今回は、 2023年9月9日(土)、鳥取県米子市にある米子バイオマス発電所合同会社の発電所においてバイオマス燃料である木質ペレットの受入搬送設備で起こった爆発・火災事故を紹介します。
< 発災施設の概要
>
■ 発災があったのは、鳥取県米子市大篠津町にある米子バイオマス発電所合同会社の米子バイオマス発電所である。
■ 事故があったのは、火力発電所で使うバイオマス燃料である木質ペレットの受入搬送設備である。輸入される木質ペレットは、境港に荷揚げ後、専用のトラック(コンテナ)で運ばれて鉄骨建屋(135㎡)内の受入搬送設備に受け入れる。
<事故の状況および影響>
事故の発生
■ 2023年9月9日(土)午前9時25分頃、バイオマス発電所で爆発が起き、火災が発生した。
■ 米子バイオマス発電所から消防署への通報とともに、発電所近くで作業中の男性から「爆発が起き、炎と煙が上がっている」と119番通報があった。
■ 発災に伴い、消防署の消防隊が出動するとともに米子バイオマス発電所従業員が消火活動を開始した。
■ 爆発によって受入搬送設備の建屋の壁が吹き飛び、木質ペレットを貯留槽に運ぶエレベーターが燃えた。
■ NHKの米子支局のカメラやBSS山陰放送の米子空港に設置している情報カメラは、爆発の瞬間をとらえていた。爆発と同時に真っ赤な炎が上がり、その後、煙が立ち上っているのが分かる。
■ 近くの住民は、「爆弾が落ちたんじゃないかというぐらい衝撃と地鳴りがして、何が起こったんだろうという感じがした」と語った。
■ 自宅2階のベランダにいた近くの住民は、爆発直後の映像をカメラで撮った。
映像によると、激しい勢いでモクモクと立ち上る煙が、爆発の大きさを物語っている。
■ 別な住民によると、爆発の直前にある異変を感じたと言い、「爆発の前にものすごく煙が出ていた。煙が出ていて、あらと思っていたら、その直後に爆発して、地響きがあり、家も揺れた」と語っている。
■ 午前11時時点でも火災は消えておらず、消火活動が続いたが、約3時間50分後の午後1時15分頃に鎮火した。
■ 鉄骨製の燃料受入れ建屋1棟約135㎡とエレベーター1基約75㎡が焼けた。
■ 事故に伴う負傷者はいなかった。
■ 米子バイオマス発電所によると、火災の範囲は2基ある燃料の受入搬送設備のうちの1基で、火災による電力の供給に影響は無かった。
■ ユーチューブには、爆発や火災の映像が投稿されている。
●YouTube、「【爆発】瞬間映像 バイオマス発電所で火災 燃料受け入れ建屋が焼ける けが人なし 鳥取県米子市」(2023/09/11)
●YouTube、 「【発電所で火災】カメラが捉えた“爆発”の瞬間 今年5月にも火災が… 鳥取・米子市」 (2023/09/11)
● YouTube、「爆発音と地響きが…相次ぐバイオマス発電所火災 一体何が?」(2023/09/11)
被 害
■ バイオマス燃料の受入搬送設備とバケットエレベーターが爆発・火災で損傷した。(
■ 事故に伴う負傷者はいなかった。
< 事故の原因 >
■ 原因は調査中である。(鳥取県・米子市が専門家による調査チームを立ち上げた)
考えられる要因は、何らかの理由で木質ペレットが発酵し、メタンガスや一酸化炭素といった可燃性ガスが発生し、それに引火し、爆発した可能性があるとみられる。
< 対 応
>
■ 9月11日(月)、鳥取環境大学環境学部の田島教授は今回の事故について、つぎのように語っている。
「バイオマス発電の燃料となる木質ペレットが火災の原因になっていると思います。木質の燃料ですから、自然発火して火災が起こるということは本当はあってはいけないんですけど、昨今バイオマス発電が普及拡大するに従って、いろいろなところで火災が起こっています。今年3月には、京都府の舞鶴発電所で木質ペレットなどのバイオマス燃料供給施設で火災が発生していますし、今年1月には千葉県にある袖ケ浦バイオマス発電所で木質ペレットの貯蔵サイロで火災が発生し、約4か月後に鎮火が確認されるなど、全国のバイオマス発電所で火災が発生しています。共通点は、米子バイオマス発電所のような木質ペレットを燃料とする発電所で火災が起きているということです。
ちょっと気になるのは、今回は単なる火災ではなく、建屋の爆発までいったということで、可燃性ガスが発生して、爆発したのではないかと思います。何らかの理由で木質ペレットが発酵してメタンガスや一酸化炭素といった可燃性ガスが発生し、それに引火した可能性が考えられます。バイオマス発電が全般的に危険だということではなく、それぞれバイオマスの使い方にはいろいろな手法がありますので、その手法に見合った安全管理を作り上げていくことが重要かと思います」
■ 9月12日(火)、米子市長は、 2023年5月以降の相次ぐ火災で住民に大きな不安を与えているとし、米子バイオマス発電に対して、つぎのような申し入れを行った。米子市長は、「二度とこういう火災や爆発というものがあってはならないと思いますので、ここを一つの区切りとしてしっかりと原因を究明していただくこと、これが大切であると思っています」と語った。
● 安全確保上、必要な場合を除き、運転を停止すること。
● 火災などの事故原因の究明を行ない、再発防止策を確実に実施すること。
● 事故とその後の対応状況について地域住民への説明を行ない、信頼回復に努めること。
● 上記の対応を終わるまでは、運転を再開しないこと。
■ 9月12日(火)、バイオマス発電所の所長は、米子市長に謝罪し、「(今回のような爆発は)この事業の中での想定にはございませんでした。ただ、発生した事実がございますので、そこを徹底して追及していくことが必要と認識しています」
と述べ、「(原因については)ガスの充満ですとか、粉塵爆発をキーワードにしていくことになると思います」と語った。
米子バイオマス発電所では、2023年9月中に付近住民への説明会を行い、原因解明と工事のため、少なくとも半年間は運転を停止する見通しを示した。3か月をめどに原因究明を行い、再発防止に当たりたいとしている。所長によると、9月11日(月)夕方まで発電所を稼働し、貯留槽内の燃料を減らした上で、約2週間の停止作業を開始。ボイラーの放冷、残る約6,000トンの燃料の取り出しを終えた後で行う原因調査は、最低でも3か月以上かかるという。
■ 9月14日(木)、鳥取県知事は「バイオマス発電は再生可能エネルギーとして推進すべきだが、安全が前提だ。住宅地に隣接した地域で危険を伴う事態が起きたのは看過しがたい」と述べ、鳥取県としても米子市とともに消防や専門家からなる調査チームを立ち上げて、 9月中に現地調査を行い、火災の詳しい原因を調べる方針を明らかにした。
■ 米子バイオマス発電所の事故は今回だけでは無かった。2023年5月17日(水)午後8時50分頃、燃料貯留槽4基のうちの1基で火災を起こしている。米子バイオマス発電所は、ホワイトペレットが長期間保管されていたことにより自然発酵し、発火に至った可能性があると考えている旨の発表を行った。その3日後の5月20日(土)午前5時過ぎ、従業員から「先日と同じ燃料タンクが燃えて煙があがっている」と消防署に通報があった。火は約1時間後に消し止められ、けが人はいなかった。
■ バイオマス燃料による火災事故は各電力会社の管理問題とともに、バイオマス発電そのものの安全性問題が課題となっている。バイオマス発電の専門家の中には、つぎのように指摘する人もいる。
● バイオマス発電の燃料となる輸入木質バイオマス燃料は、2022年、ベトナム産で不純物等を混在させて増量したうえで認証を偽造して日本に輸出していたことが明らかになった不祥事が起きている。しかし、所管官庁の経済産業省は燃料偽装の実態調査を十分に行わないままの状態を続けている。
● 各地で相次ぐバイオマス燃料の火災事故は、こうした不良品燃料が原因とみられるケースのほか、バイオマス燃料からの自然発火による共通要因での火災も起きている。自然由来の燃料を大規模に貯蔵する同発電の仕組み自体に、燃料の偽装のしやすさや、自然発火を招く等の不具合要因があるとの指摘がある。
補 足
■ 「バイオマス発電所」は、植物などの生物資源(バイオマス)を燃料に使用しながら発電する施設で、植物は生育過程で二酸化炭素を吸収するため、発電プロセスでバイオマス燃料を燃焼したとしても、大気中の二酸化炭素は増えない、いわゆるカーボンニュートラルの持続可能な発電方法として、現在、各地に設置されている。
バイオマス発電に関してこのブログでは、つぎのような事故を紹介した。
● 2019年2月、「山形県のバイオマスガス化発電所で水素タンクが爆発、市民1人負傷」
(● 2019年6月、「山形県のバイオマスガス化発電所の水素タンクの爆発(原因)」)
● 2022年6月、「山口県の下関バイオマス発電所の焼却灰タンクで人身事故」
● 2023年3月、「関西電力㈱舞鶴発電所でバイオマス燃料がサイロ内で自然発火して火災」
■「米子バイオマス発電所」は、2018年6月に「米子バイオマス発電合同会社」として設立され、木質バイオマスを燃料とした出力約54,500kWの発電所で、山陰両県(鳥取・島根)最大規模のバイオマス発電施設である。施設は2019年8月に着工し、2022年4月2日に商業運転を開始した。 「米子バイオマス発電合同会社」は、中部電力㈱、三菱HCキャピタル㈱、東急不動産㈱、シンエネルギー開発㈱、三光㈱の5社が出資している。(事業体の構造図を参照)
米子バイオマス発電所の事業は、シンエネルギー開発㈱が開発を進めてきたもので、バイオマス専焼発電所を建設・運営する。東急不動産㈱と三菱HCキャピタル㈱ が100%出資子会社を通じて、共同で本事業会社のアセットマネジメント(資産運用)業務を行う。また、中部電力㈱とシンエネルギー開発㈱は、本事業会社のプロジェクトマネジメント業務を受託している。そして、運転および保守は中部電力系の㈱中部プラントサービスが行っている。
設備の主な仕様は、ボイラー はアンドリッツ社(オーストリア)製の循環流動層型(CFB)、 蒸発量は156.3 t/h、 タービンはシーメンス社(ドイツ)製で、 タービン入口温度条件は主蒸気13.0Mpa ×540℃、再熱蒸気は3.35Mpa× 540℃である。燃料使用量は年間 約23万トンである。
所 感
■ 事故原因は調査中で分かっていない。しかし、バイオマス燃料が関わっていることは間違いない。バイオマス燃料の自然発火は多くの事例や情報が公表されており、まったく未知の事象ではない。 2023年3月に起きた 「関西電力㈱ 舞鶴発電所でバイオマス燃料がサイロ内で自然発火して火災」では、バイオマスサイロ内にあるバイオマス燃料の一部が発酵・酸化して発熱するとともに可燃性ガスが発生し、この可燃性ガスがサイロ内などに滞留していき、発熱の進んだサイロ内のバイオマス燃料が自然発火し、可燃性ガスに引火して火災に至ったという。
■ 確かに、これまでのバイオマスサイロに関わる事例ではなく、バイオマス燃料の木質ペレットの受入搬送設備という自然発火とは無縁の設備のように思われる。一方、2022年4月の営業運転から1年余の実績を無にするような事故が2023年は続いている。しかし、逆にこれらが盲点であるように感じる。
● 考えられる要因としては、バイオマス燃料の質的転換をやってしまったのではないか。バイオマス発電に使用する輸入木質バイオマス燃料が、昨年来、不純物等を混在させて増量したうえで認証を偽造して日本に輸出していたことが明らかになっている。1年を経過してコスト低減を目的に正規のバイオマス燃料から転換したため、自然発火の要因が生まれたのではないだろうか。
● 受入搬送設備も自然発火を懸念する必要のある設備である。受入搬送設備の詳細は分からないが、単なる受入れ建屋ではなく、バイオマスサイロのような貯槽機能をもった設備ではないだろうか。
● 運転管理の面でいえば、バイオマス燃料の自然発火を検知する監視システム(温度検知や一酸化炭素検知など)を装備していると思うが、この監視システムが正しく管理されていたか。1年の実績だけで監視システムをやめたりして、自然発火の要因を見逃したのではないだろうか。
■ 経済産業省資源エネルギー庁は新エネルギーの導入促進を支援するため、2021年に「木質バイオマス発電における人材育成テキスト」を作成している。今回の事故は、鳥取県が米子市とともに消防や専門家からなる調査チームを立ち上げて、火災の原因を調べることになった。国も事故原因や体制などの教訓を世間に広く示すことを期待する。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Newsdig.tbs.co.jp, カメラがとらえた爆発の瞬間 バイオマス発電所で爆発事故「爆弾が落ちたんじゃないかというぐらい衝撃」半年で3回目の火災…なぜ?, September
12, 2023
・Newsdig.tbs.co.jp, バイオマス発電所で「爆発」…所長が謝罪 少なくとも半年間は運転停止に, September
12, 2023
・Yomiuri.co.jp, バイオマス発電所で爆発、建屋の壁や屋根が吹き飛ぶ…5月にも火災2回,
September 11, 2023
・News.yahoo.co.jp, バイオマス発電所で「爆発」…所長が謝罪 少なくとも半年間は運転停止に, September
11, 2023
・Sanin-chuo.co.jp, バイオマス発電所に運転停止申し入れ 米子市、火災相次ぎ住民不安, September 12,
2023
・City.yonago.lg.jp, 米子バイオマス発電合同会社に対する申し入れについて, September 12,
2023
・Nnn.co.jp, 米子バイオマス発電所が鎮火, September 09,
2023
・Yonago-biomass.co.jp , 燃料受入搬送設備における火災の発生・鎮火について, September 09,
2023
・Nhk.or.jp, 米子のバイオマス発電所火災
県が調査チーム立ち上げ原因調査,
September 14, 2023
・Safety-chugoku.meti.go.jp, 米子バイオマス発電所建設の概要, February 07, 2020
・Yonago-biomass.co.jp, 燃料タンク内における火災の発生・鎮火について, May 15,
2023
後 記: 米子バイオマス発電合同会社に関する事業体の構造図を見て感じたことは、この組織は意思疎通が難しそうだということです。事業が順調なときは良いのですが、今年(2023年度)のようにトラブルが続くと、出資会社への説明だけでも時間がかかりそうで、中にはイクスキューズしてくるところが出て来るのではないでしょうか。今回のように輸入燃料に問題がありそうな場合、どこに主管があるのか曖昧で、誰も手を上げないのではないかと感じます。事故原因は、調査を進めれば、出てくるでしょう。しかし、組織の問題は曖昧なまま終わるのではないでしょうか。資源エネルギー庁は「木質バイオマス発電における人材育成テキスト」を作成していますが、複数の企業が参画する事業体のあり方について掲載してもらいたいものです。
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