2024年5月20日月曜日

タイでガソリンタンクが爆発、鎮火後、再着火して火災、死傷者6名

 今回は、202459日(木)、タイ(Thailand)ラヨーン県のマプタプット・タンク・ターミナルにある熱分解ガソリン用貯蔵タンクが爆発して火災になり、消火活動の結果、約1時間半後に鎮火した。しかし、その後、再着火して爆発し、再び火災になったタンク事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、タイ(Thailand)のラヨーン県(Rayong)マプタプット工業地帯で、マプタプット・タンク・ターミナル社(Map Ta Phut Tank Terminal)の貯蔵ターミナルである。同社は商業港と石油化学製品の貯蔵ターミナルを運営している。 

■ 事故があったのは、マプタプット・タンク・ターミナルにある化学品貯蔵タンクである。タンクは熱分解ガソリン用(Pyrolysis Gasoline)で、容量2,500KL、直径30m×高さ18mである。同社の熱分解ガソリンは炭化水素化合物 C9+ と呼ばれている。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 202459日(木)午前1030分頃、マプタプット・タンク・ターミナルの熱分解ガソリン用タンクが爆発して火災が発生した。

■ 近くの住民によると、火災が発生する前に大きな爆発音が一度聞こえたという。激しい爆発がまた起こるのではないかという恐怖を誰もが感じ、急いでその地域から避難した。

■ 発災に伴い、消防隊が20台以上の消防車両を動員して出動した。

■ 火災が拡大する可能性があるため、近隣の地域住民に避難を命じ、約400人の作業員と近隣住民が一時避難所に誘導された。

■ 当局は、緊急対応を容易にし、公共の安全を確保するために道路を閉鎖した。また、火災により周辺地域の大気環境が悪化したとみられる。

■ 支援を提供した病院によると、火災の影響を受けたとみられる住民は、ほとんどの人が喉の痛み、目の痛み、鼻の痛みを感じていた。めまいを感じた人は100件以上あり、雰囲気は混沌としていた。

■ マプタプット・タンク・ターミナル社は、声明を発表し、出火原因を調査中で、再発防止策を講じると述べた。また、調査と被害査定が行われている間、施設でのすべての活動は停止された。

■ 発災に伴い、ひとりが死亡、3名が負傷した。さらに、消火活動中にふたりの消防士が負傷した。

■ 事故前に、従業員4名がタンク内の液量(液位)を測定するためタンク上部に昇っていた。測定中、火災が起こる前に煙が見え始めたようにみえたといい、この結果、測定に行った従業員4人が高所から転落して負傷し、負傷者のうち1名が後に死亡した。原因は高所からの落下によるものだった。

■ ユーチューブでは、火災の状況などの映像が投稿されている。主なものはつぎのとおり。

  Youtube Huge fire at a chemical storage tank in Thailand kills one and injures 42024/05/09

 ● YoutubeVideo. Huge gas fire rages through industrial estate in Thailand2024/05/09

 ● Youtubeความคืบหน้า ไฟไหม้ถังเก็บแก๊สโซลีน "มาบตาพุด" .ระยอง | TOPNEWSTV2024/05/09

 ● Youtubeยังควบคุมเพลิงไหม้ถังสารเคมี .มาบตาพุด แทงค์ฯ ไม่ได้ | ทันข่าว | 9 .. 67] 2024/05/09


被 害

■ 熱分解ガソリン用貯蔵タンク1基が損壊した。内部の液が焼失した。

■ 発災に伴う死傷者が6名出た。内訳は従業員のひとりが死亡、3人が負傷した。さらに、消火活動中にふたりの消防士が負傷した。

■ 住民400人が避難したほか、住民の中には喉の痛み、目の痛み、鼻の痛みを感じる人があり、めまいを感じる案件が100件あった。

■ 火災によって道路が閉鎖されたほか、環境汚染が生じた。

< 事故の原因 >

■ 火災の原因は、作業員によるタンク上部でのタンク液位測定時に何らかの引火要因を引き起こしたものとみられる。

■ 一旦、タンク火災は消火したが、泡消火や冷却作業を継続しなかったため、タンクの余熱で再着火して火災になった。

< 対 応 >

■ 消火活動は泡消火と放水による冷却の2つの作業が行われた。

■ 発災から約1時間半の午後12時過ぎに火災は消し止められた。

■ しかし、タンクがまだ高温だったため、午後1時頃に再着火し、爆発があり、火災となった。炎は急速に激しく燃え上がり、簡単には消える気配がなかった。消防隊は再び泡消火と放水を行った。火災が広がり、約15m離れた隣のタンクに延焼しないよう海から水を汲み上げて冷却した。

■ 現場のビデオや写真には、巨大な黒煙と燃え盛る炎が近くに立っていた白いタンクを飲み込む様子が映っている。救助隊員と消防士が消火活動を行ったが、その間、時折爆発音が聞こえた。

■ 発生してから約5時間経過し、近隣の県の消防車も応援に出動したが、消防隊は依然として消火できなかった。遠くからでも炎と黒煙の柱が見え、火災が隣接したタンクに延焼し、さらに3基目のタンクに到達していると報告された。しかし、のちに3基のタンクではなく、被災タンクは1基だけだったと明らかにした。

■ 発災から6時間経過し、午後4時頃、火災制圧に向かったが、消防当局によると、消火には10時間以上かかるとみられていた。

■ 火災は午後6時頃までにほぼ鎮火した。再着火による火災を防ぐために、タンクの温度を1時間ごとにチェックされた。温度は4750℃で、ほぼ平常の熱に戻ったとみられるが、安全であることが確認されるまで監視される。また、タンク内の物質は完全に抜き出される予定である。

■ 貯蔵ターミナルには泡消火設備が設置されていた。すぐに消火作業が始められ、午後12時頃に鎮火するまで消火作業が行われた。しかし、その間、タンク内の温度は下がらなかったとみられ、その結果、午後1時頃に再び火災が発生した。火災が鎮火したのは午後6時頃だったが、当局は依然として水や泡を噴霧する必要があった。タンク温度は1時間ごとに計測されたが、当局は火災が発生しないと確信できるまで状況を監視を続けるという。その後、火災の原因を調査する予定である。

■ 消火排水や化学物質を含む水が海や近くの水源に漏れることはないという。マプタプット・タンク・ターミナル社はダム機能を有する貯水池を設けていた。なお、建物および周囲の状況の修復には約2週間かかるという。

■ マプタプット・タンク・ターミナルでは、202110月にも貯蔵タンクが爆発・炎上する事故があり、3人が死亡、ふたりが負傷した。当時、一時操業停止を命じられた。

補 足

■「タイ」(Thailand)は、正式にはタイ王国で、 東南アジアに位置する立憲君主制国家で、人口約6,600万人である。首都はバンコク(人口約830万人)である。

「ラヨーン県」(Rayong)は、タイの中部に位置し、タイランド湾に面する人口約66万人の県である。

■「マプタプット・タンク・ターミナル社」(Map Ta Phut Tank Terminal)は1995年に設立され、液体および気体の石油化学製品専用の商業港および貯蔵ターミナルである。 タイのラヨーン県マプタプット港の東側に位置しています。同社は、サイアム・セメント・グループ(Siam Cement Group Public Company Ltd.)の子会社のひとつである。なお、サイアム・セメント・グループはタイ王国最大手かつ最古のセメント製造企業で、タイ王室財産管理局が出資している王室系企業である。

 マプタプット・タンク・ターミナル社は4つの海上桟橋と33基の貯蔵タンクで構成され、20種類以上の石油化学製品を貯蔵している。操業は分散制御システム (DCS) によって制御され、DCSはオペレーターがプロセス制御を集中化し、単一の計器室からすべての操作を監視できるように設置されている。このシステムは、運用開始以来、安全性と効率性を確保するために導入されてきた。

■「熱分解ガソリン」(Pyrolysis Gasoline;パイロリンス・ガソリン)は、ナフサ分解などによる分解プラントによって副生される炭素数C5C12の炭化水素混合物で、芳香族系炭化水素の含有量が高く、ベンゼン、トルエン、キシレンの抽出原料になる。マプタプット・タンク・ターミナル社の分解ガソリンは炭化水素化合物 C9+と言っており、ベンゼン、トルエン、キシレンなどのプラスチックペレットの製造における前駆体の製造からの副産物であり、いろいろな産業で溶剤として使用されている。熱分解ガソリンの密度は約0.85/c㎥、引火点はー20℃以下である。

「発災タンク」は、熱分解ガソリン用で容量2,500KL、直径30m×高さ18mで、ドーム型固定屋根式タンクである。

所 感

■ 最初の火災は、事故前に従業員4名がタンク内の液量(液位)を測定するためタンク上部に昇っており、測定中、火災が起こる前に煙が見え始めたという。火災原因は、作業員によるタンク液位測定時に何らかの引火要因を引き起こしたものとみられる。タンク液位測定は確認のための定常の作業であり、検尺孔を開けて行うので、人体の除電など静電気防止策が実施されていただろうが、何かが抜けていたと思われる。

■ 最初のタンク火災の被災状況を画像で見ると、これまでのタンク爆発事例とは損傷状況が異なっている。タンク型式がドーム型固定屋根式でアルミニウム製でなく、屋根には頑丈な梁が設置されていたと思われる。このため、爆発で屋根頂部の一部が損傷したものとみられる。コーンルーフ型では、爆発時に屋根と側板の溶接部が切れて底板と側板の接続部に過大な力が作用しないようになっている。爆発の規模はそれほど大きくなかったと思われるが、底板部が損傷していたら被害は大きくなっていただろう。

■ 最初のタンク火災では、タンク側板部の上部に書かれているタンク番号と油種名が焼けずに残っており、被災は意外に大きくない。これは、タンクに泡消火設備や散水設備が設置されていたと思われ、特に泡消火設備が効果的に働いて1時間半ほどで火災は収まったと思う。

■ しかし、タンク火災の消火後のダメ押しの泡消火放射をやめてしまったために、落下した屋根の部材などの温度が高く、油面を覆っていた泡が切れて、再着火し、2度目のタンク爆発・火災を起こしてしまった。このとき、爆発時の影響で配管部から漏れたか、火災は堤内火災を引き起こしている。隣接タンクも炎の中に巻き込まれ、延焼しているという誤報告があるほど、最初のタンク火災より激しい状況だったとみられる。それにしても、鎮火後のタンク被災状況をみると、タンク側板は座屈していない。タンクの泡消火設備や散水設備が有効だったことが分かる。

■ 今回のようなタンク火災の消火後には、タンク表面の状況を確認しなければならない。日本ではタンク側板の階段を昇って状況を見るという行為は行わないが、米国では、消防士が昇っていき、確認するのが常識である。いまならドローンによって確認する方法があるだろう。危険性があるという理由で確認しないのは、今回のように2度目の爆発・火災を引き起こすことになると思う。  

注; タンク火災鎮火後の泡消火剤の投入時間は一律に決められない。タンク内液の性状やタンクの破損構造物などの状態によって決められる。このブログでは、ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社に消防活動を紹介しており、参考になる。たとえば、「米国オリオン製油所のタンク火災ー2001 201110月)は落雷によって火災になったが、鎮火後、雷も消滅しておらず、残液の抜き出しを考慮している。「米国サノコ社のタンク火災における消火活動」201210月)では、火災制圧のために使用した泡薬剤量は約7,600 Lであり、このほか全消火活動に使用した泡薬剤量は30,000 Lに達した。このあとの2日間、消火時にタンク内に残った3m深の油を空にするまでの間、ダメ押しの冷却と蒸気抑制のため、追加で使用した泡薬剤量は13,250 Lだったという。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Newsclip.be, タイ東部マプタプット港で化学品タンク爆発,  May  09,  2024

     News.yahoo.co.jp,  タイ東部工業団地で火災発生 1人が死亡 4人が重軽傷,  May  10,  2024

     Apnews.com, Huge fire at a chemical storage tank in Thailand kills one and injures 4,  May  09,  2024

     Reuters.com, Evacuation ordered after blaze at Thai chemical storage tank facility,  May  09,  2024

    Arkansasonline.com, One person dies, 4 hurt in Thai tank fire ,  May  10,  2024

    ・Thaipbsworld.com, Latest : Blaze in Map Ta Phut reaches the third tank,  May  09,  2024

    Bangkokpost.com, One dead in Rayong gas tank blast,  May  09,  2024 

    Bangkokbiznews.com, เปิดไทม์ไลน์ไฟไหม้ถังเก็บสารเคมีระเบิด 'มาบตาพุดแทงค์เทอร์มินอล,  May  10,  2024

    Mgronline.com, ระทึก!ไฟไหม้ถังเก็บสารเคมีในมาบตาพุด เร่งควบคุมเพลิง-บาดเจ็บ4ราย,  May  09,  2024

    Thairath.co.th, ระเบิดซ้ำรอยระทึก ปี 64 แท็งก์เก็บแก๊สโซลีน ไฟลุกท่วมนิคมมาบตาพุด ,  May  09,  2024

    Thestandard.co, 26 ชั่วโมง เหตุเพลิงไหม้ถังสารเคมีมาบตาพุด .ระยอง เจ้าหน้าที่ฉีดน้ำ-โฟมรักษาอุณหภูมิต่อเนื่อง ด้าน รมว.อุตสาหกรรม-บริษัทเอกชนน้อมขอโทษประชาชน เยียวยาขั้นสูงสุด,  May  10,  2024

    Thaipbs.or.th, แถลงยืนยันไฟไหม้ถังสารเคมีมาบตาพุด 1 ถัง ยังเฝ้าระวังไฟปะทุ,  May  10,  2024


後 記: 最初に今回の事例を調べ始め、被災写真を見ていて思い描いた想像とはかなり違っており、発災状況がよく理解できませんでした。ところが、タイ語で書かれた報道記事(翻訳)を読んで理解できました。爆発・火災は2回あり、1回目のタンク火災は一旦消されていたということが分かり、状況が見え始めました。しかし、報道されている記事がいつの時点のことを指しているのかという疑問が出てきました。これは、このブログが <事故の状況および影響> という項目について書こうとしているからで、メディアの報道は2つの火災事故をひとつにして記事にしているためでしょう。(意図しているのか、2つの火災と認識していなかったかは分かりませんが) それにしてもタイの国情でしょうか、事故に関する関係機関の合同記者会見が発災翌日に行われています。


 

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