2021年7月31日土曜日

米国テキサス州で浮き屋根式タンクの屋根が壊れ、臭気クレーム

 今回は、2021714日(水)、米国テキサス州ヒューストンにあるライオンデルバセル社のヒューストン製油所にある浮き屋根式タンクの屋根が壊れ、内部流体のベーパーが漏れ出し、地域住民の中に体調不良が出た事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国のテキサス州(Texas)ヒューストン(Houston)にあるライオンデルバセル社(LyondellBasell)のヒューストン製油所である。

■ 事故があったのは、製油所内にある浮き屋根式貯蔵タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2021714日(水)、ヒューストンの住民から刺激的なガーリックの臭いがするというクレームが報告された。しかし、このクレームに反応する企業は無かった。

■ 臭気で吐き気を催した女性の住民は、「臭いはどんどん悪化しました。昨日はひどいものでした。ほとんど何もできませんでした」と語った。別な住民は、臭いが最もひどかった木曜日(715日)に喉が痛くなったと語っている 

  716日(金)、ハリス郡汚染管理サービス(Harris County Pollution Control Services PCS)は、臭気の発生源をライオンデルバセル社のヒューストン製油所と特定した。臭気はジスルフィド化合物であった。ハリス郡汚染管理サービスは、ジスルフィド化合物が呼吸器系や消化器系を刺激する可能性があると述べ、住民に屋外での活動を控え、マスクをするよう勧めた。

■  716日(金)午前930分に、ライオンデルバセル社はソーシャル・ネットワークの地域非常事態対応であるCAERCommunity Awareness Emergency Response) に投稿し、従業員は臭気の問題に取り組んでおり、害はないと述べている。

■ 臭気の原因は、浮き屋根式タンクの屋根から漏れ、タンク内から二硫化炭素、二硫化ジメチル、二硫化メチルエチルが放出されたためだという。

■ 717日(土)、住民によると、土曜日もこの地域に臭いが残っているという。

■ 719日(月)、広報担当者はメディアに、放出が住民に影響を及ぼしていることに会社が気付いていなかったといい、そのため、当時は住民への警報を出していなかったと語った。漏れは封じ込められ、クリーンアップは完了したと付け加えた。

■ ライオンデルバセル社は、ヒューストン地域の大雨のために壊れた貯蔵タンク(1基)の屋根の漏れから臭いが出たといい、「漏れた物質に臭気があるのは確かで、住民の人たちがわずかな臭いを検知することはありうると思っています。大気モニタリングでは、地域に対して懸念のあるレベルを示すものではありませんでした」とソーシャル・ネットワークのCAERで述べている。

被 害

■ 浮き屋根タンク1基の屋根が壊れ、内部のベーパーが漏れ出た。

■ 地元住民の中に体調不良者が出た。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は、ヒューストン地域の大雨のために壊れた貯蔵タンク(1基)の屋根からタンク内から呼吸器系や消化器系を刺激する二硫化炭素、二硫化ジメチル、二硫化メチルエチルが放出されたためである。屋根の壊れた状況は報じられていない。

< 対 応 >

■ 20178月に襲来したハリケーンハービーの大雨により少なくとも15基の貯蔵タンクの屋根が壊れるという被害が出た。専門家は、さらに数百基のタンクが脆弱であると警告している。これらの貯蔵タンクに対して改善する基準の法案が可決されたが、大雨がタンクに与える影響に対処する上で、まだ十分進んでいないという人たちもいる。

補 足

■「テキサス州」(Texas)は、米国の南部に位置し、人口約2,900万人の州である。

 「ヒューストン」(Houston)は、テキサス州の南東部に位置し、9郡にまたがる人口約210万人の都市である。

■「ライオンデルバセル社」(LyondellBasell)は、オランダの多国籍企業の化学会社で、 2007年にBasellPolyオレフィン社によってLyondell Chemical社の買収によって設立された。1954年、ポリエチレン(PE)とポリプロピレン(PP)の製造において画期的な発見をした科学者を前身とする会社である。読み方としてはリヨンデルバセル社という場合もある。

「ヒューストン製油所」は、重質で高硫黄の原油を処理するように設計された268,000 バレル/日の精製能力を有する製油所である。ヒューストン製油所は、ヒューストン港に建設された最初の石油製油所の1つであり、 その起源は1918年までさかのぼり、100年の歴史をもつ。2006年にライオンデルバセル社の子会社となった。製油所はウエブサイトを有しているが、2018年以降、ニュースは投稿されていない。

■「事故タンク」の情報は、浮き屋根式というだけで、内部流体やタンクの大きさ(容量、直径×高さ)などは報じられていない。二硫化炭素、二硫化ジメチル、二硫化メチルエチルなどの硫化物を含有している浮き屋根式タンクであることから推測すると、原油用ではないかと思われる。原油用の浮き屋根式タンクであれば、容量は50,000100,000KLではないだろうか。

 「事故タンク」は「浮き屋根タンク1基の屋根が壊れた」という被害であるが、「壊れた」という内容は報じられていない。 20178月に襲来したハリケーンハービーの大雨では、浮き屋根式タンクの屋根が沈降して液面が露出し、ベーパーが放出されたり、雨水排水管からの油漏れによる環境汚染が起こっている。今回の事故では、おそらく、屋根の沈降あるいは浮き部の割れで部分的な屋根沈降で浮力機能が喪失したものであろう。

所 感

■ 今回の事故の一番の問題は、情報を隠蔽しようとしたことであると思う。

 ● 住民から異臭のクレームが報告されたが、このクレームに反応しなかった。(無視した)

 ● ハリス郡汚染管理サービスから臭気の発生源がライオンデルバセル社ヒューストン製油所と指摘された。ここで、初めて従業員が臭気の問題に取り組んでおり、害はないと発表した。

 ● 放出が住民に影響を及ぼしていることに会社が気付いていなかったという信じがたいコメントを発表した。

 ● 当初、浮き屋根式タンクの屋根から漏れたと事故原因をいわず、のちに大雨のために壊れた貯蔵タンクの屋根から漏れ出たと言い換えた。この壊れた状況や原因には何も語っていない。

 このような対応について米国国内で非難が出ているが、当然だと思う。

■ 2017年のハリケーンハービーによる豪雨の教訓が活かされていないと感じる。

 ●「米国テキサス州でハリケーン上陸による石油施設の停止と油流出」 2017910日)

 ●「テキサス州バレロ社のタンク浮き屋根沈降による環境汚染」20171021日)

 浮き屋根式タンクの屋根が沈降した事例では、緊急事態対応方法の教訓としてはつぎの事例がある。

 ●「沖縄ターミナルの原油タンク浮き屋根の沈没事故(2012年)」 2014118日)


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Tankstoragemag.com, Chemical tank roof collapses at LyondellBasell refinery, July 21, 2021

     Houstonpublicmedia.org, Officials Confirm LyondellBasell Refinery Is The Source Of The Toxic Smell That Has Been Plaguing Galena Park For Days, July 16, 2021

     Abc13.com, 'Unpleasant odor' in Galena Park blamed on LyondellBasell Houston Refinery, July 16, 2021

     Click2houston.com, What’s that smell? Galena Park says it’s LyondellBasell Houston Refinery, July 16, 2021

     Northchannelstar.com, Bad smell in Galena Park traced to LyondellBasell, July 22, 2021

     Noustonian.news, Officials confirm the LyondellBasell refinery is the source of the toxic smell that has haunted Galena Park for days – Houston Public Media, July 16, 2021

     Change.org, LyondellBasell Refinery released that it was harmless but why are we having side effects?,  July 16, 2021   


後 記: 「2017年のハリケーンハービーによる豪雨の教訓が活かされていない」と述べましたが、ライオンデルバセル社内の教訓が活かされたのではないかと疑いをもっています。というのも、ヒューストンはハリケーンハービーが襲来した中心の地域なのですが、 「米国テキサス州でハリケーン上陸による石油施設の停止と油流出」の中にいろいろな会社名が出てくるのに、ライオンデルバセル社ヒューストン製油所の名前が出てきません。今回の事例と同様に、被害が無かったことにして地方自治体への報告を無視したのではないでしょうか。当時は地域もハリケーンの被害で混乱しており、この判断(?)でうまく切り抜けられたのではないでしょうか。今回の事故では、清掃作業中に臭いが発生したというつじつまの合わないことを言っておりますが、これは無視(?)してブログには記載しませんでした。この事例はモヤモヤした気分の事故でした。

追記;「インドネシア中部ジャワ州の製油所のベンゼン・タンクが火災」のブログを読んでいただいた読者から質問がきて回答しましたが、回答先が「noreply・・・blogger.com」となっており、メールアドレスではないようなので、届いたかどうかわかりません。解決したならば結構ですが、いまも疑問があれば、         「myk-man@agate.plala.or.jp」へ回答先をご連絡ください。

 

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