2025年1月30日木曜日

スペインのバルセロナの貯蔵施設で酢酸メチルタンクが爆発・火災、死傷者5名

 今回は、 2025121日(火)、スペインのカタルーニャ州バルセロナにある化学製品の貯蔵会社のテプサ・イベリア・ターミナルにおいて作業員がタンクのメンテナンス作業を行っていたところ、タンクが爆発・火災を起こし、死傷者5名を出した事例を紹介します。

< 発災地域の概要 >

■ 発災があったのは、スペインSpainのカタルーニャ州CataloniaバルセロナBarcelonaにある化学製品の貯蔵会社;テプサ社Tepsaのテプサ・イベリア・ターミナルTepsa Iberia terminalである。テプサ社はバルク液体製品、特に化学製品の入荷、保管、再出荷に特化している。 

■ 事故があったのは、バルセロナ港にあるテプサ・イベリア・ターミナルの酢酸メチルMethyl acetateタンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2025121日(火)午前10時過ぎ、バルセロナ港のテプサ・イベリア・ターミナルのタンクが爆発し、火災が発生した。

■ 発災にともない、バルセロナ消防署は通報を受取り、消防隊が出動した。消防署の14の消防隊(消防士145名)が現場に派遣された。

■ バルセロナ港では、異常事態基準が発動されて対応した。

■ 事故は、工事請負会社の作業員がタンクのメンテナンス作業を行っていたところ、可燃性の高い酢酸メチルの入ったタンクで爆発が起きた。

■ 事故にともない、死傷者が5名出た。死亡したのはひとりで、重傷者1名が病院に搬送された。ほかの3名)は軽傷である。死亡した作業員と重傷を負った作業員は、タンクの溶接作業を行っていた。

■ 最初に消防隊が到着したとき、消防士は現場で火災の炎とともに投げ出されたと見られる作業員を目撃したと語っている。

■ 当局は化学物質流出の恐れがあると警告を発した。市は潜在的な危険に対処するため、化学物質リスク緊急計画を発動した。予防措置として近隣の企業には、従業員に対して事態が完全に収まるまで屋内に留まるよう勧告した。

■ 酢酸メチルは、塗料、ラッカー、クリーニング製品の製造において溶剤として使用される無色の液体である。酢酸メチルは可燃性が高いため、火気や熱源の近くで使用する場合には注意が必要であるが、有毒物質ではない。特徴的な果物の香りを持つ無色の液体で、その有用性にもかかわらず、長時間暴露または高濃度で使用すると、気道、目、皮膚に炎症を引き起こす可能性があり、吸い込むと神経系に影響を及ぼし、不快感やめまいを引き起こすおそれがあるという。

■ユーチューブでは、事故を伝える映像が投稿されている。

 Youtube Un muerto y 4 heridos en una explosión en un tanque inflamable en el Puerto de Barcelona2025/01/22

被 害

■ タンク1基が損壊した。

■ 死傷者が5名出た。内訳は、死者1名、重傷者1名、軽傷者3名である。 

< 事故の原因 >

■ 事故原因は調査中である。要因は、タンクのメンテナンス中、溶接の火花がタンク内に残留していた酢酸メチルの可燃性ガスに引火して爆発し、溶接をしていた作業員が死傷したものとみられる。 

< 対 応 >

■ 爆発後、タンク内で火災が発生したが、現場に到着した消防隊が40分後に消火した。

■ 2025121日(火)、事故後、テプサ・イベリア・ターミナルは、つぎのような第一報を発表した。「今朝午前1010分、バルセロナ港のテプサ・イベリア・ターミナルのタンク内で爆発が発生しました。安全プロトコルが直ちに発動されました。状況は安全です。死亡者が1名、負傷者1名が病院に搬送されたことを報告します。当社は、現在、事故の調査に関係当局と協力しており、その他の施設には影響はありません。事故に関する詳しい情報は近日中に発表される予定です」

■ 死亡した作業員と重傷を負った作業員は、タンクの溶接作業を行っていた。タンクは空だったと思われていたが、初期調査によると、ガス状の残留物が爆発の原因となった可能性があるという。爆発を引き起こした物質は可燃性が高いが、有毒性ではない。化学物質の危険に対する緊急計画が発動されたが、危険な漏れは発生しなかった。

■ 消防隊など対応部隊は、港から提供されたドローンを含むさまざまな資機材を使用して、被災地域について徹底的な調査を実施した。これらの取組みは、リスクを最小限に抑え、地域が安全であることを保証するためである。

■ 発生した火災はすでに消し止められたが、消防隊は現場に11名の隊員を配置しているという。現場周辺には、警戒区域が設定されており、事故原因の調査が進められている。

■ 122日(水)には、ターミナルは通常通り稼働しているという。

■ テプサ社や同港で操業する他の企業の従業員らは、同社のサービスに対するアウトソーシングが労働者の安全を犠牲にしてコスト削減を目的とした動きであると指摘していた。

■ メディアの中には、今回の事故について「産業災害の広範な影響」と称して、つぎのような所見を出した。

「バルセロナ港で起きた爆発事故のような産業事故は、直接的な被害をはるかに超えて大きな影響を与えています。この事故は、産業環境における厳格な安全規制の緊急の必要性を浮き彫りにしただけでなく、社会の回復力と緊急事態への備えに関するより広範な問題を提起しています。

 重要なインフラストラクチャーで惨事が発生すると、産業活動に対する一般市民の認識が一変する可能性があります。地域社会は、危険物質の管理に携わる企業にさらなる透明性と説明責任を求めるようになります。このような主張は、地方自治体が住民の安全を確保し、リスクを最小限に抑える産業慣行を推進しようとする中で、政策に大きな変化をもたらす可能性があります。

 今後、緊急対応活動において自動化とテクノロジーの統合が進む傾向が予想されます。消火活動におけるドローンの使用は、テクノロジーの進歩が将来の事故の安全性と対応時間を改善する可能性があることを示しています。業界が進化するにつれて、これらの災害から得た教訓は、より持続可能で安全な運用慣行への移行を促進し、最終的には長期的な社会的および環境的保護を確実にすることができます。

 結論として、バルセロナ港での悲劇的な爆発事故は、産業環境、特に揮発性物質を扱う産業環境における厳格な安全対策があることを強く示しています」

補 足                                                

■「スペイン」Spainは、正式にはスペイン王国で、北アフリカに領土を持つ南西ヨーロッパの国で、大陸ヨーロッパの最南端に位置し、人口約4,860万人の国である。

「バルセロナ」Barcelonaは、イベリア半島北東岸に位置し、地中海に面し、スペイン・カタルーニャ州バルセロナ県にあり、カタルーニャ州の州都であり、バルセロナ県の県都で、人口約164万人の都市である。国際的な観光都市であると同時に、国際会議が多く開かれる都市であり、政治・文化・学術の面で大きな影響力を持っている。

■「テプサ社」(Tepsa)は化学製品、バイオ燃料、農産物などの貯蔵を専門とする会社で、1964年からバルセロナ港で操業している。多くの場合、化学製品、石油化学製品、燃料またはバイオ燃料製品を扱っている。バルセロナの港に加えて、タラゴナ、バレンシア、ビルバオの港にも、ターミナルを所有しており、 4個所の港ターミナルで、合計 90KLのタンクを保有している。

■「発災タンク」は、内液が酢酸メチルMethyl acetateというだけで、大きさなどの仕様は報じられていない。テプサ・イベリア・ターミナル内での被災状況は炎が見えている写真だけで、設置場所もはっきりしない。

所 感

■ 今回の事故は、酢酸メチルの残液が入ったタンクの上で溶接作業を行っていて爆発を引き起こしたとみられる。この類似事例は少なくない。米国CSB(化学物質安全性委員会)がまとめた「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」20117月)で指摘されている対応策代替方法の採用、危険度の分析、作業環境のモニタリング、作業エリアのテスト、着工許可の発行、徹底した訓練、請負者への監督)が欠けていたものと思われる。

■ 類似事例の「ロシアのタタールスタン共和国で工事中の空のタンクが爆発、死者2名」202311月)では、爆発して作業員2名がタンク屋根から落下する映像が投稿されていた。事業者や請負会社においてタンク工事に関わる人は、この映像を忘れないよう切に祈る。

Взрыв на территории нефтегазодобывающего управления «Елховнефть»2023/06/30

■ 今回の事例では、ドローンが使用されたようだが、消防署が保有するドローンではなく、バルセロナ港から提供されたドローンだった。すでに世の中は、「危険物質の事故対応で、もはやドローンは欠かせない!」 20213月)状況を人口約164万人のバルセロナは強く認識したのではないだろうか。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである

     Tepsa.com, PRESS RELEASE – Tepsa Iberia terminal in the Port of Barcelona, January 21, 2025

     Surinenglish.com, One dead and four injured in Port of Barcelona explosion, January 22, 2025

     Portseurope.com, Explosion at Tepsa facility, Barcelona port, January 22, 2025

     English.news.cn, One dead, several injured in explosion at Port of Barcelona, January 21, 2025

     Worldcargonews.com, Fatal explosion at the Port of Barcelona, January 21, 2025

     Hazardexonthenet.net, Blast at Port of Barcelona kills one person, injures three, January 21, 2025

     Bulk-distributor.com, Barca explosion kills one, January 22, 2025

     Quest-ion.co.il, Tragedy Strikes Barcelona Port: Explosive Incident Claims Life, January 22, 2025

     Lavanguardia.com, Un muerto y un herido muy grave al explotar un tanque con un producto inflamable en el Port de Barcelona, January 21, 2025

     Elpais.com,  Una explosión en el puerto de Barcelona provoca un muerto y un herido de gravedad, January 21, 2025

     Portdebarcelona.ca, Comunicado sobre la deflagración en Tepsa, January 21, 2025

     Es.euronews.com, Un muerto y varios heridos tras una explosión química en el puerto de Barcelona, January 21, 2025

     Rtve.es, Un muerto, un herido crítico y tres leves en una explosión en el Puerto de Barcelona, January 21, 2025

     Lasexta.com, Un muerto y un herido en estado crítico tras una explosión en una planta química del Puerto de Barcelona, January 21, 2025

     Totbarcelona.cat, Un muerto y tres heridos en una explosión en el Puerto de Barcelona, January 21, 2025

     Elcaso.elnacional.cat, Un muerto y un herido crítico en una explosión en el muelle de inflamables del Port de Barcelona, January 22, 2025

    Diariosocialista.net, Un muerto y un herido crítico en una explosión en el puerto de Barcelona, January 27httpses-us.noticias.yahoo.comhttpses-us.noticias.yahoo.com, 2025


後 記: スペインの事例は「スペインのカタルーニャ州でアンモニア・タンクから漏洩、死傷者15名」20196月)で初めて取り上げましたが、メディアの記事を読んでも「事故情報は漠然とは理解できるが、事故原因を考えるような情報が無いという印象の事例」と所感に書きました。しかし、今回の事例でスペインの国情の一端を垣間見る気がしました。興味の対象が日本(正確にいうなら私)とは随分異なるようです。前回も「発災写真や事後写真が無く、写真は慌ただしく工場前に集まった人や車両のものしかない」という印象は今回もまったく同じです。火災の消えてしまった発災タンクには興味がないのでしょう。一方、記事の中に説明はありませんが、下のような写真(絵)を貼り付けているものもありました。


2025年1月24日金曜日

ロシア連邦タタールスタン共和国の石油タンクが長距離攻撃用無人機で被災

 今回は、2025114日(火)、ロシア連邦タタールスタン共和国首都カザンにあるプラントで火災が発生した事例を紹介します。火災が起きたのは、ガスプロム社が所有する液化天然ガス貯蔵プラントにおいて液化ガス燃料タンク3基で起きたとみられ、航続距離1,000kmのウクライナ製長距離攻撃用無人機「リュティ」が使われたと報じられています。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、ロシア連邦Russiaのタタールスタン共和国Republic of Tatarstan首都カザンKazanにあるプラントである。

■ 発災があったのは、プラント内にある石油タンクである。

< 事故の状況および影響 > 

事故の発生

■ 2025114日(火)夜、タタールスタン共和国カザンのプラントで火災が発生した。

■ 発災にともない、消防隊が出動した。

■ SNSでは、炎が空に向かって上がる様子を撮影した画像が投稿されている。

■ 事故にともなう死傷者は出なかった。

■ 火災が起きたのは、ガスプロム社Gazpromが所有する液化天然ガス貯蔵プラントで、液化ガス燃料タンク3基で発生したとみられる。

 一方、この液化天然ガス貯蔵プラントの近くには化学会社のカザノルグシンテス・プラントKazanorgsintez plantがあり、このプラントの石油タンクが火災になったと報じているメディアもある。なお、カザノルグシンテス・プラントはロシアで最も大きい化学会社の一つで、国内唯一のポリカーボネート生産者であり、エチレン、ポリエチレンなどの有機化学製品の生産者である。

■ タタールスタン共和国の首相は、消防隊がすぐに現場に到着し、消火作業に当たったといい、死傷者の報告はなく、深刻な被害も出ていないと語っている。

被 害

■ 液化ガス燃料タンク3基が火災になり、損傷した。

■ タンク内の燃料が焼失した。 

< 事故の原因 >

■ 戦争による軍事行動である。(平常時の“故意の過失”に該当)

< 対 応 >

■ 114日(火)早朝にタタールスタン共和国カザンで起こった事故は無人航空機(ドローン)による攻撃で、その結果、市の北郊で大規模な火災が発生したという。爆発の直前、近くのオシノヴォ村Village of Osinovo上空をドローンが飛ぶ音が聞こえ、その後プラントで爆発音が聞こえたという目撃者がいるが、地元当局は火災現場についてこれ以上の詳細を明らかにしていない。

■ タタールスタン共和国の知事によると、無人航空機(ドローン)は撃墜され、残骸がプラント敷地内に落下したといい、死傷者や大きな被害はなく、すべての企業は通常通り稼働していると語り、攻撃の責任はウクライナにあると主張している。

■ ウクライナ当局は、攻撃の背後に自分たちがいるとはまだ明言していない。火災はウクライナ国境から約1,000km離れた場所で発生している。ウクライナのメディアは、プラントの火災原因をすぐには確認できなかったと語っている。

■ 攻撃にはトルコの「バイラクタル」に似たウクライナ製長距離攻撃用無人機「リュティ」が使われたとみられる。この無人航空機は最大50kgの爆薬を搭載し、最大1,000kmを飛行できる。

■ 202518日(水)、ロシアのサラトフ州SaratovエンゲルスEngelsの石油貯蔵所で火災が発生し、 5日間連続で炎上した。この施設は1週間以内に2度目の無人航空機(ドローン)攻撃を受けたという。この石油貯蔵所は、ロシアのエンゲルス軍用空軍基地への主要な燃料供給元であり、無人航空機攻撃の少し前に、地元住民が数回の爆発音を聞いたという。この火災では、消防士2名が死亡したという。エンゲルスはウクライナ国境から約600km離れている。

■ 2025114日(火)、ウクライナは大規模な無人航空機(ドローン)とミサイルによる攻撃を開始し、ロシアの工場、化学工場、ガスタンクに被害を与えたという。ウクライナの200機以上の無人航空機(ドローン)がロシアを攻撃したとされる。火曜日の攻撃は、ウクライナによる今年最大の攻撃と報じられている。ウクライナの最新のミサイルと無人航空機(ドローン)攻撃は、ロシアのオリョール、サラトフ、ヴォロネジ、スミ、トゥーラを含むロシアの12地域とタタールスタン共和国を標的としたという。

 「ドローンはロシアの防空軍の注意をそらすことに成功し、ミサイルが主要目標を攻撃する道を開いた」とウクライナ軍の無人システム部隊は述べ、国境から100kmロ以上離れたセルツォの町近くの工場への攻撃を確認した。

■ 2025117日(金)午後930分頃、ロシアのカルーガ州KalugaリュディノヴォLyudinovoの石油貯蔵所で、ウクライナの無人航空機による攻撃を受けて火災が発生したと、同州の知事が明らかにした。報道官は、工業施設で火災が発生したことを確認したが、攻撃による死傷者は出ていないと語っている。

補 足

■ 「ロシア連邦のタタールスタン共和国」; 通称ロシアと呼んでいるロシア連邦は、ユーラシア大陸北部に位置する人口約14,080万人の連邦共和制国家である。ロシア連邦は89の連邦構成主体に分かれるが、そのうち24が共和国を称する。タタールスタン共和国はロシア連邦地域管轄区分のひとつで、ロシアの西部に位置し、沿ヴォルガ連邦管区にある人口約400万人の共和国である。

■「ウクライナ製長距離攻撃用無人機;リュティ(Liutiy)」は、ウクライナの長距離攻撃用無人機で1,000kmの航続距離を有する。外観の点では、リュティはトルコの無人航空機(ドローン)バイラクタルTB2に似ており、同様の胴体と尾翼アセンブリを備え、優れた空力性能と低燃費を有する。本体素材をグラスファイバーで作られたリュティは、50kgの弾頭を搭載できる。弾頭は75kgまで増やすこともできるが、その場合の航続距離は750800kmに減少する。リュティはハイブリッド誘導システムにより自律性と精度が高められており、初期のリュティがロシアの電子戦に対して脆弱だったが、その後、妨害に対する防御力が向上している。ちなみに、1,000km離れた距離というのは、東京を中心に半径1,000kmの円を書くと、北海道と九州が円周の線にかかるほどの遠さである。

■ 「発災タンク」に関する情報はなく、詳細は不明である。

所 感

■ 貯蔵タンクを運営する事業者や公的機関にとって攻撃型無人航空機(ドローン)の動向は、テロ対応上、知っておく必要がある。最近の12年、テロ対応上から見てみると、無人航空機(ドローン)による貯蔵タンクへの攻撃性が進化し、戦術上も進化している。20246月~7月の事例では、「飛行機型からいわゆるドローン型へ回帰しており、テロ対策上からは厄介なドローンの攻撃性である」と所感に書いた。航続距離は長くはないが、FPVFirst Person Viewドローンは狙いの正確性であり、GPSGlobal Positioning System;全世界測位システム)を使用せず、 FPV型ドローンの操縦者がゴーグルを装着し、ドローンの視点でリアルに景色や障害物を認識しながら操作するものである。


 しかし、今回の事例では、ウクライナ国境から約1,000km離れた場所でタンク火災が発生している。航続距離が1,000kmの長距離攻撃用無人機;リュティ(Liutiy)が使用されたとみられる。戦争は無人航空機を果てしなく進歩させている。このような状況にあり、日本の貯蔵タンクを運営する一(いち)事業者にとっては、テロ対策をとろうにも限界を越えている。公的機関による無人航空機(ドローン)によるテロ対策を考えていく必要がある。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    English.nv.ua, Explosions and fires at Russia’s strategic chemical plant and oil depot – videos,  January  14,  2025

    Kyivindependent.com, Drone strike reportedly targets Russian chemical plant in Tatarstan, causing fire,  January  14,  2025

    Mil.in.ua, LNG storage facility catches fire in Kazan after UAV attack,  January  14,  2025

    Global.espreso.tv, Ukraine launches massive strike on Russian military targets, up to 1,100 km deep,  January  14,  2025

    Odessa-journal.com, Ukrainian drones attacked a liquefied gas facility in Kazan and targeted an oil depot in Engels for the second time this week,  January  14,  2025

    Censor.net, Kazan attacked by drones: residents report fire near Kazanorgsintez plant,  January  14,  2025

    Newsukraine.rbc.ua, Explosive night in Russia: Oil depots, refineries, and defense facilities targeted,  January  14,  2025

    France24.com, Ukrainian drone attacks spark fires at Russian gas facility, industrial sites,  January  14,  2025

    Themoscowtimes.com, Ukrainian Army Hits Russian Military, Industrial Sites in Overnight Barrage,  January  14,  2025

    Euronews.com, Russian drone attacks kill two and injure 19 in Ukraine, including infants,  January  14,  2025

    Newsweek.com, Russia Factories, Oil Terminals Hit in Massive Drone-Missile Attack,  January  14,  2025

    Kyivpost.com, Over 200 Long-Range Drones Strike Key Russian Targets: Explosives Plants, Fuel Depots Hit,  January  14,  2025

    Antikor.com.ua, In the Russian city of Kazan, drones carried out an attack on the "Orgsintez" plant: a fire started,  January  14,  2025         

    Kyivpost.com, Hello ‘Liutiy’ UAV – Goodbye Russian Oil Refineries, May 19, 2024         


後 記: ウクライナとロシアによる戦争におけるタンク設備の被災事例の紹介は、 20247月に投稿した「ロシアのロストフ州東部の石油貯蔵施設がドローン攻撃でタンク火災」をもって終わりにすると書きましたが、今回の事例はロシア連邦でも、ウクライナ国境から遠く離れたタタールスタン共和国の事例でしたので、通常のタンク事故ではないかと思い、調べることとしました。しかし、ウクライナとロシアによる戦争のひとつで、長距離攻撃用無人機(ドローン)が使われた(らしい)ことが分かりました。航続距離が1,000kmというドローンの範ちゅうを超えた無人航空機がどのように飛んでいったか、被害はどうだったかという基本的なことがつかめませんでした。以前に述べたように、いわゆる戦争における“報道” になり、軍発表の戦果や被災は小さいという話が入り乱れて事実ははっきりしない事例でした。

2025年1月16日木曜日

米国テキサス州の石油生産施設で貯蔵タンクが爆発・火災

 今回は、202516日(月)、米国テキサス州リーブス郡バーハレンにあるバイタル・エナジー社の石油生産施設でタンクが爆発して火災を起こした事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、テキサス州(Texas)リーブス郡(Reeves County)のバーハレン(Verhalen)にあるバイタル・エナジー社(Vital Energy)石油生産施設である。

■ 事故があったのは、郡道336号線と郡道121号線の近くにある石油生産施設のタンクである。


<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 202516日(月)朝、石油生産施設のタンクが爆発し、火災になった。

    発災にともない、消防隊が出動した。

■ 消防隊が現場に到着すると、火災は石油掘削用リグが稼働している石油生産施設から発生していた。

■ 発災に伴う負傷者はいなかった。

■ 消防隊は、周辺地域への潜在的な危険を軽減するようバイタル・エナジー社の現場担当者と協力し、活動を行った。

被 害

■ 原油生産施設内にあった8基のタンクが損壊した。

■ タンク内にあった油類が焼失した。

■ 負傷者は出なかった。

< 事故の原因 >

■ 原因は分かっておらず、原因調査中である。

< 対 応 >

■ 消防隊は火災を制圧し、鎮火させた。

■ 消防隊は消火作業を終了し、危険が残っていないことを確認している。郡道336号線と郡道121号線のエリアを避けるよう住民に呼びかけている。

■ 火災の原因は現時点では不明で、調査が進行中である。


補 足

■「AIによる事故状況」; 事故の状況を報じているメディアが少ないため、 ChatGPTAIによる事故状況を問合せしてみた。

質問; 202516 にテキサス州バーハレンのタンクのバッテリーでどのようなタンク火災が発生しましたか?

回答; 202516日、テキサス州バーハレンのタンクバッテリーで原油貯蔵タンクの火災が発生しました。この事故は、現場の貯蔵タンクの爆発が原因で、大規模な火災が発生しました。緊急対応要員が火災の鎮火に努め、死者は報告されていません。爆発の原因は調査中で、当局は機器の故障やその他の技術的不具合の可能性に注目しています。火災は最終的に鎮火されましたが、この事故により石油貯蔵施設の安全基準に関する懸念が生じました。

=感想= 結果は上記のとおりで、非常に上手にまとめている。そして、最後に問題提起の文章を入れ、締めくくっている。

■「米国テキサス州」(Texas)は、米国南部にあってメキシコ湾岸に面し、メキシコと国境を接する人口約3,050万人の州である。

「リーブス郡」(Reeves County)は、テキサス州の西部に位置し、人口約14,700人の郡である。リーブス郡の北部は平坦で起伏のある地形で、最南部は山岳地帯の土地で構成されている。

「バーハレン」(Verhalen)は、西部開拓時代、テキサス州の広大な土地へと導いた時代に反映した。しかし、時の流れとともに、活気を失い始め、中心地だった町は衰退していった。かつては人々の生活とつながりをもたらした鉄道は、徐々にその音を止め、今では人けのない通りに不気味な静寂が響き渡るゴーストタウンになった。テキサス州にはゴーストタウンが少なくなく、バーハレンはそのひとつである。

■「バイタル・エナジー社」(Vital Energy)は、2006年にラレド・ペトロリアムとして設立し、2023年に社名をバイタル・エナジーに変更した独立系エネルギー会社である。オクラホマ州タルサ拠点にし、テキサス州などで原油や天然ガスを探査・開発・掘削を実施している。

■「発災タンク」は、郡道336号線沿いにある石油生産施設の円筒タンクである以外、詳細仕様はわからない。グーグルマップで調べると、郡道336号線沿いにある発災した石油生産施設と見られるタンク群がある。石油生産施設は水圧破砕法による油井とみられ、タンクは計8基あり、油系を貯蔵する炭素鋼製タンクが4基、塩水系のグラスファイバー製小型タンクが4基である。被災写真では、グラスファイバー製タンクはすでに損壊しているものと思われる。

 発災した炭素鋼製タンク4基の直径は約6.7mで、高さを7.0mとすれば、容量は約244KLである。この種の石油生産施設のタンクとしては大きい。標題の発災写真を見ると、噴き飛んだタンク屋根が防油堤外に落下しているので、少なくとも1基は爆発したものと思われる。このタンクに隣接する2基のタンクも屋根部がなく、側板もかなり変形しているので、爆発後の火災も激しかったと思われる。

所 感

■ 石油生産施設におけるタンクの爆発・火災は落雷によるものが多いが、要因を推測できるような情報は報じられておらず、事故原因はわからない。

■ 被災写真を見ると、発災タンクとみられるタンクは屋根が噴き飛んでおり、隣接する2基のタンクも屋根部が外れ、側板もかなり変形しているので、可燃性混合気の生成は大きかったと思われる。このように激しい爆発・火災の様相を呈しており、設備的に問題があったのかも知れない。

■ 消火戦略には、積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略の3つがあるが、被災写真を見る限り、消火活動を行ったようには見えないので、不介入戦略をとったのではないだろうか。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Newswest9.com, Tank battery fire reported in Verhalen, Texas, northwest of Fort Stockton,  Junuary 06,  2025

    Firehouse.com, Tank battery fire reported in Verhalen, Texas, northwest of Fort Stockton,  Junuary 06,  2025


後 記: 今回、テキサス州の状況についてこれまでと違った別な面を垣間見た感じです。テキサス州といえば、陸上原油生産施設の数が多いところで、米国発展の礎の土地だと思っていました。今回、テキサス州の西にあるリーブス郡バーハレンにある原油生産施設でしたが、バーハレンがゴーストタウン化しているというのを初めて知りました。原油生産施設のタンク爆発事故ですが、情報を伝えるメディアが2社しかなく、実質1社によるものでした。バーハレンの人口統計はなく、リーブス郡にしても人口約14,700人です。これではニュース性がなく、テキサス州のメディアがタンク事故に対して淡泊なわけが分かりました。

2025年1月9日木曜日

米国ロードアイランド州でコーン油タンクが爆発し、火災

 今回は、2024年12月27日(木)、米国ロードアイランド州プロビデンスにあるグローバル・パートナーズ社の施設で、コーン油(とうもろこし油)タンクが爆発し、火災になった事故について紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国ロードアイランド州(Rhode Island)プロビデンス(Providence)にあるエネルギー供給会社のグローバル・パートナーズ社(Global Partners)の施設である。

■ 事故があったのは、プロビデンス港工業地帯のターミナル・ロード近くにある貯蔵容量20,000ガロン(75.8KL)のコーン油(とうもろこし油)の立型円筒タンクである。発災時、タンク内には3,000ガロン(11KL)のコーン油が入っていた。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2024年12月27日(木)午後、グローバル・パートナーズ社でコーン油の貯蔵タンクが爆発して、火災が発生した。

■ タンクの上部屋根が噴き飛び、遠くの電柱にぶつかって落下した。けが人はいなかった。

■ グローバル・パートナーズ社でタンクローリーに燃料を補給していた運転手によると、27日(木)午後、車からいつものようなカチカチという音が聞こえてきたといい、「はじめは古いタイマーか圧力鍋が鳴る音だと思いました。それが笛のような音になりました。その後、建物の裏側で爆発の音が聞こえました」と語った。そして、貯蔵タンクの上部のような部品が空中を飛んでいくのが見えたという。

■ 発災にともない、午後3時30分頃、消防隊が出動した。

■ 近隣のクランストン、ジョンストン、カンバーランド、イーストプロビデンス、ノーススミスフィールドから相互援助の消防隊が現場に駆けつけた。

■ 消防隊は泡消火剤を使用して火災の制圧に努めた。

■ 火災の炎は貯蔵タンク以外に広がることはなかった。

■ グローバル・パートナーズ社によれば、コーン油は主に暖房に使用されるバイオディーゼルだという。ロードアイランド州は持続可能なエネルギーの実践を支援するために暖房用オイルに10%のバイオ燃料の混合を義務付けているという。

■ 事故にともなう負傷者は報告されていない。

■ ユーチューブでは、事故に関するニュースが投稿されており、主なものはつぎのとおりである。

 YoutubeCorn oil storage tank catches fire in Providence2024/12/27

   ●YoutubeCorn oil storage tank catches fire in Providence2024/12/28

被 害

■ 貯蔵容量20,000ガロン (75.8KL)の立型円筒タンク1基が損傷した。

■ タンク内部に入っていた3,000ガロン (11KL)のコーン油の一部が焼失した。

< 事故の原因 >

■ 爆発の原因は調査中である。 

< 対 応 >

■ 消防隊は泡消火剤を大量に散布して火を消し止めることに成功し、完全消火に向けて作業を続けた。

■ 12月27日(木)午後4時45分頃、消防隊は火災を鎮火させた。消防士が現場を監視し、撤収前に安全を確認するという。

■ 12月27日(木)、グローバル・パートナーズ社は、つぎのような声明を出した。「消防士たちが素早く炎を消し止め、延焼を防いでくれました。影響を受けたタンクは使用停止となり、火災の根本原因が特定され、再発防止のための是正措置が実施されるまで使用しないままとします」

■ 12月28日(金)午後、グローバル・パートナーズは、発災設備以外のプロビデンス・ターミナルの業務を再開した。

補 足

■「ロードアイランド州」(Rhode Island)、米国東北部のニューイングランド地方にあり、人口約110万人の州である。

「プロビデンス」(Providence)はロードアイランド州北部のナラガンセット湾の湾奥に位置する南東にあり、人口約19万人である。プロビデンスは、州都であり、港湾都市・学術都市であり、州全土がプロビデンス大都市圏である。広域的には、プロビデンス大都市圏はボストンの広域都市圏に含まれているため、ロードアイランド州全土がボストンの広域都市圏に含まれている。

■「グローバル・パートナーズ社」(Global Partners)は、1933年にトラック1台による暖房用オイル販売会社として設立され、現在では、 2018年のフォーチュン500で361位にランクされている米国のエネルギー供給会社である。事業は石油製品の輸入と北米での販売に重点を置いており、原油、ディーゼル油、ガソリン、暖房用油、灯油などの製品を卸売している。

■「発災タンク」は、貯蔵容量20,000ガロン(75.8KL)のコーン油(とうもろこし油)の立型円筒タンクである。発災時、タンク内には3,000ガロン(11KL)が入っていたと報じられている。グーグルマップで調べると、直径約4.0mであり、貯蔵容量から高さは約6.0mとなる。従って、発災時の液面はタンク底に近い0.9mとなる。

■「コーン油」(とうもろこし油)は、とうもろこしを原料とするバイオマス燃料である。報じられているところによると、コーン油は主に暖房に使用されるバイオディーゼルである。ロードアイランド州は持続可能なエネルギーの実践を支援するために暖房用オイルに10%のバイオ燃料の混合を義務付けているという。日本でも調理用のコーン油(とうもろこし油)の廃油を原料としてバイオマス燃料を作っていることがあるが、米国では、食品や飼料用のコーン(とうもろこし)を原料としたバイオマス燃料だと思われる。この場合、製造方法によるが、バイオエタノールを製造するとみられる。バイオエタノールはガソリンの代替になる軽質の油である。

所 感

■ 事故原因は分かっていない。しかし、発災はタンクの屋根部を噴き飛ばすほどの爆発が起こっている。従って、タンク内部に軽質ガスがあったとみられる。廃油などを用いたバイオディーゼル燃料であれば、爆発を生じるほどの軽質分は無いと思われ、米国で通常採用されている食品や飼料用コーン(とうもろこし)から生産するバイオエタノール用ではなかっただろうか。発災時のタンク液面は満杯時の6.0mと比べると0.9mとかなり低く、タンク液を移送していたものと思われる。このため、タンク内には外気から空気が入り、爆発混合気が形成したのではないだろうか。

■ 消火戦略には、積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略の3つがあるが、泡消火剤を用いた積極的戦略がとられている。この消火作業には、はしご車が用いられており、タンク上部から泡消火剤を放射した効果があったものと思われる。発災のあったプロビデンスは人口約19万人であるが、近隣の町からも相互援助の消防隊が参画しており、人材や消防資機材の観点から適切な組織化が行われていたことがうかがえる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    ・Youtube.com,   Corn oil storage tank catches fire in Providence,  December 27, 2024

    ・Wpri.com, Corn oil storage tank catches fire in Providence,  December 27, 2024

    ・Providencejournal.com, Large tank fire in Providence has fire departments from around the state responding,  December 26, 2024

    ・Golocalprov.com, Corn Oil Tank Catches Fire in Providence - Latest Fire Off Allens Avenue,  December 26, 2024

    ・Firehouse.com, Corn Oil Storage Tank Catches Fire in Providence, RI,  December 27, 2024 

    ・B101.iheart.com, Providence Oil Tank Fire,  December 27, 2024


後 記: 今回、初めてロードアイランド州の事例を取り上げました。しかも、燃料油としてはめずらしいコーン油の爆発事例です。ロードアイランド州は米国では歴史のある州であり、全般的にいうと、テキサス州のタンク事例に比べ、発災事業所の対応やメディアの報道内容が違っていました。これが本来の報道だという感じがしました。