2022年6月25日土曜日

米国ミズーリ州セントルイスでアスファルト・タンクが火災

 今回は、202269日(木)、米国ミズーリ州セントルイスにあるスピリット・アスファルト社の油槽所でアスファルト・タンクが爆発して火災を起こした事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国ミズーリ州(Missouri)セントルイス(St Louis)ヘーゼルウッド(Hazelwood)にあるスピリット・アスファルト社(Spirit Asphalt)の油槽所である。

■ 事故があったのは、スピリット・アスファルト社の施設にある内液2,200ガロン(8.3KL)の入ったアスファルト・タンクである。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 202269日(木)午前1030分頃、油槽所のアスファルト・タンクが爆発して火災になった。

■ タンクから黒煙が立ち上り、遠く離れたところからも見ることができた。

■ 発災に伴い、地元のヘーゼルウッド消防署の消防隊が出動した。

■ 火災の原因はタンクへの充填中に火花が発生し、製品に引火したものとみられる。当局によると、発災タンクは、アスファルトの製造に使用される製品が充填された他のタンクの近くで爆発したので、消防隊はまわりのタンクも爆発するのではないかと危惧していた。実際、爆発したタンクの後ろ側にあるタンク2基は溶剤とタールの混合物であり、非常に爆発しやすいものだった。

■ 発災現場近くの道路は通行規制が行われ、交通が閉鎖された。

■ 被災写真では、火災の際に高さ25フィート(7.6m)のタンクが倒れかかっていることが確認できる。

■ 事故に伴う負傷者は発生していない。

■ 近くにあった別な企業の一部は避難を余儀なくされた。

■ 当局によると、ヘーゼルウッドのアスファルト工場で作業員がタール(アスファルト)を移送させていた時にタンクが爆発したという。作業員によると、「鉄道のタンク貨車に屋根材用のタール製品を積み込む作業をしていた際に、火花が発生し、タンク内の製品に引火した。しかし、充填していたタンク貨車を切り離し、タンク貨車は安全な距離まで移動させることができた。一方、タンク内の製品が燃え続けるうちに、タンクの上部が吹き噴き飛んだ」という。

■ 消防隊は、はしご車の上からタンク内の火災を消そうと努めた。

被 害

■ アスファルト・タンク1基が爆発と火災で焼損した。タンク内に入っていたタール(アスファルト)が焼失した。 

■ 負傷者はいなかった。近くにあった別な企業の一部が避難した。

■ 発災現場近くの道路の交通規制が行われた。

< 事故の原因 >

■ 事故は、鉄道のタンク貨車に屋根材用のタール製品を積み込む作業をしていた際に、火花が発生し、タンク内の製品に引火して爆発したとみられる。

< 対 応 >

■ 消防隊は約90分後、火災をタンク1基で食い止めることができた。消防署長は、「他のタンクが爆発したり、火災になったりしていたら、もっと大変なことになっていただろうし、消防資機材はもっと必要になっただろう」と語っている。

■ セントルイス郡のハズマット隊(Hazmat Team)が化学的な問題の有無を確認するために出動要請された。鎮火後、現場をクリーンアップするときに問題がないことを確認しようというものである。発災現場近くの水路への流出はなかった。

■ 鎮火後、消防署長は周辺地域には危険はないと語った。しかし、消防隊員は何時間も現場に留まり、赤外線カメラを使用しながら火花や炎が出ないようにタンクを冷却した。

■ ユーチューブでは、消火活動の動画が投稿されている。YouTube Liquid asphalt tank on fire in Hazelwood2022/06/10)を参照)  フェースブックには、さらにタンク貨車などを含めた詳細な被災状況の動画が投稿されている。(FacebookA liquid asphalt tan is on fire in Hazelwoodを参照)

補 足

■「ミズーリ州」(Missouri)は、米国中西部のミシシッピ川沿いにある内陸の州で、人口約650万人である。

「セントルイス」(St Louis)は、ミズーリ州東部のミシシッピ川とミズーリ川の合流点に位置する米国中西部有数の商工業都市で、人口約31万人のどの郡にも属さない独立市である。

「ヘーゼルウッド」(Hazelwood)は、セントルイス北部にあり、人口約25,000人の町である。

■「スピリット・アスファルト社」(Spirit Asphalt)は、1999年にセントルイスで設立された建築材料の製造会社で、ベースアスファルト、舗装製品、屋根葺き(ふき)用アスファルトなどの製造を行っている。アスファルト・工業用コーティング製品を手がけるSWTグループの一員であり、スピリット・アスファルト社は、カナダの3つの州とメキシコ北部に加えて、本土50州のうち41州にサービスを提供している。

「発災タンク」は、総合すると、8,000ガロン(30KL)のタンクに内液2,200ガロン(8.3KL)の入った高さ25フィート(7.6m)のタンクと報じられている。しかし、グーグルマップで調べると、タンク直径は約10mであり、高さを7.6mとすれば、容量は約600KLとなる。内液2,200ガロン(8.3KL)はタンクに約10cmの液しか入っておらず、空に近い状態である。発災事業所では、鉄道のタンク貨車に屋根材用のタール製品を積み込む作業をしていたというので、当日、タンク貨車1両分の屋根材用タール製品8,000ガロン(30KL)を製造していたのではないか。この場合、600KLタンクに30KLの屋根材用タール液は38cmとなり、もともとタンクは低液位で製造に入っていたのではないかと思われる。

所 感

■ アスファルト・タンクで注意すべきことは、水による突沸、軽質油留分の混入、運転温度の上げすぎ、屋根部裏面の硫化鉄の生成などである。今回の爆発要因は、屋根材用のタール製品を取り扱っていたというので、溶剤などの軽質油留分の混入だとみられる。

「米国ニュージャージー州でアスファルト処理工場のタンクが爆発(原因)」202110月)では、興味深いコメントがある。要約すると、つぎのとおりである。

 ● 製油所はガソリンやジェット燃料などのより収益性の高い石油製品を生み出すため、 原油から貴重な一滴をより効率的に搾り(しぼり)出すようになっている。このため、舗装や屋根材シールなどを扱うアスファルト会社は過去に比べ取扱いがむずかしくなっている。そこで、添加剤が登場してくる。

 ● この添加剤は軽質の炭化水素やケミカルなどである。米国では、添加剤として軽質の炭化水素を含むことを認めている。このような添加剤は、揮発性が高く、タンクからの排出を増やし、添加剤を含まないアスファルトよりも低い温度で爆発する可能性がある。

 要は製油所で搾り(しぼり)上げたアスファルトが取扱いにくいので、アスファルト工場では軽質の炭化水素を混入させて、爆発の危険性を大きくしているという皮肉である。

■ 今回の事例では、容量600KL×高さ7.6mのタンクに低液位(液位38cm)で屋根材用タール製品30KLを製造し、タンク貨車に積み終わる前(液位10cm×残液8.3KL)に何らかの引火要因で爆発・火災を起こしたのではないだろうか。タンク内では、軽質の炭化水素ガスが空気流入によって爆発混合気を生じたと思われる。おそらく、このようなタンク低液位での製造はよく行われていたが、爆発混合気が形成し、たまたま引火要因が無かっただけではないかと思う。

■ タンクが倒れかかっているが、爆発のときのショックでタンク基礎からズレてしまったか、あるいは低液位で爆発・火災が起こり、部分的に外板の強度が弱くなったのではないかと思うが、原因はよく分からない。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Tankstoragemag.com,  Asphalt tank catches fire in Missouri,  June  13,  2022

    Fox2now.com,  2,200-gallon asphalt tank burns in Hazelwood,  June  09,  2022

    Ksdk.com,  25-foot tank explodes in Hazelwood, prompting large response,  June  09,  2022

    Wpsdlocal6.com,  No injuries reported after tank explosion at Missouri business,  June  09,  2022


後 記: 今回の事例は要因が語られており、比較的簡単にまとめることができると思っていました。ところが、タンクの大きさをグーグルマップ(グーグルアース)で調べたところ、タンクは意外に大きく600KLあるとわかりました。タンクの大きさに対して極めて少ない液でしかないことが分かり、どのように理解していいのか悩みました。メディアによる単位(ガロンとバーレル)の読み違いではないかということまで考えてしまいました。タンク貨車への積込みという情報から、タンク貨車1両分の容量は1065トンということが分かり、1ロット分の少ない製造を大きなタンクで行っていたのではないかというふうに考えました。被災写真を見ると、タンクは空に近い状況です。メディア情報に比べかなり推測が大きいのですが、事故の状況からかけ離れていないように思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿