今回は、1年ほど前の2022年12月21日(水)、南米コロンビアのバランキージャにあるブラボー・ペトロリアム社の石油貯蔵所でガソリンタンクが爆発・炎上し、死傷者4名を出した事故を紹介します。
< 発災施設の概要
>
■ 発災があったのは、コロンビア(Colombia)のカリブ海に面したバランキージャ(Barranquilla)にあるブラボー・ペトロリアム社(Bravo Petroleum
Co.)の石油貯蔵所である。
■ 事故があったのは、石油貯蔵所内にある4基の貯蔵タンクのうち、ガソリン用貯蔵タンクである。
<事故の状況および影響>
事故の発生
■ 2022年12月21日(水)午前4時30分頃、バランキージャにある石油貯蔵所でガソリン貯蔵タンクが爆発し、炎上した。
■ 近くの住民は、爆発の大きな音で目を覚ました。しばらくすると、火災を報せるサイレンが鳴り始め、外を見ると、頭上に煙が立ち昇っているのが確認できた。
住民のひとりは、「爆発を感じて怖かったです。外に出ると真っ暗な空が見え、煙の匂いがとても強くて、かなり濃かったです」と語っている。
■ 発災に伴い、消防隊が出動した。
■ 炎は強風にあおられて舞い上がり、消防士の活動を困難にした。タンクからは火災によって真っ黒い煙が立ち昇っていた。
■ 石油貯蔵所周辺の道路は交通制限のため閉鎖された。
■ 消火活動を始めてから数時間後、火災タンクから延焼し、隣接タンクが爆発した。
■ この爆発によって消火活動中の消防士2名が負傷した。負傷者は市北部にある診療センターに搬送された。そのうちのひとりの消防士(53歳)は爆発時に転倒し、頭部に重傷を負い、医療を受けている間に死亡した。このほかに消防士2名が負傷し、死傷者は4名となった。
■ 火災が完全に制圧されるまで、バランキージャ港での操業は停止された。
■ 石油貯蔵所の発災現場から1km以内の地区の住民には避難指示が出た。
■ 火災に対処するには、陸上からは火災の規模が大きく、近づくことができないため、バランキージャ港の海上から消火銃を備えたタグボートを出動させた。
■ 12月22日(木)、発災から2日目になっても、現場では高さ30m以上の11階建てビルほどの火柱が上がっていた。
■ ユーチューブなどでは、火災状況の映像が投稿されている。主なものはつぎのとおり。
● Youtube、「Oil
tank in Colombia‘s Barranquilla explodes into flames, one dead」(2022/12/22)
● Facebook、 「Multiple gasoline storage tank fire at BRAVO PETROLEUM in Barranquilla, Colombia 」 (2022/12/21)
被 害■ ガソリンタンク2基が損壊した。内部のガソリンが焼失した。(全量焼失として9,337KL)
■ 4名の死傷者が出た。内訳は死者1名、負傷者3名である。
■ 石油貯蔵所周辺の道路が閉鎖され、近隣住民に避難指示が出た。バランキージャ港での操業が一時停止された。
■ 火災による黒煙によって大気が汚染された。
< 事故の原因
>
■ 火災の原因は分かっていない。
< 対 応
>
■ 12月21日(水)、消防隊は、消火戦略として防御的戦略をとってタンクへの延焼を防ぎ、燃えているタンク内の燃料がすべて消費されるのを待つこととした。このため、消火活動は3~4日かかる可能性があるという。
■ 消防活動は、コロンビア海軍とカリブ海地域の消防隊の支援を受けて、火災を免れて残っている2基のタンクが火災にならないよう冷却が続けられた。
■ 12月22日(木)、火災現場では、60人の消防士と9台の消防車が休む間もなく活動している。1基目のタンクの消火の成功の鍵は、消防隊による泡薬剤の泡を使用したことにあるといわれている。
■ カルタヘナ港湾協会はバランキージャの火災対応に55ガロン(208リットル)の泡薬剤を提供した。
■ 12月23日(金)、バランキージャ港は部分的に業務を再開した。
■ 12月23日(金)、エネルギー大臣は、発災事業所のブラボー・ペトロリアム社が適切なリスク管理計画を提示していないと非難した。
■ 12月23日(金)、消防隊は100人の消防士と少なくとも10台の消防車と5隻のボートを使用して戦い続けた。午前中に冷却を強化するため、3隻の消火銃を備えたタグボートを同時に作業させた。石油貯蔵所には4基のタンクがあるが、このうちの2基が火災になり、1基のタンクは燃え尽きて火災は消えた。 しかし、もう1基のタンクは燃え続け、消防隊は2日以上消火活動を続けた。
■ 消防隊は、泡放射では火元に到達することはできなかったといい、「泡の膜を生成するには、50~60分間の連続放射が必要です。防御的戦略による火災の制御ができており、燃料が消費尽きるまで数時間の問題です」と語っていた。
■ 火災は約60時間燃え続け、12月23日(金)の午後に鎮火した。
■ 鎮火後、火災の状況についてつぎのように報じられている。
● 火災は4,700バレル(747KL)の燃料が入ったタンクで発生し、高温にさらされた結果、54,000バレル(8,590KL)以上の燃料が入った2番目のタンクに引火した。
● 冷却制御されていたが、航空機燃料39,600バレル(6,300KL)以上入った3番目のタンクについても同様の影響を引き起こす恐れがあった。表面の温度は200℃に達しており、いつ爆発してもおかしくなかった。
● もう1基のタンクは空であったが、残留油によるガスが入っていた。
■ 通常、火災の要因はすべて短絡(ショート)から始まっているとされ、今回の火災原因は小さな火花が燃料タンクに接触し、燃料タンクが爆発したものと思われるという話が発災当初にあったが、バランキージャ市長は、「事前に短絡の話があるが、これはまだ調査の対象になっていない」といい、「緊急事態は終了するが、実質的にあと1日続く。その後、数日かかる環境計画を立ち上げ、その後、原因に関する資料の収集・調査が行われる」と付け加えた。
補 足
■「コロンビア」(Colombia)は、正式にはコロンビア共和国で、南アメリカ北西部に位置する人口約5,090万人の共和制国家である。南アメリカ大陸で唯一、太平洋と大西洋のふたつの大洋に面した国で、首都はボゴタ(人口約770万人)である。コロンビアは多様な環境、文化、民族(88の部族と200の言語集団)を持つ国であり、欧州、中東、アジアからの移民が19世紀から20世紀の間に多く移住したが、それ以前からの先住民族と混在している。
「バランキージャ」(Barranquilla)は、正式にはバランキージャ特別工業港湾地区で、カリブ海に注ぐマグダレナ川の西岸に位置し、人口約1,330万人の都市である。 コロンビアのカリブ海地域における文化、政治、経済の中心地である。
■「ブラボー・ペトロリアム社」(Bravo Petroleum Company)は、 2011年に設立され、南米を中心に石油の貯蔵と輸送を専門とした会社で、本社はバランキージャにある。バランキージャの石油貯蔵所の詳細は分からないし、タンク基礎だけが建設されている背景も分からない。なお、2022年の火災事故後に被災タンクを復旧しておらず、被災状況のままになっている。
■「発災タンク」はガソリン用ということ以外、詳細仕様はわからない。グーグルマップでも被災後のタンク写真なので、はっきりはしないが、貯蔵所にあった4基のタンクは同じ大きさだとみられる。グーグルマップで推測すると、発災タンクの直径は約24mで、高さを24mと仮定すれば、容量は10,800KLとなる。火災になった2基目のタンクには8,590KL以上の燃料が入っていたという記事があるので、貯蔵所のタンクは10,000KLクラスのドーム型固定屋根式円筒タンクとみられる。
発災タンクは747KLの燃料が入っていたという記事があるので、タンク液位は1.8m前後だと思われる。ガソリンの燃焼速度が0.33m/hで全面火災であれば、5.4時間で燃え尽きることになる。しかし、タンク屋根がドーム型であり、屋根と側板の接続部がコーン型のように爆発時に切れて屋根が噴き飛ぶことなく、屋根が部分的な損壊となったと思われる。このため燃焼速度は遅くなり、燃え尽きるのも遅くなったとみられる。2基目のタンクの液位は20m前後と思われ、60時間の火災時間(正確には2基目の爆発時以降の時間であるが)とすれば、逆に燃焼速度は0.33m/hとなるので、全面火災に近い燃焼だったと思われる。
所 感
■ 今回のタンク火災の原因は分かっていない。発災時間が午前4時30分頃で、10,000KLクラスのドーム型固定屋根式円筒タンクに747KLしかガソリンが入っていなかった状況からすれば、タンクの入出荷などの運転に関わる事項ではないだろうか。それにしてもガソリンタンクと公道の距離がタンク直径分くらいしか離れていないのは驚きであり、タンク通気口から多量漏洩があれば、公道の車両やタバコが火元になる危険性のある貯蔵所である。
■ 消火戦略には積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略の3つがあるが、今回の当初の対応は積極的戦略で消火しようとしたと思われる。しかし、消防資機材が整っていないのと、2基目の爆発で死傷者が出たことによって、ほかのタンク設備への冷却に集中する防御的戦略に変更したとみられる。
日本では、直径24mクラスのタンクであれば、大容量泡放射砲システムは不要で、三点セット(大型化学消防車、大型高所放水車、泡原液搬送車)で良いことになっている。しかし、タンク規模が大きくなくても、複数タンク火災の場合、予想以上に消火が困難であることを示す事例である。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Reuters.com, Oil tank in
Colombia‘s Barranquilla explodes into flames, one dead, December 22, 2022
・Carandbike.com, Oil Tank In Colombia's Barranquilla Explodes Into
Flames, One Dead, December 30, 2022
・Es.euronews.com, Tanque de combustible estalla en llamas en ciudad
caribeña de Colombia, un muerto, December 21, 2022
・Semana.com, Tanques que se incendiaron en Barranquilla contenían
gasolina para aviones JET-A1, ¿qué tipo de combustible es y qué tan peligroso
puede ser?, December 23, 2022
・Swissinfo.ch, Un bombero
muere tras explosión de depósito de combustible en Barranquilla, December 21,
2022
・Publimetro.co, La tragedia ambiental que deja el incendio de tanques
de gasolina en el Puerto Barranquilla, December 21, 2022
・Bnamericas.com, Colombia
investiga mortal incendio en terminal de combustible de Barranquilla, December
23, 2022
・Bluradio.com, Bomberos apagaron un tanque del incendio en
Barranquilla y luchan por evitar que dos más se prendan, December 22, 2022
・Elheraldo.co, “Se escuchó un fuerte estruendo”: habitantes de Las
Flores, December 22, 2022
・Portalportuario.cl, Logran controlar incendio en Compas Barranquilla
luego de tres días de emergencia, December 23, 2022
後 記: 今回の事例は1年ほど前のタンク火災ですが、メディアの報道記事は結構多く残っていました。コロンビアとしては過去最悪のタンク火災事故であったためでしょう。しかし、メディアによって発災時間や経過がバラバラで、事故内容をまとめるのに時間がかかりました。それでも、1基目が鎮火した時間などは分かりませんでした。推測は付くのですが、あえて曖昧な表現(記事どおり)にしました。鉄道時間に代表されるように正確な時間にこだわるのが日本人ですので、南米コロンビアでは枝葉にこだわらないという国の風土を知った事例でした。