2020年7月27日月曜日

米国カンザス州の原油生産施設のタンクが落雷で爆発・火災

 今回は、2020年6月19日(金)、米国のカンザス州プラット郡ソーヤーの南にあるFGホール社の油井の原油生産施設内の油タンクが落雷によって爆発・火災を起こした事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、米国のカンザス州(Kansas)プラット郡(Pratt)ソーヤー(Sawyer)の南にあるFGホール社(F.G.Holl)の油井の原油生産施設である。


■ 発災したのは、プラット郡を通る幹線道路のU.S.281号線とSE110号線の交差点近くの原油生産施設内にあった油タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2020年6月19日(金)午前6時頃、 原油生産施設の油タンクが爆発し、火災が起こった。


■ 発災に伴い、消防隊が出動した。消防隊が到着したときには、施設から炎と煙が立ち上っていた。


■ 施設の油タンク2基が爆発して東側に噴き飛び、施設外へ数フィート飛んで落下した。しかし、U.S.281号線を越えることはなかった。


■ 油井との供給ラインは午前9時頃に正常に閉止された。


■ 消防隊は、午前10時頃に消火活動を開始した。午前10時30分頃までには、火災は消防隊によって制圧された。


■ 油タンク2基とヒーター・トリーター(heater-treater unit)1基が火災で損壊した。


■ 当時、この地域には激しい雷雨が通過しており、火災の原因は落雷による可能性が高い。


■ 事故に伴う負傷者はいなかった。

被 害

■ 原油生産施設内の油タンク2基とヒーター・トリーター設備1が損壊した。


■ 事故に伴う負傷者の発生はない。


■ 幹線道路の交通制限は無かった。


< 事故の原因 >

■ 事故の原因は落雷とみられる。


< 対 応 >

■ プラット郡緊急事態対応部署が事故対応で出動した。


補 足

■「カンザス州」(Kansas)は、米国の中央部に位置し、人口約290万人の州である。

 「プラット郡」(Pratt)は、カンザス州の南部に位置し、人口は約9,300人の郡である。この郡の最大都市で郡庁所在地はプラットである。

 「ソーヤー」(Sawyer)は、プラット郡の南に位置し、人口約120人の町である。

■ 発災した原油生産施設の「FGホール社」(F.G.Holl)は、1980年に設立し、米国カンザス州ウィチタに本拠地を置く原油・天然ガスの探査・生産を行う石油会社で、従業員は21名である。


■「発災タンク」は、U.S.281号線とSE110号線の交差点近くの原油生産施設内にある油タンクというだけで、あとの詳細仕様は報じられていない。グーグルマップで調べると、発災場所には、6基のタンクがあり、大きく分けると、東西3基づつに分かれる。発災があったのは、東側にあったタンク群である。発災タンクの大きさは、グーグルマップによると、タンクの直径が約3.8mなので、高さを約5mとすれば、容量約56KLとなる。 直径約3.8mの容量50KL級のタンク2基が爆発で飛んだとみられる。

■ 被災したのは油タンク2基とヒーター・トリーター(Heater-treater unit)であるが、これは陸上油井の原油生産施設として典型的な構成で、図に示す。通常、セパレーター(ノックアウト槽)、ヒーター・トリーター、貯蔵タンク、循環ポンプ、水の貯蔵または処分するための設備で構成される。生産井と原油生産施設を接続する配管はフローラインと呼ばれる。油井から出てくる油、ガス、水はエマルジョンとして遊離水ノックアウト槽に入る。 この時点で、ガスと水の一部はエマルジョンから分離する。残りのエマルジョンはヒーター・トリーターに入り、そこで加熱され、エマルジョンは油、ガス、水に分離される。水はドレンラインから排出され、塩水処理設備に移送される。ガスは計量装置を経てガスラインに送られる。原油はタンクへ入り、そこからドレンバルブを通じてタンクローリーに積み込まれるか、パイプラインに接続される。不純物を含む原油はポンプを使ってヒーター・トリーターに戻してタンクに再循環させる。

所 感

■ 今回の事故は落雷によるタンク火災である。しかも、原油生産施設内の油タンク2基とヒーター・トリーター設備1基が損壊したというので、かなり強烈な落雷で延焼したものと思われる。


■ 消火戦略は防御的戦略をとったのではないだろうか。午前6時頃に発災し、郡の消防隊が到着するには結構な時間がかかったと思う。消防隊が到着したときには、施設から炎と煙が立ち上っていたという。おそらく、屋根部が近くに飛んだ油タンク2基は火災になり、ヒーター・トリーターも火災を起こしており、手につかない状況だったと思う。原油生産施設の西側にあるタンク3基への延焼防止を最優先にした防御的戦略だと思う。発災から3時間半ほど経った午前10時頃に保有資機材で消火のめどが立ったと判断し、約30分で制圧したものだと考える。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

      ・Ksn.com, Crews battle tank battery fire in Pratt County,  June  19,  2020

      ・Leavenworthtimes.com,  Explosion at tank-battery site near Sawyer causes early Friday excitement,  June  19,  2020

      ・Newsbreak.com, Crews battle tank battery fire in Pratt County,  June  21,  2020

      ・Pratttribune.com, Explosion at tank-battery site near Sawyer causes early Friday excitement,  June  19,  2020

      ・Kcbd.com, Lightning strikes tank battery early Tuesday, Post Volunteer Fire Dept. responds,  June  23,  2020



後 記: 今回の事故報道は詳しくはありませんが、発災写真を含めて複数のメディア情報をよく読み、調べてみると、見えてくるものがありました。油井の原油生産施設(タンク・バッテリー)の構成について分かりました。広大な開拓地の中にポツンと危険物施設が立っているのですから、雷から見れば、落ちてくださいと言っているようなものです。「NASAによる世界の雷マップ」によると、カンザス州は落雷の多い地域ですが、これまでこのブログで取り上げたタンク火災はありません。タンク火災が無いとは考えられないので、ローカルニュースとして情報をキャッチできなかったと思っています。

2020年7月23日木曜日

米国テキサス州の原油生産関連施設で落雷によるタンク火災

 今回は、2020年6月23日(火)、米国のテキサス州パーカー郡スプリングタウンのFM51号線沿いにある原油生産関連施設で落雷によるタンク火災の事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国のテキサス州(Texas)パーカー郡(Parker)スプリングタウン(Springtown)のFM51号線沿いにある原油生産関連施設である。


■ 事故があったのは原油生産関連施設のタンクで、施設内には14基ほどのタンクがあった。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2020年6月23日(火)夜明け前の午前5時30分頃、原油生産関連施設に落雷があり、タンクが火災を起こした。


■ 事故に伴う負傷者はいなかった。


■ スプリングタウン警察などが施設近くの住民を避難させるとともに、FM51号線を通行止めにした。


■ 午前10時頃に、FM51号線は閉鎖を解除し、避難した住民は自宅へ帰ることができた。

被 害

■ 原油生産関連施設内のタンクが複数基、火災で損壊した。


■ 事故に伴う負傷者の発生はない。


■ 施設近くの住民が避難するとともに、幹線道路が4時間半ほど通行止めになった。


< 事故の原因 >

■ 事故の原因は落雷である。

補 足

■「テキサス州」(Texas)は、米国の南部に位置し、人口約2,900万人の州である。

 「パーカー郡(Parker)は、テキサス州の北東部に位置し、人口約116,000人の郡である。

 「スプリングタウン(Springtown)は、パーカー郡(Parker)の北方にあり、人口約3,000人の町である。


■ 発災した「原油生産関連施設の所有者」は報じられておらず、分からない。


■ 「発災タンク」は約14基という基数だけで、あとの詳細仕様は報じられていない。グーグルマップで調べると、発災場所と見られるところには12基のタンクがある。直径が約4.8mのタンクが8基、ほかに、これよりやや大きいタンクが2基、やや小さいタンクが2基である。直径約4.8mのタンクの高さは約13mとみられるので、容量は235KLとなる。この原油生産関連施設は明確に報じられていないが、グーグルマップの画像を見ると、塩水処理設備と思われる。従って、大半のタンクはFRP製で、容量200KL級のタンクが12基設置されている施設である。

■ 被災写真はあるが、車の社内から撮ったものと思われ、状況がはっきりしない。標題の写真では、複数基が火災になっているので、FRP製タンクが座屈して延焼に至ったものと思われる。この写真の撮影場所であるが、幹線のFM51号線側でなく、北のイースト・ブラッドショー・ロード側から撮ったものと推定される。理由は、被災写真で手前に杭のようなものが並んでいるが、イースト・ブラッドショー・ロード側には高さの低い塀が設置されているので、この塀の外から撮影したものと思われる。


所 感 

■ 今回の事故は状況がはっきりしない。しかし、油混じりの塩水タンク群が落雷で火災になったものとみられる。 2020年4月に起こった「米国テキサス州の原油生産関連施設のタンク16基が火災」と類似例であろう。塩水タンクはFRP製であり、火災になって座屈し、隣接タンクへつぎつぎと延焼していったものと思われる。タンクのまわりには、防油堤が設置されており、防油堤の容量内の流出であれば、堤内火災で収まるが、防油堤の高さは低いので、タンク全量を保持できないと思われる。一部は堤外に出て火災になった可能性はあるが、堤外は広い空地が見られるので、他の建築物への延焼の恐れは低い。


■ 一方、北側には貯水池が見られる。この貯水池の目的がタンク火災時の消火水であれば、問題ないが、農業用の貯水池であれば、タンクから流出した油混じりの塩水や消火で使用した水(または泡)が入ることは避ける必要がある。

 これまでの事例だと、塩水処理設備のタンク火災の消火戦略は不介入戦略をとることが多い。今回の火災で消防署の活動について言及されていないが、4時間半で幹線道路の交通規制を解除したり、避難した住民を帰宅させている。今回のタンク火災も燃え尽きるのを待ったのではないだろうか。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    ・Fox4news.com,  Lightning strike causes Springtown oil tank fire,  June 23,  2020

     ・Star-telegram.com, Springtown oil tank fire likely caused by lightning. People asked to avoid the area,  June 23,  2020

     ・Newsbreak.com, Lightning strike causes Springtown oil tank fire,  June 23,  2020

     ・Msn.com, Springtown oil tank fire likely caused by lightning. People asked to avoid the area,  June 23,  2020

     ・Funasia.net, Texas: Lightning strike sparked the fire at an oil facility in Springtown,  June 23,  2020



 後 記: 前回のブログの後記で、米国のメディアが現場主義でなく、伝え聞いた話をもとにしていると感じると書きましたが、今回も火災があったという情報のみで、事故の状況や消火活動はほとんど分かりません。「テキサス、原油生産関連施設(塩水処理設備)、落雷、火災」と来れば、この時期の恒例の事故ではありますが、事故慣れしてあまりにもものごとに関する感性や感覚が乏しいのが気になりますね。米国後追いの日本もいずれこのような状況になるのでしょうか。

2020年7月20日月曜日

米国テキサス州の原油生産関連施設のタンク16基が火災

 今回は、2020年4月29日(水)、米国テキサス州コールドウェル郡ロックハートの南にある原油生産関連施設で16基のタンクが火災になった事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、米国のテキサス州(Texas)コールドウェル郡(Caldwell)ロックハート(Lockhart)の南にある原油生産関連施設である。


■ 発災があったのは、ロックハートのヤング・レーン1200ブロック近くの原油生産関連施設内にある16基のタンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2020429日(水)午前716分頃、石油生産関連施設のタンクに落雷があり、またたく間に制御できないような火災になった。


■ テキサス州のロックハート近辺では遠く離れているにもかかわらず、タンク火災の炎が見えた。


■ 現場近くの住民のひとりは、以前、通信塔に落雷があったので、今回も同様だろうと思ったという。家の前に立ち止まった隣の人の話でタンクに落雷したということが分かった。窓の外を見て、原油生産関連施設のタンクが火災になっているのを見た。住民は消防へ通報をするとともに、よく見えるようにドローンを飛ばした。その映像で激しく火災になっているのがはっきり分かった。


■ 当日、朝早くから嵐が通過し、6,000回以上の落雷が発生し、ある時点では、近隣の14郡で雷雨警報が出ていた。


■ 発災に伴い、ロックハートにあるミッドカウンティ消防署(Mid-County Fire and Rescue Department)が出動した。現場に到着したときには、タンク群は火に包まれていた。しかし、タンクのまわりには、防油堤が設置されており、堤外に火災や油が流出するおそれはなかった。 


■ 午前9時頃に火災の勢いが弱まった。午前11時頃には、火が出ているタンクは2基だけになっていた。


■ 4月29日(水)の夕方までには火災は消えたが、夜になってもくすぶっており、消防士が監視した。


■ 発災に伴う負傷者はいなかった。


■ 現場は幹線道路から少し離れており、アクセス道路があったので、幹線道路は影響を受けなかった。


■ ドローンで火災の状況を撮影した住民はフェースブックで映像「OilTank Fire off of Young Lane」を投稿した。

 ( https://www.facebook.com/hodge.paul/videos/3041111919269009/

被 害

■ 原油生産関連施設内のタンク16基が損壊した。


■ 事故に伴う負傷者の発生はない。


■ 幹線道路の交通制限は無かった。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は落雷である。


< 対 応 >

■ テキサス鉄道委員会、コールドウェル郡危機管理庁、コールドウェル郡内の3つの隣接消防署が対応に派遣された。

補 足

■「テキサス州」(Texas)は、米国の南部に位置し、人口約2,900万人の州である。

 「コールドウェル郡」(Caldwell)は、テキサス州の中央部に位置し、人口約38,000人の郡である。

 「ロックハート」(Lockhart)は、コールドウェル郡の中央部に位置し、人口約12,600人の郡庁所在地の市である。


■ 発災した「原油生産関連施設の所有者」は報じられておらず、分からない。


■ 「発災タンク」は16基という基数だけで、あとの詳細仕様は報じられていない。グーグルマップで調べると、発災場所には、確かに16基のタンクがある。うち2基は他の14基と異なるタイプのように見える。タンクの配置から見て、塩水処理設備の塩水タンクと思われ、FRP製だとみられる。しかし、発災後4時間を経過した時点で、2基だけがまだ火が出ていたというので、この2基は油用の鋼製タンクではないかと思う。鋼製タンクであれば、火災になっても原形を残して建っているはずであるが、被災写真はタンク群全体が炎に包まれ、その判別がつかない。

 発災タンクの大きさであるが、グーグルマップによると、タンクの直径は約4.8mなので、高さを約7mとすれば、容量は約126KLとなる。従って、直径約4.8mの容量100KL級のタンクが配置されていたとみられる。

 なお、発災タンクまわりには、土盛り製でなく、コンクリート製の防油堤が設置されている。

所 感

■ 今回の事故は、油混じりの塩水タンクが落雷で火災になったものとみられる。塩水タンクはFRP製であり、火災になれば、座屈していき、隣接タンクへつぎつぎと延焼していくのは、事故例を見ても明らかである。

 ● 201311月、「米国ノースダコタ州の石油施設で爆発、タンク13基が被災」

 ● 2014年5月、「米国テキサス州カーンズ郡で落雷によるタンク爆発・火災」

 ● 2014年6月、「米国テキサス州アタスコサ郡で落雷によるタンク火災」

 ● 2019年2月、「米国ノースダコタ州で塩水処理施設のタンクが爆発・火災」

■ タンクのまわりには、防油堤が設置されており、堤外に火災や油が流出するおそれはなかったと報じられているが、事故前のタンク配置と被災写真を見比べると、明らかに一部は防油堤外に流出して火災になっている。発災タンクの近くに住宅地や水路はないようなので、樹木への延焼に気をつければよいと判断したのだろう。消火戦略は、不介入戦略をとったものと思われる。上記の火災事例では、消火泡が水路に入り、水質汚染の問題が出ることを配慮して、燃え尽きる戦略をとることが多い。今回のタンク火災も燃え尽きるのを待ったものと思う。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    ・Myhighplains.com、上映:2020年4月30日、落雷後にテキサス中央部の石油タンクが発火

     ・Kxan.com、ライトタンクが落雷した後のロックハート近くのファイアボール、16台のタンクが炎上、2020年4月29日

     ・Cbs6albany.com、テキサスの石油タンク火災の原因であると考えられている落雷、2020年4月30日

     ・Kvue.com、2020年4月29日、明らかな落雷後にロックハートで16基のオイルタンクが発火

     ・Firehouse.com、動画:TX消防士、16機の燃焼油タンクからのブレイズ、2020年4月30日



後 記: 今回は少し遅れた事故情報です。ところで、状況が詳しく伝えられていませんが、特にタンク火災の鎮火時間がはっきりしません。メディアによってバラバラです。発災から2時間の午前9時頃には火は見えず、煙だけになっているという報道、午前11時頃には2基のタンクから火が出ているという報道、夜になってもくすぶっており、消防士が監視しているという報道がありました。

 このバラバラの要因は、米国のメディアが現場主義でなく、伝え聞いた話をもとにしているからだと感じます。2・3年前から人をかけない傾向が現れ始めたところに、新型コロナウイルスの影響でますます現場主義から遠くなっていくように感じます。

2020年7月15日水曜日

米国ミシシッピ州の油井施設のタンク火災をフォーム・トレーラーで消火

 今回は、2020年7月7日(火)、米国のミシシッピ州ジェファーソン・デイビス郡バスフィールドの南にある油井施設で落雷によって起こったタンク火災をフォーム・トレーラーで消火した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、米国のミシシッピ州(Mississippi)ジェファーソン・デイビス郡(Jefferson Davis)バスフィールド(Bassfield)の南にある油井施設である。

 

■ 発災があったのは、油井施設にある容量350バレル(55KL)の貯蔵タンクである。 

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2020年7月7日(火)午後5時頃、油井施設にある貯蔵タンクが落雷によって火災となった。

■ 発災に伴い、コリンズ消防署(Collins)が出動したほか、プレンティス消防署(Prentiss )、グッドホープ消防署(Goodhope)、グランビー消防署(Granby) が支援に駆け付けた。


■ 消防隊が現場に到着すると、4基あるタンクの1基が破損して火災になっており、隣接する3基のタンクが危険にさらされていた。火災タンクにもっとも隣接しているタンクは、激しい炎の衝突に見舞われていた。

■ コリンズ消防署はフォーム・トレーラー(泡モニターノズルと泡薬剤を搭載したトレーラー)を持ち込み、ほかの消防隊は給水を担当し、消火活動を行った結果、鎮火することができた。


■ 事故に伴う負傷者はいなかった。

被 害

■ 油井施設のタンク(FRP製塩水タンクとみられる)が火災で損壊した。


■ 事故に伴う負傷者の発生はない。


< 事故の原因 >

■ 事故の原因は落雷とみられる。

補 足

■「ミシシッピ州」(Mississippi)は、米国の南東部に位置する州で、人口約1,280万人である。 

 「ジェファーソン・デイヴィス郡」(Jefferson Davis)は、ミシシッピ州の南部に位置し、人口約11,000人の郡である。  

 「バスフィールド」(Bassfield)は、ジェファーソン・デイヴィス郡の中央部に位置し、人口約250人の町である。

 「コリンズ」(Collins)は、コビントン郡(Covington)の中央部に位置し、約2,500人の町ある。


■「発災タンク」の容量は55KLであり、報道では書かれていないが、類推すると、直径約3.8m×高さ約5.0mほどの大きさとなる。発災タンクは火災の熱によって座屈しており、油井施設の油混じりの塩水タンクでFRP製だとみられる。FRP製の塩水タンク1基以外の残りの3基は鋼製の油タンクと思われる。なお、発災タンクの所有者(事業者)は報じられておらず、分からない。


■「フォーム・トレーラー」 (Foam Trailers)とは、泡モニターノズルと泡薬剤タンク(トート)を搭載したトレーラーである。日本の大容量泡放射砲はトレーラーに設置されているが、泡薬剤タンク(トート)は別な搬送手段となっている。これをもっと汎用的なものとして、泡モニターノズルと泡薬剤タンク(トート)をいっしょのトレーラーで搬送できるようにしたもので、米国では、石油火災に対応する機材として広く使用されている。2015年には、ニューヨーク州知事が州内19箇所の消防署に戦略的に配備して話題になった。搬送が容易で機動性があり、大型化学消防車を配備するより安価である。一方、給水方法を別にとる必要があり、規模の小さな消防署では、相互応援体制をとる必要がある。逆に、相互応援体制を確立しておけば、消防署は多くの機材(および人員)を保有しなくてもよい。

フォーム・トレーラーの例

所 感

■ 今回の事故で注目されるのは、フォーム・トレーラーと相互応援体制である。泡モニターノズルと泡薬剤トートを搭載したフォーム・トレーラーが実際の消火活動に使われた情報は初めてである。これまで、油井施設の塩水タンクの火災は燃え尽きるのを待つことが少なくなかった。今回は油タンクが火災タンクに近く、延焼の恐れが高いことと、消防機材としてフォーム・トレーラーを持っていることから、積極的消火戦略をとったものと思われる。


■ この消火戦略が成功したのは、消防署の相互応援体制である。発災した現場はジェファーソン・デイヴィス郡バスフィールド(人口約250人)である。一方、フォーム・トレーラーを搬送してきたのは、隣の郡であるコビントン郡コリンズ(人口約2,500人)の消防署である。給水の支援に携わったのは、近隣の町のプレンティス消防署、グッドホープ消防署、グランビー消防署である。このように郡や町を越えた相互応援体制はその日の思い付きでやれるものではなく、事前の周到な計画に基づいていると思われる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Industrialfireworld.com, Lightning Touches Off Crude Oil Storage Tank in Mississippi,  July  07,  2020

    ・Wjtv.com, Lightning causes oil fire in Jefferson Davis County,  July  08,  2020

    ・Dailydispatch.com, Collins Fire Department, Jefferson Davis County put out oil tank fire in Bassfield,  July  09,  2020

    ・Wdam.com, CFD, Jefferson Davis Co. put out oil tank fire in Bassfield,  July  08,  2020



後 記: 今回の油井施設のタンク落雷事故では、発災現場の地理と消防活動を指揮した消防署や支援した消防署が随分バラバラで離れているなと疑問を感じていました。調べていくと、実際のフォーム・トレーラーと相互応援体制について知ることができました。この消防機材の発想とそれを運用する相互応援体制は米国らしさを感じました。消防活動を指揮した消防署(コリンズ消防署)は撮影した消防活動の画像をメディアに提供しており、理解を深めました。米国ではよくあることですが、このような情報公開を望みますね。

 ところで、 「Foam Trailers」 を日本語に訳そうと考えてみましたが、「泡牽引車」では泡薬剤を牽引する車のようです。もともと泡モニターと泡薬剤の2つの言葉を省いた用語で、 これを理解しやすくするには長い文章(例えば、「泡薬剤トート付き泡モニター設置トレーラー」になるので、安易に「フォーム・トレーラー」としました。  


2020年7月13日月曜日

イランで公共エリアの工業用ガスタンクが真夜中に爆発?

 今回は、2020年6月26(金)真夜中、イラン(Iran)の首都テヘラン(Tehran)に近いパルチン(Parchin)の公共エリアにあるガス貯蔵施設の工業用ガスタンクが爆発した事故を紹介します。
< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、イランIran)の首都テヘラン(Tehran)に近いパルチン(Parchin)にあるガス貯蔵施設である。ガス貯蔵施設は軍事施設の近くになるが、施設は非住宅の山岳地帯に位置していた。


■ 発災があったのは、ガス貯蔵施設にある工業用ガスタンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2020626(金)真夜中の午前030分頃、工業用ガスタンクが爆発を起こした。爆発の炎はテヘランの夜空を照らした。

■ 多くのソーシャル・メディア・ユーザーは、タンクが真夜中に爆発した後、イランの首都の東方でオレンジ色の光を見えたと報告している。ビデオによれば、この光は数秒間見られた。


■ 爆発の画像がソーシャル・メディアの間で広く流れたあと、イラン国防省はテヘラン近くで工業用ガスタンクが爆発したと語った。ガスタンクはパルチンの公共エリアで爆発したが、死傷者はいなかったという。

■ パルチンには軍事施設があり、当初、爆発は軍事施設への攻撃ではないかと噂された。しかし、国防省は、爆発した工業用ガスタンクは軍事施設と関係しないと発表した。


■ 爆発は、容量5,000リットル(5KL)3基のガスタンクが漏れて爆発したという。


■ 火災は地元の消防隊が制圧し、原因を特定するために調査中だという。


■ 事故がハッキングではないかという質問が出たが、「この問題については調査結果が出ない限り、ガス施設の爆発がコンピューターシステムのハッキングによって引き起こされたかどうかについてコメントすることはできない。サイバー問題は複雑であり、分析が必要なため、このプロセスが完了しない限り、明確な回答を出すことはできない」と国防省は答えている。


被 害

■ 工業用ガスタンクが爆発して損壊した。その他、タンクの隣接設備が損傷しているが、詳細な被害は不詳である。


■ 事故に伴う負傷者の発生はない。


< 事故の原因 >

■ 事故の原因は調査中である。


< 対 応 >

■ 国防省は軍事施設の爆発ではないと発表しているが、メディアの中には、爆発を詳しく分析すると、パルチンの工業団地ではなく、約40km離れたホジール(Khojir)地域で発生しているのではないかとし、被災地域の事故の前後の衛星画像を紹介している。  

■ 容量5,000リットル(5KL)の3基のガスタンクが漏れて爆発したといわれているが、タンク群は現状の形状を維持し、この種の爆発にしては壊滅的な損傷が見られないという疑問が出されている。


補 足

■「イラン」(Iran)は、正式にはイラン・イスラム共和国といい、西アジア・中東に位置し、人口約7,900万人のイスラム共和制国家である。

「テヘラン」(Teheran)は、イランの首都で、人口約1,360万人の都市である。

「パルチン」(Parchin)は、テヘランの南東約30kmに位置し、イランの軍事施設のある町である。


■「ガス貯蔵施設」は、公共エリアで非住宅の山岳地帯にあるというだけで、施設の目的など詳細は分かっていない。


■ 事故のあった「工業用ガスタンク」は容量5,000リットルで3基あった。ビデオに映っているタンクは横型圧力容器で、直径は1~1.5mほどである。仮に直径を1.2mとすれば、長さは5mくらいになる。タンク内のガスの種類は報じられていない。


所 感

■ 今回の工業用ガスタンクの爆発事故はよく分からないというのが、率直な感想である。国防省が発表している映像では、確かに噴破したようなガスタンクが写っている。事故直後に国が出した一連の情報は、一応、整合性はとれており、事故は調査中ということで終わりであろう。


■ しかし、ガスタンクの爆発にしてはタンクが焼けていないという疑問を提示されれば、そのとおりだと思ってしまう。また、爆発時の閃光画像を分析すると、別な地域で起こったという情報が提示されれば、疑問が深まる。軍事機密といえば、事実でないこともまかり通るので、「貯蔵タンクの事故情報」としての価値は薄いと言わざるを得ない。



備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   ・Theguardian.com, Iran says Tehran blast was industrial gas tank explosion,  June  26,  2020

    ・Aljazeera.com, Explosion at Iran gas storage facility, no casualties: State TV,  June  26,  2020

    ・Tanknewsinternational.com, Iran reports industrial gas tank explosion in Tehran,  July  01,  2020

    ・Youtube.com, Iran: Tehran says Parchin blast caused by gas tank leak,  June  27,  2020

    ・Bloomberg.com, Iran Says Explosion Near Military Site Caused by Gas Tank Leak,  June  26,  2020

    ・English.alarabiya.net, Gas tank explosion caused 'bright light, loud sound' in Tehran: Iranian official,  June  26,  2020

    ・Tankstoragemag.com, Industrial gas tank explodes in Tehran,  June  29,  2020

    ・English.alaraby.co.uk, Iran defence ministry says exploding gas tank caused overnight Tehran blast, no casualties reported,  June  26,  2020

    ・Theiranproject.com, No conclusion on Parchin gas explosion’s link with cyber-attack: Jalali,  June  28,  2020

    ・Theiranproject.com, Everything under control in Parchin area: Defense Ministry spokesman,  June  26,  2020

    ・En.radiofarda.com, What Iranian Authorities Hid About The Big Explosion In East Tehran,  June  27,  2020

    ・Akhbaralaan.net, انفجار غامض يهزّ شرقي طهران,  June  27,  2020



後 記: 今回の事故は、日本でも報道され、真夜中の閃光という映像ということで興味を持ち、海外ではどのように報じられているか調べることとしました。結局は事実は分からないということでした。

 一方、分かったこともありました。それは、イランといえば言論統制されている国と思っていましたが、一概にそうではありませんでした。2020年度報道の自由度ランキングでは、確かに173位(日本66位)と非常に良くないのですが、公共エリアで起こったガスタンク爆発事故で、なぜ国防省が発表するのかという質問が出るくらいのまともさがあります。閃光動画を分析して発災場所を類推したり、タンク被災写真に疑問を持ったり、国内には情報オープン化に対して健全なところが残っていると思いました。

 余談ですが、報道の自由度ランキングでは、2010年に日本は11位になったこともあります・・・