2023年3月28日火曜日

メキシコの地下石油備蓄基地で爆発・火災、死傷者8名

 今回は、2023223日(木)、メキシコのペメックス社の地下石油備蓄基地であるトゥザンデペトル戦略貯蔵センターにおいて8名の死傷者を出した爆発・火災事故を紹介します。


< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、メキシコ(Mexico)のベラクルス州(Veracruz)イシュアトラン市(Ixhuatlán)にある国営石油会社であるペメックス社(Pemex)のトゥザンデペトル戦略貯蔵センター(Tuzandépetl Strategic Storage Center)である。トゥザンデペトル戦略貯蔵センターは、ペメックスの国内最大の原油貯蔵施設で、地下岩塩層タンクである。貯蔵センターには、石油を貯蔵する地下岩塩層タンクが14 基あり、そのうちの2基は2021年に建設された。

■ 事故があったのは、戦略貯蔵センターの地下岩塩層タンクの地上設備である。



<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2023223日(木)午後340分頃、ペメックス社のトゥザンデペトル戦略貯蔵センターで爆発・火災が起こった。

■ 現場では、巨大な黒煙が空高く立ち昇った。黒煙は数km離れた遠いところからも見ることができた。

■ 爆発後に起きた火災の炎は全方向に少なくとも 500mに広がっていたため、貯蔵センターの構内にいた人は必死になって逃げた。

■ 発災に伴い、ペメックス社の自衛消防隊が現場に出動した。地域相互応援協定を構成する25社の石油・化学会社のうち5社が、消防活動を支援するために、救急車を備えた消防隊と医療部隊を派遣した。 

■ 事故に伴い、行方不明者が5名出たほか、負傷者が3名発生し、病院に搬送された。負傷者はいずれも重度の火傷を負っていた。 

■ 当局は、予防措置として現場から2kmに位置するベラクルス南東部工科大学に避難指示を出した。この近くの住民少なくとも100世帯が避難した。

■ ペメックス社によると、戦略貯蔵センター内に設置されたリグ(作業櫓)が原因不明の爆発を起こしたという。リグの近くにいた5名の作業員が行方不明になった。当時、トゥザンデペトル‐331のキャビティ(空洞)の保守作業を実施していたPM-119のリグ(作業櫓)で火災が発生したという。

■ 一部のメディアが報じているのだが、別な作業員によると、トゥザンデペトル‐331のキャビティ(空洞)の保守作業を実行するために、内部の原油は空にされていたという。しかし、発災後に他のキャビティに影響が至ったため、火災が広がったという。一方、キャビティ1基は容量100 万バレル(16KL)だったが、燃えたのは 1 基だけだったと報じているところもある。

■ 225日(土)、行方不明だった作業員のうち2名の遺体が回収され、34日(土)、火災の焼け跡から残りの3名の遺体が回収された。

■ 発災の状況は、ユーチューブに投稿されている。

 YouTubeExplota almacén de petróleo de Pemex en Veracruz2023/2/24

 ●YouTubeAsí iniciaron las explosiones en las instalaciones de Pemex, en Veracruz2023/2/25





被 害

■ トゥザンデペトル戦略貯蔵センターのリグ(作業櫓)が焼損したほか、関連の地上設備が焼損した。

■ 岩塩層内の石油が噴出して焼失した。

■ 死傷者が8人発生した。内訳は死亡者5人、負傷者3人だった。

■ 近くの大学や住民が避難した。

< 事故の原因 >

■ 戦略貯蔵センターのトゥザンデペトル‐331のキャビティ(空洞)の保守作業を実施していたPM-119のリグ(作業櫓)が何らかの要因で火災が発生し、爆発を起こしたとみられる。

< 対 応 >

■ 消防隊の消火活動には、消火泡と水が使用された。

■ 火災は223日(木)午後9時頃に鎮圧された。 

補 足

■「メキシコ」(Mexico)は、正式にはメキシコ合衆国で、北米の南部に位置し、北は米国と接する人口約129百万人の連邦共和制の国である。

「ベラクルス州」(Veracruz)は、メキシコの南部に位置し、メキシコ湾を面した人口約806万人の州である。

「イシュアトラン市」(Ixhuatlán)は、ベラクルス州の中部の位置し、人口約20,000人の都市である。

■「ペメックス社」(Petroleos Mexicanos Pemex)は1938年に設立された国営石油会社で、原油・天然ガスの掘削・生産、製油所での精製、石油製品の供給・販売を行っている。ペメックス社はメキシコのガソリンスタンドにガソリンを供給している唯一の組織で、メキシコシティに本社ビルがあり、従業員数約138,000人の巨大企業である。

 ペメックス社の関連事故は、つぎのような事例を紹介した。

 ● 20147月、「メキシコのペメックス社でタンク火災、負傷者も発生」

 ● 20147月、「メキシコで原油パイプラインからの油窃盗失敗で流出事故」

 ● 20173月、「メキシコのペメックス社の石油ターミナルで爆発、死傷者8名」

 ● 20176月、「メキシコのペメックス社の製油所で浸水による火災で死傷者9名」

 ● 20178月、「メキシコの石油パイプラインで油窃盗中に爆発、死傷者6名」

 ● 20191月、「メキシコの石油パイプラインで違法な油採取中に爆発、死者99名」

 ● 20217月、「メキシコ・ペメックス社のタンクターミナルで落雷によるリムシール火災」

■「トゥザンデペトル戦略貯蔵センター」(Tuzandépetl Strategic Storage Center)は、1986年にプロジェクトが始められ、貯蔵する岩塩層の洞窟を作るために井戸が掘削され、1992年に原油の貯蔵を開始した。その後、貯蔵容量は840万バレル(133KL)で、12基の岩塩層の洞窟が建設された。マヤ原油用の6基、イストモ原油用の4基、オルメカ原油用に 2基の岩塩層洞窟がある。さらに、2021年に150万バレル(23KL)の岩塩層タンク2基が建設され、300万バレル(47KL)の貯蔵容量が増えた。この内液は液化天然ガス(LNG)という情報もある。

■「地下貯蔵タンク」は、日本では強固な岩盤を掘削する水封式岩盤貯蔵であるが、一般的には様々な種類の地下石油貯蔵施設がある。模式化すると、岩塩層(Salt Caverns)、旧鉱山(Mines)、帯水層(Aquifers)、枯渇貯留層(Depleted Reservoir)、岩盤掘削(Hard Rock Caverns)などである。岩塩層の貯蔵施設の多くはメキシコ湾岸にある塩のドーム層に開発されており、米国、 カナダ、欧州、アジア、オセアニアには燃料を貯蔵するための洞窟が約600以上あるといわれている。


 日本の地下石油備蓄は、従来、原油を地下に備蓄していたが、近年、液化石油ガス(LPG)の備蓄基地もある。建設方法は岩盤掘削方式であり、ユーチューブに建設記録「倉敷国家石油ガス備蓄基地建設の記録 地下岩盤に築く」が投稿されている。

所 感

■ 事故の要因は、戦略貯蔵センターの岩塩層の保守作業を実施していたリグ(作業櫓)が何らかの要因で火災を発生し、爆発を起こしたとみられる。

 今回の事故は、断片的な状況ではあるが、1978年に起きた「米国の岩塩層戦略石油地下備蓄基地の爆発・火災事故」の状況に似ている。(下記の概要を参照) 岩塩層のタンクであること、岩塩層の保守作業を行なっていたこと、リグを操作していたこと、岩塩層の地下タンクから油が流出(噴出)したこと、リグに関わっていた複数の作業員が死傷したことなどである。米国の事故を鑑みると、岩塩層の地下タンクの事故というより、石油掘削作業における事故に類似しており、保守作業の単純ミスや作業手順の不備などが原因だとみられる。

■ 地下石油備蓄基地の火災は稀である。消防活動については動員された消防隊の編成と泡消火が使用されたという情報だけであり、どのような対応(積極的戦略、防御的戦略、不介入戦略)がとられたか知りたいところである。

 火災の状況を写真で見ると、初期の段階は黒煙がひとつになって空に立ち昇っているが、火災の勢いが弱まった状態では、3つの火災源が見られる。消火活動によって収まりつつあるというより、燃料源(火災源)の供給が最盛期より少なくなったと思われる。 

米国ルイジアナ州のウェスト・ハックベリー岩塩層戦略石油地下備蓄基地の爆発・火災事故

■ 1978921日に起きた岩塩層戦略石油地下備蓄基地の爆発・火災事故は、岩塩層に水を入れ岩塩を溶出させ、その中に原油を送入して塩水と置き換える地下タンク方式で、油出口の井戸ケーシング上部から原油が噴出し、爆発・火災となった事例である。井戸ケーシングの取出し作業を行うために設置していたリグ(作業櫓)の作業員2名が死傷し、火災が5日間続いた。

■ 事故のあった岩塩層地下タンクは、高さ153フィート(46m)、最大径839フィート(255m)で天井と底面はほぼ平坦で、容積は1,220万バレル(194KL)だった。岩塩溶出時、16インチ地表ケーシングの長さは1,640フィート(50m)だった。

■ 1978913日に岩塩層の性能を維持する保守作業(ワークオーバー作業)のためにリグ(作業櫓)が井戸に据え付けられた。保守作業は井戸の5‐1/2インチのケーシングの抜出しと、漏洩のあった抗口装置(ウェルヘッド)の修理のためである。 5‐1/2インチのケーシングはブラインの注入または取出しで、抗口装置は事故前の19777月に付けられていた。

 1978921日の事故当日、 5‐1/2インチのケーシングの取出し作業が行われていたが、井戸から14本目のケーシングを取り出した後、 5‐1/2インチのケーシング内のマッドが井戸ケーシング上部から流出し始めた。 5‐1/2インチのケーシングから流出したマッドを作業員では押さえきれず、膨張接触材のバッカーが噴出し、原油が流出し始めた。流出した油のミストとベーパーが空気中に飛散し、リグ(作業櫓)に使用していたディーゼルエンジンの空気取入れ口に吸込まれ、エンジンがオーバースピードを起こした。近くにいた数人の作業員のうち、2人はエンジンを停止しようとし、他の作業員はその場から避難し始めた。エンジンの停止作業を行っているとき、午後355分頃、爆発・火災が起こった。2人の作業員のうちひとりは死亡し、ひとりは重度の火傷を負った。火災現場にいた2人の作業員は火傷を負ったが、車に乗って脱出した。 

■ 事故は石油掘削作業における事故に類似したもので、保守作業(ワークオーバー作業)の単純ミス、作業手順の不備、リグ(作業櫓)の不適格な安全弁、現場における不適格な緊急用装備と防災活動指針が原因であるとしている。事故の内容は「アメリカ岩塩層戦略石油地下備蓄基地の爆発・火災事故報告概要」を参照。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Reuters.com,   Pemex hit by fires at three facilities in one day,  February  24,  2023

      Telesurenglish.net, Mexico Reports Fire at Pemex Pipeline in Veracruz,  February  24,  2023

      Tankstoragemag.com, Huge blaze hits Mexico’s largest facility,  March  14,  2023

      Usnews.com,  Pemex Hit by Fires at Three Facilities in One Day,  February  23,  2023

      Worldoil.com,  Several injured in three separate fires at Pemex oil facilities,  February  23,  2023

      Expatguideturkey.com, Terrible Explosion in Mexico! Oil Plant Caught Fire,  February  24,  2023

      Hazardexonthenet.net, Two fires break out at Pemex facilities on same day, four workers dead and three missing,  February  27,  2023

      Pemex.com, Extingue PEMEX incendio en Cavidad Tuzandepetl-331 de Veracruz,  February  23,  2023

      Mazatlanweekly.com, They report fires in 2 Pemex plants in Veracruz; there are at least 5 injured,  February  23,  2023

      Infobae.com, Se reportó una explosión en el Centro de Almacenamiento de Pemex en Ixhuatlán, Veracruz,  February  24,  2023

      Jornada.com.mx, Incendio en Ixhuatlán deja 3 trabajadores heridos: Pemex,  February  23,  2023

      Diariopuntual.com, VIDEOS. INCENDI0 en ducto de Pemex en Ixhuatlán, Veracruz; evacúan universidad,  February  24,  2023

      Excelsior.com.mx, Hallan cuerpos carbonizados de dos trabajadores de Pemex tras incendio en Ixhuatlán,  February  24,  2023

      Jstage.jst.go.jp, アメリカ岩塩懸戦略石濾地下備蓄基地 爆発・火災事故報告概要, 安全工学, VoL.18, No.3,  1979


後 記: 今回の戦略貯蔵センターの事故はこれまでで一番まとめの難しい情報でした。最初はパイプライン爆発やタンク事故だと思い、グーグルマップで調べると、地上の貯蔵タンクがなく、地下備蓄タンクの関連事故だと分かりました。ところが、発災写真を見ると、写っている池が既存設備の近くにある2つの池ではないことがわかりました。2021年に計画された場所の写真によって既存の設備の西側にある池の近くにできる予定らしいことが分かり、発災場所が特定できたと思っていましたが、よく見ると池の形が違うようです。グーグルマップでイシュアトラン市のいろいろな池を探しましたが、該当しそうな池はありません。結局、発災場所を特定できず、2021年に計画された場所と思うしかありませんでした。

 発災場所だけでなく、事故状況もはっきりしません。ペメックス社から公表された事故要因がよく理解できないだけでなく、メディアで報じられている記事が明確ではありません。日本の地下備蓄タンクと異なる岩塩層の予備知識不足も感じました。不確かな情報を外したら、中身のないスカスカのブログになってしまいますので、もう一度、編集し直してブログをまとめました。

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