2025年10月29日水曜日

クリミア半島にあるロシアの石油貯蔵所で溶接手順違反によるタンク火災

 今回は、2025929日(月)、ロシア連邦クリミヤ共和国フェオドシヤにある石油貯蔵所のJSCマリン・オイル・ターミナルでタンク火災が起こった事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、ロシア連邦(Russia)クリミヤ共和国のフェオドシヤ(Feodosia)にある石油貯蔵所のJSCマリン・オイル・ターミナルである。

 クリミヤ半島は“2014年クリミア危機の際にウクライナからの一方的独立宣言を行った後、連邦構成主体としてロシアに編入されたが、国連総会決議では、ロシアによるクリミア併合の無効性が採択されている。

■ 事故があったのは、 JSCマリン・オイル・ターミナル内にあるロシア連邦(Russia)クリミヤ共和国のフェオドシヤ(Feodosia)にある石油貯蔵所のJSCマリン・オイル・ターミナルである。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2025929日(月)午後3時頃、フェオドシヤにある石油貯蔵所で火災が発生した。

■ 発災にともない、消防隊が出動した。消火活動には消防士69名と22台の消火機材が投入された。

■ 石油貯蔵所の従業員は危険区域からの退避を促され、避難した。

■ 火災は、空とみられていたタンクに残っていた燃料油が要因で、タンクに火がついた。空のタンク3基のうち1基が火災に遭ったという。

■ 火災は、ディーゼル燃料の入ったタンクなど637㎡の面積にわたって拡がった。

■ 事故にともなう負傷者はいなかった。

■ この石油貯蔵所はクリミアのガソリンスタンドへの燃料供給サイクルには関与しておらず、クリミア半島でロシア軍に燃料や潤滑油を供給する拠点で、この点、市民への影響は少ないとみられる。

■ この事故は、メンテナンス作業中、溶接手順のミス(違反)が原因であるという。

被 害

■ 貯蔵タンク1基が損傷した。 

■ 負傷者はいなかった。

< 事故の原因 >

■ メンテナンス作業中、溶接手順のミス(違反)が原因であるという。

< 対 応 >

■ 地元当局は、火災はすぐに鎮火したと発表したが、実際は発災から翌日の930日(火)午前8時頃、消防隊が石油貯蔵所の貯蔵タンクの火災を消し止めた。

■ フェオドシヤにあるJSCマリン・オイル・ターミナルは、石油製品の取扱量でクリミア半島最大の規模を誇っている。しかし、202410月、大規模な火災が発生し、鎮圧に数日かかった。当局は人為的緊急事態を宣言し、現場付近の住民1,000人以上が避難するという事故があった。

■ さらに、2025106日(月)夜と1013日(月)夜、2度のウクライナによる無人航空機(ドローン)攻撃の結果、JSCマリン・オイル・ターミナルの燃料タンク11基が破壊された。この際、石油貯蔵所は大規模な火災が発生し、炎は数km先まで見えたという。攻撃で損傷したタンクに貯蔵されていたとみられる石油製品の総量は約193,000KLに上るという。このタンク破壊状況は衛星画像によって確認されている。2022年に石油貯蔵所の敷地内に設置されたパンツィリ防空システムは、ウクライナによる攻撃をいずれも防ぐことができなかった。


補 足

■ 「ロシア連邦」(Russia)は、通称ロシアと称しており、ユーラシア大陸北部に位置し、人口約14,300万人の連邦共和制国家である。

「クリミヤ半島」は、2014クリミア危機の際にウクライナからの一方的独立宣言を行った後、連邦構成主体としてロシアに編入され、クリミア州ごと「クリミヤ共和国」と称されている。なお、国連総会決議では、ロシアによるクリミア併合の無効性が採択されている。

 「フェオドシヤ」(Feodosia)は、クリミア半島の黒海沿岸に位置し、人口約66,000人の港湾都市である。

■「JSCマリン・オイル・ターミナル」(JSC Marine Oil Terminal)は、フェオドシヤのゲオロギチェスカヤ通りに位置しており、クリミア共和国の国営単一企業「Chernomorneftegaz」が100%所有している。クリミア共和国によると、同社は石油および石油製品の輸送、貯蔵、積み替えを行う共和国最大の企業で、貯蔵所の容量は258,000KLである。

■「発災タンク」は、ディーゼル燃料用に使用されていたものであるが、大きさなどの仕様は分からない。なお、2025106日・13日の無人航空機(ドローン)による攻撃でタンクが破壊されたが、ユーチューブには破壊タンクの状況が写されており、下の写真に示す。

所 感

■ 事故原因は、メンテナンス作業中の溶接手順のミス(違反)だという。溶接手順やミス(違反)の詳細内容はわからない。人身事故ではなかったが、米国化学物質安全性委員会(CSB)の「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」2011年7月)としてまとめられたつぎのような項目のいずれかに該当するような事故ではなかったかと思われる。

   ①火気作業の代替方法の採用  ⑤着工許可の発行

   ②危険度の分析        ⑥徹底した訓練

   ③作業環境のモニタリング   ⑦請負者への監督

■ 消火活動の詳細はわからないが、積極的戦略をとり、消火活動には消防士69名と22台の消火機材が投入されている。おそらく、泡消火作業によって消したものだと思われる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Donpress.ru, На нефтебазе в Феодосии  произошел пожар,  September 29,  2025

    Crimea.ria.ru, Пожар вспыхнул на нефтебазе в Феодосии - что известно,  September 29,  2025

    Crimea24tv.ru, На нефтебазе в Феодосии произошёл пожар из-за сварочных работ,  September 29,  2025

    Tass.ru, На нефтебазе в Феодосии произошло возгорание,  September 29,  2025

    Gorod24.online, Пожар произошел на Феодосийской нефтебазе из-за нарушения технологии сварочных работ,  September 29,  2025

    Kommersant.ru, В крымской Феодосии горит нефтяной терминал,  September 29,  2025

    Rbc.ru, На нефтебазе в Феодосии загорелась топливная емкость,  September 29,  2025

    Interfax-russia.ru, Пожар на нефтебазе полностью потушили в Крыму,  September 30,  2025

    Crimea.ria.ru, Пожар на нефтебазе в Феодосии потушили,  September 30,  2025

    Crimea-news.com, Пожар на нефтебазе в Феодосии и разрешение на удары вглубь РФ: главное,  September 29,  2025

      Investigator.org.ua, Две атаки дронов уничтожили на Феодосийской нефтебазе 11 нефтяных резервуаров (спутниковые фото),  October 18,  2025

      Pravda.com.ua, Генштаб подтвердил повторный удар по нефтяному терминалу в Феодосии: повреждены 16 резервуаров,  October 18,  2025

      Uatv.ua, Бензиновый коллапс в Крыму: удары по Феодосийской нефтебазе — обоснованная военная стратегия ВСУ,  October 16,  2025

     Youtube.com, Eleven Oil Tanks Destroyed At Feodosia Oil Depot In Two Drone Strikes This Week!,  October 22,  2025


後 記: 今回のタンク火災事故の記事に下のような被災写真が付いていましたので、標題の写真として使おうと思いました。この種の写真は消防署からの提供によるものだと思っていましたが、それ以外のメディアの記事にはタンク火災の写真はありません。調べているうちに、昨年の別な場所のタンク火災写真であることがわかりました。だまされる方が悪いのでしょうね? 

 ところで、タンク事故から半月後に無人航空機(ドローン)攻撃によって石油貯蔵所が破壊されてしまいました。このブログでは戦争によるタンク事故は基本的に取り上げないようにしていますが、今回は取り上げざるを得ない状況でした。しかし、壊滅的な石油貯蔵所の状態を見れば、なにか虚しさを感じます。

2025年10月21日火曜日

韓国のレーザー加工工場で液体窒素タンクが破裂、建物2棟が損傷

 今回は、2025105日(日)、韓国の京畿道華城市にあるレーザー加工工場のレーザー加工機用の液体窒素タンクが破裂した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、韓国の京畿道(경기도;キョンギド/けいきどう)華城市(화성시;ファソンし/かじょうし)香南邑(ヒャンナム・ウプ)にあるレーザー加工工場である。レーザー加工は高密度のレーザーを調節して工作物の一部を溶かして加工する。

■ 事故があったのは、レーザー加工工場内にある液体窒素タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2025105日(日)午前530分頃、京畿道華城市香南邑のあるレーザー加工工場で爆発音があった。一方、火災は起こらなかった。

■ 消防署には「建物が爆発した」という通報があり、消防隊が出動した。

■ 消防隊は、火災がないことを確認し、建物内部に人がいないか捜索をした後、安全措置を実施した。

■ 事故にともない、レーザー加工工場と隣にあった工場の建物2棟の壁面や屋根が崩れるなどの被害があった。

■ 事故にともなう死傷者はいなかった。事故が発生した当日は日曜日の明け方の時間であり、人がいなかった。

 事故は工場内のヘリウムガス・タンクが爆発したと伝えられ、大半のメディアはヘリウム貯蔵タンクが爆発したと報道した。しかし、その後ヘリウムガス・タンクでなく、貯蔵能力4,900㎏規模の窒素貯蔵タンクが破裂したことが明らかになった。

■ レーザー加工では、レーザビームによって溶融した金属を吹き飛ばすための高速ガス流が用いられ、アシストガスと呼ばれる。切断時に主に使用されるのは、酸素ガスや窒素ガスである。チタンやチタン合金の場合は、酸化や窒化を防止するためにアルゴンガスが用いられる。溶接や焼き入れには、加工部が酸化することを防ぐためアルゴンガスやヘリウムガスが使用される。今回の事故では、窒素ガスのための液体窒素タンクが破裂したものとみられる。

■ ユーチューブでは、事故報じる動画が投稿されている。

 Youtube「레이저공장서 헬륨가스 추정 폭발 사고인명 피해 없어 / 연합뉴스TV (YonhapnewsTV)2025/10/05

 ●Youtube「화성 공장서 헬륨가스 추정 폭발다친 사람 없어 / SBS2025/10/05

被 害 

■ 液体窒素タンク1基が損壊した。

■ 工場2棟の壁面と屋根が損傷した。

■ 負傷者はいなかった。

< 事故の原因 >

■ 原因は調査中とみられる。

 推測のひとつは、「二重殻式液体窒素タンクの内槽の本体またはパイプからクラック(割れ)が発生し、液化窒素が漏出しながら気化して内槽と外槽との間の圧力が上昇、破裂したと考えられる」、別な推測では、「安全装置が作動していないので、貯蔵タンクの品質レベルが悪かったのではないか。内槽と外槽の間に圧力が上がり、内槽はそのままで外槽が飛んでおり、外槽の溶接部位などに欠陥があったのではないか」というものである。 

< 対 応 >

■ 事故後の被災確認では、二重殻式液体窒素タンクの内槽(ステンレス製)は角度45度の傾斜で倒れており、外槽(炭素鋼製)だけが破裂により完全に離脱していた。そして、内槽と外槽の間にあった断熱材も痕跡もなく飛んでいたという。

 産業ガス供給業者の専門家は、「窒素貯蔵タンクの外槽だけ噴き飛んだということから、内槽の本体またはパイプからクラック(割れ)が発生し、液化窒素が漏出しながら気化して内槽と外槽との間の圧力が上昇、破裂したと推定される」という。また、「何より貯蔵タンクの真空を維持しなければならない内槽と外槽の間安全装置が作動していないのは貯蔵タンクの製品欠陥ではないか」と語った。なお、「最近までガスを供給しながら、リリーフ式安全装置が作動する事例はなかった」と付け加えた。

■ 事故現場を訪れた別な高圧ガス業界の専門家は、安全装置が作動していないことについて今回の貯蔵タンクの品質レベルに注目した。内槽と外槽の間に圧力が上がり、内槽はそのままで外槽が飛んだということは、外槽の溶接部位などに欠陥があったのではないかと指摘した。

■ 安全装置が未作動によって、内槽の液化窒素が漏れて圧力が上昇して外槽が噴き飛んだことに対して、窒素貯蔵タンクの安全装置を徹底的に点検する必要があるという指摘がある。

■ 今事例の貯蔵タンクメーカーはB社であることが明らかになった。京畿道西部地域にある高圧ガス充填事業者は「20年前もB社の貯蔵タンク品質に関連した問題が多かった」といい、「特に貯蔵タンクの真空系が壊れるなどの事例の発生頻度がたびたびあり、製造業者に責任を問うこともした」と話した。

 今回の窒素貯蔵タンクの破裂事故により、高圧ガス業界の一部では「断熱性能が悪い貯蔵タンクの場合、週末や連休など操業しないときにさらに早く圧力が上昇する可能性があり、スプリング式、破裂板式など安全装置の作動可否などの点検をさらに徹底しなければならない」と指摘している。

■ 窒素貯蔵タンクの破裂事故は、20225月、京畿道金浦と慶尚北道慶州で相次いで起きている。今回の事故とは異なり、2件の事故では貯蔵タンク内槽と外槽がそれぞれ破裂し、貯蔵タンクが丸ごと飛び、破片が広範囲に落下した。

補 足

■「韓国」は、正式には大韓民国で、 東アジアに位置し、人口約5,120万人の共和制国家である。首都はソウル特別市である。

「京畿道」(경기도;キョンギド/けいきどう)は、大韓民国の北西部、朝鮮半島の中西部に位置し、人口1,360万人の道である。

「華城市」(화성시;ファソンし/かじょうし)は、京畿道の南西部に位置し、人口約94万人の都市である。

「香南邑」(ヒャンナム・ウプ)は、華城市の南部に位置する邑(行政区分)で、人口約85,000人である。

■「レーザー加工工場」の建物被害の写真はあるが、どのようなレーザー加工機を使用して製品を作っているのかは報じられていない。日本の一般的なレーザー加工機を使用した工場の例を写真に示す。

■ 一般的な「レーザー加工機」のしくみは図のような基本構成となる。

 ● レーザー発振器系; レーザー光を発振する装置である。加工する材料、板厚、加工精度などによってレーザー光の種類(波長)や出力が選ばれる。切断用の熱源としてはCO2レーザーなどが一般的に使用される。

 ● 加工光学系; レーザー発振器から発生したレーザー光を集光してテーブルに照射するための装置である。レーザー発振器からレーザー光を伝送する「光路」、そして伝送されたレーザー光を集光して対象物へ照射する「集光系」から構成される。また、レーザー光によって融解・蒸発した金属を除去するための「アシストガス」などの噴射装置も加工光学系に含まれる。

 ● 加工物質系; 加工物を固定するためのテーブルと加工物を指す。切断などでレーザー光の照射位置を移動させる場合、集光系またはテーブル(あるいはその両方)を動かす必要があり、テーブルには駆動システムを組み込む。レーザー加工では、レーザーに対する加工物の光学的性質(反射率、吸収率、透過率など)に加えて熱的性能も重要な要素になる。また、加工物を動かす場合は、テーブルの送り速度などが重要なパラメータになる。

■「アシストガス」は、レーザー光での切断能力を十分に発揮するために使用される。たとえば、切断の際に使用されるガスは窒素ガスと酸素ガスがあり、それぞれに役割が違う。酸素ガスは、噴射することによる酸化反応で熱を引き起こすことができる。窒素ガスは、溶融金属を切断溝から排出していく。

 アシストガスは、用途や加工物の素材、制御方法によって様々な種類のものがある。切断時に主に使用されるのは、酸素ガスや窒素ガスである。ステンレス切断には窒素ガスがよく使用されるが、チタンやチタン合金の場合は、酸化や窒化を防止するためにアルゴンガスが使用される。溶接や焼き入れには、加工部が酸化することを防ぐためアルゴンガスやヘリウムガスなどが使用される。

■ 破裂した「液体窒素タンク」は貯蔵能力4,900㎏規模の貯蔵タンクと報じられている。液体窒素タンクの圧力と温度について、一般的には、圧力が使用圧力範囲内(例:約0.95 MPaなど)で、温度が沸点である約-196℃77K)といわれている。この超低温環境を維持するため、タンクは二重殻構造で真空断熱などが施されている。

 事故後の被災確認では、二重殻式窒素貯蔵タンクの内槽(ステンレス製)は角度45度の傾斜で倒れており、外槽(炭素鋼製)だけが破裂により完全に離脱し、内槽と外槽の間にあった断熱材は痕跡もなく飛んでいたという。液体窒素1㎏はガスになると0.8N㎥であり、貯蔵能力4,900㎏規模の内槽の直径を1.2mと仮定すれば、高さは約5.4mとなる。被災写真で写っている容器がこの程度の大きさと見られるので、発災タンクと思われる。

■「事故事例」(AI による液体窒素タンクの事例紹介);液体窒素タンクの事故事例には、タンクの破裂、爆発、酸素欠乏による窒息死がある。具体的には、安全弁の元弁が閉止されたまま長期間放置されたことによる内圧上昇での破裂、液体窒素に溶け込んだ酸素と可燃物(例:ベンゼン)による爆発、実験室で気化し、酸素濃度が低下した窒息が発生している。

 このうち、タンクの破裂事例としては、1992年に北海道の食品工場で液体窒素貯槽が破裂し、工場が半壊、周辺に甚大な被害が出た。原因は、安全弁の元弁が閉められ、完全に密閉された状態になったまま、約2か月間使用されていなかった貯槽に外部からの熱が入り続け、内圧が上昇し限界を超えて破裂したものである。液体窒素は気化すると体積が約700900倍に膨張するため、密閉された容器内で気化すると内圧が急上昇して破裂する危険がある。事故は夜間に破裂したため、物的被害のみで済んだ。本事例はつぎの資料を参照。

 「液化窒素貯槽の破裂事故」、 安全工学、VoL33 No.4  1994

 「安全弁元弁の閉止によって液化窒素貯槽が破裂」、失敗知識データベース

所 感

■ 今回の事例の原因は、つぎのような推定が考えられている。

 ● 二重殻式液体窒素タンクの内槽の本体またはパイプからクラック(割れ)が発生し、液化窒素が漏出しながら気化して内槽と外槽との間の圧力が上昇、破裂した。 

 ● 安全装置が作動していないので、貯蔵タンクの品質レベルが悪かったのではないか。内槽と外槽の間に圧力が上がり、内槽はそのままで外槽が飛んでおり、外槽の溶接部位などに欠陥があったのではないか。

 このうち最初の推定に対する対策は、内槽内の非破壊検査と水圧試験があるが、欠陥が内在したタンクについて適確な試験・検査はなかなか容易でない。2番目の安全弁に関する対策は、安全弁の定期的な試験・検査である。さらに、人為的な安全弁の元弁を閉止することに対する方策(常時開放札やロックドオープンバルブ策)である。

■ 特に、安全弁の元弁閉止による破裂事例は、1992年に日本の北海道の食品工場でも起こっており、工場が半壊、周辺に甚大な被害が出た事故である。比較的新しい技術であるレーザー加工機であるが、液体窒素タンクという付帯設備にも注意しなければならないという事例である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

       Yna.co.kr,  레이저공장서 헬륨가스 추정 폭발 사고인명 피해 없어,  October  5,  2025

       Mt.co.kr,  화성 레이저 가공 공장서 폭발 사고벽면·지붕 무너져,  October  5,  2025

       News1.kr,  화성 레이저 가공공장서 헬륨가스 추정 폭발 사고건물 일부 붕괴,  October  5,  2025

       News.nate.com,  화성 레이저 가공 공장서 폭발 사고벽면·지붕 무너져,  October  5,  2025

       News.zum.com,  레이저가공 공장 펑, 헬륨가스탱크 폭발인명피해 없어,  October  5,  20

       News.sbs.co.kr,  화성 향남읍 공장서 헬륨가스 추정 폭발다친 사람 없어 ,  October  5,  2025

       Imnews.imbc.com,  화성 향남읍 공장서 액화질소 추정 폭발 사고인명피해 없어,  October  5,  2025

       News.nate.com, 경기 화성 레이저공장서 헬륨가스 추정 폭발 사고인명 피해 없어,  October  5,  2025

       Gasnews.com,  질소저장탱크 안전장치 철저히 점검해야,  October 10,  2025


後 記: 今回の事例はあまり聞いたことのない事故なので調べることとしました。しかし、何が破裂したのかメディアによって異なり、よく分かりません。韓国の報道は事業者名などを報じないなどもどかしさを感じる記事が大半でした。しかし、検索をやっていると、AIによる情報がありました。「華城香南邑のあるレーザー加工工場で液化窒素(ヘリウムガスと推定されることもある)が爆発し、工場建物2棟の壁面と屋根が破損する事故が発生しました。 事故は、2025105日午前535分頃発生、事故当時工場に人がいなかったため、人命被害はありませんでした」というもので、早い段階で「液化窒素(ヘリウムガスと推定されることもある)」と妥当な表現で、初めてAIの良さを理解しました。そして事故から5日後に韓国のガスニュースを報じるウェブサイトの記事によって事故状況がつかめました。一方、今回ほど発災場所、レーザー加工工場、レーザー加工機、アシストガス、液体窒素タンク、過去の事例など基本的な情報を調べたことはなかったですね。お陰でいろんなことを知るチャンスをいただきました。(ちょっと嫌味?

2025年10月14日火曜日

米国オハイオ州の石油生産施設にある油井タンクが爆発・火災、負傷者なし

 今回は、2025104日(土)、米国オハイオ州セブリングの石油生産施設で油井タンクが爆発を起こした事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国オハイオ州(Ohio)マホニング郡(Mahoning County)セブリング(Sebring)にある石油生産施設である。

■ 事故があったのは、ジョンソン・ロードの少し西でコートニー・ロードの近くの石油生産施設にある油井タンクである。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2025104日(土)午後1時頃、石油生産施設にある油井タンク1基が爆発した。現場では黒煙が上がった。

■ 住民のひとりは、爆発があったとき、自宅が揺れるのを感じたと語った。

■ 発災に伴い、セブリング消防署の消防隊が出動した

■ 消防隊には、応援のため、ジョージタウン、レキシントン、ディアフィールド、ホームワース、アライアンスの消防署から消防士が支援のために現場に到着した。

■ 消防隊は石油生産施設の爆発事故に対応した。

■ 消防署によると、油井タンクには容量の4分の1しか入っていなかったという。

■ 事故にともなう負傷者はいなかった。

■ 事故原因は不明で、セブリング消防署が調査中である。

被 害

■ 石油生産施設内の貯蔵タンク1基が損傷した。 

■ 負傷者は出なかった。

< 事故の原因 >

■ 火災原因は分かっておらず、消防署が調査中である。

< 対 応 >

■ 乾燥した天候のため、周囲の野原が火事になったが、すぐに消し止められた。

■ オハイオ州では、この事故のおよそ1か月前に、ワシントン郡の石油掘削施設で爆発があり、負傷者6名を出す事故があった。

補 足

■「オハイオ州」(Ohio)は、米国北東部の五大湖に接し、人口約1,200万人の州である。

「マホニング郡」(Mahoning County)は、オハイオ州の東部に位置し、人口約226,000人の郡である。

「セブリング」(Sebring)は、マホニング郡南西部に位置し、人口約4,100人の町である。

■「発災タンク」は石油生産施設内の円筒タンクである。グーグルマップで調べても、ジョンソン・ロードの少し西でコートニー・ロード近くにあるという発災施設らしい場所は特定できなかった。発災現場の被災写真を見ると、直径は34m程度で、高さを5.07.0mと仮定すれば、容量は3588KLとなる。円筒タンクには容量の4分の1しか入っていなかったというから、922KLの液が入っていたとみられる。

所 感

■ 発災タンクの大きさなどの仕様はもちろん発災状況も分からない。この種の施設では、落雷による火災原因も考えられるが、被災写真を見る限り、天候は良いようなので別な要因であろう。タンクには容量の4分の1しか入っていなかったというから、空気がタンク内に導入され、爆発混合気が形成し、何らかの引火要因で爆発したものと思われる。

■ 消防隊によるタンクの消火活動の状況は報じられていないが、「乾燥した天候のため、周囲の野原が火事になり、すぐに消し止められた」というので、タンク火災はあったとみられる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Yahoo.com, Fire departments called for explosion at oil well,  October 05,  2025

     Wkbn.com, Fire departments called for explosion at oil well,  October 04,  2025

     Wfmj.com, Sebring oil well explosion, no injuries,  October 04,  2025

     Youtube.com, Multiple injured after oil well explosion in Ohio,  August 27,  2025

     Youtube.com, Explosion at Ohio orphan well had 6 life-flighted, 5 in critical condition,  August 26,  2025


後 記: 20257月に紹介したオクラホマ州のタンク火災では、テキサス州の無味乾燥な情報と若干異なるメディアの記事だと後記に書きました。それでも火災タンク基数や消防活動の鎮火時間が分からない尻すぼみの内容で、石油生産施設は油を生産することが優先で、施設の安全などは二の次といった考え方が首をもたげ始めてきているようですと書きました。今回は、米国の北東部に位置し、首都圏に近いオハイオ州における石油生産施設のタンク爆発事故ですので、違っていると期待しましたが、残念ながら憂慮した事項が現実化してきました。タンク事故のメディア情報くらいで大げさだという声が聞こえてきそうですが・・・

2025年10月11日土曜日

米国カリフォルニア州のシェブロン製油所で爆発・火災、貯蔵タンクに延焼なし

 今回は、2025102日(木)、米国カリフォルニア州エルセグンドにあるシェブロン社の製油所のジェット燃料製造装置(アイソマックス;水素化分解装置)で爆発・火災が起こった事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国のカリフォルニア州(California)ロサンゼルス郡(Los Angeles)エルセグンド(El Segundo)にあるシェブロン社(Chevron)のエルセグンド製油所(El Segundo Refinery)である。エルセグンド製油所の精製能力は285,000バレル/日で、貯蔵容量は約150基の貯蔵タンクに1,250万バレルである。

■ 事故があったのは、エルセグンド製油所のジェット燃料製造装置(Jet fuel production unit)である。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2025102日(木)午後930分頃、シェブロン社エルセグンド製油所の南東の角にあるプロセス装置で爆発・火災が発生した。

■ 製油所の近くで作業していた人は、「最初、シューッという大きな音が聞こえました。風みたいな音でしたが、圧力のある風のような感じでした」といい、「次の瞬間、目の前のすべてが突然明るくなって、タワーや機器の影が見えました。火事だと感じました。顔に熱波が襲ってくるのを感じて夢中で走って逃げました」と語った。

■ 発災にともない、警察と消防隊が出動した。エルセグンド警察によると、複数の爆発の通報を受けたという。

■ 午後10時頃に発生した大爆発により、製油所から数マイル離れた場所からも見えるほどのオレンジ色の炎が上がった。目撃者によると、爆発は小さな地震のようだったという。火災が発生した際に現れた火の玉はロサンゼルス西部の空をオレンジ色に染め、火災により点火された製油所のフレアも同様にオレンジ色に染めた。フレアは高い炎の柱を放出するもので、製油所が炭化水素を正常に処理できない場合に使用される。

■ シェブロン社の自衛消防隊を含む消防隊は火災の制圧に努めた。

■ 火災現場の近くには貯蔵タンクエリアがあり、延焼しないかという心配があったが、火災エリアは限定されている。

■ エルセグンドの消防隊のほか、ロサンゼルス郡消防局の隊員も現場に駆けつけ、救援活動を行った。カリフォルニア州知事緊急事態管理局は、州と地方当局と連携していくと述べた。

■ 事故にともなう負傷者は報告されていない。

■ 火災は製油所のアイソマックス7ユニット(Isomax 7 unit)で発生したという。この装置は中間留分燃料油をジェット燃料に変換する装置である。

■ 製油所付近の空気はガソリンの臭いがした。

■ 火災はエルセグンドや周辺都市の空気質に影響を与える懸念が出た。南海岸大気質管理局は、毒性物質のレベルの上昇は確認されていないものの、状況は変化する可能性があると指摘した。 「今晩、煙が収まれば状況が変わるかもしれません」といい、住民には煙が流れてきたり、臭いがしたりした場合はドアや窓を閉めるよう勧告した。 

■ 空気質に影響を与えるだけでなく、地表に沈着して最終的には雨水溝や水路に流れ込むため、水質汚染にも影響を与えるだろうと注意喚起された。

■ 油はまだ燃えているが、消防署は、火は自然に消えるか、時間を経て消し止められると考えているという。

■ 製油所はロサンゼルス国際空港にジェット燃料を供給しており、空港は製油所のすぐ北に位置する。ロサンゼルス市長は、「現時点ではロサンゼルス国際空港への影響はない」と述べた。火災発生直後から欠航、迂回、遅延などの便は発生していないという。

■ 大きな製油所で発生した大規模の火災により、カリフォルニア州全域でのガソリン価格上昇への影響が心配されている。AAAAmerican Automobile Association;全米自動車協会)と南カリフォルニア大学の専門家は、州全体のガソリン価格が急騰する可能性が高いと予測している。AAAは、「この施設は、この地域の燃料供給において非常に重要な役割を果たしており、今後のガソリン価格の動向に注目が​​集まっている」と語っている。 この製油所は285,000バレル/日の原油を処理しており、西海岸最大の石油生産量を誇っている。製油所はカリフォルニア州内の自動車用燃料の20%とジェット燃料の在庫の40%を生産している。

■ 当局は、消防隊が製油所内の一区画に火災を封じ込めたと述べた。住民は避難する必要はないものの、当面の間、屋内にとどまるよう勧告した。

■ ユーチューブには、火災の状況を伝えるニュースや撮影された動画などが投稿されている。

 YouTubeMassive fire breaks out after explosion at Chevron oil refinery2025/10/04

 ●YouTubeMassive blaze erupts at Chevron oil refinery in California2025/10/03

    ●YouTubeWATCH: Camera Captures Exact Moment Of Explosion At Chevron Oil Refinery In El Segundo, California2025/10/04

    ●YouTubeMassive fire erupts at Chevron refinery in El Segundo2025/10/03

被 害

■ ジェット燃料製造装置が火災で被災した。   

■ 死傷者は出ていない。

■ 火災による大気汚染の懸念があり、火災現場の近くの住民に屋内にとどまるよう勧告が出た。

< 事故の原因 >

■ 事故原因は調査中である。

< 対 応 >

■ 消防隊は、夜遅くまでに火災を施設の南東隅に封じ込め、翌日103日(金)の朝に鎮圧した。

■ 火災は午前7時頃までにほぼ鎮圧されたものの、消防隊は現場に残り、製油所の南東隅にあるプロセス装置で発生した炎を完全に消火した。

■ シェブロン社は103日(金)に複数のプロセス装置の稼働を停止した。

■ シェブロン社は火災の原因を調査している。

■ 専門家は、「シェブロン社の製油所が1週間停止するごとに、価格はおそらく13セントずつ上昇するだろう」といい、「不足が生じた場合、州は韓国か中国から石油を輸入しなければならなくなり、サプライチェーンに負担がかかり、商業航空旅行に影響が出る可能性があると考えている」という。

 当初の予測では1ガロン当たり3090セント上昇すると見込まれていた。しかし、製油所への被害が限定的となった現在では価格の急騰はそれほど急激にはならないだろう。現時点では、地元のガソリンスタンドでの価格上昇は1ガロンあたり5セントから15セント程度にとどまると予想されるという。

■ エルセグンド製油所は西海岸最大の石油生産施設だが、ここで爆発が起きたのは今回が初めてではない。2016年以降、エルセグンド製油所では少なくとも4件の火災が発生したと報告されている。

 OSHA(労働安全衛生局)の記録によると、同局は2020年以降、エルセグンド製油所を12回検査した。そのうち4回の検査で14件の違反が発覚し、OSHAから合計44,000ドルの罰金が科された。なお、可燃性化学物質を扱う施設としてはこの数字は大きくないという。

補 足

■「カリフォルニア州」(California)は米国西海岸に位置し、メキシコとの国境から太平洋沿いに細長く伸び、人口約3,950万人の州である。

「ロサンゼルス郡」(Los Angeles)は、カリフォルニア州の南部に位置し、人口約1,000万人の郡である、

「エルセグンド」(El Segundo)は、ロサンゼルス郡の西に位置し、 サンタモニカ湾に面する人口約17,000人の町である。

■「シェブロン社」(Chevron Corp.)は、米国カリフォルニア州のサンラモンに本社を置く石油企業である。

「エルセグンド製油所」(El Segundo Refinery)は、精製能力は285,000バレル/日で、貯蔵容量は約150基の貯蔵タンクに1,250万バレルの規模を誇る。この製油所は約1.5平方マイルの敷地面積で、パイプラインの総延長は1,100マイル(約1,800km)を越える。製油所は1911年から操業しており、ガソリン、ジェット燃料、ディーゼル燃料を生産している。

■「発災場所」はジェット燃料製造装置(Jet fuel production unit)で、アイソマックス7ユニット(Isomax 7 unit)で発生したという。装置は水素化分解装置で、中間留分燃料油をジェット燃料に変換する装置である。

 アイソマックス装置は重質油の水素化分解装置である。もともとはプロセス開発会社のUOP社が開発したもので発表当初はロマックス法と呼ばれていたが、シェブロン・リサーチ社で開発した水素化分解法(アイソクラッキング法)と特許上で共通した点があったため、両プロセスの統合が行われ、この水素化分解法をアイソマックス法(Isomax=Isocracking Lomax)と呼ぶことになった。 しかし、同じ名前ではあるが、両社から提供される水素化分解法は触媒においては独自に開発したものを使用している。 このアイソマックス法は重質油から軽質油への水素化分解のみな らず、LPガスの製造にも適用されている。アイソマックス(水素化分解)装置のプロセスフローの例と一般的な加熱炉の例は下に示す図を参照。

■ 発災場所は製油所のジェット燃料製造装置(アイソマックス;水素化分解装置)ということは報じられているが、事故内容の詳細は伝えられていない。事故写真を見ると、発災設備は加熱炉(または予熱炉)とみられる。目撃者の話を加味すると、加熱炉内のチューブの噴破(ふんぱ)ではないだろうか。 蒸気ボイラーでは聞くことはあるが、プロセス・ヒーターでは無い。突然、加熱管がわずかな欠陥によって開口し、炉内に急激に液が噴出して火災になったのではないだろうか。事故写真の中にはかなり大きな火炎になっているものがある。

■ 通常、プロセス装置の火災では、プロセスへの原料油張込みを停止(ポンプ停止やバルブ閉止)すれば、燃料源が無くなり、消防署が語ったように火は自然に消えるのが普通である。しかし、今回は火災の鎮圧に10時間を要している。なにか別な燃え続ける要因があったのかも知れない。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Cbsnews.com,  How the Chevron refinery fire in El Segundo could affect California gas price,  October  3,  2025

     Abc7.com,  What to know about air quality and your health after El Segundo refinery fire,  October  4,  2025

     Chevron.com, Fire at chevron el segundo refinery is now out,  October  3,  2025

     Reuters.com, Chevron's Los Angeles refinery down after large fire erupted in jet fuel unit,  October  3,  2025

     Latimes.com, ‘I thought we got nuked or something.’ Massive explosion, fire at Chevron refinery rocks El Segundo,  October  2,  2025

    Bbc.com,  Massive fire at Chevron refinery in California contained, officials say,  October  3,  2025

    Calmatters.org, Refinery fire spotlights California’s gas supply crunch and high prices at the pump,  October  7,  2025

     Theguardian.com, Fire still burning at California Chevron refinery following explosion,  October  3,  2025

     Nbclosangeles.com, Large fire erupts at Chevron refinery in El Segundo,  October  3,  2025 

     Energynow.com, Massive Fire Erupts in Jet Fuel Unit at Chevron’s Los Angeles Refinery,  October  3,  2025


後 記: 今回の事故は米国の製油所の事例で、貯蔵タンクではありませんが、爆発事故ということもあり、調べることとしました。最近のローカルな事故ではメディアの情報内容が今一つ物足らないというものでしたが、本事例はメジャーの製油所事故なので、主要なメディアが揃って報じていました。住民の声やガソリン価格への影響などを伝える記事の多さにさすがだと思い直しました。しかし、肝心の事故内容を報じている記事は少なく、ちょっと期待外れでした。発災事業者が事故について話さないという前提というか思い込みがあるということを感じました。事故写真はドローン(ヘリコプター)による撮影など数多くのものが報じられましたが、夜ということもあり、出来の良い写真はありませんでした。

 ところで、“米国のガソリンは安い” という印象がありますが、カリフォルニア州では特有の税金・環境規制などの影響で、現在は日本とほぼ変わらない、あるいはやや高いレベルになっているようです。

2025年10月5日日曜日

米国ケンタッキー州の食用油製造工場で水素タンクが爆発、1名死亡

 今回は、米国ケンタッキー州シブリーにある食品企業AAK社の食用油製造工場で起こった水素タンクの爆発事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国ケンタッキー州(Kentucky)ジェファーソン郡(Jefferson county)シブリー(Shively)にある食品企業AAK社の食用油製造工場である。AAK社はスウェーデンに本社があり、植物油を専門とする食品企業で、施設では大豆油の漂白、水素化、脱臭、精製が行われている。

■ 事故があったのは、セブンス・ストリートロード沿いにあるAAK社ルイビル工場(Louisville Plant)の製造で使用する水素タンクである。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2025921日(日)1230分頃、食用油製造工場で水素爆発が起こった。

■ 発災にともない、現場での火災警報を受けて消防隊が出動した。

 午後1230分過ぎ、消防署がセブンス・ストリートロード2500番地の火災警報が鳴ったという通報を受けた。  

■ 消防隊が現場に到着した際、目に見える火災は確認できなかった。消防隊は工場職員の案内で爆発現場に案内され、そこで致命傷を負った作業員を発見した。作業員は、その後、死亡が確認された。

■ 消防署長は、「AAK社は油を使用可能な製品に変換するために大量の水素を使用しており、爆発は水素の取扱い中に起きた」と語っている。

■ 当局は、水素タンクのコンバージョン・プロセスで爆発が発生したと述べた。爆発の影響は建物の外部に限定された。注;水素タンクのコンバージョン・プロセス(a hydrogen tank conversion process

■ 通りの向かい側で働き、工場から漂ってくる臭いに悩まされてきたという住民は、「時々恐いことがあります」といい、「消防署の消防車がAAK社の工場に駆けつけるのを何度も目にしました。こんな生活は嫌ですし、周りの人たちもこんな生活を嫌がっているのは分かっています。何か対策を講じなければなりません」と語った。別な住民のひとりは、「本当に悲しいです。何か対策を打つ必要があることは、これまでAAK社は認識していたはずです。誰かが亡くなったということですが、本当に辛いことです」と語った。

■ この事故を受け、ルイビル工場の一部が閉鎖された。

■ ユーチューブでは、事故の速報を伝えるニュースの動画はあるが、タンク爆発の状況を伝える動画は無かった。

被 害

■ 水素タンクが損傷した。 

■ 作業員1名が死亡した。

■ 爆発は建物の外部に限定されたが、この事故を受け、ルイビル工場の一部が閉鎖された。

< 事故の原因 >

■ 爆発の原因は調査中である。

< 対 応 >

■ AAK社は、事故後、つぎのような声明を発表した。

2025921日(日)、ケンタッキー州にあるAAK社ルイビル工場で事故が発生したことを深くお詫び申し上げます。誠に残念なことに、当社の従業員のひとりが亡くなりました。ご遺族、ご友人、そしてこの事故に遭われた皆様に心よりお見舞い申し上げます。緊急対応部署は直ちに対応し、当社は当局の捜査に全面的に協力しております。予防措置として、工場の関連部分の操業を停止いたしました。AAK社は安全を最優先に考えております。事故の真相究明に努め、このような事故が二度と発生しないよう、必要な措置を講じる所存です」

 ■ AAK社ルイビル工場では、1年前にも事故があった。202412月に水素タンクで火災が発生したが、負傷者は出なかった。この事故では、食用油製造工場で不具合の生じたガスケットから漏れ出し、発火したという。このため、メトロ危険物局などが現場に立ち入った。労働安全衛生局は20252月にAAK社ルイビル工場を調査対象としたが、その後調査は終了し、違反は記録されていないという。

■ AAK社は、2025921日の水素タンク爆発と202412月のタンク火災は別々のタンクで発生したと語っている。

補 足

■「米国ケンタッキー州」(Kentucky)は、米国の中東部に位置し、人口約450万人の州で、州都はフランクフォート(Frankfort)である。

「ジェファーソン郡」(Jefferson county)は、ケンタッキー州の中部に位置し、人口約58万人の郡である。

「シブリー」(Shively)は、ジェファーソン郡の西部に位置し、人口約15,000人の町である。

■「AAK社」は、スウェーデンに本拠を置く世界的な植物油脂生産企業で、以前はオーフスカールスハムンとして知られていた。従業員数は全世界で約4,000人で、米国法人はオーフスカールスハムンUSA社(AarhusKarlshamn USA, Inc.)である。

■「食用油製造」は、原料油によって大豆や菜種などの植物からとる植物油脂と、豚や牛などの動物からとる動物油脂の2種類に分けられる。原料油は採油、精製、加工の3つの工程を経て食用に適するものにされる。油脂の加工方法は3種類あり、用途や目的に応じて方法を変える。油脂の脂肪酸の二重結合に水素を加える加工法を「水素添加」といい、水素添加は「硬化」とも呼ばれる。

 AAK社は植物油脂の生産企業で、水素を使用しているので、油脂の加工方法として水素添加をしているプロセスと思われる。

■「発災タンク」は、屋外にあるコンバージョン・プロセスの水素タンク(a hydrogen tank conversion process)というだけで、詳細の仕様は分からない。第一に “a hydrogen tank conversion process”という用語の意味がよく分からないが、植物油の製造で水素を使用する切替えプロセスを指しているのではないだろうか。

 グーグルマップや上空から撮った施設のタンク写真を見たが、特定できなかった。また、水素タンクが爆発と報じられているが、タンク本体の爆発でなく、接続フランジや付属機器からの漏洩や流出などによる爆発ではないかと思う。

所 感

■ タンク爆発の原因は分かっていない。このブログでは、水素タンクの事故はあまり取扱ってこなかったが、つぎのような事例がある。いずれも今回の事例との類似性はない。

 ●「韓国の燃料電池開発会社で水素タンク爆発、死傷者8名」201911月)

 ●「山形県のバイオマスガス化発電所の水素タンクの爆発(原因)」20196月)

 ●「固定屋根式の軽油タンクで水素混合気による爆発火災 (1997) 20231月)

■ 水素タンクが爆発と報じられているが、タンク本体の爆発でなく、接続フランジや付属機器からの水素の流出や漏洩による爆発ではないだろうか。この製造工場では、202412月に水素タンクで火災事故を起こしているが、要因は不具合の生じたガスケットから漏れ出し、発火したという。火災と爆発の違いはあるが、今回の事故も同様の事例ではないだろうか。1年に2回も水素タンクの事故を起こすということは組織的な欠陥があるのだろう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Hydrogeninsight.com, One person killed in hydrogen explosion at food-grade oil factory,  September 22,  2025

    Wlky.com, Get the Facts: Shively plant explosion kills one, but it's not the only incident there,  September 22,  2025

    Fox56news.com,  Hydrogen tank explosion at Louisville plant leaves 1 dead,  September 22,  2025

    Courier-journal.com, One dead after explosion at AAK plant in Shively,  September 22,  2025

    Whas11.com, Deadly blast at Shively food plant under investigation,  September 22,  2025

    Isssource.com, Worker Killed after Hydrogen Tank Blast,  September 23,  2025

    Wdrb.com,  Explosion at cooking oil plant in Shively kills 1 person, prompts investigation,  September 22,  2025

    Wave3.com, 1 dead after explosion at AAK plant in Shively,  September 22,  2025


後 記: 今回の事故は食用油製造工場の水素タンク爆発という聞いたことのない事例だったので、調べることとしました。しかし、分かったことは、事故の詳細な状況が報じられていないということです。最近、事故のあったインディアナ州のほか、テキサス州やルイジアナ州などで事故報道の質が深堀りしないと思っていますが、米国中東部のケンタッキー州でも同じでした。事業者(経営者)の自主性を重んじるためか、メディアが衰えて勢いが無くなっているのか分かりませんが、米国全体でまん延しているようで、今回、近くの住民が「何か対策を講じなければなりません」という言葉がむなしくなってきますね。