2023年11月29日水曜日

カナダの酸化アスファルト製造プラントでタンク火災

 今回は、2023831日(木)、カナダのアルバータ州カルガリーにある屋根材製造会社であるIKOインダストリーズ社の酸化アスファルト(ブローンアスファルト)製造プラントで起こったタンク火災について紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、カナダ(Canada)アルバータ州(Alberta)カルガリー(Calgary)の南東部42番街(42 Avenue SE1600番地のアリス/ボニーブルック工業団地(Alyth/Bonnybrook)にある屋根材製造会社であるIKOインダストリーズ社(IKO Industries)の酸化アスファルト(ブローンアスファルト)製造プラントである。

 ■ 事故があったのは、 酸化アスファルト製造プラントのタンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2023831日(木)午後10時頃、 IKOインダストリーズ社のプラントで火災があった。火災から出る大量の煙は数ブロック離れた遠いところからも見えた。

■ 当時、プラントには6名ほどの従業員が働いていたが、避難して負傷者は出なかった。

■ 発災に伴い、カルガリー消防署の消防隊が出動した。出動した消防士は45名である。

■ アスファルトプラントから立ち上る黒煙を評価するためにカルガリー消防署のハズマット隊(HazMat Team)も招集された。近隣の建物や人々に煙による影響はなかった。

■ 火災は屋根板の吹き付けに使用される酸化アスファルト(ブローンアスファルト)が入ったタンクから発生したとみられる。 消防隊の隊長によると 「特にコンクリートサイロの1基からかなりの煙と炎が発生し、隣接の建造物も完全に巻き込まれた」と語っている。

■ 消防隊は最も制圧効果のあるはしご車と地上から放水ノズルを使用し、消火活動に努めた。

 

■ 酸化アスファルト製造プラントのタンク設備が火災で損傷した。被災範囲はわかっていない。

■ 負傷者は出なかった。

■ 近隣の建物や人々に火災の煙による影響はなかった。

< 事故原因 > 

■ 事故原因は調査中でわかっていない。

< 対 応 >

■ 発災から3時間後の91日(金)午前1時頃、火災は制圧され、鎮火した。

■ 鎮火後、地元当局が出火原因の究明に着手できるようになったのは91日(金)午前7時過ぎだった。事故が起きたプラント地区は当局によって原因調査のため確保された。原因調査はしばらくかかるとみられ、プラントの稼動再開にはしばらく先になるとみられる。

■ IKOインダストリーズ社の工場の火災に消防隊が対応したのは、これが初めてではなく、そのうちの2件は20143月に発生している。


補 足

■「カナダ」(Canada)は、北アメリカの北部に位置し、10の州と3つの準州からなる連邦立憲君主国家で、英連邦加盟国である。人口は約3,760万人で、首都はオンタリオ州のオタワである。

「アルバータ州」 (Alberta)は、カナダ西部に位置し、人口は約444万人である。肥沃な農業地帯が広がるが、第2次大戦後、石油が発見された産油地域でもある。近年はオイルサンド採掘で得られる重質原油の生産が主力になっている。

「カルガリー」(Calgary)は、アルバータ州の南部にあり、カナディアンロッキー山麓から東におよそ80 kmの高原地帯に位置し、人口約123万人の都市である。

■「IKOインダストリーズ社」(IKO Industries)は、1951年に設立した建築材製造会社で、特に屋根材と関連製品を製造しており、北米、欧州などに展開している。カナダのオンタリオ州ブランプトンにIKOインダストリーズ社の本社があり、カナダには完成品と原材料を供給する製造工場と施設が13個所ある。カルガリーにあるプラントが、今回、発災した酸化アスファルト(ブローンアスファルト)の製造プラントである。

■ アスファルトといえば、日本では舗装などの道路に使用されるストレートアスファルトを指すが、海外では、建築材料に特化した「酸化アスファルト」がある。酸化アスファルトは“ブローンアスファルト” やビチューメンアスファルトなどと称されることがある。 酸化アスファルトは弾力性に富み、防熱性や耐水性が高く、屋根材として使用される。屋根材の製品はアスファルトシングルと称し、特に北米でのシェア率が高く、100年以上前から使用されている。

「酸化アスファルト」の製造プロセスの例を図に示す。反応器はアスファルト(ビチューメン)と空気を混合して酸化させるもので、通常、真空容器である。アスファルトと空気の混合を改良したブレードや機械的撹拌装置を装備したものもある。酸化プロセスは発熱を伴うので、反応器の上部に水(または水蒸気)スプレー装置を付けアスファルトの温度を調節する。火災や爆発の危険性を極力無くすため、反応器の上部領域への水注入を利用して酸素の量を減らす。

■「発災タンク」の仕様は報じられていない。グーグルマップで調べると、同じ径の被災タンクが3基あり、直径は約7.8mである。高さを15mとすれば、容量は716KLとなる。

 消防隊の隊長が 「特にコンクリートサイロの1基からかなりの煙と炎が発生し、隣接の建造物も完全に巻き込まれた」と語っているが、酸化アスファルトのプラントは反応器を含め、コンクリート製にする必要はなく、鋼製の円筒タンクではないかと思う。


所 感

■ 一般的に(ストレート)アスファルトのタンクで注意すべきことは、水による突沸、軽質油留分の混入、運転温度の上げすぎ、屋根部裏面の硫化鉄の生成などであることは、これまでのアスファルトタンクの事故で述べてきたことである。アスファルトタンクの事故や要因は、「米国イリノイ州の石油プラントでアスファルトタンクが爆発、死傷者2名」20235月)を参照。

 しかし、今回のように酸化アスファルト(ブローンアスファルト)の火災事故は、これまでのアスファルトプラントとは異なるプロセスであり、違った要因があるのかも知れない。酸化アスファルトの製造プロセスは、引火性の高くはないアスファルト(ビチューメン)を原材料に使用するが、反応器で空気と混合するので危険性の高いプロセスである。火災や爆発の危険性を極力無くすため、反応器の上部領域への水注入を利用して酸素の量を減らす制御を行うという。常識的に考えれば、事故要因は反応器での空気量を制御する操作の運転ミスから派生した事故ではないかと思う。

■ 発災写真ではかなり大きな炎が出ている。しかし、夜の火災は大きく見える傾向にある。鎮火したあとの被災写真では、タンクはいずれも損傷程度が小さいように見える。最も大きな炎を出していたとみられるタンクは上部からアスファルトが流出したような跡が見えるが、爆発の形跡はない。

■ 消火戦略には積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略の3つがあるが、今回の消火活動は放水によるタンクの冷却に集中する防御的戦略を優先している。制圧には発災から3時間を要しており、アスファルトタンクの火災にしては時間を要していると思われ、タンクとタンクの間の配管からの漏れによる堤内火災を伴ったのではないだろうか。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Calgary.ctvnews.ca, No injuries reported in 2-alarm fire at Calgary asphalt plant,  September 01, 2023

   Globalnews.ca, 2-alarm fire hits shingle manufacturer in Calgary industrial park,  September 01, 2023

   Calgary.citynews.ca, Calgary crews respond to fire at SE asphalt plant,  September 01, 2023

   Calgaryherald.com, 'Significant smoke and flames': Firefighters battle two-alarm blaze in S.E. industrial area, September 01, 2023

   Msn.com, 2-alarm fire hits shingle manufacturer in Calgary industrial park,  September 01, 2023


後 記: 今回の事故で酸化アスファルト製造プラントのことを初めて調べました。日本は屋根として瓦を使ってきましたので、屋根材として酸化アスファルトのニーズは少なかったでしょう。しかし、日本でも2007年に建築基準法が改正され、アスファルトシングルと称して住宅の屋根に使えるようになりました。そういえば、私の町で新しく建つ家は、近年、瓦を使ったものが急減しています。屋根を見れば、昭和の時代に建てられたものか、平成・令和のときに建てられたものか判別できますね。

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