2025年3月8日土曜日

岩手県大船渡市の山火事、7日間続き雨で沈静化、死者1名

 今回は、2025226日(水)、岩手県大船渡市で起こった国内最大規模の山火事について紹介します。

< 発災地域の概要 >

■ 2025年の岩手県は山火事が多く、岩手県陸前高田市で225日(火)に発生した山火事は翌日鎮火したが、隣接する大船渡市では219日(水)から山火事が連続で3つ発生し、226日(水)に新たに起こった山火事は国内最大規模になった。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2025226日(水)午後1時頃、岩手県)大船渡市の赤崎町合足(あったり)地内で山火事が起こり、燃え広がった。

■ 山火事発生は合足漁港付近にいた人からの通報でわかり、火災発生という情報を受け、消防隊が現場に出動した。

■ 大船渡市は、午後111分に防災無線で市民に火災を周知し、午後150分に市内三陸町綾里(りょうり)地区に避難指示を出した。

■ 火災は延焼が拡大し、合足漁港の近くの県道あたりが燃えていて、県道9号線で交通規制が行われた。以降、各地の市道などが消火活動のため各所で通行止めになった。

■ 火災発生にともない、消防隊の消火活動は、各都道府県から緊急消防援助隊が支援して行われた。しかし、狭い山道に入っていく消防車は限られ、さらに山の中には消火栓が無いことなどから消火活動は難航した。

■ 山火事は、赤崎町合足地区、三陸町綾里の田浜地区と小路地区のあわせて3か所で火災が発生しており、227日(木)午後には大船渡市街地に近い赤崎町の北西部に延焼した。 焼失面積は約1,200ヘクタールとなり、平成以降の山火事で国内最大規模になるという。

■ 大船渡市は、三陸町の綾里全域と越喜来(おきらい)3つの地区、それに赤崎町の13の地区に避難指示を出した。 対象世帯1,896世帯、対象人数4,596人である。 226日(水)午後2時、越喜来小学校の屋内体育館に最初の避難所が開設され、以降、31日(土)までに13か所の避難所が設置され、住民約1,200人が避難した。そのほか、公設の避難所以外に避難した人がおり、その数は約2,500人にのぼる。山火事の影響で綾里小学校、赤崎小学校、東朋中学校が臨時休校となった。

■ 大船渡市は、2011年の東日本大震災で津波による甚大な被害を受けた被災地のひとつで、その経験を生かし、住民の避難は比較的すみやかに行われ、避難所の開設や物資の調達なども迅速に行われた。しかし、三陸町綾里で男性ひとりの焼死体が見つかった。また、家屋など84棟が焼損したとみられるが、詳しい被害状況は調査できていない。その後、焼失家屋は78棟に修正された。

■ 31日(土)、岩手県内はオホーツク海を進む低気圧の影響で風が強まっていて、大船渡市では早朝に最大瞬間風速18.2m/sを観測した。昼の時点でも10m/s前後の風が吹いており、湿度は30%台と空気の乾燥した状態も続いた。

■ 火災地区に近い住民の中には、想像以上に火の手が早く、着の身着のまま逃げてきたという人もいる。燃え続ける山火事で避難対象区域内の住民は家の状況を確認しに行くこともできない。

■ 32日(日)山火事は発生5日目を迎え、平成以降、国内最大規模になった。夜通しで消火活動が行われたが、火の勢いは弱まっていない。焼失面積は午前6時時点で約1,800ヘクタールに拡大し、31日朝から一日で約400ヘクタール拡大した。大船渡市は、たび重なる避難指示の拡大で避難所がひっ迫した状態が続いていることから、2日新たに1か所の避難所を開設した。

■ 32日(日)午後5時、大船渡市は会見を開き、三陸町綾里では、北東部にある小石浜地区の集落の方向に延焼が拡大しているほか、赤崎町合足地区の周辺でも集落の方向に延焼が拡大しているという。

■ 33日(月)午前6時時点には、焼失面積が2,100ヘクタールに拡大した。さらに三陸町綾里の小石浜地区の付近や三陸町越喜来の甫嶺(ほれい)地区の付近などの方向へ延焼が拡大していることが確認された。

■ 大船渡市赤崎町にあるセメント業界大手の太平洋セメントの大船渡工場は、従業員の安全の確保などのため、228日(金)から稼働を停止した。工場で働く従業員約150人の多くが地元出身で、このうち30人ほどが避難指示の対象になっているという。工場の設備に被害は出ておらず、周辺で煙は確認されていないが、延焼が続いていることなどから稼働の再開のめどは立っていない。

■ 32日(日)朝、山火事に伴って避難指示が出ている三陸町綾里の漁業者たちは、船で綾里の港に向かい、停泊している漁船を退避させた。三陸町綾里は、定置網漁やワカメの養殖などが盛んな地域だが、全域に避難指示が出ていて陸路では立入れない状況が続いている。定置網漁を行う漁業者のひとりは「一番大事な網が燃えてしまった。網は注文してからできるまで半年から1年はかかるので、今シーズンの漁は諦めることになるかもしれない。担い手が減らないか不安だ」と語った。

■ 山火事に伴い、三陸鉄道は盛(さかり)駅と三陸駅の間の上下線で運転を取りやめているが、沿線への電力供給が停止したため、32日(日)の始発から運転取りやめ区間を盛駅と釜石駅の間に拡大した。避難指示が解除されるまでは、代行バスを運行する。避難指示区域をう回するため、陸前赤崎駅、綾里駅、恋し浜駅、甫嶺駅には停車しない。

■ 34日(火)、火災の発生から7日目となり、消火活動を継続して実施しているが、焼失面積は2,900ヘクタールに拡大した。

■ 35日(水)は、山火事発生後、初となる雪や雨が未明から降り、地元消防によると、地上隊からの報告では、延焼拡大は見られず、降雨が寄与したとみられる。降り始めからの雨の量は午後5時の時点で17mmだった。山からは今も煙が立ち上っているが、赤い炎は見えない。それだけに避難中の住民にとっては待ちに待った雨となった。家族と避難を続ける住民のひとりは「自宅の状況が分からず不安もあるが、雨で少し希望が見えた」と表情が緩んだ。

■ 35日(水)、大船渡市によると、山火事による地域別の建物被害の状況は、三陸町綾里小路16棟、石浜9棟、田浜9棟、港19棟、岩崎下4棟、宮野東3棟、赤崎町外口18棟の計78棟だと発表した。

■ ユーチューブには、山火事の状況を撮影された動画などのニュースが投稿されている。主なものはつぎのとおりである。

 YouTube「岩手・大船渡市の山火事 約4600人に避難指示【スーパーJチャンネル】」2025/3/01

    ●YouTube「岩手・大船渡市の山火事、平成以降最大の焼失面積 火の手が市街地に拡大する恐れも【羽鳥慎一モーニングショー】2025/3/03

    ●YouTube「住宅地に火の手迫る岩手・大船渡の山火事で約2100ha焼失 発生6日目も拡大止まらず約4600人に避難指示」2025/3/03

 ●YouTube「岩手・大船渡市の山火事 焼失面積は約2600ヘクタール 大船渡市の面積の約8%に|TBS NEWS DIG2025/3/04

被 害

■ 山林が2,900ヘクタール焼失した。

■ 死者がひとり出た。住民の1,896世帯、4,596人に避難指示が出された。公設の避難所に約1,200人が避難し、公設の避難所以外に避難した人は約2,500人にのぼった。

■ 住宅78棟が焼失した。

■ 山火事の周辺では、県道や市道などが交通制限された。 

< 事故の原因 >

■ 山火事の原因はよくわかっていない。

< 対 応 >

■ 226日(水)午後133分、大船渡市は災害対策本部を設置し、岩手県防災課に自衛隊派遣要請した。さらに午後250分、岩手県に緊急消防援助隊要請し、午後7時に災害救助法を適用することとした。岩手県はこの対応にもとづき、午後350分に災害対策本部を設置して対応することとした。

■ 総務省消防庁は周辺の自治体に対して緊急消防援助隊の出動を求めた。

■ 227日(木)の地上消火活動は県内相互応援隊69人、緊急消防援助隊1,158人で対応した。空中消火活動は防災ヘリコプター8機で114 231,7000リットルを散水した。

228日(金)も引き続き、地上消火活動は県内相互応援隊74人、緊急消防援助隊1,675人で対応し、空中消火活動は防災ヘリコプター11機で276 650,650リットルを散水した。 

31日(土)は、地上消火活動で県内相互応援隊73人、緊急消防援助隊1,673人で対応し、空中消火活動では防災ヘリコプター13機で128 524,200リットルを散水した。32日(日)、33日(月)も同様の規模で消火活動を実施した。

■ 32日(日)午前11時の時点で、緊急消防援助隊は宮城県、山形県、青森県、福島県、栃木県、秋田県、新潟県、茨城県、東京都、群馬県、埼玉県、千葉県、神奈川県、北海道の14都道県にのぼった。活動の規模は4531,697人となった。

32日(日)、消火活動は、自衛隊の大型ヘリコプター6機をはじめ、北海道、東北各県の防災ヘリコプターなど前日より1機多い計13機で空中から散水を実施した。地上からは消防隊が放水を行ったが、火災制圧に苦戦している。地元消防によると、鎮火が思い通りいかない理由について、現場の勾配がきつく延焼しやすい地形で、燃えやすいスギが多い点を挙げ、強風が続いていることや、延焼が広範囲に及んでいることなどを挙げた。大船渡市では2日(日)も強風注意報が出され、乾燥注意報も継続された。

■ 32日(日)、地上での消火作業にあたる関係者によると、炎が帯状に連なり、襲い掛かってきそうな状況で、油断していると包囲され、とても危険な状態だったといい、 「火を消して、燃え止まりを作っていく繰り返しです。しかし、これだけ火が回っていると消火はかなり難しい。山ですし、なかなか人が入りきれないところが残っています」と語っている。今回の山火事は、車が入れない、ホースを伸ばしても届かない、人がすぐには入れない、そんな場所が燃えているのだという。

■ 32日(日)、大船渡市の山火事でペットを連れて避難した人に対して、動物愛護団体が無料で一時的にペットを預かる取り組みを始めた。

34日(火)は、地上消火活動で県内相互応援隊83人、緊急消防援助隊2043人を動員して対応し、空中消火活動は防災ヘリコプター15機で355 1,416,050Lリットルの散水を行ったが、火災の制圧に至らなかった。

■ 35日(水)は、雨が降り、悪天候でヘリコプターが飛べず、空中散水や上空からの調査はできなかった。気象台によると、36日(木)にかけて降雨が続く予報である。

■ 36日(木)朝の上空からの映像では、火災の現場で煙の発生が少なくなっているのが確認された。山火事の発生から1週間以上が経過する中、地域の住民からは一刻も早い鎮圧を望む声が聞かれた。住民のひとりは 「煙も見えなくなってよかった。煙を見ないだけでも心が穏やかになる。あとは鎮圧を待つだけです」と語った。

■ 36日(木)、大船渡市は赤崎町の一部で避難指示の解除を決めた。その他の地区についても鎮火の確認次第、避難指示を解除していくという。

■ 各地で支援の動きが広がっており、 災害義援金や災害見舞金が寄せられている。宮城県の石巻赤十字病院は、岩手県の要請を受けて大船渡市内の避難所に入り、身を寄せている人たちの健康状態などの確認を行った。また、国際NGOのピースウィンズ・ジャパンも228日(金)夜遅くから所属する看護師などが大船渡市に入り、避難者の健康観察や食品などの物資支援を行った。

補 足

■「岩手県」は、日本の東北地方に位置し、人口約114万人の県で、北は青森県、西は秋田県、南は宮城県に接している。都道府県の中では面積が広く、北海道に次いで2番目である。県の人口のうち、8割以上は内陸部の北上盆地に集中し、沿岸部は平地が少なく、小都市が点在する。

「大船渡市」(おおふなと・し)は、岩手県南部の太平洋沿岸地域に位置し、陸中海岸南部最大の港湾を持つ臨海工業都市で、人口約31,000人の市である。大船渡市は臨界工業地域を除けば、大半が山地や丘陵地である。 2011311日の東日本大震災では市域に大津波が襲来、各所に甚大な被害が生じた。

 冬の気候は東北地方内では比較的温暖とされるが、冬型の気圧配置下では太平洋側に特有の晴天が多く、放射冷却現象による冬日と最高気温5℃程度の日が続く。南岸低気圧の通過により雪が降るが、豪雪地帯に指定されているにもかかわらず、積雪量は他の三陸や東北南部の都市と比べても特に少なく、最深積雪は多くの年で715cm程度である。

■ 貯蔵タンクではないが、山火事に関するブログを初めて投稿したのは、米国アリゾナ州で“ホットショット隊”が19名亡くなるという悲惨な事故からである。その後、異常気象などによる世界的に大きな山火事について投稿してきた。

 ●「米国アリゾナ州の山火事で消防士19名死亡」20137月)

 ●「ブラジルのアマゾン熱帯雨林で森林火災が多発」 20199月)

 ●「豪州における山火事の被害(20192020年)」 20203月)

 ●「米国カリフォルニア州の山火事でプロパンガスタンクが爆発」20249月)

■ 山火事はつぎのようなステップで広がっていくという。

 ● 火災には、燃えるもの、酸素、燃焼のための熱源が必要となる。山火事は落雷などによって始まり、乾燥と強風によってまたたく間に広がる。

 ● 山火事の中で最も移動速さが高く、最も危険な箇所は“ヘッド”という名で知られている。火災の先部分は熱く、風に乗って飛んでいく“スポット・ファイア”が生じ、さらに先へ進んでいく。

 ● ある種の草木類は他のものより燃えやすいものがあり、炎の“フィンガー”を形成する。一方、これによって地上部分には“ポケット”が生じ、火との戦いを難しいものにする。

 ● 熱や煙は上方へ昇っていくので、火災の進展速度は上り斜面の方が下り斜面より速い。このため、丘の上の方が熱くなり、風も丘に向かって吹き上がり、火炎をさらに推し進めるようになる。そして、飛び火が丘を転がり落ちるようになり、新たな火の手を生じる。

■ 米国には“ホットショット”という「山火事消火の専門チーム」があり、110チームを保有している。各ホットショットのチームは20名のメンバーで構成され、特別な訓練を受けている。ホットショットメンバーの主要な役割は山火事と近隣の住宅の間を分断するための防火帯を構築することで、このため山火事の燃料源になる雑木林、木々、草木などを取り除くことである。これはきつい作業である。常に火の手の位置と退却ルートに注意を払いながら、土を掘り起こし、チェーンソーで伐採し、地面を削り取って運んだりしなければならない。元“ホットショット”の隊員によると、“ホットショット”に必要な資質は、モチベーションの高さ、協調性、堅実な仕事へのこだわり、楽観的な思考だといい、さらに必要な要件は頑健な体力だという。例えば、20kgの荷物を背負って3マイル(4.8km)の距離を45分以内で歩けなければ、ホットショットには向かないという。

所 感

■ 今回の山火事によって、日本でも海外で起こるような大規模の山火事が起こ得るといえる。消火活動に従事した人たちは悪戦苦闘で大変だったと思う。しかも、1週間以上、連日2,000人を超え、10機以上の防災ヘリコプターで対応したが、制圧に至らなかった。

 大規模の山火事の対応は、消火活動の人員・資機材について根本的に見直す必要性を呈した事例になった。2003年北海道十勝沖地震後のタンク火災で従来の三点セットの消防機材ではまったく対処できなかったのと同じである。これを契機にタンク火災では大容量泡放射砲システムが導入された。山火事の対応でも、海外で採用されている空中消火機のような大容量の散水や泡消火ができる消防機材などを検討する必要があろう。

■ また、人材では米国の“ホットショット隊”を参考にして山火事に関するスペシャリストを育てる必要があろう。米国の“ホットショット隊”の責任者は、20249月米国カリフォルニア州の山火事の際、つぎのような話をしている。

「“ホットショット隊” は、オレゴン州に向かう前に数日間パーク・ファイアの消火活動に従事し、そこで延焼防止のための防火線の構築に取り組んできた。彼らの肉体的に過酷な勤務時間は、通常12時間近くに及ぶ。ホットショット隊の責任者は山火事対応の計画・リスク軽減・戦略立案を主な業務とするが、消防隊員が毎晩少なくとも7時間の睡眠をとり、十分な栄養をとることで疲労を管理することが不可欠である。消防隊員の人数を増やし、休日を増やし、メンタルヘルスについての改善をしたことが、消防士の健康に大きく貢献したといい、消防業務の文化はこの25年間で大きく変わり、特に調子が良くないときは、休暇を取って自分の気持ちや状況を話すことが許されるという、大きな文化の変化があった」


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

       News.ntv.co.jp,  岩手・大船渡市で新たな山火事発生 消火活動中,  February  26,  2025

       Iwate-bousai.my.salesforce-sites.com,  大船渡市赤崎町林野火災発生に伴う対応状況,  February  28,  2025

       Arrows.peace-winds.org,  大船渡市赤崎町林野火災発生に伴う対応状況,  March  01,  2025

       News.tv-asahi.co.jp,  大船渡市の山火事 懸命の消火活動続く 漁船も避難,  March  02,  2025

     Nhk.or.jp, 岩手 大船渡の山林火災 発生から4日も延焼続く焼失約1800ha,  March  02,  2025

       News.yahoo.co.jp, 「規模が大きすぎる」消火活動の最前線は炎が押し寄せてくるような光景岩手県大船渡市の山火事は鎮圧のメド立たず,  March  02,  2025

       Weathernews.jp,  山火事続く大船渡 瞬間的に10m/s超の強風 次の降水は5()頃か,  March  01,  2025

       City.ofunato.iwate.jp, 令和7226日 林野火災(赤崎町 合足地内発生)に伴う大船渡市の対応状況,  March  03,  2025

       Pref.iwate.jp,  9回災害対策本部員会議(令和735日),  March  05,  2025

       Nikkei.comjp,  大船渡の山火事、市域9%焼失 降雨で延焼拡大見られず,  March  05,  2025

       Newsdig.tbs.co.jp, 【山火事】大船渡市の山林火災 建物被害の一部判明 岩手,  March  05,  2025

       News.yahoo.co.jp, 【山火事】大船渡市の山林火災 恵みの雨から一夜 現地から中継 一部避難指示解除も検討 岩手,  March  06,  2025

 

後 記 2024918日(水)に地元山口県で山火事が発生し、3日以上火災が続きました。ちょうど「米国カリフォルニア州の山火事でプロパンガスタンクが爆発」20249月)をまとめているときで、日本も海外の大規模な山火事の対応が必要になってきたことを感じました。したがって、今回の大船渡市の山火事に関心があり、タンク火災ではありませんが、まとめることとしました。各メディアもこぞってテレビ放送や取材記事を投稿しましたので、情報は余るほどありました。しかし、このブログでは、結局、岩手県や大船渡市の公共の情報が一番有用でした。画像はテレビが主になっていましたし、被災写真も区域が広すぎて分りずらいものでした。

2025年2月28日金曜日

韓国のターミナルでタンクの試料採取中にタンク爆発して死傷者2名

 今回は、2025210日(月)、韓国の蔚山市にあるユナイテッド・ターミナル・コリア社のタンクターミナルにおいて、タンク内液の試料採取中にタンクが爆発して火災となり、死傷者2名を出した事例を紹介します。なお、この火災には大容量泡放射砲が使用され、消火しています。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、韓国南東部の蔚山市(ウルサン・し)蔚州郡(ウルジュ・ぐん)温山(オンサン)にあるユナイテッド・ターミナル・コリア社(United Terminals Korea; UTK)のタンクターミナルである。

■ 事故があったのは、タンクターミナルにある容量2,500KLのオイル貯蔵タンクである。内液はソルベートで塗料やインクなどを生産時に希釈剤として使用されるアルコールとエーテル成分の引火点が低い危険物質である。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2025210日(月)午前11時過ぎ、オイル貯蔵タンクが爆発し、火災になった。

■ 爆発直後に火災が発生し、黒煙が広がり、蔚山消防本部には通報電話が20件以上寄せられた。発災現場から直線距離で10km以上離れた蔚山の都心でも黒い煙が目撃された。

■ 発災にともない、消防隊が出動した。消防隊員58人と消防車など装備23台を動員して初期対応に乗り出したが、火災の状況が激しく、人員93人、装備40台を動員して制圧を試みた。爆発・火災のあったタンク周辺には潤滑油、バイオディーゼル、トルエンなどが貯蔵されたタンクがあり、消防隊は火災が拡散しないように全力を注いだ。

■ 蔚山海洋警察庁は、火災制圧を支援するために特殊艇、救助艇、消防艇などを動員した。また、近くの船舶が安全場所に移動するように措置し、汚染物質の海上流出に備えてオイルフェンスを設置した。

■ 爆発によってタンクの屋根が外れて噴き飛んだ。事故にともない、貨物検定業者の作業員2名(いずれも30歳代)が負傷し、病院に搬送された。そのうち、ひとりは意識不明の状態で病院で手術を受けたが、午後3時頃に死亡した。もうひとりは、足首骨折などの重傷を負ったが、命には支障がないという。

■ 作業員は、ユナイテッド・ターミナル・コリアからの請負者で、タンク内部の製品残量と品質を確認する作業をしていた。作業員は、高さ14.6mのタンクの上部でサンプリング用ハッチ(蓋)を開けて内部を確認していたところ、異常を感じて逃げようとしていたという。避難の過程で墜落したとみられる。作業員は火災になったタンクのそばの地上部に倒れたまま発見された。当時、意識があった作業員のひとりは「タンクのサンプリング用ハッチを開けた瞬間、火災の兆候が見られ、すぐに逃げた」と当時の状況を説明している。

■ 発災当時、容量2,500KLのタンク内には、引火性の高い石油混合製品を約1,600KL保管中だった。

■ 蔚州郡は事故から25分後の午前1140分、災害安全メールを送り、「車両は建物周辺の道路を迂回して下さい」と呼びかけた。蔚山警察庁も交通警察官などを現場周辺に配置し、安全管理や交通統制などを行った。

■ ユーチューブでは、タンク火災のニュースや動画が投稿されている。主なものはつぎのとおり。なお、韓国版を日本語字幕への変え方については、当ブログの「米国化学物質安全性委員会(CSB)の新たな安全ビデオの日本語字幕」(202524日)を参照。

 Youtube「유류 탱크 폭발로 불기둥 치솟아2명 사상 / KBS2025/02/10

 ●Youtube「울산 온산공단 유류 저장탱크 폭발 후 화재1명 사망·1명 중상 / 연합뉴스TV2025/02/10

 ●Youtube「온산공단 유류탱크 폭발 화재..2명 사상2025/02/10

被 害 

■ タンク1基が損傷し、内部の液が一部焼失した。

■ 死傷者2名が出た。内訳は死亡者1名、重傷者1名である。 

■ 近くの道路や海上の交通が制限された。

< 事故の原因 >

■ タンク爆発の原因は、作業員の試料採取中、サンプリング・ロッド(採取棒)がタンクとの接触で生じた火花のために発生したという。詳細な原因は調査中である。

< 対 応 >

■ 人材・資機材を増強した消防隊は、人員237人、ヘリコプターを含む消防車両などの装備機材48台を投入した。火災は、約3時間後の午後219分に鎮火した。特に、午後1時過ぎに設置した大容量泡放射砲による消火活動が有効だった。

 蔚山に保有する大容量泡放射砲は2基あり、1基は放射能力45,000リットル/分で、もう1基は30,000リットル/分で、放射距離は最大130mだった。2基合計の放射能力は75,000リットル/分である。

■ 大容量泡放射砲は別な場所から約40分で到着し、発災から1時間30分後の午後19分に水性膜泡消火剤を放射し、約25分で火災は収まった。

 消防当局などが正確な火災原因を調査している。

■ 警察は負傷者への聴き取り調査よって、タンク爆発の原因について、作業員の試料採取中、真鍮製のサンプリング・ロッド(採取棒)がタンクとの接触で生じた火花のために発生したことがわかった。また、作業員は静電気の発生を防止する除電服を着用していたという。

■ 2025217日(月)、 蔚山海洋警察署は、国立科学捜査研究院、雇用労働部、産業安全保健公団、国立災害事故調査室などとともに、午前11時から午後1時までの2時間、タンク爆発現場での合同調査を行った。事故タンクと爆発で外れたタンク屋根部などを集中的に調べた。また、現場の捜索を通じて作業者が事故時に使用していたサンプリング・ロッド(試料採取棒)を回収した。

補 足

■「韓国」は、正式には大韓民国で、 東アジアに位置し、人口約5,170万人の共和制国家である。首都はソウル特別市である。

「蔚山市」(グァンヨク・シ、うるさん・し)は、韓国南西部にあり、人口約110万人の広域都市である。

「蔚州郡」(ウルチュ・グン、ウルジュ・ぐん)は、蔚山市にあり、人口約21万人の郡である。

■「ユナイテッド・ターミナル・コリア社」 (United Terminals Korea; UTK)は、1998年に設立した韓国系の物流会社で、ガソリン・灯油・軽油など石油製品や化学製品などの液体貨物の荷役、入荷、保管、出荷など業務を行っている。ユナイテッド・ターミナル・コリア社は、タンク64基、総容量468,450KLを保有する。

■「発災タンク」は、容量2,500KLのオイル貯蔵タンクで、高さ14.6mと報じられている。内液はソルベートで塗料やインクなどを生産時に希釈剤として使用されるアルコールとエーテル成分の引火点が低い危険物質だという。グーグルマップで調べると、発災タンクは固定屋根式で直径約14.5mである。高さを14.6mとすれば、容量は2,575KLとなり、報じられている容量に近い。

 発災タンクの屋根は爆発によって外れて飛んだが、被災写真を見ると、爆発後には隣接するタンクの階段部に引っかかって宙に浮く形になっている。事故後の写真では地面に移動している。火災の熱によりタンク側板の上部が座屈して、タンク屋根は落下したものと思われる。

■「大容量泡放射砲」は、ほとんどが放射能力75,000リットル/分と報じている。しかし、1社だけ大容量泡放射砲は2基あり、1基は放射能力45,000リットル/分で、もう1基は30,000リットル/分で、放射距離は最大130mだと修正した。

 2基合計の放射能力が75,000リットル/分となるが、日本の法令であれば直径100m級のタンクに必要な放射能力である。発災タンクの直径は約14.5mであり、大容量泡放射砲は必要なく、三点セット(放水能力3,000リットル/分)でよいことになっている。今回の火災では、 1基のみの対応であったが、放射能力45,000リットル/分と30,000リットル/分のいずれを使用したかわからない。いずれもタンクに対して過剰な能力であり、仮に放射能力30,000リットル/分の大容量泡放射砲を使用した場合、20分間で600KLの泡消火水がタンクに投入されることになる。これは発災タンクの液位を3.5m上昇させることになる。

■ 一方、発災タンクの被災写真を見ると、タンク付きの「泡消火設備」とタンク側板への「散水設備」が設置されている。これらの設備は他のタンクにも見られる。しかし、これらの設備が発災時に使用された形跡が無い。日本では、泡発砲器や泡薬剤槽がタンクに近いところに恒設されているが、海外ではタンク付きの配管は設置されているが、消防車の泡を導入する半消火設備の形式が多い。

■ 事故時に使用して事故後に回収された「サンプリング・ロッド」(試料採取棒)の形状は明確でないが、一般的なサンプリング・ロッドは写真のような器具である。

所 感

■ 詳細な原因は調査中であるが、タンク爆発の原因は、作業員の試料採取中、サンプリング・ロッド(採取棒)がタンクとの接触で生じた火花のために発生したと報じられている。しかし、事故状況の報道では、作業員は静電気の発生を防止する除電服を着用し、火花の出ない真鍮製のサンプリング・ロッド(採取棒)を使用しており、作業上の静電気対策や打撃による火花発生防止対策はできている。しかし、爆発が起こっており、タンクの試料採取方法や採取前のタンクの運転管理について精査が必要な事例である。

■ 消火活動は約3時間かかっているが、大容量放射砲の到着に約40分かかり、大容量放射砲の配置やホース接続などで時間を費やし、発災から1時間30分後の午後19分に大容量放射砲で消火剤を放射し、約25分で火災を制圧している。この時間消費は遅くはないと思う。

■ しかし、消防活動にはつぎのような疑問が残る。

 ● タンクには恒設の泡消火設備や散水設備が付いているが、なぜ使用しなかったのか。

 ● スクワート車やはしご車で放水したものとみられるが、消火戦略がはっきりしない。

 ● 消火ヘリコプターが使用されているが、タンク火災には効果的でないのはわかっていたはずで、消火戦術がはっきりしない。

 ● 泡薬剤として水性膜泡消火剤を使用しているが、PFOS(通称ピーホス)と呼ばれる有機フッ素化合物の環境問題がある。泡消火水は構内から出さないようにしたか、また泡消火水は回収して処分する必要があり、この配慮は成されたのか。注;PFOSや泡薬剤については、ブログ「沖縄の米軍普天間飛行場の泡消火剤流出事故(原因)」 20209月)を参照。

 ● 使用された大容量泡放射砲(放射能力45,000リットル/分または30,000リットル/分)は直径14.5m級(容量2,500KL)のタンクには過剰能力であるが、放射流量を調整したのか。

 ● 大容量泡放射砲が使われている際、まだタンク火災が収まっていないのに、まわりに関係者でない人(興味や関心ある人と思われるが)が大勢集まり過ぎている。ボイルオーバーやスロップオーバーなどのリスクはどう判断したのか。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

       News.yahoo.co.jp,  韓国・蔚山でオイル貯蔵タンクが爆発 作業員1人死亡,  February  10,  2025

       Mk.co.kr, 蔚山の温山工業団地で発生した油類貯蔵タンクの爆発·火災事故,  February  10,  2025

       Hani.co.kr,  울산 UTK 유류 탱크 화재노동자 1명 사망,  February  10,  2025

       Yna.co.kr,  울산 온산공단 유류탱크 폭발·화재2명 사상(종합3),  February  10,  2025

       Haesanews.com, UTK탱크터미널 폭발사고/ 울산 유류탱크 폭발, 1명 사망·1명 중상해경, 화재 원인 조사(종합3) ,  February  11,  2025

       Khan.co.kr,  울산 온산공단서 유류 저장탱크 폭발로 화재1명 사망·1명 중상,  February  10,  2025

       Ksilbo.co.kr,  [현장 사진]17일 발생한 유나이티드터미널코리아(UTK) 유류 저장탱크 폭발·화재 현장,  February  17,  2025

       Donga.com,  울산 온산공단 유류탱크 폭발 화재옆 탱크 번질 뻔 아찔,  February  11,  2025 

       S-journal.co.kr, '' 소리와 함께 불기둥 울산 유나이티드터미널코리아 유류 저장탱크 폭발,  February  10,  2025

       News.sbs.co.kr, "탱크 뚜껑 열릴 정도" 굉음 나더니 폭발긴박했던 순간 ,  February  11  2025

       Seoul.co.kr, “시료 채취 중 스파크 발생”… 울산 유류탱크 폭발사고 부상자 진술,  February  17,  2025

       Chosun.com, 울산 온산공단 내 유류탱크 폭발...부상자 2명 중 1명 숨져,  February  10,  2025

       Joiff.com,  Tank explosion at Ulsan's United Terminal Korea kills one worker, injures another,  February  10,  2025

       Joiff.com,  韓国で石油貯蔵タンク爆発、1人死亡、1人負傷,  February  12,  2025

       Business-humanrights.org,   S. Korea: Two casualties in Ulsan factory blaze,  February  17,  2025

       World.kbs.co.kr, 2 Injured in Oil Tank Explosion in Ulsan,  February  10,  2025

       Hazardexonthenet.net,  Oil storage tank explosion kills one person, injures another,  February  10,  2025

           

後 記;大容量泡放射砲の放射能力が75,000リットル/分について疑問がありましたが、メディア1社が2基分という修正記事を出したので、解消しました。ところで、「目は口ほどに物を言う」ということわざがありますが、今回の事例では「写真は口ほどに物をいう」と感じました。韓国の記事情報は状況を伝えていますが、被災写真をていねいに見ていくと、記事に無い情報がわかります。人の目線の写真は脅威を感じるほどの威圧感のある写真もありますが、鳥の目の写真は冷静に見ることができます。ドローンによる映像が事故現場に現れるのはさすがに技術の韓国です。消防活動ではドローンによる映像が有効だと言ってきましたが、今回の事例でよく理解できました。 

2025年2月20日木曜日

米国テキサス州のパイプライン火災の原因は自殺者の車による破壊

 今回は、2024916日(月)、米国のテキサス州ハリス郡ディアパークを通っているエナジー・トランスファー社が所有する地下埋設の天然ガス用パイプラインで、地上に出ているバルブ設備に車が衝突して、内部の天然ガスが噴き上がり、火災が発生し、4日間燃え続けた事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国のテキサス州Texasハリス郡Harris CountyディアパークDeer Parkを通っているエナジー・トランスファー社Energy Transferの地下に埋設された天然ガス用パイプライン設備である。

■ 事故があったのは、口径20インチ(50cm)の地下パイプラインの地上に出ているバルブ設備である。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2024916日(月)午前930分頃、ディアパークで大規模なパイプライン火災が発生し、巨大な火柱が噴き上がった。火災発生当初、炎の柱が100m上空まで上がり、濃い黒煙が一帯を漂い、煙は10マイル(16km)離れた場所から見えた。

■ 住民のひとりは、朝食を食べていた午前930分頃、爆発音を聞いたという。「突然、大きな音が聞こえて、裏口からオレンジ色のような明るいものが飛んでくるのが見えました」と語った。

■ 発災にともない、午前10時前に消防隊が出動した。消防隊は、住民に周辺地域から避難を促すとともに、近隣の住宅が火災に巻き込まれないように努めた。

■ パイプラインの爆発・火災で広範囲にわたって炎が地面を焦がし、隣接する送電線を切断し、停電が生じた。エナジー・トランスファー社は、火災によって数千の住宅や事業所で停電が発生し、広範囲にわたる避難を促したと述べた。

■ 当局は、一時、約1,000軒の住民を避難させ、近隣の学校の生徒に屋内退避を命じた。

■ 発災現場近くの公園が被害を受け、消防隊が隣接する住宅に放水した。正午までに少なくとも数軒の住宅が火災に見舞われ、屋根から煙が吹き出していた。近くにはスーパーマーケットのウォルマートなどの店舗がある。

■ 消防隊は火災を監視し、火災が他の住宅に広がらないようホースで水をかけたりした。しかし、消防士4人が熱中症を負い、現場で治療を受けたほか、住宅5軒が被災した。

■ エナジー・トランスファー社の作業員はパイプライン内の天然ガス液の流れを止めたが、配管内には大量の天然ガスが残っていたため、消防隊は消火活動をできなかった。

■ エナジー・トランスファー社によれば、パイプラインから出る炎は自然に消えるはずだという。同社は、天然ガスの流れは遮断したが、内部の残留液で数時間燃え続ける可能性があると述べた。

 しかし、閉じられた2つのバルブの間には20マイル(32キロ)のパイプラインが走っており、火が消える前に内部の天然ガスがすべて燃え尽きるにはさらに時間が必要であった。

■ トランスファー社とハリス郡当局は、炎と黒煙が一帯に漂ったにもかかわらず、大気質モニタリングでは人に対する即時の危険は見られなかったと述べた。

■ 917日(火)、火災は小さくなっていったものの、地元住民の一部は次第に疲れを感じ始めていた。 

住民は衣服やその他の品物を持ってくるために家に戻り、その後すぐに出発する様子が見られた。住民のひとりは、「私たちは文字通り、着ている服とペットだけを持って、どこへ向かうのか全く分からないまま家を出てきたのです。いらだちを隠せません」と語った。

■ 918日(水)に3日目を迎え、当局は919日(木)夕方まで鎮火しない見込みだと述べた。しかし、火災の勢いは弱まり、当局は918日(水)夕方から住民の帰宅を許可し始めた。

■ ユーチューブでは、事故を伝える映像が投稿されている。主なものはつぎのとおり。なお、英語版を日本語字幕への変え方については、当ブログの「米国化学物質安全性委員会(CSB)の新たな安全ビデオの日本語字幕」202524日)を参照。

YoutubeFire still burning after gas pipeline blast near Houston, Texas2024/9/17

    ●YoutubePipeline explosion in La Porte, Texas, forces evacuations2024/9/17

    ●YoutubeTexas pipeline explosion forces thousands to evacuate2024/9/17

    ●YoutubePipeline explosion forcing evacuations in Houston, Texas2024/9/17

被 害

■ 口径20インチ(50cm)の地下パイプラインの地上のバルブ設備が破損し、内部に入っていた天然ガスが流出して焼失した。 

■ 事故を起こした車の運転手が死亡したほか、消防士4人が熱中症を負った。

■ 数千の住宅や事業所で停電が発生したほか、約1,000軒の住民が避難した。  

■ 天然ガスの焼失によって大気を汚染させた。

< 事故の原因 >

■ 原因は、天然ガスパイプラインの地上に出ていたバルブ設備に車が衝突して破損し、パイプラインから天然ガスが噴き出し、火災になった。車の運転手は故意にバルブ設備に衝突させ、自殺したとみられる。

< 対 応 >

■ 4日間燃え続けていたパイプライン火災は、919日(木)にようやく鎮火した。916日(月)の朝に発生してから約80時間後にようやく鎮火した。

■ 火災から逃げざるを得なかった住民らは、919日(木)に被害状況を確認するため、自宅に戻った。住民らは、車や郵便受けなどが猛烈な熱で部分的に溶け、近隣の公園が焼け焦げてしまい、フェンスが焼け落ちているのを目にした。発災場所から100mほど離れたところにある自宅の住民は、火災の延焼を防ぐために消防隊が水をかけたため、住宅がひどく損傷しているのを見て、「悲しくて、心が動揺しています。これからどうしたらいいのか分からない」と語った。 

 ■ 当局は、パイプライン火災の発生以来、炎のそばにあったSUVSport Utility Vehicle;スポーツ用多目的車)の中から人骨が発見されたと発表した。当局によると、地下パイプラインはウォルマートと住宅街の間の芝生のエリアにある高圧送電線の下を通っており、SUVの運転手が店舗の駐車場を出て広い芝生のエリアに入り、バルブ設備を囲むフェンスを突き抜け、損傷させたという。

■ 目撃者によると、車のスピードは速くなく、運転手が事故前に何らかの病気を患っていた可能性があると語った。車はウォルマートの舗装駐車場から出て公益事業用地の芝生を通り抜け、地上のバルブに衝突して爆発を起こし、空中に舞い上がった瞬間を説明した。

 しかし、車は不可解なことにウォルマートの駐車場から芝生を横切る際にスピードを上げ、天然ガスパイプラインを囲む金網フェンスを突き破った。

■ SUVの車に乗っていたのは、地元に住む51歳の男性だとわかった。

■ 爆発・火災は事故だったとみられ、警察と地元FBI捜査官はテロ攻撃の証拠を発見していないと述べた。しかし当局は、車がフェンスを突き破ってパイプラインのバルブに衝突した原因についてはほとんど詳細を明らかにしていない。

■ テキサス州鉄道委員会 (Texas Railroad Commission)はパイプライン火災の原因調査を開始した。

■ 920日(金)、ディアパーク市長はパイプライン爆発・火災の原因となった車の衝突は、運転手が健康上の問題を抱えていたことによるものでもないと語った。しかし、ディアパーク市長の声明は、裏付けとなる詳細や証拠を示さずになされており、事故前に運転手が発作を起こしていたという家族の考えと矛盾している。

■ ハリス郡法医学研究所のウェブサイトに、地下パイプラインの地上に出ていたバルブ設備に突っ込んだSUVを運転していた男性は、「鈍的外傷および熱傷」で死亡し、死因は「自殺」だったという判断を下した。ハリス郡検視官の報告書によると、この男性は過去に自殺未遂の経歴があり、最近アルコール依存症のリハビリセンターから退院したばかりだったという。報告書では、この2つの要素と、パイプラインに向かって加速する車両の監視ビデオ映像を、死因が自殺であると断定する証拠として挙げている。 

■ パイプラインのバルブ設備は、上部に有刺鉄線を張った金網フェンスで保護されていたとみられる。エナジー・トランスファー社は、設置されていたその他の安全対策についての質問には回答していない。当局は、エナジー・トランスファー社のような企業に対し、パイプラインや地上バルブの周囲にコンクリート構造物を設置するなど、より優れた安全対策を講じるよう要求できるかどうか検討すると述べた。

■ パイプラインの安全専門家は、流出物質の燃焼が止まるまでに1日以上かかったのは驚くことではないと述べた。また、破裂による死亡事故や環境被害を減らすことを目的とした2022年に改正された規制は、ガスパイプラインを対象としており、液体を輸送するパイプラインには適用されないという。また、多くの新しい安全規制は、既存のパイプラインに遡及的に適用されないと付け加えた。

 テキサス州最大の都市ヒューストンは、米国の石油化学産業の中心地であり、製油所や工場が集まり、何千マイルにも及ぶパイプラインが張り巡らされている。爆発や火災は日常茶飯事で、中には死者も出ており、住民と環境を守るための業界の取り組みに疑問が投げかけられている。

■ 環境活動家は、2021年の冬の嵐「ウリ」の後に起きた天然ガス会社による価格つり上げと同様に、今回の巨大火災は、テキサス州が安全よりも規制緩和と開発を重視することがいかにテキサス州の住民を不必要な危険にさらしているかを示していると述べている。

■ メディアによると、1996年にエナジー・トランスファーを設立した経営者は、同社を地域パイプライン会社から年間540億ドル規模の大会社に築き上げた。パイプライン王である経営者は、その過程で、共和党大統領候補やテキサス州知事のような規制緩和を支持する政治家を支援するために多額の選挙資金を投じてきた。

■ 一方、パイプラインを監視する役目をもつテキサス州鉄道委員会の記録を調べたところ、エナジー・トランスファー社は、2021年以降、パイプラインに関連する事故を53件報告しており、2024年に入ってからも8件の事故を発生させ、140万ドルの損害が報告されている。しかし、州による重大な規制対応の記録はない。

■ 調査によると、2019年以降、全国で地上の危険な液体やガスの輸送パイプラインに車やトラックなどの車両が衝突する事故が少なくとも36件報告されている。そのうち12件はテキサス州で発生した。これらの衝突により3人が死亡、2,100万ドル以上の物的損害が発生し、避難、火災、ガスや石油の漏れ、環境汚染が生じた。

 この調査を行った団体によると、多くの場合、危険で可燃性の化学物質を輸送するパイプラインは、近くの道路や駐車場を走行する車両による損傷に対してほとんど保護されていないことがわかった。規則により、パイプライン運営者はパイプラインに必要な保護の種類を決定できるが、記録によれば、車両に衝突されたパイプラインの多くは金網や木製のフェンスしか備えていなかった。

 今回の事故で、車が衝突したディアパークのパイプラインは、交通量の多いスペンサー・ハイウェイやウォルマートの駐車場の近くにあったにもかかわらず、金網フェンスで囲まれているだけだった。

■ 2025211日(火)、テキサス州規制当局は、昨年起きたディアパークのパイプライン爆発に関する調査で、パイプラインを運営するエナジー・トランスファー社による安全違反は発見されなかったと語った。しかし、この決定は、爆発中に家から避難しなければならなかった人々から怒りを買っている。当局はメディアのインタビューに応じないだけでなく、質問にも答えなかった。全国的な安全擁護団体であるパイプライン・セーフティ・トラストの事務局長は、ディアパークの爆発で違反が指摘されていないことは、国のパイプライン安全法の重大な問題を示していると述べた。安全規則では、パイプラインは偶発的および意図的な損傷の両方から保護する必要がある。 

■ 20249月にパイプラインのバルブによる事故があった後、エナジー・トランスファー社は以前の金網フェンスをコンクリートバリアに交換した。コンクリートバリアの設置は建設作業のためであり、「建設作業員の境界として機能していた」と述べた。当時、同社は「バリアが撤去されるかどうか、いつ撤去されるかは不明」としている。

■ ディアパークで起こった事故現場の近くには、シェル・ケミカル社を含む他社が運営するパイプラインのバルブが数個ある。交通量の多いスペンサー・ハイウェイのそばにあって可燃性・爆発性の化学物質を輸送しているが、金網フェンスで保護されているだけだ。  

補 足

■「テキサス州」Texasは、米国南部にあってメキシコ湾岸に面し、メキシコと国境を接する人口約3,050万人の州である。

「ハリス郡」Harris Countyは、テキサス州の東部に位置し、人口約480万人の郡である。

「ディアパーク」Deer Parkは、米国テキサス州のヒューストン・シュガーランド・ベイタウン大都市圏にある都市である。この都市はハリス郡の南東部に位置し、人口は約34,000人である。

■「エナジー・トランスファー社」Energy Transfer LPは、1996年に設立され、米国において130,000マイル(20km)以上のパイプラインと関連施設を備えるエネルギー物流会社である。天然ガス、原油、NGL、精製製品などのパイプライン輸送、保管、ターミナル処理を行っている。事故のあったパイプラインは、ヒューストンの南東にあるディアパークやラポート(La Porte)を経由して天然ガス液を輸送している。

■「テキサス州鉄道委員会」Texas Railroad Commissionは、名前が示すように元来は鉄道に関する公共業務を行うために設立された。その後、石油工業の発達によってパイプラインに関する業務を行うようになり、現在は鉄道、パイプライン、石油・天然ガス、石炭・ウランの鉱物資源に関する業務を行っている。

■「発災したバルブ」の種類は報じられていない。発災写真を見ると、パイプラインの孤立用のゲートバルブではなく、パイプライン用の安全弁またはエアベントバルブ(空気抜き弁)ではないかと思われる。

所 感

■ 今回のパイプライン爆発・事故の原因は、最初、意識を失った運転手の車の衝突によるバルブの破損だと思っていた。また、口径20インチ(50cm)パイプラインの孤立用のゲートバルブであれば、車の衝突で内部の天然ガスが噴き上がるような破壊は起こるとは思えず、ゲートバルブのフランジ部が開口したのではないかと思った。 

 しかし、実際は運転手が自殺するために車を地下パイプラインの地上バルブ設備へ衝突させたものだという。発災写真を見ると、損傷部は開口した配管であり、パイプライン用の安全弁またはエアベントバルブ(空気抜き弁)ではないかと思う。これらであれば、パイプラインより口径が小さく、車の衝突による破壊は可能であろう。

■ 報道記事では、テキサス州のパイプラインの安全対策に問題があるという指摘をするメディアが多かった。日本では考えられないほど甘い印象である。今回も、法規制の解釈上、「パイプラインを運営するエナジー・トランスファー社による安全違反は発見されなかった」という。

■ 消火戦略には、積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略の3つがあるが、天然ガスは消火してしまうと再着火して被害が拡大してしまう。記事にあるように、住宅の延焼防止を行う防御的戦略を行い、流出する天然ガスが燃え尽きるまで不介入戦略をとっている。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Firerescue1.com,  Pipeline explosion sets fire to Texas houses, causes evacuation, September 16, 2024

    Nbcdfw.com,  A fire that burned for 4 days after Texas pipeline explosion has finally gone out, September 20, 2024

    Pbs.org, WATCH: Pipeline explosion and fire forces evacuations in Houston suburb, September 16, 2024

    Apnews.com, Massive pipeline fire burning near Houston began after a vehicle struck a valve, officials say, September 17, 2024

    Abc13.com, 51-year-old man's remains identified in Deer Park pipeline blast, dayslong fire, police say,  October 01, 2024

    Edition.cnn.com, A pipeline fire sparked by an SUV crash has burned for more than 24 hours and prompted evacuations in a Houston suburb, September 17, 2024

    Foxcarolina.com, Pipeline explosion, fire in Houston suburb forces evacuations, September 17, 2024

    Nbcnews.com, Texas pipeline fire is out, vehicle and human remains are found, September 21, 2024

    Cbsnews.com, Pipeline fire outside Houston dies down but continues to burn; some evacuation orders remain, September 17, 2024

    Texasobserver.org, Pipeline Explosion in Deer Park Reveals Hidden Hazards Texans Face, September 17, 2024

    Pipeline-journal.net, Fire at Energy Transfer’s Texas LNG Pipeline Affects Thousands of Residents and Businesses, September 18, 2024 

    Reuters.com, Energy Transfer pipeline catches fire in La Porte, Texas, September 17, 2024

    Nytimes.com, Officials Open Criminal Inquiry Into Crash That Caused Pipeline Fire Near Houston, Texas, September 19, 2024

   Houstonlanding.org, Deer Park mayor says deadly pipeline explosion and fire ‘wasn’t an accident’, Texas, September 20, 2024

   Houstonlanding.org, Autopsy cites driver’s mental health history for suicide ruling in pipeline explosion, Texas, January 29, 2025 

   Houstonlanding.org, Autopsy cites driver’s mental health history for suicide ruling in pipeline explosion, Texas, January 29, 2025


後 記: 今回の事故で運転手が乗っていたSUVはレクサスだということです。(事故には直接関係ないですが) 米国に輸入している車の関税を上げると米国大統領が話しているようですが、レクサスは米国インディアナ州とケンタッキー州に工場をもち、現地で車両を生産しているそうです。

 ところで、米国では大統領が変わり、つぎつぎと大統領令へのサインする映像がテレビで流されています。このブログでは、4年前に「米国バイデン大統領が原油パイプライン建設認可を取消し」20211月)を投稿しました。政治的な話は取り上げないようにしていますが、またぞろ出てくるかも知れませんね。米国では、AIのような創造的な技術の進歩にはびっくりさせられますが、今回のような事故では、安全が進歩しているとはいえません。

 トランプ大統領は、“掘って、掘って、掘りまくれ”(Drill, Baby, Drill)と言っています。米国の原油・天然ガス生産が増えることになるでしょう。それとともに事故は増えていくでしょう。(報道では、米国は現在でも世界一の原油・天然ガス生産国であり、それほど増えないのではないかという意見もありますが)