2022年8月29日月曜日

キューバのタンク基地で落雷による原油タンク火災4基、死傷者162名

  今回は、202285日(金)、キューバのマタンサスにあるマタンサス・スーパータンカー基地のタンク施設で原油タンクが落雷で爆発・火災を起こし、隣接していた原油タンク3基に延焼し、162名の死傷者を出す大きな事故になった事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、キューバ(Cuba)の首都ハバナ(Haana)東方にあるマタンサス(Matanzas)にあるマタンサス・スーパータンカー基地(Matanzas Supertanker Base)である。

■ 事故があったのは、マタンサス・スーパータンカー基地にある容量50,000KLの原油貯蔵タンクである。事故当時、タンクには、容量の50%である25,000KLの原油が入っていた。原油貯蔵タンクはアルミニウム製ドーム型内部浮き屋根式で、容量50,000KLのタンクが8基並んでいた。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 202285日(金)午後8時頃、雷雨がマタンサス地区を通過しているとき、マタンサス・スーパータンカー基地に落雷があり、タンク1基が火災を起こした。タンクから真っ赤な炎と黒煙が立ち昇った。

■ 近くに住む女性は、「大きな音で寝ていたベッドから飛び起きた。外に出ると夜空が黄色に染まっていた」と語った。別な男性は、「衝撃波のような爆風で、背中を押されたように感じた」と語っている。

■ 発災に伴い、消防隊が出動した。消防隊は、火災の拡大を防ぐため近隣のタンクに水を噴霧して冷却を維持するようにしていた。しかし、強風により消火作業は困難な状況だった。

■ 近くの住民約1,300人が避難した。

■ 86日(土)午前5時頃、2基目のタンクに延焼して爆発を起こした。2基目のタンクは満タンだった。地元住民によると、「爆発がとても大きかったので、太陽のように辺りを照らしていた」と話している。

■ 2基目のタンクの爆発によって、消防士1名が死亡し、121名が負傷し、14名が行方不明となった。負傷者は、主に火傷と煙の吸入の治療を受けた。 亡くなったのはシエンフエゴス製油所(Cienfuegos Refinery)の特別防火司令部の 60 歳の消防士だった。行方不明者は、発災現場の最も近い地域で火災拡大を防ごうとしていた消防士だった。

■ 負傷者の中には地元の報道機関の3名が含まれるが、軽度の火傷で軽傷だった。負傷したひとりは、「午前4時過ぎに消防隊が消火活動をしているタンク基地に到着し、そのような状況に直面している人々を取材して情報を探していました。数分が経過し、2 番目のタンクが爆発しました。逃げろ!という叫び声が聞こえました。私は同僚と一緒に走りました。しかし、私は自分の足でありながら私の意思どおりに急いで走れないと感じました」と語っている。

■ 2基目のタンクは、86日(土)早朝の午前5時頃の爆発のほか、その日の午前中に3回の爆発があった。

■ キューバ国営テレビは6日(土)から火災の様子を中継している。この事故についてテレビとは別にユーチューブに投稿された映像の主なものは、つぎのとおりである。

 ●Cuba en emergencia tras incendio en tanque de combustible2022/08/07

 ●Dezenas de feridos e 17 desaparecidos em incêndio em Cuba | AFP2022/08/07

 ● Humo negro llena partes de Matanza, Cuba mientras rescatistas luchan contra un incendio2022/08/07

■ 火災からの煙は西側に向かって流れており、100km以上離れたハバナで見ることができた。保健当局は、煙の影響を受ける地域ではマスクを着用し、雨を避けるよう住民に警告している。煙の雲には二酸化硫黄、窒素酸化物、一酸化炭素などの有毒化学物質が含まれているという。

■ 満杯の50,000KLの原油が入った2基目のタンク火災は燃え続け、87日(日)午後11時頃に大爆発を起こした。2基目のタンクは40時間近く燃え続け、座屈崩壊した。この事故に伴い、3名の負傷者が出た。この爆発は86日(土)に発生したものよりもはるかに激しく、油が流出して周辺地域に広がった。2基目のタンクは早い段階で割れが発生し、燃料がタンク周囲に漏洩し、茂みに火がついた。

■ 2基目のタンクで油が流出し、大規模な火災となり、さらに3基目のタンクに燃え広がった。88日(月)には、3基目の貯蔵タンクも爆発・火災を起こした。 さらに、8日(月)には貯蔵タンク4基目が炎に包まれ、全部で4基が火災となった。爆発・火災によって施設の40%が破壊され、大規模な停電が発生した。

■ 当局は、火災の近くの住民約800人を含めて、マタンサス工業地帯に住む約4,900人の人々を避難させた。

■ 88日(月)時点で、タンク火災から発生した煙がキューバの北海岸と西部に向かって拡大し続け、100km離れた地域に到達することによる環境と健康への影響について深刻な懸念が提起された。

■ 88日(月)、マタンサスの公衆衛生局長は、火災が始まって以来、集中的な監視を行っており、これまでのところ、国の西部では有毒物質に関連する呼吸器疾患やその他の疾患の増加は観察されていないと述べた。 キューバ環境省は、火災により汚染物質が放出されたことを確認したが、87日(日)時点で、危険はないと述べ、引き続き状況を監視しているという。

■ 88日(月)、燃料が無くなった後、主要な火力発電所を閉鎖することを余儀なくされ、追加の停電に対する懸念が生じた。もともとキューバ政府は蒸し暑い夏の真っ只中のハバナの首都で計画停電を発表していたが、事故はその数日後に起こった。 

■ 基地には8基のタンクがあり、キューバの電力システムで重要な役割を果たしている。この基地は原油を運び入れるための石油パイプラインを運用しており、その後、電力をつくる火力発電所に移送する。 また、輸入された原油、燃料油、ディーゼル燃料の荷降ろしや積み替えセンターとしても機能している。





被 害

■ 容量50,000KLの原油貯蔵タンクが4基損壊した。内部の原油が焼失したが、量はわかっていない。   

■ 死傷者は162名で、内訳は死者が16名、負傷者が146 名である。

■ 近くの住民4,900人が避難した。

■ 原油が燃焼して煙と汚染物質が大気を汚染した。

< 事故の原因 >

■ 最初のタンクの爆発・火災は落雷による。2基目~4基目は隣接の火災タンクによる引火である。

< 対 応 >

■ 86日(土)午前5時頃の爆発によって負傷した人は、午後7時までに121人が治療を受け、そのうち 36人が国内の 6つの医療機関に入院し、85 人が退院した。

■ 86日(土)、米国のキーウェスト気象レーダーは、マタンサスの工業地帯の火災から発生する煙の高さと密度を検出し、公表した。86日(土)、キューバ共和国気象研究所はマタンサスの工業地帯で進行中の火災の結果として、人間の健康に関心があり、市民の懸念のために、煙、雨、汚染ガスの濃度について情報を公開した。そして、特にアレルギーのある人は、フェイスマスクの使用など、身を守るための対策を講じるよう助言した。

■ 86日(土)、マタンサスの現地では泡モニターや放水銃などで消火活動を行っているが、キューバ政府は外国からの救援を求め、石油部門の経験を持つ友好国のメキシコとベネズエラから100人以上の支援を受けることにした。 87日(日)、メキシコとベネズエラの航空機や消防チームがキューバに入り、消防艇、飛行機、ヘリコプターなども使って消防活動が行われた。ベネズエラは泡消火剤を含む 20 トンの消火資機材を運んできた。

■ 米国政府は支援を申し出たが、キューバは米国と緊張関係にあり、キューバに対する制裁政策を維持している。キューバは感謝の意を表したが、実際の支援は行われなかった。

■ タンクには避雷針システムが設置されていた。貯蔵タンクの下部に落雷し、避雷針システムの能力を超えたか、避雷針システムに保守不足による欠陥があり、放電のエネルギーに耐えられなかったのではないかという推測がある。

■ 87日(日)午後4時、最初に発災したタンクの火災は鎮火した。

■ 87日(日)、タンクローリーと近くに停泊していた船を使用して、3基目のタンクから燃料を取り出す作業を行った。

■ 88日(月)午前4時、 5,000ガロン/分(18,900リットル/分)の大容量消火ポンプシステムドミネーターDominator)がベネズエラのカラカスから供与され、現地に到着した。

■ 88日(月)午前930分頃、3基目のタンクが座屈崩壊した。これは2基目のタンクから流出した燃料によってタンク底部が損なわれたためである。一方、現場は煙のため視界が悪い状態が続いていたが、空軍のヘリコプターが延焼を防ぐための消火水の注水を続けた。大容量消火ポンプシステムと泡消火剤の配置が終わった。

■ 5日(金)午後8時頃に発生した大規模火災が89日(火)ようやく制圧された。 5日間にわたった火災は、810日(水)消防署によって鎮火が確認された。しかし、現場にはいくつかのホットスポットが残っており、冷却が続けられていた。

■ 当局は火災で失った燃料の規模を明らかにしていないが、マタンサス湾への石油流出はないとしている。

■ 816日(火)、大火災のあった現場には、多くの骨が残っているという。

■ 819日(金)、キューバ政府は、マタンサスのタンク火災で行方不明になった14人が死亡したと判断し、2日間の正式な追悼式を行った。葬儀用の骨壷と犠牲者の像の前を行進する式が行われた後、墓地に埋葬された。合計で700以上の骨が、火が消えた後に回収された。 キューバの専門家は、被災地で見つかった断片の焼成程度がひどく、識別は不可能だという。

■ キューバ公衆衛生省によると、火災で16名が亡くなり、 146 名が負傷し、うち18 名は入院して一部の人は重体で危篤状態にあるという。





補 足

■「キューバ」(Cuba)は、正式にはキューバ共和国で、カリブ海の大アンティル諸島に位置し、人口約1,100万人の社会主義共和制国家で、キューバ共産党による一党独裁体制が敷かれている。

「マタンサス」 Matanzas)は、キューバの北岸に位置し、マタンサス州の州都で人口は約16万人である。首都ハバナ(Havana)の東約90kmの場所に位置しており、ルンバ発祥の地として知られている。

■「マタンサス・スーパータンカー基地」(Matanzas Supertanker Base)は、1980年代後半に建設され、その後、何度か増設・近代化が行われた。50,000KLの原油を貯蔵するために8基のタンクが設置されている。最大18万トンの喫水を受け入れるための 5基の桟橋がある。

■「発災タンク」は、4基とも容量50,000KLのアルミニウム製ドーム型内部浮き屋根式タンクである。グーグル・マップで調べると、直径は約74mであるので、高さは約11.6mである。最初に落雷で発災したタンクは容量の50%である25,000KLの原油が入っていたので、液位は約5.8mである。2基目のタンクは満杯であったので、液位は約11.6mである。3基目と4基目はどの程度入っていたか報じられていない。

■ タンク火災の経過時間を報道記事から見てみると、図のようになる。ただし、2基目の2回目の爆発以降と3基目・4基目についての事象や詳細な時間は報じられていないので、わからない点がある。

 この中で2基目のタンクに注目してみると、86日午前5時に最初の爆発があった後、87日午後11時に大きな爆発が起こっている。この間の燃焼時間は43時間である。2基目のタンクは満杯の液位約11.6mであり、仮に全面火災で燃焼速度を30cm/hと仮定すると、約38時間でボイルオーバーが発生することになる。直径74mのタンクの場合、消火するには、日本の法令で40,000リットル/分の大容量泡放射砲システムが必要である。

所 感

■ 事故には多くの教訓があるが、そのひとつは避雷設備の重要性である。今回のアルミニウム製ドーム型内部浮き屋根式タンクにはドームルーフ全面に特別な避雷針システムが設置されていたが、貯蔵タンクの下部に落雷し、避雷針システムの能力を超えたか、避雷針システムに保守不足による欠陥があり、放電のエネルギーに耐えられなかったのではないかという推測が報じられている。

 一方、アルミニウム製ドーム型内部浮き屋根式タンクは、屋根があって落雷に強いのではないかという説のほか、アルミニウム製屋根の肉厚が薄く落雷時は貫通するのではないかという説がある。今回の事例は避雷設備の保守の重要性のほか、根本的にアルミニウム製ドーム型内部浮き屋根式タンクの是非について議論を呼ぶ事例である。同型タンク火災の主な事例はつぎのブロブを参照。

 ●「落雷によるアルミニウム製ドーム式タンクの火災」20115月)

 ●「中米ニカラグアで原油貯蔵タンク火災、ボイルオーバー発生」20168月)

 ●「インドネシアの製油所でアルミニウム製ドーム型浮き屋根タンクが火災」202111月)

■ 今回の事故は消火戦略・消火戦術に疑問のある事例である。現場第一線の消防士はよくやっているが、緊急事態指揮者の判断・対応が悪い。最初のタンク火災への対応でタンク防油堤内に入って冷却作業を行っている最中に、隣接する2基目のタンクに引火して爆発を起こし、16名を超す人が死亡している。もともと原油タンクはボイルオーバーを起こしやすい油種であり、安全区域を設定して消火戦術をとらなければならない。実際、2基目の87日午後11時の爆発はボイルオーバーではなかったかと思われ、さらに3名の負傷者が出ている。

 消火戦略・消火戦術については、このブログでも紹介しており、主なものはつぎのとおりである。

 ●「石油貯蔵タンク施設の消火戦略・戦術」201612月)

 ●「タンク火災への備え」20129)

 ●「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」201410月)

 ●「石油貯蔵タンク火災時の備えは十分ですか?」201611月)

■ 直径74mのタンクの場合、全面火災を消火するには、放射能力40,000リットル/分の大容量泡放射砲システムが必要である。 今回の事故では、発災から4日目の88日(月)に 5,000ガロン/分(18,900リットル/分)の大容量消火ポンプシステムがベネズエラから供与され、現地に到着したが、時すでに遅く、放射能力も不足している。海外に支援を要請する判断は良かったが、この種のタンク火災について知見と経験を有する米国の支援をもっと早く受け入れておれば、状況は違っていただろう。(例えば、「米国ルイジアナ州における消防活動の相互応援の歩み」を参照)


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Jp.reuters.com,  キューバの石油施設火災、貯蔵タンク3基が崩壊 16人行方不明,  August  09,  2022

     Jp.reuters.com,  キューバ石油施設火災が4日ぶり鎮火、貯蔵タンク全4基崩壊,  August  10,  2022

     Nipponese.news,  落雷でキューバの石油タンクに火がつき、17人が行方不明、121人が負傷,  August  09,  2022

     Jiji.com,  燃料貯蔵庫に落雷、爆発で死者 メキシコ、ベネズエラが消火支援キューバ,  August  08,  2022

    Afpbb.com,  落雷でキューバの石油施設炎上 1人死亡・121人負傷,  August  07,  2022

     Voanews.com, Fire at Cuba Oil Terminal Spreads to Third Tank,  August  08,  2022

     Peoplesdispatch.org, International solidarity pours in as Cuba copes with major fire at oil facility,  August  08,  2022

     Abc.net.au, The worst fire in Cuba's history is under control after five days. Here's how a lightning strike set off a deadly disaster, August 10, 2022

     Theguardian.com, The worst fire in Cuba's history is under control after five days. Here's how a lightning strike set off a deadly disaster, August 06, 2022

     Telesurenglish.net, Cuba: Third Fuel Storage Tank Collapses at Matanzas Fire,  August  08,  2022

    Paudal.com, Cuban rescuers located more human remains at the site of the Matanzas fire that left 2 dead,  August  16,  2022

   Pagina12.com, Cuba: estalló un tercer tanque de combustible en Matanzas,  August  09,  2022

    Dw.com, Cuba despide a las víctimas del gran incendio de Matanzas,  August  20,  2022


後 記: キューバの事例を取り上げるのは初めてです。タンク火災が拡大していく大きな事故で各メディアが報じており、見切れないほどの情報がありましたが、このブログで必要な記事や報道写真にはなかなか当たらなかったですね。さすがの欧米の主要メディアも概要を伝えるといったものでした。というわけで、報道の自由度ランキング(2022年)を見たところ、キューバは180か国の中で173位でした。社会主義国家(共産党一党支配)の国ですので、いたし方ないのでしょう。世界的に見ると、報道の自由度が「非常に低い(悪い)」と評価された国は28か国にものぼり、調査開始以来、記録的と言えるほど多い数だそうです。日本は71位で、前年の67位より4位もランクダウンしています。 「報道の自由」よりも「報道の不自由」に着目される結果になっています。原因は大企業の影響力がメディアに自己検閲を促す風潮だとされています。企業にとってプラスにならない情報の報道を、メディアが自主的に控えてしまうのと、公的な存在である政府からの圧力があるようです。このようなブログをやっていると、世の中に教訓を伝えるためには社会主義国家のように報道の不自由な国にならないことを祈っています(祈れば良いという話ではないですが)。

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