(写真はReuters.comから引用)
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< 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、カナダのトランスカナダ社(TransCanada
Corp.)の石油パイプライン施設である。
■ 発災があったのは、カナダのオイルサンドによる原油を米国へ輸送するキーストン・パイプライン(Keystone
Pipeline)である。パイプラインは、カナダのアルバータからノース・ダコタ州、サウス・ダコタ州、ネブラスカ州、カンサス州、ミズーリー州を通ってイリノイ州とオクラホマ州の製油所につながっている。輸送量は約60,000バレル/日(9,540KL/日)である。
発災があった場所は、サウス・ダコタ州(South
Dakota)マーシャル郡(Marshall County)アマースト(Amherst)の村である。
カナダから米国各州を横断するキーストン・パイプライン
(図はBbc.comから引用)
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アマースト(Amherst)付近 (矢印が発災場所)
(写真はGoggleMapから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年11月16日(木)午前6時頃、トランスカナダ社キーストン・パイプラインで圧力低下が検知された。場所はノース・ダコタ州にあるラドン・ポンプ・ステーションから南の配管部で、漏洩が発生したものとみられた。
■ トランスカナダ社は、直ちパイプラインの運転を停止し、15分後にラドン・ポンプ・ステーションから南の35マイル(56km)の間のサウス・ダコタ州に敷設されたパイプラインを孤立させ、緊急事態対応基準による行動をとった。
■ トランスカナダ社によると、漏洩量は5,000バレル(818KL)と推定された。
(写真はTranscanada.comから引用)
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■ 11月16日(木)、トランスカナダ社は、パイプラインの空中パトロールにおいてサウス・ダコタ州マーシャル郡アマーストの農地に油の漏洩部を発見し、その写真を同社ウェブサイトのツイッターで公開した。
■ 油が漏洩した場所は、アマーストの村から南東に約2.5マイル(4km)の農地の中にある保存維持区域で、土壌の汚染エリアは半径約100ヤード(90m)に及んだ。近くの住民によると、現場は油の強い臭気が漂っているという。
■ サウス・ダコタ州環境・天然資源省(South
Dakota Department of Environment and Natural Resources)は、担当者を現地へ派遣した。環境・天然資源省では、地表水に影響するような農地への漏洩ではなく、飲料水系への脅威も無いとみている。
被 害
■ 漏洩した油で半径約90mの範囲の土壌が汚染された。
漏洩油は推定約818KLで、漏洩した油の回収(約168KL)と土壌汚染の浄化が行われている。
■ 事故に伴う負傷者は無かった。
■ パイプラインが漏洩するような損傷をした。損傷状況は公表されていないが、損傷部は取替え工事が行われた。
パイプライン漏洩の場所(矢印)
(写真はAberdeennews.comから引用)
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パイプライン漏洩汚染エリア
(写真はAberdeennews.comから引用)
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< 事故の原因 >
■ パイプラインの漏洩原因は調査中である。連邦政府の関係者によると、パイプライン漏洩は2008年の建設時におけるダメージによるものとみている。
■ 漏洩部の損傷部分の予備調査はトランスカナダ社とパイプライン・危険物安全局(PHMSA)の両者で行われているが、結果は公表されていない。また、損傷原因は国家交通安全委員会(National
Transportation Safety Board)の金属材料研究所で行われている。
< 対 応 >
■ トランスカナダ社は、11月17日(金)から漏洩箇所について24時間体制でクリーンアップ作業を開始した。75名の作業員のほかに、トランスカナダ社は環境管理、金属材料、エンジニアリングの各専門家を派遣してサポート体制をとった。
■ 11月17日(金)には、パイプライン・危険物安全局(PHMSA)、サウス・ダコタ州環境・天然資源省などの州政府機関が現場に担当者を派遣して調査を行っている。
■ 11月18日(土)、現場では、漏洩区域に野生動物が侵入することを防ぐ対策がとられた。また、大気汚染(空気質)のモニタリング装置が設置され、24時間監視している。これまでのところ、重大な懸念事項は無いという。
■ 11月19日(日)、現場では、作業員が150名に増員され、クリーンアップ作業が24時間体制で進められた。また、漏洩区域へ重機が搬入できるように砂利道が整備され、ダンプカー、掘削機、ブルドーザーによる土壌の浄化作業が行われた。作業は数週間かかるとみられる。
■ 11月24日(金)、トランスカナダ社は作業員170名の24時間体制でクリーンアップ作業を行い、これまでに44,400ガロン(168KL)の油を回収したと発表した。また、漏洩箇所は23日(木)までに特定し、すべてを掘り起こす作業が始められ、26日(日)までに終了予定である。損傷部分の予備検査はトランスカナダ社とパイプライン・危険物安全局(PHMSA)の両者で行い、その後、ワシントンD.C.に送られ、国家交通安全委員会(National
Transportation Safety Board)の金属材料研究所で調査が行われる予定だという。
■ 大気(空気質)のモニタリングは継続して行われており、11月24日(金)時点で問題は生じていない。水系に関しても懸念事項はないが、トランスカナダ社は安全上の予防措置として、現場から約1.5マイル(2.4km)離れた場所の飲料水用井戸のサンプルを採取し、正常であることを確認したという。
■ 11月27日(月)、トランスカナダ社は停止していたパイプラインの修理が終了したので、28日(火)に運転を再開すると発表した。同社によると、パイプラインの修理と運転再開計画についてはパイプライン・危険物安全局(PHMSA)の確認を得たという。
■ トランスカナダ社のパイプラインには電子漏洩検知装置が設置されていたが、今回の漏洩箇所に対して漏洩検出や漏れ兆候を検出できなかったことについて、パイプライン・危険物安全局(PHMSA)は改善を指示している。
パイプライン漏洩場所付近
(写真はAberdeennews.comから引用)
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パイプライン漏洩場所付近で作業するトランスカナダ社などの人員・車両
(写真はMedia.graytvnc.com
から引用)
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クリーンアップ作業
(写真はTranscanada.comから引用)
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クリーンアップ作業の現場事務所
(写真はAberdeennews.comから引用)
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クリーンアップ作業
(写真はAberdeennews.comから引用)
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クリーンアップ作業
(写真はAberdeennews.comから引用)
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< 事故後の反応 >
11月16日(木)の事故発生して12日後の28日(火)には、パイプラインの運転が再開されたが、メディアでは、トランスカナダ社のパイプラインの安全管理や新規のパイプライン計画について、つぎのような懸念を示す意見が出されている。
■ パイプラインの漏洩は今回が初めてではなく、2016年4月、サウス・ダコタ州の南東部で流出事故があり、1週間運転が停止された。私有地に流出した量は77KLとみられている。連邦規制当局によると、原因はパイプラインの溶接欠陥によるものだという。この漏洩事故では、水系や地下の帯水層への影響は無かった。
2016年4月のパイプライン漏洩事故時のクリーンアップ作業
(写真はDesmogblog.comから引用)
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パイプラインの上にサドルを設置する工事の例
(写真はTwitter.comから引用)
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■ 連邦政府の関係者によると、今回のサウス・ダコタ州のパイプライン漏洩は2008年の建設時におけるダメージによるものとみている。パイプライン敷設時に、水による浮力の問題の対策としてパイプラインの上にコンクリートのサドルを載せて設置した。約10年の間にパイプラインにかかるサドルによる重量がパイプライン自身とコーティングに損傷を与えた可能性があるという。
漏洩箇所の近くの農地の所有者によると、パイプラインが敷設されるとき、土地は湿潤状態だったが、時を待つ余裕はないと、工事は強行されたと語っている。
■ トランスカナダ社のキーストン・パイプラインは、2010年の事業開始前に規制当局へ提出したリスク・アセスメントに記載されたものと比べ、実際には、漏洩事故が多発し、漏洩した量も多いことが分かった。
既存のキーストン・パイプラインは全長2,147マイル(3,455km)で、2010年操業開始後、米国内において3回の大きな漏洩事故を起こしており、今回のサウス・ダコタ州の約818KLの漏洩事故のほか、2011年にノース・ダコタ州で約64KLの漏洩、2016年にはサウス・ダコタ州で約77KLの漏洩事故がある。
パイプライン建設前、トランスカナダ社のリスク・アセスメントでは、50バレル(8KL)を超えるような漏洩事故の可能性は、米国におけるパイプライン全長にわたって7~11年に1回以下だとしていた。さらに、2回の漏洩事故のあったサウス・ダコタ州では、41年に1回以下となっていた。
(図はInsideclimatenews.orgから引用)
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■ トランスカナダ社のパイプライン保有距離は、計画中のキーストンXLパイプラインを含めると、全長2,687マイル(4,300km)になる。キーストンXLパイプライン計画はオバマ政権時に凍結されたが、トランプ大統領は2017年3月に連邦政府の許可を出した。しかし、キーストンXLパイプラインは環境保護団体、アメリカ先住民族、地主の一部から強固な反対に遭っている。
なお、キーストンXLパイプラインはモンタナ州、サウス・ダコタ州、ネブラスカ州を横断する計画であるが、トランスカナダ社の流出解析によれば、1.5バレル(240リットル)以下の漏洩は10年間に2.2回と推定されている。1,000バレル(159KL)を超えるような漏洩は100年間に1回と推定されている。
補 足
■ 「サウス・ダコタ州」は、米国中西部に位置し、グレートプレーンズ(大平原)にあり、州の中央にはミズーリ川が南北に流れており、州の東と西は地理的にも、社会的にもはっきりした特徴があるといわれる人口約82万人の州である。「ノース・ダコタ州」は、サウス・ダコタ州の北に位置し、カナダと国境と接する人口約68万人の州である。
「マーシャル郡」(Marshall
County)は、サウス・ダコタ州の北東部に位置し、人口約4,600人の郡である。
■ 「トランスカナダ社」(TransCanada
Corp.)は、1951年に創業したカナダのカルガリーに本拠をおくエネルギー会社で、北米で原油、天然ガス、発電事業を展開する。今回、事故のあったキーストン・パイプライン(Keystone
Pipeline)は、カナダのアルバータからノース・ダコタ州、サウス・ダコタ州、ネブラスカ州、カンサス州、ミズーリー州を通ってイリノイ州とオクラホマ州の製油所につながっている。輸送量は約60,000バレル/日(9,540KL/日)であるが、現在、さらに増量を果たすためのキーストンXLパイプラインが計画されている。
所 感
■ 漏洩原因はパイプラインの建設時に問題がありそうである。この種の問題としては溶接欠陥、防食コーティングの不良、配管敷設上の不良などである。特に、今回は水の浮力対策としてパイプラインの上にコンクリートのサドルを載せる工法に疑問が出されている。かなり荒い工事が行われているという印象をもつ。
■ トランスカナダ社の発災事業所としての対応は速い。パイプライン圧力低下から漏洩事故と判断し、緊急停止によるパイプライン孤立の確立、空中パトロールの実施、関係機関への連絡、担当者の現場派遣、ウェブサイトでの事故情報の掲載、クリーンアップ作業の手配、損傷部位の調査、損傷配管部の取替工事と極めて迅速に行われている。そして、事故後12日で運転を再開している。
一方、一連の動きの中で肝心な点は意図的に明らかにしていないと感じる。漏洩の原因になった損傷部位の状況はまったく語っていないし、汚染土壌の状況も語っていない。ウェブサイトでは、一般的な質問に対する回答のコーナーを設けているが、内容は常識的なことで、事前に作成されたものを掲載しているという感じである。パイプラインの上にサドルを載せた工法に疑問が持たれている中で、取替え工法について言及されていない。配管漏洩原因を明らかにせず、漏洩現場ではクリーンアップ作業中(汚染土壌の浄化)に、運転再開を果たしているが、このような進め方がカナダや米国では認められることに疑問を持つ。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Transcanada.com,
Amherst incident, Response
underway, November 16~27, 2017
・Nytimes.com, Keystone Pipeline Leaks 210,000 Gallons of
Oil in South Dakota, November 16, 2017
・Reuters.com,
Keystone Oil Pipeline Leaks in South Dakota, as Nebraska Weighs XL
, November 16, 2017
・Ksfy.com , Landowner near Keystone Pipeline Leak Says He
isn't Surprised, November 17, 2017
・Reuters.com,
Keystone Oil Pipeline Leaks in South Dakota, as Nebraska Weighs XL
, November 16, 2017
・Chicagotribune.com , Keystone Leak Won't Affect Nebraska
Ruling Because Regulators Can't Consider Pipeline Safety , November 17,
2017
・Firedirect.net, Major Oil Leak Reported from Keystone
Pipeline, November 20, 2017
・Globalnews.ca,
Keystone Pipeline will Reopen Tuesday after Leak
Repaired, November 27, 2017
・Globalnews.ca,
Keystone Pipeline Leak in South Dakota Likely Caused by 2008 Damage: Report
, November 28, 2017
・Reuters.com, Keystone's
Existing Pipeline Spills far more than Predicted to Regulators, November 27,
2017
・Accuweather.com, Environmental Concerns mount as Keystone
Pipeline Leaks more Oil than Predicted,
November 29, 2017
・Aberdeennews.com , Collection: Photos and Graphics of
Keystone Oil Leak in Marshall County,
November 29, 2017
・Kelofm.com, A harshly Placed ‘Saddle' to Blame for
Keystone Spill?, November 30, 2017
後 記: 以前、パイプライン漏洩事故に対して信じられないくらい(米国民は)鈍いように思うと感想を述べたことがありますが、今回、改めてそのように感じました。当該事故のような多量漏洩であっても補修すれば終わりという感覚のように思います。今回の事故では、米国民でなく、企業および関係機関がそうだと感じました。事故を小さくみせようというのは、事故当事者の心理です。今回、漏洩場所の空撮の写真を公表していますが、横に走っている水路が写っていない映像を選んでいます。この写真を見たメディアの中には、「近くに町は無く、水路にも影響のないところのように見える」という記事を書いています。このあと、別なメディアがドローンや飛行機で撮った漏洩場所と水路の見える写真(当ブログ標題の写真など)を掲載し、注目されたようです。
一方、今回の漏洩事故は完全に政治的な話の展開になっています。米国の大手メディアも取り上げ、当該パイプラインの信頼性に対する疑問が提起されている上に、オバマ政権時に凍結されたキーストンXLパイプライン計画がトランプ大統領によって許可された判断についての意見が出されています。当ブログでは、事故の内容を本筋としていますので、政治的な話は最小限に留めました。
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