2018年8月22日水曜日

米国ルイジアナ州の油井用タンク施設で落雷による火災

 今回は、2018817日(金)、米国ルイジアナ州セント・マーティン教区にあるJPオイル社の油井用のタンク施設で落雷による火災事故を紹介します。
(写真はKatc.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国ルイジアナ州(Louisiana)セント・マーティン教区(St. Martin Parish)にあるJPオイル社(JP Oil Company)のタンク施設である。

■ 発災があったのは、ブロー・ブリッジ(Breaux Bridge)郊外のルイジアナ州高速94号(LA94号線)沿いにある油井関連のタンク施設である。
        ブロー・ブリッジ郊外のルイジアナ州高速94号付近 (矢印部が発災場所)
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年8月17日(金)昼過ぎ、油井関連施設の古い油タンクが火災となった。発災現場からは、火災から上がる煙の雲が地域一帯に流れた。

■ 油タンクは落雷によって火災になったとみられる。少なくとも、タンク1基が火災になった。

■ 発災に伴い、セント・マーティン教区消防署が出動した。

■ ルイジアナ州高速94号、通称ミルズ通りは、ラファエットとブロー・ブリッジの間で、消防隊の消火活動中、警察によって一時的に閉鎖された。

■ 事故による負傷者はいなかった。

被 害
■ 火災に伴い、少なくともタンク1基が焼損し、内部の油が焼失した。

■ 事故に伴う負傷者は出なかった。 

< 事故の原因 >
■ 火災の原因は落雷によってタンク内部の油に引火し、火災になったとみられる。

< 対 応 >
■ ハズマット(HazMat)隊は、事故後のクリーンアップのため現場に残った。

■ 出動した消防隊員など緊急対応人員の人数や活動の詳細は分からない。
(写真はKlfy.comから引用)
(写真はKlfy..comから引用)
(写真はKlfy..comから引用)

補 足
   ルイジアナ州の位置  (写真はNizm.co.jpから引用)
■ 「ルイジアナ州」(Louisiana)は、米国南部のメキシコ湾に面しており、州都はバトンルージュ、最大の都市はニューオリンズである。人口は約457万人であるが、2005年のハリケーン・カトリーナなど何度も大型のハリケーンに襲われたため、移転する州民が多く、他の州に比べて人口が伸び悩む傾向にある。
 「セント・マーティン教区」(St. Martin Parish)は、日本ではセント・マーティン郡とも呼ばれ、ルイジアナ州南部に位置し、人口約52,000人の郡である。群庁はセントマーティンビル(人口約6,100人)であり、最大の町は「ブロー・ブリッジ」(Breaux Bridge:人口約8,100人)である。

 なお、ルイジアナ州では、つぎのような事故や対応事例がある。
         ルイジアナ州のメキシコ湾岸  (写真GoogleMapから引用)
■ 「JPオイル社」(JP Oil Company, LLC)は、1975年に設立された石油・天然ガス掘削・生産の石油会社で、ルイジアナ州ラファイエットを拠点として、主にルイジアナ州、テキサス州、カリフォルニア州、ワイオミング州で事業を展開している。
JPオイル社の石油・天然ガス掘削生産の例
(写真はJpoil.comから引用)
■ 「発災タンク」の仕様については「古いタンク」ということだけで、大きさなどの情報は報じられていない。グーグルマップで発災場所を調べてみると、ルイジアナ州高速94号(ハイウェイ)沿いに新旧の油井用タンク施設がある。(写真を参照)

 JPオイル社は、石油メジャーから既存の油井(採掘権)を買収し、新しい掘削・生産方法をとる事業を行っている。今回、発災した油井用タンク施設はその例のひとつだと思われる。グーグルマップで調べると、古い方のタンクは、直径約2.5m×3基、直径約4.5m×2基である。直径約2.5mのタンクの高さを4mとすれば、容量は20KL級タンクとなる。直径約4.5mのタンクの高さを6mとすれば、容量は100KL級タンクとなる。容量20~100KL級のタンクのいずれが発災タンクかは特定できなかった。
発災したとみられる油井用タンク施設 (右が古い施設)
(写真はGoogleMapから引用)
事故前の油井用タンク施設 (左が古い施設)
(写真はGoogleMapストリートビューから引用)
所 感 
■ 今回、久しく無かったルイジアナ州での落雷によるタンク火災である。「NASAによる世界の雷マップ」によれば、ルイジアナ州は、テキサス州などと並び、雷の多い地域である。米国の原油・天然ガスの油井施設が好調の背景から、メキシコ湾岸でのタンク火災の頻度の高まる可能性があるのではないだろうか。

 消防活動については、あまり言及されていないが、タンクが容量20~100KL級の規模から数時間で火災は消えたと思われる。注目している点は、ハズマット(HazMat)隊が出動し、事故後のクリーンアップのため現場に残ったことである。ルイジアナ州はハズマット隊の組織化に熱心なところであるが、人口約52,000人のセント・マーティン教区消防署でもハズマット隊を編成していることは興味深い。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Katc.com,  Oil Tank Fire Extinguished in St. Martin Parish,  August  17,  2018
    ・Klfy.com,  Major Fire on Mills Highway in St. Martin Parish Now Under Control ,  August  17,  2018
    ・Kadn.com,  Oil Tank on Fire at Refinery outside Breaux Bridge,  August  17,  2018
    ・Hazmatnation.com , Lightning Strikes Oil Tank in St. Martin Parish,  August  18,  2018


後 記: 米国の事故情報を調べていて、最近、感じることはツイッターを利用する人が増えたことです。以前からフェースブックを使う人はありましたが、大統領の影響(?)でツイッターを使用する人が増えているようです。私は事故の状況の詳細を知りたいので、事故があったということだけを伝えるツイッターは、参考になりません。しかし、メディアも今回のような通信社のような記事だと、伝えるべき内容に乏しいですね。人口約8,100人のブロー・ブリッジのさらに郊外で起こった火災事故では、近隣の人の意見は出ないでしょう。現地に行った記者がいなければ、消防隊が出て消火活動に勤(いそ)しんでも、感想が無いのは当然なのでしょうかね。救いは、事故の写真や映像が出ていることです。(今回は良い写真や映像ではありませんが) これがなければ、無味乾燥の内容になっているでしょう。 




2018年8月14日火曜日

イタリアの高速道路で渋滞中、タンクローリーが突っ込み爆発、死傷者72名

 今回は、2018年8月6日(月)、イタリアのボローニャを通る高速道路で渋滞していた車列にタンクローリーが突っ込み、火災が起き、その後、タンクローリーに積んでいた液化石油ガスが爆発した事故を紹介します。
(写真Nytimes.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、イタリアのボローニャ(Bologna)を通る上下8車線の高速道路A14号で、ボローニャ空港に近い市西部のボルゴ・パニガーレ(Borgo Panigale)地区付近の高架橋である。

■ 事故は、渋滞していた車列にタンクローリーが突っ込み、火災が発生したことによって起こった。
       ボローニャを通る高速道路A14号で事故のあった場所付近  (矢印が発災場所)
(図はGoogleMapから引用)
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年8月6日(月)午後1時過ぎ、ボローニャ郊外の高速道路で、液化石油ガスを積んだタンクローリーが、渋滞していた車列のトラックに突っ込み、火災が起こり、その後に爆発した。現場では、巨大な火柱が立ち、黒煙が付近一帯に立ちこめた。

■ 近くのレストランで勤務していた男性は、「激しい爆音が聞こえ、テロ攻撃だと思った。爆発後にレストランの屋根が崩れ落ち始めた。外に目をやると、目の前に炎の壁があるように感じた」と語った。

■ この事故で、2人が死亡、70人が負傷した。タンクローリーの運転手は事故時に死亡した。地元保健当局の報道官によると、やけどの治療のため55人が病院に搬送されたと説明した。高速道路警備当局によれば、負傷者のうち少なくとも2人は警官だという。在ミラノ総領事館によると、日本人が巻き込まれたとの情報はない。

■ 現場はボローニャ空港の近くで、大型ショッピングセンターなどがある。爆発の衝撃で、高速道路の高架の一部が崩落したほか、炎によって高架道路下にあった自動車販売店にあった車に延焼し、これらの車も爆発し始めた。また、付近の店舗や住宅に窓ガラスが割れるなどの被害が出た。けが人の中には、飛んできた窓ガラスの破片で負傷した人もいる。

■ 付近にあるボローニャ空港は運航に影響は出なかった。

■ 消防隊によると、爆発後、火災は3時間ほどで消えた。
■ 現場では、夜になっても積み荷の一部とみられる木材がくすぶるなど、激しい事故の痕跡が残っていた。

被 害
■ 人的被害として死者2名、負傷者70名が発生した。

■ タンクローリーは破裂損壊し、内部の液化石油ガスが焼失した。高速道路が一部崩落したほか、付近の建物や自動車に被害が出た。詳細な物的被害は分かっていない。 
               衝突の前後  白い枠内がタンクローリー)
(写真Youtube.comの動画から引用)
(写真はDailymail.co.ukから引用)
(写真はDailymail.co.ukから引用)
< 事故の原因 >
■ 事故の原因は、タンクローリーが前に渋滞していたトラックに衝突し、火災となり、タンクローリーの液化石油ガスに着火し、爆発を起こしたとみられる。
 タンクローリーが渋滞していたトラックに、なぜ衝突したかは分かっていない。

< 対 応 >
■ 警察は市民に対し、爆発が起きた一帯に近づかないよう呼びかけた。また、国家消防当局は、現場の調査などを担うヘリコプターを派遣した。

■ イタリア内相は、検察が事故原因を調べていると明らかにした。
(写真はMotorbox.comから引用)
(写真はDailymail.co.ukから引用)
崩落部に破裂したタンクが見える
(写真はMotorbox.comから引用)
(写真はDailymail.co.ukから引用)
(写真はMotorbox.comから引用)
補 足 
■ 「イタリア」(Italy)は、正式にはイタリア共和国で、南ヨーロッパにおける単一国家、議会制共和国である。イタリアは、ロスティバル(lo Stivale)と称されるブーツ状の形をしており、国土の大部分が温帯に属する人口約6,000万人の国である。
 「ボローニャ県」は、イタリアエミニア=ロマーニャ州に属する県級行政区画で、人口約100万人の県である。「ボローニャ」(Bologna)は、イタリアの北部にある都市で、人口約39万人のボローニャ県都である。
  イタリアとボローニャの位置  図はGoogleMapから引用)
■ タンクローリーによる衝突と爆発時の映像は報道でいろいろ報じられており、Youtubeにも投稿されている。その中で、事故時の状況を知る上で、参考になるものを紹介する。
 ● Video Drole、「Explosiond‘un camion-citerne à Bologne (Italie)」(2018/8/7)  

所 感
■ 今回の事例は、タンクローリーが渋滞していたトラックに衝突して起きた事故である。事故時の状況は高速道路の監視カメラに残されていたので、世界中に配信され、日本のメディアでも取り上げられた。ただ、詳細な状況ははっきりしない。前にいたトラックは、自動車を運んでいたらしいが、衝突の影響で自動車が外に飛び出し、火災を起こしたように見える。この後、高速道路上にいた車両が避難し、交通遮断された状況の中で、液化石油ガスを積んだタンクローリーが爆発したものだと思われる。タンクローリーは完全に破裂し、崩落した高速道路に残骸を残した。爆発までにしばらく時間があったようなので、高速道路上にいた車両は被害を免れた。そうでなければ、もっと被害は大きくなっていただろう。

■ タンクローリー車は、ブレーキをかけないで、前に渋滞していたトラックに衝突したと思われる。この原因は、運転手が病気で意識をなくしたか、携帯電話(スマートフォン)の画面に気をとられ、前方を見ていなかったという要因があげられる。最近、自動車だけでなく、自転車や歩行中の携帯電話(スマートフォン)の使用による追突や事故を生じる問題があるが、絶対に止めなければならない。今回の事故は、思ってもいなかったような大きな影響になることを示す事例である。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Asahi.com, イタリアでタンクローリー爆発 1人死亡、高架が崩落,  August  07,  2018
    ・Mainichi.jp, イタリア 高速でローリー爆発 2人死亡60人超負傷 ,  August  07,  2018
    ・Cnn.co.jp, 高速道路でタンクローリー爆発 3人死亡、67人負傷 イタリア,  August  07,  2018
    ・Jp.sputniknews.com, ボローニャでのタンクローリー爆発の瞬間、動画に撮影,  August  07,  2018
    ・Afpbb.com, 伊北部でタンクローリー爆発、約70人死傷,  August  07,  2018
    ・Jiji.com, イタリアでタンクローリー爆発、2人死亡=60人以上負傷,  August  07,  2018
    ・Tokyo-np.co.jp, イタリアでローリー炎上2人死亡 高速道路事故、60人負傷,  August  07,  2018
    ・Nhk.or.jp, イタリアでタンクローリー事故 大規模な爆発・炎上,  August  07,  2018
    ・Fnn.jp, タンクローリー大爆発 3人死亡 伊・ボローニャ,  August  07,  2018
    ・Yomiuri.co.jp, タンクローリー追突し爆発…イタリア,  August  07,  2018
    ・Driving.co.uk, 70 Injured in Devastating Tanker Explosion Italy,  August  07,  2018
    ・Washingtonpost.com, Tanker Truck Explosion in Italy Kills 2,Iinjures up to 70,  August  06,  2018
    ・Cnbc.com, Fuel Truck Explosion in Italy Kills 2, Injures up to 70,  August  06,  2018
    ・Dailymail.co.uk, New CCTV Shows Moment Gas Tanker Plowed into Back of a Truck, Sparking Explosion that Left One Dead and Scores Injured in Italy,  August  07,  2018
    ・Kdvr.com , 3 Killed, Several Injured in Italy Highway Gas Tanker Explosion,  August  07,  2018    



後 記: 今回の事故の状況はいろいろ報じられていますが、最初に悩んだのが、動画です。米国のCNNが報じている動画の初めに「グラフィック・イメージを含むので、視聴者の慎重な裁量に委ねる」というような表示が出てきました。当初は、爆発の画面に車両が映っていないので、この場面に何らかな処理をしているのかなという疑問を持ちました。(下記写真を参照) しかし、いろいろ調べていくと、どうやらそうではなさそう気がしてきましたが、「グラフィック・イメージ」(Graphic Imagery)の意味がはっきりしませんし、結局、この爆発動画からの写真を使わないことにしました。このような事実をあいまいにする表現は避けてほしいと思いますね。
(写真はEdition.cnn.comから引用)

2018年8月8日水曜日

多摩市の建設中のビルでウレタン製断熱材の火災、死傷者48名

 今回は、2018年7月26日(木)、東京都多摩市の建設中の多摩テクノロジービルディング(仮称)で起こった火災事故を紹介します。貯蔵タンクの事故ではありませんが、日本で起こった死傷者48名という大きな事故であり、取り上げました。
(写真はArtide.auone.jp から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、東京都多摩市唐木田の建設中の多摩テクノロジービルディング(仮称)で、三井不動産が100%出資する南多摩特定目的会社が発注し、安藤ハザマが施工していた。

■ 事故があったのは、地上3階、地下3階建ての工事中の建物(建築面積5,360㎡)で、工事は2016年10月に着工し、2018年10月に完成する予定だった。事故当時は内装工事を中心に作業しており、足場の解体や内装など、仕上げ工事に入りつつある段階だった。
事故のあった多摩市唐木田の多摩テクノロジービルディング(仮称)周辺 (矢印が発災場所)
(図はGoogleMapから引用)
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年7月26日(木)午後1時45分頃、多摩市で建設中のオフィスビル(鉄骨造り、地上3階地下3階)の地下3階の床下から出火した。火災による黒煙が広範囲に立ち上り、周辺は騒然となった。

■ 事故発生の通報を午後1時52分に受けた東京消防庁は、ただちに現場へ出動した。

■ 黒煙が白昼の住宅街を包み込んでいた。昔ながらの平屋がならび、公園で子どもたちが遊んでいた閑静な住宅街を通り抜けた先に、サイレンを回した消防車や救急車が多数立ち並んでいた。緊急車両は、防音シートがところどころ破け、煤けた建物を取り囲んでいた。現場近くの道路は規制線が張られ、交差点では複数の警官が車を誘導する姿も見えるなど、物々しい雰囲気に包まれていた。

■ 現場では当時、約320人の作業員が働いていたが、逃げ遅れた男性作業員5人が煙を吸うなどして死亡した。負傷者は気道熱傷など43人にのぼり、このうち約24人は症状が重いという。死亡した5人は屋上で1人、地下3階で2人、地下3階の下の免震階で2人が発見された。亡くなった作業員は全員男性で、年齢は52歳、51歳、49歳、44歳で、一名は60歳代である。

■ 地下で配線作業をしていた男性は「火事を伝える大声に気づいて階段を駆け上がったが、煙で何も見えない状態で、どこから外に出たらいいか分からなかった」と声を震わせた。火が燃え始めるところを目撃した男性は「はじけるような音がして、炎が見えたが、すぐに灰色の煙が一直線に上がった」と振り返った。

■ 警視庁などによると、作業員2人が地下3階でガスバーナーを使い、鉄骨(金属製のくい)を切断していたところ、地下3階の下の免震階の天井部分に貼られたウレタン製の断熱材に火花が飛んで、出火したとみられる。ひとりが切断、もうひとりが火花を水で消す役割だったという。火がついた後、作業員は消火器を使うなどして消火を試みたが、火の回りが早く、瞬く間に燃え広がったという。

■ 東京消防庁によると、この火災で約70台の消防車や救急車が出動。延べ床面積約17,656㎡のうち約5,000㎡が燃え、約6時間後の午後7時40分に火災を鎮圧した。正式な鎮火時間は午後10時38分だった。

■ 5人が死亡した建設現場では、建物内で出火直後に停電が起きていたことが分かった。現場の地下3階では、出火直後に作業リーダーが「火事だ」と、トランシーバーで別な作業員に連絡した。多くの作業員が避難を始めたが、直後に停電して照明が消えたという。黒煙が充満し、作業員の避難の遅れにつながった可能性がある。警視庁は、工事用の電源ケーブルが焼けて断線したのではないかとみている。

被 害
■ 人的被害として死者5名、負傷者43名(重症13 名、中等症11 名、軽症14 名ほか)が発生した。

■ 物的被害は分かっていない。 

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は調査中である。
 安藤ハザマは、「地下3階にて鉄骨のガスバーナーによる溶断作業中に、何らかの原因で火が付近の可燃物に移り、急速に延焼したもの」とみている。
(写真はArtide.auone.jp.から引用)
(写真はBrandnews-s.comから引用)
< 対 応 >
■ 東京消防庁から出動した車両は、消防車両74 台、消防防災ヘリコプター3機だった。

■ 警視庁は業務上過失致死傷容疑で捜査を始めた。7月27日(金)午前、捜査員ら数十人が現場に入った。

(図はTokyo-np.co.jpから引用)
■ バーナーの作業は、通常、火花がウレタン製の断熱材に触れないよう引火防止シートを使う。警視庁は、作業員が出火当時、工事手順に問題がなかったか調べている。27日(金)の捜査によって、地下3階の床に隙間があったことが分かった。ガスバーナーの火花が隙間から落ち、地下3階の下の免震階の天井部分にあるウレタン製の断熱材(厚さ15mm)に引火したとみられる。地下3階ではアセチレンガスのバーナー作業が二人一組で行われ、ひとりが鉄骨を切断、ひとりがコップの水をかけ、飛び散った火花を消す役割だった。床には、柱を囲むようにベニヤ板を敷き、さらに不燃シートをかぶせていた。免震階でも、作業リーダーがウレタン製の断熱材に引火しないよう警戒していた。

■ 7月27日(金)、施工した安藤ハザマの社長が記者会見し、謝罪した。記者会見の中で、昨年、別の現場で、同じ原因とみられる火災を起こしていたことを明らかにした。同社は、現場で火を使う際、周囲を不燃シートで覆ったり、初期消火用にバケツの水を用意したりするなど、六つのルールを定めていたという。社員や下請け業者を含めて現場での朝礼などで周知し、下請け業者が変わる際には説明の場を設けていたという。同社は、「過去の件にも触れて火災の怖さを伝えていたが、こういう結果になってしまった」と謝罪した。

■ 7月27日(金)、日経コンピュータは、建設中で火災になった「多摩テクノロジービルディング(仮称)」のオフィスビルが、米国アマゾン・ウェブ・サービスのクラウドサービス「Amazon Web Services」(AWS)向けのデータセンターである可能性が高いと報じている。

■ 建設工事中の建物では、スプリンクラーなどの消火設備が未整備な上、資材がむき出しの部分もあり、火災のリスクは高いとされる。東京消防庁管内では、2007年~2016年の過去10年間、工事現場の火災件数は年間80~130件程度で推移している。2016年に発生した82件のうち、ガスバーナーなどを使用した溶接・溶断作業中の火災が26件で最多だった。

(図はSankei.comから引用)
■ 火元が地下の最下層だったことも、被害を急速に拡大させた一因とみられる。閉鎖的な地下では煙や熱がこもりやすい。近畿大工学部の難波義郎教授(建築防火)によると、階段などを通じて煙が3~5m/s程度で上昇するといい、今回のケースについて「地下に充満した煙が最上階まで一気に到達した可能性がある」とみる。高温の黒煙が充満した地下では、消防隊員の救助活動も難しくなる。死者の5人のうち、最後のひとりが見つかったのは免震階付近で、搬送されたのは出火から数時間後だった。

■ 業界団体のガイドラインでは、ウレタンなど燃えやすい資材の近くでは、原則火気厳禁としている。やむを得ず作業する場合は、防火シートで周囲を覆うなどの措置を求めている。安藤ハザマは7月27日(金)の会見で、「(火花が出る鉄骨の)切断作業が終わった後に、断熱材を設置する手順もある」と説明している。今回の現場でウレタン設置後に火気を伴う作業を行った経緯について、作業員らから聴き取るとした。
近畿大難波教授は、「手順を守っていれば、通常ではありえない火災である。ハード・ソフトの両面で複合的な原因を検証していく必要がある」と指摘する。

■ 石油素材のウレタンにいったん火が付くと、一気に燃え広がる「爆燃」と呼ばれる現象が発生する。急な延焼で逃げ遅れの死者が出た火災は過去にもあり、業界団体などは安全管理の徹底を改めて呼びかけている。

■ 7月27日(金)、総務省消防庁予防課は、類似の火災による被害の発生を防止するため、 「新築の工事中の建築物の防火対策に係る注意喚起等について」という通達を出し、同様の建築物に対し、個々の施設の態様に応じて防火対策に係る注意喚起を行うよう指導した。

■ 7月27日(金)、厚生労働省労働基準局は、類似の火災による労働災害の発生を防止するため、「建設現場における火災による労働災害防止について」という通達を出した。

■ 7月30日(月)、多摩市長は「唐木田で発生した火災に関する多摩市長コメント」と題して、「二度とこのような惨事が起こらないことを切に願う」旨のコメントを同市のウェブサイトに載せた。この中で、「東京消防庁、多摩市消防団、医療関係者をはじめ、応援に駆けつけてくださった町田市消防団など、現場で救助・消火活動等にあたられた全ての皆さまに、あらためて感謝する」と述べている。
(写真はArtide.auone.jpから引用)
(写真はResuponsu240.comから引用)
(写真はnews.jorudan.co.jpから引用)
(写真はToyokeizai.netから引用)
(写真はNikkei.comから引用)
(写真はTokyo-np.co.jpから引用)
補 足 
■ 「多摩市」は、東京都23区外の多摩地域南部にあり、人口約147,000万人の市である。
            東京都多摩市の位置   (図はIhin.freshman-s.com から引用)
■ 「安藤ハザマ」は、正式には㈱安藤・間(Hazama Ando Corp.)で、東京都港区に本社をおく大手建設会社である。安藤建設と間組(はざま・ぐみ)が合併してできた会社で、両社は対等な精神に基づく吸収合併の方式による合併(存続会社は間組)により、2013年に新会社としてスタートし、社名はそれぞれの旧社名をとり「安藤・間」(呼称は「安藤ハザマ」)となった。従業員は約3,500名である。

所 感
■ 今回の事例は、貯蔵タンク関連ではないが、火災直後のニュース映像で猛烈な煙を見て、これは石油タンクの火災と同じという気がして、調べることとした。やはり、燃えたのは、断熱材に使用されていた石油系のウレタンだった。以前、断熱材としては石綿(アスベスト)が使用されていたが、肺がんを起こす恐れから使用が禁止され、現在は、繊維系断熱材のグラスウールやロックウールなどに代わり、さらに発泡プラスチック系断熱材が使用されるようになった。
 最近では、施工性の容易さから発泡プラスチック系断熱材が多く使用される。繊維系断熱材のグラスウールやロックウールは、ガラスを主原料としているため、燃えにくい特性がある。一方、例えば、ポリウレタンは、軽く、断熱性が高く、様々な形状で加工できるといった特徴から建材として幅広く使用されるようになったが、燃えやすいという弱点がある。また、火災時、猛烈な発煙や有毒ガスを発生する。今回は、このウレタンフォームの燃えるという弱点(欠点)が前面に出てしまった事例だといえよう。不燃性(難燃性)でない断熱材の使用が果たして適切なのだろうかという疑問をもつ。

■ 事故を防ぐためには、つぎの3つの要素が重要である。この3つがいずれも行われなかった場合、事故が起こる。
 ① ルールを正しく守る
 ② 危険予知活動を活発に行う
 ③ 報連相(報告・連絡・相談)を行い、情報を共有化する
 今回の事故では、「ルールを正しく守る」という点において問題がありそうである。「ルールを守る」ことは行われていたかもしれない(法的に許されている不燃性でない断熱材の使用という点を含め)が、そのルールができた背景を知って「正しく」守ったか疑問がある。
 これと通じるが、作業員がウレタンの燃焼実験を見ておれば(ウレタンの危険性の本当の認識)、「危険予知活動」は違ったものになっただろう。自分たちの工事では、火災は起きないだろうという「正常性バイアス」が働いていたものだと感じる。「危険予知活動を活発に行う」は、この「正常性バイアス」を取り除いておこなわなければならない。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Mainichi.jp,  火災建設現場、5人死亡 作業員40人けが 東京・多摩,  July  27,  2018
    ・Nikkei.com, 多摩市の建設現場で火災 5人死亡、30人重症 ,  July  26,  2018
    ・Asahi.com, 東京・多摩の建築現場で火災 5人死亡、約25人が重傷,  July  26,  2018
    ・Tokyo-np.co.jp, 建設現場火災で5人死亡、東京 約40人けが警視庁捜査,  July  26,  2018
    ・Tokyo-np.co.jp, 多摩5人死亡火災 出火直後に停電 逃げ遅れ影響か,  July  26,  2018
    ・Ad-hzm.co.jp, 弊社の工事現場での火災発生に関するお知らせ(第1報),  July  26,  2018
    ・Tokyo-np.co.jp, B3階、床の隙間から火花落下か 東京・多摩市のビル建設現場火災,  July  27,  2018
    ・Tokyo-np.co.jp, 多摩5人死亡火災 床隙間から火花落下か ウレタン引火の可能性,  July  28,  2018
    ・Sankei.com , 東京・多摩のビル建設現場火災、悪条件重なり被害拡大か 作業工程に疑問も,  July  27,  2018
    ・Asahi.com, 断熱材引火、昨年に別現場でも ビル火災の安藤ハザマ,  July  27,  2018
    ・Ad-hzm.co.jp, 弊社の工事現場での火災発生について,  July  27,  2018
    ・Fdma.go.jp , 東京都多摩市における工事中の建物火災(第5報),  July  27,  2018
    ・Fdma.go.jp , 建設現場における火災による労働災害防止に係る 厚生労働省の通知等について(情報提供),  July  27,  2018
    ・Mhlw.go.jp, 建設現場における火災による労働災害防止について,  July  27,  2018
    ・Nikkei.com, 多摩のビル火災、アマゾンのデータセンターか ,  July  30,  2018
    ・Toyokeizai.net , 多摩市火災、建物は「データセンター」だった,  July  31,  2018
    ・Cafe-dc.com , 東京・多摩のビル建設現場火災でAWSのビルが炎上,  August  3,  2018
    ・Nikkei.com, ウレタン火災、「爆燃」で急延焼 業界団体が注意促す,  August  3,  2018


後 記: 今回の事故の状況はいろいろ報じられていますが、消防活動についてはあまり報道されていません。消防庁の情報でも、消防士の動員数を含めてほとんど言及されていません。人が建物内にいることが分かっており、救助と消火活動の進め方にタンク火災よりも難しい判断があったはずです。消火戦略の判断などいろいろと聞いてみたいところです。このことは、地方の消防署の第一線は感じているでしょう。今回は、建設工事中のビルということでしたが、すでに建設が終わった大量に発泡プラスチック系断熱材を使用したビルが火災になれば、今回と同じような状況になる可能性が高いといえます。