今回は、“Fire Rescue1”の2019年12月14日に掲載された「エクソンモービル社とテキサスA&M大学は最初に緊急対応する人のために危険性液体のトレーニングを提供する」(ExxonMobil, Texas A&M offer hazardous liquids training for first responders)について紹介します。
< 背 景 >
■ テキサス州には、地下にパイプラインが縦横に走っており、原油貯蔵タンクがペルム紀盆地の至る所に点在している。事故が起こった場合に最初に対応しなければならない者にとって、事故の対処方法を知っておくことは重要である。
< エクソンモービル社の支援
>
■ パイプラインの破裂や貯蔵タンクの爆発などの事故が起こることは稀だが、事故が発生した場合、重要なことは事故に対する前もっての準備である。
■ エクソンモービル社はテキサスA&M大学のエンジニアリング・エクステンショ・ンサービス(TEEX)と協力して、消防士に危険性液体の緊急対応のトレーニング・コースを提供している。石油大手からの20万ドル(2,200万円)の助成金は、訓練教程の開発と8月と10月に行われる研修会への150名の消防士の参加資金に供された。3回目の研修会が1月11〜12日に設定されており、すでに50名の消防士が参加を申し込んでいる。
■ トレーニング・コースに対するエクソンモービル社の支援は、事業を展開するコミュニティへの取り組みの一環であるという。訓練教程の開発に資金を提供した200,000ドル(2,200万円)の助成金に加えて、エクソンモービル社は次の年の訓練教程のために、さらに200,000ドル(2,200万円)の助成金を提供した。
■ テキサスA&M大学TEEXの産業火災部門の責任者は、「地方自治体の消防士やボランティアの消防士は、やれる範囲の業務はりっぱにやり遂げており、住宅火災、車両火災、救出活動についてはよく訓練されている」と語っている。
しかし、例えば、ポート・ネチズで起こったようなプラント火災を模した訓練、または陸上油井におけるタンク火災やパイプライン火災の訓練は多くの費用がかかる。
■ エクソンモービル社からの資金提供により、地方自治体の消防士やボランティアの消防士がその訓練を受けることができるようになった。
■ テキサスA&M大学TEEXの産業火災部門の責任者は、 「宿泊代、食事費、研修費、トレーニングで使用される燃料費、訓練で使用される消火薬剤の費用、そのほかコストのかかるものの費用に当てています」と語っている。
■「これは、お互いが有利になるWin-Win(ウィン‐ウィン)の関係です」とテキサスA&M大学TEEXの産業火災部門の責任者は語っている。エクソンモービル社、ダウ社、ライオンデル・バセル社などの企業は工場間の共同体意識をもっているが、パイプラインや油井用タンク施設などではよく訓練された消防隊から防護に関する改善策を得ただけでなく、これらの企業は火災や爆発の場合にさらに支援を受けている。
■ これらの企業のプラントは、標準的に火災と戦うために訓練された自衛消防隊を持っている。しかし、この消防隊の人数は限られている。そのため、地方自治体の消防士やボランティアの消防士の応援をもらうことが重要である。
< テキサスA&M大学TEEXのブレイトン消防トレーニング場 >
■ テキサスA&M大学TEEXの産業火災部門の責任者は、「あなた方が火災と戦っているとします。あなた方は激しく呼吸しているでしょう。そして、アドレナリンが出て対応しています。しかし、そのうち疲れ果てます。ここで、出たり、入ったりする交代のできる人たちがいるかどうかが重要になるのです」という。
■ 訓練は300エーカーの「ブレイトン消防トレーニング場」(Brayton Fire Training Field)で行われる。 (注;300エーカーは1,214,000㎡=約1,100m四方) 訓練を受けるひとがトレーニング施設に着いてから言うのは、「ディズニーランドのようです。我々は実際の火災を経験していますが、流れが違います。火災の規模がこれまでに見たものよりずっと大きかった」という。
■ テキサスA&M大学TEEXの産業火災部門の責任者は、ひとつの例として、デイセッタにあるハル-デイセッタ消防署の経験をあげた。8月に行われた研修会では、油井施設のタンク火災との戦いがひとつだった。その研修会の2日後、消防署の消防隊は油井施設のタンク火災で呼び出されたが、対処方法は分かっていたという。
■ ボランティアの消防士は州の消防署の85%を占めるため、トレーニングはボランティアの第一線対応者を対象としている。
■ エクソンモービル社の緊急事態対応のエキスパートとテキサスA&M大学TEEXが協力して、パイプラインとタンク火災に関するトレーニングの研修課程を開発した。トレーニングセッションは、テキサス州のブライアン-カレッジステーションの緊急事態準備キャンパス内にあるTEEXのブレイトン消防トレーニング場で開催されている。
補 記
■「テキサスA&M大学エンジニアリング・エクステンショ・ンサービス(TEEX)」については、1997年に日本から研修会に参加したレポート「石油公団備蓄技術者海外研修」(旧石油公団:現JOGMEC)や2013年に参加した「第14回A&M大学訓練センターにおける実消火訓練について」に詳しく報告されている。なお、1997年以降もTEEXは規模が大きくなっている。
● 1998年; TEEXは、「米国緊急対応および救助訓練センター」(National Emergency Response and Rescue Training Center)の本拠地になった。米国司法省は、テロリストによる核攻撃、生物学的攻撃や化学的攻撃に対応する緊急対応要員を訓練するために、国家緊急対応救助訓練センターを設立した。ブレイトンフィールドに隣接する7,000万ドルの“災害都市”と緊急操作トレーニングセンターの建設が始まった。
● 2000年; 「防火訓練課」(Fire Protection Training Division)は「緊急サービス訓練機関」(Emergency Services Training Institute)となった。
● 2005年; 新しい消火器補充施設がオープンした。毎年12,000台以上の消火器が設置されるようになった。
● 2008年; プロセス装置火災プロジェクトに40箇所の漏洩点が追加された。新しい廃水処理プラントが稼働した。
● 2009年; マズマット・ケミカル装置(プロジェクト♯31)が追加された。
● 2010年; サイト内の舗装(2.3平方マイル)が完了した。
● 2011年; ブレイトン・ファイア・トレーニング・フィールドが2倍以上の279エーカーになった。
● 2012年; 新しいレスキュー・キャンパスのために“災害都市” に隣接する17.8エーカーを取得し、総面積は296エーカーになった。
● 2013年; 「エンジニアリング・エクステンショ・ンサービス」はテキサスA&M エンジニアリング・エクステンショ・ンサービス」(Texas A&M Engineering Extension Service)になった。
● 2014年; 船舶用エンジン室に新しいエンジンが入った。新しいレスキュー・キャンパスに道路とユーティリティが追加された。“災害都市”に新しい瓦礫の山と専門の建物装置がオープンした。
● 2014年; テキサスA&M大学システムのメンバーとして、TEEXプログラムには、消防・緊急サービス、国土安全保障、公共安全とセキュリティ、公共事業、安全と健康、捜索・救助、知識工学が含まれるようになった。「テキサス・タスク・フォース1」は、最初の都市型捜索救助チームとして設立され、チームは48の組織からの186名の救急隊員で構成されている。
● 2014年; テキサス州に本拠地をもつ石油企業の「フィリプス66社」(Phillips 66)は、将来の拡張を支援するために、5年間で500,000ドル(5,500万円)を提供した。これにより、TEEXは、重要施設の防護に関する第一線緊急事態対応者のトレーニングをさらに強化できるようになった。
● 2015年; 新しいレスキュー教室とオフィスビルがオープンした。
● 2016年; 新しいレスキュー用タワーがオープンした。
現在、新型コロナウイルスの対応で研修が一部制限されているものがある。
■ 日本における防災訓練センターの主な例は、つぎのとおりである。
● 横浜市消防局消防訓練センター; 各地方自治体に消防訓練センターがある
● 空港保安防災教育訓練センター; 空港保安協会
● 災害対策トレーニングセンター; 東京大学
● 消防防災科学センター; 防災図上訓練
■「ポート・ネチズで起こったようなプラント火災」とは、2019年に米国テキサス州ジェファーソン郡ポート・ネチズにあるブタジエン製造装置の爆発・火災事故だと思われる。
●「米国テキサス州でブタジエン装置が爆発・火災、球形タンクに迫る」(2019年12月)
●「米国テキサス州でブタジエン装置が爆発・火災、球形タンクに迫る(爆発原因)」(2020年11月)
所 感
■「テキサスA&M大学エンジニアリング・エクステンショ・ンサービス(TEEX)」については、これまでに何度か触れてきたが、今回はスポンサー企業について語られている。この資料が作成された2019年は、石油企業のエクソンモービル社が資金を援助している。2014年は同じく石油企業のフィリプス66社が資金援助している。これは、企業が倫理的観点から事業活動を通じて自主的に社会に貢献する責任、すなわち企業の社会的責任を意識していると思われる。
■ 東日本大震災以降、「災害対策トレーニングセンター(東京大学)」や「ふくしま総合災害対応訓練機構」が設立され、災害時の対応を改善しなければならないという意識が出てきた。タンク火災のような事故時の対応訓練は、横浜市消防局消防訓練センターをはじめとする各消防署の消防訓練センター、海上災害防止センター、空港保安防災教育訓練センターがあるが、対象者が限定されており、横のつながりは無いと思われる。日本の原油備蓄基地では、保安・消防部門の消防士を対象としてテキサスA&M大学エンジニアリング・エクステンショ・ンサービス(TEEX)の訓練への参加を続けてきており、このことは良いことである。しかし、公的消防機関や企業の自衛消防隊の消防士は参加していない。日本の統一感の無いこのままの体制で良いのであろうか。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Firerescue1.com, ExxonMobil,
Texas A&M offer hazardous liquids training for first responders, December 14, 2019
・Teex.org, TEEX Brayton Fire Training Field History, 2021
後 記: 今回、改めて 「テキサスA&M大学エンジニアリング・エクステンショ・ンサービス(TEEX)」について調べてみましたが、想像以上に大きな規模になっています。 「米国緊急対応および救助訓練センター」の“災害都市”がブレイトン消防トレーニング場に隣接して建設され、テロリストによる核攻撃、生物学的攻撃や化学的攻撃に対応する緊急対応要員
が訓練されています。1930年にテキサス州の76の市と町を代表する196人の消防士が2日間の訓練を始めたのが最初でした。こうした歴史を見てくると、太平洋戦争と同様、ロジスティック(兵站)の重要性を理解し、実行している米国に日本は勝てないなと思ってしまいました。(勝ち負けの話ではないですが)
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