2020年4月24日金曜日

神奈川県の東亜石油の重質油熱分解装置で火災(原因)


 今回は、 2019年12月24日(火)、神奈川県川崎市にある東亜石油(株)京浜製油所の重質油熱分解装置(フレキシコーカー装置)で起こった火災事故の原因について紹介します。貯蔵タンクの事故ではないですが、年末の首都圏で起きた事故でテレビでも取り上げられ、当ブログでも「神奈川県の東亜石油の重質油熱分解装置で火災、負傷者1名」として紹介しましたので、区切りとして掲載します。
(写真はSankei.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、神奈川県川崎市川崎区水江町にある東亜石油(株)の京浜製油所である。

■ 事故があったのは、重油を熱分解して付加価値のあるガソリンなどを取り出す重質油熱分解装置(フレキシコーカー装置)である。事故のあった装置は、3年に一度行われる2か月間の定期点検を終えて12月から再稼働していた。
            川崎市川崎区水江町付近(矢印が発災場所) (写真はGoogleMapから引用)
      川崎市水江町の東亜石油(株)重質油分解装置付近 (写真はGoogleMapから引用)
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年12月24日(火)午前7時05分頃、東亜石油京浜製油所の重質油熱分解装置(フレキシコーカー装置)で火災が発生した。

■ 消防署には、東亜石油の設備で煙があがっているという通報が相次いで寄せられた。黒煙は、一時、大量に立ち昇った。
(写真はNhk.or.jp から引用)
■ 発災に伴い、自衛消防隊と消防署の消防隊が消火に当たった。公設消防署は消防車16台が出動した。

■ 事故に伴い、従業員1名が負傷した。負傷は手首と足に火傷を負ったもので、病院に搬送され、治療を受けたが、意識はあるという。負傷した人は「作業中に重油を浴びた」と話しているということで、火傷の程度は重いとみられる。当時、装置を担当する部署の従業員は十数人いたという。

■ 発災に伴い、東亜石油(株)は関連の装置を停止した。ガソリン、軽油、灯油などの石油製品の出荷は停止しているが、在庫や他の製油所から代替供給しており、石油製品供給への影響はないという。

■ 東亜石油(株)は、24日(火)、事故発生の状況とともに、近隣住民や取引先などへのお詫びを同社のウェブサイトに発表した。

■ 火災は、約3時間半後の24日(火)午前10時45分に鎮火した。

■ 現場は、羽田空港国際線ターミナルの南西約4.5kmのところにあるが、国内線・国際線ともに運航への影響はなかった。
 (写真はAasahi.comから引用)
被 害
■ 人的被害として、1名が負傷した。

■ 重質油熱分解装置の一部が焼損した。範囲や程度は不詳である。

< 事故の原因 >
■ 2020年4月21日(火)、東亜石油は、火災の発生原因について、重質油熱分解装置(フレキシコーカー装置)において漏洩した油が静電気により着火し、火災に至ったことを発表した。詳細については公表されていない。

< 対 応 >
■ 消防署など関係機関が調査を行った。しかし、その内容は公表されていない。

■ 東亜石油の装置は40年以上にわたって使用されており、1991年に同様の火災が1件発生していたという。 

■ 2020年4月21日(火)、東亜石油は、火災事故により稼働を停止していた京浜製油所の復旧工事が4月7日(火)までに完了し、4月20日(月)に 全装置の稼働を再開したと公表した。

補 足
■「川崎市」は神奈川県北東部に位置する政令指定都市で、7区の行政区をもつ人口約153万人の市である。

「東亜石油(株)」は、1924年に日本重油株式会社として設立し、1942年に日米砿油を合併し、東亜石油株式会社に社名を変更した石油会社である。その後、共同石油グループ、昭石シェル石油グループを経て、現在は出光興産の子会社である。
「京浜製油所」は、原油精製能力70,00バレル/日で、分解装置装備率が高く、一般的な製油所が処理する原油だけでなく、他製油所から重質原料油(原油を処理した後に発生する残渣油)を受け入れ、処理することができる。装置の構成は図を参照。
         東亜石油京浜製油所の装置構成 (図はToaoil.co.jpから引用)

(表はPref.chiba.lg.jpから引用)
■「重質油分解装置」は、C重油基材やアスファルトの原料である減圧残渣油を高温で熱分解し、付加価値の高い白油(ガソリン、灯油、軽油)を生産することができる。装置はフレキシコーカーと称し、日本では東亜石油の装置が唯一の設備であり、40年以上の稼働実績がある。
 フレキシコーカーは分解率(白油化指数)が98%と分解装置の中では最も高い。日本で多く見られる流動接触分解装置(FCC)の2層流動層に足して、コークのガス化(燃料化)を目的に3層流動層のプロセスとなっている。しかし、分解油の安定性が悪くコークス・低カロリーガス等の処分の課題があり、なかなか選択されにくい。この点を改善するため、東亜石油では、2003年に水江発電所を建設し、副生される燃料を有効活用する電力供給事業に参画している。
                  フレキシコーカーの例 (図はSlideserve.comから引用)
                 重質油の処理プロセス (表はPref.chiba.lg.jpから引用)
          東亜石油(株)の水江発電所の構成 (図はToaoil.co.jpから引用
■ 事故原因は、「重質油熱分解装置(フレキシコーカー装置)において漏洩した油が静電気により着火」としか発表されていないが、同種の装置で起こった火災事故には、つぎのような事例がある。

所 感
■ 火災の原因は、重質油熱分解装置(フレキシコーカー装置)において漏洩した油が静電気により着火し、火災に至ったという。発災箇所は重質油分解装置というだけで、どの部分から発災したか発表されていない。
 前回の所感では、「負傷した人が作業中に重油を浴びたと語っているようなので、重質油分解装置の原料配管または塔底部ではないだろうか。定期点検を終えて12月から再稼働していたというので、装置立ち上がりの高温移行時のフランジなどからの漏れではないかと思われる」と書いた。
 今回の発表をみると、腐食やエロ―ジョンなど重大な欠陥は無かったとみられ、上記の推測で間違いないと思う。ただ、 40年以上の稼働実績があるのに、なぜホット・ボルティングやガスケットの締付け管理などの作業に抜けが出たかの疑問は残る。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Okinawatimes.co.jp,川崎の製油所で火災、男性やけど 東亜石油、重油分解装置から出火, December  24,  2019
    ・Toaoil.co.jp,  当社 京浜製油所の火災発生について(第二報), December  24,  2019
    ・Tokyo-np.co.jp,  川崎の製油所で火災、男性やけど 東亜石油、重油分解装置から出火, December  24,  2019
    ・Jiji.com, 石油工場で火災、1人負傷 重油分解中に出火か―川崎, December  24,  2019
    ・Sankei.com,  出光、川崎のコンビナート火災で陳謝, December  24,  2019
    ・Nhk.or.jp, 石油精製設備で火災 煙は収まる 社員1人重いやけど 川崎, December  24,  2019
    ・Kanaloco.jp, 製油所の工場から出火、男性1人重傷 過去にも同様の火災, December  24,  2019
    ・Asahi.com,  川崎の石油工場で火災 30代の男性1人がけが, December  24,  2019
    ・Toaoil.co.jp,  当社 京浜製油所の運転再開について(最終報), April  21,  2020
   

後 記: 今回の事故は首都圏で年末に起こったものでした。しかし、それから4か月しか経っていませんが、世の中は大きく変貌しました。東京など新型コロナウイリス感染者が多い地域だけでなく、いまだに感染者ゼロの県を含めて全国に緊急事態宣言が出されました。わたしの住んでいる山口県は、現在、感染者が31名ですが、ほとんどが県外へ行った人が帰ってきてうつしています。県内外からの移動自粛要請が出され、わたしもどこにも行っていません。石油製品の需要が落ち、ガソリン価格は11週連続で下落しています。こんな中で、東亜石油は全装置の稼働を再開したと発表しました。玉手箱をあけた浦島太郎のような状況ですね。
 ところで、通常、緊急事態宣言は“発令” または“発動”されますが、今回は“発出”だそうです。なじみの無い官僚用語(?)なので、辞書で調べると、“起こること”とあり、ある物事や状態が現れ出ることだそうです。オブラートで包んだ他人事のような緊急事態の宣言だという気がします。

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