爆発したエチレンオキシド製造装置と竪型タンク火災の冷却放水(写真はAfpbb.comから引用)
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< 施設の概要 >
■ 事故があったのは、スペイン北東部カタルーニャ州(Catalonia)タラゴーナ(Tarragona)にあるインダストリアス・キミカスデル・オキシドーデ・エチレーノ社(Industrias
Quimicasdel Óxidode
Etileno:IQOXE/「エチレンオキシド化学工業」)の化学工場である。
■ 発災があったのは、工場の中のエチレンオキシド(酸化エチレン)製造装置である。
発災当時、従業員120名のうち25名が従事していたプラントである。
タラゴーナ市内周辺(矢印が発災場所) (写真はGoogleMapから引用)
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IQOXE社のエチレンオキシド(酸化エチレン)製造装置周辺 (写真はGoogleMapから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2020年1月14日(火)午後6時40分頃、化学工場で大きな爆発があり、引き続いて火災が起こった。発災時、地面が揺れるほどで、巨大な火の玉が上がり、その後、空にきのこ雲が立ち昇った。
(写真はPublic.flourish.studioから引用)
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■ 事故に伴い、IQOXE社(イクオキセ社)の工場従業員2名が死亡し、火傷など負傷した人は6名いた。
■ 爆発があったのは、エチレンオキシド製造装置の反応塔または関連の設備とみられる。爆発は大規模のもので、周囲の設備を破壊し、爆風で金属片が飛び散った。
(写真はFiredirect.netから引用)
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■ 噴き飛んだ金属片は構内だけでなく、工場から約2,500m離れたトレフォルタのアパートに重さ約800㎏の物体が落下し、1人が死亡した。物体はプラントの反応塔などの上部の一部とみられ、金属片の大きさは約122×165×3cmだった。
死亡した人の場所 (写真はElpais.comから引用)
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物体が落下したアパートと金属片 (写真は、左;Elpais.com、右;
Twiiter.comから引用)
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■ ビラセラの町で働いていた住民のひとりは、「突然、玄関のドアが開き、窓ガラスが震えだしました。誰もが何事が起ったのかと思い、屋外に飛び出しました。初めは地震かと思いました」と語った。
■ 発災にともない、工場の竪型エチレンオキシド・タンクなどで火災が起こった。
■ 事故発生により、消防車20台以上、救急車11台、ヘリコプター1機を伴って消防隊が出動した。
■ 地元当局は、化学薬品が絡む事故だとして住民に屋内にとどまるよう指示した。
■ 1月14日(火)の真夜中ころ、火災の制圧下に入り、エチレンオキシド・タンクの火災は消えた。消防士は燃え続けている竪型プロピレンオキシド・タンク火災の冷却と消火に集中した。数百人の消防隊員が夜通しで消防活動を行った。
■ 屋内にとどまるよう指示が出たが、爆発から3時間ほど経過した午後10時頃に解除された。
■ 事故に伴い、発災事業者近くの道路が通行制限され、閉鎖された。翌15日(水)には、閉鎖された道路は再開された。
■ 消防隊は、1月15日(水)の早い時間帯、プロピレンオキシド・タンク火災と戦っていた。
■ 爆発時の動画、タンク火災の動画、爆発後の装置の状況を伝えるユーチューブの動画が流されている。
● YouTube「Explosióny posterior incendio en el complejo petroquímico de Tarragona」(
2020/01/15)
Explosión
被 害
■ 事故に伴い死傷者が10名出た。死亡者は3名で、うち1名は構外の一般住民であった。
■ 工場内のエチレンオキシド(酸化エチレン)製造装置が壊滅的な被害を受けた。このほか竪型プロピレンオキシド・タンクなどが火災による被災を受けた。
■ 爆発により金属片が飛び散り、構内外被害が出た。詳細な被害の程度は不詳である。
< 事故の原因 >
■ 原因は調査中で分かっていない。 IQOXE社によると、爆発の原因は今のところ不明だと述べている。
■ 爆発は引火性の高いエチレンオキシドが原因で、おそらく反応塔または反応塔に付帯した設備で発生したと報じられているが、地元のメディアの中には、約1,000万ユーロ(12億円)の設備投資を行い、昨年(2019年)、運転を開始したプラントの一部で爆発が起こったと報じている。
(写真はElpais.comから引用)
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< 対 応 >
■ 発災直後、インダスト・キミカスデル・エキシドーデ・エチレーノ社(IQOXE)は爆発があったという事実を直ぐには当局へ報告していなかった。最初の通報は市民から出されたものだった。
■ 1月15日(水)午後7時頃、爆発以降燃えていたプロピレンオキシド・タンクの火災消えた。まだタンク内には液が残っており、移送する計画だという。
■ インダストリアス・キミカスデル・オキシドーデ・エチレーノ社(IQOXE)は、1月17日(金)、事故の調査をサリア化学研究所(Institut
Químic de Sarrià:IQS)に依頼したと発表した。
■ プロピレン・オキシドのタンクの移送作業は、1月17日(金)の朝から始められ、1月18日(土)の朝に完了した。
(写真はAfpbb.comから引用)
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構外に飛んだ金属破片 (写真は、左;Elmundo.es、右;
Bbc.comから引用)
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(写真はLavanguardia.comから引用)
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(写真は20minutos.esから引用)
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(写真はEuroweeklynews.comから引用)
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補 足
■「スペイン」(Spain)は、南ヨーロッパのイベリア半島に位置し、人口約4,500万人の議会君主制国家である。
「カタルーニャ州」(Catalonia)は、スペイン北東部の地中海岸にあり、人口約750万人の自治州である。
「タラゴーナ」(Tarragona)は、カタルーニャ州の南部にあり、人口約13万人の市である。カタルーニャ地方の州都であるバルセロナの南西115
kmにある。
スペインとカタルーニャ州の位置 (写真はGoogleMapから引用)
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■「インダストリアス・キミカスデル・オキシドーデ・エチレーノ社」(Industrias
Quimicasdel Óxidode
Etileno:「エチレンオキシド化学工業」/略号:
IQOXE (イクオキセ社)
は、スペインでエチレンオキシドを生産する唯一の会社で、年間合計14万トンを生産する能力を持っている。この生産量の50%はPETポリマーの生産のための主要な原料の1つであるグリコールの製造装置に送られる。
■「エチレンオキシド」
(Ethylene Oxide) は、分子式 C2H4Oで、別名として酸化エチレン、エチレンオキサイド、エポキシエタンなどとも呼ばれ、EOと略称される。水や有機溶媒によく溶ける。エチレンオキシドは、無色の気体で、常温大気圧下の空気中での爆発範囲は3.0~100%である。すなわち、空気がなくとも火花や静電気などによって爆発する分解爆発性を有する。工業的には、アルミナ触媒のもと、圧力1~3MPa、温度200~300℃でエチレンと酸素を反応させて合成される。現在のエチレンオキシド・プロセスは、Scientific
Design、Dow Chemical、Shellの技術によるものが主流で、この3社で世界の大部分の生産量を上げているという。
エチレンオキシド(エポキシエタン)の事故は、つぎの事例がある。
● 2015年6月、「中国南京市の化学プラントの爆発によって貯蔵タンクへ延焼」
エチレンオキシド製造プロセスの例 (図はImage.slidesharecdn.comから引用)
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所 感
■ 装置内の設備の損傷状態がひどく、爆発力の大きさをうかがい知れる。爆発は反応塔または関連の設備とみられるが、エチレンオキシド製造装置はエチレンと酸素(空気)を反応させるという制御や管理の難しいプロセスである。計装の異常または人為ミスによる暴走反応が起こったのではないか。非定常時の異常反応が要因であった2011年11月に起きた「東ソーの塩ビモノマー製造設備で枕型タンクへ抜出し中に爆発火災」を思い出させる事例である。
(原因は「東ソー塩ビモノマーの爆発事故(2011年)の原因」(2012年3月)を参照)
■ それにしても、800㎏の金属片が2,500mも飛び、人を死亡させたという事実は信じがたいことである。原油タンク火災でボイルオーバーが起こると、原油がタンク周囲からタンク直径の10倍の距離まで飛び散る。例えば、原油タンクの直径が75mの場合、タンクから750mのエリア内に熱い原油が飛び散ると予想される。また、1966年1月に起こった「フランス フェザンのLPGタンク爆発・火災事故」(1966年1月)では、プロパン用球形タンクの爆発は激しく、飛散した破片が半径800mの範囲内で見つかった。最も大きい破片が約88㎏で飛散距離は138mだったという。これらの原油タンクやLPGタンクの事故とは、違った化学プラントの事故だという印象である。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Afpbb.com, 動画:スペインの化学工場で爆発 3人死亡, January
16, 2020
・Chunichi.co.jp, 化学工場で大爆発、1人死亡 スペイン北東部タラゴナ, January
15, 2020
・Bbc.com, Spanish chemical plant explosion kills man 3km
away, January 15,
2020
・Nytimes.com,
Chemical Plant Explosion in Spain Kills One and Prompts Order to Stay
Inside, January 14,
2020
・Elpais.com, Explosion at chemical plant in Spain kills
two, injures eight, January 15,
2020
・Aljazeera.com, Chemical plant explosion in northeastern
Spain kills 1, injures 8, January 15,
2020
・Firedirect.net, Spain – Second Death Confirmed After
Giant Chemical Blast, January 15,
2020
・Elperiodico.com, La Generalitat acusa a la empresa de
no seguir los protocolos después de la explosión, January
15, 2020
・Elperiodico.com, Explosión en Tarragona: Trasvase de
propileno a otra empresa | Última hora en directo, January
18, 2020
・Thechemicalengineer.com, Explosion at Spanish ethylene
oxide plant, January 17,
2020
後 記: 今回の火災事故は、海外通信社の日本支社でも報じられた大きなニュースで、報道の中にタンクが火災または延焼しそうだという記事があり、調べ始めました。結局、想像していた円筒タンクや球形タンクではなく、プロセスに付帯している竪型タンクを指しているようでした。最後まで、火の出ていたタンクがエチレンオキシド・タンクなのかプロピレンオキシド・タンクなのか判然としませんでした。発災事業者はエチレンオキシド化学工業であり、事業内容にプロピレンオキシドは関係ないように思えたのですが、総合的に判断してプロピレンオキシド・タンクが燃え続けていたとしました。「群盲象を評す」(ぐんもうぞうをひょうす)という諺がありますが、このような難しい化学プラントの事故の報道では、なかなか事実を伝えるというのは容易ではありません。そのような中、「報道写真」の威力を感じた事例でもありました。
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