今回は、2022年3月25日(金)、サウジアラビアのマッカ州ジェッダにある国営石油会社であるサウジ・アラムコ社(Saudi Aramco)の石油流通ステーションがミサイル攻撃によって貯蔵タンクが火災を起こした事例を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、サウジアラビア(Saudi Arabia)マッカ州(Mecca)ジェッダ(Jeddah)にある国営石油会社であるサウジ・アラムコ社(Saudi Aramco)の石油流通ステーションである。ジェッダの石油流通ステーションには、ディーゼル油、ガソリン、ジェット燃料など13基の貯蔵タンクがあり、総貯蔵量は520万バレル(82万KL)である。
■ 発災があったのは、石油流通ステーション内にある貯蔵タンクである。この石油流通ステーションは2020年11月にミサイル攻撃を受け、今回が2度目である。(「サウジアラビアの石油流通ステーションの貯蔵タンクをミサイル攻撃」を参照)
< 事故の状況および影響
>
事故の発生
■ 2022年3月25日(金)、石油流通ステーションがミサイルによる攻撃を受け、貯蔵タンクで火災が発生した。
■ 火災発生に伴い、消防隊が出動した。15の消防チームは火災を制圧しようと活動した。しかし、風が強く、消防活動を困難にした。
■ 攻撃をしたのは、イランを支援するイエメンの反政府武装組織フーシ派(Houthi)である。フーシ派は、無人機や弾道ミサイルでジェッダのアラムコ施設や首都リヤドの施設などに計16回の攻撃を行ったと発表した。イエメンとの国境にある南西部ジザン(Jizan)の電力施設も攻撃を受け炎上した。フーシ派と戦うサウジアラビア主導の連合軍も、攻撃があったことを認めた。
■ ミサイル攻撃とタンク火災に伴う死傷者は出ていない。
■ 火災は同市で開催中のフォーミュラワン(F1レーシングカーの世界選手権)のコースからも見ることができた。
■ 発災の映像は、ユーチューブに投稿されている。(YouTube、「サウジ石油施設をフーシ派が攻撃「市場に影響必至」(2022年3月26日)」や「Large fire at Saudi Aramco storage facility(2022/03/26)」を参照)
被 害
■ 容量500,000バレル(79,500KL)の貯蔵タンクがミサイルによって被害を受けた。被害の部位や程度は分からない。
■ タンク内部の石油(油種は分からない)が焼失した。焼失量は不明である。
■ ミサイル攻撃とタンク火災による死傷者は無い。
< 事故の原因 >
■ 事故の直接原因は、ミサイル攻撃という「故意の過失」である。
< 対 応 >
■ 火災は消防隊によって対応活動が行われたが、詳細は分からない。しかし、被災写真によると、火災は消火されたものとみられる。
■ 巡航ミサイルとドローンは防御が困難だといわれているが、米国は、最近、サウジアラビアにかなりの数の巡航ミサイル迎撃用のパトリオットミサイルを供給していた。しかし、今回のフーシ派の攻撃に対する防御能力について新たに疑問をもたれた。
■ 前回の2020年11月のミサイル攻撃で被害を受けたディーゼル燃料タンクの補修には、150万ドル(170百万円)かかったという。
補 足
■「サウジアラビア」(Saudi Arabia)は、正式にはサウジアラビア王国で、中東・西アジアに位置し、サウード家を国王にした絶対君主制国家で、人口約3,420万人の国である。世界一の原油埋蔵量をもち、世界中に輸出している。
「マッカ州」(Mecca)は、サウジアラビアの西側(紅海側)に位置し、人口約580万人の州である。
「ジェッダ」(Jeddah)は、原油生産施設の無いマッカ州にある紅海を臨む都市で、人口約398万人と首都リヤドに次ぐ大都市である。
■「サウジ・アラムコ」(Saudi Aramco)は、サウジアラビアの国営石油会社で、保有原油埋蔵量、原油生産量、原油輸出量は世界最大である。設立は1933年といわれるが、これは1933年に米国スタンダード・オイル・オブ・カリフォルニア(現在のシェブロン)の子会社であるカリフォルニア・アラビアン・スタンダード・オイル・カンパニー(CASOC=カソック)が同国の石油利権を獲得した時に始まる。その後、1944年にCASOCはアラビアン・アメリカン・オイル・カンパニー(Aramco)、すなわちアラムコに変更した。さらに、1988年に完全国有化が進められ、国営石油会社「サウジ・アラムコ」となった。サウジアラビアの原油・天然ガス事業はサウジ・アラムコが独占して運営している。
■ 発射されたミサイルの種類は発表されていないが、2020年11月の攻撃同様、 クッズ‐1(Quds-1)ではなく、地上発射式クッズ-2巡航ミサイル(Ground-launched Quds-2 cruise missile)と思われる。ジェッダはイエメン国境から390マイル(624km)離れており、地上発射式Quds-2巡航ミサイルは目標に到達するため400マイル(640km)以上飛んでいる。今回、ミサイル攻撃をしたイエメンの反政府武装組織フーシ派とサウジアラビアの対立は、7年前にサウジアラビアがイエメンの内戦に軍事介入して以降続いていて、フーシ派は今回の攻撃を認めたうえで「サウジアラビアが介入を止めるまで攻撃を続ける」と警告している。
所 感
■ 事故原因は、テロ攻撃という「故意の過失」に該当する。
今回の発災施設は、2020年11月にあった「サウジアラビアの石油流通ステーションの貯蔵タンクをミサイル攻撃」されたジェッダの石油流通ステーションで、2度目のミサイル攻撃を受けたことになる。
サウジアラビアの防空システムは、侵入してくるミサイルに対して米国から入手した最新のレーダー、F15戦闘機、パトリオットミサイルなどを装備していたが、2019年9月の無人機(ドローン)による攻撃(「サウジアラビアの石油施設2か所が無人機(ドローン)によるテロ攻撃」)によって、重要な石油施設の防空の弱点が露呈してしまった。さらに、2020年11月に原油生産施設の無い西側(紅海側)の石油流通ステーションがミサイル攻撃で狙われ、防空体制の脆弱性がみえた。しかし、今回、同じ石油流通ステーションが再びミサイル攻撃され、前回よりもひどい火災となり、防空体制は機能していないことが分かった。
■ タンクの被災状況は、写真でしか類推できないが、壊滅的な被害は免れているようだ。火災はタンクの全面火災ではなく、側板あたりに当たったミサイルによって内部の石油が流出し、堤内火災になったものと思われる。同じ防油堤内にあるタンクは5基であるが、被災タンクの西側に隣接するタンクは側板が真っ黒になるほど火炎や黒煙に曝露されている。被災タンクの南西側にあるタンク1基も側板の一部が黒煙で黒くなっているが、大きな損傷にはなっていないようにみえる。南側のタンク2基は黒煙に巻き込まれて、見えなくなっているが、大きな損傷は受けていないのではないかと思う。
■ このようにタンクの被災が少なかったのは、類推すると、つぎのようなことが考えられる。
● 被災タンクのミサイルの当たった位置が高く、油流出量が少なかった。
● タンクには半固定の泡消火システムが設置されていたとみられ、消防隊によって消火泡が投入されてタンク火災が起きなかった。
● タンクの側板には、冷却散水設備が設置されており、タンクの冷却に効果があった。
● 防油堤内火災に対して消防隊が適切な消火活動を行った。
● タンク内は可燃性ガスが濃く、爆発混合気が容易に形成されず、タンク群の延焼に至らなかった。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Afpbb.com, フーシ派、サウジ石油施設を攻撃 F1会場付近で大火災,
March 26, 2022
・Jp.reuters.com, フーシ派がサウジアラムコ石油施設を攻撃、火災発生 死傷者なし, March 26,
2022
・Nhk.or.jp, サウジアラビア石油施設に攻撃 さらなる原油価格上昇のおそれ, March
26, 2022
・Theguardian.com, Fire breaks
out at Jeddah oil depot before Saudi Arabia grand prix, March
25, 2022
・Aljazeera.com, Saudi
Aramco’s Jeddah oil depot hit by Houthi attack,
March 25, 2022
・Tribuneindia.com, Saudi Aramco storage facility targeted by Houthi
attack causing fire, March 25,
2022
・Abcnews.go.com, Yemen rebels
strike oil depot in Saudi city hosting F1 race,
March 26, 2022
・Irna.ir, آرامکو در آتش و دود / شعلهها تا پایان محاصره یمن خاموش نمیشود – ایرنا, March 26,
2022
後 記: 前回2020年11月の事故情報と同様、多くはサウジアラビアとイエメンの反政府武装組織フーシ派に関する政治的話題で、被災タンクの情報(タンク仕様、内液など)や消火活動の情報はほとんどありません。攻撃したフーシ派の発表では、タンク施設は壊滅したと言っていますが、意図的なフェーク・ニュースです。戦争時には、このようなプロパガンダ(Propaganda;宣伝活動の総称で、個人や集団に影響を与え、その行動を意図した方向へ仕向けようとするもの)が出てきますので、報道内容の真偽によく留意しておく必要があります。そのような中で、英国のメディアであるガーディアン(Guardian)は「炎上の様子を投稿されたビデオは、ジェッダのプラント周辺の地理的特徴に合致している」と補足しています。さすがにガーディアンだと感心しつつ、本ブログをまとめました。
0 件のコメント:
コメントを投稿