今回は、1年半前の2022年4月20日(水)、韓国の蔚山市にあるSKジオセントリック社蔚山工場において開放工事中の内部浮き屋根式タンクで爆発が起こり、死傷者2名を出した事例を紹介します。
< 発災施設の概要
>
■ 発災があったのは、韓国の南東部にある蔚山市(グァンヨク・シ/うるさん・し)南区にある化学会社であるSKジオセントリック社(SK Geo Centric)の蔚山工場である。
■ 事故があったのは、 蔚山工場にあるトルエン用の容量10,000バレル(1,590KL)の内部浮き屋根型固定屋根式円筒タンクP-T145である。発災当時、タンクに入っていた油は抜出され、開放工事が実施されていた。
<事故の状況および影響>
事故の発生
■ 2022年4月20日(水)午後1時30分頃、SKジオセントリック蔚山工場でタンクが爆発した。
■ 事故に伴い、消防隊が消防士55名と消防車両22台を伴なって出動した。追加事故に備えてタンク安定化のための冷却作業が行われた。
■ 火災は約10分で消えた。
■ タンクは、開放検査のため、内液の除去、パージ、水洗の清掃工事を完了していた。当日は、タンク内に入槽して内部浮き屋根のリムシールの撤去作業を行う過程で発生した。
■ 発災に伴い、請負会社の作業員2名が負傷した。タンク内で瞬間的に発生した炎で全身火傷を負った。負傷者は蔚山大学病院に搬送された。しかし、4月27日以降、ふたりの負傷者は相次いで亡くなった。
被 害
■ 容量10,000バレル(1,590KL)の内部浮き屋根型固定屋根式円筒タンク1基が損傷した。
■ 内部で作業していた作業員2名が火傷で負傷した。のちにふたりとも死亡した。
< 事故の原因
>
■ 原因は、内部浮き屋根のリムシールの撤去作業を行っている間に、タンク内部に残留していたトルエンが何らかの点火源によって爆発が発生したとみられる
。
< 対 応
>
■ SKジオセントリック社は、「石油化学製品の貯蔵タンクは定期的に整備するが、清掃する過程で事故が発生したようだ」といい、「火災原因究明など関係機関の調査に協力し、何よりも負傷した協力会社の従業員の治療に努める」と語った。
■ 警察と消防当局は、事故の経緯と被害状況などを調査し始めた。
■ トルエン残留ガスを除去するために設備内部を換気装置で十分に換気させ、作業前に有害物質濃度を測定しなければならない。このようにトルエン貯蔵タンク内の作業は非常に危険な作業であるため、二重、三重の徹底した安全措置を講じなければならないが、適切に安全措置がなされていなかったとみられる。事故現場では、昼休み前に換気を中断したが、昼休み後に換気施設を稼働した事実が確認されていない。10,000バレルサイズのタンク内の酸素濃度や有害ガス濃度を測定するとき、タンクの入口でのみ測定をして正しくガス濃度測定したとはいえず、酸素濃度や有害ガス濃度を正しく測定したか確認されていない。
■ 2022年4月28日(木)に出された調査結果では、作業当日はタンク内のガス検知を行い、問題がないことを確認して、タンク内に入槽した。そして、内部浮き屋根のリムシールの撤去作業を行っている間に、タンク内部に残留していたトルエンが何らかの点火源によって爆発が発生し、作業員が火傷を負ったとみられている。
■ この調査結果にもとづき、つぎのような安全対策が検討された。
● 作業段階別の危険性の確認と対策の準備
● タンク内部の水洗工事時、内部浮き屋根の上下空間を含む残留物質を十分に除去
● 連続的な強制換気設備の運用とリアルタイムの可燃性ガス濃度のモニタリング
● 帯電防止のための除電、制電作業服の着用、インジケータの使用
● ボルト作業、内部清掃、シール除去作業などには作業工具は必ずノンスパーク工具を使用
補 足
■「韓国」は、正式には大韓民国で、 東アジアに位置し、人口約5,170万人の共和制国家である。
「蔚山市」(グァンヨク・シ/うるさん・し)は、 韓国の南東部(朝鮮半島の南東部)に位置し、人口約115万人の広域市である。蔚山市には、自動車の生産高で韓国一位である現代自動車や現代重工業など現代グループの企業があり、海岸沿いには韓国最大の石油コンビナートがある。
■「SKジオセントリック社」 (SK Geo Centric)は、石油企業であるSKイノベーション社の化学事業子会社である。SK総合化学と称していたが、2021年 SKジオセントリックに社名を変更した。なお、SKイノベーションは1962年に大韓石油公社として設立し、2011年にSKイノベーションと社名を変えた。
■「発災タンク」は、トルエン用の容量10,000バレル(1,590KL)の内部浮き屋根型固定屋根式円筒タンクと報じられている。1,500KL級のタンクは直径12.5m×高さ12.5mほどの大きさである。なお、グーグルマップで蔚山市の石油コンビナートを見たが、特定できるような情報がなく、分からなかった。
「リムシール」はタンク側板と浮き屋根のシールである。日本では、シール部にエンベロープ(カバーシート)内にウレタンフォームを圧縮した状態で包み込むフォーム・ログ・シール方式である。米国には、メカニカルシール方式(パンタグラフ・ハンガー式またはメタルシール)を使用した浮き屋根タンクが多い。今回の事例では、リムシールの種類は分からない。
保全工事中のリムシールに関する事故は初めてである。リムシール 火災は少なくなく、主な事例はつぎのとおりである。
●「テキサス州ウィチタ郡の貯蔵タンク基地でリムシール火災」(2018年9月)
●「メキシコ・ペメックス社のタンクターミナルで落雷によるリムシール火災」(2021年8月)
●「マレーシアの製油所で原油タンクが落雷でリムシール火災」(2020年6月)
■「トルエン」(Toluene)の化学式はC7H8で、無色透明の芳香族炭化水素の液体で、引火点約4℃、爆発範囲1.2~7.1%、沸点約111℃、水を1としたときの比重は0.87である。常温で揮発性があり、引火性が高く、特徴的な臭気を持ち、人体に対しては麻酔作用があるほか、毒性が強い。水には極めて難溶だが、アルコールや油類などには極めて可溶なので、溶媒として用いられる。主な用途は、染料、香料、火薬(TNT)、有機顔料、合成クレゾール、漂白剤、ベンゼンやキシレンの原料、医薬品、塗料・インキ溶剤などである。
所 感
■ 事故原因は、内部浮き屋根のリムシールの撤去作業を行っている間に、タンク内部に残留していたトルエンが何らかの点火源によって爆発したとみられる
。韓国における今回の原因および安全対策は迅速な対応をしている。類似事故を回避するためには、早い情報開示が求められる。
■ 一方、内部浮き屋根式タンクを保有する事業者にとっては、内部浮き屋根の型式を示してもらいたかったと思う。というのは、“タンク内部に残留していたトルエン”
はどこに滞留していたのかという疑問が残り、安全対策の中で“タンク内部の水洗工事時、内部浮き屋根の上下空間を含む残留物質を十分に除去” するだけで十分なのだろうか。例えば、リムシールの撤去を行っているので、リムシール自身に不具合(例えば、フォーム・ログにトルエンが浸透)があったのではないか、あるいは浮き屋根のポンツーンに亀裂ができていて内部に油が浸み込んで残留していたという可能性やリスクは考えなくてもよい状態だったのだろうか。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Yna.co.kr, SK지오센트릭 울산공장 탱크 청소 중 화재…근로자
2명 중상(종합), April
20, 2022
・Safetyhappy.tistory.com, 蔚山SKジオセントリック内部作業中の爆発事故, April
28, 2022
・Ziksir.com, SK지오센트릭 울산공장 탱크 폭발…근로자
2명 중상, April
20, 2022
・Munhwa.com, SK지오센트릭 울산공장서 탱크 폭발로
2명 부상…청소작업 중 사고 추정, April
20, 2022
・Nocutnews.co.kr, SK지오센트릭 울산공장서 탱크 폭발…2명 중상, April
20, 2022
・News.nate.com, SK지오센트릭 울산공장서 탱크 폭발로 2명 부상…청소작업 중 사고 추정, April
20, 2022
・Ulsanlabor.org , 중대재해처벌법 울산 적용 2호,
SK지오센트릭 경영책임자를 처벌하라!, May
03, 2022
後 記: このところ、本ブログではタンクの保全工事中の事故の紹介が続いています。今年の事例でないものもありますが、意識して保全工事中の事故を取り上げているわけでありません。これまでの経験から、世の中が忙しくなるとタンク事故が増えるように感じます。新型コロナウイルス感染が落ち着き始めたことと関係があるのでしょうか。少なくとも、メディアに取材の制限が無くなってきたので、ニュースが増えてきたことは関係あるといえます。
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