今回は、2022年6月20日(火)、山口県下関市にある下関バイオマスエナジー社の下関バイオマス発電所において焼却灰を貯めるフライアッシュ・タンクの中で作業員が死亡した事例を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、山口県下関市彦島にある下関バイオマスエナジー合同会社の下関バイオマス発電所である。このバイオマス発電所は、循環流動層方式ボイラーで木質ペレットを燃料とし、出力74,980kWで、2022年2月に運転を開始していた。
■ 事故があったのは、バイオマス発電所内にあるフライアッシュ・タンクである。フライアッシュ・タンクは排ガスのバグフィルター通過後に浮遊している灰をためておくタンクで、直径約7m×高さ約11m、上部は円柱形、下部は円すい形である。なお、燃焼時に発生した灰は直下にあるボトムアッシュ・タンクに貯められる。
< 事故の状況および影響
>
事故の発生
■ 2022年6月20日(火)午前10時25分頃、フライアッシュ・タンクの中で作業員の男性(55歳)が倒れているのが発見された。
■ 作業員の男性は、タンク内の灰除去作業中で、(胸から下が)埋もれた状態を別の作業員が見つけ、消防に通報した。
■ 灰除去の作業をしていた男性は広島県三原市にある請負会社の作業員で、下関市内の病院に搬送されたが、およそ3時間半後に死亡が確認された。
■ 警察によると、同日午前8時30分頃から4人でタンク内の壁面に付着した使用済みペレットの灰を撤去する作業をしていたという。事故当時、作業員の男性は、高さ約11mのタンクの中に入って、内側の壁についた灰を取り除く作業をしており、タンク内にいたのはひとりだった。
被 害
■ 灰の除去作業をしていた作業員が死亡した。
■ バイオマス発電所の運転には影響していない。
< 事故の原因 >
■ フライアッシュ・タンク内で灰除去の作業中をしていた作業員が灰に埋もれて死亡した。
■ 警察は作業員の死因と事故の発生原因について調査中である。
< 対 応 >
■下関バイオマスエナジー社は、6月20日(月)、下関バイオマス発電所において作業員死亡事故が発生した旨の声明を公表した。
発生原因等の詳細は調査中とある。
補 足
■「山口県」は、本州南西部に位置し、中国地方に属する人口約132万人の県である。
「下関市」は、山口県の西部に位置し、人口約25万人の山口県で最大の都市である。
■「下関バイオマスエナジー社」は、山口県下関市においてバイオマス発電事業を目的として、九電みらいエナジー(株)、西日本プラント工業(株)、九電産業(株)の共同出資により設立された合弁会社である。事業は、九電みらいエナジー㈱が発電所の運営全般、西日本プラント工業㈱が設備の建設・保守、九電産業㈱が運転を担当し、九電グループが初めて調査・建設、運転・管理までを一貫して手掛ける大型バイオマス発電事業で、九電グループ単独としては九州域外最大の発電所である。出資比率は、九電みらいエナジー㈱;85%、 西日本プラント工業㈱; 9%、 九電産業㈱; 6%である。
■「下関バイオマス発電所」は、山口県下関市彦島迫町七丁目(下関市所有地)に、 発電出力74,980kW、 年間発電電力量 約5億kWh/年(一般家庭約14万世帯分の年間消費電力に相当)、 使用燃料約30万トン/年(木質ペレット+PKS)、 CO2 排出抑制効果約34万トン-CO2/年、 着工2019年6月10 日、 運転開始2022 年2月2日である。 「下関バイオマス発電所」の概要は、ユーチューブに投稿されている。(Youtube,「下関バイオマス発電所の紹介(約11分)」を参照)なお、グーグルマップで調べても、運転開始が2022 年2月2日であるため、ストリートビューの建設中の写真しか出てこない。
■「バイオマス発電所」は、植物などの生物資源(バイオマス)を燃料に使用しながら発電する施設で、植物は生育過程で二酸化炭素を吸収するため、発電プロセスでバイオマス燃料を燃焼したとしても、大気中の二酸化炭素は増えない、いわゆるカーボンニュートラルの持続可能な発電方法として、現在、各地に設置されたり、建設が予定されている。しかし、海外から原料(木質ペレットや木材など)を輸入する場合、安定的な燃料確保に課題が出ている。
■「焼却灰」は2種のタンクに貯められ、トラックによって搬出され、セメントの原材料や埋め立てに利用される。燃焼時に発生した灰は直下にあるボトムアッシュ・タンクに貯められ、排ガスのバグフィルターで除去後に浮遊している灰はフライアッシュ・タンクに貯められる。フライアッシュ・タンクは、直径約7m×高さ約11mで、上部は円柱形、下部は円すい形であり、ボトムアッシュ・タンクも同形状とみられる。
焼却灰のサンプルは写真のように細かいが、バグフィルターで除去後に浮遊しているフライアッシュは、もっと微細な灰と思われる。しかし、事故時の作業が、タンク内の壁面に付着した灰を除去していたというので、何らかの要因で浮遊灰がタンク壁面に付着するような状態だったとみられる。
所 感
■ 石油系以外のタンクにおいて発生した人身災害で類似事例と思われるのは、つぎのとおりである。
●「石川県の製紙工場において溶剤タンクで死者3名」(2018年6月)
●「大阪府のカーペット製造会社でタンク清掃時に転落、2名死亡」(2019年2月)
●「北海道のでんぷん工場で男性が点検中にタンクへ転落か、死亡確認」( 2020年10月)
●「日本製紙岩国工場においてタンク洗浄中に硫化水素中毒2名」( 2021年12月)
これらの事例で類することは、硫化水素の発生する可能性があるにもかかわらず、防護策をとらずに作業を行ったことによって人身災害に至ったことである。今回の下関バイオマス発電所の焼却灰タンクの人身事故では、硫化水素は無かったと思われるが、入槽という酸素欠乏に配慮すべき作業である。
■ 今回の事故は操業開始(2022年2月)からわずか5か月で機器(タンク)を開放して作業(工事)を行わなければならない事態が起こっている。また、今回の灰除去作業は、発電所の運営で担当部門が境界領域の範ちゅうのように思う。すなわち、運転管理と設備の保守管理の担当区分や役割が明確で、マニュアルが策定され、そのとおりに実行されたかどうかである。
事故を防ぐためには、つぎの3つの要素が重要である。この3つがいずれも行われなかった場合、事故が起こる。この基本に欠落があったものと思われる。
① ルールを正しく守る
② 危険予知活動を活発に行う
③ 報連相(報告・連絡・相談)を行い、情報を共有化する
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Nhk.or.jp,下関市のバイオマス発電所作業員がタンク内で灰に埋まり死亡, June
21, 2022
・Asahi.shinbun, バイオマス発電所で作業員死亡, June
22, 2022
・Q-mirai.co.jp, 下関バイオマス発電所において作業員死亡事故が発生しました(下関バイオマスエナジー合同会社), June 20,
2022
・Rim-intelligence.co.jp, 九電みらい=下関バイオマス発電所で死亡事故, June 21,
2022
・Yama.minato-yamaguchi.co.jp, タンク内作業員 灰に埋もれ死亡, June
210, 2022
後 記: 今回の事故は山口県のローカルニュースで知りました。メディアは危険性物質の絡まない一労働災害としての位置づけで淡々とした短い報道でした。字数制限があり、複数のメディア情報を合わせてやっと概要が理解できました。調べていくと、下関バイオマス発電所は今年2022年2月に出来たばかりというのが分かりました。運転開始から5か月でタンクを開放しなければならなくなったという点が気になりますが、報道では語られていません。ところで、山口県周南市にもバイオマス発電所が計画中です。出光興産は出力50,000kWのバイオマス発電所を2022年度内に、トクヤマ・丸紅・東京センチュリーが出資する周南パワーは出力300,000kWのバイオマス混焼発電所を2022年に稼働する予定です。また、石炭火力発電所を稼働中の東ソー(出力676,900kW)とトクヤマ(出力517,000kW)は、バイオマス混焼率向上を検討しているそうです。バイオマス発電という設備や運転に課題点があれば、原因を究明して情報を共有していくべきだと感じます。
0 件のコメント:
コメントを投稿