2016年7月14日木曜日

米国カリフォルニア州で今年も原油パイプラインから流出事故

 今回は、2016年6月23日、カリフォルニア州ベンチュラ郡のホール・キャニオンと呼ばれる小さな峡谷で、クリムゾン・パイプライン社の原油パイプラインから原油が流出した事故を紹介します。
(写真Sandiegouniontribune.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、米国カリフォルニア州にあるクリムゾン・パイプライン社(Crimson Pipeline, LLC)の原油パイプラインである。クリムゾン・パイプライン社は2005年に設立された株式非公開企業で、カリフォルニア州ロサンジェルスを中心に1,000マイル(1,600km)のパイプラインを保有し、1日当たり20万バレル(32,000KL/日)の油移送業務を行っている。

■ 発災のあったのは、カリフォルニア州ベンチュラからロサンジェルスへの原油パイプラインで、呼び径10インチの埋設配管で、1941年に敷設されている。原油は原油・天然ガス掘削会社のアエラ・エナージ社(Aera Energy LLC)が生産したものである。

■ カリフォルニア州では、13か月前にサンタバーバラ郡でプレインズ・パイプライン社(Plains Pipeline, LP)の原油パイプラインから約2,500バレル(400KL)の原油が漏洩し、海上に流出する事故が起こっている。 2015年6月8日、「米国カリフォルニア州で原油パイプライン漏洩による海上流出」を参照)
               ベンチュラ付近 (写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年6月23日(木)午前5時半頃、カリフォルニア州ベンチュラ郡(Ventura)ベンチュラ市のホール・キャニオン(Hall Canyon)と呼ばれる小さな峡谷で、埋設されたパイプラインから原油の漏洩しているのが発見された。

■ ホール・キャニオン地区は住宅地になっており、住民のアトウォータさんが原油の臭いと流れる音を感じ、緊急通報911に連絡した。「ひどい臭いがしてきて、それが何であるかすぐわかりました」と語っている。アトウォータさんはバイクで峡谷の方へ向かって走っていくと、地下ピットからまるで消火栓から放出される水のように油が噴き出しているのを見つけた。アトウォータさんはパイプライン会社の電話番号を調べ、漏れの状況を報告した。

■ クリムゾン・パイプライン社では、カリフォルニア州ロングビーチにある計器室でパイプラインの移送を司っているポンプの運転を停止するとともに、点検員を派遣した。

■ 前日まで乾いていたホール・キャニオンの谷底部が流れ出た油で真っ黒に汚れていた。

■ 発災に伴いベンチュラ消防署が対応に出動した。消防士およびハズマット隊は油が広がらないよう防止堤を構築した。堤構築にはブルドーザー1台が使用された。漏洩箇所はベンチュラ郡の海岸沿いを走る高速道路101号線近くで、原油は1/2マイル(800m)ほど流れたが、道路を横切る雨水排水溝を通って海に流れ込むことはなかった。

■ 当初、推定漏洩量は5,000バレル(800KL)と発表されたが、後に500バレル(80KL)に変更された。

被害
■ 事故に伴う負傷者は無かった。油流出部は鹿などの野生動物のけもの道になっており、懸念されるが、影響を受けた動物の報告はないという。

■ 油漏洩発見の通報が早かったために、海へ流出するまでに至らなかったとみられている。
(写真Zimbio.comから引用)
(写真Foxnews.comから引用)
< 事故の原因 >
■ 漏洩はパイプライン中のバルブ付近で起っているが、原因は調査中である。
 (調査はカリフォルニア州および連邦政府機関による調査チームによって行われている)
 
■ クリムゾン・パイプライン社によると、前日の6月22日(水)にパイプラインを停止し、バルブ交換の工事を行ったという。 このため、発災時には通常運転に入っておらず、漏洩警報システムは作動しなかった。漏洩要因のバルブが開いていたという情報もあり、バルブに何らかの問題があったとみられる。

■ 2006年以来、クリムゾン・パイプライン社による油の漏洩または事故の件数は11回あり、漏洩した油の合計は313,000ガロン(1,180KL)である。2008年に起きた事故では、280,000ガロン(1,060KL)の油が漏洩している。事故の1/3は設備不良であった。漏洩原因の4件は腐食によるもので、2件は埋設時の損傷によるものだった。

< 対 応 >
■ クリムゾン・パイプライン社は清掃専門会社に依頼し、6月23日(木)の午後から流出エリアのクリーンアップ作業を始めた。クリーンアップ作業には100名の人たちが動員され、吸収マットやバキューム車のほか、谷底部の油溜まりの清掃には回収ポンプとタンクローリー車が投入された。

■ 当局では、クリーンアップ作業の工程表を提示できなかった。カリフォルニア州は、クリーンアップ作業の状況をモニタリングするため、クリムゾン・パイプライン社と協同で作業を行うこととした。クリーンアップ作業は少なくとも週末まで続くだろうと報じられる一方、クリーンアップに携わっている人によると、峡谷は岩だらけで作業しにくく、どのくらいの日数がかかるか分からないという。
 
■ ベンチュラ消防署によると、2週間前に消防隊はクリムゾン・パイプライン社や清掃会社と合同で流出油対応の訓練を行っていたという。この訓練では、流出防止堤の構築を含んでいた。

■ ベンチュラ市は、7月5日(火)、クリムゾン・パイプライン社に対してパイプラインのメンテナンス、補修、検査に関するすべての記録を7月18日(月)までに提出するよう命じた。また、パイプラインを再開するまでに、流出量およびクリーンアップ工程と結果に関する情報の提示を要請した。
(写真Zimbio.comから引用)
(写真は左:KCLU.org、右: LAtomes.comから引用)
(写真Zimbio.comから引用)
写真はグーグルマップから引用
(写真Metroforensics.blogspot.jpから引用)
(写真は左:Metroforensics.blogspot.jp、右:Breakingnews.comから引用)
補 足
■ 「カリフォルニア州」は、米国西部に位置し、太平洋岸の州で、人口約3,880万人である。州都はサクラメントである。 
 「ベンチュラ郡」(Ventura)は、カリフォルニア州南部に位置し、人口約85万人の郡である。
 「ベンチュラ市」は、正式にはサン・ブエナベンチュラ(San Buenaventura) といい、ベンチュラ郡の首都で、人口約10万人の都市である。

■ クリムゾン・パイプライン社(Crimson Pipeline, LLC)のウェブサイトには、パイプライン系統図が紹介されている。しかし、今回の事故に関するニュースについての掲載はない。
        クリムゾン・パイプライン社のパイプライン系統図 (写真Crimsonpl.comから引用)
所 感
■ 漏れの原因はバルブにあるとみられるが、このバルブの種類がパイプラインの開閉弁なのか、空気弁なのかはっきりしていない。状況からみて可能性としては空気弁の方が高く、パイプラインの通油を始めた際に空気弁が開き放しになったのではないだろうか。いずれにしても、バルブを交換したあとの漏れの有無確認は通油時に行うべきであり、当該バルブ箇所に立会者がいなかったのが、漏洩の大きな要因のひとつであろう。パイプラインのメンテナンス方法や運転方法に問題があると思われる。

■ 発見者の通報が早く、海上への油流出にならなかったのは幸いだったといえる。しかし、クリーンアップは乾燥状態にある峡谷という作業困難な場所であり、岩などにこびりついた油が1週間程度で終わるとは思われない。さらに、雨が降れば、未清掃の油分が海上へ流れる可能性があり、時間にも余裕はなく、大動員をかけるか、小型の重機を導入して付着の岩や土砂を運び出す方法などをとる必要があろう。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・ABCNews.go.com, Pipeline Spews Crude in California But None Reaches Beach, June 23, 2016   
    ・Usnews.com,  California Oil Spilled near Pipeline Valve, June 23, 2016
    ・LAtimes.com,  Ventura Oil Spill Misses The Ocean, But Damage on Land Is Unclear, June 23, 2016
    ・TheAtlantic.com,  An Oil Spill in California, June 23, 2016
    ・Foxnews.com, Pipeline Spews Crude in California But None Reaches Beach, June 23, 2016
    ・CBS8.com,  Up to 210,000 Gallons of Oil Spills from California Pipeline, June 24, 2016
    ・Firedirect.net,  29,000 Gallons of Crude Spews from California Pipeline, June 30, 2016
    ・KCLU.org,  Oil Spill Cleanup in Ventura County Will Continue at Least through Weekend, June 24, 2016
    ・Sandiegouniontribune.com,  Ventura Subpoenas Oil Spill Records,  July 05, 2016



後 記: 今回の情報をみていると、過去に随分漏洩などの事故が起こっています。油流出事故対応の訓練をやっているようですが、ある面、漏洩事故に対して信じられないくらい(米国民が)鈍いように思います。原油が身近に出る国で、パイプラインを張り巡らしている国だからでしょうか。今回の発災場所を特定しようとグーグルマップをなめるように見ていったところ、パイプラインは峡谷を架空横断しています。防護策や補強が十分なのか首を傾けたくなる状態のように思いました。カリフォルニア州は、日本と同様、活断層による地震の多い州ですが、原油パイプラインは大丈夫なのでしょうか。熊本地震による阿蘇大橋の倒壊を見ているので、余計に感じます。


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