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2025年12月12日金曜日

米国オクラホマ州の石油生産関連の施設でタンク設備が爆発・火災

 今回は、20251113日(木)、米国オクラホマ州オクラホマ・シティにある石油生産関連の施設内の塩水処理施設とみられるタンク設備が爆発・火災を起こした事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国オクラホマ州(Oklahoma)オクラホマ・シティ(Oklahoma City)ムスタング(Mustang)にあるバリダス・エナジー社(Validus Energy)の石油生産関連の施設である。

■ 事故があったのは、サウスウェスト89番通り(Southwest 89th Street)とサウス・シマロン・ロード(South Cimarron Road)交差点付近にある石油生産関連の施設内の塩水処理施設とみられるタンク設備である。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 20251113日(木)午後3時頃、施設内のタンク1基が爆発し、火災となった。爆発で円筒型タンクの屋根が噴き飛んだ。

■ 住民のひとりは、「私は1マイル(1.6km)ほど離れたところにいて停電になり、大きな音が聞こえました。それは家が爆発したように感じました」と語っている。

■ 発災にともない、消防署の消防隊が出動した。

■ 発災時、現場には誰もいなかった。

■ 出動した消防隊は泡消火活動を行い、消火にあたった。

■ 事故にともなう負傷者はいなかった。

■ 火災の原因は現時点では不明である。

■ ユーチューブには、石油生産関連の施設の火災を伝えるニュース動画が投稿されている。

 Youtube.comOklahoma City fire crews responding to tank battery fire2025/11/14

 ●Youtube.comFire crews battle tank battery explosion and fire2025/11/16

被 害

■ タンク1基が損壊した。内部の油が焼失した。

■ 負傷者はいなかった。

< 事故の原因 >

■ 火災の原因は不明である。

< 対 応 >

■ 消防隊の消火活動によって火災は鎮火した。

■ 出動したオクラホマ・シティ消防署は、ソーシャルネットワーク(SNS)にタンク火災の事故の写真を投稿した。

補 足

■「オクラホマ州」(Oklahoma)は、米国の中部にあり、人口約409万人の州である。

「オクラホマ・シティ」(Oklahoma City)は、オクラホマ州中央部に位置し、同州最大の都市で、人口約65万人である。

■「バリダス・エナジー社」(Validus Energy)は、コロラド州デンバーに拠点を置き、石油・ガス上流部門の開発を行っている探鉱・生産会社である。主にオクラホマ・シティ近郊で石油開発を行っている。

■ 発災施設はタンク・バッテリーと報じられているが、被災写真などからこのブログでは「石油生産関連の施設内の塩水処理施設」とした。「塩水処理施設」は、天然ガス井の生産で付随してきた塩水をタンクローリー車などで集積して、油水分離し、水(塩水)はポンプで地下に戻すプロセスである。一般的な塩水処理施設のプロセスフローの例は図のとおりである。塩水処理施設は、過去からタンク火災が発生しており、最近でも同じオクラホマ州で起こった「米国オクラホマ州の塩水処理施設で落雷によるタンク火災」(20255月)の事例がある。

■「発災タンク」は塩水処理施設内の円筒タンクである。一般的に塩水タンク群はFRP製が使用されるが、この施設では鋼製が使用されていると思われ、発災タンクは鋼製の屋根が噴き飛んでいる。グーグルマップで発災タンクを調べると、直径は約3.5mで、高さを6.0mと仮定すれば、容量は57KLとなる。

所 感

■ 火災原因は不明と報じられている。塩水処理施設内の円筒タンクは火災が多い。考えてみれば、タンクは塩水の中に付随している油(天然ガス)を分離しているが、このプロセスには安全設備がなく、爆発・火災のリスクは高い。おそらく、同伴してくる油の質は重質だというのが前提であろう。しかし、実際には軽質分が混じってきて爆発混合気を形成しやすい。ここに着火源(静電気や落雷など)があれば、容易に爆発や火災が起こる。このようなリスクを抱えながら、米国では陸上の原油や天然ガスを生産し、繁栄しているのだろうと思ってしまう。

■ 消火戦略には積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略の3つがあるが、報じられているところによれば、泡消火の積極的戦略をとっている。FRP製タンクを使用している塩水処理施設では、不介入戦略をとるが、鋼製のタンク群でタンク屋根が噴き飛んでいるので、積極的戦略をとっている。火災写真では、かなり激しく燃え、黒煙が噴き出しているが、泡消火の形跡はないように見える。おそらく、油量は多くなく、火災時間は短かったのではないだろうか。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     News9.com, Authorities respond to Mustang tank battery fire,  November 13,  2025

     Facebook.com, Oklahoma City Fire Department,  November 14,  2025

     Youtube.com,  Oklahoma City fire crews responding to tank battery fire, November 14,  2025 

  ・Youtube.com, Fire crews battle tank battery explosion and fire, November 14, 2025


後 記: タンクバッテリーの火災ということで、調べることとしました。しかし、被災写真がバラバラで中にはフェーク写真があるのではないかと思ってしまうような事例でした。発災場所も違っているのではないかと思いました。断片的な情報をつないでいくと、事故状況がだんだん分ってきました。これまでの事故と同様、オクラホマ州のタンク火災の情報は疲れますが、従来よりもまとまったブログになりました。

2025年12月8日月曜日

米国テキサス州ヒューストンの石油生産施設でタンク火災、少年と関係か

 今回は、米国テキサス州ハリス郡ヒューストンにある石油生産施設で貯蔵タンクが火災となった事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国テキサス州(Texas)ハリス郡(Harris)ヒューストン(Houston)のダウンタウンから北のウォーレンウッド・ドライブ(Warrenwood Drive12600番地にある石油生産施設である。

■ 事故があったのは、石油生産施設内の貯蔵タンクである。タンクは地中から天然ガスを汲み出した未精製の石油と塩水が入っていたとみられる。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 20251126日(水)午後2時頃、ウォーレンウッド・ドライブの近くにある石油生産施設で火災が発生した。

■ 発災にともない、消防隊が出動した。

■ 火災は複数の商業地区に近い道路脇にある石油生産施設で発生し、多くの住民が爆発音を聞いた。タンク近くの住民のひとりは、「大きな音が聞こえたのですが、どこから来たのか分かりませんでした。姉が2階にいて、家が揺れたので何かが落ちたのかもしれないと思いました」と語っている。

■ 火災になったのは、施設内の貯蔵タンク2基で、天然ガスの未精製の石油製品が燃えた。

■ 消防隊は近くの道路の交差点を封鎖したが、道路の向こう側から消火ホースを展張して回収され次第、交差点は再開する予定だという。

■ 事故にともなう負傷者は報告されていない。

■ 消防隊が現場周辺の空気の状態を監視しているが、当局は煙による健康被害は懸念されておらず、被害の報告もないという。近隣住民は煙が辺り一面に漂う様子を見守った。しかし、大気質への影響は最小限にとどまったようで、当局は屋内退避命令を出さなかった。

■ 火災の原因は調査中である。

■ ユーチューブでは、タンク火災の状況を伝える動画が投稿されている。

 YoutubeFire at NW Harris County tank farm contained2025/11/27

   ●YoutubeHarris County investigators release footage of juveniles fleeing scene of petroleum storage fire2025/11/27

   ●YoutubeKlein-area tank fire | Full report2025/11/27

   ●YoutubeFirefighters contain tank fire in northwest Harris County2025/11/27

被 害

■ 石油貯蔵タンク2基が損傷した。内部の石油が焼失した。

■ 負傷者は出なかった。

< 事故の原因 >

■ 火災の原因は調査中である。当局は、火災発生時にタンクにふたりの少年がおり、原因に関して何らかの関係があるとみている。  

< 対 応 >

■ 当初、出動した消防隊は消火を試みず、タンクの冷却のみにとどめていた。しかし、タンク所有者の担当者が現場に到着し、いくつかのバルブを閉めると、消防隊員は泡消火剤を使用して制圧にかかった。 

■ 泡消火を始めると、消火用泡剤が不足しそうなので、ほかの消防署から泡薬剤の支援を要請した。

■ 火災は、午後420分時点で鎮火した。ハリス郡北西部の消防隊は石油生産施設の火災を消し、ヒューストン近郊の企業や地域住民に危険を及ぼす可能性のあった火災を終息させた。

■ ハリス郡消防局は、火災発生時に石油生産施設から走り去る少年ふたりの動画を公開した。消防局は、医療処置が必要かどうかを見極めるため、ふたりの行方を探している。少年のひとりが近くの調整池で顔に水をかける様子が見られ、医療処置が必要になる可能性があるという。

■ 消防署の緊急無線の録音には、爆発時にタンクに少年が載っていて、そこから投げ出された可能性があるという。

■ この事故は懸念を引き起こした。火災は限定的なものにとどまったが、これらの施設が緊急時に危険をもたらす可能性があることを住民に改めて注意喚起する必要がある。石油や化学物質の貯蔵施設は地域経済に重要な役割を果たしている。一方、これらの施設での火災は、安全当局や地域指導者の迅速な対応を必要とする。これらの事故は、地域全体の産業安全に関する継続的な懸念を浮き彫りにしている。

ハリス郡北西部は、新たな住宅地区やビジネスパークの建設により拡大を続けている。成長が加速すれば、工業地帯の近くに住み、人が増えることになる。迅速な緊急対応はリスクを軽減し、周辺地域を保護するのに役立つ。

補 足

■「米国テキサス州」(Texas)は、米国南部にあってメキシコ湾岸に面し、メキシコと国境を接する人口約3,050万人の州である。

「ハリス郡」(Harris)は、テキサス州の南東に位置し、人口約473万人の郡である。

「ヒューストン」(Houston)は、ハリス郡の南に位置し、人口約230万人の都市である。

■「発災タンク」は、石油生産施設内の貯蔵タンクで、地中から天然ガスを汲み出した未精製の石油と塩水が入っていたとみられる。グーグルマップで調べると、ウォーレンウッド・ドライブ近くには2か所の貯蔵タンクがある。いずれも2基のタンクを要するが、メディアのひとつで発災タンクが明確に明示されている。発災タンクの直径は約3.5mであり、高さを4.2mと仮定すれば、容量は約40KLである。タンク2基のうち、火災が早く消えた1基が塩水タンクだろう。

所 感

■ 火災の原因は、「貯蔵タンク事故の研究」20118月)の分類によると、おそらく「故意の過失」だろう。

ハリス郡消防局は、火災発生時に石油生産施設から走り去る少年ふたりの動画を公開し、「医療処置が必要かどうかを見極めるため、ふたりの行方を探している」というが、監視カメラはタンクそばの鉄塔の上にあり、タンク上での少年の行動は撮影されている。少年の保護目的で動画公開を控えていると思われる。

■ この種のいたずらの「故意の過失」によるタンク火災は、「米国オクラホマ州で銃弾によるタンク火災」20122月)以来である。しかし、米国における陸上の小規模な石油生産施設はほとんど安全上の設備や対策がないところが多く、日本から見れば、おかしいくらい無防備である。

 いたずらによる「故意の過失」によるタンク火災があったとしても、気に留めないのが石油王国の米国の世情なのだろう。しかし、メディアの中にも住宅地に取り残された石油生産施設に警鐘を鳴らすところがでてきたのは変化の表れである。

■ 消火戦略には積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略の3つがあるが、当初は冷却放水による防御的戦略をとっている。石油生産施設のタンク火災では、不介入戦略をとることもあるが、さすがにまわりの商業施設や住宅地を考慮して泡消火の積極的戦略をとった。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Fox26houston.com, Klein-area fire,  November  27,  2025

    Abc13.com, Fire marshal's office says they want to talk to 2 juveniles seen running in area of tank farm fire,  November  27,  2025

    Bicmagazine.com, Tank fire contained in northwest Harris County,  November  26,  2025

    Click2houston.com, Fire Marshal’s Office searching for 2 juveniles seen running away from NW Harris County tank farm around time of fire,  November  26,  2025

    Houston.com, Houston Crews Extinguish Tank Farm Fire in Northwest Harris County,  November  27,  202

    Msn.com, Firefighters battle tank fire in northwest Harris County,  November  26,  2025 

    Hoodline.com, Officials Quell Tank Blaze in Northwest Harris County, Search for Two Youths Possibly Impacted by Incident,  November  27,  2025


後 記: 今回の事例で感じたのは、タンク事故への公的機関の対応とタンク火災の消火戦略のとり方について何かしっくりこない違和感がありました。何かなと思っていたのですが、これが日本だったら違った対処をしているのではないかということでした。それで「所感」のようなことを書きました。

2025年12月2日火曜日

イラクの石油貯蔵所で溶接工事中にパイプラインが爆発・火災、死傷者7名

 今回は、20251026日(日)、イラク南部のバスラ県にあるバスラ・オイル社の石油貯蔵所で起こった爆発・火災事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、イラク(Iraq)南部のバスラ県(Basra)ブルジャシア地区(Burjesia)にあるバスラ・オイル社(Basra Oil Company)の石油貯蔵所である。

■ 事故があったのは、ズバイル第1石油貯蔵所(Zubair)内にある石油輸出用のポンプ・タービン施設である。施設は原油を輸出網に移送するためのポンプ・タービン設備とパイプラインが設置されている。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 20251026日(日)午前9時過ぎ、ズバイル第1石油貯蔵所で爆発があり、火災になった。

 目撃した人によると、石油貯蔵所内で炎が噴き出し、遠く離れた場所からでも見えるほどの濃い黒煙が空高くに立ち上ったという。

■ 発災にともない、消防隊が出動した。 出動したのは、石油部門、バスラ県、石油部門を支援する団体からの安全対策チームと消防チームであり、火災の鎮圧にあたった。 

■ バスラ民間防衛局の情報筋によると、爆発はズバイル第1石油貯蔵所内にあるポンプ・タービン施設とみられ、大規模な火災が発生したという。一方、イラク石油省は、ズバイル第1石油貯蔵所の古いポンプシステムでガス漏れによりパイプラインで爆発・火災が発生したといっている。

■ 事故にともない、バスラ・オイル社の保管所部門責任者が死亡し、6名が負傷したという。負傷した作業員の中には重度の火傷を負い、危篤状態にある者もいると報じられていたが、その後、ひとりの死亡が確認され、死者2名、負傷者5名となった。一方、バスラの地元当局者は、爆発で1名が死亡、作業員25名が負傷していると伝えられた。

■ 現場作業員のひとりは、犠牲者となった保管所部門責任者は施設内で漏洩の報告を受け、すぐに現場に赴いたといい、「保管所部門責任者が民間防衛局と電話中に爆発が発生し、火傷と窒息によって即死だった」と付け加えた。

■ バスラのズバイル第1石油貯蔵所内の老朽化したポンプ系からガス漏れが発生し、作業員がパイプライン付近で溶接作業を行っていた際に、爆発・火災が発生した。このパイプラインは、ズバイル油田から近隣の貯蔵タンクへ原油を移送しているという。

■ 消防隊は、原油を移送するパイプラインの一部で発生した火災の消火活動に当たった。火災は複数の倉庫を巻き込んだ。

■ ユーチューブやフェースッブックには、石油貯蔵所の事故を伝える動画が投稿されている。

 Youtube.com, Massive Fire in Basra — Gas Depot Explosion Halts Oil Exports in Iraq2025/10/26

 ●Youtube.com, Iraq’s Zubair Oilfield Catches Fire, Kills Two2025/10/26

 ●Facebook.com,A gas leak triggered an explosion at the Zubair gas storage2025/10/27

   ●Instagram.com,  مفاجئ يهز حقل الزبير النفطي في البصرة جنوب العراقالانفجار ... فرق الاطفاء تعمل على اخماد الحريق ومنع امتداده الى مستودعات النفط المجاورة.  」2025/10/26

 ●Youtube.com,انفجار توربينات بمصفاة الزبير في البصرة .. تفاصيل جديدة 」2025/10/26

■ ティックトック(TikTok)には、発災状況を上空から撮影した動画が投稿されている。 動画から切り取った写真の一部を下に示す。

被 害
■ ズバイル第1石油貯蔵所内にある石油輸出用のポンプ・タービン施設およびパイプラインが損傷した。

■ 死傷者は7名出た。死者2名、負傷者5名である。

< 事故の原因 >

■ 原因は特定されていない。ズバイル第1石油貯蔵所内のポンプ系からガス漏れが発生し、作業員のパイプライン付近での溶接作業で爆発・火災が発生したとみられる。

< 対 応 >

■ 火災現場は部分的に鎮圧されたが、完全消火に向けた努力が続けられた。

バスラ・オイル社(BOC)の声明によると、消防隊は消火に数時間取り組み、1026日(日)午後半ばには完全に鎮火したという。

■ イラク石油省は、1026日(日)、石油貯蔵所内の火災は完全に鎮火したと発表した。

■ ズバイル第1貯蔵所の火災によりより40万〜60万バレル(63,60095,400KL)の原油が失われたと報じられている。これは2025年の石油業界で起きた最大級の事故の一つとなる。

■ イラクのクルディスタン地域では、過失や安全基準の欠如により、石油施設での火災が頻繁に発生しているという。20256月には、イラク中部サラーフ・アル=ディーン県の油田で爆発が発生し、作業員5人が負傷した。

補 足

■「イラク」(Iraq)は、正式にはイラク共和国で、中東に位置する人口約4,022万人の連邦共和制国家である。首都はバグダードで、古代メソポタミア文明を擁した土地にあり、世界第5位の原油埋蔵国である。石油輸出国機構(OPEC)で第二位の輸出国で、日量平均400万バレルの原油を生産している。 民族はアラブ人(シーア派約6割、スンニ派約2割)、クルド人(約2割、多くはスンニ派)などから構成される。言語はアラビア語とクルド語が公用語である。

「バスラ県」は、イラクの南東に位置し、県都は県名と同じバスラ市で人口約290万人の県である。。

「バスラ市」(Basra)は、アラビア半島の北東端に近くに位置し、ペルシャ湾に注ぐシャット・アル・アラブ川沿いにあるイラク南部の港湾都市で、人口約148万人の都市である。夏の気温は50℃を超えることもあり、イラクで最も暑い都市の一つである。

「ズバイル」(Zubair)は、イラクのバスラ県にあり、人口約12万人の都市である。   

■「バスラ・オイル社」 (Basra Oil Company) は、旧称イラク南部石油会社で、イラク南部の石油生産を担うイラクの 国営企業である。バスラに拠点を置く。バスラ・オイル社はイラク国営石油会社(INOC)の主要な基盤の一つである。1970年代、バスラ・オイル社は、国営石油会社の子会社として国営石油会社による直接投資プロジェクトの最初の中核であり、その基盤となった。

 バスラ・オイル社の事故としては「イラクのルマイラ油田で石油タンク設備が爆発・火災、負傷者6名」2025年4月)がある。

■「発災施設」は、報道によって爆発がタービンという話とパイプラインで起こったという話の大きくふたつあった。タービンの種類は分からないが、通常、タービンが今回のような大爆発を起こすことは考えられない。ズバイル第1石油貯蔵所内のポンプ・タービン施設系のパイプラインからガス漏れが発生し、作業員の溶接作業で爆発・火災が発生したとみられる。

所 感

■ 報道では発災施設や原因がいろいろ出てはっきりしないが、ここでは総合的に考えて石油貯蔵所内のポンプ・タービン施設系のパイプラインからガス漏れが発生し、作業員の溶接作業で爆発・火災が発生したとした。

 被災写真も多く報じられているが、石油貯蔵所の何が火災になっているのかも判然としない。火災状況からみると、かなり広範囲で激しい火災である。パイプラインから漏れ出たとすれば、大口径の配管から大量に原油が流出したと思われる。ポンプ・タービン設備のほか倉庫が火災になっている。このほか施設内の設備も火災になっているようで、小型タンクも火災になっているのではないだろうか。

■ 消火活動は放射能力の大きい大型化学消防車も出動しているが、火点が多いため、細い消火ホースで対応している活動写真が多い。午前9時頃の発災に対して午後半ばには鎮火させたと報じられているが、もっと時間のかかった火災ではないだろうか。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Rudaw.net,  One killed, several injured in Basra oil depot explosion,  October 26,  2025

    Qna.org.qa,  1 Killed, 6 Injured in Oil Depot Explosion in Southern Iraq,  October 26,  2025

    Avapress.com,  Massive explosion in Al-Zubair oil field, Iraq,  October 26,  2025

    Shafaq.com, Gas leak sparks deadly fire at Basra oil depot,  October 26,  2025

    En.964media.com, Fire at Basra’s zubair 1 oil Field kills division chief, injures four,  October 26,  2025

    Thenationalnews.com, Pipeline explosion at oilfield in southern Iraq kills at least one worker,  October 26,  2025

    Joiff.com, IRAQ – Fire at Zubair 1 Oil Field Leaves One Dead and Four Injured,  October 27,  2025

    Reuters.com, Two workers killed in pipeline fire at Iraq's Zubair oilfield, officials say,  October 26,  2025

    English.news.cn, Fire at Iraq's Basra oil depot kills 1, injuries 4,  October 26,  2025

    Thisislebanon.com, الفيديوانفجار ضخم يهزّ مستودعات النفط في العراق,  October 26,  2025

    Attaqa.net, العراق يفقد 600 ألف برميل نفط في حريق مستودع زبير 1,  October 26,  2025

    Thisislebanon.com,   بالفيديوانفجار ضخم يهزّ مستودعات النفط في العراق,  October 26,  2025

    Aawsat.com, لعراق: مصرع عاملَين في حريق خط أنابيب بحقل الزبير النفطي  ,  October 26,  2025

    Eanlibya.com, العراق.. قتلى ومصابون بانفجار مستودعات نفط جنوب البلاد   ,  October 26,  2025

    Shafaq.com, النفط العراقية تعلن إخماد حريق مستودع زبير/1 بشكل كامل ,  October 27,  2025

    Alsumaria.tv, إحصائية أولية لضحايا انفجار مستودع الزبير.. وترجيحات بتأثر تصدير النفط,  October 26,  2025

    Altaghier.tv, وزارة النفط: حريق مستودع الزبير ناجم عن تسرب غاز ,  October 26,  2025


後 記: イラクのバスラ・オイル社では、20251月に「イラクのルマイラ油田で石油タンク設備が爆発・火災、負傷者6名」の事故を起こしています。このときの後記に「イラクの事故情報は疲れます。(中略)情報が不確かな上、フェークニュースらしい情報も入り乱れ、・・・」  しかし、今回は前回よりも疲れました。発信元(発災事業所や公的機関)が状況をよくわかっていないので、メディアの記事が曖昧で不確かです。このような情報を集めても集約できないので、真実(らしい)はこうではないかという自分の判断(力)を頼りに事故状況をまとめました。

2025年11月24日月曜日

原油タンク火災の特徴と消火対策の分析

 今回は、202232日、Jlh-cn.comに掲載された「解析原油储罐火灾特点及扑救措施」(原油貯蔵タンク火災の特徴と消火対策の分析)の資料について紹介します。

< 概 要 >

■ 本資料は、原油タンク火災の特徴と火災後に発生し得る様々な現象を分析し、原油タンク火災事故の要因を特定し、的確な消火対策と予防対策の提案についてまとめたものである。これらの対策は、石油貯蔵基地における原油タンク火災の予防と提言に重要な指針となる。

■ 原油は、通常、原油備蓄基地、油槽所、製油所などの原油タンクに貯蔵される。これらの原油タンクは可燃性や爆発性があり、国内外で爆発・火災事例は少なくなく、その原因は多岐にわたる。原油貯蔵基地における原油貯蔵の安全性を向上させ、原油タンクの安全な運用を確保するために、効果的な予防・制御対策を講じることが極めて重要である。

I. 原油タンク火災の特徴

1.1 高い火炎温度と強い輻射熱

■ 原油タンク火災が発生すると、周囲の環境温度は高くなり、輻射熱が強くなる。炎の中心温度は1,0501,400℃に達し、タンク壁の温度は1,000℃を超えることもある。原油タンク火災の強さは、燃焼物の発熱量と炎の温度に関係している。燃焼時間が長いほど輻射熱は強くなる。また、原油タンク火災の輻射熱の強さは、火災の継続時間に比例している。火炎の温度が高いほど、輻射熱の強さも大きくなる。

1.2 燃焼中の火炎の変動

■ 原油タンクが火災になると、火災の勢いは変化する。火炎の勢いが盛んなときは、炎が激しく燃え上がり、燃焼速度が速く、輻射熱は強い。火炎が衰えるときは、燃焼速度が緩やかになり、火炎は縮小して小さくなる。この火炎の変動は、原油成分に含まれる軽質分と重質分の違いから来る。

1.3 大規模火災が発生しやすい特性

■ 原油タンク火災は急速に拡大し、大規模な火災へと進展する危険性が極めて高い。一旦、引火すると、タンクが爆発したり、ボイルオーバーの要因になり、油が噴出して飛散し、周囲の設備に降りかかって広範囲な火災を引き起こす。近くに他の石油タンクがある場合、被害はさらに深刻になる。石油ガスの貯蔵タンクが火災になれば、タンクの破損や漏洩を引き起こし、ガスの拡散範囲が広がり、火災範囲も拡大する。

1.4 高い爆発の危険性

■ 原油は特定の温度で大量のベーパーが蒸発する。この油のベーパーが空気と混合して特定の比率に達すると、裸火に接触した際に爆発する可能性がある。火炎や高温の影響下では、原油タンク内の油の蒸気圧が急激に上昇する。この圧力が容器の最大許容圧力を超えれば、タンクは破裂を引き起こす。タンク内のベーパー空間で発生した爆発は、油の急速な燃焼を引き起こす。タンクが破裂し、燃え盛る油が溢れて、火災が周辺区域に広がり、火災伝播上の重大なリスクをもたらす。

■ タンク底部に水が溜まっている場合、原油の長時間にわたる激しい燃焼により、高温で水が沸騰することがある。この沸騰した原油は激しく飛び散り、火災の勢いをさらに強める。

1.5 再燃性・再爆発性を有する特性

■ 火災の消火後も燃料源を遮断しないと、別の引火源や高温にさらされると、再燃したり、爆発を発生する可能性がある。爆発は、タンク屋根を破裂したり、タンク本体を変形/破損したりすることがあり、新たな破壊の危険をもたらすことがある。消火後もタンク壁は非常に高温のままであるため、冷却を継続しないと原油が再燃する可能性がある。原油タンクの火災制圧中、消火作業で不適切な措置が取られると、再燃したり、再び爆発に至ることがある。

2、タンク火災原因の分析

■ タンクの構造、材質、油種によって、火災の原因のパターンや状況が異なる。タンク火災を引き起こす要因は数多くあるが、一般に裸火、落雷、静電気、自然発火の四種類に大別される。

3、タンク火災の消火活動

3.1 火災状況の確認・評価

■ 火災が発生したら、すぐに以下の状況を確認する。

 ① 燃焼タンクの種類、直径、高さ、油の性状、タンク底部の水の深さ、油の貯蔵液位、および燃焼タンクの損傷状況

 ② 周辺の環境と攻撃可能な経路、油漏洩の流路、またはタンク破損の可能性のある箇所

 ③ 燃焼パターン、発火点、および周辺地域への脅威レベル

 ④ 炎の色を観察し、爆発リスクを評価

 ⑤ 液位、熱伝播速度、および水/導電層の厚さに基づくボイルオーバー発生の推定時間

 ⑥ 油の性状に基づくボイルオーバーの可能性と時期を判断

 ⑦ 油移送の可否判断、防油堤の完全性、および排水系の閉止状態

3.2 消火活動の基本

■ 貯蔵タンクが一旦火災になった場合、消火活動はつぎの基本事項に従わなければならない。

  ● 「外周から中心へ」 「風上から風下へ」 「地上からタンクへ」の順序で実施 

■ タンク火災における消火活動の第一の目的は、消火を試みる前に火災を制御することであり、人員の安全を最優先とする。

 ① 事故を直ちに報告し、油タンクにおけるすべての作業を停止する。

 ② ただちに、すべての消防設備を稼働させ、消火用泡で油面を覆い、タンク壁を消火水で冷却する。火災が拡大する前にアスベストシートなどで火元を迅速に覆う。

 ③ 中間ポンプ場のタンクに火災が発生した場合は、ボイラーを停止し、圧力ステーションのプロセスに切り替える。

 ④ ターミナル・ステーションで火災をただちに消火できない場合、浮き屋根式タンクまたは屋根を損傷したタンクから油を排出する。排出中は油温を90℃以下に維持する。

 ⑤ 隣接タンクについては、状況に応じて油の移送、タンク壁の冷却、防火壁の構築、開口部には泡または耐火材によるシールなどの措置を講じる。

 ⑥ あらゆる手段を講じ、燃えている油の拡散を防止する。

3.3  消火活動中の注意事項

■ 原油貯蔵タンク火災が発生した場合は、ただちに正確な状況評価を行い、消火計画、消火戦略、消火戦術をすみやかに策定しなければならない。火災対応に必要な人員と資機材を十分に確保し、できるだけ速く火災を制圧し、消火しなければならない。原油は着火するまでの時間が非常に短く、燃焼速度も速いため、迅速に消火ができなければ、ヒートウェーブの厚さが増すにつれて、消火活動はますます困難になる。

■ ヒートウェーブが水の層またはエマルジョン水の層に達すると、水蒸気爆発やボイルオーバーを引き起こす可能性がある。燃焼時間が長引くと、タンク内の油-ガス混合気の濃度が爆発限界に達しやすく、結果として爆発に至ったり、連続した爆発を引き起こす。さらに、ボイルオーバー(油)火災を消火しようとした場合、泡消火のタイミングが極めて重要である。一般的に、有効ヒートウェーブ厚さは約3050cmであり、火災は引火後30分以内に消火すべきである。油面は短時間で完璧に泡で覆うべきである。泡の耐熱時間は通常 6 分間である。

3.4 消火活動における安全上の注意事項

■ 消火活動全体を通じて、人員の安全を最優先としなければならない。第一に、火災現場におけるあらゆる潜在的な危険を想定し、消火活動が効果的に実施でき、かつ生命に危険を及ぼすような際に速やかに避難できる安全な場所に消防士を配置する。

■ 次に、火災の拡大や事故が激化することを抑制・防止することに重点をおく。実際の状況にもとづき、火災の延焼可能性と消火できる可能性を正しく評価し、燃焼エリアをコントロールすることである。そして、必要ならば、消火活動を断念することである。

■ 要するに、原油タンクの貯蔵液位は常に変化しており、度重なる活動の変更はリスクを伴う。わずかな不注意でも火災や爆発につながる可能性がある。

■ 原油タンクを正しく安全に使用し、運転すること、火災や爆発の基本原理を理解し制御すること、および原油貯蔵タンク火災の消火方法を修得することが肝要である。

■ このため、従業員の安全教育を強化し、安全意識を高め、原油タンクの安全管理システムを確立・実施し、火災の防止や撲滅していくことが、石油貯蔵基地の安全な操業に確固たる保証を提供する。

補 足

■ 本資料は、つぎのインターネット情報をもとにしている。

 Jlh-cn.com, 解析原油储罐火灾特点及扑救措施,  March 02, 2022

  なお、この情報の主な内容は、邹曾英(中原油田天然气理厂,河南濮阳457162)、张淼(中国石化管道运公司新乡输濮阳油站,河南濮阳457162)によるものだという。

■ このブログで原油タンクに関して事故や戦略などを取上げたものは、つぎのとおりである。

    = ボイルオーバーなどの事故事例 = 

   ●「原油タンク火災の消火活動中にボイルオーバー発生事例」20139月)

   ●「中国・陜西省の製油所で軽質原油タンクが爆発して3名負傷」 20145月)

   ●「フランスで原油タンクのダブルポンツーン型浮き屋根が沈没」 20152月)

   ●「沖縄ターミナルの原油タンク浮き屋根の沈没事故(2012年)」 20141月)

   ●「テキサス州マグペトコ社タンク火災のボイルオーバー(1974年) 」20142月)

   ●「貯蔵タンクのボイルオーバーの発生原理、影響および予測」 20142月)

   ●「浮き屋根式貯蔵タンクのボイルオーバー」 20144月)

   ●1964年新潟地震における貯蔵タンクのボイルオーバー事例」 20145月)

   ●「ボイルオーバー =眠れる巨人=」 201512月)

   ●「マレーシアの製油所で原油タンク火災、負傷者4名」 20187月)

   ●「中米ニカラグアで原油貯蔵タンク火災、ボイルオーバー発生」 20168月)

   ●「キューバのタンク基地で落雷による原油タンク火災4基、死傷者162名」 20228月)

= タンクの消火戦略・消火戦術・解析 = 

   ●「貯蔵タンク事故の研究」20118月)

   ●「貯蔵タンクの火災要因と防止策」20128月)

   ●「タンク火災への備え」 20129

   ●「大型石油タンクのハザード評価の方法」 20147月)

     「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」 201410月)

   ●「石油貯蔵タンク火災の消火戦略  - 事例検討(その1)」 201410月)

      「貯蔵タンクにおける事故の発生頻度」 201512月)

   ●「燃えているタンク内に油を入れる消火戦術」 20161月)

   ●「原油貯蔵施設におけるリスクベース手法による火災防護戦略」 20163月)

   ●「原油貯蔵タンク火災時のボイルオーバー現象」 20169月)

   ●「石油貯蔵タンク火災時の備えは十分ですか?」 201611月)

   ●「石油貯蔵タンク施設の消火戦略・戦術」 201612月)

   ●「新しいアプローチによる石油貯蔵タンク施設のリスク評価」 20193月)

         「タンク火災への対応に関する計画およびトレーニング」 20214月)

         「ボイルオーバーの研究 = 実際的な教訓」 202112月)

    ●「中国の原油タンクに関する火災・爆発燃焼解析とリスクマネージメント」 20236月)