2025年11月8日土曜日

韓国の仁川地下岩盤LPガス貯蔵基地の配管流出はガスケット不適合

 今回は、202582日(土)、韓国の仁川広域市の仁川新港にある仁川地下岩盤LPガス貯蔵基地で配管からLPガスが漏洩する事故があり、その後、1020日(木)に原因の調査結果が発表になった。このLPガス漏洩事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、韓国の仁川広域市(インチョン・グァンヨクシ/じんせんこういきし)延寿区(ヨンスグ)仁川新港(インチョンシンハン)にあるエネルギー会社E1社が運営する仁川地下岩盤LPガス貯蔵基地である。

■ 事故があったのは、 LPガス貯蔵基地にあるLPガスの輸入受入れ用の配管である。当該施設の設計と施工は韓国のGS建設が担当した。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 202582日(土)午後1230分頃、E1社の仁川地下岩盤LPガス貯蔵基地で船から移送中、LPガスが漏れる事故が起こった。

■ 地下から真っ白なLPガスが噴き出し、あっという間に広がり、恐ろしい状況だった。水をかけてガスの拡散を防いだが、効果は限定的だった。

■ 仁川消防本部には、「E1社の仁川基地でLPガスが漏れた」という119番通報があり、消防隊を出動させた。

■ 仁川市は、LPガスが漏洩したのでこの地域の車両通行を規制しており、市民に地域アクセスを控えるよう要請した。

■ 近くの住民は、「同じ事故が繰り返されている」と不安を述べた。 別な住民は、「幸い爆発につながっていないが、話を聞いて危険だと思った」といい、「このような事故は再発してはならない」と語っている。
■ LPガス漏出は配管継手で発生した。当該配管は通常運転されず、LPガス受入れなど必要な場合にのみ使用される。

■ 消防隊は、消防士88名と機材27台を投入し、漏洩現場に水を集中的に掛けるなど安全措置を取った。

■ 消防当局は、E1社の仁川基地内の口径10インチの配管からガスが漏出したとみて、詳細な事故経緯を調査している。

■ 事故にともなう負傷者はいなかった。E1社関係者は「現場周辺に職員はいなかったことが把握された」

■ ユーチューブでは、発災時の画像や事故原因を報じる動画が投稿されている。

 ●Youtube [단독] 부적합 자재’…인천 E1 가스 누출 영상 보니 / 연합뉴스TV (YonhapnewsTV)2025/10/20・・・韓国語の動画であるが、Youtubeの翻訳機能を使えば、日本語訳が出てくる

被 害

■ LPガス配管のガスケット部が破損した。LPガス配管のガスケットはすべて交換しなければならなかった。 

■ 負傷者はいなかった。

■ 現場周辺の道路が通行制限された。 

< 事故の原因 >

■ 原因は、配管ガスケットに関する不適切な資材と施工不良が複合的に作用したことで、配管ガスケットからLPガスが漏洩した。  

< 対 応 >

■ E1社の地下岩盤LPガス貯蔵基地の計器室がガス漏れを感知したのは事故発生19分後だった。 E1社は、41分後の午後116分頃ガスバルブをロックして追加的な漏れを防いだと語っていた。

■ しかし、 LPガスは、午後2時頃までの1時間30分間、22.8トン(22,800㎏)が流出した。もし周辺に点火源があったら、大きな火災や爆発につながった状況だった。     

■ 202510月、事故後の調査によると、LPガスの漏れは、不適切な資材と施工不良が複合的に作用したことが確認された。

 ● 事故は配管と配管を接続するフランジのガスケットだった。ガスケットは、配管接続部で内部ガスが漏れないように封止するシール材である。調査の結果、現場で使用されたガスケットは最大5MPa50.9kg/cm2)の圧力までしか耐えられないテフロン素材だった。ところが、事故当時、配管には7.18MPa 73.2kg/cm2)の圧力が加わった。事故当時の配管圧力は、ガスケットが耐え得る圧力より40%以上高く、最初から採用してならない不適切なシール材を使用していた。

 ● 施工も不適正だった。ガスケットが配管の中心に合わせられず片寄ったまま設置された痕跡が発見された。ガスケットが偏心した状態で設置され、ガスケットに圧力が不均等に集中し、結局過度の圧力に耐えられず、ガスケットが変形して破断し、大量のLPガスが流出した。

 ● 設計、施工、検収、監理まで安全に関する管理のすべての段階が不良だった。該当配管は年初の113日~219日、224日~326日の2回稼働した後、約4か月間使用していなかったが、再稼働初日に潜在していた問題が起こった。

■ E1社は、「GS建設の設計と施工内容、さらに設置後の検収および監理の内容を確認する」と明らかにした。

■ 事故後、E1社は問題のガスケットを従来のものより8倍以上強い金属材質に交換した。 

■ 産業通商資源部は、LPガス漏洩事故後、全国6か所(E1社; 麗水・仁川・大山、SKガス社;蔚山・平沢、韓国石油公社;平沢)のLPガス基地を緊急点検し、老朽したものや圧力基準の低い部品を直ちに交換するよう指示した。

■ ガス業界の専門家は、「公企業の韓国ガス公社はガスケット設置時の温度・圧力・流体条件を総合考慮して材質を選定し、定期的に漏出検査をする」とし、「民間企業が公企業レベルの基準を適用したならば、今回の事故は起きなかっただろう」と語っている。

■ E1社はLPガスを輸入して国内に流通・販売する民間エネルギー企業であるが、今回の事故で、民間企業のガス施設管理が公企業に比べて乏しいという批判が出ている。

■ 仁川広域市の海岸沿いでは、仁川新港LNG基地など各種エネルギー貯蔵施設がある。新港一帯は、過去のガス漏れ事故が数回発生し、住民が不安を持続的に訴えるところである。20214月と8月、LNG貯蔵タンク4号機と8号機でガス漏れが発生し、2017年と2005年にも同様のタイプの事故が起きている。

補 足

■「韓国」は、正式には大韓民国で、 東アジアに位置し、人口約5,114万人の共和制国家である。首都はソウル特別市である。

「仁川広域市」(インチョン=グァンヨクシ/じんせんこういきし)は、大韓民国西北部に位置し、黄海に面した韓国を代表する港湾都市の一つで、広域市にしてされ、人口約300万人である。

■「E1社」(イー1E1 Corporation)は、1984年に設立された液化石油ガス(LPG)業務に従事する韓国の会社である。主に、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェートなど中東の石油生産国からLPガスを輸入し、国内市場の石油精製会社、ガスステーション、都市ガス会社へ供給する。また、E1社は中国、日本、シンガポール、タイ、ベトナムなど海外市場へLPガスを輸出している。

 E1社の仁川基地は、仁川松島沖に約99,900m2規模の海上を埋め立てて建設され、世界初の海底地下岩盤貯蔵基地で、150mの岩盤に幅16m、高さ26m、総延長長さ1,200mに及ぶ大型地下貯蔵空洞を保有しており、貯蔵容量はプロパン17万トン、ブタン7万トンで合計24万トンである。

■「GS建設」は、1969年に設立された建設会社で従業員数は約6,350人である。韓国の建設会社大手(サムスン、現代、大宇、DL、GS)のひとつである。

所 感

■ 今回のLPガスの漏れの原因は、不適切なフランジ用ガスケットとそのガスケットを取り付ける際の施工不良が複合的に作用したことであるという。

 一方、当該配管の写真を見ると、呼び径10インチの配管フランジにしてはボルト本数が多い。一般の産業分野で使用されているANSIフランジやJISフランジではなく、長距離パイプラインなどで使用されているAPIフランジを採用していると思われる。配管フランジは圧力や温度の条件などによって公的基準に沿って選定される。しかし、ガスケットは流体条件やコストなどを考慮して設計者の選好の幅は広い。

 事故のあった配管では、テフロン素材のガスケットが配管の中心に合わせられず偏心した状態で取り付けられ、ガスケットが変形して破断し、大量のLPガスが流出している。事故要因としては、偏心した状態で取り付けられるようなガスケットサイズだったのではないだろうか。しかも、テフロン素材だったため、破断しやすかったと思われる。

■ 産業分野では、パイピングスペック(Piping Specification)が設定される。E1社の仁川地下岩盤LPガス貯蔵基地の配管設備でも策定されていただろう。今回の事故では、問題が顕在化するまでに設置からかなりの時が経っている。ガスケットなどは設計余裕があり、時間による実績があるというだけでは、問題は起こらないと言い切れない事例である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

       Khan.co.kr,  인천 송도 E1 가스 누출인재’···“부적합 자재와 부실시공,  October  20,  2025

       Kgnews.co.kr,  송도 E1 가스누출, 부적합한 자재 사용·부실시공 있었다,  October  20,  2025

       Chosun.com, 인천 송도 E1 인천기지, 프로판 가스 누출 '화들짝'… 인명피해는 없어,  August  06,  2025

       Hankookilbo.com, 인천 송도 E1 가스 누출 사고도 인재... "부적합 자재 사용·부실 시공,  October  20,  2025

       Incheontoday.com, “인천 송도 E1 가스누출, 부적합 자재와 부실시공이 부른 인재,  October  20,  2025

       Incheontoday.com,  인천 송도동 LPG 가스 누출 사고 발생···주민 대피령 [속보],  August  06,  2025

       Enertopianews.co.kr, “송도 E1 가스누출, 부적합 자재와 부실시공이 부른 인재,  October  20,  2025

       V.daum.net, [2025 국감] "인천 송도 E1 가스누출, 부적합 자재와 부실시공이 부른 인재,  October  20,  2025

  ・Incheonilbo.com, [송도 E1 가스 누출 사고] 이번에도 쓸어내린 가슴…“20년째 같은 사고 반복, August  07,  2025

       News.nate.com, 인천 송도 E1 가스누출"부적합 자재와 부실시공이 부른 인재(人災)“,  October  20,  2025

       Yna.co.kr, [단독] 부적합 자재 ''…인천 E1 가스 누출 영상 보니,  October  20,  2025

       Youtube、「 [단독] 부적합 자재’…인천 E1 가스 누출 영상 보니 / 연합뉴스TV (YonhapnewsTV),  October  20,  2025

 

後 記: 今回の事例は事故報告書にもとづくメディア情報をもとに作成しました。発災時の20258月の時点ではある程度間違いはあると思いますが、202510月時点でもメディアによって記事内容が異なっています。事故内容ではなく、些細ことではありますが、仁川地下岩盤LPガス貯蔵基地がどこにあるのか分かりませんでした。もともと地下岩盤基地で地上部にタンクが見えないので、メディアも認識が薄いのでしょう。韓国の報道は事業者名などを報じないことがありますが、今回事故では、事業者だけでなく、建設会社も報じられています。その分、調べることは多かったのですが、総じてすっきりしないものになってしまいました。