タンク固定泡消火設備と消防車からの泡放射の状況 (写真はMainichi.j
pから引用)
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< 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、神奈川県横浜市磯子区にあるJXエネルギー(株)根岸製油所である。
根岸製油所は、1964年に操業を開始し、面積220万m2、周囲約12kmの敷地に270,000バレル/日の原油処理能力をもつ製油所である。最大時には385,000バレル/日の精製能力を有していた。貯油施設は、原油タンク17基で1,253,000KL、製品・半製品タンク31基で82,760,000KLの能力を有する。
■ 発災があったのは、貯油施設の原油貯蔵タンクで、容量約48,000KL、直径約70mの浮き屋根式タンクである。
横浜市磯子区根岸付近 (写真はグーグルマップから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年6月24日(金)午後1時45分頃、横浜市のJXエネルギー(株)根岸製油所の貯油施設にある貯蔵タンク1基から出火した。
■ 火災は、タンク浮き屋根上部から黒煙が発生したものである。発災当時、原油タンクはメンテナンスのため、内部の原油を抜く作業が行われていた。浮き屋根上で安全確認をしていた作業員が出入口を開けたところ、黒煙が上がったという。
(写真はRingosha.jpから引用)
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■ 発災に伴い、JXエネルギー社の自衛消防隊のほか横浜市消防局の消防隊が出動した。現場は首都高湾岸線沿いで横浜港に面しており、多数の消防車やヘリコプターが出動するなどして、周囲は一時騒然としたという。
■ 現場からは大量の黒煙が大きく立ち上っており、その煙は遠くからでも目視できるほどであった。火災現場の周辺では、上空にヘリコプターが飛び交うなど、騒然としていた。インターネット上では、「石油爆発?」、「大丈夫か」、「石油タンクから黒煙が・・・」、「防災メールがきた、心配」、「爆発しないといいけど」などという心配の声が多数見られた。
■ 浮き屋根式原油タンクの固定泡消火設備から消火泡を放出させるとともに、消防車から泡放射が行われた。この消火活動の結果、午後2時43分に鎮圧され、午後3時42分に鎮火が確認された。
被 害
■ 事故に伴う負傷者は無かった。
■ 浮き屋根式タンクの浮き屋根部の一部が焼損した。被災の範囲や程度は不明である。
火災の黒煙と上空を飛ぶヘリコプター (写真はTwitter,com.yokohamanoriから引用)
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< 事故の原因 >
■ 原因は不詳である。(公表されていない)
< 対 応 >
■ 事故発生に伴い、JXエネルギー社根岸製油所から横浜市消防局へ通報された。
■ 横浜市消防局は消防車等31台とともに現場に出動したほか、ヘリコプター1機を監視用に飛ばした。JXエネルギー社自衛消防隊は消防車等6台で対応に当った。
■ 消火活動の結果、午後2時43分に鎮圧され、午後3時42分に鎮火が確認された。
(写真はMainichi.j
pから引用)
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(写真はRingosha.jpから引用)
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補 足
■ 「横浜市」は、神奈川県の東部に位置し、同県の県庁所在地で、政令指定都市の一つであり、18区の行政区を持ち、人口は約373万人である。
「磯子区」は、横浜市の東南に位置し、根岸湾に面する区で、人口約166,000人である。沿岸部の低地の大半は埋立地であり、化学工業地帯となっている。
横浜市消防局の消防ヘリコプターの例
(写真はCity.yokohama.lg.jpから引用)
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■ 「横浜市消防局」は、1948年、神奈川県警察部消防部から分離し、自治体消防の横浜市消防局として発足した。一時、横浜市安全管理局と改称された時期があるが、現在は横浜市消防局に再改称されている。横浜市18区を管轄しており、消防署18箇所に職員約3,300人を擁する大きな組織体である。特別高度救助部隊(スーパーレンジャー)を編成しており、東日本大震災時に緊急消防援助隊を派遣したり、福島第一原子力発電所事故にも応援出動している。遠距離大容量送水装置など特殊車両を保有しており、今回、出動したようにイタリアのアグスタ社製の消防ヘリコプターを2機保有している。
所 感
■ 出火の原因は不詳であるが、「浮き屋根上で作業員が出入口を開けたところ、黒煙が上がった」という状況から考えられる要因はつぎのとおりである。
● 屋根のマンホール裏に付着した硫化鉄が発火し、火災となった。
● 屋根の裏面側の空間が爆発混合気の雰囲気になっており、マンホールを開け、何らかの作業(内部計測時の静電気あるいは不安全工具の使用による火花)によって着火した。
● ポンツーンに割れがあり、内部に油が浸入して爆発混合気の雰囲気になっていた。このポンツーンのマンホールを開けた際、何らかの作業(不安全工具の使用による火花など)によって着火した。
硫化鉄による問題はアスファルトタンクで事故があっているが、ほかのタンクでも事例(「製油所排水タンクに着火性硫化鉄が発生してマンホールの開放時に火災」、「室蘭製油所№242タンク火災事故原因調査報告書」を参照)がある。
■ 横浜市消防局では、人命救助を主目的として消防ヘリコプターを保有している。今回、この消防ヘリコプターが出動しているが、消防活動の観察手段として役立ったかどうか言及されていない。火災の詳細な状況はわからないが、リムシール火災ではないので、タンク固定泡消火設備からの泡放出は有効ではなかっただろうし、消防車からの泡放射によらなければならなかったと思われる。地上では状況の把握が困難で、標題の写真のようにタンク上空(上部)から観察しない限り、的確な泡放射箇所を指示することはできない。
最近紹介した「米国バトンルージュの貯蔵タンク複数火災における消火活動」でも、「ヘリコプターを使用して発災状況を鳥瞰(ちょうかん)的に把握できたことが役立った」とあるように、タンク火災ではヘリコプターあるいはドローンを活用すべき時代である。
(ドローンがタンク火災の上を飛んだ事例としては、「サモアの石油貯蔵施設で石油タンクが爆発して死者1名」を参照)
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Fdma.go.jp, JXエネルギー株式会社根岸製油所の火災について(第2報),
June 24, 2016
・Mainichi.jp, 横浜・製油所火災
原油タンクから出火、2時間後に鎮火, June 24, 2016
・Breaking-news.jp, 石油タンクから黒煙
根岸製油所付近で火災発生 横浜市中区千鳥町, June 24, 2016
・Noe.jx-group.co.jp,
根岸製油所内の火災について(お詫び), June 27, 2016
・Ringosya.jp, JX根岸で火事
神奈川県横浜市のJX日鉱日石エネルギー根岸製油所で石油タンクから黒煙発生, June 24, 2016
・Christiantoday.co.jp,
JXエネルギー根岸製油所の石油タンクから煙、火事か, June 24, 2016
・Stacknews.net, 製油所のタンクから煙
横浜, June 24, 2016
・Ikemenhage.blog.jp,
JXエネルギー根岸精油で火災・火事か 神奈川県横浜市, June 24, 2016
後 記: 今回の事例は公表されている情報をもとに素案を作成していました。日本で起ったので、当然、原因調査の結果が公表されると思い、1か月待ちました。実は、原因に関する話を得たのですが、一般には公表されないようなのです。未確認の情報をもとに書くわけにはいきませんので、火災が起ったという事実(と状況からの推測)の中途の内容で投稿に踏み切りました。
今回の事例で感じるのは、「失敗は隠れたがる」(失敗学のすすめ)ということです。火災情報は当該会社や所管官庁からウェブサイトで公開されましたが、原因(失敗)に関することは出てきません。一般に組織体ができると、経営方針では、CSR活動、内部統制システム、透明性の確保、社会的責任などの文言が並び、りっぱなことが書かれていますが、失敗が出ると、「無かったことにする」という意識が働くようです。これでは失敗が活かされず、世の中では失敗を繰り返すことになるでしょうね。
同感です。業界関係者は真摯に今後の改善につながれば・・・と考えているのですが、考える人が多いと思いたいのですが、、、ヒューマンエラーも含めてオープンにしていかないと同じ過ちを繰り返してしまいますね、悲しいですが。
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