今回は、“Industrial Fire World”の2021年3月31日に掲載された「タンク火災のための計画立案」(Planning for Tank Fires)について紹介します。内容は、タンク火災の計画策定やトレーニングに関する検討ステップなどのほか、新型コロナウイルスの感染防止、有害な有機フッ素化合物を含む泡消火薬剤への配慮、仮想トレーニングやオンライン会議の活用、現実的なトレーニングなど興味深い話になっています。
< 背 景 >
■ タンク火災の専門的な訓練はあまり関心をもたれない特殊な対応分野だと見られていると、消防署副署長で産業緊急事態対応の専門家のシェーン・スタンツ氏は語っている。
■ スタンツ氏は、消防士がタンク火災に直面する前に、火災に立ち向かうための準備として訓練と演習を行う必要性を語る熱意あふれる提唱者である。
■ タンク火災には、対応に大きな影響を与えるような事項がある。例えば、つぎのような事項である。
● 火災時のタンク内液の性質、内液に関する特別な危険性はないか
● タンクの構造(内部浮き屋根式、外部浮き屋根式など)
● 供給可能な消火用水の有無
● 消火用泡薬剤に関する管理能力
● 既設施設に固定泡消火システムまたは半固定泡消火システムがあるか
● タンク側板頂部越えの消火方法が使えるか
■ 気象条件によって対応の戦略方針が変わる可能性があり、大気モニタリングへの配慮によって消防士がとるべき消火戦術やその展開方法に影響することがある。
■ タンク火災の対応に配慮すべきリスクのひとつは、有害な有機フッ素化合物を含んだ消火泡薬剤に関するものである。人や環境へのリスクが潜在するため、土壌や水源を汚染する前に、消防隊は消火排水の流出を管理し、泡があふれ出ないような確実な方法を要求される。これには事前の計画が必要である。
■ 泡消火戦術の展開を決める前に、戦術を実行するときに生じるリスクを上回る価値があるか判断するため、対応コーディネーターはいくつかの要因を評価する必要がある。対応コーディネーターは実際の状況下で意志決定を迅速に行わなければならないが、事前の計画、訓練、緊急対応の演習を行うことによってリスクを大幅に減らすことができる。
< 適正な訓練の手順
>
■ タンクの火災対応の計画を立てる際、推奨するステップは、つぎのとおりである。
● 対象とするタンクの全部についてサイズ、設計、内容物を評価する。
● 貯蔵タンク地区を訪れ、現地における消火用水などの兵站(ロジスティクス)を評価する。例えば、人員や資機材の配置が火災と戦うために適当なところを確保でき、タンクへのアクセスと退避経路がとれるような場所を決める。
● 事前計画案を作成したら、反復練習や演習を実施して計画の有効性をテストし、必要な改善や見直しを明確にする。
● 資機材をどのように配備するか決め、火災と戦うために最も効果的な設備がいつでも利用できることを確認する。
● 最悪の事態を処理するのに十分な訓練を受けた消防士が配置されていることを確認するため、スタッフの規模、経験、能力を評価する。
● 訓練を受けた緊急事態対応者が24時間対応できるようなスケジュール管理になっており、相互応援の仕組みやスタッフなど緊急時に呼び出すことのできるシステムになっていることを確認する。
■ 消防隊が有害な有機フッ素化合物の一種であるPFOS(ピーホス)と呼ばれるペルフルオロ・オクタン・スルホン酸を含んだ消火泡薬剤を使用している場合は、つぎのような事項を追加して検討する。
● 実施可能な場合は、封じ込めと処分方法を考慮した消火水の流出管理計画を設計しておき、そのような人員・機材が、現場所有者側であるか請負い契約であるかにかかわらず、24時間いつでも“準備ができている” ことを確認する。
● 消防士は曝露されるリスクを認識し、防護しておくべきである。
● 事前の計画や比率混合の戦術はテストしておく。この際、有機フッ素化合物製でなく、訓練用の泡を使用して管理されたエリアで行う。
■ 訓練用の泡でさえ、放出の反復練習を実施するための許可を得るのは非常に難しい。そのための計画を立てるには、リーダーシップ力を発揮し、環境グループと協力して行う必要がある。そして、実施に当たっては、NFPA11(消火泡に関する米国規格;Standard for Low- Medium-
and High-Expansion Foam)による業界の基準を使って設備やスタッフへの訓練を行う。
■ 訓練用泡薬剤を使用できる場合でも、泡薬剤が地下水や生態系に影響を与えないように、流出制御対策を行って訓練することが重要である。環境保護に加えて、消防隊は第一線の対応者、施設の従業員、地域住民の安全を確保するという使命感が必要である。
■ 現在の新型コロナウイルスの世界的流行を考えると、多くのチームメンバーといっしょに出かけて訓練するということは簡単なことではない。新型コロナウイルスへの感染予防対策を実施し、さらに必要な個人用保護具(PPE)を装着し、感染や熱にさらされる隊員を隔離し、消毒プロセスを展開する必要がある。
< 仮想トレーニングの活用 >
■ 新型コロナウイルス感染の懸念によって身体を使った訓練ができなくなったとしても、トレーニングをまったく行わないよりも仮想トレーニングを行うのがよい。
■ 理想的な方法ではないが、仮想トレーニングは事故が起こったときの対処方法を考える能力をつけるのに役立つ。この方法で訓練を実施すると、状況を判断して対応する能力が大幅に向上する。
は、消防隊はZoomやTeamsなどのオンライン会議を使ってキーパーソンと演習を行い、実際の緊急時にとるべき行動について話し合う。
■ 仮想計画は、現場で必要な現実的な視点から外れることはないが、演習と訓練方法に新しい活動を加える。仮想トレーニングでは、参加している人たちにどのようにして状況に対応するかを考えさせる。
医療訓練を入れた状況では、傷をリアルに見せるためにムラージュ(医学教育用模型)を使用すると役立つ。火災の訓練では、事故時における火災の音響を流したり、反応に対する時間のプレッシャーを加えることで、現実感を出すことができる。
■ トレーニング演習を現実味があるようにすることで、毎回、トレーニング体験を実りのあるものにすることができる。
■ 緊急時の対応計画は決してひとりでできるわけではない。それは常にあらゆる要素を理解している対象分野の専門家グループによって案をつくり、そのあと、ある人が決定を下すべきである。便宜上、誰かが決定を行うような形になることが多い。
■ そのため、計画を立ててもひとつの本に残すようなことはできない。消防隊は訓練を通して常に検討を加えて実践しなければならない。この検討と実践のサイクルをまわすことである。
■ 事前に潜在する状況を理解して作業を行わなければならないときには、このようなプロセスについて精通している人を知っていれば、事故が発生する前に相談することができる。前以て質問すべきことを整理しておき、タンク火災で混乱する前に、助言してくれる専門家を知っておくことは非常によいことである。
< 現実味のあるトレーニング
>
■ トレーニングが実際の火災と近い状況になるほど、そこから得られる経験はより有益になるだろう。
■ しかし、挑戦的に模擬訓練の規模を大きくしようとすれば、訓練自体が実際的ではない。
■ それでもテキサスA&Mのような消防学校は、プロセス関連の緊急事態を作り出す際に実際の事故に近づけた状況を通じて受講生を教育している。加えて、受講生に挑戦させるような訓練の方法と演習は、あらゆる緊急事態に対する自信を得させるやり方である。この事故シナリオを数回経験すれば、規模にかかわらずあらゆる事故に対する管理能力や戦術の意思決定プロセスを基本的に身につけることができる。
■ シミュレーションによる方法は効果のある選択肢ではある。しかし、現実味のあるプロセス装置やタンクの火災が効果的だと考えても、火災訓練シミュレーションでは誰も何にも曝露されていないことを認識しておくことである。現実の事故における活動では、訓練時に無いようないろいろな要素が存在する。感性的な要素を模擬訓練に付加すれば、消防隊の隊長や班長が実際の事故時に生じている不安感や緊張感があることを参加している受講生は気づくだろう。
■ 医療訓練を入れた状況では、傷をリアルに見せるためにムラージュ(医学教育用模型)を使用すると役立つ。火災の訓練では、事故時における火災の音響を流したり、反応に対する時間のプレッシャーを加えることで、現実感を出すことができる。
■ トレーニング演習を現実味があるようにすることで、毎回、トレーニング体験を実りのあるものにすることができる。
補 記
■「Zoom」や「Teams」は、オンライン会議を実現するのに使うツール類である。テレワークの需要が高まる中、いずれもリモートでコミュニケーションをとるのに便利なツールといわれている。
「Zoom」と「Teams」の主要機能の比較(表)や使い方の例は、「TeamsとZoom比較!テレワークなどで気付いたTeamsのポテンシャルとは?」を参照。
■「テキサスA&M」はテキサスA&M大学のことで、同大学のTEEX(The Texas Engineering Extension Service)では火災訓練を行っている。ウェブサイトによれば、火災緊急対応について、現在、23の訓練プログラムがある。訓練プログラムは、TEEXのウェブサイトの「Firefighting Training Props」を参照。また、訓練が一般に公開されたときの映像がユーチューブに投稿されている。(YouTube 「Municipal Fire School Demo Night 2015」を参照。
TEEXの各種訓練には、米国内の企業や公的機関が参加しているほか、世界中から多くの訓練生が受講している。日本でも、旧石油公団(現JOGMEC)が主催して「備蓄技術者海外研修」として訓練に参加し始め、多くの訓練経験者がいる。「石油公団備蓄技術者海外研修について」(1997年2月号)を参照。
「米国ウィスコンシン州の製油所でアスファルト・タンク火災」(2015年4月)では、スーペリア消防署の消防士4名が、事故の前年、テキサスで行われている石油関連火災への高度な訓練に派遣されており、消防署のゴードン隊長によると、今回の火災ほど大きくはなかったが、訓練で同様な火災を体験していたという。
所 感
■ タンク火災の計画策定やトレーニングに関する検討ステップなどは参考になったほか、最新の社会状況を踏まえた興味深い内容だと感じた。
■ 消防隊が有害な有機フッ素化合物の一種であるPFOS(ピーホス)と呼ばれるペルフルオロ・オクタン・スルホン酸を含んだ消火泡薬剤を使用している場合、泡の封じ込めと処分方法を考慮した消火水の流出管理計画について米国では考えていることが分かった。泡消火薬剤に関する事例は、「沖縄の米軍普天間飛行場の泡消火剤流出事故(原因)」(2020年4月)で紹介したが、米国だけでなく、日本も状況は同じであり、対応策が必要である。
■ 新型コロナウイルスの世界的流行を考えると、多くのチームメンバーといっしょに出かけて訓練するということは簡単なことではないが、感染予防対策を実施して訓練を行うという最近の話題に触れている。
■ 現実味のあるトレーニングを推奨しており、テキサスA&Mのような消防学校では、実際の事故に近づけた状況を通じて教育を実施しているという。自衛隊の模擬戦闘訓練と同様、日本の消防機関でも現実味のあるトレーニングを行う必要があろう。テキサスA&M大学のTEEX による訓練や成果については「米国ウィスコンシン州の製油所でアスファルト・タンク火災」(2015年4月) を参照。
■ トレーニングでは、事故時における火災の音響を流したり、反応に対する時間のプレッシャーを加えることで、現実感を出すことができるとし、医療訓練を入れた状況では、傷をリアルに見せるためにムラージュ(医学教育用模型)を使用すると役立つという。アイデアが素晴らしい。
■ 一方、現実味のあるトレーニングだけでなく、仮想トレーニングやZoomやTeamsなどの活用したオンライン会議についても言及しており、米国のトレーニングの対する取組み方の一旦が分かる。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Industrialfireworld.com, Planning for Tank Fires, by Ronnie Wendt
, March
31, 2021
後 記: 「タンク火災のための計画立案」(Planning for Tank
Fires)という題だったので、一般的なタンク火災の対応に関する内容だと思っていました。しかし、新型コロナウイルスの感染防止、有害な有機フッ素化合物を含む泡消火薬剤への配慮、仮想トレーニングやオンライン会議の活用、現実的なトレーニングなど興味深い話を含んだ内容でした。現実味のあるトレーニングを実施するだけでなく、仮想トレーニングやオンライン会議の活用への積極的な姿勢は米国らしいデジタル化だと感じました。すでに消防分野では、VR(Virtual Reality)によるトレーニング・システムが出ており、遊びの世界を越えています。最近の事故例では、米国の質が落ちているように感じていましたが、創造的なデジタル化についてはさすがに米国だと思います。
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