漏れたアンモニアと見られる白煙
(写真はDiaridetarragona.comから引用)
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< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、スペイン(Spain)カタルーニャ州(Catalunya)タラゴーナ(Tarragona)の北のラ・ポブラ・デ・マフメット(La
Pobla de Mafumet)の町にあるカルブロス・メタリカス社(Carburos
Metálicos)の化学工場である。
■ 発災があったのは、化学工場の充填場にある容量20KL(20,000リットル)のアンモニア・タンクである。
カルブロス・メタリカス社の化学工場付近 (矢印が発災場所)
(写真はGoogleMapから引用)
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ラ・ポブラ・デ・マフメットにあるカルブロス・メタリカス社の工場(充填場)
(写真はGoogleMapから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年5月31日(金)午前9時頃、化学工場にあるアンモニア・タンクから漏洩事故があった。
■ 発災に伴い、事故発生の通報が消防署にあった。
■ 漏洩はプラント外に設置された充填場のタンクの1基で起こった。さらに、アンモニアの有毒なヒュームが漏れたことによって小爆発が生じ、2人の作業員が負傷した。
■ 容量20KLのタンクにあった800リットルのアンモニアが500~600リットル漏れたとみられる。
■ 事故に伴い15名の死傷者が出た。
39歳の作業員が亡くなり、もうひとりの作業員も危篤状態で、バルセロナの病院にヘリコプターで搬送された。14名の負傷者のうち3名は消防士だった。
■ この事故によって、カルブロス・メタリカス社の工場にいた従業員は避難を余儀なくされた。一方、近隣の工場の作業員は建物内に留まり、この地域の住民も家から出られなかった。
■ カタルーニャ州市民保護局は緊急事態を宣言し、地元住民には工場に近づかず、窓をすべて閉めておくよう勧告された。
■ 消防隊は有毒な雲が構外へ流れていかないよう水噴霧カーテンを配置した。消防隊と緊急事態対処メンバーの処置によって、地域に有毒な雲が広く漂うのを防いだ。しかし、それでも工場から少し離れたところでアンモニアの強烈な臭いがした。
■ アンモニアの漏洩は午前11時30分停止した。緊急事態は警戒段階に下げられ、午後1時45分に警戒は解除された。
被 害
■ アンモニア・タンクから内部のアンモニアが500~600リットル流出した。
■ アンモニア・タンクまたは関連設備は損傷を受けていると思われるが、詳細は不詳である。
■ 死者1名、負傷者14名が出た。 近くの工場や住民に避難勧告が出された。
< 事故の原因 >
■ 死傷者が出たのは、アンモニア・タンクの漏洩によるアンモニアの人体への影響である。タンクからの漏洩原因は調査中である。
散水と思われる白い霧 (写真はEltriangle.eu
から引用)
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(写真はElperriodico.comから引用)
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(写真はAbc.esから引用)
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< 対 応 >
■ 地方治安裁判所は、事故に関して司法調査を開始した。
■ カタルーニャ州市民保護局は、アンモニア漏洩事故が上水道の飲料水に影響していないと発表した。
■ タラゴーナ地区の石油コンビナートでは、近年、つぎのような7件の事故が起こっているという。
● 2013年11月10日、「レプソル・キミカ社の爆発事故」
ラ・ポブラ・デ・マフメットにあるレプソル・キミカ社の低密度ポリエチレン工場において、 87秒間で270kgのエチレンが倉庫から流出し、爆発・火災となった。
(写真はDiaridetarragona.comから引用)
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● 2010年7月16日、「アセカ社の火災事故」
ラボラル大学の近くにあるアセカ社の工場で火災があり、2人が負傷した。火災の激しい黒煙は周辺の会社を包み込むほどだった。
(写真はDiaridetarragona.comから引用)
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● 2009年12月11日、「ヘラクレス・キミカ社の火災事故」
フランコリ工業団地にあるヘラクレス・キミカ社で労働者の作業によって火災を起こした。けが人はなかった。
(写真はDiaridetarragona.comから引用)
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● 2009年7月22日、「エルクロス社硝酸プラントで窒素酸化物の流出事故」
ポリゴン・スッドにあるエルクロス社の硝酸プラントで圧縮機のバルブの不調によって窒素酸化物の雲を引き起こし、自治体は市民保護のための対処に追われた。
(写真はDiaridetarragona.comから引用)
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● 2005年5月19日、「バイエル社でタンク清掃中、中毒症状」
ポリマー製造施設エリアで従事していた4人の作業者がバイエル社のタンクを清掃していたとき、作業手順が間違って中毒症状にかかった。
(写真はDiaridetarragona.comから引用)
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レプソル化学の球形タンクから可燃性の高いブタジエンを11.6トン流出させた。
(写真はDiaridetarragona.comから引用)
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● 2004年6月8日、「クラリアント社の流出事故」
ポリゴン・スードにあるクラリアント社で、高い可燃性製品である酸化プロピレンを8トン流出させた。けが人は無かった。
(写真はDiaridetarragona.comから引用)
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補 足
■「スペイン」(Spain)は、正式にはスペイン王国で、南ヨーロッパのイベリア半島に位置し、人口約4,650万人の立憲君主制国家である。
「カタルーニャ州」(Catalunya)は、スペインの北東部に位置し、人口約750万人の自治州である。カタルーニャ州は独自の歴史・伝統・習慣・言語を持ち、カタルーニャ人としての民族意識を有している。2010年代にはカタルーニャ独立運動が盛んになり、独立派と中央政府との対立は大きな社会問題となっている。2017年10月に独立宣言をした時点から、カタルーニャ州の企業が州外に本社を移転させるという動きが出ているという。
「タラゴーナ」(Tarragona)は、タラゴーナ県(人口約81万人)の県都で、人口約14万人の市である。
「ラ・ポブラ・デ・マフメット」(La
Pobla de Mafumet)は、タラゴナ県の北に位置し、人口約3,900人の町である。
スペインのタラゴーナの位置 (図はGoogleMapから引用)
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タラゴーナとラ・ポブラ・デ・マフメットにあるカルブロス・メタリカス社 (写真はGoogleMapから引用) |
■「カルブロス・メタリカス社」(Carburos
Metálicos) は、1897年に設立され、酸素、窒素、水素、アルゴン、ヘリウムなど幅広く産業用のガスや化学製品を製造している化学会社である。1995年以降、米国に本拠を置くエアー・プロダクツ(Air
Products)グループの一員となっている。
カルブロス・メタリカス社のラ・ポブラ・デ・マフメット充填場
(写真はGoogleMapから引用)
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■「アンモニア」(NH3)は、常温では無色の強い刺激臭をもつ気体で、空気中に放出されると白煙となる。アンモニアは粘膜に対する刺激性が強く、濃度0.1%
以上のガス吸引で危険症状を呈する。液体状のものが飛散した場合は非常に危険で、特に目に入った場合には失明に至る可能性が非常に高い。高濃度のガスを吸入した場合、刺激によるショックが呼吸停止を誘発することがあり、血中アンモニア濃度が高くなると、中枢神経系に強く働き、意識障害が生じる。
加圧・冷却により容易に液化し、液化したものは液化アンモニアと呼ばれる。アンモニアが液体から気体になる時に周囲から吸収する熱は水の次に大きく、種々の物質をよく溶かす性質がある。液化アンモニアは、通常、タンクローリー、パイプライン、タンカーで運ばれたり、ボンベ詰めにして供給される。液化アンモニアは空気と混合したり、強い酸と接触すると爆発する性質がある。しかし、アンモニアは広く使用されており、用途と製造方法の例を図に示す。
アンモニアの用途 (図はJaf.gr.jpから引用)
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アンモニアの製造方法の例 (図はJaf.gr.jpから引用)
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■「発災タンク」は、容量20KL(20,000リットル)と報じられているが、型式や大きさは分からない。グーグルマップで調べると、発災場所は化学工場の装置やタンク施設エリア外で、独立した充填場だとみられる。この地区には球形タンクや横型または竪型タンクがある。容量から見れば、型式は横型または竪型タンクではないかと思われる。容量20KLの大きさは直径2.5m×長さ5.0m程度だと思われるが、発災タンクだと断定できる材料はない。
■「アンモニアに関する事故」には、つぎのようなものがある。
1996年6月にフランスで起きた事故で、液化アンモニア・タンクの接続配管のフランジをオペレータが緩めていたとき、別なオペレータがタンクの隔離していたバルブを誤って開けたため、5時間半の間にタンク内部に貯蔵されていた3.8トンすべてが漏れ出て、11名が被災した。
2018年12月に神奈川県環境科学センターでまとめられたもので、全国で起きた化学物質関連の事故事例を596件掲載した事例集である。その中で、アンモニア関連の事例は56件(9.3%)ある。
所 感
■ 今回の事故情報は漠然とは理解できるが、事故原因を考えるような情報が無いという印象の事例である。作業員2名が死傷を負っているところをみると、設備的な問題が生じて点検しているときに漏洩が起きたのかも知れない。
■ 漏洩事故が起こってから、アンモニア・フュームの拡大阻止策として水噴霧カーテンを実施し、効果を得たといわれている。(実際には、アンモニアの白煙が構外に流れている) しかし、もっとも関心のある漏洩部の漏れ止めはどうしたのだろうという疑問が残る。また、消防士3名を含む13名の負傷者はどのような行動をとったのか、そしてどのようにして被災したのかという点は教訓として残していくべきだと感じる。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Hazardexonthenet.net,
One Dead, 14 Injured in Spanish Ammonia
Tank Explosion, June 03,
2019
・Businessinsurance.com, Ammonia Tank Explodes at Spanish
Factory, June 04,
2019
・Firedirect.net, Spain – One Dead, 14 Injured In Ammonia
Tank Explosion Including FireFighters,
June 06, 2019
・Tellerreport.com, One Worker Dies from An Ammonia Leak
and Another Is in Critical Condition in Tarragona, June
01, 2019
・Alamy.com,
Tarragona, Spain. 31st May, 2019. Members of the Emergency, May
31, 2019
・Diaridetarragona.com, Crónica del trágico accidente en el
complejo químico de La Pobla de Mafumet,
June 01, 2019
・Lasprovincias.es, Un trabajador muerto y otro crítico
por una fuga de amoniaco en Tarragona,
May 31, 2019
・Diaridetarragona.com,
7 accidentes de los últimos años en el complejo químico de Tarragona, June
01, 2019
後 記: スペインにおける事故を紹介するのは初めてです。(正確にいうと、 2017年3月の「ベルギーで硝酸タンクの漏洩によって全村避難」の補足「硝酸」の中で、「2015年2月、スペインの化学プラントで硝酸による爆発が起き、有毒ガスが大量に大気へ放出されて多くの住民が屋内避難した事例がある」と写真付きで紹介したことがあります) それでは、スペインでは事故がないかというと、タラゴーナ地区の石油コンビナートの事故例の中にもタンク事例が2件あったように、事故がないのではなく、情報のアンテナが小さいということでしょう。
ところで、今回の事故は発災写真や事後写真が無く、どのようなタンクで起きたものか分からない事故でした。写真は慌ただしく工場前に集まった人や車両のものしかないと思いました。その中で、流れるアンモニアの白煙という写真がありました。しかし、写真の撮影場所が判然としません。最近は、別な写真を発災写真と思わせるものがときどき出ます。グーグルマップで発災場所付近のストリートビューを眺めているうちに、白煙を撮った場所に似たところがありました。再び、ストリートビューをじっくり見てみました。白煙の写真と見比べていくと、まわりの風景から撮影した場所と判断することができました。ついでに、散水と思われる写真もストリートビューと見比べてみて、これも撮影場所が分かりました。このことから、2枚の写真は事故当日の発災事業所付近で撮られたものとして扱うことにしました。しかし、残念ながら、ここまでが限界で発災タンクを特定することはできませんでした。
作家の沢木耕太郎氏の著書の中に、戦争写真家キャパの撮った写真を現地に赴き、人に聞きながら、当時と同じ構図の写真を撮っていくという「キャパへの追走」(文集文庫)があります。面白い発想と実際には現地が分からない苦労や彼独特の感性のある文章で綴られた作品です。著者に感化されていて、知らず知らずに撮影場所を探る行動をしたのかも知れないと感じています。