2021年3月10日水曜日

危険物質の事故対応で、もはやドローンは欠かせない!

 今回は、Hazmat Nationのインターネットに掲載された「消火技術:危険物質の対応―ドローンは必需品である」(Fire Technology: Hazmat Response—Drones Are a Necessity)を紹介します。

< ドローン活用の背景 >

■ 危険物質の事故は、消防関係機関にとって最も危険で、最も困難な対応のひとつである。これらの事故は、危険性の物質(化学的物質、生物学的物質、放射性物質、核物質、爆発物など)を含み、住民や緊急対応する隊員への環境上の危険性があり、問題の原因追究時などに分からないことを伴うことがある。危険物質への対応には、通常、自給式呼吸器を装着した防護服が必要であり、消防士には危険な環境の潜在するところへ立ち入ることが強いられる。

■ このときの活動は、通常、目視で監視されることはなく、連絡は無線機による会話に限定される。さらに、活動中に資機材が必要になった場合は、隊員のひとりが“ウォームゾーン” (Warm Zone)まで戻り、資機材を入手するか、新たな隊員を派遣して資機材を現場に持ち込む必要がある。このため、事故を収束するまでの時間が長引いてしまう。(もちろん、わかっている資機材は事前に運び込むが) また、危険物質に関わる作業が進行中、施設や近隣の道路を何時間も、場合によっては何日も閉鎖することも念頭にいれておく必要がある。

■ 近年、ドローンを使うことによって安全性の向上、道路や施設の早期再開による時間短縮など劇的に改善されることが期待されている。

< ドローンによる変革 > 

■ 事故現場に到着すると、ドローンを発進させ、空中偵察を行い、生命と健康を損なう恐れのある環境の遠隔監視や識別を行うことができる。

■ これには、つぎのような機能がある。

 ● 負傷者をすばやく識別する。

 ● 曝露する恐れを識別する。

 ● タンクの漏れや破裂の状況、バルブの破損状況を識別する。

 ● 火災における火炎の状況、構造物の健全性を識別する。

 ● 漏出の流れる方向を識別する。

 これらの機能は、人への危険に関する重要な情報や、事故を早く収束するための資機材や防護装置の判断情報を教えてくれる。

■ これらの機能は、隊員に無用な危害が加えられないようにしながら、活動や汚染の除去を成し遂げるまで行うことができる。

■ 熱画像カメラを搭載したドローンは熱の兆候を識別できる。これにより、つぎのようなことがわかる。

 ● 点火源の存在を示したり、危険物質容器内の液面を表示したりできる。

 ● 他の方法では見えない危険な蒸気雲やベーパー群を視覚化できる。

 ● タンクへの火炎衝突の影響を見ることができ、沸騰液体による壊滅的な蒸気爆発につながる可能性を判断することができる。

 ● 夜間や煙が視界をさえぎる状況下で、活動している隊員や負傷者が発する熱の兆候を確認できる。

■ ドローンを使用して火災事故の鎮圧活動を観察し、視覚映像と熱画像を使って消火活動の効果を直接的に知ることができる。この情報は、危険にさらされる恐れのある人たちが避難の必要性があるかの状況判断に有用である。

■ 危険物質の流出事故では、封じ込め作業の有効性に関して監視できるほか、流出の進行方向や水面上の光沢を監視できる。

■ ドローンで見張っていれば、危険物質に対応している隊員が認識していない危険な状態や変化の兆候を知ることができる。

■ リアルタイムの状況把握のため、動画配信を現場や別なところへ必要に応じて提供することができる。

■ スピーカーを備えたドローンは警報を出すときに役立つ。これは、従来の無線通信が使えそうにない場合には重要になる。

■ 危険物質のモニタリング装置を装備したドローンを着陸させ、ローターを停止すれば、ドローンはあたかも定点の危険物質の遠隔検出器として長い時間使用することができる。

■ ドローンは、活動中の隊員のすぐ近くに必要な資機材を届けることができる。また、照明器を装着したドローンは、昼間や夜間にかかわらず、活動中の暗い領域を照らすのに役立つ。

■ 視覚画像を撮っておけば、後で3次元モデルに変え、分析・評価することができる。また、画像を撮っておけば、損害の評価を行うことができ、必要に応じてメディアや地域社会と共有することができる。

■ 列車の脱線事故は、都会から離れた農村地域で発生することが多い。すぐにドローンを発進させれば、脱線の規模と巻き込まれた車両の数を確認できる。ドローンを使って上空から見れば、火災が発生しているのか分かるし、危険物質の車両が巻き込まれていないのか分かる。また、流出や漏出が発生しているのか判断できる。 ドローンによれば、書かれている字を読むことができるほか、近くで影響を受けている人、住宅、学校などを確認することができる。

< 活用に積極的な消防部門 >

■ ドローンを活用したパイオニアで、リーダー的存在は、フロリダ州マナティ南部消防救助隊(Southern Manatee, FL, Fire and RescueSMFR)である。たとえば、困難な硫黄火災事故(高温、有毒、遮られた視界)や無水アンモニアの漏出事故(非常に揮発性で有毒)の際、フロリダ州マナティ南部消防救助隊はドローンを使用して、現場エリアの360度俯瞰図を介して初期状況の評価を行った。このような状況下で重要な評価を実施することによって、問題点を的確に指摘し、消防士に影響を与えるベーパー群や現在の状態を判断して、現場に立入るのに十分な安全性を確保することができる。

■ 硫黄火災事故では、ドローンを使うことをひらめいたフロリダ州マナティ南部消防救助隊(SMFR) は、ほかの方法でほとんど検知できなかったホットスポットをドローンで特定することができた。無水アンモニアの漏洩事故では、肉眼では見えなかった漏洩源をドローンの熱画像カメラによって特定した。

■ フロリダ州マナティ南部消防救助隊(SMFR)では、事故の最初の段階でドローンを発進させ、事故中には常にドローンを操作して、物質の監視や識別、活動状況の観察、必要に応じて資機材の搬送、照明の提供、バックアップ通信に活用するのが危険物質対応時のポリシーになっている。

< 火山の噴火、原子力発電所のメルトダウン >

■ ハワイでは、最近の火山活動の間、新しい亀裂や溶岩流が形成されて住宅地に近づいているかどうかを監視するためにドローンが使われている。二酸化硫黄の検知器を備えたドローンを飛ばして、有毒なガス状雲(通常は見えない)の存在と流れの方向を特定し、人々を安全な場所に避難させた。また、被害の評価や状況の確認にも使用された。

■ 福島第一原子力発電所の被災地では、ドローンによって放射能が測定され、危険区域が特定された。その後、チェルノブイリ事故の現場や近隣地区で計測されたように、ドローンは残留放射能の影響を決めるために使用された。仮にドローンが汚染された場合でも、ドローンを処分することができる。

■ ドローンは活動時に大きな役割を果たすほか、活動後のレポート作成に大いに役立つ。危険物質事故時の画像やビデオは、学びえた教訓をはっきりさせるし、将来のために改善すべき方法を対応者に教えることができる。トレーニング時の活動状況や模擬訓練をビデオ録画することができるし、後で確認して教えることができる。

■ 主要施設や重要なインフラの火災事前計画は、ドローン画像と3次元モデルによってより良いものにできる。

■ 事故が起こった場合、対象の化学プラント、石油貯蔵施設、エタノール精製施設、車両基地、原子力発電所などにおける施設の配置図、アクセス性、大きな特徴、危険性、対応の方法に関して貴重な情報が収集できる。

■ 施設の観点でいえば、上方からアクセス性の困難な場所や危険な場所を見つけだすのと同様、ドローンは定期的に安全やセキュリティの点検を行って保安区域に入っている許可のない人や異常者を見つけたり、漏洩や火災を発見したりすることができる。

■ フロリダ州マナティ南部消防救助隊(SMFR)などの部署によるドローンの活用は、安全性を高め、活動の効率を改善し、リアルタイムの情報を提供する機器としての存在価値を高めている。いまやドローンは危険物質を対応するチームの必需品になっている。

 

■「ウォームゾーン」 (Warm Zone)は、発災部中心からのハザード・ゾーンに関する領域のひとつで、危険域のホットゾーンと安全域のコールドゾーンの中間部の領域をいう。詳細は、「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」を参照。


■ 資料でいう「硫黄火災事故」がどのような事故かわからないが、硫黄の燃焼事例は、20177月の「米国ワイオミング州で硫黄の山の幻想的な災の火災」を参照。

 列車の脱線事故としては、つぎのような事例がある。

 ● 20137月、「カナダで石油タンク車が脱線して市街地で爆発・炎上」(原因は「カナダのラック・メガンティック列車脱線事故の原因(2013年)」を参照。

 ● 20186月、「米国アイオワ州で石油タンク車が脱線し、洪水の川へ油流出」

所 感

■ 一般にドローンが普及しており、事故時の報道にドローンを使用した画像や動画が掲載されることが多くなった。日本での活用例は、「ドローンによる貯蔵タンク内部検査の活用」20204月)に紹介した。

■ 総務省消防庁は、「ドローン運用アドバイザー育成研修」(20201月、3日間)を実施しているし、全国の消防本部のドローン保有率は2017年の約10%より年々増加し、20206月には約28%になり、43都道府県の消防本部がドローンを保有しているという。実際に消防防災分野では、ドローンは火災時の状況確認や、山間部での要救助者捜索、水災・土砂災害等の大規模災害時の被害状況確認などに活用され始めている。

■ 国内のドローンの使用は視覚的な静止画や動画に限られている。しかし、今回の資料では、熱画像、ガス検知器(モニタリング装置)、スピーカー、資機材運搬などの機能を活用している。日本では、操縦の安全性や高価という“制限”の思考性が高いが、もっと柔軟性と創造性をもった若い世代の活躍を期待したい。 


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Hazmatnation.com, Fire Technology: Hazmat Response—Drones Are a Necessity,  December 01, 2020     

    Drone-journal.impress.co.jp, 消防ドローンのスペシャリストを養成する「ドローン運用アドバイザー育成研修」 ,  March 12, 2020

    Viva-drone.com,ドローンを全国43都道府県の消防が導入、操縦士の需要が高まる,  September  08, 2020


後 記: ドローンの情報を耳にすると、デジタル社会だなと実感します。話が危険物質の対応からそれますが、山岳テレビを見ていると、数年前に比べてドローンの場面が多くなりましたし、画面の構成が上手になってきたと感じます。上から目線で運用者を育成しなければならないという固定概念ではなく、若い人たちに任せれば、ゲームで培った(?)若者が進出して自然ともっと進展するでしょう。 

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