2017年11月27日月曜日

バーレーンで原油パイプラインが爆発・火災、テロによる破壊活動か

 今回は、2017年11月10日(金)、バーレーン北部行政区に敷設されている国営のバーレーン・ペトロリウム社の原油パイプラインが爆発して火災を起こした事例を紹介します。
(写真はTwitter.com から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、バーレーン(Bahrain)北部行政区(Northern Governorate)に敷設されている国営のバーレーン・ペトロリウム社(Bahrain Petroleum Company: Bapco)のパイプライン施設である。

■ 発災があったのは、バーレーン・ペトロリウム社の主要なパイプラインの一本で、北部行政区アァリ(A‘ali )のブリ村(Buri)を通っている原油パイプラインである。

■ この原油パイプラインは、ABラインと称され、アブサファ油田から生産される原油をバーレーンのシトラにある製油所へ移送する。パイプラインの移送能力は230,000バレル/日(36,600KL/日)で、長さは約55kmである。パイプラインは3本あり、発災したのはこのうちの1本で、AB3ラインである。
バーレーン北部行政区のブリ村(Buri)周辺
  (図はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年11月10日(金)午後10時頃、首都マナマから約15km離れたブリ村を通っているバーレーン・ペトロリウム社の原油パイプラインが爆発し、大きな火災を起こした。

■ 発災があったのは、バス停の近くで、火炎と黒煙が夜空に舞い上がり、近くにあった車や建物が壊れた。炎の高さは最大約50mに達した。発災現場から約200m離れた場所にいた住民のひとりは、「炎が空高く上がっているのを見てびっくりしました。私は友人の家にいたのですが、家族のことが気になって家の方へ向かって駆け出しました。素足で出たので、アスファルト道路の上でケガをしたのに感じてないほどでした。私は家族とともに悪夢のようなところから必死に抜け出しました。空が燃えているようで、油が雨のように降っていました」と語った。

■ ブリ村で爆発のあったパイプライン部は、地下埋設でなく、地表に露出している箇所だった。

■ 火災発生に伴い、消防隊が出動し、現場に午後10時19分に到着した。消防隊は火の出ているパイプラインのそばにある2本のパイプラインについて冷却作業を始めた。

■ 現場近くの住民は安全な場所へ避難し、道路は警察によって交通規制が行われた。

■ 火災場所の近くに住んでいる人の中には、被災が及ばないようにガスボンベを取り外し、トラックで遠く安全な場所に移した人もいた。

■ バーレーン・ペトロリウム社は、発災のあったパイプラインの運転を停止した。その後、パイプラインの火災は制御下に入った。

■ この事故による死傷者は報告されていない。
(写真はRt.comから引用)
被 害 
■ 原油パイプラインの一部が損壊した。原油移送を停止するまで、内部の油が焼失した。

■ 現場近くにあった車や建物が壊れた。初期調査では、車両28台、住宅12軒、店舗4軒が損害を受けた。

■ 事故に伴う死傷者はいなかった。現場近くの住民が安全な場所へ避難した。
  
< 事故の原因 >
■ 事故の原因は、調査中である。

■ バーレーン政府は、テロ攻撃という不法行為による故意の過失だとみている。この背景には、バーレーン政府が支配しているのはイスラム教スンニ派であり、バーレーンで多数派のシーア派による抗議や散発的な暴力事件が起こっており、政府は長年悩まされている。バーレーンのシーア派はイランのシーア派の支援を受けているといわれている。 

 < 対 応 >
■ この爆発事故の犯行声明は出ていない。しかし、翌11月11日(土)、バーレーン内務省は、この爆発・火災の原因がイランの関与するテロリストの破壊活動だったと述べ、イランを非難した。一方、イランでは、外務省がこの話に対して「虚偽の話であり、子供じみた告発だ」と反論した。

■ 警察は容疑者を特定するための捜査を行っている。

■ 検察当局は事故について言及し、爆発の原因をつきとめるための調査を始めた。現場近くの道路は11月12日(日)も閉鎖されており、事故原因の調査が終了するまで通行が規制された。

■ 事故を受けて油田からバーレーンへの原油移送を一時停止していたが、影響を受けなかった2本のパイプライン(AB1ラインおよびAB2ライン)を介して製油所への供給を再開した。なお、バーレーン・ペトロリウム社は、11月13日(月)、事故のあったAB3ラインの修理が完了し、パイプラインの移送能力は完全に回復したと発表した。
 (写真はOrg.comから引用)
(写真はNewssofbahrain.comから引用)
 (写真はTwentyfoursevennews.com から引用)
 (写真はNewssofbahrain.comから引用)
補 足 
■ 「バーレーン」(Bahrain)は、正式にはバーレーン王国で、中東・西アジアの立憲君主制の国である。人口は約142万人で、ペルシャ湾のバーレーン島を主島として大小33の島から成る。王家のハリーファ家はイスラム教スンニ派であるが、国民の大多数はシーア派が占める。1994年以降、シーア派による反政府運動が活発になっている。
 「北部行政区」(Northern Governorate)は、バーレーンを統治する4つの行政区のうちのひとつで、北西部に位置し、人口約28万人の行政区である。
 「アァリ」(A‘ali )は、北部行政区の東中央に位置し、人口約10万人でバーレーンで最大の町のひとつである。「ブリ村」(Buri)は、アァリの町区域にあり、バーレーン国内で最も古い村のひとつである。
バーレーン(Bahrain)および周辺国   
 (図はGoogleMapから引用)
■ 「バーレーン・ペトロリウム社」(Bahrain Petroleum Company: Bapco)は、1929年にカルテックス石油の子会社として設立され、1997年にバーレーン政府が全所有権を引受け、国営の石油会社となった。原油の約1/6はバーレーン国内の油井で生産されたものであるが、残りはサウジアラビアと共同所有しているアブサファ油田からパイプラインを通じて供給されている。なお、アブサファ油田の操業はサウジアラビアのサウジ・アラムコ社が行っており、原油はサウジアラビア経由でバーレーンに移送されている。今回の事故時のパイプラインの送液停止はバーレーンからの要請でサウジアラビアが行っている。現在、アブサファ油田からの原油供給量を増やす計画が進められている。なお、シトラにはバーレーン唯一の精製能力26万バレル/日の製油所を保有している。
バーレーンの油田とパイプライン
  (図はFanack.comから引用)
所 感
■ 石油パイプラインの事故としてはつぎのような事例がある。その事故原因は違法行為、腐食、地すべりなどいろいろな要因があり、パイプラインには潜在的なリスクがあるといえる。

■ 今回の事例は原因が特定されていないが、テロによる破壊活動だとすれば、死傷者は出ず、パイプラインの被害や影響も意外に大きくなかったと言える。バーレーン・ペトロリウム社は、事故から3日後の11月13日(月)には、パイプラインの修理を完了させたと発表している。(配管損傷部分を切断し、安全対策を行ってフランジを溶接した後、新しいフランジ付き配管を取り付ける工事であれば、短期間で可能ではあるが)


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
   ・Reuters.com,  Bahrain Calls Pipeline Blast ‘Terrorism' Linked to Iran,  November 12,  2017 
  ・Aljazeera.com,  Iran Rejects Involvement in Bahrain Pipeline Blast,  November 13,  2017
    ・Abcnews.go.com , Bahrain Says Militants Hit Oil Pipeline, Opening New Front ,  November 11,  2017
    ・Gulfnews.com,  Bahrain Pipeline Blast Was Act of Sabotage,  November 11,  2017
    ・Washingtoninstitute.org,   Bahrain Pipeline Explosion Seen as a Warning from Iran,  November 14,  2017
    ・Ogj.com, Bahrain blames Iran for oil pipeline blast,  November 13,  2017
    ・Businesswire.com, Response to Bapco Pipeline Incident,  November 13,  2017
    ・Rt.com,  Bahrain blames Iran for ‘ Terrorist sabotage’ after Oil Pipeline Explosion,  November 11,  2017
    ・Newsofbahrain.com , Night of Horror for Residents of Buri,  November 12,  2017
    ・Firedirect.net,  Bahrain Blames Iran for Oil Pipeline Blast,  November 16,  2017
    ・Hazmatnation.com,  Oil Pipeline Blast Linked to Iranian Terrorism,  November 12,  2017
    ・Bapco.net ,  Response to Bapco Pipeline Incident ,  November 13,  2017



後 記: 今回の事例の報道は圧倒的に政治的要素の記事が多いものでした。どのような発災状況か分からないうちから、バーレーン政府はイランが支援しているテロによる破壊活動だと発表した内容や背景などを記載したものが多く、事例としての事実の記事を探すのに時間がかかりました。
 つねづね事故はその国の国情を反映していると思っていますが、今回のバーレーンの事故は、メキシコのパイプラインからの油窃盗やケニアのガソリン抜き取りなどの貧しさが背景にある事故と異なっていることを感じざるを得ません。中東はどうなっているのでしょうかね。イスラム教のスンニ派とシーア派の違いについてはインターネットにいろいろ掲載されています。私も見ましたが、疑問を感じる方にひとつだけ紹介しておきます。「教えて! 尚子先生 イスラム教・スンニ派とシーア派の違いは何ですか?【中東・イスラム初級講座・第9回】」

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