今回は、2年前の2021年6月21日(月)、米国のカリフォルニア州リムーア市にある市の水道施設で水道水の貯水タンクが爆発して、噴き飛び、死傷者2名を出した事例を紹介します。
< 発災施設の概要
>
■ 発災があったのは、米国のカリフォルニア州(California)リムーア市(Lemoore)にある市の水道施設である。
■ 事故があったのは、水道施設内にある150万ガロン(5,677KL)の貯水タンクである。
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2021年6月21日(月)午後1時過ぎ、市の水道施設の貯水タンクが爆発した。
■ この水道施設に勤めていた従業員のひとりは爆発音を聞いた。そして「見上げると、それは船のようでした。大量の水を入れたタンクが爆発し、太陽を遮り、着地すると、水の波が押し寄せました。まるで、津波のようでした」と当時の状況を語った。
■ 発災に伴い、2名の死傷者が出た。請負会社のJ.R.フィラン建設会社の従業員1名が死亡し、市職員1名が負傷した。事故当時、請負会社の従業員3名と市職員1名が作業していた。請負会社では、亡くなった1名以外にはケガは無かった。
■ 事故によって現場は操業ができなくなった。このため、リムーア市は非常事態を宣言した。
■ 事故は、請負会社が溶接を始めたとき、タンクが破裂し、地上から約70フィート(21m)の高さまで浮き上がった。そして、タンク内の水によって津波が起こり、駐車していたトラックが流され、水道施設の第7坑井に大きな被害をもたらした。
■ リムーア市は、「現場が修復されるまで、水を節約し、芝生に水をまいたり、ホースを使って車や道路に水をかけたりしないよう」住民に呼びかけた。住民は自宅の水圧が低いことに気づいた。
■ 市では、爆発がタンク構造物の上部スペースで起こり、タンクの底板接続部で引き裂かれて浮き上がったことから、タンク内に何らかのガスが溜まっていたに違いないと推測した。
■ 事故当日は、新しいねじ付きのバルブ(栓)をタンクに溶接で接続する工事予定だった。6月21日、タンクに新しい栓を溶接していたところ、タンクが爆発し、タンクが基部から浮き上がった。
■ 6月22日(火)午後、現場近くで山火事が発生して 5エーカーを焼いた。出動した消防隊は低い圧力の水に事故の影響を感じながら、対応した。消防隊はブルドーザーを使用して、大量の水を使わない戦術をとった。
■ ユーチューブには、監視カメラで爆発の瞬間を撮影された動画が投稿されている。
●YouTube,「Surveillance camera captures deadly water tank explosion in Lemoore」(2021/6/23)
被 害
■ 150万ガロン(5,677KL)の貯水タンクが損壊した。
■ 事故により死傷者が2名出た。ひとりが死亡し、ひとりは負傷だった。
< 事故の原因
>
■ 爆発の原因は貯水タンク上部に溜まっていたメタンが、溶接工事の火花で着火した。
< 対 応
>
■ 事故を受け、カリフォルニア州の米国労働安全衛生局(OSHA)は、事故原因を調査し始めた。
■ リムーア市の水道施設は、残っているほかの150万ガロン(5,677KL)のタンクから水を供給するように配管系を修復する作業を行っている。配管系の修復が終えたら、タンクに水を入れて塩素処理を行い、24時間を経過したら水のサンプルを採取する。サンプルはカリフォルニア州に送らなければならない。さらに24時間待って、別なサンプルを採取しなければならない。水を供給できるようになるには、検査が終えるまで2~3日かかるという。
■ 6月23日(水)、リムーア市は、タンクの爆発が防止可能だったと声明を出した。150万ガロンのタンクは長年にわたり何事もなく稼働していたという。しかし、請負会社が溶接を始まる前に、必要不可欠な安全確認を怠った。水道システムなど狭い空間で配管作業を行う場合、作業を行う前にそのエリアにガスが存在するかどうかテストする必要があった。これは、パイプを切断したり、ヘッドスペースのある密閉空間で作業したり、裸火で作業する場合、標準的な慣行としてガス検知を実行する必要があった。
■ 爆発を引き起こしたガスはメタンと特定された。
■ メタンは、バクテリアの活動や有機物の腐敗から生じたり、あるいは地下の深いところや埋立地からにじみ出たガスが地下水の中に生じることがある。水の中に存在するメタン自体には毒性はないが、水に溶けたメタンが貯水タンクの上部スペースの空気と接触するとガスが放出されるという。空気中のメタンは呼吸を困難にし、可燃性や爆発性の雰囲気にする可能性がある。
補 足
■「カリフォルニア州」(California)は、米国西海岸に位置し、メキシコとの国境から太平洋沿いに細長く伸び、人口約3,950万人の州である。
「リムーア市」(Lemoore)は、カリフォルニア州の中部に位置し、キングス郡の市で人口約26,000人である。
■「発災タンク」は容量150万ガロン(5,677KL) と報じられている。グーグルマップで調べると、直径約27mの固定屋根式タンクである。高さを10mと仮定すれば、容量5,700KLクラスとなるので、直径27m×高さ10mクラスで容量5,677KLのタンクである。
所 感
■ 今回の事例を知ったとき、水タンクが“破裂”したと思った。次第に情報が明らかになり、“爆発”だと納得した。
■ 市の水道施設も情報が明らかになってきて、溶接工事前のガス検知による安全確認を行っておれば、事故は防ぐことができたと発表しているが、これは結果論だという感じである。タンク上部に可燃性ガスが存在していると認識しておれば、通常の操業や工事に際してもっと危険性を感じる対応をしていたのではないだろうか。
米国では、地下水を飲料水にしているところでは、水の中にメタンを含有しているが、飲用して有害になるほどではないという。日本では、原油が採れていた東北以外では、地下水にメタンが含まれるという認識はない。原油・ガス生産国である米国の特異な事例であろう。
■ 一方、発災写真の残った貯水タンクを見ると、油用タンクの屋根構造と異なっている。屋根が丸みを帯びた形状で側板と突合せ溶接で接続されている。油用タンクでは、爆発があったときに屋根と側板が容易に外れるように溶接部が弱く作られている。この構造の違いが、貯水タンクが爆発したときに、側板と底部の溶接接続部が破断してタンクが噴き飛んだものである。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Yourcentralvalley.com, Surveillance camera captures deadly water
tank explosion in Lemoore, June 22,
2021
・Ktla.com, Deadly water tank explosion caught on astonishing video in
Central Valley, June 23,
2021
・Paintsquare.com, CA Water Tank Explosion Causes Fatality, June
29, 2021
・Abc30.com, Cleanup and repair work begins after Lemoore water tank
explosion, June 24,
2021
・Hanfordsentinel.com, Lemoore water tank explosion caused by methane
gas, incomplete safety check, March 10,
2023
・Visaliatimesdelta.com, Deadly Lemoore water tank explosion 'very
preventable‘, June 23,
2021
・Kmph.com, Water tank explosion could take months to
investigate, June 24,
2021
後 記: 2年前の事例ですが、今回、検索していて初めて知りました。米国でも特異な事例ですし、監視カメラで撮影されていたということもあって、今も関心を持たれているようです。検索していても“すでに削除されています”といったメディアもなさそうです。地下水から飲料水を採っているところが多いので、教訓として残そうという記録好きな米国らしさを感じます。
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