2021年5月2日日曜日

貯蔵タンクが崩壊する原因はなにか?

  今回は、“Industrial Fire World”の2021414日に掲載された「貯蔵タンクを崩壊させる原因はなにか?」(What Causes Storage Tanks to Collapse?)について紹介します。

< 背 景 >

■ タンクの壊滅的な損壊は一瞬のうちに起こることがある。ある石油タンクが問題なく機能していたとする。このとき、落雷が発生し、タンクが接地されていない場合、惨事が差し迫っているといえる。

■ 一方、タンクは時間の経過とともにゆっくりと損傷していくことがある。タンクがピッチングや腐食の初期兆候を示している場合、タンクは弱化していくが、最終的に破損する前に状況を改善する時間はまだある。

< 不適切な構造 >

■ 貯蔵タンクの破損で最も不名誉な事例のひとつは、100年前に米国のボストンで起こった。設計・建設・保守が貧弱だった貯蔵タンクが、 1919115日、ボストンのノースエンド地区で破裂し、230万ガロン(365,000リットル)の糖蜜が流れ出た。粘性のある液体が25フィート(7.6m)の高さでボストン通りを押し流れていき、25人が死亡し、150人が負傷した。このボストン糖蜜災害により一連の訴訟が提起され、タンク崩壊について6年間の調査が行われた。この調査結果をきっかけに、鉄鋼とコンクリートに関する法規制と建設基準が厳しくなった。

■ 最近の貯蔵タンクは、構造の健全性を確保するために、API Std 650Welded Tanks for Oil Storage;溶接式石油貯蔵タンク)およびAPI Std 653Tank Inspection, Repair, Alteration, and Reconstruction;タンク検査、補修、変更、改造 )に準拠する必要がある。また、タンクは供用される前に、徹底的に検査する必要がある。 EPA (米国環境保護庁)によると、適切な設計が行われて保守されてきた貯蔵タンクは、上部屋根の接合部で側板に沿って外れるようになっている。この設計は、タンク内液が流出するのを防ぎ、火災の発生が広がるのを防ぐのに役立つ。

< 天 候 >

■ ハリケーンは激しい風と豪雨を伴って地球で最も破壊的な嵐であり、通過した後にひどいつめ跡を残す。石油や危険物質の入った貯蔵タンクは、メキシコ湾岸に沿って数多く設置されており、ハリケーンに繰返し襲われている。揮発性の化学物質と猛威をふるう嵐が組み合わされると、危険性があって致命的な混合物が放出される可能性がある。 

■ 2017年の夏にメキシコ湾岸を襲ったハリケーン・ハービーは、ヒューストンで51.9インチ(1,318mm)の雨を降らせた。このエリアには多くの原油や化学物質の貯蔵タンクがあり、その多くは屋根の雨水を排水しなくても最大10インチ(250mm)の雨を保持するように設計された浮き屋根が装備されていた。ヒューストン・クロニクル紙の記事によると、ハリケーン・ハーベイの記録的な降雨量はタンク浮き屋根の性能を超えており、少なくとも15基のタンク浮き屋根が沈降し、計340,000KLの揮発性化学物質が大気中に放出された。

■ 貯蔵タンクにとって気象関連で最も恐いのが雷である。 NFPA(全米防火協会)の報告によると、屋外にある貯蔵タンクの火災の引火源は3分の1が落雷だった。 火災は直撃雷だけによるものでなく、近くに落ちた誘導雷によっても起こる。貯蔵タンクへの落雷による影響を軽減する方法はある。 1920年代までさかのぼると、専門家は落雷からタンクを保護するためにタンクを接地することの重要性を説いてきた。

< 地 震 >

■ 2011311日、マグニチュード9の大地震と津波が東日本を襲った。激しい地震の結果、この地方の石油などの貯蔵タンクの多くが被害を受けた。 湾岸にあった小型の石油タンクは津波によって流され、地震による長い揺れによってタンクが損傷した。東北地方太平洋沖地震による後遺症は何年も続いた。 2013年、通信社のロイターは、福島原子力発電所の汚染水のタンク近くで記録的な放射線測定値があったと報告した。

■ 貯蔵タンクは、地震帯を念頭において設計する必要がある。米国の一部の地域は断層帯に近いため、この地域は地震が発生しやすい。貯蔵タンクは、API  Std 650の付属書E(石油タンクの耐震設計)の基準に従って、潜在的な地震に耐えるように設計する必要がある。カリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州などの地震帯2以上の地域に設置するタンクは、該当する基準の規定にもとづいて地震の安定性をチェックする必要がある。

< 操業運転上のミス >

■ タンク爆発の要因には、人為的なミスによって引き起こされることがある。 20185月、ウェストバージニア州の石油とガスを取り扱っているプラントの現場で、作業員が酸素-アセチレン切断器を使って廃止タンクの解体をしていた。このタンクには底板接合部に漏洩箇所があった。タンク内に残っていた可燃性物質に引火し、爆発が発生した。この事故で 3人の作業員が火傷を負った。

■ 2014年に起こった事故では、米国労働安全衛生局(OSHA) によると、従業員がタンク上の歩廊で溶接していたときに、使用済み油からのベーパーに引火させてしまった。従業員は墜落防止用の安全帯を着用していなかったため、タンクの上部から落下して亡くなった。

< 圧 力 >

■ タンクを過剰充填すると、過度の圧力が発生する可能性がある。圧力が上昇しすぎると、タンクが破裂する可能性がある。貯蔵タンクの加熱と冷却は、両方とも過剰圧力または減圧による破損を引き起こす可能性がある。タンクに液体が入ると、ベーパーが移動する。タンク内のベント(通気)は、ベーパーがタンクから安全に排出され、圧力変化を軽減させるのに役立っている。また、ベントはタンクに空気が入るので、減圧になることはない。

■ 揮発性の液体は常温で容易に蒸発する。揮発性の液体をポンプでタンク内に送液するとフラッシュする可能性があり、ベーパーが形成され、圧力の上昇を引き起こす可能性がある。ガソリン、アセトン、エタノール、臭素はすべて揮発性液体の例であり、貯蔵タンクによく見られる。

■ 1983年、ニュージャージー州ニューアークの施設でガソリン・タンクの爆発事故が起こった。浮き屋根式タンクが過剰充填となり、タンク防油堤内に1,300バレル(206KL)のガソリンが流出した。 このため、蒸気雲が形成され、引火した。爆発は非常に激しかったので、100マイル(160km)離れたところの人が感じたという。この事故でひとりが死亡、24人が負傷した。

< 破壊行為 >

■ 化学物資の貯蔵タンクは、テロリストや泥棒にとって魅力的な標的である。貯蔵タンクに揮発性の化学物質が入っている場合、テロリストにとっては壊滅的な爆発を引き起こすためにある火薬庫のようなものである。たとえば、メタンフェタミンの主成分である無水アンモニアを盗もうとしている泥棒にとっては化学物質も貴重なものである。本来、人は米国労働安全衛生局によるOSHA規制1910​​ Subpart H1910.111の無水アンモニア基準に従う必要がある。

■ 2013417日のテキサス州ウェストでの肥料工場の爆発事故は故意の過失事例だったと連邦当局が述べている。米国の化学物質安全・危険調査報告書によると、爆発によって緊急対応要員12名を含む15人が死亡し、約260人が負傷し、 150戸の建物が破壊・損傷して半径5ブロックのエリア内に破片が飛散した。

■ 米国労働安全衛生局(OSHA)によると、爆発後の調査で、1985年以来、施設は安全検査が完全には実施されていないことが分かったという。報告によると、施設には緊急対応の要員に警告する火災検知システムや自動スプリンクラー・システムも設置されていなかった。米国アルコール・タバコ・銃・爆発物局(the Bureau of Alcohol, Tobacco, Firearms and Explosives ATF)によると、火災は故意に起こしたと見るしかないと述べている。

■ タンクが破損する要因はいろいろあるが、規制や基準に従ってタンクを注意深く検査し、保全していくことが、タンク事故を防ぐために最も良い方法である。

所 感

■ 貯蔵タンクの事故を崩壊や破損の観点から、米国における100年の歴史を観た解説である。要因を不適切な構造、天候、地震、操業運転上のミス、圧力、破壊行為の6分類に分けて、過去の事例を紹介しながら説明している。1919年に起こったボストン糖蜜災害は、最近になっても原因が語られる古くて新しい事例である。(インターネットの失敗事例;「糖蜜貯蔵タンク破裂事故」を参照)

■ 事故の要因を11分類に分け、19602003年までの43年間に起こった242件の貯蔵タンク事故について分析したものは、「貯蔵タンク事故の研究」2005年)を参照。

 このブログでは、事故要因を同様に13分類に分け、「この10年間の世界の貯蔵タンク事故情報について(その3)」20209月)を投稿している。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Industrialfireworld.com,  What Causes Storage Tanks to Collapse?,  April 14, 2021 


後 記: 新型コロナウイルスが出てきて、感染症への医療体制、ワクチンの開発体制など日本の政治・経済・社会・技術が世界に比べて遅れてきているという声が大きくなっています。“グローバル・スタンダード” や選択と集中という名のもとに、遅れが見え始めるようになってから2011年の東日本大震災がダメ押しで、それ以降は空白の10になったように感じます。ところで、貯蔵タンクの事故状況も様相が変わってきました。 「貯蔵タンク事故の研究」(2005年) と「この10年間の世界の貯蔵タンク事故情報について(その3)」( 20209月) を比べると、明らかに変わってきました。以前に比べて最近の事故要因で注目されてきたのが、地震、ハリケーンなどの自然災害、故意の過失(テロ攻撃)です。これらは、2005年当時はそのような事故の要因があるという程度の扱いでした。今回の資料を見ると、執筆者はそのような状況変化を感じているように思います。

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