2023年12月20日水曜日

イランの簡易製油所で15基のコンデンセートタンク等が火災・爆発、48時間燃焼

  今回は、20231210日(日)、イラン南ホラーサーン州ビールジャンド市にあるアザラン・サナート・バルサヴァ社の簡易製油所で、コンデンセート(ガス田凝縮油)のタンク群が火災・爆発を起こした事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、イラン(Iran)南ホラーサーン州(South Khorasan Province)ビールジャンド市(Birjand)経済特別区にあるアザラン・サナート・バルサヴァ社(Azaran Sanaat Barsave Com.)の簡易製油所である。製油所は、コンデンセート(ガス田凝縮油)を使用して軽質および重質の炭化水素を製造する。 

■ 事故があったのは、製油所内にあるコンデンセートの容量250KLタンク群である。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 20231210日(日)午前830分頃、製油所でコンデンセートのタンク1基で火災が起こった。

■ 火災は制御不能で、すぐに数基のタンクに延焼し、爆発が2回起こった。

■ 発災に伴い、消防隊が出動した。消防隊が現場に到着する時には、黒煙が遠くまで広がっていた。

■ さらなる爆発の危険が継続しているため、消防隊は500mの距離をおく必要があるとし、一時的に現場から撤退した。

■ 当局は近くの工場に避難指示を出した。

■ 事故による死傷者は出ていない。アザラン・サナート・バルサヴァ社は、爆発が起こるまでに人的被害を避けるために従業員を避難させていた。

■ 制御不能な火災によって、製油所にある18基のコンデンセート油のタンクのうち15基のタンクに延焼していき、3基が残っただけという。当局によると、火災の初期段階で、すでに1,500KLの燃料油が焼失したという。

■ 1210日(日)の夕方になっても火災は続いていた。当局は、火災は部分的に鎮火したと発表した。

■ 南ホラーサーン環境保護局長は、ビールジャンド経済特別区の簡易製油所から排出される煙が市内の大気に及ぼす影響について、1210日(日)の午後9時までのデータに基づいて、ビールジャンド市の大気環境は許容範囲内にあると発表した。しかし、天候の変化の可能性と、コンデンセートを燃やした煙がビールジャンド市に入る可能性を考慮し、市民は屋内に留まり、家から出ないことを勧めている。また、外出時には三層構造の医療用マスクの使用を推奨している。

■ 州の危機管理局長は、簡易製油所の近くにある別な製油所に延焼するようなものではなく、危険性はないと述べている。

■ この製油所はイランの労働福祉大臣による250億トーマン・プロジェクトにより新しく建設されたものであるが、立上げから1年も経たないうちに爆発・火災事故が起こったことになる。

■ ユーチューブでは、爆発の瞬間を撮った映像が投稿されており、その中のひとつはつぎのとおりである。

 ●YoutubeFire causes two huge explosions at a oil refinery in eastern Iran2023/12/11

被 害

■ 製油所内のプラント内にあるタンク15基が火災で損壊した。

■ タンク内のコンデンセートと燃料油が4,500KL焼失した。

■ 南ホラーサーン州民事副調整官は、「ビールジャンド経済特別区の簡易製油所のタンク火災により、7,000億リアル(約24億円)以上の損害が生じていると予想される」と述べている。

< 事故の原因 >

■ 事故原因は分からない。

 爆発は熱交換器に取付けられたバルブが不適切なために起こったものではないかという指摘があり、設備不良とそれを見逃して対応をしなかった運転ミスの可能性がある。

< 対 応 >

■ 専門家がオンラインで行った火災の分析によると、爆発は熱交換器に取付けられたバルブが不適切なために起こったもので、熱風トーチのような効果を生み出し、タンクに点火し続けて爆発を引き起こしたものではないかという。

■ 簡易製油所には22基のタンクがあり、そのうち18基にはコンデンセートと燃料が入っており、これらのタンクの15基が火災に遭った。

■ 1210日(日)の夜、火災は一部制圧されたものの、タンク3基が爆発する可能性があるため、必要な措置を準備しているという。

■ 1211日(月)、タンク3基はまだ爆発には至っていない。一部は燃えているが、消防隊はこれら3基のタンクを泡薬剤の放射によって爆発の危険から守るために従事しているという。

■ 消防隊は、現在の消火活動がより近い距離から実施され、状況が改善すれば、1211日(月)の正午までに火災を鎮火することができる可能性があるという。

■ 結局、火災は1212日(火)までの2日間続き、48時間にわたった。

■ 火災によって、製油所あったコンデンセート油と燃料の4,500KLが焼失したという。

■ メディアの中に、つぎのような諭評をしている。

 ● この火災は世論、社会活動家、州の専門家の間で多くの疑問を引き起こした。第一に、事故原因が世論に十分かつ明確に説明されず、世論の心をもてあそぶ非公式の投機市場が過熱した。

 ● 第二に、多くの人が、ここ数週間のガスの臭いの問題が今回の火災と関係があるのか​​どうか、また、この地域に関係があるのであれば、災害を防ぐためにどのような対策が講じられたのかを知りたがっている。

 ● 第三の問題は、なぜ州、市、および製油所自体の環境に、ガスおよびコンデンセートの火災を消火するための特別な設備が装備されていなかったのか、また、同様の事象が、たとえば石油会社の貯蔵施設で発生した場合に事故が起こったかということである。 

 ● 第四の問題として、このような事故が起こらないよう、本事業の運転を許可する前に、現場に立入り、安全基準やタンク間の安全な距離などを確認は行われたのか。

■ 近年、イランの石油、石油化学、工業で多くの火災事故が発生しているが、そのほとんどは低い技術、低い品質の中国製設備の使用や構造物の老朽化などが起因していると指摘するメディアがある。

補 足

■「イラン」(Iran)は、正式にはイラン・イスラム共和国といい、西アジア・中東に位置し、人口約8,792万人のイスラム共和制国家である。

「南ホラーサーン州」(South Khorasan Province)は、イランにある31の州のひとつで、東部に位置し、人口約76万人である。

「ビールジャンド市」(Birjand)は、南ホラーサーン州の中部に位置し、人口約20万人の州都である。

 イランにおける事例は、つぎのとおりである。

  ● 20167月、「イランの石油化学工場でナフサ貯蔵タンク火災」

  ● 20167月、「イランの石油化学工場でまた貯蔵タンク火災」

  ● 201610月、「イランでサイバー攻撃が疑われる中、精油所でタンク火災」

  ● 20172月、「イランのテヘランで石油施設に落雷後、タンク火災」

  ● 20218月、「イランのハールク島にある石油化学でガソリンタンク火災」

  ● 20237月、「イランの製油所でタンクローリーによるプラント内の石油タンクが火災、負傷8名」

■「アザラン・サナート・バルサヴァ社」(Azaran Sanaat Barsave Com.)はどのような会社なのか分からない。インターネット検索しても何も出てこない。立上げから1年も経っていないというので、グーグルマップでビールジャンド市を調べても、該当しそうな簡易製油所やタンクは出てこない。

■「コンデンセート」は、 一般に、ガス田から液体分として採取される原油の一種で、地下では気体状で存在しているが、地上で採取する際、凝縮する液体をコンデンセートという。コンデンセート油とも称し、原油として化学原料として利用される。コンデンセートはナフサの成分とよく似ており、引火性で燃焼性の高い液体である。

■「発災タンク」は、容量250KLとみられるだけで仕様は分からない。被災写真を見ると、黄色の帯の付いた竪型円筒形で固定屋根式タンク群があり、これらのうちの1基が発災タンクではないかと思われる。仮に直径5m×高さ10mとすれば、200KLクラスのタンクである。

所 感

■ 事故原因は分からない。しかし、爆発は熱交換器に取付けられたバルブが不適切なために起こったものではないかという指摘があり、また多くの人がガスの臭いの問題を指摘していたとみられるので、設備不良とそれを見逃して対応をしなかった運転ミス(判断ミス)ではないだろうか。

■ 爆発の危険があるため、消防隊は500mの距離をおく必要があるとし、一時的に現場から撤退したと報じられており、消火戦略は積極的戦略・防御的戦略・不介入戦略のうち、不介入戦略をとっている。火災制圧には発災から48時間かかっており、火災になった15基のタンク内液(コンデンセートと燃料)はほとんどが燃え尽きたものとみられる。一方、コンデンセートの火災を消火するための特別な設備が装備されていなかったのかという指摘があるが、タンクの消火設備だけでなく、消防隊の消火資機材も適切なものとは言えないと思われる。

■ 爆発の映像を見ると、コンデンセート(ナフサに類似)の燃焼性の激しいことを物語っている。この事故で死傷者が出ていないが、事業所は爆発が起こるまでに人的被害を避けるために従業員を避難させており、消防隊は現場から撤退しており、この時点の判断は正しかったといえよう。  


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Reuters.com,  Fire causes two explosions at refinery in eastern Iran,  December 11, 2023

    Iranintl.com,   Fire Breaks Out In Eastern Iran's Birjand Refinery Reservoirs,  December 11, 2023

    Pune.news,   Huge fire erupts at mini-refinery in iran,  December 13, 2023

    Crisis24.garda.com, Iran: Emergency response ongoing after fire breaks out at oil refinery in Birjand, South Khorasan Province,   December 10, 2023

    Myind.net, Massive explosion rocks hydrocarbon refinery in Iran's Birjan Special Economic Zone,   December 11, 2023

    Firemiddleeastmag.com, FIRE CAUSES EXPLOSION IN EASTERN IRAN FACILITY,   December 13, 2023

    Radiofarda.com, پالایشگاه بیرجند کمتر از یک سال بعد از افتتاح دچار «انفجار و آتشسوزی»,   December 11, 2023

    Irna.ir,  آتشسوزی در مینی پالایشگاه بیرجند کنترل شد/ انفجار ۱۵ مخزن,   December 11, 2023

    Rajanews.com, نفجار-مجدد-در-مینی-پالایشگاه-بیرجند-آتش-به-همه-مخازن-رسید,December 11, 2023

    Isna.ir, علت آتشسوزی مخازن مینی پالایشگاه هیدروکربن در بیرجند هنوز مشخص نیست,December 11, 2023

    Aafheeghtesad.ir, مینی خطاهای پالایشگاه بیرجند حادثه عظیمی آفرید + عکس December 16, 2023


後 記: イランで起こったタンク事故を調べましたが、相変わらず事故内容は深まりませんでした。州の幹部などが情報を出しており、事故を小さく見せようというのか、事実が届いていないのか、不確かな情報が多く、記載できなかった記事が多かったですね。しかし、これまでのインターネット記事にはないようなわたしが疑問に思っていることを論評をしている内容のものがありました。イランの事故でこのような批判的な記事をみたのは初めてです。いくら火災は制圧したと発表しても被災映像が出てくれば、本当ではないと感じるのが通常の人でしょう。イラン国内の情勢が変わってきたのでしょうか。

 ところで、最近話題になっているChatGPTの能力について、前回のユタ州のタンク事故を例に聞いてみました。 ChatGPTへの依頼事項とその回答は、前回のユタ州のタンク事故のブログ後記に追記しました。回答はまたたく間に返ってきましたし、内容も雑多な情報の中から、違反の歴史があると指摘するなどなかなかのものです。(「米国ユタ州の化学施設でケミカルタンク爆発、負傷者2名」20231212日 を参照)

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