2023年10月29日日曜日

米国カリフォルニア州で飲料水用貯水タンクが爆発で噴き飛び、死傷者2名

 今回は、2年前の2021621日(月)、米国のカリフォルニア州リムーア市にある市の水道施設で水道水の貯水タンクが爆発して、噴き飛び、死傷者2名を出した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国のカリフォルニア州(California)リムーア市(Lemoore)にある市の水道施設である。

■ 事故があったのは、水道施設内にある150万ガロン(5,677KL)の貯水タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2021621日(月)午後1時過ぎ、市の水道施設の貯水タンクが爆発した。

■ この水道施設に勤めていた従業員のひとりは爆発音を聞いた。そして「見上げると、それは船のようでした。大量の水を入れたタンクが爆発し、太陽を遮り、着地すると、水の波が押し寄せました。まるで、津波のようでした」と当時の状況を語った。

■ 発災に伴い、2名の死傷者が出た。請負会社のJ.R.フィラン建設会社の従業員1名が死亡し、市職員1名が負傷した。事故当時、請負会社の従業員3名と市職員1名が作業していた。請負会社では、亡くなった1名以外にはケガは無かった。

■ 事故によって現場は操業ができなくなった。このため、リムーア市は非常事態を宣言した。

■ 事故は、請負会社が溶接を始めたとき、タンクが破裂し、地上から約70フィート(21m)の高さまで浮き上がった。そして、タンク内の水によって津波が起こり、駐車していたトラックが流され、水道施設の第7坑井に大きな被害をもたらした。

■ リムーア市は、「現場が修復されるまで、水を節約し、芝生に水をまいたり、ホースを使って車や道路に水をかけたりしないよう」住民に呼びかけた。住民は自宅の水圧が低いことに気づいた。

■ 市では、爆発がタンク構造物の上部スペースで起こり、タンクの底板接続部で引き裂かれて浮き上がったことから、タンク内に何らかのガスが溜まっていたに違いないと推測した。

■ 事故当日は、新しいねじ付きのバルブ(栓)をタンクに溶接で接続する工事予定だった。621日、タンクに新しい栓を溶接していたところ、タンクが爆発し、タンクが基部から浮き上がった。

■ 622日(火)午後、現場近くで山火事が発生して 5エーカーを焼いた。出動した消防隊は低い圧力の水に事故の影響を感じながら、対応した。消防隊はブルドーザーを使用して、大量の水を使わない戦術をとった。

■ ユーチューブには、監視カメラで爆発の瞬間を撮影された動画が投稿されている。

 YouTube,Surveillance camera captures deadly water tank explosion in Lemoore2021/6/23


被 害

■ 150万ガロン(5,677KL)の貯水タンクが損壊した。 

■ 事故により死傷者が2名出た。ひとりが死亡し、ひとりは負傷だった。

< 事故の原因 >

■ 爆発の原因は貯水タンク上部に溜まっていたメタンが、溶接工事の火花で着火した。

< 対 応 >

■ 事故を受け、カリフォルニア州の米国労働安全衛生局(OSHA)は、事故原因を調査し始めた。

■ リムーア市の水道施設は、残っているほかの150万ガロン(5,677KL)のタンクから水を供給するように配管系を修復する作業を行っている。配管系の修復が終えたら、タンクに水を入れて塩素処理を行い、24時間を経過したら水のサンプルを採取する。サンプルはカリフォルニア州に送らなければならない。さらに24時間待って、別なサンプルを採取しなければならない。水を供給できるようになるには、検査が終えるまで23日かかるという。

■ 623日(水)、リムーア市は、タンクの爆発が防止可能だったと声明を出した。150万ガロンのタンクは長年にわたり何事もなく稼働していたという。しかし、請負会社が溶接を始まる前に、必要不可欠な安全確認を怠った。水道システムなど狭い空間で配管作業を行う場合、作業を行う前にそのエリアにガスが存在するかどうかテストする必要があった。これは、パイプを切断したり、ヘッドスペースのある密閉空間で作業したり、裸火で作業する場合、標準的な慣行としてガス検知を実行する必要があった。

■ 爆発を引き起こしたガスはメタンと特定された。

■ メタンは、バクテリアの活動や有機物の腐敗から生じたり、あるいは地下の深いところや埋立地からにじみ出たガスが地下水の中に生じることがある。水の中に存在するメタン自体には毒性はないが、水に溶けたメタンが貯水タンクの上部スペースの空気と接触するとガスが放出されるという。空気中のメタンは呼吸を困難にし、可燃性や爆発性の雰囲気にする可能性がある。

補 足

■「カリフォルニア州」(California)は、米国西海岸に位置し、メキシコとの国境から太平洋沿いに細長く伸び、人口約3,950万人の州である。

 「リムーア市」(Lemoore)は、カリフォルニア州の中部に位置し、キングス郡の市で人口約26,000人である。

■「発災タンク」は容量150万ガロン(5,677KL) と報じられている。グーグルマップで調べると、直径約27mの固定屋根式タンクである。高さを10mと仮定すれば、容量5,700KLクラスとなるので、直径27m×高さ10mクラスで容量5,677KLのタンクである。

所 感

■ 今回の事例を知ったとき、水タンクが“破裂”したと思った。次第に情報が明らかになり、“爆発”だと納得した。

■ 市の水道施設も情報が明らかになってきて、溶接工事前のガス検知による安全確認を行っておれば、事故は防ぐことができたと発表しているが、これは結果論だという感じである。タンク上部に可燃性ガスが存在していると認識しておれば、通常の操業や工事に際してもっと危険性を感じる対応をしていたのではないだろうか。

 米国では、地下水を飲料水にしているところでは、水の中にメタンを含有しているが、飲用して有害になるほどではないという。日本では、原油が採れていた東北以外では、地下水にメタンが含まれるという認識はない。原油・ガス生産国である米国の特異な事例であろう。 

■ 一方、発災写真の残った貯水タンクを見ると、油用タンクの屋根構造と異なっている。屋根が丸みを帯びた形状で側板と突合せ溶接で接続されている。油用タンクでは、爆発があったときに屋根と側板が容易に外れるように溶接部が弱く作られている。この構造の違いが、貯水タンクが爆発したときに、側板と底部の溶接接続部が破断してタンクが噴き飛んだものである。

備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

        Yourcentralvalley.com, Surveillance camera captures deadly water tank explosion in Lemoore,  June  22,  2021

       Ktla.com, Deadly water tank explosion caught on astonishing video in Central Valley,  June  23,  2021

       Paintsquare.com, CA Water Tank Explosion Causes Fatality,  June  29,  2021

       Abc30.com, Cleanup and repair work begins after Lemoore water tank explosion,  June  24,  2021

       Hanfordsentinel.com, Lemoore water tank explosion caused by methane gas, incomplete safety check,  March  10,  2023

       Visaliatimesdelta.com, Deadly Lemoore water tank explosion 'very preventable‘,  June  23,  2021

       Kmph.com, Water tank explosion could take months to investigate,  June  24,  2021


後 記: 2年前の事例ですが、今回、検索していて初めて知りました。米国でも特異な事例ですし、監視カメラで撮影されていたということもあって、今も関心を持たれているようです。検索していてもすでに削除されていますといったメディアもなさそうです。地下水から飲料水を採っているところが多いので、教訓として残そうという記録好きな米国らしさを感じます。



2023年10月21日土曜日

貯蔵タンク地区の火災・爆発事故のリスク評価および球形タンクの解析事例

 今回は、2017年のケミカル・エンジニリング会報に投稿された中国の研究者による「製油所の貯蔵タンク施設における火災・爆発事故のリスク評価」(Risk Evaluation for Fire and Explosion Accidents in the Storage Tank Farm of the Refinery)を紹介します。この資料本文には球形タンクの解析事例が付いていますが、球形タンクを選んだ背景には2015年に起きた「中国 山東省の液化石油ガスタンク群で爆発・火災」の事故が影響していると思われます。

< 概 要 >

■ ダウ・ケミカル社(Dow Chemical)が開発したダウの火災・爆発指数(F&EI)評価法および事故ツリー分析(ATA)は、大規模製油所の貯蔵タンク地区における火災・爆発事故のリスクに関する定性的分析と定量的分析を実施するために用いられている。ここでは、まず、ダウのF&EI評価手法を用いて、製油所内にある各油種6基のおける貯蔵タンクの安全性評価を実施した。つぎに、事故ツリー分析(ATA) を用いてLPG球形タンクの火災・爆発事故を解析し、事故の頂上事象を発生させる最小限の基本事象の組み合わせであるミニマルカットセット(Minimal Cut Set MCS)を確認した。そして、基本事象の構造的重要度を算出・分類して、LPG球形タンクの事故に影響する主要因を明らかにした。そのあと、有効な防止策を講じることによって、LPG球形タンクの安全性と運転信頼性を向上させる。

1. はじめに

■ 規模の大きい製油所では、製品の種類が多く、貯蔵量が多量で、タンク内に可燃性や爆発性物質があるため、火災や爆発事故の発生する可能性が高い。一旦、事故が発生すると、連鎖反応が起こりやすく、甚大な損失や社会的影響を引き起こす。したがって、このような事故を回避するために、製油所におけるタンク地区の火災・爆発事故リスクについて定性的・定量的な安全性評価の研究を実施することは大きな意義がある。

 本研究では、製油所の原油生産能力を1,000万トン/年としている。敷地面積は2.4k㎡で、プラントは機能別にプロセスエリア、貯蔵・輸送エリア、ユーティリティ・補助施設エリア、管理エリアに分かれている。タンク地区の設備分類は、原油タンク地区、中間原料タンク地区、製品タンク地区、圧力タンク地区などで構成されている。原油タンク、ガソリンタンク、ディーゼルタンク、プロピレン球形タンク、液化石油ガス(LPG)球形タンク、ベンゼンタンクの各容量は、100,000KL30,000KL30,000KL2,000KL3,000㎥、3,000㎥である。危険化学物質のハザード施設の判断は、中国国家標準GB18218-2009 Identification of major hazard installations for dangerous chemicals) によれば、貯蔵・輸送システムが重視すべきハザード施設に該当することがわかる。タンク地区のハザードレベルはレベルである。(Sinopec Group, 2008

2. ダウの火災・爆発指数評価法(Dow’s fire & explosion index evaluation method) (第7版)

 2.1 原料ファクター(MF)の選択

■ 原料ファクター(MF)は、発火や化学反応から生じる火災または爆発において、原料が放出するエネルギーを示す固有の特性である。各単位成分の原料ファクター(MF)は以下に示す表から求める。

2.2 一般プロセスハザードファクター (F1)の算出

■ 一般プロセスハザードは、事故の被害を決定する要因で、発熱反応(A)、吸熱反応(B)、原料のプロセス・輸送(C)、密閉または屋内プロセスユニット(D)、通路(E)、排出・漏洩のコントロール(F)6項目からなる。具体的な状況に応じて適切なファクターを選択し、計算表に入力する。そして、これらのハザードファクターは、表1のユニットの一般的なプロセスハザードファクター(F1)に加算する。基本ファクターは1である。

2.3 特別プロセスハザードファクター(F2)の算出

■ 特別プロセスハザードは事故発生の可能性に影響を及ぼす要因で、(A)(L)までの12項目ある。すなわち、 (A)毒性物質(0. 2×NH)、 (B)負圧(<500mmHg)、 (C)爆発限界内または爆発限界付近での運転、 (D)粉塵爆発、 (E)圧力、 (F)低温、 (G)可燃性で不安定な物質、 (H)腐食および摩耗、 (I)漏洩=継手およびフィラー、 (J)裸火を使用する装置、 (K)熱油熱交換システム、 (L)回転装置の12項目である。基本ファクターは1である。

2.4 プロセスユニットのハザードファクター(F3)の算出

■ プロセスユニットのハザードファクター(F3)は、一般プロセスハザードファクター(F1)と特別プロセスハザードファクター(F2)の積であり、すなわち、F3F1×F2 で算出する。 F3は通常18の範囲である。一般的には8.0を超えることはない。F38.0を超える場合は、最大8.0で計算する。

2.5 火災・爆発指数(F&EI)の算出

■ 火災・爆発指数(F&EI)は、プロセスユニットで発生した事故から生じる可能性のある損害を算出して評価するために使用される。これは、原料ファクター(MF)とプロセスユニットハザードファクター(F3)の積であり、すなわち、F&EI MF×F3 で算出する。F&EI の計算結果を 表3 に示す。

2.6 補償ファクターの決定(C0

■ 安全を確保できる方法を適切に選択することで、事故の発生を未然防止したり、起こり得る物的損害を許容可能なレベルまで低下させることができる。安全を確保する方法は、プロセス管理(C1)、原料の隔離(C2)、火災防止設備(C3)の3種類に分けられ、C0=C1×C2×C3で求める。

 プロセス管理(C1)には、非常用電源(a)、冷却装置(b)、爆発抑止装置(c)、緊急遮断装置(d)、コンピュータ制御(e)、不活性ガスによる保護(f)、運転手順(g)、化学的活性物質の検査(h)、その他のプロセスハザードに関する分析(i)を含み、火災防止設備(C3)がある。

 原料隔離の安全予防ファクター(C2)には、遠隔バルブ(j)、排出/ドレン装置(k)、放出システム(l)、インターロック装置(m)が含まれる。

 火災防止設備の安全対策ファクター(C3)には、漏洩試験装置(n)、構造用鋼材(o)、消火用給排水システム(p)、特別な消火設備(q)、スプリンクラー消火設備(r)、ウォーターカーテン(s)、泡消火設備(t)、携行型消火設備(u)、ケーブル保護設備(v)が含まれる。



2.7 被災半径と被災面積の決定

 影響の範囲は、0.84×F&EI の値にもとづき図を参照して、被災半径 Rを求める。被災面積 S S=πR2 で求められる。ここで Rは被災半径(単位;m)である。

2.8 MPPD Maximal Possible Property Damage)の算出

■ MPPDとは、想定される最大の物的損害のことであり、表5 に示すように基本MPPDと実MPPDに分類することができる。基本 MPPD=被災面積内の物的価値×DFである。実 MPPD=基本 MPPD×補償ファクター C0である。

 ダウのF&EI(火災・爆発指数)の結果によると、LPG球形タンクは火災・爆発のハザードが最も高く、ディーゼルタンクが最も低くなっている。火災または爆発が発生した場合、LPG球形タンクの影響半径は最大74mとなり、その範囲内で物的資産の82%が損害を受ける可能性がある。安全対策による補償、つまり何らかの対策を講じれば、各タンクの火災や爆発に対するハザードはある程度軽減され、各タンクのセキュリティは通常の生産・操業時には効果的に補償される。

 しかし、設備の安全性と信頼性を確保するためには、総合的なシステムとしてのセキュリティ保護システムは、セキュリティ対策の補償項目にもとづき、優れたスタッフと正しい運転手順の技術指導を兼ね備えていなければならない。(Wang, 1999) そのため、LPG球形タンクの火災・爆発事故の分析にATA法を用いる。


3. LPG球形タンクの火災・爆発に対する事故ツリー解析(ATA)

■ 規模の大きい製油所における容量3,000㎥のLPG球形タンクを例に、LPG球形タンクの火災・爆発事故ツリーを解析した。(Gu, 2001

3.1 事故原因の調査

■ 調査は、事故に関する直接的原因に関する要因(機器の故障、人為ミス、劣悪な環境要因)について行う。

3.2 事故ツリーの構築

■「LPG球形タンクの火災・爆発」を頂上事象とし、この頂上事象を誘発するような基本的な原因についてすべての基本事象が特定されるまで解析を行い、図1 に示すような論理ゲートによる事故ツリーを構築する。

3.3 ミニマルカットセット(Minimal Cut Set MCS)の決定   

■ ミニマルカットセットとは、頂上事象につながる可能性のある基本事象のセット(集まり)のうち、最も程度の低いものである。(すなわち、カットセットに含まれる基本事象のいずれかが発生しなければ、頂上事象は発生しない可能性がある) 事故ツリーのミニマルカットセットは、“トップダウン” 置換法によって得られる。(Jing and Jia, 2004) そして、事故ツリーは等価のブール方程式(Equivalent Boolean equation)に変換され、つぎのようになる:


3.4 構造重要度の分析

■ つぎの式は、Xiの構造重要度ファクターの近似判別式である:


 ここで、Xi は基本事象である。Pj はミニマルカット(パス)セットである。 nj は基本事象Xi が位置するミニマルカットセットPj に含まれる基本事象の数である。ここで、ミニマルカットセットPj は基本事象Xi が存在し、 Xi の構造的重要度ファクターである。この場合の基本事象の構造的重要度ファクターは、つぎのように計算される:  

 I𝜙(𝑋4),⋯⋯,I𝜙(𝑋7)  バルブのシール不良、フランジのシール不良、タンク本体破損、誤操作によるLPG漏れは構造上の重要度が高く、頂上事象への影響が大きい。各基本事象の構造的重要度ファクターはつぎのように分類される:

 𝐼(𝑋4) = 𝐼(𝑋5) = 𝐼(𝑋6) = 𝐼(𝑋7) > 𝐼(𝑋8) = 𝐿𝐿 = 𝐼(𝑋14) = 𝐼(𝑋12) = 𝐼(𝑋17) > 𝐼(𝑋1) = 𝐼(𝑋15) = 𝐿𝐿 = 𝐼(𝑋21) > 𝐼(𝑋2) = 𝐼(𝑋3)

3.5 主な影響要因と予防策

■  LPG 球形タンクの火災・爆発事故には、35通りの原因が考えられる。事故ツリー解析(ATA) によって火災や爆発事故を防止するためには、事故を引き起こす各基本事象からつぎのような対策を検討する必要がある。(Guo, 2009; Zu, 2004

1) バルブと接続フランジを定期的に点検し、漏れを防ぐこと。

2) タンク本体を定期的に点検し、腐食などによるタンク本体の亀裂やひび割れの形成を防止すること。

3) タンク地区内での喫煙を禁止するため、セキュリティ・チェックを強化すること。

4) タンク地区内での非防爆機器の使用を禁止し、防爆機器の点検を強化すること。

5) 接地設備、パイプライン、鉄製品を使用した機器を叩くことを禁止すること。

6) 耐雷性・耐静電性の機器と接地抵抗を頻繁にチェックして、それらが安全仕様に合致していることを確認すること。

7) タンク内の液体による過圧を防ぐため、プロセスパラメーターを厳密に制御すること。

8) 作業服と安全靴は作業前に必ず着用すること。

補 足

■ 本資料の作成者は、つぎのとおりである。

 Jingjing Zhao ; College of Chemical Engineering, Beijing University of Chemical Technology(北京化工大学化学工学院、中国北京市)  

Wei Li Oasis Environmental & Safety Technology Co., Ltd.(オアシス環境安全技術有限公司、中国青島市)

Chongliang Bai ; Center for Molecular Science and Engineering, College of Science, Northeastern University(ノースイースタン大学理学部分子理工学研究センター、中国瀋陽市)

所 感

■ この種の資料を日ごろから見ていないと、分かりづらい内容だと感じる。特に、各章が検討経過を省いているので、どのようにしてそのような数値になるのだろうと別な方へ意識がいく。

■ 石油施設(タンク)のハザードを数値で表したところが興味深い。定性的な判断をしがちな日本人にとっては苦手な点である。しかし、資料にも記載しているように「設備の安全性と信頼性を確保するためには、総合的なシステムとしてのセキュリティ保護システムは、セキュリティ対策の補償項目にもとづき、優れたスタッフと正しい運転手順の技術指導を兼ね備えていなければならない」と人が重要であるとも言っている。

■ LPG 球形タンクの事故ツリー解析(ATA) によって火災や爆発事故を防止するためには、つぎのような対策を検討する必要があると述べているが、タンク地区内の喫煙の禁止、鉄製品を叩くことの禁止、作業服と安全靴の作業前の着用など日本では常識的と思われていることも、基本に帰ればもっともなことである。

①バルブと接続フランジを定期的に点検し、漏れを防ぐこと、②タンク本体を定期的に点検し、腐食などによるタンク本体の亀裂やひび割れの形成を防止すること、③タンク地区内での喫煙を禁止するため、セキュリティ・チェックを強化すること、④タンク地区内での非防爆機器の使用を禁止し、防爆機器の点検を強化すること、⑤接地設備、パイプライン、鉄製品を使用した機器を叩くことを禁止すること、⑥耐雷性・耐静電性の機器と接地抵抗を頻繁にチェックして、それらが安全仕様に合致していることを確認すること、⑦タンク内の液体による過圧を防ぐため、プロセスパラメーターを厳密に制御すること、⑧作業服と安全靴は作業前に必ず着用すること。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Aidic.it, Risk Evaluation for Fire and Explosion Accidents in the Storage Tank Farm of the Refinery , CHEMICAL ENGINEERING TRANSACTIONS VOL. 62, 2017

 本資料で引用された論文は、つぎのとおりである。

Dong Y.C., Song W.F., Xie F., 2012, Quantitative analysis of fire explosion accident of liquefied petroleum gas storage tank, Acta Scientiarum Naturalium Universitatis Nankaien, 45(1), 101-105.

Gu X. B., 2001, Methods and application of petrochemical safety analysis, Chemistry Industry Press.

Guo G.C., 1999, Oil storage and transportation of oil refinery, China Petrochemical Press.

Jing G.X., Jia P., 2004, Application of Minimum Cutset in System Safety Analysis, China Safety Science Journal, 14(5), 99-102.

Liu Y.B., 2011, Risk analysis and prevention of fire and explosion accident o refinery storage tanks, Petroleum Refinery Engineering, 41(10), 61-64.

Luo Y., 2009, Registered safety engineer manual, Chemistry Industry Press.

Sinopec Group, Code of petrochemical enterprise design, GB 50160-2008.

Wang Y.H., 1999, safety system engineering, Tianjin University Press.

Zu Y.X., 2010, Liquefied petroleum gas operation technology and safety management, 3th Edition, Chemistry Industry Press.


後 記: 興味ありそうなことが記載されていたので、紹介することとしました。本当は中国のタンク事故情報を知りたかったのですが、 2020年ごろから検索しても事故情報にヒットしません。「中国における石油貯蔵所の火災・爆発の事例分析」(20197月)によれば、貯蔵タンクに限っても事故件数は平均1.7/年あります。確かなに新型コロナウィルス感染症の問題が出始めて、報道の取材が制限され、情報量が激減しました。しかし、そればかりでは無さそうな気がしています。事故を教訓としていけばよいのに、事故は隠れたがるというようにひとが隠してしまう、すなわち“無いことにしてしまっている”のでないでしょうか。

2023年10月17日火曜日

英国のオックスフォードでバイオガス・タンクに落雷、爆発・火災

 今回は、2023102日(月)、英国オックスフォードシャー郡カシントンにあるセバーン・トレント・グリーン・パワー社の食品廃棄物リサイクルプラントの消化層タンク(バイオガス・タンク)が落雷によって爆発・火災を起こした事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、英国(England)オックスフォードシャー郡(Oxfordshire)のオックスフォード(Oxford)北部のカシントン(Cassington)にあるセバーン・トレント・グリーン・パワー社(Severn Trent Green Power)のプラントである。このプラントは、食品廃棄物をグリーンエネルギー源であるバイオガスに変換する施設である。

■ 事故があったのは、セバーン・トレント・グリーン・パワー社の食品廃棄物リサイクルプラント(Food Waste Recycling Plant)の消化層タンク(バイオガス・タンク)である。タンクはコンクリート製の円筒型で、上部にはプラスチック製の緑色のカバーで覆われている。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2023102日(月)午後720分頃、食品廃棄物リサイクルプラントの消化層タンク(バイオガス・タンク)に落雷があり、大規模なガス爆発が発生した。当時、この英国南部の地域は悪天候で雷雲が通っていた。

■ 目撃者によると、プラントで爆発が起こった後、ファイヤボールが夜空を照らしたという。オックスフォードの住民のひとりは、 「キッチンに座っていたら、部屋全体がまばゆい光で照らされ、そのあと空気が切り裂かれるような激しい雷鳴がとどろきました。窓から外を見ると、まるで空がオレンジ色に脈打っているようでした」と語った。爆発の音は20マイル(32km)離れたところからも聞こえた。火災が確認される前に2回の爆発音が聞こえたという報告もある。

■ 発災に伴い、消防隊が消防士40人と消防車両6台とともに出動した。消防隊のほかに救急車4台が待機した。消防隊は、はしご車と消火水タンク付き車両を使って消防活動を行った。

■ プラスチック製カバーが火災によって完全に破壊された3基の消化層タンク(バイオガス・タンク)からはガスが噴き出していたため、消防隊は3基のタンク内の火災に対処した。

■ 警察は、 幹線道路のA40号線についてウルバーコートとアインシャムの間を通行止めとした。また、「安全を確保するため、近隣住民は窓やドアを閉め、自宅に留まるように」という広報を流した。

■ 近隣のウィットニー、バーフォード、チッピング・ノートン、ミルトン・アンダー・ウィッチウッドでは、停電になったという。この停電は爆発事故による影響ではなく、悪天候によるらしい。

■ 事故に伴う負傷者は出なかった。

被 害

■ 消化層タンク(バイオガス・タンク)3基が損傷した。

■ 負傷者は出なかった。

■ 近くの幹線道路が交通遮断された。近隣住民には、「安全を確保するため、窓やドアを閉め、自宅に留まるように」という広報が流されたが、避難指示は出なかった。   

< 事故の原因 >

■ タンクの発災は落雷によるものとみられる。

< 対 応 >

■ 103日(火)の未明、消防隊は5時間以上かかって消火した。消防士は一晩中現場にいて、103日の朝も現場に待機した。地上では状況がよく分からなかったが、ドローンによる空撮映像では、5基の消化層タンク(バイオガス・タンク)のうち3基のタンクは溶けたプラスチックのカバーの残骸がタンクを覆っているのが見えた。

■ 103日(火)、消防署によると、火災の調査と監視は数日間続く予定だという。消防隊は、規模を縮小しており、残っている消防車は1台のみである。

■ 103日(火)、警察官は午前4時頃に現場を去り、A40号線の通行止めは解除された。

■ 103日(火)、セバーン・トレント・グリーン・パワー社は、火災が消えて現場は安全な状態になっているが、一般の人たちは現場に近づかないよう呼びかけた。 

■ 105日(木)、セバーン・トレント・グリーン・パワー社の食品廃棄物リサイクルプラントは、20236月に避雷針マストの設置がオックスフォードシャー郡議会から許可されていたことが分かった。メディアのBBC は、102日(月)に起こった事故の前に、高さ22mの避雷針マストが設置されていたかセバーン・トレント・グリーン・パワー社に問い合わせたが、同社は確認を拒否した。

■ セバーン・トレント・グリーン・パワー社は、食品廃棄物リサイクルプラントをすべての業界標準(Industry Standards)に沿って運営していたと述べている。さらに、消化層タンク(バイオガス・タンク)のタンクには、雷に対する接地保護装置を備えていたと付け加えた。

■ オックスフォードシャー郡議会から6月に避雷針マストの設置が許可されたが、2月の申請段階の審議では、避雷針マストによって消化層タンク(バイオガス・タンク)や施設への落雷のリスクが軽減されると述べられていた。

■ 英国の安全衛生庁( Health and Safety Executive )は、セバーン・トレント・グリーン・パワー社の食品廃棄物リサイクルプラントへの立入検査を実施する予定だという。

■ 105日(木)、セバーン・トレント・グリーン・パワー社は、食品廃棄物リサイクルプラントの一部について再稼働しており、補修についてはタンク3基の上部に限定されていると語った。

■ セバーン・トレント・グリーン・パワー社は「すべての業界標準に沿って建設し、運営していた施設の現場は、迅速かつ安全に封じ込められた」といい、「落雷があったときに何が起こったのかよく理解するために、私たちは消防署などと協力していきます」と語っている。

 一方、業界団体である嫌気性消化生物資源協会(Anaerobic Digestion Bioresources Association)は、「悪天候など厳しい気象条件の頻度が増加傾向に対処するため、業界標準を強化する必要があるかどうかの見直しを主導する」意向であると述べた。また、オックスフォードシャー消防局は、同様の事故が再発しないようにするための措置を講じることができるかどうかを調査していると述べた。

■ 2016年には、ウォーリングフォード(Wallingford)近郊のベンソン(Benson)にあるアグリバート社(Agrivert)が操業する廃棄物消化槽タンクに落雷があり、貯蔵されていたメタンに引火し、20分間燃え続けて屋根を損壊する火災が発生した事例がある。

■ ユーチューブには、爆発時の夜景やドローンからの空撮映像などが投稿されている。主な動画は、つぎのとおりである。

  YouTube, Fireball erupts over Oxford skyline in gas explosion caused by lightning strike2023/10/03

 ● YouTube, Drone footage shows extent of damage from biogas tank explosion2023/10/03

 ● YouTube, Oxfordshire explosion: Drone footage shows major destruction2023/10/03

補 足

■「英国」(England)は、グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国(イギリス)を構成する4つの国(カントリ)の一つである。人口は約5,300万人で、面積はグレートブリテン島の南部の約三分の二を占める。北はスコットランド、西はウェールズと接し、北海、アイリッシュ海、大西洋、イギリス海峡に面している。

「オックスフォードシャー郡」(Oxfordshire County) )は、英国南東部にあり、オックスフォードシャー州とも呼ばれており、人口約69万人の地域である。

「カシントン」(Cassington)は、オックスフォード(Oxford)北部に位置し、人口約750人の村である。

■「セバーン・トレント・グリーン・パワー社」(Severn Trent Green Power)は、2017年に設立した再生可能エネルギー会社で、食品廃棄物のリサイクルとグリーン廃棄物の堆肥化ネットワークを運営している。セバーン・トレント・グリーン・パワー社は、11 の嫌気性消化施設と 5つの堆肥化施設を所有しており、 65以上の地方自治体や企業に食品廃棄物リサイクル ソリューションを提供している。カシントンにあるプラントでは、毎年 50,000トンを超える固形および液体廃棄物を処理しており、 2.1メガワットの電力を地域へ供給している。なお、英国には、現在、バイオガス・プラントの総数は約660 箇所あり、電力を供給している稼働中のバイオガス・プラントが約109箇所あるという。  

 バイオガス変換は気密容器内で廃棄物を発酵させ、そこで嫌気性呼吸をさせてガスを発生させる。その後、ガス貯蔵タンクに集められ、暖房や電気のエネルギーとして利用される。下図を参照。


■「発災タンク」は、緑色のプラスチック製カバーが溶けた3基のタンクのうちのいずれかであるが、最後まで白煙が漂っている一番南端のタンクと思われる。日本では発酵槽と呼ばれる消化層タンク(バイオガス・タンク)は、5基とも同じ大きさで、直径は約32mであり、高さを5mと仮定すれば、容量は4,000KLクラスである。通常の鋼製の円筒型タンクと異なり、タンク本体はコンクリート製である。コンクリート製円筒型タンクの例は下図を参照。

所 感

■ 英国の嫌気性消化生物資源協会は「悪天候など厳しい気象条件の頻度が増加傾向に対処するため、業界標準を強化する必要があるかどうかの見直しを主導する」という。すでに、事業者であるセバーン・トレント・グリーン・パワー社は避雷針を設置する計画だった。「悪天候など厳しい気象条件の頻度が増加傾向」は日本だけでなく、英国もそのように感じているようだ。日本でも、コンクリート製の消化層タンク(バイオガス・タンク)のような設備があれば避雷針を設置すべきであろう。

■ 一方、大きな爆発事故が起きている割に、コンクリート製の消化層タンク(バイオガス・タンク) の被害状況は小さい。燃焼物がバイオガス(メタンが主)であり、プラスチック製のタンク上部に溜まっていたバイオガスが爆発で消費したら、タンク内部からのバイオガス供給は極端に少なくなることによる。この点が油の貯蔵タンクと異なり、リスクが大きくないといえる。

■ 逆に、リスクが大きくない所為で消化層タンク(バイオガス・タンク)のタンク間距離が短い。被災写真を見ても、消防車両がよくタンク地区に進入していったというほどの狭さである。落雷によって発災したのは一番南端のタンクと思われるが、タンク間距離が短いため、隣接タンク2基のプラスチック製カバーに延焼したとみられる。

■ セバーン・トレント・グリーン・パワー社は、すべての業界標準(スタンダード)に沿って建設し、運営していた施設だという。この種の再生エネルギー施設は積極的に展開していくべきものであるが、今回の事例は食品廃棄物リサイクルプラント分野において貴重な教訓として活かされるだろう。

備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

      Bbc.com, Explosion at Oxfordshire recycling plant after lightning strike,  October  03,  2023

      Bbc.com, Oxfordshire explosion: Plant had permission for lightning mast,  October  05,  2023

      Dailymail.co.uk, Oxford locals reveal they heard massive blast at green energy plant TWENTY miles away - as aerial images show devastation of site struck by lightning and video shows moment huge fireball was sent into the sky,  October  03,  2023

      Oxfordmail.co.uk, Oxford explosion update from Severn Trent Green Power,  October  03,  2023

      Theguardian.com, Lightning strike causes huge explosion at Oxford recycling plant,  October  03,  2023

      Mrw.co.uk,  Lighting strike causes explosion at food waste biogas plant,  October  03,  2023

      Reuters.com, UK police attending gas facility fire likely caused by a lightning strike,  October  02,  2023

      News.sky.com, Oxfordshire explosion: New pictures show damage caused by lightning strike at recycling plant,  October  02,  2023

      Wionews.com, Oxfordshire Explosion: Lightning strike causes fire at recycling plant biogas tank,  October  02,  2023

      Bioenergy-news.com, Power outage after lightning strikes Oxfordshire AD plant,  October  02,  2023

      Tankstorage.com, Lightning strike on gas tank causes fire in Oxford,  October  03,  2023

      Standard.co.uk, Lightning strike causes huge explosion at recycling plant in Oxfordshire,  October  03,  2023

      Uk.finance.yahoo.com, Fire service reveal extent of damage to power station after explosion,  October  03,  2023

      Uk.news.yahoo.com, Shocking aftermath of lightning strike gas explosion,  October  03,  2023


後 記: 最初にプラスチック製カバーが溶けている被災タンクの写真を見たとき、よく理解できませんでした。爆発時の夜景の映像との乖離(かいり)が大きく、これまでの油タンクの爆発・火災状況とずいぶん違っていました。そこで、はじめに食品廃棄物リサイクルプラントについて調べていきました。そうすると、「食品廃棄物から再生可能エネルギーを創出!地域循環型社会を目指すバイオフードリサイクル」というキーワードが環境省から出ていました。今回の事例は最先端技術であるプラントの最新の事故情報でした。日本の牧之原バイオマス発電所(下記資料を参照)よりはるかに規模の大きい施設が英国では操業されていたということです。 EU(欧州連合)から離脱していた英国が地域循環型社会を目指していることを知った事例でした。



2023年10月9日月曜日

米子市のバイオマス燃料発電所の爆発・火災事故の原因調査結果

 今回は、202399日(土)に起きた米子バイオマス発電所の燃料受入搬送設備の爆発・火災事故について102日(月)に行われた鳥取県と米子市によって結成された調査チームが原因調査結果を発表したので、その内容について紹介します。前半はこれまでの概況を記載し、原因調査結果の内容は「対応」の項に記載しています。なお、事故の内容は「米子市のバイオマス燃料発電所で爆発・火災事故」2023918日)「米子市のバイオマス燃料発電所の爆発・火災事故の住民説明会」2023927日)を参照。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、鳥取県米子市大篠津町にある米子バイオマス発電所合同会社の米子バイオマス発電所である。

■ 事故があったのは、火力発電所で使うバイオマス燃料である木質ペレットの受入搬送設備である。輸入される木質ペレットは、境港に荷揚げ後、専用のトラック(コンテナ)で運ばれて鉄骨建屋(135㎡)内の受入搬送設備に受け入れる。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 202399日(土)午前925分頃、バイオマス発電所で爆発が起き、火災が発生した。

■ 爆発によって受入搬送設備の建屋の壁が吹き飛び、木質ペレットを燃料貯留槽に運ぶエレベータが燃えた。

■ 発災に伴い、消防署の消防隊が出動するとともに米子バイオマス発電所従業員が消火活動を開始した。約3時間50分後の午後115分頃に鎮火した。

■ 912日(火)、米子市長は、 20235月以降の相次ぐ火災で住民に大きな不安を与えているとし、米子バイオマス発電に対して、つぎのような申し入れを行った。

 ● 安全確保上、必要な場合を除き、運転を停止すること。

 ● 火災などの事故原因の究明を行ない、再発防止策を確実に実施すること。

 ● 事故とその後の対応状況について、地域住民への説明を行ない、信頼回復に努めること。

 ● 上記の対応を終わるまでは、運転を再開しないこと。

■ 事態を重くみた鳥取県は、米子市などとともにバイオマスに詳しい専門家や消防の関係者などからなる調査チームを立ち上げた。調査チームは921日(木)に現地調査を行った。

被 害

■ 鉄骨製の燃料受入れ建屋1棟約135㎡とエレベータ1基約75㎡が焼けた。

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。

< 事故の原因 >

■ 原因調査結果は、つぎのとおりである。(鳥取県・米子市による専門家の調査チーム)

 ●「爆発」については、①木質ペレットの自然発火(建屋内に木質ペレットの屑が層状にたまって発酵して発生した可燃性ガスが着火)、②建屋内での粉塵の充満(砕けて粉末状になった木質ペレットによる粉塵爆発)、の2つの可能性がある。

 ●「火元(着火)」は、①電気系統の火花(施設内で発生した静電気や火花)、②コンベアの潤滑油の摩擦、③木質ペレットの自然発火、の3つの可能性がある。  

 ● これらのどの組み合わせで今回の火災事故となったのかを特定するには至らなかった。

< 対 応 >

■ 102日(月)、鳥取県の調査チームが現地調査の結果を知事に報告した。調査チームの公立鳥取環境大学の田島正喜教授は、火災事故の原因のうち、 

 ●「爆発」については、①木質ペレットの自然発火(建屋内に木質ペレットの屑が層状にたまって発酵して発生した可燃性ガスが着火)、②建屋内での粉塵の充満(砕けて粉末状になった木質ペレットによる粉塵爆発)、の2つの可能性を示した。

 ●「火元(着火)」は、①電気系統の火花(施設内で発生した静電気や火花)、②コンベアの潤滑油の摩擦、③木質ペレットの自然発火、の3つの可能性を示した。  

 ● ただ、これらのどの組み合わせで今回の火災事故となったのかを特定するには至らなかった。

■ 調査チームは、現在の安全基準では事業者に瑕疵があったとは言えないとして、国に安全基準の強化を要望するよう求めた。鳥取県知事は、「考えられるすべての原因に対応するのが求められる安全対策だと思う。今回の調査結果をもとに、国に対してバイオマス発電所の安全基準づくりを働きかけていきたい」と述べ、国に対して事業者への指導を要望するとした。これを受けて鳥取県は、104日(水)に経済産業省や消防庁などに要望する。 

■ ユーチューブには、鳥取県の調査チームの説明状況を伝えたメディアの動画が投稿されている。     

 YouTube,「原因は静電気や摩擦熱などか、バイオマス発電所火災 現地調査の結果を平井知事に報告(鳥取市)」2023/10/02

 ●YouTube「バイオマス発電所爆発事故 調査チームが報告」2023/10/03

補 足

■「米子バイオマス発電所」は、20186月に「米子バイオマス発電合同会社」として設立され、木質バイオマスを燃料とした出力約54,500kWの発電所で、山陰両県(鳥取・島根)最大規模のバイオマス発電施設である。施設は20198月に着工し、202242日に商業運転を開始した。 「米子バイオマス発電合同会社」は、中部電力㈱ (名古屋市) 、三菱HCキャピタル㈱ (東京都) 、東急不動産㈱ (東京都) 、シンエネルギー開発㈱ (群馬県) 、三光㈱ (境港市)の5社が出資している。(事業体の構造図を参照)

 米子バイオマス発電所の事業は、シンエネルギー開発㈱が開発を進めてきたもので、バイオマス専焼発電所を建設・運営する。東急不動産㈱と三菱HCキャピタル㈱ が100%出資子会社を通じて、共同で本事業会社のアセットマネジメント(資産運用)業務を行う。また、中部電力㈱とシンエネルギー開発㈱は、本事業会社のプロジェクトマネジメント業務を受託している。そして、運転および保守は中部電力系の㈱中部プラントサービスが行っている。


■ 推定原因をみると、使用燃料(木質ペレット、パームヤシ核殻;PKS)に関する設計上の課題があるとみられる。このような施設の設計・建設では、事前検討会やリスク分析(評価)が行われ、社内のいろいろな意見を聞き、必要な対応がとられる。公共的な施設の場合、社内だけでなく、社外の審議会が行われる。例えば、出光興産㈱徳山事業所のバイオマス発電所の計画では、2020年山口県周南市環境審議会の各委員の意見に対して事業者の回答 「出光興産株式会社徳山事業所バイオマス発電所新設に伴う環境保全対策について」が公表されている。使用燃料に関連する質問と回答は表を参照。(詳細は、「周南市環境審議会(令和2910日~925日)各委員の意見に対する回答 「出光興産株式会社徳山事業所 バイオマス発電所新設に伴う環境保全対策について」 を参照)

注;なお、NHKの報道では、「爆発と着火の原因を組み合わせた複合的な原因で爆発に至ったとみられる」と報じたが、今回のような木質ペレットの自然発火(建屋内に木質ペレットの屑が層状にたまって発酵して発生した可燃性ガスが着火)の要因と、建屋内での粉塵の充満(砕けて粉末状になった木質ペレットによる粉塵爆発)の要因のふたつは生成過程が異なり、複合的な原因という言葉は誤解を与える。二つの原因が考えられるが、どちらとも断定できなかったということである。

所 感

■ 今回の鳥取県の調査チームによる原因調査結果は釈然としないが、この結果が正しいとすれば、バイオマス発電所の受入搬送設備は燃料(木質ペレット、パームヤシ核殻)に関してふたつのリスク、すなわち木質ペレットの自然発火(木質ペレットの発酵による可燃性ガスの発生)のリスクと、木質ペレットによる粉塵爆発のリスクが存在していたことになる。従って、受入搬送設備(受入建屋、バケットエレベータ)はこのふたつのリスク回避の対策が必要になるが、つぎのような疑問がある。

 ● 受入建屋には、燃料貯留槽と同様の貯槽機能(木質ペレットの発酵による可燃性ガスの発生の可能性)があるような設備なのか。

 ● 受入建屋には、発酵による可燃性ガスを検出するようなガス検知器や温度監視計器は設置していなかったのか。

 ● 検出する計器が設置してあったとすれば、機能する種類だったのか。

 ● 受入建屋は、粉塵発生のリスクに対してどのような設計が行われていたか。

 ● バケットエレベータには、粉塵爆発を防止する集塵機などの機器は設置されていなかったのか。

 ● 木質ペレットは粉塵が出やすい種類に変更されていなかったか。

 ● 1年半の運転実績では、受入搬送設備(受入建屋、バケットエレベータ)に粉塵が多量に発生するような変化はなかったか。  


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     News.yahoo.co.jpBSS山陰放送), 米子バイオマス発電所で「爆発」事故調査報告 着火・爆発原因の可能性は示されるも特定には至らず,  October  2,  2023

     News.yahoo.co.jp (さんいん中央テレビ), 原因は静電気や摩擦熱などか「バイオマス発電所」火災 現地調査の結果を平井知事に報告(鳥取市),  October  2,  2023

     Nhk.or.jp, 米子のバイオマス発電所火災複合的原因で爆発に調査チーム,  October  2,  2023 

     Nnn.co.jp, 粉じんかガス爆発か 米子バイオマス発電所火災事故 調査結果を知事に報告,  October  3,  2023


後 記: 原因調査結果は意外に早く出されました。実際には、102日(月)に調査チームによる鳥取県知事への報告がメディアへの情報公開されたものです。しかし、説明時間が15分間という時間制限もあり、内容は各メディアで少しずつ違っていました。この種の公的機関による事故調査結果がテレビなどで情報公開されるのは、日本ではめずらしいことです。よく理解できないので、原因調査結果の詳細が県や市のウェブサイトなどで掲載されるのを待ちましたが、ダメでした。代わりにインターネットでバイオマス燃料による発電所についていろいろ調べました。面白い話題(しかし、事故に直接関連しない)もありましたが、時間を費やしただけでした。それで、受入搬送設備に関する疑問についてまとめました。