2021年8月4日水曜日

緊急事態対応の事前計画を策定する際の考慮すべき事項

 今回は、202132日付けの“Industrial Fire World”に掲載された「6 Considerations for an Effective Pre-Plan」(効果的な事前計画のための6つの考慮事項)の内容を紹介します。

< 背 景 >

■ 工場内の消防士や運転担当者は、自社施設内の製品、製造プロセス、貯蔵と流通システムに精通している。彼らの多くは、職場において予期せず望ましくない問題に備えるために、月毎、四半期毎、年次毎の緊急事態対応訓練に参加する。

■ 地方自治体の消防士や緊急事態対応者は、産業施設内で毎日働いている緊急事態対応者に比べると、相対的に地元のプラントや産業界におけるハザード(危険性)に精通しているとはいえない。全米防火協会(NFPA)基準による消防士1”消防士2” の教育課程では、住宅、アパート、商店に関する消火に関する授業時間や訓練に比べ、産業施設やハザード(危険性)に関する授業や訓練に費やす時間少ない。

■ 工場における産業消防士は、NFPA 1081Standard for Facility Fire Brigade Member Professional Qualifications)に記載されているように消防訓練をかなり頻繁に実施する。 NFPA 1081では、学習時間と教育目的を産業消防隊の任務と労働安全衛生に充てている。産業界の緊急事態対応者の訓練では、緊急事態対応者が扱うことになる機材や装置とともに、プラントにおける特別なハザード(危険性)に焦点を当てることになる。

■ 石油貯蔵タンクの火災が発生した場合、工場と地方自治体の両方の緊急事態対応者が協力してたずさわり、安全で適切に消火するために水、泡薬剤、機材、燃焼タンクへのアクセスなどの情報を共有化する必要がある。

■ 地上式石油貯蔵タンクのような産業界におけるハザード(危険性)に関する事前計画は、各担当グループによって取るべき初動対応が準備されているので、工場内および地方自治体の緊急事態対応者にとって非常に価値がある。

< 事前計画の検討 >

■ 事前計画は、様式や使用目的が幅広く、包括的な用語である。事前計画の検討は、総括的にいえば、NFPA1620 Standard for Pre-Incident Planning)の規定あるいは地方政府機関の要件に合致したものである。

■ いいかえれば、事前計画は、合理的な考え方で想定される緊急事態に対して特定の従業員と緊急事態対応者のために作り込んだ技術的なガイダンス(手引き)といえる。そして、工場経営者側としては、従業員に事前に決定した方法で対応したり、あるいは事前に準備された機材や技術を用いて対応することを望んでいる。

< 構成と様式 >

■ 過去の緊急事態から学んだ教訓としては、知識・経験をもった緊急事態に対応した人でさえ特別なハザード(危険性)を見たとき、その緊急事態にどのように対処するかについては異なる考えがありうるということである。そのような緊急事態に際して最も安全で最も望ましい結果となるようなインシデント・アクション・プラン(事故後の行動計画)をいち早く作成する際に有効なのは、権限を有する当局者、施設の所有者、または施設の緊急事態対応者から発出される明確な戦略的・戦術的なガイダンスである。

■ 戦術的な事前計画は簡潔にすべきで、施設所有者や投資家・顧客などのステークホルダーの戦略的思考を反映させておくべきである。戦術的な事前計画では、グループリーダーのために現場指揮所(IC)、対応活動、プランニング、ロジスティクス、指揮所の運営など事故時の役割を明確にし、組織化しておく。また、連絡・報告(地方、州、連邦機関への)、人員・資機材の集結(ステージング)、広報担当、泡薬剤の管理などの他の対応部署や要求事項を含んでおく。

< 石油貯蔵タンク >

■ 地上式石油貯蔵タンクの事前計画を検討する場合、一般的にタンク施設全体と個々の貯蔵タンクの2つの観点から問題を検討すると有用である。

< 取扱いする製品類 >

■ タンク内に保管される液体には、原油などの可燃性の油、施設内で使用される原料、販売されるプロセス中間製品、精製された製品、自動車用の燃料や潤滑油のブレンド用オイルなどあらゆる種類が含まれる。保管される液体には、廃水や排液も含まれる。

■ 低発泡の消火泡やドライケミカルなどの消火剤は、プラント内の燃料や危険物による火災の消火の要件に合致する必要がある。一方、消火活動の際には、泡薬剤は泡成分に含まれるパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)などの汚染物質が含まれていることについて環境問題に対応する必要がある。

< タンクの設計・建設仕様 >

■ 米国での地上式石油貯蔵タンクの建設は、米国石油協会のAPI Std 650Welded Tanks for Oil Storage)に準拠すべきである。この規格はタンク建設の継続性を規定しているので、類似の屋根構造のタンクに対してある程度の標準化された消火戦術を用いることができる。石油貯蔵タンクは、通常、コーンルーフ式(円錐式)の屋根、外部式浮き屋根、内部式浮き屋根などの屋根の設計に用いられる。屋根の設計は、一般的に地上から識別できるし、タンク防油堤の外側からも識別できる。

■ 外部型や内部型の浮き屋根式タンクは側板の内側にシール部があるため、タンクが空や充填されたときに浮き屋根が上下に移動できる構造である。シール部での火災は緊急事態であり、シール部内にとどまっている間に消火する必要がある。そうしなければ、浮き屋根の浮力が減少し、屋根が傾いたり、沈んだりすると、タンクの全面が火災に巻き込まれる可能性がある。

■ 泡溶液をシール部に放射するように設計されたフォーム・チャンバーは、システムの型式(半固定式または固定式)を明らかにし、泡放射する操作方法を含めて事前計画で明確にしておかなければならない。

泡消火システムの配管、マニホールド、ドレン部については緊急事態の事前計画の中で明確にしておく必要がある。

< 緊急事態の種類に合わせた調整事項 >  

■ 特定のプラント資産のための基本的な電子式緊急事態事前計画のファイルに、あなた方が準備する必要のある各種のハザード(危険性)に対する切替用のタブを設ける場合がある。

 ● 火災: 貯蔵タンクへのアクセス道路のグループ化、消火配管と消火栓、卓越風、曝露のハザード(危険性)

 ● ハザード物質(危険物質)の流出と放出: 物質の化学的ハザード(危険性)に関する情報、攻撃的活動あるいは防御的活動のための適切な個人用保護具(PPE)、汚染除去の解決方法とその装置

 ● 水上流出: 油流出請負会社、環境請負会社、所轄官庁への連絡、避難所の開設

 ● 気象関連の自然災害: 地方、州、国の機関の通知の連絡先

 < 活きた文書と使用するメンバーの使いこなし >

■ 地上式石油貯蔵タンクにおける緊急事態の事前計画を良いものにするには、緊急事態対応グループのメンバーに使ってもらうことであり、計画の各担当に責任をもたせることである。そうすることによって、メンバーひとりひとりが計画に関する貴重な知識を得るだろうし、会社が非常事態にどのように対処したいか知るだろう。事前計画は、安全で効果的な緊急対応のための生きた文書として考える必要がある。

 

■ 著者のフレッド・ウェルシュ(Fred Welsh)は、消防や緊急対応の業務に従事して44年のベテランである。彼は、フェアファックス郡消防署で消防士を務めたほか、公設消防や産業消防の指揮官や責任者を務めている。

■「インフラストラクチャの階層化」は、デジタル技術によって基本的な図面に異なったインフラストラクチャを階層化する機能である。本文では、プラント専用の消火用水システムを挙げている。この技術はGIS(ジー アイ エス)といい、Geographic Information System の略称で日本語では地理情報システムと訳される。


 地球上に存在する地物や事象はすべて地理情報と言えるが、これらをコンピューターの地図上に可視化して、情報の関係性、パターン、傾向をわかりやすいかたちで導き出すのが GIS の役割である。本ブログでも地図情報はグーグルマップを使用しているが、地図と空撮写真が階層になっている。消火用水システムの例としては「会津若松市消火栓マップ」もその一例である。

所 感

■ 今回の資料の中で興味をひかれたのは、文書の階層化するデジタル技術である。すでに、「資源(人員・資機材)とインフラストラクチャに関するデジタル版の事前計画のそれぞれ層は、必要に応じて取り出せるようになっている。たとえば、消火水システム、攻撃用泡モニター/フォーム・ワンド/ドライケミカルのような特別な機材の使用場所、従業員の確認、製品ライン・用役ライン、排水系、成功対応と失敗対応の違いのわかる事項である」という。これによると、通常の GIS(地理情報システム)による階層化だけでなく、情報はすべて階層化していると思われる。

■ 緊急事態対応時のデジタル技術としては、20216月に起こった「インドネシア中部ジャワ州で製油所のベンゼン・タンクが火災」の際、記者会見時に複数画面を映し出していたモニターが出ていた。指揮所でどのような使い方をしているか分からないが、デジタル技術の活用は進んでいる。

備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Industrialfireworld.com, 6 Considerations for an Effective Pre-Plan(効果的な事前計画のための6つの考慮事項), by Fred Welsh,  March  2,  2021


後 記: 今回の資料は、関係代名詞のある文章が比較的長く、途中でandが使われるなどしてどれを修飾しているのか分かりずらいものでした。副題も本文との関係がしっくりこないので、意訳しました。というより、このように解釈しないと意味が通じないよねという感じです。訓練か教育の写真がありますが、臨場感は薄いと感じました。緊急事態対応では、 20216月に起こった「インドネシア中部ジャワ州で製油所のベンゼン・タンクが火災」の事故で、記者会見時に複数画面を映し出していたモニターが気になっていましたので、今回の所感の中に入れました。

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