今回は、2024年1月19日(金)、ロシアのブリャンスク州クリンツィにある石油貯蔵施設において無人航空機(ドローン)による攻撃で燃料用貯蔵タンク4基が火災を起こした事例を紹介します。
< 発災施設の概要
>
■ 発災施設は、ロシア(Russia)ブリャンスク州(Bryansk)クリンツィ(Klintsy)にある石油会社;ロスネフチ社(Rosneft)の石油貯蔵施設である。
■ 発災があったのは、クリンツィにあるクリンツォフスカヤ石油貯蔵施設の燃料用貯蔵タンクである。
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2024年1月19日(金)午前6時40分頃、ロシア西部の石油貯蔵施設で無人航空機(ドローン)による攻撃によって火災が起こり、4基の燃料用貯蔵タンクに燃え広がった。
■ ブリャンスク州知事によると、無人航空機(ドローン)は撃墜したが、無人航空機に搭載していた爆弾によって石油貯蔵施設で大規模な火災が起きたと明らかにした。ロシア国防省は、ウクライナの無人航空機(ドローン)1機を妨害電波により撃墜したが、積んでいた弾薬がクリンツィの石油貯蔵施設の敷地に落下したと発表した。ブリャンスク州のほかの地域でも、防空部隊が2機のウクライナの無人航空機(ドローン)を撃墜したという。
(注) ドローン攻撃への対策には、高出力レーザーや高出力マイクロ波でドローンを撃墜したり、網で捕獲したりするなど複数の手段がある。中でも、実用化が先行しているのが電波探知妨害装置である。
■ 被災した燃料用貯蔵タンク4基の総容量は6,000KLであり、施設から巨大な黒煙があがっていて、火災面積は約1,000㎡だという。
■ 攻撃による死傷者は出なかった。
■ 発災に伴い、消防隊140人と消防車5台が消火活動を開始した。さらに、特殊消防列車が消火水120トンと泡薬剤5トンを積んで現場に到着した。火災の状況は、クリンツィ駅エリアの列車の交通に影響を与えなかった。
■ 発災に伴い、石油貯蔵施設の近くを通っている道路が交通閉鎖された。事故現場付近のクリンツィ駅に到着した列車の乗客によって撮影された映像がソーシャルネットワークに公開されたが、火災のため迂回を余儀なくされている。
■ 1月20日(土)、クリンツォフスカヤ石油貯蔵施設の火災は2日目も続いた。無人航空機(ドローン)の爆発後、燃料用タンクに引火して火災になったもので、状況は制御下にあるいわれているが、火災の影響や消火活動の完了については報告されておらず、2日目も消火活動を続けているとみられる。火災の範囲が広がり、ほぼ2,000㎡に達した。
■ 石油貯蔵施設近くの住民32人が避難した。
■ ウクライナ国境に近いロシアの都市ベルゴロド市は、ウクライナの無人機攻撃の脅威を理由に、1月19日(金)に行われる予定だった伝統的な正教会の公現祭の祭りを中止した。ロシアで無人航空機(ドローン)の脅威により主要な公共イベントが中止されたことが知られるのはこれが初めてである。
■ 1月20日(土)午前9時、石油貯蔵所施設近くの道路に加えて、クリンツィの4つの通りが緊急車両を通行させるために閉鎖された。
■ ユーチューブなどには火災の状況を示す動画が投稿されている。主な動画はつぎのとおりである。
●Youtube、「Huge
fire at Russian oil depot after Kyiv’s cross-border drone attack」(2024/01/19)
●Youtube、「Russian
oil depot catches fire after Ukrainian drone downed」(2024/01/19)
●Youtube、「Ukrainian
drone destroys Russian oil tanks in Bryansk」 (2024/01/19)
被 害
■ 総容量6,000KLの燃料用貯蔵タンク4基が損壊・焼損した。内部の燃料が焼失した。
■ 死傷者はいなかった。
■ 近くの住民32人が避難した。石油貯蔵施設近くの道路が閉鎖された。
■ 火災と黒煙が立ち昇り、大気の環境汚染を生じた。
< 事故の原因
>
■ 戦争による軍事行動である。(平常時の“故意の過失”に該当)
< 対 応
>
■ 1月20日(土)、石油貯蔵施設の火災は2日目も続いた。鎮火したという報告は報じられていない、
■ ロシアでは、1月18日(木)にも、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクの港の石油ターミナルに対してウクライナ軍によるものとみられる攻撃が行われていた。サンクトペテルブルクの石油港が無人航空機(ドローン)による攻撃で火災になったとしてロシアがウクライナを非難したが、その翌日に今回のタンク火災が起きた。ウクライナ当局者は、この目標を攻撃するために国産の無人航空機(ドローン)を使用したことを認めた。この無人航空機(ドローン)
は1,200km以上の距離を移動したといわれている。ウクライナがロシア国内での攻撃について犯行声明を出すことはめったになかった。
■ 専門家によると、クリンツィは、ロシア国防省の利益のために行われている燃料と潤滑油の輸送と物流のため、ブリャンスク地域の重要な中継拠点である。ロシア軍の需要も含め、燃料と潤滑油はこの石油貯蔵施設から送られていた。
■ 2024年1月21日(日)、ロシア天然ガス会社のノバテク社は、サンクトペテルブルク西方約170kmのフィンランド湾で運営している大型製油輸出ターミナルの一部の操業停止を余儀なくされたと発表した。ウクライナの無人航空機(ドローン)攻撃に伴い火災が発生したとみられる。このターミナルは、天然ガスコンデンセートを軽質ナフサ留分、重質ナフサ留分、灯油、軽油などに分離精製処理し、国際市場向けにタンカーへ積込む施設である。操業停止や市場への影響などは現段階では分かっていない。
補 足
■ 「ロシア」(Russia)は、正式にはロシア連邦といい、ユーラシア大陸北部に位置し、人口約1億4,300万人の連邦共和制国家である。2022年2月24日(木)、ロシアが、突如、ウクライナに侵攻し、軍事衝突が起こった。
ロシアがウクライナに侵攻して以降、両国のタンクへの攻撃を紹介した事例は、つぎのとおりである。
●「ウクライナ各地で石油貯蔵所が攻撃によってタンク火災」(2022年3月)
●「ウクライナ各地の石油貯蔵所がミサイル攻撃によってタンク火災」(2022年4月)
●「ウクライナで化学工場の硝酸タンクがロシアの攻撃で爆発」(2022年6月)
●「ロシアのベルゴロド石油貯蔵所にヘリコプターによる攻撃」( 2022年5月)
●「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」(2022年4月)
●「ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害」( 2022年11月)
●「ロシアがウクライナのひまわり油タンクをカミカゼ無人機で攻撃」(2022年10月)
●「ロシアの石油貯蔵所で無人航空機によって燃料タンク3基が火災」(2022年11月)
●「ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害」(2022年12月)
●「クリミア半島の石油貯蔵施設で無人航空機(ドローン)攻撃でタンク火災」(2023年4月)
●「ロシアの石油貯蔵施設が2日連続で無人航空機(ドローン)攻撃によりタンク火災」(2023年5月)
●「ロシアの軍組織が自国ボロネジの石油貯蔵所を攻撃し、タンク火災」(2023年6月)
「ブリャンスク州」(Bryansk)は、ロシアの西部に位置し、人口約117万人のロシア連邦直属の州である。南はウクライナと接している。 1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故の影響を受けた地域である。
「クリンツィ」(Klintsy)は、ブリャンスク州の西部に位置する人口約7万人の町である。
■「ロスネフチ社」(Rosneft)は、1993年に設立されたロシア最大の国営石油会社である。ソビエト連邦時代のソ連石油工業省を母体に設立された。ロシア国内のサハリン、シベリア、ティマン=ペチョラ行政区、チェチェンを含む南ロシアにおいて原油と天然ガスを生産している。
「クリンツォフスカヤ石油貯蔵施設」はクリンツィにあり、この地域にあるブリャンスクネフテ社 (ロスネフチの一部) の2つの石油貯蔵施設のうちのひとつである。同社自体は、独自の給油所ネットワークを通じて自動車燃料の小売りも実施している。
このブログでロスネフチ社のタンク事故を紹介したのは、つぎのとおりである。
●「ロシアのベルゴロド石油貯蔵所にヘリコプターによる攻撃」(2022年5月)
●「ロシアの軍組織が自国ボロネジの石油貯蔵所を攻撃し、タンク火災」(2023年6月)
■「発災タンク」は、クリンツォフスカヤ石油貯蔵施設にある4基の燃料貯蔵タンクで、総容量は6,000KLと報じられている。グーグルマップで調べると、クリンツィ駅付近に石油貯蔵施設があり、貯蔵区域にはタンクは9基ある。被災写真と見比べると、同径で比較的大きいタンク4基が発災タンクだと分かる。これらのタンクは固定屋根式タンクで直径約13mであり、高さを12mとすれば、容量は1,520KLとなる。4基で6,080KLとなり、報じられている総容量に近い。
所 感
■ 近年、海外や日本ではドローンを活用し始めており、このブログでも事例を紹介し、推奨している。しかし、戦争で使用される無人航空機(ドローン)が進化することは認めがたい。一方、貯蔵タンクを運営する事業者や公的機関にとって攻撃型無人航空機(ドローン)の動向は、テロ対応上、知っておく必要があろう。このテロ対応上から今回の事例を見てみる。
●無人航空機(ドローン)による貯蔵タンクへの攻撃性が進化し、戦術上も進化している。今回の被災タンクは直径約13mで容量1,500KLクラスと比較的小型であるが、一度に4基が被災し、そのうち、1基は明らかにタンクが傾斜するほどの損壊を受けている。
●この傾斜したタンクが爆弾によるものか、タンク爆発によるものかは別にして、タンク側板と底板の接続部が破損し、油が流出して防油堤内での火災につながったものと思う。この堤内火災がタンク4基の被災になったのだろう。
●消火活動は、特殊消防列車が出動し、現場ではスクアート車が配置されているので、消火資機材は整っていたものと思われる。しかし、火災は2日目も続いており、堤内火災と複数タンク火災が複合すれば、容量1,500KLクラスの火災でも対応できていない。日本でも、堤内火災と複数タンク火災には対応できないと思う。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Nhk.or.jp, ロシア石油貯蔵施設で火災 双方でインフラ施設への攻撃強まる, January
20, 2024
・Jp.reuters.com, ロシア西部石油基地で火災、ウクライナのドローン撃墜で=当局者, January 19,
2024
・Newsyou.info, ロシア連邦では2日目、石油貯蔵所の消火活動が行われている(ビデオ), January 21,
2024
・Vietnam.vn, ロシアの石油倉庫で火災が相次ぎ、ウクライナによる攻撃の疑い, January
20, 2024
・Rferl.org, Ukrainian Drone
Sets Oil Depot On Fire In Russia's Bryansk Region, Says Governor, January
19, 2024
・Bbc.com, Ukraine war: Russian
oil depot hit in Ukrainian drone attack,
January 20, 2024
・Cbsnews.com, Russia oil depot
hit by Ukrainian drone in flames as Ukraine steps up attacks ahead of war's
2-year mark, January 19,
2024
・Voanews.com, Ukrainian Drones
Strike Russian Oil Reservoirs,
January 19, 2024
・Rbc.ru, Площадь пожара на
нефтебазе в Брянской области достигла 1 тыс. кв. м, January
19, 2024
・Bragazeta.ru, Пожар на
нефтебазе в Клинцах не удалось потушить до сих пор, January
19, 2024
後 記: 2022年2月にロシアがウクライナに侵攻してから2年近くになりました。無人航空機の攻撃戦術は確実に進んでいるようです。2022年11月頃からタンクへの攻撃方法(どこに命中させれば被害が大きくなるかなど)を試していると感じていましたが、今回の事例では堤内火災と複数タンク火災を発生させています。以前は攻撃の実行者が正確にいえば不明だったのですが、今回からはウクライナが攻撃を認め始めています。この不幸な事態はそろそろ収めなければ、無人航空機による全面的な戦争になりかねません。このブログは戦争による軍事行動(平常時の“故意の過失”)は基本的に対象にしていません。無理にテロ対応からの視点でまとめていますが、終わりにしたいですね。