2022年3月31日木曜日

サウジアラビアの石油流通ステーションで再び貯蔵タンクにミサイル攻撃

今回は、2022325()、サウジアラビアのマッカ州ジェッダにある国営石油会社であるサウジ・アラムコ社(Saudi Aramco)の石油流通ステーションがミサイル攻撃によって貯蔵タンクが火災を起こした事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、サウジアラビア(Saudi Arabia)マッカ州(Mecca)ジェッダ(Jeddah)にある国営石油会社であるサウジ・アラムコ社(Saudi Aramco)の石油流通ステーションである。ジェッダの石油流通ステーションには、ディーゼル油、ガソリン、ジェット燃料など13基の貯蔵タンクがあり、総貯蔵量は520万バレル(82KL)である。

■ 発災があったのは、石油流通ステーション内にある貯蔵タンクである。この石油流通ステーションは202011月にミサイル攻撃を受け、今回が2度目である。(「サウジアラビアの石油流通ステーションの貯蔵タンクをミサイル攻撃」を参照)

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2022325日(金)、石油流通ステーションがミサイルによる攻撃を受け、貯蔵タンクで火災が発生した。

■ 火災発生に伴い、消防隊が出動した。15の消防チームは火災を制圧しようと活動した。しかし、風が強く、消防活動を困難にした。

■ 攻撃をしたのは、イランを支援するイエメンの反政府武装組織フーシ派(Houthi)である。フーシ派は、無人機や弾道ミサイルでジェッダのアラムコ施設や首都リヤドの施設などに計16回の攻撃を行ったと発表した。イエメンとの国境にある南西部ジザン(Jizan)の電力施設も攻撃を受け炎上した。フーシ派と戦うサウジアラビア主導の連合軍も、攻撃があったことを認めた。

■ ミサイル攻撃とタンク火災に伴う死傷者は出ていない。

■ 火災は同市で開催中のフォーミュラワン(F1レーシングカーの世界選手権)のコースからも見ることができた。

■ 発災の映像は、ユーチューブに投稿されている。YouTube「サウジ石油施設をフーシ派が攻撃「市場に影響必至」(2022326)Large fire at Saudi Aramco storage facility2022/03/26)」を参照)

被 害

■ 容量500,000バレル(79,500KL)の貯蔵タンクがミサイルによって被害を受けた。被害の部位や程度は分からない。

■ タンク内部の石油(油種は分からない)が焼失した。焼失量は不明である。

■ ミサイル攻撃とタンク火災による死傷者は無い。

< 事故の原因 >

■ 事故の直接原因は、ミサイル攻撃という「故意の過失」である。

< 対 応 >

■ 火災は消防隊によって対応活動が行われたが、詳細は分からない。しかし、被災写真によると、火災は消火されたものとみられる。

■ 巡航ミサイルとドローンは防御が困難だといわれているが、米国は、最近、サウジアラビアにかなりの数の巡航ミサイル迎撃用のパトリオットミサイルを供給していた。しかし、今回のフーシ派の攻撃に対する防御能力について新たに疑問をもたれた。

■ 前回の202011月のミサイル攻撃で被害を受けたディーゼル燃料タンクの補修には、150万ドル(170百万円)かかったという。

補 足

■「サウジアラビア」(Saudi Arabia)は、正式にはサウジアラビア王国で、中東・西アジアに位置し、サウード家を国王にした絶対君主制国家で、人口約3,420万人の国である。世界一の原油埋蔵量をもち、世界中に輸出している。

「マッカ州」(Mecca)は、サウジアラビアの西側(紅海側)に位置し、人口約580万人の州である。

「ジェッダ」(Jeddah)は、原油生産施設の無いマッカ州にある紅海を臨む都市で、人口約398万人と首都リヤドに次ぐ大都市である。

■「サウジ・アラムコ」(Saudi Aramco)は、サウジアラビアの国営石油会社で、保有原油埋蔵量、原油生産量、原油輸出量は世界最大である。設立は1933年といわれるが、これは1933年に米国スタンダード・オイル・オブ・カリフォルニア(現在のシェブロン)の子会社であるカリフォルニア・アラビアン・スタンダード・オイル・カンパニー(CASOC=カソック)が同国の石油利権を獲得した時に始まる。その後、1944年にCASOCはアラビアン・アメリカン・オイル・カンパニー(Aramco)、すなわちアラムコに変更した。さらに、1988年に完全国有化が進められ、国営石油会社「サウジ・アラムコ」となった。サウジアラビアの原油・天然ガス事業はサウジ・アラムコが独占して運営している。

■「発災タンク」は、202011月の「サウジアラビアの石油流通ステーションの貯蔵タンクをミサイル攻撃」によると、直径約73m×高さ約19m×容量79,500KLクラスの固定屋根式貯蔵タンクとみられる。タンク内液の種類は報じられていない。

■ 発射されたミサイルの種類は発表されていないが、202011月の攻撃同様、 クッズ‐1Quds-1)ではなく、地上発射式クッズ-2巡航ミサイル(Ground-launched Quds-2 cruise missile)と思われる。ジェッダはイエメン国境から390マイル(624km)離れており、地上発射式Quds-2巡航ミサイルは目標に到達するため400マイル(640km)以上飛んでいる。今回、ミサイル攻撃をしたイエメンの反政府武装組織フーシ派とサウジアラビアの対立は、7年前にサウジアラビアがイエメンの内戦に軍事介入して以降続いていて、フーシ派は今回の攻撃を認めたうえで「サウジアラビアが介入を止めるまで攻撃を続ける」と警告している。

所 感

■ 事故原因は、テロ攻撃という「故意の過失」に該当する。

 今回の発災施設は、202011月にあった「サウジアラビアの石油流通ステーションの貯蔵タンクをミサイル攻撃」されたジェッダの石油流通ステーションで、2度目のミサイル攻撃を受けたことになる。

 サウジアラビアの防空システムは、侵入してくるミサイルに対して米国から入手した最新のレーダー、F15戦闘機、パトリオットミサイルなどを装備していたが、20199月の無人機(ドローン)による攻撃(サウジアラビアの石油施設2か所が無人機(ドローン)によるテロ攻撃」)によって、重要な石油施設の防空の弱点が露呈してしまった。さらに、202011月に原油生産施設の無い西側(紅海側)の石油流通ステーションがミサイル攻撃で狙われ、防空体制の脆弱性がみえた。しかし、今回、同じ石油流通ステーションが再びミサイル攻撃され、前回よりもひどい火災となり、防空体制は機能していないことが分かった。

■ タンクの被災状況は、写真でしか類推できないが、壊滅的な被害は免れているようだ。火災はタンクの全面火災ではなく、側板あたりに当たったミサイルによって内部の石油が流出し、堤内火災になったものと思われる。同じ防油堤内にあるタンクは5基であるが、被災タンクの西側に隣接するタンクは側板が真っ黒になるほど火炎や黒煙に曝露されている。被災タンクの南西側にあるタンク1基も側板の一部が黒煙で黒くなっているが、大きな損傷にはなっていないようにみえる。南側のタンク2基は黒煙に巻き込まれて、見えなくなっているが、大きな損傷は受けていないのではないかと思う。

■ このようにタンクの被災が少なかったのは、類推すると、つぎのようなことが考えられる。

 ● 被災タンクのミサイルの当たった位置が高く、油流出量が少なかった。

 ● タンクには半固定の泡消火システムが設置されていたとみられ、消防隊によって消火泡が投入されてタンク火災が起きなかった。

 ● タンクの側板には、冷却散水設備が設置されており、タンクの冷却に効果があった。

 ● 防油堤内火災に対して消防隊が適切な消火活動を行った。

 ● タンク内は可燃性ガスが濃く、爆発混合気が容易に形成されず、タンク群の延焼に至らなかった。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Afpbb.com,  フーシ派、サウジ石油施設を攻撃 F1会場付近で大火災,  March  26,  2022

   Jp.reuters.com,  フーシ派がサウジアラムコ石油施設を攻撃、火災発生 死傷者なし,  March  26,  2022

   Nhk.or.jp, サウジアラビア石油施設に攻撃 さらなる原油価格上昇のおそれ,  March  26,  2022

   Theguardian.com,  Fire breaks out at Jeddah oil depot before Saudi Arabia grand prix,  March  25,  2022

   Aljazeera.com,   Saudi Aramco’s Jeddah oil depot hit by Houthi attack,  March  25,  2022

   Tribuneindia.com, Saudi Aramco storage facility targeted by Houthi attack causing fire,  March  25,  2022

   Abcnews.go.com,  Yemen rebels strike oil depot in Saudi city hosting F1 race,  March  26,  2022

   Irna.ir,  آرامکو در آتش و دود / شعلهها تا پایان محاصره یمن خاموش نمیشودایرنا,  March  26,  2022


後 記: 前回202011月の事故情報と同様、多くはサウジアラビアとイエメンの反政府武装組織フーシ派に関する政治的話題で、被災タンクの情報(タンク仕様、内液など)や消火活動の情報はほとんどありません。攻撃したフーシ派の発表では、タンク施設は壊滅したと言っていますが、意図的なフェーク・ニュースです。戦争時には、このようなプロパガンダ(Propaganda;宣伝活動の総称で、個人や集団に影響を与え、その行動を意図した方向へ仕向けようとするもの)が出てきますので、報道内容の真偽によく留意しておく必要があります。そのような中で、英国のメディアであるガーディアン(Guardian)は「炎上の様子を投稿されたビデオは、ジェッダのプラント周辺の地理的特徴に合致している」と補足しています。さすがにガーディアンだと感心しつつ、本ブログをまとめました。 







2022年3月26日土曜日

米国テキサス州バールソン郡の油井用タンクが火災

  今回は、202225日(土)、米国テキサス州バールソン郡にあるチェサピーク・エナジー社の油井施設で油井用タンクが火災になった事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国のテキサス州(Texas)バールソン郡(Burleson)クックスポイント(Cooks Point)近くにあるチェサピーク・エナジー社(Chesapeake Energy)の油井施設である。

■ 事故があったのは、バールソン郡の農道FM1362号線と郡道340号線の近くにある油井用タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 202225日(土)の午前10時頃、油井用タンクが火災になった。

■ 発災に伴い、ボランティア型のクックスポイント消防署とコールドウェル消防署の消防隊が出動した。消防隊が現場に到着したとき、2基のタンクが炎上していた。

■ 消防隊は火災を制圧するまでに約25分かかった。  

■ 火災は事故によるものとみられ、現時点では原因はわからないという。

被 害

■ 油井用タンク2基が火災で焼損した。タンク内に入っていたオイルが焼失した。 

■ 負傷者はいなかった。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は調査中である。

< 対 応 >

■ チェサピーク・エナジー社では、この事故に先立つ34日(金)午後7時頃、サマービル湖(Lake Somerville)近くのパークロード57号線と郡道403号線の近くにある油井で爆発事故が発生した。爆発による破片がパークロード57の真ん中付近まで飛散した。この爆発による破片によってひとりの運転手が被災し、病院に搬送された。

補 足

■「テキサス州」(Texas)は、米国の南部に位置し、人口約2,900万人の州である。

「バールソン郡(Burleson)は、テキサス州の中央部東に位置し、人口約17,000人の郡である。

■「チェサピーク・エナジー社(Chesapeake Energy)は、1989年に設立し、石油探査・掘削を行う米国のエネルギー会社で、オクラホマ州のオクラホマ・シティに本社がある。同社はチェサピーク湾地域に設立されたことから名付けられた。同社は1日あたり445,000バレル(70,700KL)の石油を生産し、そのうち69%が天然ガス、24%が原油、7%が液化ガスだった。

■「発災タンク」の仕様や内液の情報は報じられていない。グーグルマップで調べると、発災地区の近くに2基のタンクがあり、これが発災タンクとすれば、直径は約4mである。高さを10mと仮定すると、容量は125KLほどのタンクである。

所 感

■ 発災タンクには容量一杯に天然ガスや原油が入っていなかったと思われる。消防隊が到着して25分で制圧していることと、発災写真を見ると制圧後のタンクからは白色の水蒸気が出ている。また、発災タンクの側板は変色しておらず、焼けた跡が顕著には見られない。内液は水が主で、上部にあった油が燃えたものではないだろうか。原油・天然ガスの採掘で近年多用されている水圧破砕法(フラクチャリング) の関連タンクではないだろうか。

■ 発災の引火原因や消防活動に関する情報がないが、被災写真によると、泡消火を使用していたとみられる。米国らしいボランティア型の消防署による消火活動だったようだが、火炎の勢いが強いようなタンク火災を消火できるような装備ではなかったと思われる。 


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Kltv.com,  Two oil tanks catch fire in Burleson County,  February  06,  2022

     Kwhi.com,  MULTIPLE OIL WELL INCIDENTS UNDER INVESTIGATION IN BURLESON CO,  February  07,  2022

     Bctribune.com,  Oil tanks catch fire on CR 340,  February  09,  2022    


後 記:  20203月以来、久しく伝えていなかった油井施設のタンク火災事故です。最も火災事故の多い施設分野で2年間も事故が無かったということはないでしょう。この事故は「テキサス」を検索語にして出てきたローカルのタンク事故情報です。20分で制圧されており、インターネットのメディアでも事故内容に乏しい情報でした。被災写真が添付されていたのは良かったのですが、出所は消防署から提供されたものです。

2022年3月18日金曜日

ハワイの米海軍・地下燃料貯蔵タンク施設を永久閉鎖の決定

今回は、202237日(月)、ハワイ真珠湾にあるレッドヒル燃料タンク貯蔵施設について、米国防総省が施設の永久的な閉鎖を命じたことを紹介します。閉鎖のきっかけになった施設からの石油漏洩と飲料水汚染の問題については、つぎのブログを参照。

< 施設の概要 >

■ 施設は、米国ハワイ州(Hawaii)オアフ島(Oahu)にある米海軍のレッドヒル燃料タンク貯蔵施設(Red Hill Fuel Tank Storage Facility)である。施設の建設は1940年にさかのぼり、地下燃料貯蔵タンクが20基あり、最大貯蔵容量は252百万ガロン(953,820KL)である。

■ 地下燃料貯蔵タンクは1基の容量が12.5百万ガロン(47,300KL)で、パイプラインによって約2.5マイル(4 km)離れた真珠湾の米海軍基地に接続されている。レッドヒル燃料タンク貯蔵施設を紹介した最新版がユーチューブに投稿されている。(YouTube Red Hill Video: U.S. Navy and the University of Hawaii - Building Partnerships, Developing Results 2021/11/18を参照)

■ レッドヒル燃料タンク貯蔵施設にもっとも近い飲料水用の立て坑は約3,000フィート(910m)離れたところにあり、真珠湾ヒッカム合同基地の軍の家族らに水を供給する水源である。つぎに近い飲料水用の立て坑は約1マイル(1,600m)離れたハラワ(Halawa)にあり、ハワイ州水道局がホノルル市に飲料水を供給している。2つの立て坑はいずれも米海軍が運営している。

< 状況および影響 >

■ ハワイ真珠湾にあるレッドヒル燃料タンク貯蔵施設からジェット燃料が漏れて飲料水を汚染したことを受け、米国防総省は、 202237日(月)、レッドヒル燃料タンク貯蔵施設の永久的な閉鎖を命じた。

■ 米国の国防長官が出した覚書には、安全な飲料水の回復や環境修復など汚染対策の取組みに加えて、レッドヒル燃料タンク貯蔵施設の長期的な観点について徹底的な検討を行ったと記されている。国防長官は、海軍長官に対して「レッドヒル燃料タンク貯蔵施設の燃料撤去と永久閉鎖に必要なすべての措置を講じる」よう指示している。すべての燃料を撤去し、施設を閉鎖するには、12か月以内に完了させる必要があり、国防長官は2022531日までに、マイルストーンを含む行動計画を要求している。燃料はインド太平洋地域に再配分される予定である。

■ 一方、昨年2021128日に海軍長官によって、石油が飲料水系にどのように浸入したかについて調査を行うとしたことについては言及されなかった。

■  37日(月)、ハワイ州保健局は、「私たちは、国防長官がハワイの人々や環境のために正しいことをすると決断したに満足しています。この決定は、今回の人道的災害を受けた海軍給水システムの利用者にとって遅きに失したものですが、それでも、この問題のある施設がもたらす脅威がようやく対処されることになり、一安心です。私たちは、国防総省の計画書と海軍による実行策を待ち望んでいます」という声明を発表した。

■ 燃料施設はレッドヒルの帯水層の100フィート(30m)上にあり、真珠湾ヒッカム合同基地やハワイの一部地域に飲料水を供給している。ハワイ州水道局によると、オアフ島の100万人近くがこの帯水層の水を利用しているという。202111月、米軍基地の家族の人たちが吐き気、嘔吐、下痢、頭痛、皮膚関連の問題に苦しんでいるとの報告を受け、海軍は20211128日(日)、この飲料水の井戸を一時的に閉鎖していた。 4,000世帯を超える家族が住宅からワイキキ・ビーチ・ホテルへ移転しており、避難は3か月を越えている。

■ 202112月、ハワイ州保健局は、海軍が安全に運用できることを実証できるまで、米国海軍に燃料貯蔵施設の操業停止を命じた。海軍は当初、保健局の命令に異議を唱えるが、作戦を一時停止すると述べ、20221月、保健局の命令に従うことに同意していた。

■ ハワイ州知事と州保健局は、 37日(月)の記者会見でレッドヒル燃料タンク貯蔵施設を閉鎖するという国防総省の決定を称賛したが、同時に米軍にその誓約を守らせるつもりだと述べた。

 州知事は「人々の健康を確保せずに国家の安全保障などありえない」といい、「レッドヒル燃料タンク貯蔵施設は前の太平洋戦争中に建設されたもので、現在ではもっと良い選択肢がある」と語った。州知事は、オアフ島にはレッドヒル燃料タンク貯蔵施設に入っている燃料を保管できるほど大きな貯蔵施設がないと指摘した。つまり、少なくとも一部は燃料タンカーに積み込まれなければならないことを意味している。

 ハワイ州保健局長は、さらなる燃料漏れの可能性があるため、レッドヒルの貯蔵施設の燃料タンクを空にすることが「リスクが無くなったわけではない」と付け加えた。州保健局長は「燃料撤去は極めて安全に行う必要がある」といい、「私たちは、ハワイ州できれいな飲料水を確保するために、さらに多くの作業が必要である」と述べた。



補 足

■ 「ハワイ州」(Hawaii)は、中部太平洋に浮かぶハワイ諸島にあり、人口約1,360万人の米国の州である。

「オアフ島」(Oahu)は、ハワイ諸島のひとつで、ホノルル郡に属する人口約90万人の島である。オアフ島のホノルル市(人口約35万人)が州都である。

■ 「レッドヒル燃料タンク貯蔵施設」(Red Hill Fuel Tank Storage Facility)は、米国が第二次世界大戦に入る前に、真珠湾にある地上式の燃料貯蔵タンクの脆弱性について懸念を抱き、1940年に大量の燃料を貯蔵でき、敵の空中攻撃から安全な新しい地下施設を建設することとされた。レッドヒルは均質な玄武岩で地下タンクに適している。当初は4基の大きな横型の地下タンクを建設する予定だったが、計画の過程で、建設と掘削が同時に行える竪型に変更された。 3,900人の労働者が24時間無休のプロジェクトで、レッドヒルの建設中の194112月に日本による真珠湾攻撃が行われたが、1943年に操業が開始された。 20基の地下貯蔵タンクで構成されており、うち23基は、通常、清掃・検査・修理のために空になっていて、現在、180百万ガロン(68KL)の燃料を貯蔵している。貯蔵されている燃料は船舶用ディーゼル、JP-5JP-82種類のジェット燃料の3種類である。レッドヒル燃料タンク貯蔵施設を紹介する動画がYouTubeに投稿されている。(YouTube, RH Trailer(2016/10/07)を参照。さらに、202111月に新たな動画Red Hill Video: U.S. Navy and the University of Hawaii - Building Partnerships, Developing Resultsが作成されている)


■「地下燃料貯蔵タンク」は、厚さ1/4インチ(6.3mm)の鋼板の溶接構造の単層タンクシステムで、外側には24フィート(60120cm)のコンクリートで裏打ちされている。すなわち、コンクリート製タンクで鋼板ライニングを施工しているとも言え、 海軍はタンク内に新しいライニングを追加することを計画していた。 

 202110月、海軍はタンク内に新しいライニングを追加するか、2045年までに撤去することを提案した。この撤去の提案は以前の合意から7年遅いものだった。これに対して、ハワイ州の健康省と環境保護庁は計画案を拒否した。ハワイ州はタンクの完全な撤去と移設を求めていた。

所 感 

■  202112月に海軍長官は、石油が海軍の飲料水系にどのように浸入したかについての調査が終了するまで貯蔵タンクの運用を停止するよう命じた。この調査結果が公表されることなく、 202237日(月)、米国防総省がレッドヒル燃料タンク貯蔵施設の永久閉鎖を命じた。おそらく、貯蔵タンクの運用を続けていく限り、タンクを改造(新しいライニング)しても、過去に漏れて土壌に浸透した油によって飲料水への環境汚染は避けられないという話になったものと思う。

■ ハワイ州は何年も前から、レッドヒル燃料タンク貯蔵施設が飲料水への汚染問題を起こしていると指摘していた。太平洋戦争時にこのような竪型地下タンクを20基も建設する技術と動員力に驚くが、80年前の溶接施工技術やコンクリート技術に頼っていれば、いつか破綻する時期がくるだろうと誰でも思う。閉鎖の決定的な要因は、米軍の家族が住む地域へ供給する飲料水で身体の不調を訴える人が多発して、家族がホテルへ避難するといった事態になったことであろう。

■ 永久閉鎖して油を撤去しても、レッドヒル燃料タンク貯蔵施設では過去に漏れた油が土壌に浸透し、徐々に井戸などで顕在化してくる可能性は否定できない。飲料水の清浄化対策が必要となるだろう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Tankstoragemag.com, Pentagon to permanently close Hawaii storage facility,  March 8, 2022

    Health.hawaii.gov, STATEMENT ON DEPARTMENT OF DEFENSE DECISION TO DEFUEL AND PERMANENTLY CLOSE RED HILL FUEL STORAGE FACILITY,  March 7, 2022

    Edition.cnn.com, US military to close fuel storage facility in Hawaii where water was contaminated by leak,  March 7, 2022

    Taskandpurpose.com, Pentagon to shut down fuel facility in Hawaii behind leak that sickened troops and families,  March 7, 2022

    Civilbeat.org, Pentagon To Close Red Hill Fuel Facility Permanently Amid Contamination Crisis,  March 7, 2022

    Hawaiinewsnow.com, Pentagon announces plan to empty Red Hill fuel tanks, close facility,  March 8, 2022

    Stripes.com, Austin calls for permanent closure of fuel tanks in Hawaii at center of tap-water contamination,  March 7, 2022


後 記: 民主主義というのは時間がかかるものだと感じます。水源汚染を指摘するハワイ州と地下貯蔵タンクを継続使用したい米海軍の両者は長年結論の出ない議論してきました。風向きが変わったのは、202112月に海軍長官が真珠湾記念行事のためにハワイを訪れてからです。ハワイ州は頑張ってきたかいがあるでしょう。

 2016年に製作されたレッドヒル施設のPR動画 RH Trailer(レッドヒルの宣伝用映画)がありながら、202111月に新たなPR動画 Red Hill Video: U.S. Navy and the University of Hawaii - Building Partnerships, Developing Results(米海軍とハワイ大学-パートナーシップの構築、成果の開発)を米海軍は製作しています。しかし、PR動画を作成したグループに今度はレッドヒルの永久閉鎖の計画を作成するように指示されたと言われています。



2022年3月14日月曜日

新しいエネルギー・システムにおける欧州のタンク貯蔵部門

  今回は、2022222日(火)のTank Storage Magazineに掲載されたオランダのハーグ戦略研究センター(HCSS)の“The European Tank Storage Sector in an Evolving Energy Landscape”(進化するエネルギー環境における欧州のタンク貯蔵部門)を紹介します。

< まえがき >

■ オランダにあるハーグ戦略研究センター(Hague Centre for Strategic StudiesHCSS)は、地政学、防衛、セキュリティに関する問題を調査・研究し、政府、国際機関、企業に情報を提供してきていますが、ここでは、ルシア・ファン・ゲーンズさん(Lucia van Geuns)とイリーナ・パトラハウさん(Irina Patrahau)のお二人が、欧州のタンク貯蔵部門について現在の不確実性とコラボレーション(協力)の必要性を語っています。

< タンク貯蔵部門 >

■ 世界的なエネルギー転換は、世界のパワーバランスと経済の構造を変え、国家と企業に間違いなく挑戦すべき課題をもたらすでしょう。タンク貯蔵部門は、この挑戦的課題に対する対応策の一部になり得ます。貯蔵する製品(中身)が変わっても、貯蔵部門は新しいエネルギー・システムの中で不可欠な要素として機能し続けることができます。

■ 新しいエネルギーシステムには、イー・フューエル(e-fuels)、アンモニア、液体有機水素キャリアー(Liquid Organic Hydrogen Carriers)、フロー電池(Flow batteries)、合成航空燃料などがあります。

 e-fuelは、水を電気分解したH2CO2を触媒反応で合成した液体燃料のことです。再生可能エネルギーを利用して生成することで、CO2の排出と吸収を同じにするカーボンニュートラル(炭素中立)を実現します。

 水素エネルギーは燃焼させてもHO₂()しか排出しませんが、輸送や貯蔵などの取り扱いが非常に難しいという欠点があります。そこで、水素を別の物質に変換して運びやすくし、燃料として使用するといった方法が開発されており、そのひとつがアンモニア(NH₃)です。水素エネルギーをNH₃に変換し、そのNH₃を発電や工業炉向けの燃料として利用しようというものです。

 水素エネルギーキャリア(運び)の一つとして、液体有機水素キャリアー(LOHC)が考えられています。例えば、媒体としてトルエンを使用し、化学反応によって水素を添加するもので、液体として常温・常圧で水素の輸送や貯蔵が可能となります。

 フロー電池は、大容量のエネルギー貯蔵システムで、電極材料にエネルギーを蓄える従来の電池とは異なり、外部タンクに蓄えられた電解液をセルに送り込み、電気化学反応を起こさせることでエネルギーを蓄えます。すでに、住宅や電気自動車の充電ステーションなどの分野でも普及が進んでいます。

 航空業界ではCO2 排出量を削減する取り組みとして持続可能な航空燃料(SAFSustainable Aviation Fuel)の導入が必要とされ、セルロース系バイオマス(草木など)、微細藻類、都市ごみ、廃食油など各種原料から合成燃料をつくる技術開発が進められています。

■ このようなe-fuels、アンモニア、液体有機水素キャリアー(LOHC)、フロー電池、合成航空燃料などの貯蔵と取扱いは、タンク貯蔵の新たな役割になります。輸送や工業などの主要部門が脱炭素化に貢献するために、タンク貯蔵会社はイノベーション(革新)、レジリエンス(弾力性)、アダプテーション(適応)戦略に投資する必要があります。

■ これからの二・三十年の展開は不確実性に支配されています。2030年に向けては次第に具体的な目標、戦略、法的枠組みが作り上げられつつありますが、2050年に向けた道筋はまだ曖昧なままです。2050年までに温室効果ガスの排出を正味ゼロにするネット・ゼロNet Zero) を達成するという世界規模の大望は、技術開発、経済成長、国際関係を念頭にした国内政策などの要因によって、数限りない方策がとられれば、実現される可能性があります。

■ パリ協定で定められた気候変動目標の達成は、ある程度、欧州のグリーン革命(Europe’s Green Revolution)の成功の度合いに依存するでしょう。しかし、欧州ではすでに石油消費が減少傾向にあるため、中国、米国、ロシア、OPEC諸国など石油市場の中で主要なプレーヤーたちの行動によって一層依存することになります。新しい地政学的世界は、再生可能エネルギー技術や水素製造の新しいプレーヤーによって形作られ、同時に新しい依存関係が確立されつつあります。

< 中期的な展望; 2030年に向けて >

■ これからの1015年、タンク貯蔵部門にとっては脅威でもあり、好機でもあります。脱炭素化政策によって欧州の化石燃料の消費量は減少するでしょうが、どの程度になるか定かではありません。中期的には、タンク貯蔵の規模は、化石燃料の減っていく需要と、着実に増えていく低炭素エネルギー源の使用とのバランスによるでしょう。水素の消費と電化は動き始めていますが、中期的(20302035年)には欧州のエネルギー市場を支配するほど急速に発展することはないでしょう。天然ガスの輸入は、欧州のエネルギー供給の安全保障にとって不可欠なものになりつつあります。

■ 欧州の製油所や化学産業が競争力を失いつつある一方で、中国は世界最大の製油国になると予想されています。中東では石油の生産が活発化し、下流の多様化に向けた投資が行われています。多くの埋蔵量と低い生産コストによって、サウジアラビアやカタールなどの国々は世界の石油・ガス市場で“最後の砦” であり続けることができるでしょう。石油・ガスの取引における欧州の地位は、貿易業者が主要な生産・消費地である中東、東アジア、アフリカに向かうにつれて、徐々に低下していきます。

■ 貯蔵を生業(なりわい)とする企業が、持続可能な操業(ライセンス)の継承資格を構築するためには、積極性、長期計画性、透明性が主要な推奨すべき事項となるでしょう。すでに持っている能力、インフラストラクチャ、ノウハウは危機感を緩和し、構築の機会を強化するために利用できます。ほかの貯蔵企業や主要なステークホルダー(利害関係者)と協力することは、市場内に予測可能性を生み出し、不確実性を減らし、投資を促進する上で不可欠です。

< 長期的な見通し; 2050年まで >

■ これから二・三十年間は不確実性に支配されるため、2050年までの潜在している道筋を見出すには、シナリオ分析が唯一の方法です。2030年までの石油生産と消費の中心が中東とアジアに地理的にシフトしていくため、温室効果ガスの削減であるカーボンニュートラルに関する誓約は、長期的には、欧州以外の地域の行動に大きく依存することになるでしょう。

■ 少なくとも2050年までの間、世界各国が代替燃料に完全に依存できるまでは、世界中の国々はエネルギー供給のセキュリティ(安定性)を確保するために中東にますます依存するようになるでしょう。中東の中で低コストで供給する国々の競争が石油価格の下落圧力につながる可能性がありますが、一方、世界市場を支配するのは、価格変動の度合いを示すボラティリティや市場の不確実性でしょう。

■ 同時に、新たなエネルギー拠点がどこに生まれるかの競争にもなっています。欧州の国々は非常に野心的な気候戦略を出しましたが、これらの国々が単独で目標を達成することはできません。グリーン水素は再生可能エネルギーや低炭素電力から生成される水素のことですが、このグリーン水素製造はほとんどが中東や北アフリカなど再生可能エネルギーの電力を安価で簡単に作ることのできる国で行われていくのではないでしょうか。

■ 欧州における再生可能エネルギーの生成は、主に中国で生産される重要な鉱物(クリティカル・ミネラル)と技術(テクノロジー)に依存しています。クリティカル・ミネラルは、自動車 (特にEV)、再生可能エネルギー、航空宇宙、防衛、通信などの産業を支える重要な鉱物です。新しい生産者と消費者の間の依存関係を特徴とする地政学的な新たな状況が現れるようになり、その中で欧州はエネルギーの海外供給に依存し続けることになるでしょう。重要な鉱物(クリティカル・ミネラル)と低コストの水素製造設備を持つ国々でのパワー・ポリティクスが現れるでしょう。新しい地政学的な変化の展開は不確実です。従って、エネルギー転換のスピードと成功は、政策の選択、国際関係、そして技術革新とインフラストラクチャー開発(整備)に依存するでしょう。

< 次のステップ >

■ 解決策のひとつとして、貯蔵企業間の協力と連携によって統一した地位(ポジション)を確立していく必要があるでしょう。欧州での水素のような新しいエネルギー分野を採用していく過程ははっきり見えませんが、脱炭素化を加速するためには、電力の貯蔵(蓄電技術)だけでなく、あらゆる形態の水素、炭素の回収・利用・貯蔵の取組みが不可欠であることは明らかです。インフラストラクチャと市場の開発は、両方とも、同時に段階的に変化していくことが必要です。

■ タンク貯蔵部門は、港湾当局、投資家、燃料や化学のサプライ・チェーンに関わる利害関係者(ステークホルダー)と連携していくべきです。このような働きかけは、変革のために共通の戦略を策定し、政治的関係者との交渉でより強力な立場を得るために必要でしょう。共有する戦略を策定したら、地元、国内、EUの政治的利害関係者の人たちを組織化し、この分野がエネルギー転換とその経済的価値を支えていくという認識を高めるべきです。最も重要なことは、利害関係者や政治指導者との協力によって、よく組織化された転換(移行)戦略の必要性を強調し、長期的な目標に焦点を当て、不必要な投資を避け、必要な戦略的エネルギー貯蔵を確保することです。

< あとがき > 

■ ルシア・ファン・ゲーンズさんは経験豊富なエネルギー専門家で、地質科学、石油工学、経済学、計画学を専攻しています。シェル社(
Shell)でキャリアを積んだ後、オランダ応用科学研究機構(Netherlands Organisation for Applied Scientific Research TNO)とクリンゲンダール国際エネルギー・プログラム(Clingendael International Energy Programme CIEP)で研究職を歴任しました。

■ イリーナ・パトラハウさんは戦略研究センター(
HCSS)の戦略アナリストです。エネルギーと天然資源の地政学的・経済学的側面について研究しています。

■ タンク貯蔵部門の短期、中期、長期の挑戦的課題と好機(機会)については、戦略研究センターのHCSS/VOTOB/FETSAの論文で説明されており、一連の論文はウェブサイトからダウンロードできます。(https//hcss.nl/report/european-tank


所 感

■ 欧州の新エネルギー・システムは、e-fuels、アンモニア、液体有機水素キャリアー(LOHC)に代表されるように水素をひとつの柱にするとみられる。そうすることによって、例えば、自動車産業は、技術開発は必要であるが、燃料が液体で従来のインフラの延長線にある。このことはタンク貯蔵部門にも言え、新しい液体燃料の貯蔵という従来のインフラの延長線である。この点、電気自動車(EV)に変われば、インフラもゼロから始めなければならないし、タンク貯蔵部門はほとんど必要としない。

■ もちろん、新エネルギー・システムの中には、電気エネルギーを前提とした自動車開発もあるだろう。しかし、タンク貯蔵部門からみれば、今回の提言は、不確実性とコラボレーション(協力)の必要性を模索していく中で共感を得るだろう。

 原油やバイオマス燃料の生産大国で、大量生産・大量消費の思考が強い米国の新エネルギーの戦略よりも、日本と同様、資源に乏しい欧州(特にドイツ)の戦略の方が日本には向いているのではないだろうか。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Tankstoragemag.com, THE EUROPEAN TANK STORAGE SECTOR IN AN EVOLVING ENERGY LANDSCAPE(進化するエネルギー環境における欧州のタンク貯蔵部門), by Lucia van Geuns and Irina Patrahau from The Hague Centre, February 22, 2022 


後 記: 新型コロナのパンデミック以降、タンク事故情報が出なくなりました。感覚的には、社会・経済の厳しい時期の方が好景気の時のときよりも事故の発生頻度は少ないように思うのですが、インターネットでは極端にタンク事故情報が減りました。これはタンク事故が無くなったというより、情報が伝わってこないのだと思っています。今回の資料はタンク事故とはまったく違いますが、タンク貯蔵部門の将来を考えるには興味深いのではないかと思い、まとめました。

2022年3月10日木曜日

ウクライナ各地で石油貯蔵所が攻撃によってタンク火災

 今回は、2022224日(木)、ロシアがウクライナに侵攻し、軍事衝突が起こりましたが、ここでは石油貯蔵所へのミサイル攻撃や砲撃によるタンク火災やパイプライン爆発に焦点を当てて紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、ウクライナ(Ukraine)の各地にある石油貯蔵所である。

■ 2022224日(木)、ロシアがウクライナに侵攻し、軍事衝突が起こった。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 227日(日)夜明け前、キエフ(Kyiv)南西にあるヴァシリキーウ(Vasylkiv)の空軍基地の石油貯蔵所で貯蔵タンクが火災となった。空軍基地の主要滑走路の南西にある石油貯蔵エリアで、爆発があった後、燃料タンクが燃えているという。ヴァシリキーウには複数の燃料タンクがあり、ウクライナ当局によると、この地域は225日(金)の夜に激しい戦闘が行われた場所だった。

■ ロシアがウクライナへの攻撃を仕掛けているが、激しい抵抗によって次の段階であると思われる燃料施設と飛行場を標的にしていると、 227日(日)、中東のメディアであるアルジャジーラ(Al-Jazeera)は報じている。

■ 227日(日)夜明け前、ロシア軍がハリコフ(Kharkiv)の天然ガスパイプラインを爆破した。国家特別通信情報保護局は、キノコ雲のように見える爆発が環境の大惨事を引き起こす可能性があると警告し、住民に湿った布やガーゼで窓を覆い、たくさんの液体を飲むようにアドバイスしたという。

■ 226日(土)夕方、ルハンシク州(Luhansk)の親ロシア派が実効支配しているルガンスク人民共和国では、ウクライナのミサイルがロベンキー(Rovenky)の町の石油ターミナルを爆破した。 200KLのディーゼル燃料タンクが爆発し、その後火災が起こった。

■ 226日(土)、ドネツク州(Donetsk)の親ロシア派が実効支配しているドネツク人民共和国では、ウクライナ軍が石油貯蔵施設でミサイルを発射し、1発が施設に着弾したが、炎上は回避されたという。

■ 33日(木)、ウクライナ北部のチェルニゴフ(Chernigov)で石油施設のタンクがロシア軍の砲撃を受けて炎上した。容量3,000KL(5,000KLという情報もある)のディーゼル燃料タンクが火災となり、消火活動が行われた。火災の状況は日本のテレビで放映され、ユーチューブに投稿されている。(YouTube「 【速報】ロシア軍が石油施設を攻撃」2022/03/03を参照)

被 害

■ 各地の石油貯蔵所などの石油タンクが砲撃を受け、火災となった。 

■ 石油タンクなどの石油施設への砲撃による死傷者は分かっていない。

< 事故の原因 >

■ 戦争による軍事行動としか言いようがない。(平常時の“故意の過失”に該当)



所 感

■ ロシアがウクライナに侵攻した後、ウクライナにある各地の石油貯蔵所がミサイル攻撃や砲撃によるタンク火災が発生している。これはタンク事故の範ちゅうを越えた戦争による軍事行動である。平常時の“故意の過失”に該当するものであるが、戦争であれば、認められるものだろうか。

 ロシアがウクライナ側の石油施設に対して行われている軍事作戦によるほか、ウクライナの親ロシア派が実効支配している“ルガンスク人民共和国” やドネツク人民共和国のタンク貯蔵所へウクライナ軍が軍事作戦を実施している。

■ 貯蔵タンクへのミサイル攻撃や砲撃は比較的限定されているようで、軍用車両の燃料に使用されるディーゼル燃料タンクが狙われていると思われる。過去にウクライナのタンク事故で紹介したつぎのような石油貯蔵所も軍事作戦の対象になっている。

 ●「ウクライナの石油貯蔵施設でタンク火災後に爆発炎上、死者5名」20156月) ;本事例はヴァシリキーウ地区の石油貯蔵施設のタンク火災事故であるが、施設は火災事故で全損しており、今回は隣接する石油貯蔵所が狙われたものと思われる。

 ●「ウクライナの石油貯蔵所でドローン攻撃によるタンク火災か」20219月) ;本事例はドネツク州のキロフスキー地区の石油貯蔵所のタンク火災事故であるが、発災当時から疑問のある事故だった。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Youtube.com,  【速報】ロシア軍が石油施設を攻撃,   March  03,  2022

    Yews.yahoo.co.jp,   ウクライナとロシア、2回目の交渉 攻撃は続く石油タンクに砲撃も,   March  04,  2022

    Youtube.com, Fuel tanks burn after explosions near VasylkivCNN News, Ukraine,   February  27,  2022

    Edition.cnn.com, Oil tanks on fire at Vasylkiv Air Base, Ukraine,   February  26,  2022

    Aljazeera.com, Russia hits Ukrainian oil and gas facilities in wave of attacks, Ukraine,   February  27,  2022

    Republicworld.com, Russia Hits Oil Depot In Ukraine's Vasylkiv Near Kyiv, Residents Asked To Take Shelter,   February  27,  2022

    Nbcnews.com, Missiles hit Vasylkiv, oil plant on fire, officials say,   February  27,  2022

    Asahi.com, Russia hits Ukraine fuel supplies, airfields in new attacks,   February  27,  2022

    Tass.com, LPR says blast at its oil storage facility caused by strike of Ukrainian Tochka-U missile,   February  27,  2022

    Theguardian.com, Vasylkiv: why this small Ukrainian town is now a big Russian target,   February  28,  2022


後 記: 今回はタンク事故ではなく、戦争による軍事行動であり、ブログの対象ではありませんが、テレビでタンク火災の状況が放映されたので、調べることとしました。しかし、戦争時の限られた報道で、ツイッターによる短文の情報もあり、真偽のほどは分からないというのが本音です。20219月のドネツク州のキロフスキー地区の石油貯蔵所のタンク火災事故を調べたときは、ウクライナの政情が理解できなかったのですが、今回はドネツク州とドネツク人民共和国の関係などは分かっていました。20143月にクリミア半島についてロシアによるクリミア自治共和国の編入問題があり、このロシアの“成功体験”(ウクライナや西側諸国からすれば“失敗体験”) が尾を引いていると感じます。