2021年7月3日土曜日

最適な自給式呼吸器を選択する6つのステップ

 今回は、2021526日付けの“Industrial Fire World”に掲載された「6 Steps to Selecting the Best SCBA for Your Team」(あなたのチームのための最適な自給式呼吸器(SCBA)を選択する6ステップ)の内容を紹介します。


< 背 景 >

■ 緊急対応を実行するチームのメンバーを安全に保つには、適切な機器が必要である。自給式呼吸器(Self-Contained Breathing Apparatus SCBA)は、産業用消防隊にとって重要な装備のひとつである。自給式呼吸器は、危険で煙が充満する環境において呼吸するために空気を供給してメンバーを防護する。

■ 米国労働安全衛生研究所(National Institute for Occupational Safety and HealthNIOSH) は、近年、消防士のガンに焦点を当てた大規模な研究を実施し、消防士は一般人と比較して、ガン診断が 9% 多く、ガン関連死亡が 14% 多いと結論付けている。このようにガンに関する懸念が高まっている一方で、消防部門での自給式呼吸器の役割は高まっている。

< 自給式呼吸器の重要性 >

■ 2014年に設立されたファイアファイター・キャンサー・コンサルタント社(Firefighter Cancer Consultants;消防士ガン相談)のジム・バーネカ氏は、大規模な産業火災、危険物質の事故、駐車場での車両火災にかかわらず、あらゆる事故において産業消防チームのメンバーに自給式呼吸器(SCBA) を装着することを推奨している。バーネカ氏は、「自給式呼吸器を装着することで、消防士は空気中の毒性物質から身を守ることができる」と語っている。

■ それでもバーネカ氏は、「私が見ていてもっとも大きな問題は、必要な期間中にずっと自給式呼吸器を装着していないことだ」と嘆いている。その代わりに、消防部門は一酸化炭素(CO)とシアン化水素(HCN) の濃度レベルを監視し、その測定値が正常範囲内に収まると、消防士は装着しなくてもよいことにしている。「しかし、一酸化炭素(CO)とシアン化水素(HCN) の濃度レベルが通常範囲内にあるからといって、それが安全であるとは限らない。建築資材に使われているホルムアルデヒドが屋根部から出てくる恐れだってある。私たちはそれを知る由もない。最初から最後まで自給式呼吸器を装着しておかなければならない」とバーネカ氏はいう。

■ この有用な機器を購入する前には、慎重に検討する必要がある。新しく自給式呼吸器に投資する前に、考慮すべき 6つの要素を以下に示す。

< 1. ニーズを評価する >

■ 自給式呼吸器(SCBA)を購入する前に、ニーズの評価を実施する。これまでの使用品のメーカーと型式についてどのように感じているかをチームのメンバーに尋ね、そして既存の自給式呼吸器のスタンダードや他の技術開発品と比較する。それから、次のような質問事項について考える。

 ● 自給式呼吸器は現在のNFPA基準(全米防火協会:National Fire Protection Association)を満たしているか? 自給式呼吸器は、NFPA 1981NFPA 1982NFPA 1852NFPA 1500 に準拠していなければならないし、米国労働安全衛生研究所のNIOSH CBRN SCBAテストに合格する必要がある。  このテストでは、気流性能、低温での性能、フェースピース(面体部)の耐摩耗性、耐振動性、耐炎・耐熱性能、耐食性、耐粒子性について評価される。 

 ● 既存の機器をアップグレードする必要があるか おそらく、メンバーは自給式呼吸器に機能を追加したいと考えているだろう。追加機能には、改善された通信システム、熱画像カメラ付き、優れたフェイスピース(面体部)などであろう。多分、古くなった自給式呼吸器はメンバーが必要とする防護を提供できないのかも知れない。これらはすべて、最新機器を考慮する正当な理由である。 

 ● あなたのチームでは、プロテクト・バリア・フード(Protective barrier hood)を必要としているか? この装備は消防士の頭と首を発ガン性微粒子から防護する。首の皮膚は非常に薄く、有毒な粒子を吸収しやすい。自給式呼吸器を装着していても、頭頂部から首元までを防護するフードは重要である。 

 ● 自給式呼吸器購入費やアップグレードの予算はいくらか?  ひとりのメンバーのための自給式呼吸器には、7,000 ドル(77万円)以上の費用がかかる場合がある。消防部門が高度な警報・監視システムや熱画像装置などのオプションを追加すれば、価格はさらに高くなる。

< 2. 自給式呼吸器の基準を理解する >

■ 消防士が使用する自給式呼吸器(SCBA)は、特別な基準に合格しなければならない。これらの基準をよく理解することで、チームの要求に合った製品が確実なものとなる。

■ NFPA 1981Standard on Open-Circuit Self-Contained Breathing Apparatus (SCBA) for Emergency Services)は、緊急事態対応で使用される自給式呼吸器の基準である。この基準は呼吸保護と機能の必要事項を規定している。たとえば、この基準では、自給式呼吸器が呼吸数とシリンダー圧を記録したり、デジタル・タイムスタンプが残るよう規定している。また、メーカーに関係なく、自給式呼吸器は相互運用性の要件を満たすよう規定されている。

■ NFPA 1982Standard on Personal Alert Safety Systems (PASS)) は、メンバーが支援を要する際、他のメンバーに連絡するときに使う個人用警報安全システム (PASS) の性能の基準を規定したものである。この規定の下で、自給式呼吸器はテレメトリ(遠隔測定法)の機能に関するテストに合格し、一般的な個人用警報安全システムの状態を取り込まなければならない。

■ NFPA 1852Standard on Selection, Care, and Maintenance of Open-Circuit Self-Contained Breathing Apparatus (SCBA)) は、オープン・サーキット型の自給式呼吸器の選択、手入れ、保守に関する最低限の必要事項を規定したものである。

■ NFPA 1500Standard on Fire Department Occupational Safety, Health, and Wellness Program)は、自給式呼吸器の不適切な保守、汚染、損傷に伴う健康や安全のリスクを減らすため、労働安全・衛生・健康の計画に関する基準を示したものである。

■ 化学(Chemical)、生物(Biological)、放射性(Radiological) 、核(Nuclear)、すなわちCBRN環境での使用のために設計された自給式呼吸器もNFPA 1981Standard on Open-Circuit Self-Contained Breathing Apparatus (SCBA) for Emergency Services)に準拠し、NIOSH 42 CFR Part84の認定を受けなければならない。

■ プロテクト・バリア・フードは、粒子バリア防護についてNFPA1971Standard on Protective Ensembles for Structural Fire Fighting and Proximity Fire Fighting)の仕様に適合していなければならない。NFPA 1971は、消防士が遭遇する恐れのある熱的、身体的、環境的危険性や血液媒介性の病原体による危険性から最低限の防護について規定している。

< 3. 自給式呼吸器の型式を選択する >

■ 適用可能な自給式呼吸器(SCBA) には、オープン・サーキットとクローズド・サーキットの2種類の型式がある。

■ レスキュー隊や消防隊用のオープン・サーキット型自給式呼吸器は、フルフェイス・マスク、レギュレーター、エアシリンダー(エアボンベ)、シリンダー圧力計、遠隔用圧力計(個人用警報安全システムが一体化されている場合もある)、調整可能なショルダー・ストラップとウエスト・ベルトを備えたハーネスで構成される。消防士はオープン・サーキット型自給式呼吸器を背中に装着する。オープン・サーキット型自給式呼吸器は消防署で使用される最も一般的な型式である。 

■ 普通、呼吸し終えた空気を使い捨てにするが、リブリーザーとしても知られるクローズド・サーキット型自給式呼吸器は、吐いた空気から余分な二酸化炭素を取り除き、必要な酸素を補充して再循環する。消防士が、長い時間、空気の供給を必要とする場合、消防部門はクローズド・サーキット型自給式呼吸器を使用する。鉱山やトンネル内での救助や非常に狭い通路を移動する場合、クローズド・サーキット型自給式呼吸器が有効である。この型式を選択する場合のトレードオフ(二律背反)は、システムのコストが高くなり、特別なトレーニングが必要になることである。

< 4. シリンダーを選ぶ >

■ 数年前までは、シリンダー(ボンベ)の選択はひとつしかなかった。 輻射熱で熱くなり、非常に重量のある鋼製のシリンダーだけだった。今日では、メーカーはカーボン、アルミニウム、複合材のシリンダーを提供している。使用する部署では、選択可能な種類に対して自分たちの予算をみて、ニーズと金額に応じた最適なシリンダー型式を選択しなければならない。 

■ シリンダーは、持続時間が3075分間の範囲で、2,2165,500psi(15.2~37.8 MPa=155386/c㎡)の範囲の圧力で利用できる。

■ シリンダーの購入は長期的な投資である。カーボン・シリンダーは約15年もつが、アルミニウム・シリンダーは永久にもつ。シリンダーは稼働を再確認するために定期的なテストが必要である。業界の基準では、5年ごとに水圧試験を実施している。 

< 5. 仕様に合っていることを確認する >

■ フィット感と操作のしやすさが、大切な自給式呼吸器(SCBA)を正しく使用することにつながる。ぴったりとフィットし、フル装備で簡単に操作できる自給式呼吸器が最高の防護を供することになる。 

■ 自給式呼吸器のフェースピース(面体部)は労働安全衛生管理局(OSHA)や米国規格協会(ANSI)のガイドラインに適合し、装着する人全員に合っていることを確認するため、使用部門は定量的な機械ベースのテスト手順を実施しなければならない。 

■ 労働安全衛生管理局(OSHA)では、体重の増減、手術、傷跡、その他の身体的変化によって顔の外観が変化した場合でも、フェイスピースが合っていることを確認するために、年間を通じてフィットテストを行う必要があるとしている。テストでフェースピースが合っていないことが分かったら、使用部門およびメーカーはフィットするように手直す必要がある。また、使用部門は、眼鏡をかけているメンバーに補正用インサートを提供しなければならない。補正用インサートはフェースピースの気密性を妨げないようにすべきである。

■ 使用部門はメンバーにトレーニングを行い、お尻の上に体重の大部分がかかる状態で自給式呼吸器 を正しく装着できるようにする必要がある。ショルダー・ストラップを適切に調整し、メンバーが自給式呼吸器をすばやく装着したり、脱着できるようにする必要がある。それによって、耐火服を着用し、手袋をし、ヘルメットを被っても、メンバーが自給式呼吸器をコントロールし、他の人とコミュニケーションを取り、現場を観察することができるかどうかを学ぶことが重要である。 

< 6. 仕様に合っていることを確認する >

■ MSAセイフティ社(MSA Safety Company)の自給式呼吸器購入ガイドには、自給式呼吸器(SCBA) を探している人のために、つぎのような推奨の質問リストがある。 

 ● 自給式呼吸器には、状況の変化をすばやく視認、聞き取り、対応できる機能をつけるか?

 ● メーカーは個々の消防士に合わせてサイズを変更できるか?

 ● 自給式呼吸器は合計何個のバッテリーを使用するか? バッテリーは長期的なコストにどのように影響するか?

 ● システムは、通信装置や携帯機器などのような他のシステムと一体化されるか

 ● 自給式呼吸器には、個人、チーム、事故対応指揮者に救命措置の決定を効果的に行うため、重要な情報を伝える役目を負っているか

 ● 使用部門は標準的な操作方法に合うように自給式呼吸器内のプログラム作成ができるか?

 ● フェースピース(面体部)は、自給式呼吸器全体のコストや多様化によって軽減したり、追加しているか?

 ● 保証は何をカバーするか? それは継続的なメンテナンス・コストにどのように影響するか

 ● 変更される基準を満たすために、自給式呼吸器の更新には何が関係するか

 ● 一体化された付属品や機能が利用可能になったときに、使用部門はそれらを簡単に追加できるか?

■ このリストは網羅的ではないが、自給式呼吸器の購入や改善の検討を最初に始めるときに役立つ。基本的な質問事項に沿って自給式呼吸器の改善に関する最新情報を入手することで、メンバーは呼吸器の性能について多くのことを得ることができる。

補 足

■「米国労働安全衛生研究所」(National Institute for Occupational Safety and HealthNIOSH) は、消防士のガンに焦点を当てた大規模な研究を実施し、消防士は一般人と比較して、ガン診断が 9% 多く、ガン関連死亡が 14% 多いという。汚染環境にさらされるような緊急対応で出動した消防士が署に戻ったあと、自給式呼吸器(SCBA)を洗浄せずに、再び自給式呼吸器を装着した場合、肺ガンなどを発症しているとみられている。

■ 消防隊員の個人防火装備(防火服、防火手袋、防火靴、防火帽、しころ、 防火フード)に求められる性能などについては、総務省消防庁から「消防隊員用個人防火装備のあり方について」(消防隊員用個人防火装備に係るガイドラインの見直しに関する検討会:20173月)にガイドラインが提起されている。なお、この中では、自給式呼吸器は含まれていない。

■「MSAセイフティ社」(MSA Safety Company)は、1914年に設立された自給式呼吸器などの安全設備のメーカーである。創業者の鉱山エンジニアだったジョン・ライアン氏は、19123月に起きたウエストバージニア州ジェド鉱山でのメタンガスの発火による爆発で80人以上の作業者が命を失ない、この惨事を受け、このような恐ろしい災害が発生する可能性を減らすために会社を設立したという。

所 感

■ 今回の資料のはじめに消防士のガン発生率が高いということに気になったこともあり、本ブログには少し異質であるが、「最適な自給式呼吸器を選択する6つのステップ」を紹介した。汚染環境にさらされるような緊急対応で出動した消防士が署に戻ったあと、自給式呼吸器(SCBA)を洗浄せずに、再び自給式呼吸器を装着した場合、肺ガンなどを発症しているとみられているという。インターネットで検索してみると、日本語による警鐘の資料が出ている。消防部門では留意すべき事項であろう。

■ 個人防火装備(防火服、防火手袋など)の中で自給式呼吸器だけに焦点を当てており、日本ではあまり見ない資料なので参考になる。米国での自給式呼吸器はフィット感などかなり配慮されているという印象である。標題の自給式呼吸器を装着した消防士の写真を見ると、かなり重装備である。日本人も体格的に大きくなっており、このような重装備も普通になってくるのだろう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Industrialfireworld.com, 6 Steps to Selecting the Best SCBA for Your Team,  May 26, 2021

    Nfpa.org, Firefighters and cancer

    Draeger.com,他者を優先すべき任務の遂行中であっても、自らの安全を犠牲にす べきではありません,  Drägerwerk AG & Co. KGaA

    Fesc.or.jp, 救助隊用給気式呼吸用保護具 空気呼吸器 CFASDM 002,  (消防・危機管理用具研究協議会),   March  01,  2018


後 記: 最近のニュースはワクチン接種と東京オリンピックの開催対策ばかりで報道に個性が無く、さらに深堀りに欠けるように感じます。新型コロナウイルスによる取材制限の所為にせず、なにか工夫してほしいものです。これは日本だけではありません。先日のブログの「インドネシア中部ジャワ州で製油所のベンゼン・タンクが火災」でもそれを感じます。大手通信社の第一報の内容の質が低下していますし、続報が的確ではありません。新型コロナウイルス・パンデミック以前は、ひとつのメディアの記事を読んでいれば、そう大きな間違いはなかったように思いますが、最近は取材が甘く、複数のメディアの記事を読まないと、事実(らしいこと)にたどり着けないといった印象です。それ以前に、このブログの目的である貯蔵タンクの事故情報が聞こえてきません。今年になってインドネシアのジャワ島での2件のタンク火災しか発生していないのは本当でしょうかね・・・

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