2017年4月15日土曜日

ベルギーで硝酸タンクの漏洩によって全村避難

              硝酸漏洩によって流れる茶褐色のガス   (写真Firedirect.netから引用)
 今回は、2017年3月31日(金)、ベルギーの西フランダース州ゼーフェコーテ村にある肥料工場の硝酸タンクから漏洩事故があり、全村民が避難するという事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、ベルギーの西フランダース州(West-Flanders)のゼーフェコーテ村(Zevekote)にある肥料工場である。

■ 発災があったのは、肥料工場にある硝酸タンクである。タンク容量は26KLだった。
                   ベルギーのゼーフェコーテ村付近    (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年3月31日(金)午後5時30分頃、肥料工場の硝酸タンクからの漏洩が始まった。発災時、硝酸は容量26KLタンクの60%まで入っていた。

■ 硝酸が漏洩したことを受けてゼーフェコーテ村に地方災害対応プランが発動された。地元の村長は予防措置として全村民の避難指示を出した。硝酸に触れるとやけど状の損傷を受けるし、硝酸から発するガスは軽度の呼吸困難を起こす要因となる。

■ ゼーフェコーテ村の住民約570人全員が避難した。住民は、突然、家から離れなければならなくなった。ある若い母親は、「すぐにうちを出るよう言われ、少しの猶予もありませんでした。とりあえず要りそうなものを車に運び、家を出ました。赤ん坊のためのボトルを用意するのと、おしめを少し持ってくることくらいしかできませんでした」と語った。

■ さらに、夕刻遅く風向きが変わったため、隣接するシント・ピーテルス・カペル村の住民約300人も避難することになった。

■ ひとりの警官が硝酸のガスを吸ったが、病院で検査を受けた後、帰宅した。

■ 当局は、一晩中、監視のための測定を行った。この結果によると、漏洩は制御下に入っていると判断された。

■ 4月1日(土)の朝の時点で、タンクは空になった。ただ、わずかにまだガスが放出しているという。

■ 技術的専門家が現場に派遣され、タンク漏洩の問題をどのように解決するか検討に入った。分析調査は食品安全機関と環境機関によって進められた。作物や植物への影響も調べられている。現時点では、この地域の動物や野菜を食べることは勧められないし、井戸水も警告の対象である。
(写真はGrenzecho.netから引用)
(写真はT-online.deから引用)
被 害
■ 事故に伴い、住民約870人が避難した。

■ 肥料工場の硝酸タンクに損傷があると見られているが、設備の被災状況は不詳である。硝酸の漏洩損失量は約15KL(タンク容量26KL×60%)である。

< 事故の原因 >
■ 漏洩の要因はタンクに亀裂が入ったためとみられる。事故の原因は調査中である。

< 対 応 >
■ 硝酸タンクは残留液を排出され、水で洗浄されたが、この作業には化学会社のBASFが支援した。

■ 避難指示が解除された後も、各家庭の住居の換気が行われて、安全が確認されてから住民の帰宅が行われた。最初に帰宅が許可されたのは、4月1日(土)の午後1時である。
(写真は、左:Ketnet.be.、右: M.hln.be. から引用)
      発災タンク(丸印)と漏洩処理状況   (写真はNieuwsblad.beから引用)
                    発災タンク    (写真はDeredactie.be から引用)
補 足
■ 「ベルギー」(Belgium)は、正式にはベルギー王国(Kingdom of Belgium)で、西ヨーロッパに位置する立憲連邦君主制国家で、人口約1,100万人である。首都はブリュッセルである。
 「フランダース州」(Flanders)はベルギーの北西部にあり、人口約115万人の州である。 「ゼーフェコーテ」(Zevekote)はフランダース州の北部にあり、人口約570人の村である。
                ベルギーの位置   (図はGoogleMap から引用)  
■ 「硝酸」(HNO)は、通常、無色~黄色の刺激臭のある強酸の液体で、発煙性が激しい。融点-41℃、沸点86℃で、普通に硝酸というときには、水溶液を指す。98%硝酸の比重は1.50以上、50%硝酸の比重は1.31以上である。肥料、硝酸エステル、ニトロ化合物の原料のほか、液体ロケット燃料の酸化剤として用いられる。
 濃硝酸からは常に硝酸のガスや微粒子あるいは窒素酸化物が発生しており、水や金属などの物質との反応で爆発的に発生する危険性物質である。漏洩時の事故処理に当たっては、保護衣と防毒マスクを着用する必要がある。多量に流出した場合、漏洩した液は土砂等で流れを止め、それに吸着させるか、または安全な場所に導いて、遠くから徐々に注水してある程度希釈した後、消石灰やソーダ灰などで中和して多量の水を用いて洗い流す。 (硝酸の危険性や漏洩時の対応は公益財団法人 日本中毒情報センターの「硝酸」を参照)
 2015年2月、スペインの化学プラントで硝酸による爆発が起き、有毒ガスが大量に大気へ放出されて多くの住民が屋内避難した事例がある。
                  スペインの硝酸爆発事故     (写真はCool3c.comから引用)
所 感
■ 硝酸タンクの事故を紹介するのは、初めてである。石油タンクの事故とは違った怖さがある。漏れた硝酸のガスがいかにも毒々しい茶褐色で一層不気味さを感じる。見方を変えれば、硝酸ガスの汚染エリアがよく分かるともいえる。

■ 発災タンクの仕様は容量(26KL)だけが発表されているが、材質などは不詳である。事故処理状況の写真を見ると、二重殻のような構造であるが、金属製と思われる。従って、ステンレス鋼ではないかとみられる。容量から推測すれば、高さ約4m×直径約2.8mクラスの竪型円筒タンクとみられる。タンクに亀裂があったと報じられており、亀裂の要因としては材質選定ミスまたは溶接不良などが考えられよう。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・News-h24.com,  Whole Village Evacuated as Nitric Acid Leaks Author: CDC,  April  01,  2017   
    ・Hotrecentnews.com,  Belgian Tank with Nitric not Empty,  April  01,  2017 
  ・Firedirect.net,  Belgium – Entire Villiage Evacuated Following Nitric Acid Tank Leak,  April  07,  2017  
    ・Standaard.be, Laatste inwoners Zevekote weer naar huis na lek salpeterzuu,  April  01,  2017
  ・Nieuwsblad.be, Salpeterzuur ontsnapt uit tankwagen, oorzaak lek nog niet bekend,  April  01,  2017


後 記: 石油系の貯蔵タンクの事故の紹介が多いが、今回、ケミカルである硝酸タンクの事故情報を取り上げたのは、「全村避難」という報道に関心を持ったためです。調べてみると、茶褐色の硝酸ガスが漂っている写真が報じられており、石油系タンクとは違ったリスクのあることが分かりました。最近、シリアで化学兵器(サリン)が使われたというニュースと重なるような事例になりました。化学兵器の殺傷力に比べれば、硝酸漏洩の人間への影響力は小さいとはいえ、今回の事故で800名を超す住民が避難することになりました。ケミカルの中には、危険性の高いものがあることを再認識しました。Haz-Mat(ハズマット)隊は必要ですね。


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