2021年6月7日月曜日

消防活動時の水供給に関する問題の解決

  今回は、“Industrial Fire World” 2021512日に掲載されたUSファイア・ポンプ社のジョニー・キャロル氏による「水供給問題の克服」(Overcoming Water Supply Issues)について紹介します。


 
< 背 景 >

■ 偉大な米国の人類学者ローレン・アイズリー(Loren Eiseley)は、「この惑星に魔法があるとすれば、それは水である」と言ったことがある。原油の脱塩から FCC装置、コーカー、蒸気発生器、反応塔のジャケット、冷却塔に至るまで多くの工業プロセスにおいて水を使用することが求められている。そして、忘れてはならないのは、水は消火システムや防火システムにとって最も重要な要素である。プロセス装置、貯蔵タンク、荷役設備、制御室などにおいて消火用水を十分に確保することは、操業を継続していくために重要である。

< 給水の重要性 >

■ 多くの石油精製や石油化学の工場は、航行可能な水路や海港の近くに沿って配置されている。自然の水源が近くにない場合、自治体の供給水や井戸水からの供給の信頼性が、工場立地を決定する重要な要素であった。

■ しかし、井戸が枯れてしまったら、われわれは何をするか? 計画停止や不測の事態によって十分な水の供給ができなくなったとき、対処方法はあるか 停電によってモーター駆動消火用水ポンプが運転不可になり、プラントの保護が損なわれたとき、どうするか? われわれが目撃したのは、最近起こった米国メキシコ湾岸の大寒波では、天候が大荒れで、プラント操業のために重要な水の供給に大混乱を起したことである。

< 消火用水が確保できないときの対応 >

■ 最近、ある製油所の消防署長が興味深い実例を語ってくれたことがある。

 ● 直径270 フィート(82m)の原油タンク火災と戦っているとき、消防隊員は、3 台のモーター駆動消火用水 ポンプのうち 2台が始動時に作動せず、3 台目のポンプが運転開始から 30 分以内に故障したことを知った。

 ● さらに、 2台の予備用のディーゼル駆動ポンプを配備したが、予防保全が行われていなかったためにポンプは数分以内に故障した。

 ● 消防署長は、遠く離れた別の会社に支援を求めなければならなかった。

 このような最悪の事態は、“サンドイッチにスープをはさむような異状なこと”に見えるかも知れないが、そうではない。緊急対応チームはこれらの緊急事態に備える必要があり、幹部はどこで機材を入手できるか知っておかなければならない。

(注;サンドイッチにスープをはさむような異状なことの原文は “crazy as a soup sandwich” で、スープはサンドイッチの詰め物としては賢明ではない、すなわち完全に無意味で正気でないことを指す)

■ USファイア・ポンプ社(US  Fire Pump)では、仮設の水システムを構築するための産業用ポンプと機器の設計・製造している。 USファイア・ポンプ社のブースト ポンプは、既設の水用 ポンプが故障したとき代替のポンプ能力を提供できる。計画的な断水や不測の事態で給水を中断した場合、緊急対応チームは 3,00020,000 ガロン/分(11,00075,600 リットル/分)の能力の水中ポンプを近くの水源に配備し、既存のポンプまたは補助用ポンプとして供給することができる。このシステムは、 USファイア・ポンプ社が設計した“スマート” (Smart)技術を使用して、水が必要なときはいつでも手動または自動で運転することができる。

■ 保全作業による停止時や水配管の埋設部の交換時に、われわれは大口径ホースを使用して給水栓から別な給水栓へつないだり、特注品のマニホールドを使用して既存の給水栓や給水管に簡単に接続することができる。

■ US ファイア・ポンプ社は、計画のありなしに関わらず、仮設の消火用水システムの設計を支援するために、社内のエンジニアリング・ チームを配置している。給水が困難な場合には、6 マイル(9.6km)超の工業用大口径ホースを展張したり、緊急時に世界クラスの予備機を配置して100,000 ガロン/分(378,000リットル/分=22,700 /時)以上の水を流すことができる。 US ファイア・ポンプ社では、エンジニアと消防活動スペシャリストからなる 24 時間年中無休の緊急対応チームが配置されており、各所からの要請に応える準備ができている。

補 足

■ 本文では、“最近起こったビッグ・フリーズ(Big Freezeとあるが、20212月中旬から米国全土を襲った大寒波のことを指していると思われる。とくに被害が深刻なのはメキシコとの国境に位置するテキサス州で、気温が過去30年間で最も低い-18℃まで低下し、450万世帯で停電、1,400万人以上が断水の被害に遭っている。このニュースについては、ユーチューブに簡潔に投稿されている。

YouTube「アメリカ広範囲で記録的寒波 テキサスで停電、ルイジアナも零下」を参照)

■ 本文中に「ある製油所の消防署長が直径270 フィート(82m)の原油タンク火災と戦っているときの実例」の話が出てくるが、原油タンクではなく、つぎのようなガソリンタンク火災ではなかろうか。

 ●「米国オリオン製油所のタンク火災ー2001

 ●「米国における最近のタンク火災消火方法 一オリオン製油所ガソリンタンク火災事例の考察一」

■「USファイア・ポンプ社」(US  Fire Pump)は、ルイジアナ州ホールデンを本拠地にした消防機材の製作会社である。同社の創設者であるクリス・フェラーラは40年以上消防業界に携わり、1979年にフェラーラ・ファイア・アパラタス社(Ferrara Fire Apparatus)を設立した後、 2017年にバス、消防車、救急車、RV 車などの特殊車両の米国メーカーであるREV Group (以前のAllied Specialty Vehicles ) に買収され、傘下の関係会社になった。

 一方、2014年に当時の業界に欠けていた大容量の消防ポンプを作るという目的から「USファイア・ポンプ社」を設立した。 USファイア・ポンプ社は、地方自治体や産業用消防の専門家が効果的に作業を行うために必要な補助消防設備を完備し、陸上火災、船舶火災、救助活動、ベーパー抑制作業、製油所・ターミナルの火災、その他のさまざまな緊急事態に対応している。USファイア・ポンプ社の製品については同社のウェブサイトに動画による紹介をしているので、米国における大型の消防機器の現状がわかる。

 「http://www.usfirepump.com/video」を参照)

 USファイア・ポンプ社は、 20193月に起きた最悪のタンク火災である「米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災」( および「米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災(火災拡大の要因)」を参照)において、タンク火災の経験豊富な消防士15名を派遣し、大容量の泡放射砲と泡薬剤を搬送し、消火活動を支援した。


所 感

■ これまでのブログで消火水について紹介したのは、つぎのようなものがある。

 ● 「タンク火災への備え」20129月); 工場火災では、消火用、冷却用、蒸発防止用に大量の水を必要とし、水は火災時に最も重要なものであるとし、水の供給の観点から言及したものである。

 ● 「タンク火災時の冷却水の使い方」20136月); 過去の体験をもとに、タンク火災時において、いつ、どこに冷却水を使用するかについて言及したものである。

 今回は、プラントにおける水の重要性を説き、「消防活動時の水供給に関する問題の解決」の方法を言及したもので、興味深い。

■ 日本では、2008年の大容量泡放射砲システムの配備で消火戦術の考え方は変わった。一方で、「大容量泡放射システムの運用に関する調査報告書」20133月、消防庁特殊災害室)によると、人員参集の課題、システム輸送に必要な車両や燃料の確保の課題、輸送道路の課題、大規模部隊運用の実効性の課題などがあげられている。しかし、今回の資料のような事例にもとづく消防活動時の水供給に関する問題はあがっていない。

 20212月の米国テキサス州の寒波を引き合いに出すまでもなく、最近の異常気象や自然災害では、これまでの想定とは異なる事象が起こっている。たとえば、日本でも「北海道電力・苫東厚真発電所の胆振東部地震による損傷」20189月)によって北海道全土がブラックアウト(停電)になっている。水供給の問題は米国で起こっても、日本では起こらないと断言できない。

備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Industrialfireworld.com, Overcoming Water Supply Issues,  May 12, 2021 


後 記: 今回の資料は消防機材会社のPR記事のようにも映りますが、最近のメキシコ湾岸の大寒波などの話題を入れた味わい深い資料です。 ところで、USファイア・ポンプ社は「米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災(火災拡大の要因)」 で消火活動に支援した会社ということは知っていました。今回、改めて会社を調べてみましたが、よく分かりません。創業者の設立したフェラーラ・ファイア・アパラタス社はREV Groupに買収されていますが、現在も存続しています。 これらの会社とUSファイア・ポンプ社の関係ははっきりしません。米国でよくある買収劇で、資金が動くだけで会社自体は変わっていないようです。金余りの状況で資金が動くので、国内総生産には寄与(?)しているのでしょうが、実態は変わらず、資金を動かす人だけが儲けている仕組みのような気がします。調べるのに時間がかかっただけに本文とは関係ない脇道にそれつつ、まとめました。

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