今回は、2024年4月15日(月)、韓国の蔚山市にある石油会社のオドフェル・ターミナル・コリアにおいて事前予告や訓練計画を知らせずに、軍、警察、消防署などが合同のテロ対応訓練が実施されたので、紹介します。
< 訓練施設の概要
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■ 訓練があったのは、韓国の蔚山市(グァンヨク・シ/うるさん・し)にある石油会社のオドフェル・ターミナル・コリア㈱(Odfjell Terminals Korea;OTK) である。
■ オドフェル・ターミナル・コリアは、ノルウェーの物流サービス会社であるオドフェルSE社(Odfjell SE)と韓国の石油化学会社である大韓油絵(株)(Korea Petrochemical Ind.)が合弁して設立された。現在、貯蔵タンク85基で総容量31万KLを保有する液体貯蔵ターミナルである。
< 訓練の実施
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■ 2024年4月15日(月)、オドフェル・ターミナルズ・コリアにおいて、事前予告や訓練計画を知らせずに軍、警察、消防署などが合同のテロ対応訓練が実施された。
■ テロ対応訓練は、航空用燃料の貯蔵タンクに爆発ステッカーを貼り付け、テロリストたちが爆発させたという想定で行われた。そのあと、すぐにテロリストたちはオドフェル・ターミナル・コリアの本館に移動し、人質をとったという状況だった。ここで、軍と警察の部隊が投入され、テロリストを制圧し、訓練を終えたという。
■ 緊急事態発生時に外部機関を導入することがうまく機能し、オイルターミナルが適切に対応することができ、このような状況が発生した場合に事態に備えた能力の向上が期待される。
(注記; 本文はTank Storage誌に載ったものであるが、この続きは一般に公開されていない。また、韓国のメディアも本訓練について記事にしていない)
< 対 応
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■ これより約1年前の2023年4月14日(金)、蔚山市にあるS-オイル(S-OIL)蔚山工場において国内テロ状況を想定した対応訓練が実施された。参加したのは韓国国家情報院、韓国陸軍、蔚山警察庁、蔚山消防本部などで関係機関の合同訓練が行われた。
この訓練は、大量危険物貯蔵処理施設に自爆ドローンにより火災が発生し、多数の死傷者が発生した状況を想定して行われた。また、屋外タンクの爆発事故が発生し、数十人の死傷者を救助する作業も繰り広げられた。今回の訓練は陸軍と警察などがテロ勢力を掃討し、爆発物専門チームが爆弾を除去するという状況で行われた。訓練には化学消防車、大容量砲など装備44台と人員330人余りが動員された。ユーチューブでは、訓練の状況を伝えるニュースが投稿されている。
● Youtube、「울산에 테러범이요...?
s-oil 원유탱크 폭발 상황에서 소방·경찰·군 합동 대테러 훈련!
영화 같은 실전 클라스★」(2023/04/14)
● Youtube、「 [2023
튼튼한 국방] 동시다발적 테러로부터 울산시민 생명∙재산 지킨다」 (2023/04/20)
■ 2024年1月24日(水)、韓国の情報機関である国家情報院は2023年における韓国に対するサイバー攻撃の分析結果を発表した。国際ハッカー集団などによる公共機関へのサイバー攻撃は前年比36%増の1日平均約162万件で、そのうち北朝鮮が80%、中国が5%だったという。国家情報院によると、北朝鮮のハッカーが、生成AI(人工知能)を活用してハッキングの準備を進める事例も確認したという。北朝鮮独自の生成AIの開発も進められているが、まだ初期段階にあるという。
所 感
■ 韓国では、これまでオイルターミナルにおけるテロ対応訓練を実施してきている。しかし、従来のテロ対応訓練では効果が少ないと思ったのか、事前予告や訓練計画を知らせずに、軍、警察、消防署などによるテロ対応訓練が実施された。これまでのテロ対応訓練は、日本もそうであるが、シナリオが盛りだくさんだったのが、今回はテロリストが貯蔵タンクを爆発させ、そのあとすぐに本館に移動し、人質をとるという想定だったようだ。
■ 日本でも、2000年代に重要施設のテロ対応が叫ばれるようになり、テロ対応訓練が行われるようになった。その後、国民保護法が制定され、武力攻撃事態などの発生に備えて政府が地方公共団体などと連携して、図上訓練と実動訓練が実施されるようになった。
(たとえば、「令和4年度 国民保護に係る訓練の成果等について」を参照) しかし、住民の避難訓練が主目的に置き換わっており、オイルターミナルや製油所のタンク施設を対象としたテロ対応から離れていっている。
■ 世界的にみると、過去の事例ではオイルターミナルや製油所などに対するテロは変化している。2010年代まではテロリストによる小火器や爆弾のテロ攻撃だった。 (たとえば、「タイで石油タンクに擲弾(てきだん)によるテロ攻撃(2010年)」、「フランスの製油所で仕掛けられた爆弾によってタンク火災(2015年)」、「イラクで天然ガス工場にテロ攻撃、球形タンク爆発・炎上(2016年)」である。
その後2010年代の後半になると、中東でロケット砲やミサイルが使われるテロとはいえないような攻撃が始まる。(たとえば、「サウジアラビアの石油流通ステーションの貯蔵タンクをミサイル攻撃(2020年)」、「イラクのバイジにあるシニヤ製油所でロケット攻撃、貯蔵タンクへ延焼(2020年)」)
つづいて2020年代になると、テロ兵器の進歩によって、無人機(ドローン)
による攻撃が出てきた。(たとえば、「サウジアラビアの石油施設2か所が無人機によるテロ攻撃( 2019年)」、「ロシアの石油貯蔵施設が2日連続で無人航空機攻撃によりタンク火災( 2023年)」、「ロシアの石油貯蔵施設が無人航空機攻撃によるタンク複数火災( 2024年)」)
■ 基本的にテロ対応訓練は爆発物によるタンク被災であり、最近の国民保護訓練のテロ兵器の前提はミサイルとなっており、このふたつの訓練は合っていない。(たとえば、「Jアラートによる情報伝達と国民保護訓練」) 避難訓練としては“ミサイル”
で構わないが、最近、「安価なドローンが化学テロの脅威となる理由(2024年)」が指摘されており、無人機(ドローン)による攻撃を念頭にしたテロ対策基準を考える必要がある。テロが起こった後のタンク火災などに対応するのではなく、テロを起こさなくする対策についてである。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Tankstorage.com, Odfjell
Terminals Korea Completes Terorrism Drill,
April 19, 2024
・Ujeil.com, 울산경찰·소방·국정원,
S-OIL공장 테러 대응 훈련, April
16, 2023
・Asahi.com, 韓国へのサイバー攻撃が36%増、1日平均162万件 8割が北朝鮮,
January 24, 2024
後 記: 韓国のテロ対応訓練がどのようなものか興味があり、紹介することとしました。しかし、事前予告や訓練計画を知らせず行われた所為か、韓国メディアの記事はありませんでした。調べると、昨年度の訓練風景がユーチューブにありましたが、緊迫感にやや欠けるところがあり、訓練としてはあまり参考になるものではありませんでした。日本の国民保護法によるテロ対応訓練と相違がないように感じました。ということで初めの趣旨と異なり、日本の重要施設のテロ対応に関する所感のブログになってしまいました。
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