.com, Fire Threatens Coal Tar Tank in Pennsylvania,  February  04  2020
    ・6abc.com,  All-clear after fire, hazmat incident at Coopers Creek chemical plant in Montgomery County,  February  04  2020
    ・Powderbulksolids.com, Fire Breaks Out at Pennsylvania Chemical Plant,  February  04  2020
    ・Philadelphia.cbslocal.com, Fire Breaks Out At Chemical Company In West Conshohocken,  February  04  2020
    ・Newsbreak.com, Limerick Assists Tuesday at Chem Plant Fire,  February  04  2020


後 記: コールタール用タンクの火災らしいということで調べてみました。朝の4時頃の事故ですが、7時頃には火は消えていましたので、事故情報は多くなかったですね。メディア側もよくわからない化学工場内の事故という訳で、記事の内容もはっきりしないところがありました。発災場所は、「建屋(小屋)」というものや、「ボイラー室」というものがあり、判然としませんが、火が出たということで「ボイラー室」としました。報道写真もありましたが、発災時点のものでなく、何を撮影しているのか分からず、いろいろ考えました。標題の写真も残骸が写っているので、最初は被災写真と思いましたが、それにしては火災跡が見えません。悩みながらまとめた事例でした。

2020年2月12日水曜日

アルゼンチンでバイオディーゼル用タンクが爆発・火災、死傷者3名

 今回は、2020年2月6日(木)、南米アルゼンチンカタマルカ州レクレオ近郊にある工場の建屋内にあるバイオディーゼル用のタンクで爆発・火災があり、死傷者3名を出す事故を紹介します。
(写真はInfobae.comから引用)
< 施設の概要 >
■ 事故があったのは、南米アルゼンチン(Argentina)カタマルカ州(Catamarca)レクレオ(Recreo)近郊にある工場である。

■ 発災があったのは、レクレオ郊外の国道11号線と州道5号線の交差点近くにある建屋内にあるバイオディーゼル用のタンクである。
   カタマルカ州レクレオ近郊の発災場所付近(矢印が発災場所) (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2020年2月6日(木)午前9時頃、バイオディーゼル用のタンクが爆発して火災になった。

■ 事故に伴い、1名が死亡、2名が負傷した。負傷した2名は400mほど離れたところにある総合病院に搬送され、治療を受けている。

■ タンクがある建屋に延焼し、火が舞い上がり、黒煙が立ち昇った。炎と黒煙は遠い場所からも確認できた。近くの住民によると、火災中、少なくとも6回ほど爆発音を聞いたという。

■ 発災に伴い、消防隊が出動し、消防士が消火活動に従事した。

■ 警察は、発災現場から1kmの範囲にいる住民に避難をさせた。

■ 建屋などは1時間ほどで崩壊し、残骸になった。

■ 火災発生時の動画がユーチューブに投稿されている。
 (YouTube「Incendioen Recreo」を参照)

被 害
■ バイオディーゼル用のタンクが損壊し、内部のバイオディーゼルが焼失した。タンクを囲っていた建屋も焼失した。

■ 事故に伴い、3名の死傷者が出た。うち死亡者は1名である。

■ 発災場所の近隣住民に避難指示が出された。 

< 事故の原因 >
■ 原因は明らかでない。
 しかし、現地メディアの中に、火災は作業員が使用した溶接機の火花から発生したのではないかと報じているところがある。
(写真は、左; Infobae.com右;Radioeme.comから引用)
(写真はRosarionuestro.comから引用)
(写真はTn.com.arから引用)
             焼失した建屋  (写真はElciudadanoweb.comから引用)
補 足 
■「アルゼンチン」(Argentina)は、正式にはアルゼンチン共和国で、南アメリカ南部に位置し、人口約4,100万人の連邦共和制国家である。首都はブエノスアイレス(首都圏人口約1,550万人)である。
「カタマルカ州」(Catamarca)は、アルゼンチンの北西に位置し、人口約37万人の州である。
「レクレオ」(Recreo)は、カタマルカ州の南東にあり、12,000人の市である。市民は主に農業に従事している。
            アルゼンチンの位置  (写真はGoogleMapから引用)
■「バイオディーゼル」は、植物油を原料とし、化学処理などの方法により製造されたディーゼルエンジン用の液体燃料である。ディーゼルエンジンは、もともとピーナッツ油等の植物油を燃料としていたが、原油による軽油が主流となっていた。しかし、1970年代のオイルショックを契機に、再びバイオディーゼルが注目されるようになった。
 バイオディーゼルの原料は、欧州では菜種油・ひまわり、中南米では大豆油、東南アジアではパーム油が主な原料になっている。日本では、廃棄物の有効利用の観点から、廃食用油が用いられている。
 製造方法にはいろいろな種類があるが、一般的な方法としては、アルカリを触媒としてメタノールと化学反応させることにより、原料油を脂肪酸メチルエステル(バイオディーゼル)にする方法である。
 バイオディーゼルに関わる事故としては、つぎの事例がある。
 
■「発災事業所」の業種などは分からない。グーグルマップで調べると、発災場所情報と被災写真から何かの工場だと分かったが、バイオディーゼルを作っているのか、あるいは使用しているのかまでは分からない。
                  発災事業所(事故前)  (写真はGoogleMapストリートビューから引用)
            発災事業所(矢印は事故前の火災建屋)  (写真はGoogleMapから引用)
■ バイオディーゼルの「貯蔵タンク」の仕様も分からない。建屋内に入れられたタンクなので、大型のタンクではない。

所 感
■ 爆発の原因は特定されていないが、情報でいわれているように溶接作業のようなタンク周辺の火気工事だと思われる。米国CSB(化学物質安全性委員会)がまとめた「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」(2011年7月)のつぎの項目のいずれかが欠けたと思われる。
  ①代替方法の採用、  ②危険度の分析、 ③作業環境のモニタリング、
  ④作業エリアのテスト、⑤着工許可の発行、⑥徹底した訓練、⑦請負者への監督

■ バイオディーゼルは本来爆発を起こすような液でないので、原料油タンクの運用に問題があったと思われる。バイオディーゼルと軽質の石油を混合したタンクだったのではないだろうか。
 受入れるべき原料油で問題のあった事故としては、つぎのような事例がある。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
    ・Industrialfireworld.com, Biofuel Tank Fire Kills 1, Injures 2 in Argentina, February  06, 2020
    ・M.en24.news, B Explosion and fire in a biofuel tank in Santa Fe, February  06, 2020
    ・Infobae.com, Explosión e incendio en un depósito de biocombustible en Santa Fe, February  06, 2020
    ・Lanacion.com.ar, Explotó un depósito de combustible en Santa Fe: al menos un muerto y tres heridos, February  06, 2020 


後 記: アルゼンチンのタンク火災の事故情報を取り上げるのは初めてです。バイオディーゼルのタンクで爆発・火災らしいというので、情報を調べましたが、事故状況は判然としませんでした。発災事業所など基本的な事故情報さえ分かりませんでした。意識的に企業の名を公表しない(隠す)国もありますが、アルゼンチンはそういう国情なのでしょうか。バイオディーゼルが火災を勢いづけ、1時間ほどで建屋を全焼させていますので、一地方の火災事象といった印象の事例でした。





2020年2月7日金曜日

スペインのエチレンオキシド製造工場で爆発、死傷者10名

 今回は、2020年1月14日(火)、スペイン北東部カタルーニャ州タラゴーナにあるインダストリアス・キミカスデル・オキシドーデ・エチレーノ社(Industrias Quimicasdel Óxidode Etileno:IQOXE)の化学工場でエチレンオキシド(酸化エチレン)製造装置が爆発・火災があり、10名が死傷した事故を紹介します。
爆発したエチレンオキシド製造装置と竪型タンク火災の冷却放水(写真はAfpbb.comから引用)
< 施設の概要 >
■ 事故があったのは、スペイン北東部カタルーニャ州(Catalonia)タラゴーナ(Tarragona)にあるインダストリアス・キミカスデル・オキシドーデ・エチレーノ社(Industrias Quimicasdel Óxidode Etileno:IQOXE/「エチレンオキシド化学工業」)の化学工場である。

■ 発災があったのは、工場の中のエチレンオキシド(酸化エチレン)製造装置である。
発災当時、従業員120名のうち25名が従事していたプラントである。
              タラゴーナ市内周辺(矢印が発災場所)  (写真はGoogleMapから引用)
   IQOXE社のエチレンオキシド(酸化エチレン)製造装置周辺  (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2020年1月14日(火)午後6時40分頃、化学工場で大きな爆発があり、引き続いて火災が起こった。発災時、地面が揺れるほどで、巨大な火の玉が上がり、その後、空にきのこ雲が立ち昇った。
(写真はPublic.flourish.studioから引用)
■ 事故に伴い、IQOXE(イクオキセ社)の工場従業員2名が死亡し、火傷など負傷した人は6名いた。

■ 爆発があったのは、エチレンオキシド製造装置の反応塔または関連の設備とみられる。爆発は大規模のもので、周囲の設備を破壊し、爆風で金属片が飛び散った。
(写真はFiredirect.netから引用)
■ 噴き飛んだ金属片は構内だけでなく、工場から約2,500m離れたトレフォルタのアパートに重さ約800㎏の物体が落下し、1人が死亡した。物体はプラントの反応塔などの上部の一部とみられ、金属片の大きさは約122×165×3cmだった。
              死亡した人の場所  (写真はElpais.comから引用)
   物体が落下したアパートと金属片 写真は、左;Elpais.com右; Twiiter.comから引用)
■ ビラセラの町で働いていた住民のひとりは、「突然、玄関のドアが開き、窓ガラスが震えだしました。誰もが何事が起ったのかと思い、屋外に飛び出しました。初めは地震かと思いました」と語った。

■ 発災にともない、工場の竪型エチレンオキシド・タンクなどで火災が起こった。

■ 事故発生により、消防車20台以上、救急車11台、ヘリコプター1機を伴って消防隊が出動した。

■ 地元当局は、化学薬品が絡む事故だとして住民に屋内にとどまるよう指示した。

■ 1月14日(火)の真夜中ころ、火災の制圧下に入り、エチレンオキシド・タンクの火災は消えた。消防士は燃え続けている竪型プロピレンオキシド・タンク火災の冷却と消火に集中した。数百人の消防隊員が夜通しで消防活動を行った。

■ 屋内にとどまるよう指示が出たが、爆発から3時間ほど経過した午後10時頃に解除された。

■ 事故に伴い、発災事業者近くの道路が通行制限され、閉鎖された。翌15日(水)には、閉鎖された道路は再開された。

■ 消防隊は、1月15日(水)の早い時間帯、プロピレンオキシド・タンク火災と戦っていた。

■ 爆発時の動画、タンク火災の動画、爆発後の装置の状況を伝えるユーチューブの動画が流されている。
Explosión

被 害
■ 事故に伴い死傷者が10名出た。死亡者は3名で、うち1名は構外の一般住民であった。

■ 工場内のエチレンオキシド(酸化エチレン)製造装置が壊滅的な被害を受けた。このほか竪型プロピレンオキシド・タンクなどが火災による被災を受けた。

■ 爆発により金属片が飛び散り、構内外被害が出た。詳細な被害の程度は不詳である。 

< 事故の原因 >
■ 原因は調査中で分かっていない。 IQOXE社によると、爆発の原因は今のところ不明だと述べている。

■ 爆発は引火性の高いエチレンオキシドが原因で、おそらく反応塔または反応塔に付帯した設備で発生したと報じられているが、地元のメディアの中には、約1,000万ユーロ(12億円)の設備投資を行い、昨年(2019年)、運転を開始したプラントの一部で爆発が起こったと報じている。
(写真はElpais.comから引用)
< 対 応 >
■ 発災直後、インダスト・キミカスデル・エキシドーデ・エチレーノ社(IQOXE)は爆発があったという事実を直ぐには当局へ報告していなかった。最初の通報は市民から出されたものだった。

■ 1月15日(水)午後7時頃、爆発以降燃えていたプロピレンオキシド・タンクの火災消えた。まだタンク内には液が残っており、移送する計画だという。

■ インダストリアス・キミカスデル・オキシドーデ・エチレーノ社(IQOXE)は、1月17日(金)、事故の調査をサリア化学研究所(Institut Químic de Sarrià:IQS)に依頼したと発表した。

■ プロピレン・オキシドのタンクの移送作業は、1月17日(金)の朝から始められ、1月18日(土)の朝に完了した。 
(写真はAfpbb.comから引用)

                    構外に飛んだ金属破片  (写真は、左;Elmundo.es右; Bbc.comから引用)
(写真はLavanguardia.comから引用)
(写真は20minutos.esから引用)
(写真はEuroweeklynews.comから引用)
補 足
■「スペイン」(Spain)は、南ヨーロッパのイベリア半島に位置し、人口約4,500万人の議会君主制国家である。
「カタルーニャ州」(Catalonia)は、スペイン北東部の地中海岸にあり、人口約750万人の自治州である。
「タラゴーナ」(Tarragona)は、カタルーニャ州の南部にあり、人口約13万人の市である。カタルーニャ地方の州都であるバルセロナの南西115 kmにある。
        スペインとカタルーニャ州の位置  (写真はGoogleMapから引用)
■「インダストリアス・キミカスデル・オキシドーデ・エチレーノ社」(Industrias Quimicasdel Óxidode Etileno:「エチレンオキシド化学工業」/略号: IQOXE (イクオキセ社) は、スペインでエチレンオキシドを生産する唯一の会社で、年間合計14万トンを生産する能力を持っている。この生産量の50%はPETポリマーの生産のための主要な原料の1つであるグリコールの製造装置に送られる。

■「エチレンオキシド」 (Ethylene Oxide) は、分子式 C2H4Oで、別名として酸化エチレン、エチレンオキサイド、エポキシエタンなどとも呼ばれ、EOと略称される。水や有機溶媒によく溶ける。エチレンオキシドは、無色の気体で、常温大気圧下の空気中での爆発範囲は3.0~100%である。すなわち、空気がなくとも火花や静電気などによって爆発する分解爆発性を有する。工業的には、アルミナ触媒のもと、圧力1~3MPa、温度200~300℃でエチレンと酸素を反応させて合成される。現在のエチレンオキシド・プロセスは、Scientific Design、Dow Chemical、Shellの技術によるものが主流で、この3社で世界の大部分の生産量を上げているという。
 エチレンオキシド(エポキシエタン)の事故は、つぎの事例がある。
           エチレンオキシド製造プロセスの例  (図はImage.slidesharecdn.comから引用)
所 感 
■ 装置内の設備の損傷状態がひどく、爆発力の大きさをうかがい知れる。爆発は反応塔または関連の設備とみられるが、エチレンオキシド製造装置はエチレンと酸素(空気)を反応させるという制御や管理の難しいプロセスである。計装の異常または人為ミスによる暴走反応が起こったのではないか。非定常時の異常反応が要因であった2011年11月に起きた「東ソーの塩ビモノマー製造設備で枕型タンクへ抜出し中に爆発火災」を思い出させる事例である。

■ それにしても、800㎏の金属片が2,500mも飛び、人を死亡させたという事実は信じがたいことである。原油タンク火災でボイルオーバーが起こると、原油がタンク周囲からタンク直径の10倍の距離まで飛び散る。例えば、原油タンクの直径が75mの場合、タンクから750mのエリア内に熱い原油が飛び散ると予想される。また、1966年1月に起こった「フランス フェザンのLPGタンク爆発・火災事故」(1966年1月)では、プロパン用球形タンクの爆発は激しく、飛散した破片が半径800mの範囲内で見つかった。最も大きい破片が約88㎏で飛散距離は138mだったという。これらの原油タンクやLPGタンクの事故とは、違った化学プラントの事故だという印象である。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   ・Afpbb.com,  動画:スペインの化学工場で爆発 3人死亡,  January  16,  2020
    ・Chunichi.co.jp, 化学工場で大爆発、1人死亡 スペイン北東部タラゴナ,  January  15,  2020
    ・Bbc.com, Spanish chemical plant explosion kills man 3km away,  January  15,  2020
    ・Nytimes.com, Chemical Plant Explosion in Spain Kills One and Prompts Order to Stay Inside,  January  14,  2020
    ・Elpais.com,  Explosion at chemical plant in Spain kills two, injures eight,  January  15,  2020
    ・Aljazeera.com, Chemical plant explosion in northeastern Spain kills 1, injures 8,  January  15,  2020
    ・Firedirect.net, Spain – Second Death Confirmed After Giant Chemical Blast,  January  15,  2020
    ・Elperiodico.com, La Generalitat acusa a la empresa de no seguir los protocolos después de la explosión,  January  15,  2020
    ・Elperiodico.com, Explosión en Tarragona: Trasvase de propileno a otra empresa | Última hora en directo,  January  18,  2020
    ・Thechemicalengineer.com, Explosion at Spanish ethylene oxide plant,  January  17,  2020



後 記: 今回の火災事故は、海外通信社の日本支社でも報じられた大きなニュースで、報道の中にタンクが火災または延焼しそうだという記事があり、調べ始めました。結局、想像していた円筒タンクや球形タンクではなく、プロセスに付帯している竪型タンクを指しているようでした。最後まで、火の出ていたタンクがエチレンオキシド・タンクなのかプロピレンオキシド・タンクなのか判然としませんでした。発災事業者はエチレンオキシド化学工業であり、事業内容にプロピレンオキシドは関係ないように思えたのですが、総合的に判断してプロピレンオキシド・タンクが燃え続けていたとしました。「群盲象を評す」(ぐんもうぞうをひょうす)という諺がありますが、このような難しい化学プラントの事故の報道では、なかなか事実を伝えるというのは容易ではありません。そのような中、「報道写真」の威力を感じた事例でもありました。