2021年2月11日木曜日

ハリケーン通過時に被害を受けたタンク施設から大気への流出解析モデル

  今回は、米国ヒューストンにあるライス大学のエンジニアが、ハリケーンのような自然災害時に被害を受けた地上式貯蔵タンク施設の内容物が大気中にどのように広がるかを示すコンピュータ・モデルを新しく開発した話題を紹介します。

< はじめに >

■ 米国ヒューストンにあるライス大学( Rice University )のエンジニアは、ハリケーンのような自然災害時に被害を受けた地上式貯蔵タンク施設の内容物が大気中にどのように広がるかを示すコンピュータ・モデルを新しく開発した。

< 解析モデル >

■ このモデルは、2008年のハリケーン・アイクおよび2017年のハリケーン・ハービーから得られた実データと、米国で最大の石油コンビナートのヒューストン地区から得られた実データに基づいている。ハリケーンのような風はタンクの設置場所からずっと遠いところに化学物質や石油ベーパーを運んでいる。ライス大学ブラウン工科スクールの大気科学者ロブ・グリフィン氏(Rob Griffin)は、モデルを使用すれば、貯蔵タンク施設にとって脅威となる今後来るであろう嵐による影響を予測できると述べている。嵐によって大気質監視システムがダウンした場合、モデルはその後の汚染物質の拡散を推定する唯一の方法となる可能性もある。

■ モデル化の作業は、ジェイミー・パジェット氏(Jamie Padgett)(ライス大学の環境社会工学エンジニア))とサバレティナム・カメシュワー氏(Sabarethinam Kameshwar)(現在、ルイジアナ州立大学の環境社会工学の助教授)による2015年の調査をフォローする形で始められた。研究では、カテゴリー4のハリケーン来襲時に、多くの貯蔵タンクが基礎からずれたり、飛散してきた物体で被害を受けたことが分かり、その結果、暴風による24フィート(7.3 m)の風津波現象によって、9,000万ガロン(340,000KL)超の油や化学製品が放出されると予測された。

■ グリフィン氏によって続いて開発されたモデルとともに、研究チームは、ベーパー類が流出後12時間のあいだ5,000フィート(1,500m)までの高さにおいて風によってどのように運ばれるかを調べた。そうすると、風の通り道に沿って拡散せずに寄り集まったままである有機溶剤の蒸気群(Vapour plumes)よりも、油の蒸気群は広範囲に広がることが分かった。これは、蒸発速度(蒸発率)の違いにより、風下における油の蒸気群が有機溶剤の蒸気群よりも広い領域に広がると推測される。有機溶剤の蒸気群は卓越風の通り道に沿って広がらないままである。蒸発に関する仮定によれば、流出物質の混合比は最大90ppmと予測される。

■ さらに、太陽光や汚染物質などの要因によって、溶剤の蒸気群内にオゾンや二次有機エアロゾルがかなり生成される。オゾン(最大130ppbの増)や二次有機エアロゾル(最大30μg m−3の増)の増加は、風下における溶剤の蒸気群の中で、嵐通過直後の短い時間で発生する可能性があり、その規模は太陽の放射、流出物質の種類、汚染物質の濃度に依存する。これは、風下地域の居住者や作業者が蒸発流出物とその分解生成物に対して脆弱であることを浮き彫りにしている。

■ 渦巻くような風を伴ったハリケーン・アイクに基づいたシミュレーションでは、タンク施設のディーゼル燃料蒸気群が最初の6時間でゆっくりと42 km2に広がっていたことを示した。その前のシミュレーションでは500 km2の範囲に短時間で広がっていた。ハリケーン・ハービーに基づくシミュレーションでは、蒸気群は広がらずに幅の狭い状態でメキシコ湾に吹いていたことを示した。


< 今後への期待 >

■ ライス大学のグリフィン氏は、つぎのように話している。

 「流出があったとした場合、何が流出するかについて仮定を立てる必要がありました。しかし、何にせよ流出した化学物質がまわりの空気中に存在すれば、つぎに何が起こるかについて考えてみることは大切です。これは、“ディープウォーター・ホライズン” (2010年に起きた原油リグの爆発とその後の油流出)のような事故にも当てはまるでしょう。一旦、原油が海面に到達して蒸発すれば、どうなるでしょうか? タンクの所有者がこのモデル使って自分たちの施設について考えてみるのがよいでしょう。環境保護団体の人たちがこの研究に興味をもつと確信しています」

■ このモデルは、地域的なデータをベースにしているため、個々のタンク流出の影響を研究するには適していない。しかし、グリフィン氏は、将来、その目的に適したものができ、大気化学分野の規約に利用できるようになると信じている。

所 感

■ 今回の資料を理解するためには、まずハリケーンによるタンク施設の被害を知っておく必要がある。2017年のハリケーン・バービーによる被害を伝えた「米国テキサス州でハリケーン上陸による石油施設の停止と油流出」の所感では、ハリケーン・ハービーによる石油施設の被害や影響の特徴はつぎのとおりだと書いた。

 ● ヒューストンなどテキサス州のメキシコ湾岸の25,000km2という広い地域で洪水が起こり、製油所など多くの石油施設が浸水や冠水の影響を受けた。

 ● 5日間で最大1,300mmを超える猛烈な降水量の雨が降り、浮き屋根式タンクの浮き屋根が沈降するという事例が多く発生した。

 また、ハリケーン・ハービーは、メキシコ湾から一旦上陸したあと、再びもとのメキシコ湾側に戻るという変則的な進路をとった。

■ ハリケーンの規模や石油コンビナートの規模など日本と状況は異なるので、以前だと米国の特異な話としていただろうが、最近の異常気象や台風の大型化をみると、一概に対岸の火事と言えないように感じる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Tankstoragemag.com, New model shows leak spread from failed tanks, February 03, 2021

    Sciencedirect.com, Simulation of potential formation of atmospheric pollution from aboveground storage tank leakage after severe storms,  2021


後 記: 本資料は、“Tank Storage” という雑誌のインターネットによるニュース紹介の中にあったものです。資料の原本は“Atmospheric Environment”に掲載され、ハイライトだけはインターネットで見ることができるので、ブログの中に追記しました。タンク屋根が沈降し、ハリケーンが停滞すれば、タンク内液のベーパーがどのような挙動を示すか興味をもち、最近のコンピューターによる解析技術の発達によって、今回の解析事例が出たのでしょう。

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