(写真はKttc.com
から引用)
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< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国のBNSF鉄道の貨物列車である。列車は、コノコフィリップス社用の原油(タールサンド)をカナダのアルバータ州からオクラホマ州のストラウドに輸送していた。
■ 発災があったのは、アイオワ州(Iowa)北西部のライアン郡(Lyon
County)ドゥーン(Doon)である。当時、このエリアは6月20日(水)から21日(木)にかけて豪雨があり、地域によって洪水が起こっていた。
ライアン郡ドゥーンの脱線場所付近 (矢印が発災場所、洪水前)
(写真はGoogleMapから引用)
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洪水前の脱線した線路と郡道付近
(写真はGoogleMapのストリートビューから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年6月22日(金)午前4時30分、原油を輸送していた貨物列車に牽引された石油タンク車の一部が脱線した。脱線した石油タンク車のまわりに油膜が広がり、石油タンク車は線路や土砂の上に積み重なり、一部は水中に沈んでいるものもあった。
■ 脱線したのは32輌の石油タンク車で、うち14輌から原油が漏れ出した。漏れた油量は推定230,000ガロン(871KL)で、洪水のリトルロック川に流出した。石油タンク車の積載量は1輌当たり25,000ガロン(95KL)以上である。
脱線後の早い時期に撮られたと思われる被災写真
(写真はKiwaradio.comから引用)
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■ 前日、アイオワ州ライアン郡とスー郡の広い地域で洪水が発生し、道路が閉鎖された。この洪水の復旧活動のボランティアに前夜参加していた住民によると、「鉄道の軌道上に水が溢れ、貨物列車はその中を通り抜けようとした」と語った。住民のひとりは、30輌近くの石油タンク車が洪水の中を“レゴのように投げ込まれた”と語った。川幅は100ヤード(90m)から洪水によって半マイル(1,600m)に広がっていた。
■ 脱線場所から離れている農場主は、「竜巻の心配はしていたが、油流出を心配する必要は無いと思っていた」と語っている。油流出によって、このエリアでは強い油臭がした。
■ 脱線事故によってライアン郡南部のドゥーンでは、270番通りと280番通り間のガーフィールド通り沿いの住民に避難勧告が出された。現場から半マイル(800m)以内の住民はわずかであるが、少なくとも4世帯が避難した。
■ リトルロック川はすぐにロック川に合流する。ロック川の水位は21.5フィート(6.5m)に達し、2014年以降2番目に高い水位になっていた。下流の地区では、飲料水の汚染が心配された。流出油が脱線現場から約240km離れたネブラスカ州オマハの南まで達する可能性を指摘されている。オマハの公共水道事業者は、ミズーリ川から飲料水を取り入れているポンプを監視しているという。
■ 脱線したタンク車は、DOT-117Rs型という新機種で、安全性が改善され、事故時において漏れを防ぐことができるといわれていた。
■ この事故に伴う負傷者は出なかった。
被 害
■ 原油(タールサンド)を運んでいた32輌の石油タンク車が脱線し、損傷を受けた。
■ 石油タンク車14輌から原油が漏れ出し、流出した油量は推定230,000ガロン(871KL)である、油は洪水のリトルロック川に流出し、環境汚染を起こした。
■ 事故に伴う負傷者の発生はない。しかし、油流出によって少なくとも4世帯が避難した。
< 事故の原因 >
■ 事故の原因は、洪水で増水し、線路の土盤が十分な強度をもつことができず、通過していく石油タンク車の重さに耐えることができなかったと思われる。
■ 当局は、増水したリトル・ロック川の洪水によって石油タンク車が線路から外れた要因のひとつであることは認めたが、物理的に水が線路を傷つけたかどうかはまだ分かっていないという。
なお、6月20日(水)に降った130~180mmの雨によって川は急激に水かさが増え、さらに6月21日(木)のどしゃぶりが拍車をかけた。
■ 一部の関係者は、洪水が線路の下の土壌を浸食したと推測していたとみている。
(写真はNewstiowa.comから引用)
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(写真はResilience.orgから引用)
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(写真はNwestiowa.comから引用)
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手前はクリーンアップ作業用の車両
(写真はDesmoinesregister.comから引用)
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(写真はKiwaradio.comから引用)
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< 対 応 >
■ 事故後数時間で、BNSF社は危険物専門家と環境保全専門家を現場に派遣したと語った。そして、6月22日(金)午後5時頃からBNSFのスタッフ、危険物担当、クリーンアップ作業員がドゥーンの南からロックバレーの北で作業を行った。作業は、オイルフェンス、スキマー、バキューム車を使用して、できるだけエリアを狭めようとした。クリーンアップ作業には、ミネソタ州セントポールに本社のある産業・環境保全会社ベイウェスト社がオイルフェンスなどを積んだトラック6台でやってきた。
■ ライアン郡の保安官は、「対応は長くかかるだろう」といい、「洪水と脱線事故を同時に対処するのは最悪である。原因は分からないが、ひとつ言えることは、洪水が起こっていなければ、脱線事故は起こっていないだろう」と語った。
■ 6月23日(土)、アイオワ州知事は、異常気象による洪水と脱線事故による油流出を受け、プリマス郡、スー郡、ウッドベリー郡とともにライアン郡に災害非常事態宣言を発令した。同日、アイオワ州知事は現場を訪れた。対応は、鉄道会社、連邦政府、アイオワ州、地方自治体の各機関が参加している。
■ BNSF社の広報によると、流出油の半分は脱線現場に近いところに展張したオイルフェンス内にあるといい、追加のオイルフェンスを現場から下流の約8kmのところに展張したと語った。そして、水から油を分離できる特別な装置を使って回収する予定だという。
■ クリーンアップ作業では、脱線して部分的に水没した石油タンク車をクレーンで移動することができるように、線路と並行して仮設道路を建設することとなった。
■ 油流出のニュースによって、脱線場所から南西にある約8kmの小さな町であるロック・バレーの当局者は、町の飲料水の井戸をすべて停止させた。町はロック・バレーの農村水系から水を供給した。ライアン郡保安官は、地区の飲料水は汚染の危険性はないと思われるという話だったが、住民をあずかる町は、アイオワ州天然資源省の検査で町の飲料水の安全性が確認されるまで農村水系から取り入れるとした。
■ 6月24日(日)の時点で、脱線した石油タンク車のうち7輌を別な場所へ移動し、10輌から油を抜いた。移動したところには、油が広がらないよう堤を作っている。クリーンアップに参加している作業員は200名という。
■ 6月25日(月)、BNSF鉄道によると、脱線した石油タンク車32輌のうち24輌から油を抜き取ったといい、うち14輌はかなり損傷している石油タンク車からだった。残りの8輌は油漏れを起こしておらず、すでに線路から移動されている。しかし、作業をしているメンバーによると、6月27日(水)までにカラになることはないという。線路の復旧は6月26日(火)までに終える目標だという。
(写真はSiouxcityjounal.comから引用)
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(写真はSiouxcityjounal.comから引用)
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補 足
米国アイオワ州の位置
(写真はNizm.co.jpから引用)
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■ 「アイオワ州」(Iowa)は、米国中西部に位置し、人口約305万人の州である。地形は平坦ではなく、うねりのある丘陵で構成されている。
「ライアン郡」(Lyon
County)は、アイオワ州北西隅に位置し、人口約11,500人の郡である。
「ドゥーン」(Doon)は、ライアン郡の南部に位置し、人口約600人の町である。BNSF鉄道はドゥーンを通過している。
■ 「BNSF鉄道」は、旧バーリントン・ノーザン・サンタ・フェ:Burlington
Northern Santa Fe:BNSF)で、テキサス州のフォートワースに本社があり、1996年に運行を開始し、米国の中西部から西部にかけて50,000kmの路線網を保有している。米国では、ユニオン・パシフィック鉄道(UP)に次いで第2位の鉄道会社である。2009年、BNSF鉄道はバークシャー・ハサウェイ社(Berkshire
Hathaway Inc)の傘下になった。
BNSF鉄道の線路網
(写真はJa.wikipedia.orgから引用)
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■ 石油タンク車で大きな事故は、つぎの事例である。
● 2013年7月、「カナダで石油タンク車が脱線して市街地で爆発・炎上」
(「カナダのラック・メガンティック列車脱線事故の原因」(2018年2月)
この脱線事故では、石油タンク車63台のほとんどが損壊し、さらに爆発・火災を起こし、47名の死者を出した。このときに使用されていたタンク車が「DOT-111型」で、当時から安全性に問題があることが指摘されていた。
DOT-111型の設計上の問題は、タンクのヘッド部およびシェルが破損しやすいことなどである。
その後も、石油タンク車の事故は続き、ラック・メガンティック列車脱線事故後、半年も経たずに、アラバマ州アリスビルで石油タンク車が脱線し、湿地帯に大量の油流出を起こした。オンタリオ州ゴガモでも同様の事故があり、2015年3月の1か月間に2回の石油タンク車の脱線があり、マカミ川に2度の油流出があった。2017年7月には、イリノイ州プレーンフィールドで45,000ガロン(170KL)の油流出を起こす石油タンク車の脱線事故があった。
DOT-117型タンク車の改善点
(図はScoopnest.comから引用)
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■ 米国では、石油タンク車の安全化が思うように進まない状況が続いていたが、2017年、議会は鉄道業界に対して、危険物や引火性液体を輸送するDOT-111型タンク車を段階的廃止するよう命じた。また、国家運輸安全委員会(National
Transportation Safety Board)は、できるだけ早く、DOT-111型タンク車を「DOT-117型」タンク車へ交換するように求めた。「DOT-117型」はDOT-111型の問題点を改善した機種である。
今回のドゥーンの事故は、鉄道輸送上、石油の輸送を安全化するとした新型のDOT-117型タンク車による最初の事故である。しかし、今回の事故は、アイオワ州の川に871KLの油を流出させたということを考えれば、この種のタンク車が絶対安全ではないことを明らかにしたという意見もある。
所 感
■ 今回の事故で、負傷者が出なかったことや流出油の半分はオイルフェンスに囲い込まれているという報道に、なぜそのようなことがいえるのだろうという疑問をもったが、かなり早い段階に撮られた一枚の被災写真によって理由が分かった。(写真は前出)
● 脱線したタンク車より進行方向側に無事な何輌かのタンク車が見える。すなわち、機関車と何輌かのタンク車が増水に曝される線路を通過したあと、あるタンク車が脱線したものである。洪水で増水し、線路の土盤が十分な強度を保つことができず、石油タンク車の重さに耐えることができなかったと思われる。従って、先頭の機関車にいた運転手はケガをしなかった。
(なお、脱線したタンク車の後方に無事なタンク車の列が見える)
● 流出油のかなりの部分は、線路と郡道に囲まれる三角形の増水エリアに留まっているのが分かる。このことにより、流出油の半分はオイルフェンスに封じ込まれたというコメントになったと考えられる。
■ 脱線したタンク車は将棋倒しで覆いかぶさる様相を呈している。かなりの速度が出ていたものと思われる。タンク車は、カナダのラック・メガンティック列車脱線事故で使用されたDOT-111型でなく、新しいDOT-117型であったが、このタンク車が絶対安全ではないことを明らかになったという意見がある。一方、
DOT-111型タンク車だったならば、被害はもっとひどいものになっただろう。
■ 米国では、石油パイプラインとともに、広大な土地を縦横に鉄道輸送するのが日常の状況とはいえ、洪水で線路の際まで増水している中を、貨物列車を高速で走らせる考え方が理解できない。狭い日本であれば、走らせないか、あるいは最徐行で確認するのではないだろうか。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Desmoinesregister.com, Lowa Train Derailment:
Hazmat Team on Scene after Oil Leaks into River, June 22
2018
・Desmoinesregister.com, 230,000 gallons of Crude Released into
Floodwaters after Train Derailment, Railroad Says, June 23
2018
・Cbc.ca, Cleanup
Underway after Train from Alberta Derails in Iowa, Leaking Crude Oil into
Floodwaters, June 23, 2018
・Desmoinesregister.com, Seven Cars Removed after Train
Derailment, Oil Spill; Cleanup and Railroad Repair to Follow, June 24,
2018
・Apnews.com, Crude
Oil Leaks into Floodwaters after Train Derails in Iowa, June 22,
2018
・Globalnews.ca,
About 870,000 Litres of Crude Oil Leaks into Iowa
Floodwaters after Train Carrying Oil from Alberta Derails, June 22,
2018
・Kiwaradio.com, FOURTH UPDATE: Railroad Says 230,000
Gallons Of Crude Leaked Into Floodwaters,
June 23, 2018
・Argusleader.com, Train Carrying Oil Derails in
Northwestern Iowa, Prompting Evacuations, Clean-up, June 22,
2018
・Wpta21.com, Train derailment leaks crude oil
into Rock River near Doon, IA, June 22,
2018
・Rt.com , Major Oil Spill Spreads across Iowa Floodwaters,
Forcing Evacuations after Train Derails (VIDEO), June 24,
2018
・Siouxcityjournal.com, Railroad reopens track at oil spill
derailment site in Northwest Iowa's Lyon County, June 26,
2018
・Siouxcityjournal.com , Northwest
Iowa oil spill not expected to disrupt water supplies downstream, June 25,
2018
・Resilience.org, Derailed Oil Train Spills 230,000
Gallons of Tar Sands in Flooded Iowa River,
June 27, 2018
・Progressiverailroading.com , USDOT Publishes First Report on Tank-car Fleet
Composition, September 25, 2017
後 記: 今回の事例は、アイオワ州で洪水に見舞われている中で起こった事故のためか、予期したほどセンセーショナルな伝え方をされていませんでした。かなり多くの報道がありましたが、通信社の情報をもとにしたものが多く、淡々とした同じような内容のものでした。人口約600人ほどの町の話ですし、ライアン郡としても約11,500人の地域のニュースだと、こんなものなのでしょうか。脱線後のクリーンアップの状況もやっと見つかったという感じです。なお、アイオワ州の事故を扱うのは初めてです。
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