2019年12月26日木曜日

米国テキサス州の油井施設でフラック・タンクが爆発・火災

 今回は、2019年11月21日(木)、米国テキサス州ミッドランド郡ミッドランド市にあるオアシス・トランスポーテーション&マーケティング社の油井施設でフラック・タンクが爆発して火災になった事故を紹介します。
(写真はYouTubeの動画から引用)
 < 施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国テキサス州(Texas)ミッドランド郡(Midland County)ミッドランド(Midland)にあるオアシス・トランスポーテーション&マーケティング社(Oasis Transportation and Marketing Corp)の油井施設である。ミッドランドは米国内で最も活発な原油生産地域のひとつで、米国最大のシェール・オイルを産するペルム紀盆地の一部が含まれている。
           テキサス州ミッドランド付近(矢印が発災場所)  (写真はGoogleMapから引用)
 
ミッドランドにあるオアシス・トランスポーテーション&マーケティング社の油井施設付近
(矢印が発災場所付近) (写真はGoogleMapから引用)

■ 発災があったのは、ミッドランド南東のフェアグラウンズ通り沿いにある油井施設のフラック・タンク(Frac Tank)とホット・オイラー・トラック(Hot Oiler Truck)である。フラック・タンクは、スラリーを保管したり移動する手段として使用される。ホット・オイラー・トラックは、油井からワックスの沈着物を除去するために使用される特殊な車両である。
(写真は、左;Alshurooqoil.com右; Dragonproductsltd.comから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 20191121日(木)午前1030分頃、油井施設でフラック・タンクの1基が爆発して火災になった。火災はホット・オイラー・トラックに広がった。
(写真はYouTubeの動画から引用)
■ 事故に伴い、ひとりが重傷を負った。

■ 発災に伴い、ミッドランド消防署などの消防隊が出動して火災への対応を行った。

■ ホット・オイラー・トラックの火災に対応するため、近くに消防車が配置された。そのとき、フラック・タンクに接続されているホースが破裂し、油が地面に流出し、1台の消防車の方に流れた。炎が広がり、消防車が火災に巻き込まれた。幸い、燃えた消防車にいた消防士は逃げ、無事だった。

■ 地面に流出した油によって炎が広がり、通常、水やプロパント(Proppant)を入れるフラック・タンク45基が炎に包まれた。このエリアには、合計1213基のフラック・タンクがあった。

■ 発災に伴い、現場近くの道路が閉鎖された。

■ 火災から約0.5マイル(800m)以内にある会社や住宅の人たちが避難した。

■ 激しい火災だったが、午後130分頃、制圧できる見込みとなった。

被 害
■ 油井施設のフラック・タンク5~6基が焼損した。ホット・オイラー・トラック1台が焼損した。消防車1台が延焼した。被災の程度や範囲は不詳である。

■ 事故によって1名の負傷者が出た。

■ 爆発現場から800m以内の会社や住宅の人たちが避難した。

■ 火災によって現場近くの道路が、一時、交通制限で閉鎖された。

< 事故の原因 >
■ 原因は調査中である。

< 対 応 >
■ 火災は、消防士50名が600ガロン(2,270リットル)を越える泡薬剤を使用して、発災から7時間後に鎮火した。

■ 現場近くの閉鎖された道路の交通制限が解除されたのは、午後4時だった。

■ 米国安全衛生労働局(Occupational Health and Safety Administration;OHSA) 、テキサス州鉄道委員会(the Railroad Commission of Texas)およびミッドランド郡は、爆発前に安全規則が守られていたか調査に入った。
(写真はNewswest9.comから引用)
フラック・タンクの火災
(写真はYouTubeの動画から引用;画面を貼り合わせた)
                  火災にあった消防車 (写真はfirefighternation.comから引用)
 補 足
■「テキサス州」(Texas)は、米国南部のメキシコ湾に面し、メキシコと国境を接する人口約2,500万人の州である。
「ミッドランド郡」(Midland County)は、テキサス州西部に位置する人口約172,000人の郡である。
「ミッドランド」 Midland)は、ミッドランド郡の北西部に位置し、人口約142,000人の市で、ミッドランド郡の郡庁所在地である。市の一部が北にあるマーティン郡にかかっている。ミッドランドは1920年代から原油の生産が盛んで、近年も新たな油田が開発され、経済は依然として石油に大きく依存している。

■「オアシス・トランスポーテーション&マーケティング社」(Oasis Transportation and Marketing Corp)は、1996年に設立されたエネルギー会社で、ミッドランドに本拠地にし、原油・天然ガスの生産および卸売を営んでいる。

■「フラック・タンク」(Frac Tank)は、一時的で移動可能な貯蔵に使用される大型のコンテナである。通常、さまざまな形状とサイズのスラリーを保管でき、農家の肥料や廃棄物産業で使用されるほか、近年では原油・天然ガスの水圧破砕法(フラクチャリング)で用いられる。一般的には、10,00021,000ガロン(3880KL)の大きさのものが使用されており、移動は専用のトレーラーで行われる。

(写真はAlshurooqoil.comから引用)
■「ホット・オイラー・トラック」(Hot Oiler Truck)は、油や処理液を加熱するために使用されるトラックやスキッドに取り付けたユニットをいう。重質などの原油は坑口温度が低いと、ワックスが沈殿するので、坑井の上部からワックスの沈殿物を除去するために使用される。

「プロパント」(Proppant)は、原油・天然ガスの採掘技術である水圧破砕法において地層に形成させた亀裂の閉塞を防ぐために、亀裂の内部に埋め込む支持材をいう。一般的に砂やセラミックなどを原料として粒状に加工され、坑井の流体に混ぜて用いられる。

所 感
■ 爆発・火災の原因は分かっていない。上空からの被災写真を見ると、油井施設とは離れたところにあったフラック・タンク群から事故が起こったとみられる。これにホット・オイラー・トラックが関連しており、このトラックがどのような作業をしていたかが事故要因に深く関与していたと思われる。
 火災拡大の要因は「フラック・タンクに接続されているホースが破裂し、油が地面に流出した」とみられるが、通常、この種のホースは耐圧性があるにも関わらず破裂している。また、フラック・タンクには、水だけでなく、大量の油が含まれていたとみられ、設備の運用や保守面に疑問がある。 

■ 消防隊の消火戦略は、最初から積極的消火戦略をとったとみられる。しかし、フラック・タンクに接続されているホースが破裂し、油が地面に流出し、消防車が火に包まれた後、消防車の配置を変更せざるを得なかった。どのような形態でフラック・タンクが燃えていたか分からないが、かなり厄介な消火作業だっただろう。2,270リットルを越える泡薬剤を使用しており、混合率1%とすれば、約227KLの消火水を使用して消火させたことになる。発災から鎮火までに7時間かかっており、フラック・タンク火災が地上式円筒タンク火災と同様に消火が困難だったことを表している事例である。
            水圧破砕法による天然ガス採掘の例 (図はOilgas-info.jogmec.go.jpから引用)
備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
     Reuters.com,  Fire contained at Texas oilfield site, one critically injured,  November 22,  2019
     Firefighternation.com, Fluid spilled underneath the engine and began to burn,  November 21,  2019
     Mrt.com, Hot oiler truck explosion causes fire in southeast Midland,  November 21,  2019
     Cnbc.com, UPDATE 2-Fire contained at Texas oilfield site, one critically injured,  November 21,  2019
     Businessinsider.com, Fire erupts at Midland, Tx oilfield operations, injures one: reports,  November 22,  2019
     Whlaw.com, MIDLAND, TX — EMPLOYEE CRITICALLY INJURED IN FIRE AT TEXAS OILFIELD SITE,  November 26,  2019
     Newswest9.com, One injured in hot oiler explosion near Fairgrounds,  November 21,  2019
     Kcbd.com, Authorities respond to explosion in Southeast Midland, at least 1 person hurt,  November 21,  2019


後 記: 今回のタンク火災は、フラック・タンクとホット・オイラー・トラックが燃えた事故であり、日本ではなじみのない事例でした。 しかし、初めて伝える事故ではなく、2015年4月におきた「米国コロラド州で天然ガス生産関連施設に落雷してタンク火災」で火災に巻き込まれたトレーラー連結車はフラック・タンクまたはホット・オイラー・トラックではないかと思っています。水圧破砕法という掘削技術が出たことで、米国の原油生産量は飛躍的に伸び、米国は原油輸出国になっています。一方で、水圧破砕法で使用される薬品による環境汚染問題や地震誘発の問題などがあり、今回の火災事故では負傷者が出ており、負の面が出た事故でした。この水圧破砕法による採掘は今後もいろいろな問題が出てくるように感じます。

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