衝突して損傷したバージ (写真はGalvnews.comから引用)
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■ 発災施設は、テキサス州(Texas)ベイポート(Bayport)のヒューストン可航水路において航行していたパナマ船籍のLPGタンカーのジェネシス・リバー号(Genesis
River)およびカービー・インランド・マリン社(Kirby Inland Marine)のタグボートであるボイジャ号(Voyager)である。タグボートは2隻のバージ(はしけ)を押航していた。
■ 発災があったのは、ジェネシス・リバー号とタグボートで押航されていた2隻のバージがヒューストン可航水路で衝突したことによって起った。
ジェネシス・リバー号は2018年建造の総トン数46,794トン(載貨重量53,697DWT)、全長755フィート(230m)×幅37mのLPG船で、液化天然ガスを運んでいた。タグボート(Tugboat)のボイジャ号は、米国ではトウボート(Towboat)と呼ばれる押船で、1975年建造で1,350馬力ディーゼル機関を搭載している。2隻のバージには、それぞれ、リフォーメイトと呼ばれるガソリン・ブレンドを約25,000バレル(3,975KL)積載していた。事故があったとき、ジェネシス・リバー号は出港中で、バージは入港中だった。
■ ジェネシス・リバー号は川崎汽船が傭船し、最近、ヒューストンに入港し、5月末にエジプトへ到着する予定だった。カービー・インランド・マリン社は、米国にある4,000隻のバージのうち約4分の1を保有し、この水路では大きな存在であった。
ヒューストン可航水路周辺と衝突場所 (✖マーク部) (写真はGoogleMapから引用)
(写真は、左;
Towboatgallery.com、右; Inews.jpから引用)
米国におけるバージの押航方法の例
(写真は、左;Sec.gov、右;Vanwertalumni.comから引用)
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事故の発生
■ 2019年5月10日(金)午後3時30分頃、ヒューストン可航水路で大型タンカーと2隻のバージを押航するタグボートが衝突し、1隻のバージはひどい損傷を受け、もう1隻のバージは転覆した。これによって約9,000バレル(1,430KL)のガソリンが水路に流出した。
■ カービー・インランド・マリン社によると、大型タンカーの船体がバージを仕切っている4つの貯蔵タンクのうち2つを破損させたという。タンカーの船首がバージの左舷タンクを突き破り、右舷タンクまで達した。このため、漏れを食い止める方法が無かった。これらの2つのタンクの油は海へ直接流出してしまった。
(写真はAbcnews.go.comから引用)
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■ 空からの映像では、バージの1隻には三角形の深い損傷が見られ、海上に油膜が見られた。一方、ジェネシス・リバー号の船首には擦った跡がある。転覆したバージはそのままになっているが、ガソリンが流出するとは考えられていない。タグボートには4名の乗組員がいたが、タグボートに損傷は無かった。
■ 連邦政府、州、海運関係者で組織されているベイポート水路衝突事故対応グループ(Bayport
Channel Collision Response )は、大気監視システムでは“至急対応レベル”を検出していないと発表した。一方、シーブルック(Seabrook)市は、衝突によって漂ってくる臭いを感じると述べた。しかし、現時点では、住民が対応をとる必要はないと発表した。
(写真はGalvnews.comから引用)
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■ 米国沿岸警備隊はサールベージ・チームを現地に配備した。
■ 緊急対応グループは、5月11日(土)朝の時点で、3,800フィート(1,160m)超のオイルフェンスを展張し、さらにバージの周囲などに12,150フィート(3,700m)を展張する予定だという。
■ ヒューストンの水路沿いには、米国の国内総生産の12%を処理する9つの製油所がある。この水路はヒューストンとメキシコ湾を結ぶ53マイル(85km)の商業水路で、海上交通に影響を与えた流出事故が続いており、この2か月間で、今回の事故が2回目である。前回は、2019年3月17日(日)、テキサス州ディア・パーク市にあるインターコンチネンタル・ターミナル社のタンク施設で起こった「米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災」で海上汚濁した事故である。
■ ヒューストン可航水路は部分的に船の航行を制限された。5月11日(土)の午後には、33隻の船が入港できるのを待ち、27隻の船が出航できるのを待ち、91隻がアンカーを下ろして停泊していた。
(写真はKhou.comから引用)
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テキサス州は、事故のあった場所近くで、かもめの死体が2羽、アライグマの死体が1匹のほか、多数の死んだ魚が発見されたことを明らかにした。しかし、海水は人間にとって危険な状態ではなく、水路の再開を優先し、5月12日(日)に再開した。ヒューストン可航水路は米国内でもっとも混雑している水路のひとつであり、閉鎖されたままでいると、港のコストは高くなるのも事実である。
■ 5月12日(日)、事故から2日が過ぎ、ガルベストン湾の海岸線沿いには油膜が現れて影響するところが出始め、封じ込めを要する区域が広がっている。湾には、クリーンアップ作業の請負者によって約20,000フィート(6,100m)のオイルフェンスが展張された。この作業のため、カキ養殖は一時的に停止された。カービー・インランド・マリン社は、クリーンアップにあと2日はかかるとみている。
■ 事故の状況がユーチューブに投稿された主なものは、つぎのとおりである。
● Youtube
「Tanker collision leads to oil spill in Texas channel 」USA TODAY」(2019/5/11)
● Youtube
「Barge collision spills gasoline in Houston Channel」(2019/5/12)
● Youtube
「Cleanup continues after barge collision in Houston ShipChannel」(2019/5/13)
被 害
■ ガソリン約25,000バレル(3,975KL)を積載したバージ1隻が船体を大きく損傷し、もう1隻が転覆した。
■ ガソリン約11,276バレル(2,140KL)が海上へ流出し、大半が消失した。
■ ガソリン流出により海が汚濁された。このため、かもめ、アライグマの死体が発見されたほか、魚に被害が出た。また、近くの住民がガソリン臭による臭気被害が出た。
■ 総トン数46,794トンのLPGタンカーの船首部分が損傷した。
(写真はGalvnews.comから引用)
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(写真はGalvnews.comから引用)
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< 事故の原因 >
■ 衝突の原因は調査中である。
< 対 応 >
■ 5月14日(火)、川崎汽船は同社が傭船したLPG船ジェネシス・リバー号がヒューストン港を出港した後、バージと衝突したことをウェブサイトで発表した。発表によると、乗組員(インド人14
名、フィリピン人15 名、合計 29 名)は全員無事で、積載貨物にも損傷が無いことを確認したが、船体の一部には損傷が確認されたという。現在、当局の調査に全面的に協力をしているという。
■ 5月14日(火)、LPGタンカーのジェネシス・リバー号とボイジャー号押航のバージの衝突の状況をAIS(Automatic
Identification System;自動船舶識別装置)によるアニメーションで示したユーチューブが投稿された。Youtube
「Tanker “Genesis River” Collided with Barge near Houston |May 10, 2019」を参照。
このアニメーションでは、タグボートのボイジャー号に押航していたバージの船体寸法を入れて調整されたものである。すなわち、ボイジャー号はバージの長さ90m×幅32mを加えたものとした。
■ 5月15日(水)、タンカーと衝突した2隻のバージは、中身を入れたまま他の船で浮揚させて移動した方が安全だと判断され、約4時間をかけて作業が行われた。衝突で損傷したバージはヒューストン可航水路近くにあるサウスウェスト造船所に運ばれ、転覆したバージは油抜取りを実施するバーバース・カット・ターミナルに運ばれた。これで、難破していたバージまわりに設定されていた安全注意区域も解除され、ヒューストン可航水路は完全にオープンした。
■ 5月16日(木)、連邦政府や州を含め現地で対応とクリーンアップに従事している人は334名にのぼっているという。クリーンアップのため20,000フィート超(6,100m)のオイルフェンスと8台のスキマーが使用された。バージからの流出量は当初の予想から増え、11,276バレル(2,140KL)と推定されている。
被災したバージの曳航 (写真はhoustonchronicle.comから引用)
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オイルフェンスの運搬 (写真はKoamnewssnow.comから引用)
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バージの衝突傷 (写真はHoustonchronicle.comから引用)
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LPGタンカージェネシス・リバー号の衝突傷 (写真はYoutube.comから引用)
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所 感
■ 船が切断されかかっているような激しい衝突の損傷写真を見て驚くとともに、なぜこのようなことが起こったのか疑問に思った。LPGタンカーのジェネシス・リバー号とボイジャー号押航のバージの衝突の状況をAISアニメーションで示したユーチューブの映像「Tanker“Genesis River” Collided with Barge near Houston | May 10, 2019」を見ると、つぎのようなことがいえる。 (番号は図に示した順番)
● ジェネシス・リバー号は衝突前にほかの船(DWオーク号)と接近しているが、このときは船の通行規則どおりに右側通行ですれ違っている。①
● そのあと、ジェネシス・リバー号はボイジャ号に近づくが、なぜかわずかに左に進路を変えている。このとき、ボイジャ号の進行方向は北寄りであり、衝突の恐れが出てきた。 ②
● さらに両船は近づくが、そのままの状況では、お互いが左側通行の進路になる。 ③
ボイジャー号はやや左に進路を変更する。(左側通行の進路になるが、衝突回避のためか?) ③
● ジェネシス・リバー号は右に進路を変更する。(右側通行の形にするためか?) ④
● ボイジャー号はさらに進路を左にとる。(この段階では、衝突回避のためとみられる) ⑤
● ジェネシス・リバー号の船首がボイジャー号の押航するバージ船体側面に突っ込み、衝突したものと思われる。 ⑥
この航跡によって衝突の経緯は上記のようで、まず間違いないだろう。あとはそれぞれの時点での判断がどうだったかである。ただ、この航跡によると、バージの右舷に衝突したことになる。報道では、「タンカーの船首がバージの左舷タンクを突き破り、右舷タンクまで達した」とあるが、右側通行を基本とするため、右と左を間違ったのではないだろうか。また、転覆したバージは直接ジェネシス・リバー号との接触によるものでなく、激しい衝突の影響で転覆したのではないかと思う。
LPGタンカー「ジェネシス・リバー号」とタグボート「ボイジャ号」の航跡
(写真はYoutube.comの動画から引用)
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■ 一方、この事故のつぎのような背景を考えると、「起こる可能性のあることは、いつか実際に起こる」(マーフィの法則)と思わざるを得ない。
● ヒューストン可航水路は米国内でもっとも混雑している水路のひとつで、事故の起こる恐れの高い水路である。
● 米国では、大型のバージを使用し続けており、乾貨物だけでなく、油タンク用がある。
● バージの安全対策はとられているが、所詮、推進動力をもっていない船である。
● 慣れていない新しいタンカーが混雑水路を航行する。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Reuters.com, Tanker
Collision, Gasoline Spill Closes Portion of Houston Ship Channel, May
13, 2019
・Firedirect.net
, USA – Major Gas Product Spill After Tanker & Barges
Collide, May 13,
2019
・Cbsnews.com, Barges
and Oil Tanker Collide in Houston Ship Channel, May
10, 2019
・Foxnews.com, Barge
and Tanker Collide, Leaking Gas Product into the Houston Channel, May
11, 2019
・Abcnews.go.com, Tanker
Collision Sends Thousands of Gallons of Gas Product Leaking into Houston
Shipping Channel, May 11,
2019
・Chron.com, Houston
Ship Channel Remains Closed after Tanker Collision Spills Gasoline, May
11, 2019
・Gcaptain.com
, Major Gas Product Spill on Houston Ship Channel After
Tanker and Barges Collide, May 11,
2019
・Click2houston.com
, Ship Collides with Barges, Causing Massive Gas Product
Spill in Houston Ship Channel, May 10,
2019
・Washingtonpost.com, Busy
Texas Waterway Remains Partially Closed after Collision, May
11, 2019
・Abc13.com, Barge
Crash Cleanup Extends to Galveston Bay Two Days after Collision, May
13, 2019
・Oilprice.com, Oil
Tanker Collision In Houston Causes Leak, Closes Critical Port, May
13, 2019
・Edition.cnn.com, Cleanup
Continuing in Houston Ship Channel after Vessels Collide and Spill Gas
Product, May 12,
2019
・Khou.com, Houston
Ship Channel Fully Open after Barge Collision; ‘Safety Zone' Lifted, May
15, 2019
・Houstonchronicle.com
, Barges involved in Houston Ship
Channel Collision Are Removed, May 15,
2019
・Response.restoration.noaa.gov,
OR&R Responds to Barge Collision in Houston Ship Channel, May
16, 2019
・Kline.co.jp, LPG運搬船
「GENESIS RIVER」衝突事故について, May
14, 2019
・Nippon.zaidan.info, 米国内航バージ輸送の実態等調査報告書, シップ・アンド・オーシャン財団, February,
2002
後 記: 2018年1月に起こった異常な衝突事故「イランの石油タンカーが東シナ海で衝突・炎上、漂流後、沈没、死者32名」を本ブログで紹介しましたが、今回は異常な損傷状況の事故が報じられたので、調べることとしました。
船はAIS(自動船舶識別装置)によって航跡を一般に調べられるようになっていることを前回の事故で知りましたが、今回はアニメーションで示したユーチューブの映像が投稿されており、よく分かりました。近くの工場より遠洋の船の方が各種データのほかリアルタイムに把握できるということです。それでも、場所を特定できるとまずい自衛隊や海上保安庁の取締り船は停波しているそうですが、このような衝突事故があれば、有用な情報源だと思います。
今回、調べていてびっくりしたのは、LPGタンカーのジェネシス・リバー号を傭船したのが、日本の川崎汽船だったことです。 2019年3月に起こった「米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災」の発災事業所のインターコンチネンタル・ターミナル社が日本の三井物産の所有する施設だったことに続いてのびっくりです。日本の企業が世界的に活躍するのはいいのですが、資金だけ出して事故に関係するのは興ざめですね。
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