2022年8月17日水曜日

米国テキサス州フリーポートLNG輸出基地で真空断熱配管が爆発・火災

今回は、202268日(水)、米国テキサス州ブラゾリア郡のクインターナ島にあるフリーポートLNGデベロップメント社LNG輸出基地でLNGを移送するため真空断熱配管が爆発・火災を起こした事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国のテキサス州(Texas)ブラゾリア郡(Brazoria)のクインターナ島(Quintana Island)にあるフリーポートLNGデベロップメント社(Freeport LNG Development, L.P.)の施設である。
■ 事故があったのは、ヒューストン経済圏にあるクインターナ島のフリーポートLNG輸出基地のLNGを移送するための真空断熱配管である。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 202268日(水)午前1140分頃、フリーポートLNG輸出基地の施設で爆発・火災が発生した。

■ 爆発はクインターナ島の小さな町を揺るがした。目撃者によると、雷雨のような音が聞こえ、施設の区域で大きな火の玉を見たという。地元に住む別な女性は、水曜日の朝、3 回大きな音を聞いたので、外に出て何が起こっているのだろうかと思ったという。クインターナ島の住民は、地元当局から何の説明や指示もなく、避難も警告もされていないことを懸念し、近くの住民の中には危険な煙を吸い込むリスクを減らすために人工呼吸器を与えるべきだと語った。

■ 地元の郡立公園の監視ビデオに爆発時の炎が捕らえられていた。 この映像は、ユーチューブに投稿されている。(YoutubeExplosion at Freeport LNG Plant2022/6/10)を参照) 監視ビデオの映像は、爆発による大きな火の玉を示していたが、すうーと消散したように見える。しかし、 映像には無いが、しばらく経った後、今度は濃い黒煙が立ち昇った。この黒煙は別な画像が投稿されている。

■ 発災に伴い、米国沿岸警備隊、消防署、警察署の隊員が出動した。ブラゾリア郡消防局によると、この地域の26の消防署が対応した。

■ 事故は、LNG貯蔵タンクエリアから桟橋施設へLNGを移送するためのパイプラック内の配管系でガス漏洩をきっかけに爆発・火災が起きた。発災直後にはタンクが爆発し、火災が発生したという誤報もあった。

■ フリーポートLNGデベロップメント社は、事故に伴う負傷者は発生せず、従業員は全員無事で、周辺地域へのリスクはないと語った。この事故による影響は工場のすぐ近くのエリアにとどまったという。

■ 火災はパイプラック内に限定され、LNG輸出基地内の液化施設、LNG貯蔵タンク、桟橋施設、LNGプロセスエリアはいずれも影響を受けなかった。

■ 発災に伴う負傷者はいなかった。

■ 事故により、施設は3週間の停止見込みという話もあったが、20229月上旬までかかり、部分的に操業を再開する見込みだという。しかし、米国の液化天然ガス総輸出能力の約20%、世界の輸出能力の約4%を占める施設をフル稼働させるため、すべての修理を終えて規制当局の許可を得るには、2022年末までかかる可能性がある。この停止はすでに、主要なLNG供給市場、特に欧州に不安を与えている。  

■ 614日(火)、フリーポートLNGデベロップメント社は、発災について、最初にLNGが放出されて天然ガスの蒸気雲が形成して着火し、そのあと施設内での火災につながったと発表した。同社によれば、LNGの蒸気雲が拡散して着火したのは、液化設備のプラントエリア内に収まり、この間、約10秒継続した。その後、煙を伴った火災は配管やケーブルなど発災場所周辺のものを燃やした。

■ LNGは過冷却したメタンで、大型の専用タンカーを使って海外に輸送する前に、温度をマイナス華氏260°(マイナス162℃)まで冷却し、体積を600分の1に減らす。規制当局は、LNGの爆発を頻度は低いが、起これば重大な事故になると考えている。というのは、LNG施設では、膨大な量の天然ガスが扱われ、それが大気にさらされると爆発する可能性が高いからである。2004年、アルジェリアの LNGターミナルでの 爆発では、30名が死亡し、70名が負傷するという事故が起きている、米国では、2014 年にワシントン州の液化プラントで爆発が発生し、5 人の作業員が負傷した。

被 害

■ 真空断熱配管などパイプラックの配管類が爆発と火災で損傷した。

■ 天然ガスやケーブルなどの燃焼により、一酸化炭素や窒素酸化物などの環境汚染物質が排出された。火災の持続時間が短かったため、周辺地域に直接的なリスクを及ぼすレベルではなかった。

■ 漏洩したLNG(メタン)は120,000 立方フィート(3,400㎥)と推定されている。

■ 発災に伴う負傷者はいなかった。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は調査中である。

■ 予備調査によると、圧力安全弁が孤立され、長さ300フィート(91m)の真空断熱配管が過圧状態になり、配管が破裂してLNGが施設内に放出され、爆発と火災を引き起こし、プラント内の配管と構成部品を損傷させた。

< 対 応 >

■ 火災は、地元の消防隊の協力によって、午後4時過ぎに制圧された。

■ 発災場所と消防活動がユーチューブに投稿されている。(YoutubeInvestigation underway after incident at Freeport oil and gas company2022/08/09)を参照)

■ 天然ガスやケーブルなどの燃焼により、一酸化炭素、窒素酸化物、粒子状物質、二酸化硫黄、揮発性有機化合物などの環境汚染物質が排出された。しかし、火災の持続時間が短かったため、その量は限られており、周辺地域に直接的なリスクを及ぼすレベルではなかった。

■ 消火に使用した水は現場で回収し、有害な汚染物質がないことを確認してから放流または移送して適切に処理する予定だという。

■ フリーポートLNG輸出基地が問題を起こしたのは、今回が初めてでなく、つぎのようなさまざまな問題があった。

 ●  2020年にLNG輸出基地内で電気火災が発生したとき、同社の救援要請は60マイル(96km)以上離れたヒューストンに回された。この遅れの後、地元の消防士が駆け付けた。しかし、消防隊は施設内に入ることができなかった。連邦規制当局によると、消防隊を誘導するLNG輸出基地の職員がいなかったと後に述べている。会社が地元の消防署との訓練を実施していなかったという。

 ● フリーポートLNG輸出基地では、近年、事故が相次いでおり、規制当局はメキシコ湾沿いのどの同業企業よりも多くの取締り措置を講じている。2015年以降、米国パイプライン・危険物安全局(Federal Pipeline and Hazardous Materials Safety Administration PHMSA)から11件の取締り措置を受けたことが記録されている。20225月も100ガロン(378リットル)のトリエチレン・グリコールが漏洩して従業員が病院に搬送されたばかりだ。

 ● 2021年には客先に荷揚げされるLNGの品質に関して問題があり、フリーポートLNG輸出基地は輸出する出荷の船便の数を減らした。

 ● 過圧に関する問題は過去にあった。20198月、フリーポートLNG輸出基地では、最初の生産ライン、すなわち、トレインの操業を開始した。このとき、圧力90psi620Pa)以上を超えないように設計された配管において917psi6,322Pa)の過圧状態で過冷却された液体を押し出したため、配管が損傷した。さらに調査を進めると、配管に欠陥があり、LNGの極低温を扱うのに適していない可能性があることが分かった。このような配管が施設内に数百フィート(数百メートル)もあったという。

■ 630日(木)、米国パイプライン・危険物安全局(PHMSA)は、安全弁の問題により、ステンレス鋼製の二重管構造の呼び径18インチ(46cm)の配管が過圧になって破裂し、LNGとメタンが放出されて爆発したと、発表した。原因に関する主な発表内容は、つぎのとおりである。 

● 事故の根本的な原因はまだ確定されていないが、予備調査によると、圧力安全弁が孤立され、長さ300フィート(91m)の真空断熱配管が過圧状態になったとみられる。過圧状態になった300フィート(91m)の配管が破裂して、LNGとメタンが施設内に放出された。配管からのLNGとメタンが突然の放出され、爆発と火災を引き起こし、プラント内の配管と構成部品を損傷させた。米国パイプライン・危険物安全局(PHMSA) の指示により、フリーポートLNG輸出基地は第三者であるIFOグループと契約し、爆発と火災の根本原因分析を実施している。 

 ● 損傷(故障)は、LNG移送システムの一部である呼び径18インチの真空断熱配管で発生した。対象となった真空断熱配管は、施設のLNG貯蔵エリア内の(地上)パイプラックに設置されたループ2と呼ばれる配管の一部である。損傷した真空断熱配管には、LNG移送配管、電力ケーブル、用役配管、計器ケーブルラックを含み、鋼製パイプラックに設置されていた。損傷した配管は、地上30フィート(9m)の高さにあり、LNGタンク‐3と桟橋(船積み)区域に接続されていた。

 ● 呼び径18インチ真空断熱配管は、ステンレス鋼製の内管と外管で構成され、外側を被覆している。内管は低温液体の移送を担っている。内管は、熱を遮断するため、多層の特殊断熱材に覆われている。

これにより、内管と外管の間の空間は真空ポンプで減圧し、真空シールドが作られる。真空シールドは、伝導、対流、輻射による熱ロスから低温液体を保護する。

 ● 爆発と火災により、呼び径18インチの真空断熱配管が損傷したことに加えて、この地域の他の配管の多くも損傷を受けており、LNGの移送作業を再開するには修理や取替が必要である。

■ 630日(木)、米国パイプライン・危険物安全局(PHMSA)は、さらに通知で通常営業を再開するためには、フリーポートLNG輸出基地が一連の改善策を講じるとともに、書面での承認を得た上でなければ再開を認めない方針を明らかにした。フリーポートLNG輸出基地は、第三者を起用して貯蔵タンクや管理システムの手順、訓練プログラムの評価を受けることなども求められている。

■ 米国パイプライン・危険物安全局(PHMSA)の厳しい通知内容によって、再稼働予定の日程は提示されていないが、フリーポートLNG輸出基地の再開計画はさらに1か月遅れを生じる可能性がある。

■ 81日(月)、フリーポートLNG輸出基地に出資している大阪ガスは、基地をめぐって795億円の損失が発生すると発表した。大阪ガスはこの基地から年間232万トンを調達しており、大阪ガス全体の約19%と影響は大きい。ほかのガス会社などにも販売しており、不足分の代替調達を進めてきた。損失の内訳は代替調達の費用や基地の復旧費用など約650億円のほか、基地への投資を通じて得られたはずの利益分約145億円を見込む。基地の復旧費用は出資比率に応じて発生するためあるだという。

 同じく日本から出資しているJERA社(東京電力グループと中部電力グループの共同出資会社)は損失額について未発表である。

補 足

■「テキサス州」(Texas)は、米国の南部に位置し、人口約2,900万人の州である。

「ブラゾリア郡」(Brazoria)は、テキサス州の南東部のメキシコ湾岸沿いに位置し、人口約31万人の郡である。

「クインターナ島」(Quintana Island)は、ブラゾリア郡のメキシコ湾岸にある地続きの島で、クインターナは人口約90人の町である。日本語ではキンタナと表記されることがある。

「ヒューストン」(Houston)は、テキサス州の南部に位置し、人口約230万人の都市である。ハリス郡を中心に9郡にまたがるヒューストン都市圏の人口は710万人である。

■「フリーポートLNGデベロップメント社」(Freeport LNG Development, L.P.)は、2002年に設立されたLNG(液化天然ガス)を取扱う石油企業である。2005年に輸入ターミナルの建設を始め、 20086月に施設が完成する。2基の16万㎥のLNG貯蔵タンク、 LNGタンカーの着桟ができる桟橋、LNG気化システムが特徴で、LNGの輸入業務を開始した。

 その後、LNG貯蔵タンクなどの施設を拡張し、フリーポートLNG輸出基地として2019年にLNG輸出業務を開始した。フリーポートLNGデベロップメント社は、世界最大のLNG液化・輸出施設のひとつを運営しており、世界で7番目に大きく、米国では2番目に大きい。各液化トレインは年間約440万トンの輸出用LNGを生産することができ、これは総液化能力にして約22億立方フィート/日の天然ガスに相当する。日本の会社も出資しており、出資者と比率は、フリーポートLNGインベストメンツ;63.5%JERA(東京電力グループと中部電力グループの共同出資会社);5.7%、大阪ガス;10.8%である。

■「LNG(液化天然ガス)」 施設は、天然ガスが石油や石炭よりも環境負荷が小さい(CO2排出量が少ない)エネルギー源として近年世界的に需要が高まっている。 LNG施設は、ガス田から生産された天然ガスから液体成分(コンデンセート)を取り出した後、天然ガスは酸性ガス(硫化水素、二酸化炭素)除去装置、水銀除去装置、脱水装置、NGL除去装置を経て、液化装置で体積を600分の1に減じて液化する。天然ガスはLNGタンクに貯蔵される。

■「真空断熱配管」(Vacuum insulated piping)は、液化天然ガスや液体窒素などの極低温液体を処理するために設計された二重管式の配管である。内管と外管の間を真空にして、内管の中を移送する極低温液体からの熱ロスを無くす構造である。LNG輸出基地用の大口径の真空断熱配管 は1990 年代後半に初めて開発され、2010 年代初頭までにプラント運用から学んだ教訓に基づいて、信頼性のある真空断熱配管が利用できるようになったといわれている。

所 感

■ 予備調査によると、圧力安全弁が孤立され、長さ300フィート(91m)の真空断熱配管が過圧状態になり、配管が破裂してLNGが急速にフラッシュし、蒸気雲が形成されて爆発と火災を引き起こし、プラント内の配管と構成部品を損傷させたとみられる。

■ 今回の事故から事業所における過去の問題点がいろいろ指摘されている。その中には、2019年に今回のような過圧による配管損傷事例がある。当局である米国パイプライン・危険物安全局(PHMSA)は今回の原因追及だけでなく、根本的な施設の運用や安全管理の改善を求めているが当然だろう。

■ LNG輸出基地は、天然ガスを貯蔵施設するだけでなく、酸性ガス(硫化水素、二酸化炭素)や水銀などを除去した上で、液化装置と真空断熱配管によって体積を600分の1に減ずるプロセス装置のような形態をもっている。このようなプロセス装置を操業する事業所の従業員は技術知識と保安知識を有することが求められる。フリーポートLNGデベロップメント社の会社PRのビデオを見ると、ヒューストンにある本社には専門知識を有した人を配置しているようだが、現地の実態と乖離しているという印象である。日本でも、液体窒素などの超低温流体を扱う事業所で、現場の従業員が超低温流体に関する十分な保安知識を有していなくて、安全弁などの元弁は常時開放しておくべきという基本的な知識が欠如して事故を起こした事例がある。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

      Tankstoragemag.com, Fire and explosion shut Freeport LNG,  June  09,  2022

     Enr.com, Shutdown Extended of Fire-Damaged Texas LNG Export Site,  June  20,  2022

     Click2houston.com, Explosion shuts down Freeport LNG’s liquefaction facility for next 3 weeks, officials say,  June  08,  2022

     Offshore-energy.biz, Freeport LNG to shut down for three weeks minimum following explosion,  June  09,  2022

     Offshore-energy.biz, Freeport LNG outage to last months due to damage in fire incident,  June  15,  2022

     Freeportlng.newsrouter.com, REEPORT LNG PROVIDES UPDATE ON JUNE 8 INCIDENT AT ITS LIQUEFACTION SITE ,  June  14,  2022

     Eenews.net, LNG plant had history of safety issues before explosion,  June  15,  2022

     Reuters.com, U.S. regulator bars Freeport LNG plant restart over safety concerns, July 02, 2022

     News.yahoo.co.jp, フリーポートLNGのターミナル、火災後の再稼働に遅れ-当局が条件,  July  01,  2022

     Asahi.com,  LNG基地火災で795億円損失か 大阪ガス、料金引き上げ可能性も, August  01,  2022

     Osakagas.co.jp,  連結業績予想の修正に関するお知らせ, August  01,  2022

    Phmsa.dot.gov, In the Matter of  Freeport LNG Development, Respondent NOTICE OF PROPOSED SAFETY ORDER, June 30,  2022

    Hazardexonthenet.net, Explosion at US LNG terminal adds to global supply strain, June 13,  2022

    Maritime-executive.com, Video: Explosion Shutters Freeport LNG Export Plant for Three Weeks, June 09,  2022

    Apnews.com, Fire at LNG terminal in Texas jolts residents, fuel markets, June 10,  2022

    Thefacts.com, Freeport LNG explosion closes plant for an extended time, June 09,  2022


後 記: 今回の事例は発災後の比較的早い段階で知っていましたが、貯蔵タンクの直接的な事故でないことからパスしました。ところが、8月になって大阪ガスがこのLNG輸出基地に出資しているために大きな損失を出したというニュースを知り、調べてみることにしました。そうすると、 LNG輸出基地が天然ガスを貯蔵施設するだけでなく、酸性ガス(硫化水素、二酸化炭素)や水銀などを除去した上で、液化装置と真空断熱配管によって体積を600分の1に減ずるプロセス装置のような形態をもっていることでした。いろいろな問題点や疑問があり、私自身の関連知識の理解を兼ねて調べていくうちにお盆期間になり、ブログのまとめを中断してしまい、投稿が遅れました。 

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